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日本語教員養成課程における教育実習のありかたに関する一考察 : 課程科目と教育実習の有機的な連携を目指して

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(1)Title. 日本語教員養成課程における教育実習のありかたに関する一考察 ― 課 程科目と教育実習の有機的な連携を目指して ―. Author(s). 佐藤, 香織; 菊池, 律之. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 69(2): 135-145. Issue Date. 2019-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10393. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 69, No.2. 平 成 31 年 2 月 February, 2019. 日本語教員養成課程における教育実習のありかたに関する一考察 ― 課程科目と教育実習の有機的な連携を目指して ―. 佐藤 香織・菊池 律之* 北海道教育大学函館校国際地域学科 *. 天理大学国際学部地域文化学科. On the Ideal State of the Japanese Teaching Practice in Japanese Teaching Language: Teachers Training Course: Aiming at the Organic Cooperation  between the Course Curriculum and the Japanese Teaching Practice. SATO Kaori and KIKUCHI Noriyuki* Department of International and Regional Studies, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education *. Faculty of International Studies, Department of Area Studies, Tenri University. 概 要 多くの大学の日本語教員養成課程においては,課程履修の仕上げの段階に「日本語教育実習」 が設置されているが,現状では,言語学・日本語学関連のクラスを受講していても,教育実習 の際に学んだ知見を十分に活かせない学生が多く見られる。即戦力となる人材を養成するため には,教育実習の効果的なありかたを考えることが重要である。 本稿では,天理大学と北海道教育大学函館校における教育実習および課程科目での模擬授業 の分析から,課程科目と教育実習の連携が必ずしも十分に行われていないことを指摘する。そ のうえで,それらがそれぞれの大学の日本語教員養成課程のカリキュラムによるものである可 能性を挙げ,課程科目と教育実習の有機的な連携を構築するためにはどのような取り組みが必 要かを考察する。. 1 はじめに. あり,2011年度の128,161人に比べ約1.5倍となっ ており,年々増加傾向にある。一方,日本語教師. 文化庁文化部国語課(2015)によると,2015年. 数 は,2011年 度 は31,064人,2015年 度 は36,168人. 度の日本国内の日本語学習者数は,191,753人で. とほぼ横ばいである。最近,国内の日本語学校で. 135.

(3) 佐藤 香織・菊池 律之. は日本語教員が不足し,大学や専門学校などの日 本語教員養成課程(以下,養成課程)を修了した ての人材が,すぐに専任教員として採用されるこ. 2 大学の日本語教員養成課程における教育 実習の位置づけと現状. とも珍しくなくなっている。このような状況の中. 現在,大学の養成課程では,日本語教員の養成. で,養成課程には,これまで以上に現場で即戦力. に関する調査研究協力者会議(2000)の中の「日. として活躍できる日本語教員を育成することが期. 本語教員養成において必要とされる教育内容」に. 待されていると考えられる。. 基づいてカリキュラムが組まれているが,教育実. 2018年3月2日に文化審議会国語分科会から. 習については必須ではなく,その内容も各教育機. 「日本語教育人材の養成・研修の在り方について. 関に任されている。. (報告) 」が出された。この報告の中で,「実践力. 文化庁(2018)によると,養成課程を持つ大学・. を身に付けた日本語教育人材が求められている. 短期大学の96.2%が教育実習を実施している。た. が,教育実習における具体的な教育内容は(平成. だ,その中身を見ると授業見学や模擬授業のみの. 12年に示された教育内容では)示されていないた. 機関も存在している。教育実習を行っている大. め,教育実習の内容は機関・団体により異なる」. 学・短期大学のうち,2割は教壇実習(外国人の. という指摘がされ,新たに教育実習の指導項目が. 日本語学習者を対象とした授業)を実施していな. 細かく提示された。これは今後の日本語教員養成. い。. において,教育実習の充実が重要かつ必須である. このような状況の中,文化審議会国語分化会. ことを強調するものである。. (2018)は「教育実習に関しては,実践力を持っ. しかし,養成課程の現状を考えてみると,言語. た日本語教育人材が求められていることから,教. 学・日本語学関連のクラスを受講していても,学. 育実習として必要な指導項目を示すこととする」. んだはずの知見を日本語教授法のクラスで活かせ. とし,下記のような指導内容(表1)を提示した。. ない学生,これまでの集大成であるはずの教育実. 教育実習の指導項目としては,①オリエンテー. 習の際に,適切な教案を考えられない学生などが. ション ②授業見学 ③授業準備(教案・教材作成. 多く見られる。. など)④模擬授業 ⑤教壇実習 ⑥教育実習全体の. 上述したように,養成課程における教育実習に. 振り返り,のすべてが含まれる。近い将来,各大. ついては,基準としての具体的な指導項目が提示. 学の養成課程ではこの指導内容に基づいて教育実. されないまま各教育機関に指導内容が任されてき. 習が行われることになると考えられる。. た経緯がある。教育実習をより効果的に行うため. 天理大学,北海道教育大学函館校ともに,国内. には,教育実習の指導内容に加え,教育実習に至. では現在表1に示されたような内容の教育実習を. るまでのカリキュラムに不備がないか検討する必. 行っている。表1のとおり,教育実習ではそれま. 要があると考えられる。. でに学んだ知見を活かし,適切な教案を自分で考. 本稿では,天理大学と北海道教育大学函館校に. え,授業を実際に実施することがメインとなるは. おける教育実習および課程科目での模擬授業の分. ずなのだが,実際の実習生の様子を見ると,後述. 析から,課程科目と教育実習の連携が必ずしも十. するように,学習させる文型が示す典型的な状況. 分に行われていないことを指摘する。そのうえで,. に対して無自覚であったり,適切な例文を提示で. それらがそれぞれの大学の養成課程のカリキュラ. きなかったりするという状況が多く見られる。. ムによるものである可能性を挙げ,課程科目と教 育実習の有機的な連携を構築するためにはどのよ うな取り組みが必要かを考察する。. 136.

(4) 日本語教員養成課程における教育実習のありかた. 表1 日本語教師【養成】における教育実習の指 導項目 教育実習の指導項目. 実習内容(例). ① オリエンテーション 〇教 育実習全体の目的の 理解 〇教 育実習の構成要素と 内容の理解 〇学 習者レベル別,対象 別の教育実習に対する 留意事項 ② 授業見学. 〇授 業見学のポイントや 視点の理解 〇授業見学および振り返り 〇授 業ビデオ観察および 振り返り. へとパラダイム・シフトし自己内省の重要性 がうたわれ出したことによって,あるべき指 導技術を指導教師が具体的に示してはいけな い,実習生自らがよりよい指導を探る機会を 提供すべきという考え方が一般化しつつあ る」ことを挙げている。その結果,「指導技 術の分析・検討が後退することになった」と し,「問題は指導技術の提示そのものではな く,広い視野を持って自ら検討して授業を組 み立てていく能力がいかに育成されたか (p.109) であると主張している。. 〇教 壇実習に向けた指導 項目の分析 〇教 壇実習に向けた教案 作成 〇教 壇実習に向けた教材 準備 (分析・活用・作成). 丸山(2015)が指摘するように,1990年代以降,. ④ 模擬授業. 〇模擬授業および振り返り. ⑤ 教壇実習. 〇教壇実習および振り返り. 本稿は,自己研修型教師の重要性に対して異を. ③ 授業準備. ⑥ 教育実習全体の振 〇教 育実習全体としての り返り 振り返り (文化審議会国語分科会(2018)p.38より抜粋). 「自己研修型教師」の重要性が広く主張されるよ うになった。文野(2010)は,教師自らが自律的 に,また仲間との対話を通じて授業分析を行うこ となどが教師の成長に寄与すると述べている。 唱える立場ではないが,教育実習を行うにしても, 授業分析を行うにしても,養成の段階で指導教師 による訓練は必要であると考える。例えば,内省 や対話によって実習生が自らの授業を振り返る際 に,「状況設定が不十分だった」ということに気. 3 先行研究と本稿の立場. づいたとする。しかし,日本語文法の知識や内省 を,実際に教室で教えるときにどのように用いる. 日本語教育実習生の実習授業を分析し,実習生. かについての訓練が不足している場合,次回にそ. の授業の問題点について詳細に論じている研究は. の気づきを活かすことができない可能性がある。. 管見の限り丸山(2015)のみである。その中で,. ここでの訓練とは,「この文型を教えるときにど. 文法説明や練習の際に「状況設定が不十分」な例. のような例文を提示したら効果的に学習者に伝わ. が見られたことなどが指摘されている。しかし,. るだろうか」と思考させるような訓練を指す。. そのような実習生に不足している力を,養成課程. 本稿では,養成課程を履修している学生が,学. の中でどのように育成すべきかという具体的な方. んだ知識を実践の場で効果的に活かせるように,. 策に関しては,今後の課題として述べるに留まっ. また「広い視野を持って自ら検討して授業を組み. ている。. 立てていく能力」 (丸山 2015)を育てるためには,. さらに丸山(2015)は,実習の現場に立脚し,. 日本語文法の知識や内省の実際の授業への活かし. 実習をよりよいものにしようとするための実践研. 方を学ぶことが重要であることを主張する。そし. 究がこれまでほとんどないことを指摘している。. て,そのためには養成課程のカリキュラムにおい. その理由として,. て,課程科目と教育実習とが有機的に連携できる. 実践研究が立ち上がらないうちに教師養成が. ような取り組みが求められることを提案する。. Teacher TrainingからTeacher Development. 137.

(5) 佐藤 香織・菊池 律之. 4 模擬授業,教育実習の分析. のペンは書けます。」のようなものが含まれてい た。これらの文において「〜は」で示されるのは. ここでは,本稿で主張する「課程科目と教育実. 水やペンなどのモノであり,それらが「飲む」「書. 習の連携が十分に行われていない」ことを示すい. く」という動作にたえ得るかどうかの「属性」を. くつかの例を,天理大学,北海道教育大学それぞ. 表す文であることから,学習者にとっては混乱を. れでの,教育実習およびそれに向けた課程科目の. 生じやすく,この課であつかう可能形の例文とし. 紹介とともに挙げる。ただしここで挙げるのはあ. て提示するにはふさわしくないといえる。. くまで一例であり,養成課程を履修するすべての. 学生Aは,『みんなの日本語 初級』第27課文. 学生,教育実習に参加するすべての学生に共通し. 型1が可能形を導入するものであることは理解し. て見られるものではないことを記しておく。. たものの,テキストの内容に沿ってどのような例 文を提示すればよいか,まで考える視点が欠けて. 4.1 天理大学. いたと考えられる。「日本語が―話せます」「新聞. 天理大学の養成課程においては,4年次に「日. が―読めます」の組み合わせに気がつけば,「日. 本語教育実習」に参加することになっており,参. 本語の歌が歌えます」「料理が作れます」「はしが. 加学生の希望をもとに実習先を決定する。また,. 使えます」など,学習者の生活に即した同様の例. 4年次春学期の必修科目には,実習にそなえて教. 文を考え出すこともできたはずだが,動詞の可能. 壇の経験を積むことを目的とした「日本語指導法」. 形ということのみで例文を考えたため,適切な例. という授業も設けられている。この授業では『み. 文の提示ができなかったのである。. んなの日本語 初級』を用いて,各自が与えられ た課(文型)を教える30分程度の模擬授業を学期. 4.2 北海道教育大学函館校. 中に1,2回行う。本節ではこの授業で学生が. 北海道教育大学函館校における教育実習は,学. 行った模擬授業において見られた問題点を挙げる。. 内の留学生クラスを対象とした「日本語教育実. ここで挙げる模擬授業を行った学生を仮に学生. 習」と海外の大学で行われる「海外日本語教育イ. Aとする。学生Aはこの模擬授業を行った時点で. ンターンシップ」があり,学生はいずれかを選択. 養成課程の3年次までの必修科目はすべて履修し. する。実習の前には,初級や中級の教え方,四技. ている。2017年6月26日に行われた模擬授業では. 能の教え方などの基礎を学んだ上で模擬実習を行. 『みんなの日本語 初級Ⅱ』第27課の文型1を担. う「日本語教育法Ⅰ」「日本語教育法Ⅱ」を履修. 当した。これは, 「わたしは 日本語が 少し 話せ. する必要がある。また,「日本語教育法Ⅰ」や「日. ます。 」という例文に代表される,動詞の可能形. 本語教育法Ⅱ」と同時に「日本語教育文法Ⅰ」 「日. を導入するものである。『みんなの日本語』には,. 本語教育文法Ⅱ」も履修する必要があり,日本語. 各課で学習する文型を用いた他の例を「例文」と. 教育を行う場合に必要な日本語文法の基本的な知. して示しているが,そこには「日本語の 新聞が. 識や考え方を既に習得していることが前提となっ. 読めますか。……いいえ,読めません。」が挙げ. ている。さらに, 「海外日本語教育インターンシッ. られている。. プ」においては,現地の事情・学習者の状況につ. 上記の文型と例文からは,話題の人物(「〜は」. いての事前学習,現地で使用している教材を使用. で表される)の能力の有無を表現する文であるこ. して指導案を考えさせるなどの事前指導を,派遣. と,可能形を用いた場合,本来は動作の対象を表. の約半年前から,月に1回,90分程度の時間を. す「を」が「が」に変わることがあることなどが. とって行っている。. 読み取れる。しかしながら,学生Aが模擬授業に. 本節では,2018年3月に行われた世新大學(台. おいて提示した文には, 「この水は飲めます。」「こ. 湾)での「海外日本語教育インターンシップ」で. 138.

(6) 日本語教員養成課程における教育実習のありかた. の教育実習の観察および録画データから,実習生. 然な文が2つあった。「ラーメンを食べて,テレ. の授業(テ形の運用練習)において見られた,日. ビを見て,ベッドで寝て,遅刻しました」と「服. 本語文法の知識や内省の不足が原因と考えられる. を着て,帽子を被って,外で遊んで,迷子になり. 問題点について指摘する。. ました」である。初級前半にテ形の機能として教. まず,2018年の世新大學での教育実習の概要に. えるのは動作継続のテであるので,「遅刻しまし. ついて述べる。実習期間は2週間で,実習生は全. た」や「迷子になりました」のような無意志動詞. 部で4名である。最初の1週間は,授業見学と授. ではなく,意志的な動作動詞が文の最後にこなけ. 業での会話練習の補助,採点の補助,交流会での. ればならない。もちろん,「外で遊んで迷子にな. 文化紹介などを行った。後半の1週間は,前半の. りました」のような理由を示すテ形もいずれ教え. 内容に加え,1人50分の教壇実習を現地の教員の. ることになるが,初級前半の段階では混乱を防ぐ. 指導の下で行い,実習生と現地教員とによる反省. ため,普通は一緒に導入することはない。この例. 会を実施した。. 文では,前半が動作継続のテ形,後半が理由を示. ここでは,テ形の運用練習を行った学生Bと学. すテ形とも見なせるので,学習者の無用の混乱を. 生Cの2つの実習授業を分析対象とする。. 招く。しかし,学生Bは実習後に指導教員らに指. 学生Bは2年生,学生Cは3年生であるが,ど. 摘されるまで,自分の例文がなんとなく不自然だ. ちらも,前述の教育実習前に必要とされる授業を. という自覚はあったものの,テ形のこのような性. 良好な成績で履修済である。2名が担当したのは. 質や機能について全く無自覚なまま授業を行って. いずれも世新大學日本語学科1年生(初級レベル). いたことが分かった。. の「日本語会話」のクラスである。普段は日本語 ネイティブ教員が授業を担当している。学習者は 30〜40人であり,実習授業以前に,テ形の作り方 や基本的機能は学習済みである。. 4.2.2 テ形連続の文が使用される典型的な 場面や状況の理解不足 学生Cは,「私の理想の休み」というテーマを 学習者に与え,テ形連続の文を使って理想の休み. 4.2.1 テ形連続の文の性質や機能の理解不足. について話したり書いたりする授業を展開した。. 学生Bは,テ形を用いることで2文を1文にす. 学生Cが提示した例文は以下の通りである。「台. ることができるということを学習者に提示するた. 湾に行って,西門に行って,かわいい服を買って,. めに, 「私は飛行機に乗りました。台湾に着きま. マンゴーのアイスを食べます。それから九份に. した。 」という2文をまず示し,その後これをテ. 行って,たくさん写真を撮ります。お土産にパイ. 形でつないだ「私は飛行機に乗って,台湾に着き. ナップルケーキを買って,日本に帰ります」. ました」という文を導入した。これは日本語とし. この例文の日本語は非文ではないが,果たして. て不自然な文である。すべての文がテ形でつなぐ. このような文を作らせる練習がテ形連続の文の運. ことができるわけではなく,意志的な動作動詞で. 用練習にふさわしいかと言ったら,そこには疑問. なければ不自然になるということに学生Bは無自. が残る。「私の理想の休み」はテ形を全て使用す. 覚であった。 「私は飛行機に乗って,台湾に行き. るよりも,「台湾に行って,西門でかわいい服を. ました」なら問題ないのだが,それに気づかず. 買ったり,マンゴーのアイスを食べたりしたいで. 「着く」を使ってしまっていた。. す」などのように,「〜たり〜たり」や「〜たい. さらに,授業後半では学生Bが作ったテ形の例. です」を使用した方がより自然に表現できる。ま. 文を使って学習者に伝言ゲームをさせたのだが,. た,「私の理想の休みは,〜することです」のよ. ここで学生Bが作った例文にも同様の傾向が見ら. うに,こと節で表現することもできるだろう。つ. れた。学生Bが提示した文の中で,明らかに不自. まり,このテーマはテ形連続の文が使用される典. 139.

(7) 佐藤 香織・菊池 律之. 型的な状況ではないし,この文型を使う必然性も. れていないということでもあると思われる。これ. ないということになる。. は今回挙げた学生のみにとどまる問題ではなく,. テ形連続の文が典型的に使用される場面や状況. 日々教案指導,実習指導を行う中で筆者双方が感. としては,料理の作り方の説明,機械の動作の説. じていることである。それは,養成課程のカリ. 明などが考えられる。つまり,連続する動作が一. キュラムそのものにもかかわる問題であり,修了. つのまとまりを構成するような状況である。例え. 後,即戦力になりうる人材の育成を考えた場合,. ば「野菜を洗って,小さく切って,いためます」. 養成課程の設置科目や科目個々の内容にも見直し. 「電源ボタンを押して,コピーカードをいれてく. が求められるということである。養成課程のカリ. ださい」 のような例文が考えられる。学習者には,. キュラムのありかたや課程科目と実習の有機的な. このような例文を提示し,ふさわしい状況でテ形. 連携について,次節で考察する。. 連続の文が使えるように練習させなければならな いだろう。つまり学生Cは,テ形連続を教える際. 5 日本語教員養成課程のカリキュラムの問. の重要なポイントを理解しないまま授業に臨んで. 題点と改善案. いたため,学習者にとって意味のある練習ができ. 現在,大学の養成課程では,日本語教員の養成. ていなかったといえる。. に関する調査研究協力者会議(2000)の中の「日 4.3 養成課程履修生の授業から見えること. 本語教員養成において必要とされる教育内容」に. 文法についての知識や内省は授業の組み立て全. 基づいてカリキュラムが組まれている。「日本語. 体に関わる屋台骨の部分であり,そこがぐらつい. 教員養成において必要とされる教育内容」では,. ていると,学習者が状況や場面にふさわしい表現. 「社会・文化・地域」 「言語と社会」 「言語と心理」. を身につけることができない。問題は模擬授業や. 「言語と教育」「言語」の5区分およびそれぞれ. 実習授業に臨んだ学生が,最後まで自分の問題点. の内容とキーワードが示されている。各大学では,. に無自覚だったことである。. その内容とキーワードを満たす科目で課程を編成. これは,自分の担当部分についての準備が不十. しさえすればよく,具体的な養成方法は各大学に. 分であったということもあるが,それまでに学ん. 一任されている。表2は天理大学,表3は北海道. できた内容を,自らが教壇に立った際に活かしき. 教育大学函館校の教育課程を示したものである。. 表2 天理大学の日本語教員養成課程 区 分 社会・文化・地域 異文化接触 世界と日本. 140. 授 業 科 目 異文化コミュニケーション1 異文化コミュニケーション2 日本と国際社会. 配当 単 必修 修得 年次 位 選択 単位数 1~4 1~4 1~4. 2 2 2. 選択 選択 選択. 2単位 以上. 言語と社会. 言語と社会の関係 社会言語学1 社会言語学2. 2~4 2~4. 2 2. 選択 選択. 2単位 以上. 言語と心理. 言語習得・発達. 2~4. 2. 必修. 2単位. 言語と教育. 言語教育法・実習 日本語教育入門 日本語教授法1 日本語教授法2 日本語指導法 日本語教育評価法 日本語教育実習. 1 3 3 4 4 4. 2 2 2 2 2 2. 必修 12単位 必修 必修 必修 必修 必修. 学校教育心理学.

(8) 日本語教員養成課程における教育実習のありかた. 言語. 日本語の構造. 言語研究 言語の構造一般. 日本語学入門 日本語音声学 日本語語彙論 日本語文法論1 日本語文法論2 日本語語用論 言語の対照研究 音声学1 音声学2 言語学概論1 言語学概論2. 1 2 2 2 2 3 3. 2 2 2 2 2 2 2. 必修 14単位 必修 必修 必修 必修 必修 必修. 2~4 2~4 3~4 3~4. 2 2 2 2. 選択 選択 選択 選択. 2単位 以上. 合計 17科目34単位以上. 表3 北海道教育大学函館校の日本語教員養成課程 区 分. 授 業 科 目. 単 必修 修得 位 選択 単位数. 社会・文化・地域 日本の宗教文化 日本の詩歌Ⅰ 日本の詩歌Ⅱ 日本の言語表象文化 比較地域学 国際機構論. 2 2 2 2 2 2. 選択 選択 選択 選択 選択 選択. 4. 言語と社会. 社会言語学 国際協働概論Ⅳ(国際協力概論) グローバル人材論Ⅰ グローバル人材論Ⅱ. 2 2 2 2. 選択 選択 選択 選択. 4. 言語と心理. 第二言語習得論. 2. 必修. 2. 言語と教育. 日本語教育学Ⅰ 日本語教育学Ⅱ. 2 2. 必修 必修. 2 2. 日本語教育実習Ⅰ 日本語教育実習Ⅱ 海外日本語教育インターンシップ. 2 2 2. 選択 選択 選択. 2. 日本語教育支援実習Ⅰ 日本語教育支援実習Ⅱ. 2 2. 選択 選択. 2. 日本語教育法Ⅰ 日本語教育法Ⅱ. 2 2. 必修 必修. 2 2. 国際協働概論Ⅱ(日本語学概論) 日本語教育文法Ⅰ 日本語教育文法Ⅱ. 2 2 2. 必修 必修 必修. 2 2 2. 実践外国語上級(英語) 実践外国語上級(中国語) 実践外国語上級(ドイツ語) 実践外国語上級(フランス語) 実践外国語上級(韓国・朝鮮語). 2 2 2 2 2. 選択 選択 選択 選択 選択. 2. 言語. 合計 30単位. 141.

(9) 佐藤 香織・菊池 律之. 今回模擬授業を行った学生や実習生は,日本語. んそのような訓練を行い,気づきを促すことは可. 学や日本語教育文法のクラスを履修し,日本語教. 能であるが,扱えるのは模擬実習や教育実習で扱. 育法(指導法)のクラスも履修した上で実習に臨. う文法項目にとどまってしまう。模擬実習や教育. んでいるにもかかわらず,日本語文法の知識や内. 実習の際に,それまでに身につけてきた「文法や. 省が思うように育っていなかった。この理由とし. 文型を学習者に教える際の考え方」を活かして適. て,基本的にどちらの大学の場合も,日本語学や. 切な例文を学習者に提示することができるなら,. 日本語教育文法のクラスが,網羅的,体系的な知. 模擬授業や教育実習で展開される授業の質が上が. 識を与えることが主眼となっていることが挙げら. り,即戦力の人材をより育成できるものになるだ. れる。もちろん体系的な知識も必要であるが,日. ろう。そのためには,日本語学や日本語教育文法. 本語教員にとって必須であるのは「文法や文型を. のクラスと,日本語教育法(指導法)および教育. 学習者に教える際の考え方」を学ぶことである。. 実習とをつなぐような内容の科目の設置が望まし. 国内の大学の養成課程の履修者は,日本語非母語. いと考えられる。なお,現在そのような内容の科. 話者ももちろん存在するが,多くは日本語母語話. 目を設置している大学の養成課程は管見の限り見. 者であり,指導なしでは,学習者が日本語を学ぶ. 当たらず,他の大学の養成課程においても,この. 上での困難点を意識することが難しい。また,よ. 2大学で見られたような問題は起こっている可能. ほど言語に興味のある学生を除き,日本語を客観. 性が十分に考えられる。. 的に観察,分析した経験にも乏しい。そのような. 現在の各大学の養成課程のカリキュラムは,前. 履修者たちには,教えるべき文型がどんなときに. 述のように,日本語教員の養成に関する調査研究. よく使われるかを自分で想起,整理し,どれだけ. 協力者会議(2000)で示された,「社会・文化・. 典型的・実用的な例文を作ることができるか,そ. 地域」 「言語と社会」 「言語と心理」 「言語と教育」. して学習者にどのように提示して練習させていく. 「言語」の5区分およびそれぞれの内容とキーワー. のかを考えさせる訓練を,教育実習を行う前の段. ドを満たす科目で課程を編成すればよく,具体的. 階で,確実に,時間をかけて行う必要があると考. な養成方法は各大学に一任されていたが,文化審. える。. 議会国語審議会(2018)では,この5区分それぞ. しかし,現状のカリキュラムを考えてみると,. れにおいて必須の教育内容が具体的に示された。. 両校ともこのような訓練を,どの段階で,どのよ. 表4はその内容をまとめたものである。. うに行うのかがあいまいである。そのことが,前. ここで注目したいのが,必須の教育内容の〜. 述したような,文法についての知識や内省の乏し. である。「日本語教育のための日本語分析」「日. さに無自覚なまま模擬実習や教育実習に臨んでし. 本語教育のための音韻・音声体系」などと, 「日. まう履修生を生み出すことにつながっている可能. 本語教育のための」という表現が明確に使われて. 性がある。模擬実習や教育実習の際にも,もちろ. いる。これは,これまでの養成課程の科目が国語. 表4 日本語教師【養成】における必須の教育内容 5区分. 16下位区分. 社会・文化・地域 ①世界と日本. 142. 必須の教育内容 ⑴ 世界と日本の社会と文化. ②異文化接触. ⑵ 日本の在留外国人施策 ⑶ 多文化共生(地域社会における共生). ③日本語教育の歴史と現状. ⑷ 日本語教育史 ⑸ 言語政策 ⑹ 日本語の試験 ⑺ 世界と日本の日本語教育事情.

(10) 日本語教員養成課程における教育実習のありかた. 言語と社会. 言語と心理. 言語と教育. ④言語と社会の関係. ⑻ 社会言語学 ⑼ 言語政策とことば. ⑤言語使用と社会. ⑽ コミュニケーションストラテジー ⑾ 待遇・敬意表現 ⑿ 言語・非言語行動. ⑥異文化コミュニケーションと社会. ⒀ 多言語・多文化主義. ⑦言語理解の過程. ⒁ 談話理解 ⒂ 言語学習. ⑧言語習得・発達. ⒃ 習得過程(第一言語・第二言語) ⒄ 学習ストラテジー. ⑨異文化理解と心理. ⒅ 異文化受容・適応 ⒆ 日本語の学習・教育の情意的側面. ⑩言語教育法・実習. ⒇ 日本語教師の資質・能力  日本語教育プログラムの理解と実践  教室・言語環境の設定  コースデザイン  教授法  教材分析・作成・開発  評価法  授業計画  教育実習  中間言語分析  授業分析・自己点検能力  目的・対象別日本語教育法. ⑪異文化間教育とコミュニケーション教育  異文化間教育  異文化コミュニケーション  コミュニケーション教育. 言語. ⑫言語教育と情報.  日本語教育とICT  著作権. ⑬言語の構造一般.  一般言語学  対照言語学. ⑭日本語の構造.  日本語教育のための日本語分析  日本語教育のための音韻・音声体系  日本語教育のための文字と表記  日本語教育のための形態・語彙体系  日本語教育のための文法体系  日本語教育のための意味体系  日本語教育のための語用論的規範. ⑮言語研究 ⑯コミュニケーション能力.  受容・理解能力  言語運用能力  社会文化能力  対人関係能力  異文化調整能力 (文化審議会国語審議会(2018)p.37 表1 を一部抜粋). 学,日本語学的な内容にとどまり,本稿で主張し. 識を学習者にどのように伝えるかという訓練まで. てきたような,模擬実習や教育実習の際にその知. は行うことができていなかったことを暗に示して. 143.

(11) 佐藤 香織・菊池 律之. いるのではないだろうか。特に本稿の主張と関連. 館校いずれにおいても見られた。それをもとに,. する教育内容は,「日本語教育のための日本語. 実習に臨む前に履修する日本語学,日本語教育科. 分析」と「日本語教育のための文法体系」であ. 目を,実習との連携により配慮したカリキュラム. る。今後はこれらを具体的にどのように教えてい. 構成,授業内容が求められることを述べた。. くかということを各大学がより真剣に考えていく. 今後の課題としては,教育実習を充実したもの. 必要があるといえよう。. にするための個々の科目の取り組みが,実習にど. 具体的には,従来「日本語学概論」や「日本語. のように反映されたかを示すことが挙げられる。. 教育文法」という名称で行われてきた科目の内容. 本稿では主に,教育実習において,実習生の日. を充実させる必要がある。例えば,「日本語教育. 本語文法の知識や内省を深めることの重要性につ. 文法(基礎) 」 「日本語教育文法(応用)」という. いて論じた。日本語を教える作業には,音声面(発. ように,まずは「日本語教育文法(基礎) 」で体. 音,アクセントなど)や語彙の適切な使用,待遇. 系的,網羅的な知識を学び, 「日本語教育文法(応. 表現に配慮した運用などに関わる指導もあるが,. 用) 」では,いくつかの文型を取り上げ,それら. 本稿ではこれらには言及できなかった。今後は,. をどのように教えるかについて,ディスカッショ. これらを扱う科目には,理論的な知識を提供する. ンしながら受講者にじっくりと考えさせる。その. ことにとどまらず,「外国語としての日本語を教. 上で,経験を重ねた教師の教案や授業(異なった. える」という目的に沿った,実践面にも配慮した. アプローチのもの)を見せて,その意図や効果を. 内容が求められることについても,教育実習との. 理解させた上で,自分ならどうするか考えさせる. 関わりにおいて考察してみたい。. のも良いだろう。このような取り組みは,丸山 (2015)の「広い視野を持って自ら検討して授業. 謝 辞. を組み立てていく能力」の育成のためにも有効で あり,日本語教育法(指導法)や教育実習をより. 北海道教育大学函館校の教育実習生を受け入れ. 効果的に行うことにつながっていくと考えられ. て下さり,本論文のデータ収集にご協力いただき. る。今後,さまざまな実践を積極的に行ってみる. ました,台湾・世新大學日本語文學系の潘心瑩主. ことで,実習にどう活かされるか検証していきた. 任(副教授)及び天理大学,北海道教育大学函館. い。. 校の実習生の皆さんに心より感謝申し上げます。. 6 おわりに. 参考文献. 教育実習は1〜2週間ですべてのスケジュール. 加藤早苗(2018) 「日本語教育人材の養成・研修の在り方. をこなさなければならないことから,時間的な制. について―文化審議会国語分化会日本語教育小委員会. 約が大きい。その限られた期間の中で十分な成果 を得るためには,事前の準備,とりわけ課程科目 における実習に向けた取り組みが不可欠であるこ とはいうまでもない。 本稿では,養成課程における模擬授業や日本語 教育実習の実習授業の観察をもとに,実習におい て見られる問題点を考察した。実習に臨む段階の 養成課程履修生においても文法的な知識・内省が 十分でないことは,天理大学,北海道教育大学函. 144. 「報告書」を読み解く―」2017年度日本語教育学会関 西支部集会(2018年3月24日:龍谷大学)資料 文野峯子(2010) 「教師の成長と授業分析」 『日本語教育』 144号,pp. 15-25 文化審議会国語分化会(2018) 「日本語教育人材の養成・ 研修の在り方について」 http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/ kokugo/hokoku/pdf/r1393555_01.pdf(2018年4月27日 閲覧) 文化庁(2018) 「平成29年度日本語教育綜合調査」 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/.

(12) 日本語教員養成課程における教育実習のありかた. tokeichosa/nihongokyoiku_sogo/pdf/r1405102_01.pdf (2018年4月27日閲覧) 文化庁文化部国語課(2015)「平成27年度国内の日本語教 育の概要」 http://www.nisshinkyo.org/news/pdf/A-27-2.pdf (2018年4月13日閲覧) 日本語教員の養成に関する調査研究協力者会議(2000) 「日 本語教育のための教員養成について」 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/ tokeichosa/nihongokyoiku_suishin/nihongokyoiku_ yosei/pdf/nihongokyoiku_yosei.pdf(2018年4月27日 閲覧) 丸山圭介(2015)『日本語教育実習事例報告 彼らはどう 教えたのか?』ココ出版. 資 料 「海外日本語教育インターンシップ(世新大學)」録音・ 録画資料(2018年3月13日〜16日). (佐藤 香織 函館校講師) (菊池 律之 天理大学准教授). 145.

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参照

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