社会的文脈に着目した数学教育における批判的思考の具体例と学習者の考え方の傾向
10
0
0
全文
(2) . 社会的文脈に着目した数学教育における 批判的思考の具体例と学習者の考え方の傾向 久保. 良宏・ 久永. 靖 史・ 谷口. 千 佳 ・ 太刀川祥平. i ica 1Thinkingin M【athematics Education An Exaー釘p1e of Cr t ia I Contexts and Tendencies ofLearnerざ Thinking Focusing on Soc. i i ka, TACHIKAWA Syohei ih i KUBO Yosh sush ro, HISANAGA Ya , TANIGUCH工Ch. 2017. 日本数学教育学会誌. 第99巻. 第5号.
(3) . . ” 実 践 研 究”. 社会的文脈に着目した数学教育における 批判的思考の具体例と学習者の考え方の傾向* 久保. 良 宏 **. 久 永. 要. * 靖 史** . 谷 口. 千佳. ヰ*** ***** . 太刀 川 祥 平. 約. 「批判的思考」 は, 次代を生きる子 どもが身 につけなくてはならない汎用能力の 一つであると考えら れる, 本稿では, 数学教育における 「批判的思考」 の視点と して, 問題の明確化, 事実と価値の区別,. 主張や処理の正当性, 一般化や定式化の是非, 感情的な推論の有無, 他の解釈の認識, 論理的思考, 先 入観の排除の8つを挙げ, これらに照らして社会的文脈に着目した教材. ( 「航空機の安全運航」 ) を開発 した, そして, 中学生を対象とする調査と大学生を対象とする授業実践から 「批判的思考」 に対する学 習者の考え方の傾向について検討した. 「批判的思考」 では, 対話により検討すべき課題が明確 になり, 主張 の正当性な どについて検討がなされることな どが大切であるが, 調査研究から, 生徒は事象を批判 的にみるといっ た態度形成は十分ではなく, 授業実践からは, 特に感情的な推論や先入観な どが優先さ れる傾向にあっ た. ここでは, 経験や価値観の異なる 「異質の集団における交流能力」 な どに目 を向け た, 「対話」 を通した学習者間の議論の重要性が示唆された, キーワー ド:批判的思考, 社会的文脈, 教材開発, 調査研究 1. はじめに 民主的で持続可能な社会をつくることは, 私た ちにとっ て極めて重要な使命である, ここでは,. り見られない. 筆者らはこれまでに, 多くの学問領域から先行 研究について検討し, 数学教育における・ 「批判的. 多種多様な情報が溢れる現代社会において, また. 思考」 の捉え方とその具体化について検討してき. 予想 を超えたリスク社会において, 国民一人ひと. た (久保, 2012;久保, 20 13;久保・谷 口, 2014・ ;. りに肝要な意思決定が求められているが, その根 底には, 事象を批判的に考えることがある. こ の. 久永・谷口・大刀自i , 2014;久保, 2016な ど) ,. ような事象を批判的に考える 「批判的思考」 は, 次代を生きる子 どもが身につけな 、ければならない 汎用能力の一つであると捉えられるであろう.. 「批判」 という用語は, 否定的内容を指すこと. 数学教育において 「批判的思考」 を検討する際 は, 目標概念と方法概念の両面から検討する必要 があるが, 方法概念に着目すると,「a, 社会的な 問題の考察に数学を批判的に用いる」「b, 算数・. が多いが,「批判的思考」は単に事象を否定的に捉. 数学の問題の解決過程を批判的にみる」「c, 数 学 (数学的表現) を批判的に捉える」 の3点から. え るのではないことは周知の通りであり, 最近の. 検討する必要がある のではないかと考えた.. 数学教育学研究でも着目されている. しかしなが ら, 数学教育における 「批判的思考」 について, その具体化にまで踏み込んで検討したもの はあま ・平成28年1 2月2 4日受付, 平成29年4月2 1日決定. ”北海道教育大学旭川校 . ”共立女子中学高等学校 …”東京学芸大学附属国際中等教育学校. なお, aは社会的文脈に着目した数学指導を,. bは問題解決的な学習指導の日常化を, cは可謬 主義に立っ た数学教育 (アーネス ト, 2015〔原著. “”北海道佐呂間町立佐呂間中学校.
(4) . 社会的文脈に着目した数学教育における批判的思考の具体例と学習者の考え方の傾向. 〕)を念頭に置いて設定したものである. 発刊,1991 本稿では, 特に方法概 念の aに焦点 を当て, 授. の 排 除」 の 8 つ と した. ま た, 「批判 的 思 考」 は, キ ー・コ ン ピ テ ン シ ー. 業実践を含む数学教育における 「批判的思考」 の. ) において も強調されてい (ライチ エ ン他, 2006. 具体化について検討する ものである,. る が, 特 に, キー ・ コ ン ピ テ ン シ ー の 「異 質 の 集. 団における交流能力」 にも着目する必要があると 2, 研究の目的と方法 本稿の目的は, 数学教育における「批判的思考」. 考えた. ところで,「批判的思考」の教科教育における具. の具体化について, 前述の aで示 した社会的文脈 に着目した教材 を開発し,調査と授業実践から「批. 体化では,「批判的思考」 の関 心は, 生徒に論理の. 判的思考」 に対する学習者の考え方の傾向の一端 につ い て 明 ら か に す る こ と に ある.. そのために本稿では, 先に文献として挙げたこ れまでの筆者らの研 究を踏まえ, まず 「批判的思. 考」の捉え方について文献研究をもとに概観する. 次に, これを踏まえ数学教育における 「批判的思 考」の具体化について,「a. 社会の問題の考察に. 数学を批判的に用いる」に着目して教材を開発し, これを用いて中学生 を対象とするペーパー による 調査を行い, 生徒個々 の考え方の傾向について分 析する, そして, この調査で用いた教材で大学生. 規則性や根拠の示し方を教えることに向けられ る. これは先に示した西洋思考と関係があり, 数 学教育における 「批判的思考」 の重要な側面であ る, 一方, 教育方法学に着目する と, たとえば黒 谷( 2001 ) は, フ レイ レの主張 を根底に置き, 対 話を中軸に据えた教育方法について論じる中で, 教師と生徒の関係を捉 え直 す ことを指摘 してい 2012 ) は, 批判的リテラシーの る. また, 黒谷 ( 形成と授業 づくりの課題について検討する中で, 社会に適応 していくためのリテラシー に加 え, 生 .力 と してのリテラ 活を創造的につくり変えていく シーの重要性について述べている. ここでは 「批 判的思考」 が強調され, さらにその関心は, 社会. を対象に授業を実践し, 特にワークシートの分析 から, 他者とのかか わりにおける学生の考え方の. における抑圧や支配の構造に着目する批判的教育. 傾向について検討する.. 学の考 え に関心が向けられる,. 数学教育における 「批判的思考」 の検討では, この両面に着目する必要があると捉えられ, ここ では, 公平・平等や価値観といっ た概念にまで踏. 3, 「批判的思考」 の捉え方 「批判的思考」 については, 教育学や心理学な どの研究か ら多くの示唆を得ることができる, た. み込んだ検討が必要である. これまでの検討から, 数学教育における 「批判. とえば,「批判的思考」の起源は西洋思考に遡ると ) 0 0 3 考えられ (小柳, 2 , 「批判的思考」 の特徴と. 的思考」は,「対話により検討すべき課題が明確に なり, 数理科学的視座からその解決に向けで情報 を精査し, 自他の考えを対比しながら他者の立場. しては, 論理的, 目標志向, 反省的, 合理的といっ ) た考え方が示されている(中野,2004 , ここでは,. に立っ て検討 し, 公平・平等や価値観といっ た概. 「対話」 と 「志向性」 が重要であるとの指摘があ 0 0 3 ) り (小柳,2 , また,「批判的思考」 は「態度」 「知識」「技能」といった複数の側面から捉えられ. 念を加えながら先入観にとらわれることなく真実. ) る といっ た主張がある (道田, 2001 , このような先行研究の中で, 筆者らは特に, 田. おいて民主的な社会の構築という目的に対する態 度形成が求められるとともに, 文脈に適切な背景. ) の.「批判的思考の特徴」 に関す 2 007 中・楠見 (. となる数理科学的知識やストラテジーが重要な意. る論考に着目 した. そ してこれを参考に, 数学教. 味を持つ」 と捉えた.. により近 づいていくもので, そのすべての過程に. 育において「批判的思考」を捉える視点を,「問題 の明確化」「事実と価値の区別」「主張や処理の正. 4, 「批判的思考」 の具体化からみる生徒の考え 方の傾向−調査からの検討−. 当性」「一般化や定式化の是非」「感情的な推論の 有無」「他の解釈の認識」「論理的な思考」「先入観. 「批判的思考」 の捉え方を踏まえ, 数学教育に. Q一 U.
(5) . 日本数学教育学会誌. 第99巻. 第5号 ( 2 01 7年). おける「批判 的思考」の具体化について検討する.. 仕. 本稿では, 冒頭で示した 「a. 社会的な問題の考 }が 察に数学を批判的に用 いる」 に焦点を当 てる1 , 2 ) 西村 ( 筆者らは, 長崎 ( 200 1 ) ) などの研 2 0 1 2 ,. P. 時間. 事. 乗客を飛行機から降ろす. Q キャ ビン (客室) の清掃 R 燃料の補給 S 荷物を貨物室から降ろす T 新たな乗客を飛行機に乗せる U 荷物を貨物室に積み込む. 究を基本に置いて社会的文脈に照らした 「航空機 の安全運航」 と 題する教材 を開発した. これは, イ ギリス の「ボーラン ドマス」(西村,2013 )の「航 空機の着陸から離陸までの過程」 を参考 にしたも. V. の で あ る.. 出 発 前 の 最 終チ ェ ッ ク (パ イ ロ ッ. ト・アテ ンダント) を行う. 10分 10分 10分 15分 15分 15分 ふ 5分. (なお,「R:燃料の補給」は, 燃料の搭載量 によっ て行われない場合もある. また, 乗客が客室にい るときは原則燃料を補給することは できない,). この教材を用いて中学生を対象にペーパーによ る調査を行い, これを分析することから 「事象を 批判的にみる」 ことに対する学習者の態度や考え. また, JALの 「羽田O旭川」 便の 「時刻表」 は, 以下 の通りです. (例えば, 羽田発7:50. 方の傾向につい て検討した(谷口・大刀自1 ) . ,2015 なお, この検討では,「批判的思考」 に対する学習 者の個人レベル での考え方の様相が明らかになる. の1103便は, 旭川空港に到着すると, 同じ飛 行機が, 旭川発1 100便とな っ て羽田に向かい ます.). と考えた.. ( 1 ) 調査について ① 調査対象と方法. 旭川. 5 7 6 マ副. 調査は, 北海道の公立中学校と東京の私立中学 校の生徒を対象 に行われた. また,調査の方法は , 質問紙による自由記述である.. ② 調査問題 調査問題 ( 「航空機の安全運航」 ) は, 航空機が 着陸 して か ら離陸するまでに必 要な時間につい. 網マ イ ル. 10 : 55. a 12 鮎 13 : 351鯛7 : 25 r 15 : リ15. 40 13 :. $1 15 20, 綿 16 : 1○ 壕 : 8 : 0 t離7 0 .. この内容を知っ た共子さ んは, 「これ で安. て, 安全運航という視点からこれを批判的 にみる. 全な運航ができるのだろう か?」 と 言ってい. こ と が で き る か そ して そ の 根 拠 を 数 学 を用 い , ,. ま す. こ の 共 子 さ ん の 思 い に つ い て あ な た ,. て表現できるかをみるものである. ) 調査問題は, 次の通りである3 ,. は どのように考えますか?あなたの考えがみ んなにわかるよう に, 説明 してくださ い.. 航空機の国内線の場合, 羽田空港や福岡空港 などの大都市空港と異なり, 多くの地方空港. 図1. 調査問題. 2 ( ) 分析の視点と解答類型 ① 期待される反応. では, 飛行機が空港に到着すると, その便は, 飛んできた空港に引き返すということがあり ます.. この問題では, 次のような考察 がなされること ) を期 待 した4 .. 例え ば, 東京の羽田空港と北海道の旭川空. ・作業時間の合計は80分であり, 時刻表から得ら. 港を結 ぶ便は, JALの場合, 羽田空港から飛. れる空港での滞在時間 ( 4 0分) 内に作業を終え. んできた飛行機は, 同じ飛行機 (機材と呼ん でいるようです) が旭川空港から羽田空港に. ることはできないが, 事象を, 見通しを立てて 多面的に考え, 分類・整理 してみる と 同時並 ,. 飛んでいくというわけ です. 旭川に着陸した. 行的に作業可能なものがある,. 飛行機は, 次の表に示す作業を行いまた羽田 に向けて飛ん でいきます.. ・これを時系列的に考え, 事実を吟味し, 表な ど を利用 して表現してみると 表1のよう に作業 , 内容と 時間を整理することができる.. 4.
(6) . 社会的文脈に着目した数学教育における批判的思考の具体例と学習者の考え方の傾向. 表1 時系列表の例. B:共子さんの言う 通りだとするもの. ( 「こ れ で安全な運行ができるのか」 とする考え). 経過 飛行機の 中 飛 行 機の外 積み荷 に関. ・時系列に作業を分けているが, 「これで は余裕がなく危険である」「実際は40分で B I は終わらない」 とするもの.. 時間 で 行 わ れ る で 行 わ れ る する仕事 仕事 (分) 仕事 O. P:乗 客 を. S:荷物を貨. 飛行機 か ら 10 降ろす. 物 室 から降 ろす. 5. 15 20. 分) を比較 して40分では終わらないとする B 2. Q :キ ャ ビ ン R:燃 料 の. (客 室)の 清 補給. 掃. も の.. U:荷物を貨. ・作業時間を単純に合計して時間がかかる. 物 室に積み 込む. /. 25. T:新たな乗. 30. 客を飛 行 機. 35. に乗せる. 40. 8 0分) と滞在時間 ( ,作業時間の合計 ( 4 0. とするもの.. ・先入観や感覚的, 感情的な推論から,「 4 0. 分では終わらない」「無理がある」 な どと B 4 するもの. ・根拠の記述がなく, 結論だけが示されて. V:出発前の 最 終チ ェック. い る も の.. このように考えると, 40分 (実際には, 最短で 33分) で作業は終了するこ とになる.. D:結論が明確でないA∼C以外の解答 で, 先入観にとらわれた極めて感情的, 感 覚的なもの. (乗務員 の資質の高さを述べ たものな ど). さ れ て いる か に 着 目 した.. ② 解答類型の検討 本調査では, 生徒がこ の問題に対 して どのよう な考えに立つかを分析するために, 表2に示す解. E:安全の有無にかかわらず, 作業計画と 実際との矛盾を指摘することなく 結論に 至っ ている もの. ( 「作 業 を省い て いる」 「実際には作業をやっ ていない」 といっ た. 答類型を作成した. なお, この解答類型 は, 解答の分類に先だって 固定されたものではなく, 仮説的な項目を作成し. E. F:問題の解決に関係のない記述で, 結論. F. G:無答. G. も示 さ れて い な い も の.. 目をさらに修正していくこ とを繰り返していく中 で 作 成 さ れた も の で あ る.. 表2 解答類型 類. D. 表現を含む). ては実験的な分類 を行い, その結果に基づいて項. 答. B5. C:情報不足で何とも言えないとするもの. C. 調査の分析では, この ような考え方が解答に示. 解. B3. ( 3 ) 調査の結果 ① 分析の対象. 型. 調査は平成2 6年6月 に行われ, 北海道の公立中. A:共子さんの言う通りではないとするもの.. ( 「安全な運航ができる」 あるいは「できるだろ う」 とする考え). 学校第1学年の生徒3 1名, 北海道の公立中学校第 2学年の生徒126名, 東京 の私 立中学校第2学年の. ・作業を時系列に分けて考え, 表や図など を用いて表現し, 根拠を明確にして40分で A I 作業が終わることを指摘 しているもの.. 生徒42名と第3学年の生徒79名の合計278名の解 答が分析の対象となっ た. なお, 調査は, 公立中学校は数学の時間の中で,. ・表や図などは使っ ていないが, 作業を時 系列 に分けて40分で作業 が終わることを A2. 私立中学校は学級活動等 の時間において, 15分程. 指 摘 して いる も の.. 度で行われた,. ・ 不 十分ではあるが, 同時 進行 できる作業 A3 があることを指摘 しているもの.. ② 分析の結果と考察 分析対象となっ た278名の解答を解答類型 に当 てはめた結果は, 表3の通りである.. ・上記A1, A2, A3以外で, 感情的な 推論 ( 「パイロ ッ トの優秀性」「実際に事故 A4 はない」 など) と捉えられるもの.. なお, 本稿では, 中学生の考え方の傾向を明ら かにするため, 地域, 学年, 性別, 公私立での分. ・根拠の記述がなく安全であるとするもの, A5. 析は行わず, 278名全体を1つ の表にまとめて学. 6.
(7) . 日本数学教育学会誌. 第99巻. 習者の考え方の傾向を 分析する.. 事実と価値が混合した考察となっ ているように考. 調 査問 題では, 第三者 (共子さん) を登場させ,. えられる. これに対 して 感情的推論や先入観か ,. 「こ れで安 全な運航 ができる の だろう か?」 と. ら考 え を述 べ て い る 解 答 であ る A 4 B 4 D , , ,. 言 っている共子さんに考えを述べるように質問 し. Eは, それぞれ約17%, 約15% 約4% 9%であ , ,. ている. 生徒 の解答は,解答類型 で示したように ,. り, こ れ ら の 合 計 は 約45% で あ る こ の 中 に は . ,. 共子さんに反する考え (A) , 同調する考え(B) , 結論が不明なもの( 「どちらともいえない」を含む). 日本では最近大きな事故は起きていないとい った 点だけからの推論, パイロッ トな どの優秀さを指 摘する推論, さらには, 実際には作業を省い てい. (C∼G) に大きく分けて示している, 表3 中学生の調査の結果 〔人 (%)〕. るといっ た個人レベ ルの極めて極端な推論が含ま. A. 安全である (だろう) 10 2人 ( 36.7%) AI:適切な時系列表作成 15( ) 50 5.4 A2:作業を分類 12( 4.3 ) ( 18.0 ) A3:同時にできる 作業有 23( 8.3 ) A4:感情的推論 46( ) 16 52 .5 A5:根拠不明 6( 2 ) ( 18.7 ) .2 B. 安 全 と は い え な い B I:時系列 表 B 2:8 0分と40分を比較. 第5号 ( 2017年). れて い る,. 「批判的思考」 の捉 え方で挙げた視点の中の , 事実と価値の区別, 主張の正当性 一般化 他の , , 解釈,感情的な推論や先入観の排除といっ た点で , 多くの生徒は事象を批判的にみること について , 十分な態度形成がなされていないと捉えること が. 104人 ( 37.4%) 8( 2 ) 104 .9. でき る.. 42( 15.1 ) ( 37.4 ) 11( 4.0 ) B 4:感情的推論 4 1( 14 ) .7 B 5:根拠不明 2( 0.7 ) C∼G. 結論不明・無答 72人 ( 25.9%) C:情報不足を指摘 ) 2,5 7( 66 D:感情的推論 12( 4.3 ) ( 23.7 ) 丑 :作業を省いている等 25( 9 ) 0 . F:無関係な内容の記述 22( ) 7 .9 G:無答 6( 2 ) 2.2 ) .2 6( 合計 278( 100 ) ( 100 ) 全体の約74%は安全か 否かについて 自分なり ,. 5, 「批判的思考」 の具体化からみる学生の考え 方の傾向−授業実践からの検討− ( 1 ) 授業の流れ. B 3:8 0分のみに着目. 上 記 4 の 調 査 で は ペ ー パ ー によ る 自 由 記 述 か ,. ら, 事象を批判的にみることができるかについて. 検討したが,「批判的思考」では「対話」が重要で あり, 他者との相 互作用から個々 の考え方が どの ように変容するかに着目する必要がある . そこで, 筆者らの研究では, 中学生と大学生を 対象に, 調査で用いた教材で授業を実践し 授業 , 記録と ワークシー トの分析から 中学生や大学生 , の考え方の様相 について検討した (谷口・太刀川 , 2015;久保,2015など) なお 大学生に着目した . , のは, 数学の知 識と は別に社会経験の豊富さが考. の結論を示 していた, また, 「A. 安全」 と 「B. 安全とはいえな い」 は どちらも37%前後に分かれ た. 筆者らが期待した 「時系列表」 などを用いて 「安全である」とする 解答(AI)は5. 4%であり, 時系列表の形では示され ていないものの 同時進 , 行できる作業に 気 づいて 「安全である」 とする解. え方に影響を与える面もあり 調査から得られた , 結果とは異なる傾向が見られる のではないかと考. 答 (A2, A3) を含めると18%だった. 約2割 の生徒は, 単なる作業時間の合計 ( 80分) だけで 考察していな いことになる. また 「時系列表」に ,. えたからである.. 着目すると,「時系列表」などを作成したうえで「安. て検討する. この授業は, 関東のK女子大学 (小学校教員免 許の取得を希望する学生)30名に対 し 講義 の中 ,. 本稿では紙幅の関係で, 大学生を対象に行った 授 業 に つ い て 主 に ワ ー ク シ ー トの 記 述 に 着 目 し ,. 全とはいえない」 と する解答 (BI) は約 3%で あ り, A 1 と B I の 合 計 は8.3% と なる .. A1, A2, A3は, 作業時間の合計である80 分を事実に照らして批判的にみることができた生. の4 0分ほどの時間で行われた, 時期は平成2 7年6 月 で あ る.. 徒 で あ る と 捉 え て い る が 一 方 B I につ い て は , , ,. 授業は次の3つの段階を設定して行われた .. 6.
(8) . 社会的文脈に着目した数学教育における批判的思考の具体例と学習者の考え方の傾向. <【第1の段階】時刻表(図1のJALの時刻表)か ら考える段階/【第2の段階】作業や作業時間(図 1で示した表) を含め考える段階/【第3の段階】. も4 0分では完全に安全だとは思われない」「作業. 同時進行可能を含めて考える段階>. 理由としては,「同時進行ができるが, どこかで手 を抜いていそうだ」 な どであった.. は同時進行できるが, それを乗客に説明 しないと 不安は消 えない」 などであっ た. 「ウ・ウ・ウ」 の. そして, 段階 ごとに考えが発言と してある程度 表出され た時点で, 「ア. 安全性に問題はない」. 表4. 考え方の変容の様子とその人数. 【第11. 「イ. 安全性に問題があるかも しれない」「ウ.. ア. 安全とはいえない」 から1つを選択させて, これ. 工. を理由ととも にワークシートに記述させた.. 〈 2 ) 学生の考え方 授業ではまず時刻表を示 した, この 【第1の段. 亘. 階】 では着陸から離陸までの時間が40分というの. イ イ イ. ア. イ イ. イ ウ. は問題だとの意 見が大勢 を占めた. しか し, 「飛 行機はもっ とも 安全である」との意見も聞かれた.. 皿. 【第21 ア. イ イ. イ イ ウ. 【第31. 数計. ア. 5. ア. 3. ア. 2. 突. イ. 1 4. イ イ. I. 突. I ウ. I. ウ ウ. I. 4. 人. 【第2の段階1 では作業時間の資料を配布したこ とから, より安全性に問題があるとの考えが増え たが,「飛行機事故は最近少ない」との意見もあり,. 一方, 意見の交流により 「ア」 へ変容 した学生 「イ→ ア・ア」 ) は5名であり, そ ( , 「イ・イ→ア」. 学生の反応は多様であっ た, この時点で 「同時進. の理由と しては, 「航空会社を信用 している」「人. 行できる作業がある」 との意見が出され, 考えの. 数が足りていれば問題はないかも しれない」「協. 変容が見られた, 【第3の段階】 では, 表に整理し. 力 し合っ てやっ ているの だから安全だと判 断す. た学生を指名 して考えを示させたが, ここでは明. る」とい っ たものであっ た. また,「ウ」 から「イ」 へ変容した 「ウ→イ・イ」 の学生 ( 40 1名) は, 「. ウ. 確に時系列表が完成されてい た. ウ. 2. ワー クシート における段階 ごとの学生 の反応は,. 分では時間が足りない. →同時進行で行っ ている ことを知ると安全性は確保できるかもしれない.. 表4の通りである. 表4では,【第3の段階】にお ける解答 が, 「ア」 か 「イ」 か 「ウ」 かの選択の状. →自分が乗客だと考えると, もう 少し時間をかけ 」 が理由として記されていた, てほしい と思う.. ( ) ワークシー トの分析 3. ( 4 ) 考察. 況で 「1」 ∼ 「皿」 の3つの考え方に分けた. その結果, 最終的に 「イ」 とした者がもっ とも 「工」 の10名) 「口」 の16名) 多く ( , , 次いで「ア」(. 本稿では中学生の授業については示していない が, 予 想に反し, 大学生と中学生で考え方に大き な違いはなく, 一方, 事象を数学の舞台に上げて. 「ウ」( 「皿」の4名)であっ た, また, 考え方に変 容が見られない 「ア・ア・ア」 が5名, 「イ・イ・. 検討すること (時系列表など) は大学生の方がな されており, 授業記録からはこの時系列 表につい ての理解度 も大学生の方が高いと捉えら れた.. イ」 が14名, 「ウ・ウ・ウ」 が2名でその合計は21. 1 から 【第3 1 の段 名であり, 全体の7 0%は【第1 「ア・ア・ア」 の理由で は, 「今までそれで大丈. 一方, ワークシートからは, 時系列表が示され ていても感情的な推論や先入観が先行しているも. 夫だっ たから問題はない」「 JALだから安全 だと 思う」「プロがや っているの だから安全」「日本だ. のが多く見られ, この傾向は中学生と同様であっ た, また, 考えが変容しない学生の中には, 他者. から」 「何十時間も飛ぶ飛行機もある」などであり,. の考 えを聞 いても自身の考えが変わらないものも. 「イ・イ・イ」 の理由としては,「言われてみる と. あ っ た. こ こ では, 「安 全 性」 の 捉 え 方 に つ いて,. 少し不安になる」「ベテラ ンが作業 していると思. 与えられた情報(作業と時間)だけでなく, 他の観. う がもう 少し時間をかけた方がよい」「イメージ. 点にも目を向けることの是非が検討されよう, リ スクを どのように捉えるのか, また, 考察のレベル. 階まで考 え方 に変容 は見られなかっ た,. 的に危ない気もする」「いろいろな意見を聞いて. 7.
(9) . 日本数学教育学会誌. 第99巻. 第5号 ( 201 7年). が個人か社会かということにも関係している,. 注. ただし, 授業では 「安全性」 の捉え方を限定し. 1) b, cで開発した教材には, たとえ ば 「誤っ. て しまっ た感があり,「批判的思考」で重視される 「対話」 を通 して, 問題の明確化, そして, 解決 すべき課題の明確化がなされなかっ た面 があっ た. た数学的表現を生徒に提示する」「定理を構成 する仮定と結論の要素を取り出し, これを入れ 換えて新たな命題をつくりこれの真偽を検討す. と 捉えている. またここ では, 経験や価値観の異. る」 と いっ たものがある (久保・谷口, 2014な. なる 「異質の集団における交流能力」 や, 社会構. ど) , ここでは反例 に着目 した授業に ついて検 討した,. 造にも目を向けて生活を創造的につくり変えてい く 力 と して の リ テ ラ シ ー と い っ た 点 につ い て も 課. 2) たとえばこの中で, 橋元 ( 2001 ) は, スキー の ジャ ンプ競技 における国際ルールの変更 (ス. 題が残っ た,. キー板の長さの変更) に着目 して, これが身長 6. おわりに 「批判的思考」 では, 問題の明確化, 自他との. の低い日本選手に不利になったと報じた新聞記. 考えの対比, 感情的な推論や先入観にとらわれな. 材は, 「社会的な問題の考察に数学を批判的に. い態度な どが重 要である.. 用いる」 ことに関係 していると捉えている,. 事( 2001年) を教材 化 している, このような教. 本稿ではこのような点を踏まえ, 数学教育にお ける社会的文脈に着目した 「批判的思考」 の具体 例を示し, 中学生を対象とする調査と大学生を対 象とする授業から, 学習者の 「批判的思考」 に対. 3) ここ での情報は, JALの乗務員や地上係員か ら口頭で得たも のであり, 調査の目的, 論文へ の掲載等について許可を得 ている, 4) ここでは, 長崎 ( 2011 , 改訂第3版) の 「算. する考え方の傾向について検討した,. 数・数学の力」( 「数学を生み出す力」の中の「分. その結果, 生徒は事象を批判的にみることにつ いての態度形成は十 分ではなく, また授業実践か. 類・整理する力」「見通しを立てる力」「多面的 に考える力」 ,また,「数学を使う力」の中の「結. らは, 特に感情的な推論や先入観が優先される傾. 果を吟味する力」 , そして, 「数学で表す力」 の. 向にあっ た. 「批判的思 考」では, 対話により解決. 中の 「表を利用する力」 ) を参考にした,. すべき課題が明確になり, 主 張の正当性な どにつ いて検討がなされることが大切 であるが, 特に授. 引用・参考文献. 業実践から, 経験や価値観の異なる 「異質の集団 における交流能力」に目を向けた,「対話」を通し た学習者間の議論の重要性が示唆された. 対話の. アーネス ト, P . (長崎栄三・重松敬一・瀬沼花子. 幅を広 げ,・一 方でこれを精査すること によっ て ,. 久永靖史・谷口千佳・太刀川祥平 ( 2 0 4 ) 1 . 「中学 校数学科における 「批判的思考」 の具体化」 , 『日本数学教育学会誌第9 6回大会特集号』 ,. 訳)( 2015 ) ) . (原著発刊,1991 . 『数学教育の 哲学』 , 東洋館出 版社.. 課題は何か, 考察の着眼点は何かを学習者が議論 する授業を目指す必要がある. 今後の課題としては, 批判的思考力の育成を目. p.290 .. 指し, 新たな教材を開発して授業実践を行い 学 , 習者の考え方につい てさらなる分析を行うことが. 久保良宏 ( 2 0 1 2 ) , 「数学教育における批判的思考 について の一 考察」 , 日本数学教育学会, 『第 45回数学教育論文発表会論文集』 pp.95− 100 . ,. 必要であると捉えている. ここでは特に, 対話のあ り方についての検討が重要であると考えている.. 久保良宏 ( 2 0 1 3 ) . 「批判的思考における対話の重 要 性 と 数 学 的 コミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンー パ ウ ロ ,. 謝 辞;本 稿 は, JSPS 科 研 費 JP24531090 ,. フ レイ レに焦点をあ てて−」 , 日本数学教育. 4 3 0(研究代表;久保良宏) の助成を受け 5K0 9 JP1. 学会, 『数学教育学論究臨時増刊第9 5巻』 ,. たものです.. pp.121‐128 .. 久保良宏 ( ) 2 0 15 . 「数学教育における批判的思考. 8.
(10) . 社会的文脈に着目した数学教育における批判的思考の具体例と学習者の考え方の傾向 の具体化に関する「 考察一大学生の考え方の. ) 長崎栄三 ( 2011 , 『数学教育におけるリテラシー. i 様相に着目して−− , 日本数学 教育学会, 『第 48会秋期研究大会発表集録』 . , pp,51‐54. につ い て の シス テ ミ ッ ク ・ ア プロ ー チ によ る. 総合的研究』 科研 (基盤( B ) ) 研究報告書, 中野和光 ( ) 2 0 0 4 , 批判的思考を指導する授業方 法に関する一考察」 , 『福岡教育大学紀要第4. 2 0 1 ) 久保良宏 ( 6 . 「数学教育における批判的思考 の捉え方」 , 日本数学教育学会, 『第4回春期 大会論文集』 , , pp,97−104. 分 冊 第53号』 , , pp.79−84. ) 西村圭一 ( 2012 , 『数学的モデル化を遂行する力. 4 ) 2 0 1 久保良宏・谷口千佳 ( , 「数学指導における 批判的思考の具体化−可謬的に捉える態度に 焦点をあてた教材開発−」 , 東京理科大学数. を育成する教材開発とその実践に関する研 究』 , 東洋館出版社,. 2 0 1 3 ) 西村圭一 ( . 『社会的文脈における数学的判 断力の育成に関する総合的研究』 ,科研(基盤. 6巻第1号』 学教育研究会, 『数学教育第5 , pp.52‐61 .. ) 黒谷和志 ( 2 0 0 1 . 「教育実践における批判的リテ. (B)) 研究報告書,. ラ シ ー の 形 成 − パ ウ ロ ・ フ レイ レの 再 評 価 を. 小柳和喜雄 ( ) 2 0 0 3 . 「批判的思考と批判的教育学. め ぐっ て−」 , 『広島大学大学院教育学研究科. の 『批判』 概念の検討」 , 『奈良教育大学紀要. 紀 要 第 三 部 第50号』, pp,253‐255 ,. 12 』, pp,11‐20 ,. ライ チ エ ン, サ ル ガニ ク 編著 (立 田慶 格 監訳). ) 黒谷和志, ( 2012 , 「第2章これからの学力・リテ. (2006). 『キ ー ・ コ ン ピ テ ン シ ー 国 際 標 準. ラシー形成と教育方法」 , 山下正俊・湯浅恭正. の学力 をめざして』 , 明石書店.. 編著『新しい時代の教育の方法』 , ミネルヴァ. 2 0 ) 0 田中優子・楠見孝 ( 7 , 「批判的思考の使用判. 書 房, pp,20‐34 ,. ) 2001 6.3日本のス キー ジャ ンプ 格元新 一郎 ( ,「. 断に及 ぼす目標の文脈の効果」 , 『教育心理学. 陣は不利になっ たのか?」 ,長崎栄三編著,『算 数・数学 と社会・文化のつながり』 , 明治図書,. 研 究55 』, pp,514‐525 ,. ) 谷口千佳・大刀自 1祥平 ( 2 0 1 5 . 「中学校数学科に 2 」 おける 「批判的思考」 の具体例( ) , 『日本数. pp,116‐117 .. 学教育学会誌第97回大会特集号』 , , p.313 ・ 「 2015 ) 谷口千佳・太刀川祥平・久保良宏 ( , 数学. ) 道田泰司 ( 200 1 ,そ , 「批判的思考の諸概念一人は れ を 何 だ と 考 え て い る か ? −」 , 『琉球大学教. 指導における批判的思考に着目した授業につ. 育 学 部 紀 要59 』, pp.109‐127 .. . ) 長崎栄三 ( 2001 , 『算数・数学 と社会・ 文化のつ. いて」 ダ 『日本科学教育学会北海道支部研究大. ながり』 , 明治図書.. 会 研 究 報 告Vo l 』, pp,21‐24 .30−1 ,. 9.
(11)
関連したドキュメント
外声の前述した譜諺的なパセージをより効果的 に表出せんがための考えによるものと解釈でき
被祝賀者エーラーはへその箸『違法行為における客観的目的要素』二九五九年)において主観的正当化要素の問題をも論じ、その内容についての有益な熟考を含んでいる。もっとも、彼の議論はシュペンデルに近
青少年にとっての当たり前や常識が大人,特に教育的立場にある保護者や 学校の
積極性 協調性 コミュニケーション力 論理的思考力 発想力 その他. (C) Recruit
これは基礎論的研究に端を発しつつ、計算機科学寄りの論理学の中で発展してきたもので ある。広義の構成主義者は、哲学思想や基礎論的な立場に縛られず、それどころかいわゆ
1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における
生涯学習市民セン ターの設置趣旨等 を踏まえ、生涯学 習のきっかけづく りやセンターの認 知度の向上・活性 化につながるよう
経済学・経営学の専門的な知識を学ぶた めの基礎的な学力を備え、ダイナミック