幼児教育カリキュラムの研究(IV) : 我が国におけるニュー・ストラテジー視座
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(2) 242. 2.臨時教育書議会答申 昭和59年に内閣総理大臣から, 「我が国における社会の変化及び文化の発展に対応する 教育の実現を期して各般にわたる施策に関し必要な改革を図るための基本的方策について」 諮問を受けて,臨時教育審議会が発足し,検討が重ねられた。 4回にわたる答申の中で, 幼児教育の在り方についても,急務の課題として検討されることが求められた。 「幼児教 育要領」の改訂に拍車をかけた。 「第一次答申」では,改革の基本的な考え方として,次の8点が示された。 o個性重視の原則 o基礎・基本の重視 ・創造性・考える力・表現力の育成 ・選択の機会の拡大 o教育環境の人間化 o生涯学習体系への移行 o国際化への対応 o情報化への対応 この基本的な考え方を幼児教育を含めた学校の教育課程として組み直すとすれば,次の ように構造化されうると患われる(図1)0 3). 図1 <目標・内容>. <目的>. 人間化のカキユラム (豊かな人間性の育成). <対応> 1 . 生涯学 習体 系. 1 .. 個 性. 2 .. 基 礎. 3 .. 創 造性. 2 . 国 際化 . 情 報化. .基 本 . 考 え る力. . 表 現 力. 3 . 選択機会 の拡大 4 . 教育環境 の人間イ. このような視座がそのまま幼稚園の教育課程に当てはまるものではないが,改訂の下地に 4). 置かれていることは言うまでもない。. 3.調査研究協力者会議 昭和58年の中央教育審議会教育内容等小委員会審議経過報告を受ける形で,翌昭和59年 に「幼稚園教育要領に関する調査研究協力者会議」が発足した。 「幼児の発達状況と教育 課題について」ならびに「幼稚園教育要領の内容等について」を調査研究事項とした調査 研究が進められた。そして,昭和61年9月に「幼稚園教育の在り方について」として,文 部省より会議の敢りまとめがなされたoここで載りまとめられたものが,改訂の具体的な 布石となっている。 報告の中で,改善の視点としての「幼稚園教育の基本」ならびに「教育内容」が次のよ 5). うにそれぞれ示された。.
(3) 幼児教育カリキュラムの研究(Ⅳ). 243. 〔幼稚園教育の基本〕 o幼稚園教育は幼児の主体的な生活を中心に展開されるものであること o幼稚園教育は環境による教育であること o幼稚園教育は幼児一人一人の発達の特性及び個人差に応じるものであること o幼稚園教育は遊びを通しての総合的な指導によって行われるものであること 〔教育内容〕 ・人とのかかわりをもっ力の育成について o自然との触れ合いや身近な環境とのかかわり合いについて o基本的生活習慣・態度の形成について この他に,幼児の生活や遊びを豊かに展開することにより,生活体験として自然な形で, 「文字,数量にかかわる経験」への興味・関心が培われるようにすべきであるとされている。 4.幼稚園教育指導者講座等 幼稚園教育要領の下地づくりは,文部省による「幼稚園教育指導講座」や「幼稚園教育 課程研究集会」などにおいても進められてきた。実践への取り組みの具体的な手掛かりを 基礎づけている。次のような教育の視座が設定され,6)ヵリキュラムの下地がつくられた. 〔昭和59年・ 60年度幼稚園教育指導者講座〕 ・生涯教育 「生涯教育の観点から,幼稚園教育において育てるべきものを一層明確にし,それに 即した指導のあり方を究明する」 ・遊び 「幼稚園教育の中における遊びの教育的意義を明らかにし,指導計画への位置づけと 指導法について研究する」 〔昭和61 - 62年度幼稚園教育指導者講座〕 ・社会的態度の育成 「幼稚園教育において,幼児の自主性を尊重しつつ,望ましい社会的態度を身につけ させるには,幼稚園の生活をどのように展開したらよいか,その内容と指導の在り 方を研究する」 ・ 1人ひとりに合わせた指導 「幼稚園教育において, 1人1人に適切な指導をするには,どのような指導計画を作 成し展開したらよいかについて研究する」 I 〔昭和61サ62年度幼稚園教育課程研究集会〕 o統一主題 「幼児が身近な環境を生かし,自主的・自発的に活動に耽り組み,充実した幼稚園生 活を展開するようになるには,幼児の発達過程をどうとらえ,どのように指導した らよいか」 o分科会主題 「A.砂や土を使って遊ぶ活動を中心に」 「B.戸外で体を動かして遊ぶ活動を中心に」 「C.園外の地域環境を生かした活動を中心に」 「D.絵本やお話などを見たり聞いたりする活動を中心に」.
(4) 244. 5.教育珠程審議会答申 昭和60年9月,教育課程審議会は文部大臣から「幼稚園,小学校,中学校及び高等学校 の教育課程の基準の改善について」諮問を受け,昭和61年10月に「教育課程の基準の改善 に関する基本方向について(中間まとめ)」,そして昭和62年11月に「幼稚園,小学校,中 学校及び高等学校の教育課程の基準の改善について(審議のまとめ)」を答申した。 幼稚園の教育課程に関しては,教育基本法及び学校教育法に定める学校教育の目的と目 標に沿って検討されるとともに,臨時教育審議会の答申や中央教育審議会の教育内容等小 委員会審議経過報告を踏まえて検討が進められたoT)同審議会の昭和61年10月の「中間まと め」では,昭和61年9月に示された「幼稚園教育の在り方について」の視座が全面的に採 用された。この時点で,新「幼稚園教育要領」の基本視座が確定したと言える。 同審議会は,昭和62年11月に「審議のまとめ」を答申し,これまで検討されてきた基本 視座に従って,新「幼稚園教育要領」の具体的な柱立てが次のように示された。 〔教育課程の編成〕 o健康に関する領域「健康」 0人とのかかわりに関する領域「人間関係」 o自然との触れ合いや身近な環境とのかかわりに関する領域「環境」 ・言葉に関する領域「言葉」 o音楽,造形,劇等の表現に関する領域「表現」 〔幼稚園教育の基本〕 o幼児の主体的な生活を中心に展開されるものであること ・遊びを通しての総合的な指導が重要であること ・幼児1人1人の発達の特性及び個人差に応じた教育を行うことが大切であること o幼児が自発的にかかわることができるような人的・物的な環境の構成が大切であるこ 8). と. 以上,今回の改訂と直接・間接に関連する答申・講座等の視座を要約した。その中で, 幼稚園の教育課程を見通しながら,検討が重ねられていることがわかる。 Ⅲ.カリキュラム・ストラテジー 新「幼稚園教育要領」がどのようなストラテジーを採用しようとしているのかoここで は, Ⅱにおいて示された視座とともに,文部省初等中等教育局幼稚園課「幼稚園教育課程 講習会説明資料」に示された視座を分析する形で,新「幼稚園教育要領」のカリキュラム・ ストラテジーを探ってみたい。. 1.領域の構造 (1)5領域 現行の6領域(健康,社会,自然,言語,音楽リズム及び絵画製作)は,幼児の活動の 実態を踏まえ,幼児の発達の諸側面や幼児期に育てるべき能力・態度を考慮して, 5領域 構成とされることになった。各領域は次のような「ねらい」を視座として構成されるもの 9). とされている。 〔健康〕. ・健康な心と体を育て,自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う ・明るくのびのびと行動し充実感を味わう ・自分の体を十分に動かし進んで運動しようとする.
(5) 幼児教育カリキ>ラムの研究(Ⅳ). 245. ・健康,安全な生活に必要な習慣や態度を身につける 〔人間関係〕 ・他の人々と親しみ支え合って生活するために,自立心を育て,人とかかわる力を養う ・生活の仕方がわかり,自分の力で行動することの充実感を味わう ・進んで身近な人とかかわり,愛情や信頼感を持っ ・社会生活における望ましい習慣や態度を身につける 〔環境〕 ・自然や社会の事象などの身近な環境に積極的にかかわる力を育て,それを生活に取り 入れていこうとする態度を養う ・身近な環境に親しみ,自然とふれ合う中で,さまざまな事象に興味や関心を持つ ・身近な環境に自分からかかわり,それを生活に取り入れ大切にしようとする ・身近な事象を見たり考えたり扱ったりする中で,物の性質や数量などに対する感覚 を豊かにする 〔言葉〕 ・経験したことや考えたことなどを話し言葉を使って表現し,相手の話す言葉を聞こう とする意欲や態度を育て,言葉に対する感覚を養う ・自分の気持ちを言葉で表現し,伝え合う喜びを味わう ・人の言糞や話などをよく聞き日銭の経験したことや思うことを話そうとする ・日常生活に必要な言葉がわかるようになるとともに,絵本や物語などに親しみ,想 像力を豊かにする 〔表現〕 o豊かな感性を育て,感じたことや考えたことを表現する意欲及び創造性を豊かにする ・いろいろなものの美しさなどに対する豊かな感性を持つ ・感じたことや考えたことをさまざまな方法で表現しようとする ・生活の中でイメージを豊かにし,さまざまな表現を楽しむ (2)領域の構造 新「幼稚園教育要領」では,とりわけ「生活」と「遊び」を要として各領域が構成され ていると思われる。かって倉橋惣三が「生活を,生活へ,生活で」を幼稚園教育の基本と TO した。この教育の基本が,改めて位置づけ直されたと言える。 各領域における「ねらい」や「内容」が身近な生活の中から掘り起こされ,遊びを通し て達成されるとする視座は,次のように図示することができよう。 (図2) 2.生活と遊び 生活の中での豊かな体験を通して,意欲的,主体的に興味や関心を持って遊びに打ち込 むことによって11)幼児の確かな「育ち」があるとの仮説を設けている。 「生活」と「遊び」 が重要なストラテジーとして採用されている。 (1)主体的な生活の創造 幼児にとって「生活」は,育っていくための充電の場であり,活動の場である。その様 相は力みのない「さながらの生活j2)であることを原点とするo r自然な生活の流れ」の中 で幼児が「楽しく」 「自己を発揮」して「自立した生活」に向かうことが基本とされてい.
(6) 246. 健. 義. 菓. 言. IS. l3). る。この視座は,幼児が「主体的に生活を創造」することに他ならない。 「主体的な生活」の中で直接的具体的な生活体験が積み重ねられていく。自己発揮して いく体験の場であり,その体験を通して充実感や満足感に根差した人間としての安定感を 得る。この安定感が人とのかかわりの生活を支える「自律」と「協調」の力を培っていく。 「うごめく生活」によってこそ,将来につながる「実践力」 「できる力」が育っと言える。 (2)ふくらみのある活動としての遊び 幼児期にふさわしい生活の中心に遊びが位置づけられている。そして,遊びは, 「生活 の中で幼児自ら興味・関心を持って周囲の人や物・事象などの身近な環境に対して主体的, 意欲的にかかわることにより活動を作りだし,展開するj5'自発的な活動である。この目発 する活動としての遊びの中から,たくましく生きぬくために必要な「達成感」 「挫折感」 「葛藤」 「充足感」を体験し,人間としての発達の基礎が養われる。 この点から,遊びがふくらみのある活動として,総合的に展開されるような援助がとり わけ重要な鍵とされる。遊びは「生活」とともに「育ち」につながる媒体であると言える。 14). 3.教育活動のひろがリ 「環境による教育」を幼稚園教育の基本とする視座から:6)幼児自らが環境に働きかける ことが求められている。 「環境」は幼稚園内外の環境であり,とりわけ園外の環境とのか かわりがカリキュラムのストラテジーとして採用されているようである。.
(7) 幼児教育カリキュラムの研究(Ⅳ). mwi. (1)幼児にとっての環境 環境とは幼児を取り巻く状況のすべてである17) 。自然環境や社会環境などを含めた事物・ 事象をはじめ,幼児に接しかかわる教師や地域の人々,あるいは保育が展開される雰囲気 時間,空間などである。 環境は幼児が自らかかわることで,また教師の援助によって環境にかかわらせることで, 教育環境としての意味を持ってくる。幼児の育ちにつながる重要な要因となる。この時期 にどのような環境のもとでその環境とどのようにかかわるか,教育の基本にかかわる実践 課題である。 (2)地域環境マップ 幼稚園の外にも積極的に教育活動の場を求め,幼児の育ちを図っていく視座が置かれて いる。従来からの「園外保育」「お散歩」を見直し,幼児の育ちにつながる教育活動の見 取図とも言える「地域環境マップ」が幼稚園の教育課程を支える重要な条件とされている ように思われる。 「地域の環境マップ」にはあらゆる環境要因が組み込まれる。とりわけ地域の「自然と の触れ合い」や地域の「人々とのかかわり」が焦点化されてマップの作成を試みることも よかろう。さらに,幼稚園の日常的な教育活動としての「地域」は,幼児が徒歩で片道15 分以内を想定しておくとよい。これに時折り遠出するプログラムを組み込み,マップを作 成しておきたい。 幼稚園の教育が,家庭や地域との連携の上で成り立っことからすれば,「地域の環境マッ プ」は有効なカリキュラム・ストラテジーの1つと言える。 4.実践力としての主体性 幼児の「育ち」が幼児期における幼稚園教育の責任として,求められている。「育ち」 は「実際にできる力」と言った意味での「実践力」に力点が置かれているように思われる。 「実践力」が幼児の主体的な営みに根差した人間としての健康的な生きぬく力であるとさ れているようにも思われる。さらに,自発することの積み重ねから,主体的な姿勢やふく らみのある実践力が育つとの図式が成り立ちそうである。次のように図式を構造化してと らえることができる。(図3) 「自発」することを幼児の主体的な活動の核として位置づけている。それは,「自発的 な活動としての遊び」と言う形で,幼稚園教育の基本の1つに位置づけられている18)自発 することで安定感を得て意欲を高め,あらゆるかかわりの活動に自主的に能動的な姿勢を 持ち,この積み重ねによって,主体的な遊びや生活が展開されるものとする受けとめ方が 可能のようである。 5.1人ひとりへのかかわり 教師の幼児へのかかわりの面からは,「1人ひとりに即した指導」がストラテジーとし て強調されている。「幼稚園教育の基本」の1つとして位置づけられている19) 。教師が幼児 1人ひとりに目を配り,かかわり合いながら生活を共にする中で,幼児の確かな育ちを求 めていくこととしてこのストラテジーを受けとめることもできよう。 (1)「みる」「みきわめる」 幼児へのかかわりの基本は,まず「みる」ことである。「みる」ことによって,「幼児.
(8) 248. 図3. 主. 舵 自. 動 &. 欲. 体. 1人ひとりの発達の特性を理解し,その課題に応じた柔軟的な指導が可能となるからであ る。このように, 「みる」ことは「みきわめる」ことを前提にするならば, 「感じとり」 「読みとり」であるととらえてもよい。 そこで,幼児の現実への「みる」ことの照射を, <見る>-<観る>-<視る・診る> -<看る>のようにふくらませて,教師が幼児1人ひとりにE]を配ることが,求められて いるように患われる。教師が幼児を「みる」ということは,目の視覚によってのみ「見る」 のではなく,時折々に課題を持って「観る」ことや,幼児の育ちのつながりを見通しなが ら「視る」ことと「診る」ことも,さらには「思いやり」「いたわり」の気持ちを溜め込 めて「看る」など,教師の「みる目」が何よりも重要な条件となる。 (2) 「かかわる」 教師が幼児に「かかわる」ことは,それが「教育方法」としてあるいは「教育技術」と して1人歩きしたそれではない。 「みる」ことや「みきわめる」ことと密接なっながりを.
(9) 幼児教育カリキュラムの研究(Ⅳ). 249. 持ったその時折りの教師の敏感かつ柔軟な姿勢である。 「援助」として,教師が幼児に 「かかわる」ことと受けとめてもよかろう。 「援助」の「かかわり」は,幼児の現実の「みきわめ」から,多面的である。 <みまも る><くすぐる><さそいかける><うなずく><まとめる><ひっぼる><しめす> <つみとる>などの「かかわり」が援助活動としての条件となる。幼児と共に「みる」 「感じる」 「考える」 「経験する」 「生活する」教師の「かかわり」から,幼児の1人ひとり の「育ち」が碓かなものになると言える。この点からは, 「みる」目, 「みきわめる」力 「かかわる」技術を,次のような(図4)サイクルモデルとして位置づけることができそ うである。. Ⅳ.新「幼稚園教育要領」の準拠枠 新「幼稚園教育要領」がとりまとめられていく過程で,今一度原点に戻って幼稚園の教 育課程を構築していこうとする考え方が見られる。 「生活」と「遊び」,自発的にかかわれ る環境の構成などに,示されているところである。ここではとくに領域構成の面から,そ の依拠したと思われる点をさぐってみたい。 1.学校教育法第78集 幼稚園教育が「学校教育法」に基づくことは言うまでもない。とくに,新「幼稚園教育 要領」では現行の「幼稚園教育要領」以上に,名実ともに「学校教育法」に依拠する点が 明確に示されているように思われる。 「学校教育法第77条(目的)」 「学校教育法第78条 (目標)」がそのまま新「幼稚園教育要領」における領域構成に採用されている。 (1)幼稚園教育の目標 幼稚園教育の目標に関して, 「学校教育法第78条(目標)」と新「幼稚園教育要領」にお ける幼稚園教育の目標とが,ほぼ対応している。それぞれにおける目標の表記は次のよう になっている20)上段は第78条,下段は新幼稚園教育要領における目標の表記) ① o健康,安全で幸福な生活のために必要なE]常生活の習慣を養い,身体諸機能の調和.
(10) 250. 的発達を図ること o健唐,安全で幸福な生活のための基本的な生活習慣や態度を育て,健全な心身の基 礎を養うようにすること ②o園内において,集団生活を経験させ,喜んでこれに参加する態度と協同,自主及び 自律の精神の芽生えを養うこと 0人への愛情や信頼感を育て,自律と協同の態度及び道徳性の芽生えを培うようにす ること. ③ 。身辺の社会生活及び事象に対する正しい理解と態度の芽生えを養うこと ・自然や身近な事象への興味や関心を育て,それらに対する豊かな心情や思考力の芽 生えを培うようにすること ④。言語の使い方を正しく導き,童話,絵本等に対する興味を養うこと ・日常生活の中で言葉への興味や関心を育て,喜んで話したり聞いたりする態度や言 葉に対する感覚を養うようにすること ⑤o音楽,遊戯,絵画その他の方法により,創造的表現に対する興味を養うこと ・多様な体験を通じて豊かな感性を育て,創造性を豊かにするようにすること 個々の表記には異なるところも多々あるが,大まかなE]標内容の柱立ては対応している と考えてもよい。また,新「幼稚園教育要領」の目標は,第78条を発展的に受けとめ,そ の内容を位置づけている。主体的な生活を創造していくのに必要な「実践力」を目標内容 とし,これによって「豊かな人間性」を育てるとする図式があるように思われる。 (2)教育目標と領域 新「幼稚園教育要領」では, 5つの幼稚園教育の目標に対応させて, 5領域が構成され ていると思われる。 (彰は「健康」, ②は「人間関係」, ③は「環境」, ④は「言糞」, ⑤は 「表現」として,それぞれ対応させることができる。これは, 「学校教育法第78条」にも同 様に対応している。 この点からも,新「幼稚園教育要領」では「学校教育法」を原点として教育課程が編成 されることになったと言えそうである。 2.キリスト教保育カリキュラム 新「幼稚園教育要領」における領域構成の面では,意外にもキリスト教保育のカリキュ ラム構成と類似するところも見うけられる。とくに領域に関する審議の過程で,キリスト 教保育のカリキュラムが参考にされた節もうかがわれる。 (1) 4つの生活カリキュラム 「キリスト教保育」では,基本的には4つの生活が構造化され,カリキュラムが組まれ ている。 「健康の生活」 「交わりの生活」 「探究の生活」 「表現する生活」の4点である。 「生活」が幼児の教育の基底に置かれ,幼児1人ひとりが自発し自己発揮し,主体的に生 活を創造していく歩みをカリキュラムの方途としている。 「交わり」 「探究」 「表現」の中 に,その視座がとくに込められていると思われる。 (2) 「領域」の名称 5領域の名称が仮称にしても, 「健康」 「人間関係」 「環境」 「言葉」 「表現」とされるま でには,いろいろの名称案が出され,検討されたようである。この点を「新しい幼稚園教.
(11) 幼児教育カリキュラムの研究(Ⅳ). 251. 育要領」に関する審議資料を基に素描してみたい。次のようにとりまとめることができる。 o 「健康」一一「健康」 「心身の健康」 o 「人間関係」 --= 「対人関係」 「人とかかわる力」 「人間関係」 「人とのかかわり」 o「環境」 -- 「環境」 「環境の探索」 「自然」 「環境とのかかわり」 ・ 「言葉」 ・・-・ 「言葉」 「言葉の獲得」 「ことば」 ・ 「表現」 -- 「表現」 「感性と表現」 「健康」を除いて,幼児のうごめく生活の様子が感じられる名称案が示されている。現 行の6領域の名称とは大幅に異なる。 (3)類似点 新「幼稚園教育要領」における領域をキリスト教保育の「生活カリキュラム」に対応さ せてみるとすれば次のようになろう。 「健康の生活」 ・-・・ 「健康」 「交わりの生活」 --・ 「人間関係」 「言葉」 「探究の生活」 ・-- 「環境」 「表現する生活」 --・ 「表現」 必ずしも一対一の対応とは言えないものの,整合性が認められる。 「交わりの生活」は 「人とのかかわり」の生活であり,かかわりに必要な「言葉」の生活である。また, 「探究 の生活」はさまざまな「環境」の探索の生活として受けとめることができる。 3.新「児童中心主義」的性格 幼稚園の新しい教育要領はかつての「児童中心」の教育イデオロギーに依拠しながらも, 「教育の責任性」を明確に打ち出すことによって,いわば「新児童中心」の教育イデオロ ギーが下地に置かれているように思われる。その具体化された視座やストラテジーが新 「幼稚園教育要領」に集大成されたと言えそうである。 (1)イデオロギー仮説 近代教育の中で醸成されてきた「児童中心」の教育イデオロギーは,今日改めて「人間 化」を視座とした教育イデオロギーとして教育の理論や実践に根付きっっある。しかし, そのイデオロギーのパラダイムが必ずしも明確にされているわけではないO 新「児童中心」の教育イデオロギーのパラダイム化にせまるものとして,イギリスの 「幼児学校」やアメリカの「オープン・エデ3.ケーション」のイデオロギー仮説は示唆に 21) 富む。それぞれにおけるイデオロギー仮説を次のように要約できる。 〔幼児学校〕 ・発達主義--・幼児の自然的な成長一発達に関する知識をふまえた知的・情動的発達へ の教育努力 o個人主義幼児の1人ひとりに合わせた教育的アプローチ ・学習としての遊び--幼年期の重要な学習手段として遊びを位置づけ,その教育的意 義を認めること. ・幼年期の無邪気さ-=-幼児のありのままを肯定的に受けとめること 〔オープン・エデュケーション〕. o教育のプロセス--・学習と教授に関して,その成果よりもむしろその過程を大切にす ること.
(12) 252. 0活動の選択性一・日いろいろの活動の中から,子ども自身が自由に選択できるようにす ること(自らが運ぶ活動) o総合的な活動および指導・--教科として技能や知識を区分するのではなく,それらを 統合した形で取り扱うこと o子どもの相互性-一子どもを進路別・能力別に編成するのではなく,ランダムな集団 や異質の集団を構成して,子どもが相互に学び合うようにすること o子どもの現実・--個々の子どもから示された行動を手がかりにして,子どもがすでに 知っているもの,その子の興味や技能を伸ばしていくようにすること (2)イデオロギー構造 「幼児学校」や「オープン・エデュケーション」の教育イデオロギ-仮説を,次のよう 22). に構造化してとらえることができる。 〔教育の哲学〕. o人間的(Humanistic) ---民主的なあたたかいヒューマニズムに支えられて,子ど もを限りなく信頼すること ・全体的発達(Total Development)一一偏らないふくらみのある育ちを求めること 〔教育の場・メディア〕 o遊び(Play) --生活の中での遊びを通して学習をすすめること o日常の生活(Daily Life) --身近な日常の生活を掘りおこして学習課題を求めること o経験や体験(Empirical and Experimental)一一常に五感を通して,感性を通して, 体全体を鋭いアンテナにして,体験的に前向きに活動に挑ませ,学習をすすめること o創造性(Creative) -充分なイメージのふくらみの中で興味や関心に根ざした意欲 的で自律的な活動にとりくませること oダイナミック(Dynamic) --体ごとぶつけるひろがりのある活動,チャレンジ性 のある活動にとりくませること 〔教育プロセス〕 0 1人ひとり(Individual) --1人ひとりへの配慮の中で,どの子にも目をやり気を 配ること O敏感かつ柔軟的(Sensitive and Flexible) -・・・子どもからのサインには敏感にしか も柔軟的に対応すること (3)類似点 新「幼稚園教育要領」に示されている「幼稚園教育の基本」視座が,新児童中心の教育 イデオロギーの仮説や構造にどのようにプロットされ得るのか。 「幼稚園教育の基本」を 支える視座は,次のようにキーワード化してとらえることができそうである。 o 「環境」 「生活」 「遊び」 o 「体験」 「相互交流」 「自己発揮」 「自発的・意欲的・主体的」 「発達」 o 「総合的」 「援助」 「柔軟的指導」 「教師と幼児との信頼関係」 o「生き方」 「人間としての育ち」 これらの視座は少なからず新児童中心の教育イデオロジーのパラダイムに位置づくよう に思われる。ただ, 「環境」や将来にわたる「生き方」の視座は,その位置づけが必ずし も明確とは言えない。我が国における新児童中L、の教育イデオロギーの独自な視座なのか.
(13) 幼児教育カリキュラムの研究(Ⅳ). 253. も知れない。 Ⅴ.おわリに 新「幼稚園教育要領」による幼稚園の教育課程の改訂は, 1面では幼児教育のパラダイ ム変換を大きく求めるものである。本稿ではカリキュラムの貌実的なストラテジーの視座 をさぐることを試みた。その中で,新「児童中心主義」とも言える教育の視座が,新「幼 稚園教育要領」に脈々と流れていることが認められた。 このような視座は,新「幼稚園教育要領」において初めて導入されたわけではない。現 行の「幼稚園教育要領」においても,ふまえられている視座なのである。この面では,敬 育の在り方が大幅にかわるものではない。ただ教育の実際の取り組みにおいて,今まで以 上に, 「子どもから」の掘りおこしを重視し,教育活動全体に柔軟性とふくらみをもたせ ようとする視座が求められているように思われる。これに応える現実的で実践的なカリキュ ラムの開発が集積されなければならない。 <注および引用文献> 1 ) Goodlad, J. I. et.al, The Changing School Curriculum, 1966 2) NEA Report, "Schools for the 70'S-A Call to Action", 1972 3)臨時教育審議会「教育改革に関する第一次答申」 (1985. 6) 4 )文部省初等中等教育局幼稚園課「幼稚園教育課程講習会説明資料」 (1988. 8 ) 5 )文部省「幼稚園教育の在り方について-幼稚園教育要領に関する調査研究協力者会議取りまとめ」 (1986.9). 6)各請座,研究集会における配付資料に基づく 7)教育課程審議会「教育課程の基準の改善に関する基本方向について(中間まとめ)」 (1986. 10) P.1. 8)教育課程審議会「幼稚園,小学校,中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善について(審議 のまとめ)」 (1987.ll) 9 )文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」 (1988. 8 ) 10)倉橋惣三「幼稚園真諦」 (1934) 『倉橋惣三選集・第1巻』 1965, P.23 ll)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」 (1988. 8) PP. 7-9 12)倉橋惣三「前掲書」 (1934) 1965, P.57. 13)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」. (1988. 8) PP. 7-9. 14)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」. (1988. 8) P. 9. 15)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」. (1988. 8) P. 9. 16)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」. (1988. 8) P. 7. 17)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」. (1988. 8) PP. 7-8. 18)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」. (1988. 8) P.18. 19)文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」. (1988. 8) P. 9, P.18. 20) 「学校教育法第78条」ならびに文部省初等中等教育局幼稚園課「前掲資料」 (1988. 8) P. 18 21)拙著「幼児教育イデオロギーのパラダイム-幼稚園における教育理念を事例として」 『日本デュー イ学会紀要』 (第28号) 1987, PP. 116-117 22)拙著「前掲論文」 1987, P.120.
(14) 254. A Study of Early Childhood Education Curriculum -New Strategy in Japan-. YUKITANE TANAKA. Aimes of this paper are describe the papradigm of new Guidelines for Kindergarten Education, and to find some new strategies for its curriculum. I sum up new directions of early childhood education curriculum as follows: 1 ) Organization of Areas Health ,Human Relations, Environment, Language and Communication,Expression. 2 ) Fundamental Strategies of Curriculum through children's daily life through children's voluntarily play through children's creative and challengeable activities and experiences developing autonomic life for children individually guided education.
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