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家庭科における食物教育に関する基礎的研究 : 日米中学校家庭科教科書の食品構成表の扱いについて

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Academic year: 2021

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(1)241. 家庭科における食物教育に関する基礎的研究 一日米中学校家庭科教科書の食品構成表の扱いについて一 ・'I. H.-ll..lトl. (平成4年9月22[]受理) 1.はじめに 近年,高齢化が進み,脳血管疾患や心疾患など食生活と関連することが示唆されている 成人病が増加しているl)。さらには食事内容の洋風化などの食環境の変化に起因する若年 性成人病や肥満児の増加が見られる。このように健康問題が変化している現在,健康が与 えられるものではなく,自らの選択で築くものという時代であり,生涯を通した健康教育 が要請されている。 1993年度から中学校技術・家庭科で「食物領域」が男女必修領域の一つになり,また19 94年度から高等学校家庭科の男女共修が決められ,その内容の具体化が論議されている。 このように男女共修が定められた状況下で,学校教育,とりわけ健康問題との関わりの深 い家庭科の食物領域が担う役割は重要であると考えられる。しかし今回改訂された中学校 学習指導要領「技術・家庭」では,今までの食物1・2・3の三領域60-105時間の内容が 「食物」という一領域で35時間に,授業時間数が大幅に減少している。限られた時間数で, 自らの健康を管・理する能力を養う基盤を作るためには,相互に有機的な関連をはかり,紘 合的に内容が展開するような配慮が必要である。 われわれが心身ともに健全な生活を送るための指導の一つに, 「栄養的にバランスのと れた食事をするように」ということが行われている。その中で, 「バランスのとれた食事」 の指導や献立を作成するときに用いられている食品摂取量のめやす,すなわち食品構成表 については,児童,生徒だけでなく,成人に至っても定着していないことがこれまでから 指摘されており,これに対して小・中学校一貫した食品構成表を作る試みもなされつつあ る2)。. 本稿では,教科書がわが国において主要な教材であることから,中学校教科書のバラン スのとれた食生活の指導に用いられている食品構成表の取扱いに視点を当てて,男女とも 家庭科を学ぶということでは歴史のあるアメリカ3)の教科書との比較,検討を行った。そ して,今後の食物教育のあり方を考える一助にしようとした。. 2.方法 本研究で検討する教科書については,わが国の場合,中学校学習指導要領と1991年に2 埠から出版された「技術・家庭」の教科書を対象とした。一方アメリカの場合は, 1990年 に出版された"Teen Guide" (Valerie M. Chamberlain著, McGraw-Hill Company) 第7版を対象にし,本書での食品構成表の取扱いを検討した。 3.結果 1) "Teen Guide"の食品構成表の扱いについて. .兵庫教育大学第5部(生活・健康系教育講座).

(2) 242. アメリカの教育制度は日本と異なり,統一的なカリキュラムはなく,基本的には州単位 での指導が行われている。 "Teen Guide"は1961年以来改訂を重ね, E]本の中学2-3 年生から高校生に相当する生徒に,家庭科の教科書として広く用いられていること,また この教科書を対象にした日米比較研究がすでになされている4)ことから,本書を比較の対 象として取り上げた。 本書は8ユニットから成り,自分自身や生活管理を学び,それから衣生活,食生活に展 開していく内容の構成になっている。 「食物」領域は食べることの意義から始まり栄養素 の機能に続いて, 「正しい食品の選択」を学ぶ。この中で日本の食品摂取量のめやすに相 当する「食事指針(Daily food guide)」が扱われる。以下この食事指針を食品摂取量の めやす,あるいは食品構成表と同義として論述していく。 ここで取り扱われている食事指針は, National Academy of Sciencesのアメリカ人の 栄養所要量(U.S. Recommended Daily Allowances)に基づくものであり, 「野菜・果 物群」, 「パン・穀類群」, 「乳製品群」, 「肉・魚・豆類群」と「油脂・砂糖類群」の5群か ら成る。日本の扱いと異なる点は, 「油脂・砂糖類群」は付加熱量源あるいは晴好目的と していることで,油脂・砂糖類群を除く4群からの充分な供給によってバランスのとれた 食事になるとしていることである。これは,日本よりも,所要量に対する摂取熱量の多い アメリカの現状を警告するための青少年からの指導と考えられ,バランスをよくするだけ でなく,同時に少食にもしなければならないということを要求し,栄養素の働きの分類に 関するI日米間の相違が表れている。 食品構成表では所要量を満たすための分量を重量ではなく, "servingという単位で 示し,サ-ビングサイズ(serving size)を知ることが食品構成表を理解する上で重要と され,具体的にサービングサイズと食品の分量の関連が説明されているOこれは日本で用 いられている香川案5)の80kcalが1点に相当する点数式に類似したものである。 先に述べた食事指針に加えて, 「果物・野菜類群」を分離して6群にした「Aパターン食 品選択(A Pattern for Daily Food Choices)」が,第7版には記述されている。これ は,アメリカ農業部門(U.S. Department of Agriculture)の指針に基づき作成された ものであり,第6版までには示されていなかった。前述の食事指針とほとんど差はなく, バランスのとれた食事の指導に関しては前述の5群の食品構成表を中心に展開されている。 本書では食事指針の扱いと栄養素の機能の記述,そして日本の教科書での「どの食品にど んな栄養素が含まれているか」に相当する内容の記述との関連は,食事指針が5群, 6群 いずれでも矛盾はなく,系統立っている。 食事指針は, 「食事計画と食品の買い物」の章でも取り上げられているが,ここでは食 事指針に従えば,栄養的にバランスのとれた充実した食品選びができるとして食品構成義 を扱い,その意義について記述している。しかし日本の教科書に示されている食品摂取量 のめやすに基づく食品の概量の図示は本書にはなく,本書だけで,実際の食生活に結びつ けるサービングサイズを一通り身につけるには,指導者にもまた生徒にも相当の努力が必 要であろう。 本書は,第4版までは食物領域が「食物」と「調理法」に分かれていたが,第5版(1982 年)以降, 「調理法」がなくなり「食物」に吸収されたような形になり4),家庭科が生活技 術を習得するだけの教科ではなくなっている。こうした構成上の変化に対応して現行の食 事指針が記述されているのかについては,さらに検討しなければならない。 以上"Teen Guide"における食事指針の扱いを要約すると,本書全体を通して記載さ.

(3) 中学校の食品構成表の扱い. 243. れている食品構成表は,日本のものに比べてシンプルであり,詳細に献立作成をするため の手段というよりも,むしろ栄養上バランスのとれた食品選択の判断に利用するためのも のとして取り扱われているようである。また教科書で扱われている食事指針は,行政的な 栄養指導や食糧政策でも用いられており,教育の場だけでなく,生涯に渡る食生活の中で も根付きやすいものであろう。 2)日本の教科書にみる食品構成表っいて 指導要領は1989年に出されたが,現行の教科書は指導要領改訂以前に検討済みのもので, 指導要領との比較には問題があるが,現時点で新教科書の入手は不可能であるので,日本 の現行の教科書については2社(A社, B社)より発行されたものを対象とした。 2社とも記載順序に多少の違いはあるものの,扱い方はほとんど同じで,食物領域の最 初は「わたしたちと食物」あるいは「食物と生活」が位置し,食物のはたらきの概説に始 まっている。食品群別摂取量のめやすは2社ともに10食品群に分けた速水案6)を用いてい る。 食物のはたらきの後は2社ともに栄養素について記述されているが,その後はA杜が厚 生省から出されている「6つの基礎食品の区分」を基にした栄養素的特徴から分類した食 品の分類の記述後に, 10群の「食品群別摂取量のめやす」があり,それと同時に栄養所要 量を扱っている。この教科書からは食品群別摂取量のめやすと栄養所要量とが独立してい るようで,両者の関連が明確ではない。 10群の食品群別摂牧童のめやすに基づき, 1日に とる食品の種類と分量をまとめた例が図解されているので, "Teen Guide"よりも量的 な感覚を養うのには理解しやすいが,いささか煩雑である。調理のための分量の把握は, 毎日の調理を担当している者でさえもとらえにくいものであり,中学校段階での把握はむ ずかしいであろう。例えば, 「魚・肉・卵群」から180g摂取する場合, 「魚80gと豚肉20g・」というように細分化しすぎており,ただ分量合わせをするだけのものにすぎない。 一方B社は,栄養所要量の後に「食品と栄養素」の順になっているが,ここでも6群分 類で食品と栄養素について学ぶことになる。そして10群の食品群別摂取量のめやすを学習 し,両者の間は統一されていない。 B社の食品摂取量のめやすと食品例は,交換可能な食 品とその分量も示されており, A社のよりも同じ10群でありながら,実用可能な数字で示 されている。 この後はいずれの教科書も食品群別摂取量を日常食の献立作成に適用し,調理実習-と 続く。新指導要領では,食品群別摂取量を発展させて献立として考えられるようにと指導 しているが,これはこれ迄定着していなかったことを示すものである。しかし小学校で学 んだ厚生省の「六つの基礎食品」に基づく6群分類による栄養素の働きと,さらに速水案6) の10群分類が記述されている現行教科書では理解の定着は困難であり,新指導要領ではそ のあたりのことを懸念しているのであろう。ちなみに高等学校では4群5)も用いられてい 草場合がある2)o いずれの教科書も「青少年向きの献立と調理」また「成人の栄養と献立」について学習 するときに食品群別摂取量のめやすを使っており,中学校全学年に渡って「食品群別摂取 量のめやす」という言葉に触れ,定着させたいという配慮を垣間みることができ,アメリ カの教科書に比べて登場回数が多い。栄養-食品-献立-調理の順で進められ,調理実習 という体験的学習法が中心となり,それとともに実際の食生活の橋渡し的存在である献立 学習を行うという流れが,中学校全段階に共通してまとめられているためか,食品構成表 は調理実習の献立作成の分量の把握に用いるものであるという印象が極めて強い。その結.

(4) 244. 果,数字にこだわり,食品構成表は家庭科の授業用のものと認識し,実生活に役立たない ものになっていると考える。. 4.考察 日米家庭科教科書の食物領域の中で,日本では児童・生徒に定着していないと考えられ ている食品摂取量のめやす,すなわち食品構成表の扱いに着目して比較検討してきた。 アメリカの教科書では,食事指針について学習する前後の他の内容との関連から考える と,食品構成表は必ずしもつくることと関わっていないようである。それに対して日本の 教科書にみる献立学習と食品構成表は,栄養充足のめやすとしての献立作成や,購入計画・ 調理手順計画のための献立作成という,調理作成担当者としての立場からの学習題材であ るといえよう。家庭科のめざす生活実践力の育成のためには,献立学習は実生活との橋渡 しであり,現行の日本の教科書にある10群食品摂取量の目安は,つくることが目的達成の 手段として位置づけられているような家庭科では,実習用に役立っものであろう。健康に 関わる実践力はどのようにして食べればよいかという調理の知識や技術とともに,食品や 栄養の科学的認識力が必要であるが,数字にこだわる調理の技術指導が重視されている傾 向にある日本の家庭科では, 10群が用いられているのは当然の結果と考える。 10群の食品 構成表はそれ自体意義深いもので,専門的な教育を受けた栄養士等の間では十分に用いら れる価値があり,栄養所要量を実際の食生活に結びっける良い尺度である。しかし義務敬 育の中学校段階で,しかも今後時間数が減少すれば,設定されている食品摂取量のめやす に数字合わせするだけの中身が伴わないものになりかねない。 一方アメリカでは実習の献立作成用というよりも, 「どのくらい食べればよいか」のめ やすのための食品構成表という立場で扱い,自分で作って食べるのかあるいは外食にする のかという食形態にこだわらず,種々のライフスタイルに食品構成表を利用していくとい う印象を受ける。しかしアメリカの高校生は,健康や栄養の知識はおおむね定着している が,これらの知識を実際の食行動に反映できないという矛盾が報告されており7), "Teen Guide"の中に従来からの5群と新たに6群の食品構成表が記載されていることからも, より効果的な栄養教育を模索しているようである。 近年,農水省の農業政策審議会で出された「日本型食生活のすすめ」に沿った啓蒙がな され,日本の食生活は欧米からも注目されている。したがってアメリカの教科書の方針を そのまま取り入れるのが必ずしも望ましいことではないが,男女共修が日本より長く行わ れている点から,今後の家庭科のあり方を探るためには注目に値するのではないだろうか。 またわが国にとって,アメリカは影響力の強い国であり,その影響力は政治・経済・産 業面だけに限らず,食生活や栄養学についても著しく強い。実際わが国で1985年に厚生会 から出された「健康づくりのための食生活指針」は, 1977年の「アメリカ人のための食事 指針」に基づいているともいわれている8)oそしてE]本の食生活指針は全体として生活に 根付きやすい表現になっているけれども,専門用語が十分にこなれた状態にまで仕上げら れているのはアメリカの食事指針であり,家庭科の教科書の中にも同様の傾向が認められ る。. 健康志向が高まる一方,われわれを取り巻く食環境は,多忙な人々に対応した簡便な食 品の利用,そして空腹だけは容易に満たせる安易な食生活へと歩まされつつあり,それに 対して一種の不安も抱いている。このような社会変化に対応する力を育てるのが家庭科の 役割であるならば,将来に渡っての健康維持に関わる食生活の栄養上のバランス指導の定.

(5) 中学校の食品構成表の扱い. 245. 着をはかるために,何群にするのが最もよいのか,またそれに代わる指導法があるのかと いう点から,日本に合ったものを今後議論,検討されるべきであろう。 また栄養素の真の必要量が全体として充分に論じられないほどに未解決の現在では,個々 の栄養素の過不足をめやすに食生活を営むことにあまり意義があるとは思えない。食事は 毎日のことであって,数字にこだわって献立を考えることは現実的ではない。小・中・高 校一貫し,現代の,そして将来の日常生活にも生かせる体系化されたものであることが望 まれる。 引用文献 1)厚生統計協会「厚生の指標,国民衛生の動向」 37, 404-405 (1990) 2)相坂浩子,渋川祥子,渡辺薫,金子佳代子,福場広保:日本家政学会誌41, 1091-1101 (1990). 3)柴静子:日本家庭科教育学会誌28(1), 58-63 (1985) 4)津田千文,服部範子:日本家庭科教育学会誌33(3), 1-7 (1990) 5)香川綾「四訂食品成分表」女子栄養大学出版部292-301 (1992) 6)速水決:栄養学雑誌43, 209-213 (1985) 7) Amstutz, M. K. and Dixon, D. L.: J. Nutr. Educ. 18, 55-60 (1986) 8)豊川裕之「食生活指針の比較検討」農山漁村文化協会88-100.

(6) 246. Food and nutrition education in homemaking. -A Japan and USA comparison of textbooks of homemaking m junior high school, from a standpoint on food construction tables-. Etsu KISHIDA. When Japanese students learn to balance their diet, food construction tables have been used for planning nutritious menus. However the most frequent suggestion is "not to retain it and not to translate it into food behavior" This report is concerned with a Japan-USA comparison of textbooks of homemaking, focusing on teaching of daily food construction and of daily food guide, because a textbook is considered to be one of important teaching materials. "Teen Guide" is used as a USA textbook. The chapter of "Choosing the Right Food" is concerned with "Daily food guide" based on the U.S. Recommended Daily Allowances. It divides foods into five food groups according to the nutrients each contains. The Daily food guide in the textbook would be a simple guideline for judging food choices rather than for planning nutritious meals in details. It may be able to widely apply to various current life styles. In Japan, the food construction table which divides foods into ten groups are used as the daily food guide in junior high school textbooks, although teaching of nutrients based on six basic food groups are made in elementary and junior high schools. The traditional food preparation skills and meal preparation are more emphasized m Japanese textbooks than American one. Consequently the Japanese food construction table divided into ten groups is useful for practicing in cooking. The daily food guide for Japanese use should be standardized through elementary, junior high and senior high schools, and it should be applied, in practice, to our life..

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参照

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