外国語(英語)のルーブリック開発に関する実践的研究
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 外国語(英語)のルーブリック開発に関する実践的研究 松 崎 邦 守 北海道教育大学釧路校英語教育学研究室. A Practical Study of Developing Rubrics on the Course of English and Investigating the Effects MATSUZAKI Kunimori Department of English Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究では,北海道教育大学の「ルーブリック作成の手引き(平成27年度版)」を参照し, 「外 国語(英語)」の授業において適用するルーブリックを開発した。また,同ルーブリックを, 実際の授業において実践の上,受講生評価によりその効果を検討した。その結果,「学習活動 のねらいの理解」,「取り組む方向性の把握」,また「身につけるべき力の理解」の観点から, 本ルーブリックに対して受講生が肯定的に評価していることが示された。加えて,英語に関す る「良い成績への期待」,「自分の頑張りへの満足」の観点から自己効力感に肯定的変容が認め られた。. 1.はじめに 教育の質保証の観点から,ルーブリック評価が近年ますます注目されている。ルーブリックとは,「ある 課題についてできるようになってもらいたい特定の事柄を配置するツール(佐藤, 2014)」とされている。具 体的には, 「ルーブリックは,ある課題をいくつかの構成要素に分け,その要素ごとに評価基準を満たすレ ベルについて詳細に説明したもので,様々な課題の評価に使うことができる(佐藤, 2014)」ことが知られて いる。 北海道教育大学(以下適宜,本学)においても,教育の質保証の観点からルーブリックを活用した評価の 実践が推奨されている。本学のルーブリック作成の手引き(平成27年度版)では,ルーブリックが有してい る評価の明確化という実践的意義の観点から,ルーブリックとは, 「シラバスで予告された到達目標について, 学生が何をどの程度できれば目標に到達したとみなすのか,A,B,C,D,F,F*の差をなぜ,どのよ うに設定したのかについて書き記した評定のための判断基準を表形式でまとめて提示したもの」としている。 また,同ルーブリックを活用することにより,①修得すべき能力の事前理解,②学習の方向性の堅持,③評. 211.
(3) 松 崎 邦 守. 定に対する納得性,④学びの自律性,⑤評定に関する担当教師の説明責任,に関して効用があることを挙げ ている。加えて,ルーブリック活用手順として,①科目担当教員がルーブリック案を作成,②最初の講義で 学生へ同ルーブリック案を提示,③同ルーブリック内容・講義内容についての学生と科目担当教員双方の話 し合い・修正,④ルーブリックと講義内容の確定と教員・学生双方の合意形成,⑤ルーブリックと一体化し た講義の実践,⑥ルーブリックに基づく形成的評価の実践,⑦科目担当教員からの評価結果の学生への提示 と説明,⑧学生・教員双方が納得した上で評定を確定する,ということを例示している。 ところで, 本研究において実践の対象とされる科目である教養科目としての英語の授業においては,コミュ ニケーション能力の育成が求められており,特に学生が,授業の結果「できるようになること」やそのため の「学習プロセスと評価方法」が予め明示され,学生がそれらに合意し,自律的に学びに関与し続けること が重要視されている。そこから,同科目においてルーブリックを開発し,実践することは受講生にとって意 義のあることであると考えられる。 英語教育分野におけるルーブリックを活用した実践的研究を概観すると,その積み重ねは今のところ十分 とは言いがたい現状にある。その様な状況の中,中学校あるいは高等学校においては,目標に準拠した評価 がそれぞれ2002年,2003年に導入され,それに伴い評価の明確化を図る様々な実践が行われるようになって きている。ルーブリックを活用した評価実践も散見され,例えば,横山(2014)は,中学校1年英語科の「道 案内」を扱う1つの単元においてルーブリックを活用した実践を行っている。そして,事後アンケート調査 の結果から,生徒が課題に対して見通しを持ち,ルーブリックを活用して自分の目標を明確に持って学習活 動に取り組んでいたことを報告している。 一方,大学の教養としての英語の授業においては,指導の目標や評価基準などが授業担当教員の自由裁量 により教師個人の中で完結する傾向が見られ評価の透明性に問題があるとの指摘がなされている(大学英語 教育学会, 2010)。また,ルーブリックを活用した実践的研究例は極めて例が少ないのが現状の課題となって いる。 以上から,教養科目(共通基礎科目)である外国語(英語)において適用するルーブリックを開発し,実 践の上,その効果を明らかにすることは意義のあることと考えられる。. 2.研究の目的 本研究の目的は,教養科目(共通基礎科目)である「外国語(英語)」のルーブリックを事例的に開発し, 実践の上,その効果を明らかにすることである。なお,同ルーブリックの開発にあたっては,北海道教育大 学ルーブリック作成の手引き(平成27年度版)を参照し援用する。. 3.研究の方法 3.1 協力者 本研究の協力者は,大学学部生を対象とした外国語(英語)の受講生41名であった。 3.2 実施時期 実施時期は,2015年10月~2016年2月であった(90分×16週)。 3.3 シラバスの設計 本研究のルーブリック開発に先立ち,まず,実施科目である「外国語(英語)」(以下適宜,本科目)のシ ラバスを設計した。同シラバスの設計にあたっては,北海道教育大学シラバス作成の手引き(平成24年度版). 212.
(4) 外国語(英語)のルーブリック開発に関する実践的研究. を参照した。なお,設計した主なシラバス内容は以下のとおりである。 3.3.1 本科目の位置づけ 本科目は,北海道教育大学のディプロマ・ポリシー(DP)に掲げる「1.教員としての豊かな人間性, 幅広い教養,知性,コミュニケーション能力を身につけている。」,ならびに同DPを2観点から細分化した「1 -1教員としての豊かな人間性,幅広い教養,知性を身につける。」,および「1-2コミュニケーション能 力を身につけている。 」と関連している。そこから,本科目においては,英語を学ぶことを通して,特に, ①教員として必要とされる幅広い教養や知性を身につけ,②英語のコミュニケーション能力を身につけると いうことが求められていると考えられる。 3.3.2 授業の内容 上記「科目の位置づけ」を勘案し,本科目の授業内容を以下のとおりとした。 ①教師教育に関する最近の英語文献を講読し,教師になるための自律的学び方について概要を把握する。 ②小学校外国語活動の指導に活用できるチャンツを体験的に学び,特に音声面に焦点を当てたコミュニケー ション能力の向上を図る。 3.3.3 授業の目標 本科目の授業内容を踏まえ,授業の目標を以下のとおり設定した。 ⑴ 「チャンツ」にチャレンジし,小学校外国語活動の指導に活かせる「英語の自然な発音やリズム感覚」 を体験的に身につける。 ⑵ 「スタンダードを基盤とした教師ポートフォリオ」に関する最新の英語文献(Campbell, Cignetti, Melenyzer, Nettles & Wyman, 2013)を講読し,同ポートフォリオに関する基本的事項および教師になる ための自律的学び方について理解する。 ⑶ パラグラフ・リーディングの方法を体験的に身につける。 3.3.4 到達目標 以上から,本科目における到達目標は,以下のとおりとした。 ⑴ 上記チャンツ(3.3.3 ⑴)に関する目標 ①小学校外国語活動で活用できる英語のチャンツに,積極的に取り組むことができる。 ②学んだチャンツを,英語の発音やリズムに気をつけながら,CDのリズムに合わせて,ペアで暗唱・演じ ることができる。 ③チャンツで学んだ重要表現を用いて,ペアで英語を用いてSmall Talkを3分程度続けることができる。 ⑵ 上記英語文献講読(3.3.3 ⑵)に関する目標 ①「スタンダードを基盤とした教師ポートフォリオ」に関する英語文献を読み,パラグラフ単位で,読み取っ たメッセージを日本語で再話(retelling)できる。 ②同英語文献に含まれる教育に関する重要な語彙や活用性の高い英語表現を用いて,節単位の重要事項につ いて確認するために,ペアで1分程度英語で会話をすることができる。 ⑶ 上記パラグラフ・リーディング(3.3.3 ⑶)に関する到達目標 トピック・センテンス,支持文,結論文,結束性,論理の一貫性,つなぎ言葉など,英語のパラグラフの 構成,およびその要素や機能について,具体例を挙げながら日本語で簡潔に説明することができる。 3.3.5 成績評価 以上,および3.4で示すルーブリックに基づき,総括的に評価することとした。具体的には,まず各到達 目標(3.3.4 ⑴~⑶)に対応するルーブリック(3.4. ⑴~⑶)に関して,評価aを4点,評価bを3点,評価 cを2点,評価dを1点,評価fに0点を与えた。3つの合計点を算出し,その平均値が,①3.1点以上は. 213.
(5) 松 崎 邦 守. 総括的評価A,②2.1~3.1点未満は総括的評価B,③1.1~2.1点未満は総括的評価C,④0.5~1.1点未満は総 括的評価D,⑤0.1~0.5点未満は総括的評価F*,⑥0点は総括的評価F,とした。なお,本授業への出席に ついては,原則として,全ての授業への出席が求められることから,欠席1回につき0.1点ずつ減じること, また4回以上欠席した場合には単位の認定はできないこととした。 3.4 ルーブリックの開発 続いて,本科目の「位置づけ」 ,上記「授業の目標」と「到達目標」,「成績評価の方法」などに対応・整 合させて,本科目のルーブリックを作成した。以下に,その概要を示す。なお,本稿では同ルーブリックを 簡潔にわかりやすく示すために,ルーブリック・ディスクリプタの構成要素のみを例示する。また,同ルー ブリックは,本科目の第2回目の授業において,受講生にパワーポイント(ppt)を用いて明示し説明を行っ た。その後質疑応答などを受け,受講生の合意を得て実行することとした。受講生との協議の結果から修正 した項目はなかった。なお,第1回目の授業では,本科目の概要説明および受講生の英語学習に関する実態 を把握するための調査などを行った。 ⑴ 上記チャンツ(3.3.3 ⑴)に関するルーブリック ①評価a: 「face-to-face,smileで楽しそうにペアワークができている。」, 「暗唱でチャンツができている。」, 「CDの英語のリズムでチャンツができている。」,「必要な音のつながりや脱落が表出できている。」 ②評価b: 「face-to-face,smileで楽しそうにペアワークができている。」, 「暗唱でチャンツができている。」, 「CDの英語のリズムでチャンツができている。」 ③評価c: 「face-to-face,smileで楽しそうにペアワークができている。」, 「暗唱でチャンツができている。」 ④評価d: 「face-to-face,smileで楽しそうにペアワークができている。」 ⑤評価f:全ての構成要素が実現できていない。 ⑵ 上記英語文献講読(3.3.3 ⑵)に関するルーブリック ①評価a: 「パラグラフ単位で読み取ったメッセージを日本語で再話」,および「節単位の重要事項について, 1分程度英語を用いてペアで会話」をすることがほぼ完璧にできている。 ②評価b: 「パラグラフ単位で読み取ったメッセージを日本語で再話」,および「節単位の重要事項について, 1分程度英語を用いてペアで会話」をすることについて,どちらか一方はほぼ完璧にできているが,他方 は多少の抜け落ちや不足が見られる。 ③評価c: 「パラグラフ単位で読み取ったメッセージを日本語で再話」,および「節単位の重要事項について, 1分程度英語を用いてペアで会話」をすることが,概ねできている。 ④評価d: 「パラグラフ単位で読み取ったメッセージを日本語で再話」,および「節単位の重要事項について, 1分程度英語を用いてペアで会話」をすることについて,どちらか一方は概ねできているが,他方は不十 分さが見られる。 ⑤評価f: 「パラグラフ単位で読み取ったメッセージを日本語で再話」,および「節単位の重要事項について, 1分程度英語を用いてペアで会話」をすることについて,抜け落ちが多く不十分である。 ⑶ 上記パラグラフ・リーディング(3.3.3 ⑶)に関するルーブリック ①評価a: 「英語のパラグラフの構成」,および「その要素や機能」について,具体例を挙げながら日本語で 簡潔にほぼ完璧に説明することができる。 ②評価b: 「英語のパラグラフの構成」,および「その要素や機能」についての説明において,どちらか一方 はほぼ完璧にできているが,他方は多少の抜け落ちや不足が見られる。 ③評価c: 「英語のパラグラフの構成」,および「その要素や機能」について,具体例を挙げながら日本語で 簡潔に概ね説明することができる。. 214.
(6) 外国語(英語)のルーブリック開発に関する実践的研究. ④評価d: 「英語のパラグラフの構成」,および「その要素や機能」についての説明において,どちらか一方 は概ねできているが,他方は不十分さが見られる。 ⑤評価f: 「英語のパラグラフの構成」,および「その要素や機能」についての説明において,抜け落ちが多 く不十分である。 3.5 ルーブリックと一体化した授業展開の例 以上のシラバスおよびルーブリックに基づき,実際の授業がデザインされ展開された。以下に,その具体 例を示す。 ①挨拶:英語の定型的な表現を用いてなされた。 ②本時の学習活動の確認:pptのスライドを用いて,本時の活動内容とそのゴールを確認した。 ③スモール・トーク(10分程度) :前時までに学習したチャンツの中からUseful Expressionsとして指定さ れた表現を活用しながら行った。この活動は,まず教師が例を示すために2~3名の受講生と3~4文程 度の英語で会話をし,その後全員がペアで3分間英語で会話をし続ける形で行われた。 ④チャンツ(20分程度) :まず,前時までのチャンツからいくつか適宜選択し復習を行った(例えば,前時 のチャンツに加えてその直近に学習したチャンツをいくつか組み合わせて)。次に,本時のチャンツのリ スニングを行った後,ワークシートを用いてdictogloss活動を行った。ここではdictoglossとは,聞きとっ た英語をペアで書いて復元することをいう。その後英語で,pptのスライドを用いて,dictoglossの答え合 わせをした。本時のチャンツの聞き取りと意味の理解ができた状態で教師の範読によるrepetitionを行い, さらに英語特有の発音,注意すべきリズムやイントネーションなどを確認した。その後,ペアでCDに合 わせて繰り返し練習し,最終的にペアでチャンツをCDに合わせて再現できるまで仕上げを行った。 ⑤教師ポートフォリオに関する文献(Campbellほか, 2013)の講読(50分程度):最初に,教育に関する英 語語彙を身につけるためのVoca-buil(Vocabulary building)活動を毎回行った。具体的には,本時で学 習するsectionの重要語彙(毎回20語程度)を予め教師が選定し,英語綴りと日本語訳を一覧表にしたハ ンドアウトを準備・配布し,それを用いて行った。その後,本時のsectionについてペアでパラグラフ毎 のトピック・センテンスや支持文などを確認し,概要を把握した。さらに音読を行い,本時のsectionの 概要に関する英語のQ&Aをハンドアウトを用いてペアで解答する形式で行った。最終的に答え合わせの 後,教育に関する重要表現を確認しまとめとした。 ⑥ゴールカードの記述(5分程度):本時を振り返り,ゴール・カード(松崎・北條, 2007)を記述した。な お,同カードは毎回,授業終了時に回収され,教員が確認の上,次時の記述前に返却された。また,その 際必要に応じて簡単なコメントがなされた。 3.6 開発したルーブリックに対する評価 以下のとおり,本研究で開発したルーブリックに対する受講生評価を実施した。 3.6.1 授業評価アンケート まず,北海道教育大学が全学的に実施する「授業評価アンケート」により検討した。同評価は,特に,シ ラバスへ記載が義務付けられている到達目標と評価方法などについて,科目担当教員が明示し説明をしてい るかを受講生が評価することを一つの目的としている。本研究では,開発したルーブリックとの関連から, 特に「目的や一般目標の説明はありましたか」,「到達目標と評価の観点・方法の説明はありましたか」,お よび「予習・復習の説明はありましたか」の3項目について検討を加えた。各項目の尺度は,「はい」「いい え」 , 「わからない」の3段階であった。なお,受講生からの回答は任意によるものであった。 3.6.2 ルーブリック評価実施に関する受講生評価 本科目のルーブリックに対する受講生の満足度に関して,本研究で作成した「ルーブリック適用に関する. 215.
(7) 松 崎 邦 守. 6項目」を用いた事後アンケートにより検討した。具体的項目内容は,「各学習活動のねらいを理解するこ とができた」 , 「どのような力をつければ良いのか事前に理解することができた」,「到達点を事前に理解でき 自分の取り組みの方向性を見いだせた」,「ルーブリックに基づく自己評価は,自分の学習計画や実施方法に 良い影響を与えた」,「先生の最終的評定を納得して受け止められる」,「ルーブリックに基づいて自己評価す ることはそれほど負担ではなかった」であった。尺度は, 「5:強くそう思う」~「1:全くそう思わない」 の5段階であった。また,得られたデータは直接確率計算により分析した。加えて,トライアンギュレーショ ンの観点から回顧的調査法(Brown, 2001)に基づく自由記述形式の事後アンケート調査(1項目)を実施 した。質問内容は, 「実践したルーブリックについてあなた自身が思ったことや感じたことを6つの選択式 項目を参考にしながら自由に書いて下さい」であった。同分析は,事前に十分に協議した上で,本研究筆者 および第三者(大学の英語教員1名)の2名が行った。なお不一致のケースについては協議によって最終的 に判断した。 3.6.3 自己効力感に関する効果 目標を明確にし,またどうなればその目標を達成したことになるのか基準を明確にすることが自己効力感 を高める(Shunk, 1985)ことから,本ルーブリックの実践により受講生の英語学習に対する自己効力感が 肯定的に変容することが予想される。そこから,本科目の授業により受講生の自己効力感が変容したのかに ついて,廣森(2006)および伊藤(2010)の自己効力感に関する項目から,本研究に即して一部表現を修正 して構成した6項目を用いた事前および事後アンケートにより検討した。具体的項目内容は,「英語で良い 成績を取れるだろうと思う」,「英語の学習がしっかりできると思う」,「英語の学習はやればできると感じて いる」 , 「英語の学習で達成感を味合うことができる」,「英語の学習での自分の頑張りに満足している」,「英 語の学習で先生や他の人からよくほめられる」であった。尺度は,「5:強くそう思う」~「1:全くそう 思わない」の5段階であった.また,得られたデータは直接確率計算および t 検定により分析した。. 4.研究の結果と考察 4.1 授業評価アンケートの結果 まず,北海道教育大学が全学的に実施した授業評価アンケートにおける本科目に関する結果は表1のとお りであった。各項目の有効回答数は,「質問1および2」は23であった(未回答数18)。また「質問3」につ いては24(未回答数17)であった。各項目の回答について,「はい」と「いいえ+わからない」の人数に関 して直接確率計算の母比率不等(1:2)を実施した。結果は,全3項目で偶然確率はp=0.00(片側確率) であり,本科目の授業では,「予習・復習の説明」,「目的や一般目標の説明」,そして「到達目標と評価の観 点・方法の説明」がなされていたとの回答数が有意水準1%で多く,本受講生が「予習・復習」や,シラバ 表1 「授業評価に関する3項目」に対する直接確率計算(母比率不等)結果(N=41) 項 目 内 容. はい. いいえ わからない. 未回答. p. 比 較. 1.予習・復習の説明はありまし たか。. 19. 1. 3. 18. 0.00**. はい> (いいえ+わからない). 2.目的や一般目標の説明はあり ましたか。. 21. 1. 1. 18. 0.00**. はい> (いいえ+わからない). 3.到達目標と評価の観点・方法 の説明はありましたか。. 22. 1. 1. 17. 0.00**. はい> (いいえ+わからない) **. 216. p < .01.
(8) 外国語(英語)のルーブリック開発に関する実践的研究. スへの記載が義務付けられている到達目標と評価方法などについて「説明がなされた」ととらえていたこと が示された。本研究では,既述のとおり本科目の第2時にシラバスを明示的に説明しルーブリックを受講生 と合意の上(3.4)で,ルーブリックと授業が一体的になされたこと(3.5),および毎授業の最初に学習活動 を確認し,また授業の終了前にゴールカードで次時の予告と宿題の確認をしている(3.5)。それらが影響し たのではないかと推測され得るが,具体的な因果関係については今後の研究において確かめる必要があると 考えられる。 4.2 ルーブリック実施に関する受講生評価 4.2.1 量的分析 本科目で適用・実施したルーブリックが受講生から有益であったととらえられていたのかについて上述の 3.6.2の6項目により検討した。結果(表2)は,各項目の平均値は全て3.12(SD:1.10)から3.59(SD:0.89) の範囲にあった。また,全6項目の平均値は3.46であった。ここから,本ルーブリックの実施について受講 生が概ね有益であったと満足していたことが推察される。さらに,全6項目に対する受講者の意識をより明 確に確認するため,5段階尺度形式で「5あるいは4」の回答を「肯定的」に,同じく「3」の回答を「中 立」 , 「1あるいは2」の回答を「否定的」の3段階に変換し再集計した上で, 「肯定的」と「中立+否定的」 の人数に関して直接確率計算の母比率不等(2:3)を実施した(松崎,2013)。結果は,3項目で偶然確 率はp=0.00(片側確率),および1項目でp=0.01(片側確率)であり,本ルーブリックは,実施してみると 「各学習活動のねらいを理解することができた」,また「到達点を事前に理解でき自分の取り組みの方向性 を見いだせた」 ,そして「どのような力をつければ良いのか事前に理解することができた」,さらに「ルーブ リックに基づいて自己評価することはそれほど負担ではなかった」と有意に肯定的な回答数が多く,本受講 生が本ルーブリックを肯定的に評価していたことが示された。なお,有意に「中立+否定的」の回答数が多 い項目はなかった。以上から,本ルーブリックが,受講生にアピールし,有益であり,それほど負担ではな かったと満足感が得られる内容であったと考えられる。以上の結果は,本学のルーブリック作成の手引きに. 表2 「ルーブリック活用に関する6項目」に対する直接確率計算(母比率不等)結果(N=41). 項 目 内 容. 5段階尺度を3段階尺度 平均値 に変更し再集計した人数 (SD) 肯定的 中立 否定的. 「肯定的」と「中立+否定的」の 比較 p. 比 較. 1.各学習活動のねらいを理解するこ 3.56 とができた。 (1.07). 26. 6. 9. 0.00**. 肯定的>(中立+否定的). 2.どのような力をつければ良いのか 3.49 事前に理解することができた。 (1.10). 24. 10. 7. 0.01*. 肯定的>(中立+否定的). 3.到達点を事前に理解でき自分の取 3.49 り組みの方向性を見いだせた。 (1.16). 25. 7. 9. 0.00**. 肯定的>(中立+否定的). 4.ルーブリックに基づく自己評価は, 3.12 自分の学習計画や実施方法に良い (1.10) 影響を与えた。. 17. 13. 11. 0.48 ns. 肯定的≒(中立+否定的). 5.先生の最終的評定を納得して受け 3.54 止められる。 (0.90). 22. 15. 4. 0.51†. 肯定的≒(中立+否定的). 6.ルーブリックに基づいて自己評価 3.59 することはそれほど負担ではな (0.89) かった。. 26. 10. 5. 0.00**. 肯定的>(中立+否定的). 肯定的→5, 4 中立→3 否定的→2, 1(5段階尺度)** p < .01 * .01 <p < .05 † .05 <p < .10. 217.
(9) 松 崎 邦 守. 示されているルーブリックの意義と効用を裏付ける結果と考えられる。 4.2.2 回顧的調査法に基づく自由記述に対する分析 4.2.1の結果を踏まえ,トライアンギュレーションの観点から回顧的調査法に基づく自由記述により受講生 の反応を得た。受講生41名中34名から回答があった(総文数39文)。まず,本研究筆者および第三者(大学 英語教員)が独立して,全記述を本MTに対して「肯定的」「中立」「否定的」の3つに分類した(松崎, 2013ほか) 。その結果は「肯定的(26文) 」 「中立(3文)」「否定的(10文)」であった(分類の一致率は 89.7%;不一致のケース4例は協議により決定)。次に,4.2.1と同様に直接確率計算(母比率不等)を実施 した結果, その偶然確率はp=0.00(片側確率)であり, 「肯定的な文」が有意水準1%で「中立+否定的な文」 より多く,自由記述の観点からも受講生が本ルーブリックおよびその実施を肯定的に捉えていることが示さ れた。 次に,Brown(2001)を参考に,全肯定的記述(26文)について,はっきりとした内容あるいは要素を持 つ箇所にマークしながら下位分類を行った。同分類は,事前に判断基準を決めて上記2名が協議しながら行っ た。その結果(表3),同下位分類として,「到達点の自覚」,「学習の方向性」および「目標の立てやすさ」 が得られた。具体的には, 「到達すべき点を自覚的に確認できた」,「どのような方向性で頑張ればいいのか がわかりやすかった」,「目標も立てやすく,取り組む上でとても便利」などとの記述がみられた。 以上から,回顧的調査法に基づく自由記述に対する分析の結果からも,上記4.2.1の量的分析結果を裏付け る結果が得られ,本受講生が本ルーブリックを肯定的に評価していることがわかった。また本学のルーブリッ ク作成の手引きに示されているルーブリックの意義と効用が確認されたと考えられる。 なお, 「中立」および「否定的」な記述から,今後の課題として,受講生がルーブリックについてより意 識できるようにさらに工夫したり,また,ゴールカードの記述がルーブリックとより関連づけられるように もっと働きかける必要があることが示唆される。 表3 ルーブリック活用に関する主な自由記述(N=39) ルーブリック活用に関連して肯定的な主な記述例. **. 26. 〈到達点の自覚〉 ・自分がやらなければいけないことや,到達すべき点を自覚的に確認できていたので (6) 良かったと思う。 ・到達点が何なのか,理解しやすかった。 ・評価の基準がより明確になった。 〈学習の方向性〉 ・どのような方向性で頑張ればいいのかがわかりやすかった。 ・最初に目標を設置 (13) したことで,それを意識しながら学習できた。 ・目標が明確に提示されることによって,進むべき方向 もしっかりと考えることができた。 ・毎回何をやるのか提示した上で授業が始まるのは,学生自身も講 義の見通しが立つので良いと思う。 ・学習への方向性を明確にすることは,活動方針を持つことができ ると思う。 ・自分たちで決めた目標に向けて取り組めた。 〈目標の立てやすさ〉 ・何を目的として取り組みをするか,目標を立てるという点で良いと思っ (5) た。 ・自己評価もできたし,最初の目標も立てやすく,取り組む上でとても便利でした。 ・ねらいを 理解できたのが一番大きかった。 〈その他〉 ・教える側のねらいが明確になり,他の活動にも利用,応用できると感じた。・わかりやす (2) く授業を受ける手立てとなった。 ルーブリック活用に関連して中立および否定的な主な記述例. 13. 〈中立〉 ・ゴールカードとルーブリックをもう少し結びつけても良かった。 (3) 〈否定的〉 ・計画にはなかなか影響せず,目標のようになってしまった。 ・あまり意識して確認もし (10) ていなかったため,あまり意味がないと感じた。 ・もう少しこのルーブリックを使う意味と,しっかり と各項目を頭に入れて活動する必要があったと感じます。 ・計画にはなかなか影響せず,目標のように なってしまった。 **. 218. 記述数( 「肯定的」対「中立+否定的」)に関する直接確率計算(母比率不等)の結果 p < .01.
(10) 外国語(英語)のルーブリック開発に関する実践的研究. 4.3 自己効力感の向上 本科目で実施したルーブリックが,英語学習についての自己効力感の向上に関して効果があったのかにつ いて上述の3.6.3で示した6項目を用いた「事前調査」と「事後調査」の比較により検討した。まず,表4か ら,本科目の学習開始時(事前)より学習後(事後)の方が有意に平均値が低下した項目は全く認められな かった。一方,有意に平均値が高まった項目は6項目中2項目であった。具体的には,「私は,英語の学習 はやればできると感じている(t (1, 40)=2.26, .01 < p < .05)」と「私は,英語の学習で達成感を味合うこ とができる(t (1, 40)=2.53, .01 < p < .05)」であった。なお,有意傾向が示された項目は1項目あった(「英 語の学習で先生や他の人からよくほめられる(t (1, 40)=1.73, .05 < p < .10)」)。以上から,ルーブリック を活用した本科目の学習により,英語学習に関する自己効力感に肯定的な変容が見られたことが推察される。 ただし, 有意差が認められた同2項目に関して,事後の平均値(SD)が,それぞれ2.73(0.94)および2.78(1.08) と決して高くはないことから,同数値がより高まるよう工夫をすることが今後の課題となると考えられる。 表4 「自己効力感に関する6項目(事前・事後)」に対する t 検定結果(N=41) 項 目 内 容. 事前(N=41). 事後(N=41). t 検定結果. M. SD. M. SD. t =(1, 40). p. 事前・事後 の比較. 1.英語で良い成績を取れるだろ うと思う。. 2.24. 0.97. 2.73. 0.94. 2.26. *. 事前<事後. 2.英語の学習がしっかりできる と思う。. 2.43. 1.10. 2.73. 0.87. 1.45. ns. 事前≒事後. 3.英語の学習はやればできると 感じている。. 3.59. 0.97. 3.59. 0.97. 0.00. ns. 事前≒事後. 4.英語の学習で達成感を味合う ことができる。. 3.63. 1.11. 3.48. 1.10. 0.64. ns. 事前≒事後. 5.英語の学習での自分の頑張り に満足している。. 2.20. 0.81. 2.78. 1.08. 2.53. *. 事前<事後. 6.英語の学習で先生や他の人か らよくほめられる。. 2.17. 0.95. 2.59. 0.95. 1.73. †. 事前≒事後. *. .01 <p < .05 † .05 <p < .10. 5.研究のまとめと今後の課題 本研究では, 北海道教育大学の「ルーブリック作成の手引き(平成27年度版)」を参照し, 「外国語(英語)」 の授業において適用するルーブリックを開発した。また,同ルーブリックを,実際の授業において実践の上, 受講生評価によりその効果を検討した。まず授業評価の結果から,大学としてシラバスへの記載を義務付け ている到達目標と評価方法などについて「説明がなされた」と学生がとらえていたことが示された。次にルー ブリック活用に関する事後アンケート調査の結果から,「各学習活動のねらいを理解することができ」, 「到 達点を事前に理解でき自分の取り組みの方向性を見いだせた」,また「どのような力をつければ良いのか事 前に理解することができた」と,本ルーブリックに対して受講生が肯定的に評価していることが示された。 同結果は,北海道教育大学ルーブリック作成の手引きが掲げる同作成の効用を裏付ける結果と考えられる。 加えて自己効力感に関する事前調査と事後調査の比較の結果, 「英語で良い成績を取れるだろうと思う」, 「英 語の学習での自分の頑張りに満足している」の観点から自己効力感に肯定的な変容が認められた。同結果は, ルーブリックの明示による英語学習によって,英語学習に関する自己効力感に肯定的な変容が見られること. 219.
(11) 松 崎 邦 守. を示していると考えられる。 今後の課題としては,本研究と同様の研究を継続することによって本ルーブリックの精緻化および改善を 図ることが考えられる。また,本研究では扱わなかった英語力の向上に関する効果について検証する研究の 実施が考えられる。 註:本研究は,北海道教育大学大学教育センターによる助成を受けています。また,本研究の一部は,科学 研究費補助金基盤研究(C)(課題番号26350305,研究代表:松崎邦守)の支援を受けています。. 引用文献 Brown, J. D. (2001). Using surveys in language programs. Cambridge : Cambridge University Press. Campbell, M. D., Cignetti, B. P., Melenyzer, J. B., Nettles, H. D., & Wyman, M. R. (2013). How to develop a professional portfolio : A manual for teachers. Boston : Pearson Education, Inc. 大学英語教育学会授業研究委員会(編). (2007). 『高等教育における英語授業の研究:授業実践事例を中心に』 .東京:松柏社. 大学英語教育学会(監修).(2010).『大学英語教育学:その方向性と諸分野』 .東京:大修館書店. 廣森友人.(2006).『外国語学習者の動機づけを高める理論と実践』 .東京:多賀出版. 北海道教育大学大学教育センター.(2012).『北海道教育大学シラバス作成の手引き(平成24年度版) 』 . 北海道教育大学大学教育センター.(2015).『北海道教育大学ルーブリック作成の手引き(平成27年度版) 』 . 伊藤崇達.(2010).『自己調整学習の成立過程』.京都:北王子書房. 松崎邦守.(2013).「マイクロティーチングの設計と評価-英語科教育法の科目を事例として-」 . 『日本教育工学会論文誌』. 37(Supple.),193-196. 松崎邦守・北條礼子.(2007).「ポートフォリオを教授ツールとして活用する授業設計の検討-K看護専門学校におけるライ ティング学習を事例として-」.『日本教育工学会論文誌』 .31⑴,69-77. 佐藤浩章.(監訳).(2014).『大学教員のためのルーブリック評価入門』 .東京:玉川大学出版部. Shunk, D. (1985). Self-efficacy and classroom learning. Psychology in the Schools, 22, 208-223. 横山千晴.(2014).「パフォーマンス課題とルーブリックで発信力を問う英語授業-1年英語科SP2道案内:留学生に佐賀大 学周辺マップを作って紹介しよう」.http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/tosho-syo/index29.htm 2016年3月25日検索.. (釧路校教授). 220.
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