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地域資源を活用したむらづくりにおけるソーシャル・キャピタルの役割―滋賀県近江八幡市白王町を事例として―

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(1)

・キャピタルの役割―滋賀県近江八幡市白王町を事

例として―

著者

林 岳, 西澤 栄一郎, 合田 素行

雑誌名

農林水産政策研究

28

ページ

63-78

発行年

2018-07-31

URL

http://doi.org/10.34444/00000014

(2)

1.はじめに

近年,人や組織のネットワークや絆,人々が他 者に対して抱く互酬性の規範を表すソーシャル・ キャピタル(以下 SC)に注目が集まっており, SC が社会に対してさまざまな点で貢献すること が指摘されている。特に農村地域においては,集 落内の住人の多くが顔見知りであるなど,SC が 形成されやすい土壌があり,農村部における SC 形成の要因抽出や影響分析などはこれまで多くの 研究者によって分析されてきた(農林水産省農村 振興局,2007;中村他,2009)。  SC はボンディング型とブリッジング型の2つ に大きく分けられ,ボンディング型 SC とは,同 質な者同士の結びつきを,ブリッジング型 SC と は異質な者同士の結びつきをそれぞれ指す。稲 葉(2007)では,「ボンディングなグループが多 数できるのではなく,ブリッジングなグループが 多数存在するほうが社会全体に前向きな外部効果 を持つ SC の醸成につながる」と主張している。 これをむらづくりにあてはめると,地域活性化を 調査・資料

地域資源を活用したむらづくりにおける

ソーシャル・キャピタルの役割

―滋賀県近江八幡市白王町を事例として―

林   岳・西 澤 栄一郎

・合 田 素 行

** 要   旨  本研究は,地域資源を活用したむらづくりの事例として滋賀県近江八幡市白王町を事例として 取り上げ,地域資源を活用したむらづくりにおける,ボンディング型とブリッジング型双方のソー シャル・キャピタル(SC)の役割を検証することを目的とする。本研究では,まず SC の概念に ついて概説し,その上で集落の住民や農業者など地域内の者のみで構成される組織をボンディン グ型 SC,住民以外の外部の者も含めて構成される組織をブリッジング型 SC と定義する。さらに, 白王町で行われている様々なむらづくりの活動を分類して,それぞれの活動にどのようなタイプの SC が活用されているかを検証した。 分析の結果,白王町におけるむらづくりの取組においては,地域資源の維持管理といった従来か らの活動ではボンディング型 SC が関係しており,さらに地域資源を活用したむらづくりという従 来の地域資源の保全管理という活動範囲を越えた新たな活動では,特に外部からの来訪者を獲得す るために地域資源を活用する取組において,ブリッジング型 SC が関係していることが示された。 地域資源を活用したむらづくりはその地域資源の持続的な維持の上に成立することから,持続的 なむらづくりにはボンディング型,ブリッジング型双方の SC が必要となることが示された。 キーワード:ソーシャル・キャピタル,ボンディング型,ブリッジング型,むらづくり,地域資源  原稿受理日 2017 年 10 月 23 日.早期公開日 2018 年2月 27 日.  *法政大学

(3)

目指したむらづくりという「社会に前向きな」活 動にはブリッジング型 SC の発揮が求められると 解釈できる。一方で福島他(2012)では,地域資 源管理への参加の大きな関連因子にはボンディ ング型 SC があることを指摘している。当然なが ら,地域資源を活用したむらづくりには地域資源 の維持・管理が不可欠である,したがって,これ ら2つの既存研究をもとに考えると,地域資源 を活用したむらづくりを持続的に行うには,ボン ディング型,ブリッジング型双方の SC が必要と いうことになる。それでは,地域資源を活用した むらづくりの事例において,実際に両タイプの SC がそれぞれ上述のような場面で実際に活用さ れているのであろうか。このことを明らかにする ことで,地域資源を活用したむらづくりを成功に 導くための要因を SC の観点から明らかにするこ とができると考える。  そこで本稿では,地域資源を活用したむらづく りの事例として滋賀県近江八幡市白王町を取り上 げ,地域資源の維持・管理やその積極的な活用と いった地域資源を活用したむらづくりの各段階に おける,ボンディング型とブリッジング型双方の SC の役割を検証することを目的とする。

2.ソーシャル・キャピタル(SC)

に関する概念の整理

(1)SC の定義 「ソーシャル・キャピタル」という用語を最初 に用いた論文は,Hanifan (1916) と言われてい る。Hanifan は SC を,「社会単位を構成する個 人や家族間での善意,連帯感,思いやり,交友と いった,人々の多くの日常生活に役立つ無形資 産」と定義している。また,Putnam (2000)では, SC を「社会的ネットワーク,およびそこから生 じる互酬性,信頼性の規範」と定義している。さ らに,稲葉(2007)によると,SC とは「社会に おける信頼・規範・ネットワークを意味する」と いう。これらの定義はいずれも人間の社会的な側 面を重視しており,そこから SC を定義するもの である。しかしながら,このような定義では SC に対する経営学的な発想が乏しいという課題も 指摘されている(金光,2003)。別の観点から SC

を定義したものとして,Bourdieu and Wacquant (1992)では SC を「知人間で多少なりとも制度 化され成熟したネットワークを構築することに よって個人や集団が得る資源の総体」と定義して おり,金光(2003)は,SC が個人や集団にリター ン,ベネフィットをもたらすような創造的関係資 産であり,社会ネットワーク構築の努力を通じて 獲得されると説明している。これら2つの定義 では,どちらかというと SC(社会関係“資本”) の資本的性格を重視する立場から SC を定義して おり,人々が社会関係を通じて何らかの投資行為 を行うことによって利益を得るという側面を重視 するものである。また,Coleman(1990)は,SC が実体的なものではなく,(1)社会構造の中の 一部を構成する,(2)人々の特定の行動を促進 するという,共通の2つの要素を有する多様な 機能として定義されると主張する。Coleman も 資本的性格を重視する立場から SC を定義してい るが,SC は物的資本や人的資本と異なり,投資 した個人に対するリターンが投資を下回る場合で も投資が実行されるケースが存在し,公共財的な 側面を有する点を指摘している。このように,そ れぞれの見方によって SC の定義も大きく変わっ てくる上,ここに紹介した以外にもさまざまな観 点から SC を定義することができる。 そして,SC に関する議論では,SC が個人に属 するという考え方と,人と人との間に存在するも のという2つの考え方がある(稲葉,2011)。Lin (2002)でも,SC の理論には利益が集団のために 生じるとみなす観点と個人のために生じるとみな す観点の2つがあると指摘している。SC のネッ トワーク機能に着目している研究者は SC が個人 に属するという考え方が多く(Lin,2002;Burt, 2005),一方で,Putnam(1993)は SC が「信頼, 規範,ネットワークといった社会組織の特徴の 1つであり,秩序ある行動を促すことにより社 会の効率性を改善する」ものとしており,SC は 社会組織に属するものという見方をしている。赤 沢他(2009)も Healy and Cote(2001)を引用し て SC がグループで共有される公共財であるとい う立場を採っている。

(4)

目指したむらづくりという「社会に前向きな」活 動にはブリッジング型 SC の発揮が求められると 解釈できる。一方で福島他(2012)では,地域資 源管理への参加の大きな関連因子にはボンディ ング型 SC があることを指摘している。当然なが ら,地域資源を活用したむらづくりには地域資源 の維持・管理が不可欠である,したがって,これ ら2つの既存研究をもとに考えると,地域資源 を活用したむらづくりを持続的に行うには,ボン ディング型,ブリッジング型双方の SC が必要と いうことになる。それでは,地域資源を活用した むらづくりの事例において,実際に両タイプの SC がそれぞれ上述のような場面で実際に活用さ れているのであろうか。このことを明らかにする ことで,地域資源を活用したむらづくりを成功に 導くための要因を SC の観点から明らかにするこ とができると考える。  そこで本稿では,地域資源を活用したむらづく りの事例として滋賀県近江八幡市白王町を取り上 げ,地域資源の維持・管理やその積極的な活用と いった地域資源を活用したむらづくりの各段階に おける,ボンディング型とブリッジング型双方の SC の役割を検証することを目的とする。

2.ソーシャル・キャピタル(SC)

に関する概念の整理

(1)SC の定義 「ソーシャル・キャピタル」という用語を最初 に用いた論文は,Hanifan (1916) と言われてい る。Hanifan は SC を,「社会単位を構成する個 人や家族間での善意,連帯感,思いやり,交友と いった,人々の多くの日常生活に役立つ無形資 産」と定義している。また,Putnam (2000)では, SC を「社会的ネットワーク,およびそこから生 じる互酬性,信頼性の規範」と定義している。さ らに,稲葉(2007)によると,SC とは「社会に おける信頼・規範・ネットワークを意味する」と いう。これらの定義はいずれも人間の社会的な側 面を重視しており,そこから SC を定義するもの である。しかしながら,このような定義では SC に対する経営学的な発想が乏しいという課題も 指摘されている(金光,2003)。別の観点から SC

を定義したものとして,Bourdieu and Wacquant (1992)では SC を「知人間で多少なりとも制度 化され成熟したネットワークを構築することに よって個人や集団が得る資源の総体」と定義して おり,金光(2003)は,SC が個人や集団にリター ン,ベネフィットをもたらすような創造的関係資 産であり,社会ネットワーク構築の努力を通じて 獲得されると説明している。これら2つの定義 では,どちらかというと SC(社会関係“資本”) の資本的性格を重視する立場から SC を定義して おり,人々が社会関係を通じて何らかの投資行為 を行うことによって利益を得るという側面を重視 するものである。また,Coleman(1990)は,SC が実体的なものではなく,(1)社会構造の中の 一部を構成する,(2)人々の特定の行動を促進 するという,共通の2つの要素を有する多様な 機能として定義されると主張する。Coleman も 資本的性格を重視する立場から SC を定義してい るが,SC は物的資本や人的資本と異なり,投資 した個人に対するリターンが投資を下回る場合で も投資が実行されるケースが存在し,公共財的な 側面を有する点を指摘している。このように,そ れぞれの見方によって SC の定義も大きく変わっ てくる上,ここに紹介した以外にもさまざまな観 点から SC を定義することができる。 そして,SC に関する議論では,SC が個人に属 するという考え方と,人と人との間に存在するも のという2つの考え方がある(稲葉,2011)。Lin (2002)でも,SC の理論には利益が集団のために 生じるとみなす観点と個人のために生じるとみな す観点の2つがあると指摘している。SC のネッ トワーク機能に着目している研究者は SC が個人 に属するという考え方が多く(Lin,2002;Burt, 2005),一方で,Putnam(1993)は SC が「信頼, 規範,ネットワークといった社会組織の特徴の 1つであり,秩序ある行動を促すことにより社 会の効率性を改善する」ものとしており,SC は 社会組織に属するものという見方をしている。赤 沢他(2009)も Healy and Cote(2001)を引用し て SC がグループで共有される公共財であるとい う立場を採っている。 (2)SC の分類と地域活動 次に,SC の分類について触れる。SC はボン ディング型とブリッジング型に大きく分けられ, 稲葉(2007)では,ボンディング型 SC とは同質 な者同士を結びつける SC,ブリッジング型 SC とは異質な者を結びつける SC と説明されてい る。冒頭で述べたとおり,稲葉(2007)は,「ボ ンディングなグループが多数できるのではなく, ブリッジングなグループが多数存在するほうが社 会全体に前向きな外部効果を持つ SC の醸成につ ながる」と主張している。また,Putnam(2000) は Briggs(1998)の言葉を引用し,ボンディン グ型 SC は「上手く切り抜ける(getting by)」の に適し(1),ブリッジング型 SC は「積極的に前へ と進む(getting ahead)」のに重要としている。 この他,内閣府経済社会総合研究所(2005)では, 地縁型活動をボンディング型 SC,ボランティア 活動をブリッジング型 SC と位置づけている。一 方,Sobel(2002)によると,幅広いネットワー クを有することは,結びつきが弱くなることを意 味し,ボンディング型 SC とブリッジング型 SC はトレードオフの関係を有すると指摘している。 Edelman et al.(2004)も,SC を活用する際には, 両 SC がどちらも重要であり,双方がともに必要 であることを説いている。 ただし,ボンディング型 SC とブリッジング型 SC の区分も主観的なものでしかない。例えば, 学会という組織において形成される人的ネット ワークは,ある分野の研究者で組織されるボン ディング型 SC という見方もできる一方,異なる 大学や研究機関に所属するさまざまな研究者が外 部とのネットワークを構築するブリッジング型 SC とも解釈できる。このように,1つの組織が 異なる2タイプの SC を構築すると解釈できるの である。 (3)SC の計測方法  SC の計測方法については,これまでの多くの 研究蓄積がなされている。これらを大きく分け ると,(1)既存の統計から SC を計測する方法, (2)個人への面接調査等を通じて SC を計測す る方法の2つが存在する。前者の既存統計を用 いる方法では,主に地域や国単位,いわゆるマ クロレベルでの SC の把握・計測が可能となる。 Putnam(1993)はイタリアにおける地方政府の 効率性の差が SC に由来するものと指摘し,SC の計測を行っているが,ここでは人口1人あた りの協同組合簇生率,相互扶助協会への参加,投 票率といった市民的関与を SC の計測尺度として いる。また,山内(online)は都道府県別の市民 活動インデックスを公表しており,企業と NPO の法人数に占める NPO 法人の割合や家計に占め る寄付の割合,1年間にボランティア活動を行っ た人の割合などを指標としているが,これも既存 統計を利用して SC を計測する方法とみなすこと ができる。 一方,個人への面接・アンケート調査を通じた SC の計測では Harper and Kelly(2002)が,英 国における SC 計測の指標として第1表に掲げる 項目を提案している。これを見ると,個人の所属 団体・組織数や近所づきあい,頼れる人の数,制 度への信頼などがその指標として挙げられてお り,これらは個人への面接またはアンケート調査 で把握するものである。中口(2014)では,個人 ネットワーク,地域内のつながり,地域外・組織 外とのつながりなどに分けて,その強さを3段 階で尋ねている。また,赤沢他(2009)では,内 閣府経済社会総合研究所(2005)を参考に,人と のつながりや集落住民が信頼できるかを尋ねて SC 賦存量の計測指標としている。福島他(2012) では,ボンディング型 SC の計測法として,同じ 地域内に住む他者の信頼度を,ブリッジング型 SC の計測方法として,国内の旅先や見知らぬ土 地で出会った人の信頼度をそれぞれアンケート調 査によって調べている。このように,事例研究で はアンケート調査や面接調査を経て,地域内外の 信頼度やつながりを把握して対象組織の SC を計 測するのが一般的である。 (4)SC による分析の限界と課題  SC が人々の暮らしに正負両面において大きな 影響を与えていることは多くの研究者が同意する ところだが,その一方で,SC による分析に対し てはさまざまな批判や懐疑的意見も展開されてい る。宮川・大守(2004)では,SC 論の課題として, 以下の4点を挙げている。第1に,SC の機能と

(5)

その評価の問題である。前述のとおり,SC は社 会に正負両面の影響を与えているが,評価の多く が正の側面を評価するもので,負の側面を評価す るものが少ないという点を指摘している。第2 に,SC の定義や特性についてである。SC に何を 含め,何で構成されているのかについては,いま だ多くの議論があり,そもそも SC が私的財か公 共財かの問題も残されている点を指摘している。 第3に,SC の状態について,Putnam(2000)が 指摘するように減退しているのか,それともこれ までの SC の尺度では計測できない形に変容して いるのかという点について議論が残されていると 指摘している。第4に SC をどのような数量的尺 度で計測するかという点,第5に今後 SC を増進 していくためにはどのような方策があるのか,ど のように再生または減退を抑制するのか,そのた めには何が必要かについても研究者の間でも見解 は一致していない。このように,SC の分析にお いては,いまだ数多くの課題が残されており,多 くの議論のもとでこれらの課題を徐々に解決して いく必要がある。

3.農村部における SC に関する既存

研究の整理

SC 自体を対象とした研究はこれまでに多数公 表されているが,このうち農村部において集落レ ベルで SC を分析した事例としては,上述の福島 他(2012)の他,松下(2009),桜井(2012),古 澤・木南(2009)などがある。松下(2009)は滋 賀県における農地・水・環境保全向上対策を事 例に,共同活動への参加規定要因を明らかにし, その結果,ボンディング型 SC とブリッジング型 SC が相互作用を通じて共同作業への参加率を高 めていること,両タイプの SC の間には負の相関 関係があることを明らかにしている。また,桜井 (2012)は農村における SC の正負の両面に着目 し,地域活性化を目的に設立された社会的企業の 起業や発展に SC の負の側面が大きな制約となっ ていることを明らかにしている。さらに,古澤・ 第1表 英国における SC 計測フレームワーク 視点 指標例 社会参加 文化的,余暇的,社会的グループへの所属会員数または関与の大きさ ボランティア頻度,関与の大きさ 宗教的活動 市民参加 ある出来事に影響を与える力の見通し 地域または国全体の案件についての情報公開の度合い 政治家または公務員へのコンタクト 地域活動グループへの参加・関与 選挙での投票の意向 社会ネットワーク,社会支援 親戚,友人,隣人との面会・会話の頻度 仮想的ネットワークの程度と連絡を取る頻度 近くに住む親しい友人・親戚の数 相互扶助 認知制御及び生活満足度 互酬性と信頼 自身と同様の人の信頼性 自身と異なる人の信頼性 異なるレベルでの制度への信頼性 頼みごとや頼まれごと 価値分与の認知 地域の見方 物理的環境の見方 地域内の施設 地域内の居住環境   犯罪の恐れ

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その評価の問題である。前述のとおり,SC は社 会に正負両面の影響を与えているが,評価の多く が正の側面を評価するもので,負の側面を評価す るものが少ないという点を指摘している。第2 に,SC の定義や特性についてである。SC に何を 含め,何で構成されているのかについては,いま だ多くの議論があり,そもそも SC が私的財か公 共財かの問題も残されている点を指摘している。 第3に,SC の状態について,Putnam(2000)が 指摘するように減退しているのか,それともこれ までの SC の尺度では計測できない形に変容して いるのかという点について議論が残されていると 指摘している。第4に SC をどのような数量的尺 度で計測するかという点,第5に今後 SC を増進 していくためにはどのような方策があるのか,ど のように再生または減退を抑制するのか,そのた めには何が必要かについても研究者の間でも見解 は一致していない。このように,SC の分析にお いては,いまだ数多くの課題が残されており,多 くの議論のもとでこれらの課題を徐々に解決して いく必要がある。

3.農村部における SC に関する既存

研究の整理

SC 自体を対象とした研究はこれまでに多数公 表されているが,このうち農村部において集落レ ベルで SC を分析した事例としては,上述の福島 他(2012)の他,松下(2009),桜井(2012),古 澤・木南(2009)などがある。松下(2009)は滋 賀県における農地・水・環境保全向上対策を事 例に,共同活動への参加規定要因を明らかにし, その結果,ボンディング型 SC とブリッジング型 SC が相互作用を通じて共同作業への参加率を高 めていること,両タイプの SC の間には負の相関 関係があることを明らかにしている。また,桜井 (2012)は農村における SC の正負の両面に着目 し,地域活性化を目的に設立された社会的企業の 起業や発展に SC の負の側面が大きな制約となっ ていることを明らかにしている。さらに,古澤・ 第1表 英国における SC 計測フレームワーク 視点 指標例 社会参加 文化的,余暇的,社会的グループへの所属会員数または関与の大きさ ボランティア頻度,関与の大きさ 宗教的活動 市民参加 ある出来事に影響を与える力の見通し 地域または国全体の案件についての情報公開の度合い 政治家または公務員へのコンタクト 地域活動グループへの参加・関与 選挙での投票の意向 社会ネットワーク,社会支援 親戚,友人,隣人との面会・会話の頻度 仮想的ネットワークの程度と連絡を取る頻度 近くに住む親しい友人・親戚の数 相互扶助 認知制御及び生活満足度 互酬性と信頼 自身と同様の人の信頼性 自身と異なる人の信頼性 異なるレベルでの制度への信頼性 頼みごとや頼まれごと 価値分与の認知 地域の見方 物理的環境の見方 地域内の施設 地域内の居住環境   犯罪の恐れ

出所:Harper and Kelly (2003)の Table 1を筆者らが和訳.

木南(2009)では地域の共有資源の管理が SC の 蓄積を通じて地域活性化や絆づくりに与える効果 を分析し,ボンディング型 SC を志向する人ほど 共同活動へ積極的に参加することを明らかにして いる。しかしながら,これらの研究はいずれも SC が農村における共同作業に与える影響や起業 といった単一の側面に与える影響を明らかにした ものである。 農村における地域活動やむらづくりの展開の 各段階の中での SC の役割または影響を明らかに した研究事例としては,高橋他(2012),中村他 (2009),赤沢他(2009)などが挙げられる。高橋 他(2012)は,岩手県西和賀町の一集落を事例に, 住民間のネットワークがどのようであれば SC が 作用するのかを検証し,SC が作用し活動へと展 開するための要件として,普段から付き合い関係 が豊富な住民を活動初期段階から巻き込むこと, 集落住民自らに活動の実現可能性を判断させる ことの2点が重要であることを指摘した。また 中村他(2009)では,地域づくりの活動における SC の影響を分析し,SC が低い集落でも SC が高 い中心層の存在により集落がパフォーマンスを発 揮できること,中心層の SC は継続的な取組を通 じて地域内に徐々に浸透していくことを示した。 さらに赤沢他(2009)では,集落機能と SC の関 係を明らかにするため,集落活性構造をモデル 化して SC の役割を明らかにし,住民の信頼感, リーダーの存在,集落の活動意欲といった SC が 集落活性構造の根幹を成していることを明らかに した。しかし,これらの研究もむらづくりのそれ ぞれの発展段階において SC がどのような役割を 果たしているかを見るものではなく,このような 視点からの分析は管見の限り見当たらない。 筆者らはこれまで地域資源を活用したむらづく りの各活動が階層構造を形成していることを明ら かにした(西澤他,2016)。これらの階層の中で SC がどのように活用されているかを示すことは, むらづくりの成否要因を SC の側面から明らかに することにつながると考える。

4.分析の枠組み

(1)本稿におけるむらづくり,SC の定義と 作業仮説 坪井(2011)は,目的ごとに地域活性化の類 型化を行っており,(1)ビジターの獲得,(2) 住民・労働者の獲得,(3)企業誘致,(4)支 援者,支援企業の獲得の4つが地域活性化のター ゲットとして挙げられている。このうち,(1) ~(3)は地域外から地域に顧客を惹きつける という集客型,(4)は地域の産品を地域外に販 売する移出型と名付けている。本稿では,むらづ くりという用語を用いているが,ここでのむらづ くりという用語は,地域活性化のために地域住民 が行う諸活動で,坪井(2011)における集客型, 移出型地域活性化の双方を指すものとする。 さて,前述のとおり,Putnam(2000)によると, ボンディング型 SC は「上手く切り抜ける」のに 適し,ブリッジング型 SC は「積極的に前へと進 む」のに重要としている。内閣府経済社会総合研 究所(2005)では,ボランティア活動への参加が 多い人は自らのコミュニティに対し厳しい評価を する傾向があるのに対し,地縁活動への参加の多 い人は逆に甘い評価となっていることから,危機 感を持ってコミュニティを変革しようという思い は,ブリッジング型 SC が影響している可能性が あると結論づけている。これらの点を農村部にお けるむらづくりに当てはめると,これまで農村で は地域資源の維持管理といった従来からの活動を ボンディング型 SC により「上手く切り抜け」て きたものの,むらづくりといった,これまでの慣 習から抜け出して「積極的に前に進める」必要の ある取組については,ボンディング型 SC のみで は不十分で,新たにブリッジング型 SC が求めら れるということになる。一方で,地域資源を活用 したむらづくりを持続可能なものにするために は,住民の共同による地域資源の維持管理が欠か せない。福島他(2012)や古澤・木南(2009)が 示すように,維持管理作業への参加の可否はボン ディング型 SC によって規定されていることを考 えると,地域資源を活用したむらづくりにはボン ディング型 SC もまた不可欠となる。

(7)

そこで本稿では,集落の住民や農業者など地域 内の者のみで構成される組織における人的ネット ワークをボンディング型 SC,住民以外の外部の 者も含めて構成される組織における人的ネット ワークをブリッジング型 SC と定義する。内閣府 経済社会総合研究所(2005)でも地縁的活動と, ボランティア・NPO・市民活動という区分でボ ンディング型 SC とブリッジング型 SC を区分し ており,本稿における両 SC の区分はこの既存研 究とも整合的である。 上述のようにボンディング型 SC とブリッジン グ型 SC を定義した上で,地域におけるむらづく りの取組において,地域資源の維持管理といった 従来からの活動ではボンディング型 SC が,むら づくりという新たな活動ではブリッジング型 SC がそれぞれ関係しているという仮説を立て,滋賀 県近江八幡市白王町集落における地域資源を活用 したむらづくりの事例において,この仮説を検証 する。 なお,本稿で白王町を取り上げる理由は,後述 のように白王町は独特の地域資源を有しており, これを活用したむらづくりが積極的に行われてい ること,筆者らはこれまで白王町を研究対象とし て分析を行っており(西澤他,2016),情報収集 やデータの蓄積を既に行っていることの2つで ある。 (2)SC と活動の因果関係 地域における活動と SC に関する分析では,SC が賦存することによってむらづくりの活動が促進 されるという見方と,むらづくりの活動が行われ た結果として SC が形成・増進されるという見方 の2通りがある。既存研究では,赤沢他(2009) は SC がいくつかの経路を介して集落を活性化さ せることを明らかにしており,前者の考え方に基 づいている。また,中村他(2009)では,「集落 がパフォーマンスを発揮できたのは高い SC を持 つ中心層が存在するため」という仮説を立ててこ れを立証しており,この研究は SC の存在が活動 に与える影響を分析していることから,SC が活 動を促進するという考え方に基づくものである。 また,高橋他(2012)も SC が人々を活動へ参画 させるというスタンスで議論を進めており,こ れも SC が活動を促進するという考え方に基づく ものである。この他,福島他(2012),古澤・木 南(2009)も同様に SC が活動に与える影響を把 握するものである。このように多くの事例研究で は,SC が存在することによって地域における諸 活動にどのような影響があるのか,また,活動を 有効かつ効率的に進めるためには,SC をどのよ うに活用していく必要があるのかという視点から の分析が多い。

一 方 で,Takayama and Nakatani(2017) は 土地改良事業を行うことによって SC が増進する といったように,活動(事業)が SC に与える影 響を見るもので,活動が SC を増進するという立 場に立つものである。この研究のようにある活 動が SC を増進するという見方に立った分析は Takayama and Nakatani(2017)の他,開発計画・ 開発援助が SC に与える影響を明らかにしたも のがある(Gugerty and Kremer, 2002, Labonne and Chase, 2011)。 本稿では, SC が賦存することを前提とし,SC が活動を促進するという前者の立場に立ち,むら づくりの過程の中でそれらがどのように活用され ているかを明らかにする。本稿でこのような考え 方を前提とするのは,いずれの地域においても, むらづくりを始める以前の状態でも SC は必ず賦 存し,初期に一定の SC を有する地域がそれを活 用してむらづくりの活動に取り組むことで,さら に SC が増進され,それによりさらに活動が促進 されるといったポジティブ・スパイラルが形成さ れると考えられるためである。このことから考え ると,上記の2つの見方は,どちらが正しいと いうものではなく,単にどのような切り口で事象 を捉えるかという問題であると言える。

5.近江八幡市白王町での取組の紹介

(1)白王町の概要 本稿の対象地域である滋賀県近江八幡市白王町 は,市内の北部,琵琶湖に面する場所に位置する 集落であり(第1図),人口は 261 人,世帯数は 63 である(2015 年国勢調査)。白王町には権座(ご んざ)という島がある。権座は周辺の陸地とは完 全に離れた島で,周辺の陸地とは遠いところでも

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そこで本稿では,集落の住民や農業者など地域 内の者のみで構成される組織における人的ネット ワークをボンディング型 SC,住民以外の外部の 者も含めて構成される組織における人的ネット ワークをブリッジング型 SC と定義する。内閣府 経済社会総合研究所(2005)でも地縁的活動と, ボランティア・NPO・市民活動という区分でボ ンディング型 SC とブリッジング型 SC を区分し ており,本稿における両 SC の区分はこの既存研 究とも整合的である。 上述のようにボンディング型 SC とブリッジン グ型 SC を定義した上で,地域におけるむらづく りの取組において,地域資源の維持管理といった 従来からの活動ではボンディング型 SC が,むら づくりという新たな活動ではブリッジング型 SC がそれぞれ関係しているという仮説を立て,滋賀 県近江八幡市白王町集落における地域資源を活用 したむらづくりの事例において,この仮説を検証 する。 なお,本稿で白王町を取り上げる理由は,後述 のように白王町は独特の地域資源を有しており, これを活用したむらづくりが積極的に行われてい ること,筆者らはこれまで白王町を研究対象とし て分析を行っており(西澤他,2016),情報収集 やデータの蓄積を既に行っていることの2つで ある。 (2)SC と活動の因果関係 地域における活動と SC に関する分析では,SC が賦存することによってむらづくりの活動が促進 されるという見方と,むらづくりの活動が行われ た結果として SC が形成・増進されるという見方 の2通りがある。既存研究では,赤沢他(2009) は SC がいくつかの経路を介して集落を活性化さ せることを明らかにしており,前者の考え方に基 づいている。また,中村他(2009)では,「集落 がパフォーマンスを発揮できたのは高い SC を持 つ中心層が存在するため」という仮説を立ててこ れを立証しており,この研究は SC の存在が活動 に与える影響を分析していることから,SC が活 動を促進するという考え方に基づくものである。 また,高橋他(2012)も SC が人々を活動へ参画 させるというスタンスで議論を進めており,こ れも SC が活動を促進するという考え方に基づく ものである。この他,福島他(2012),古澤・木 南(2009)も同様に SC が活動に与える影響を把 握するものである。このように多くの事例研究で は,SC が存在することによって地域における諸 活動にどのような影響があるのか,また,活動を 有効かつ効率的に進めるためには,SC をどのよ うに活用していく必要があるのかという視点から の分析が多い。

一 方 で,Takayama and Nakatani(2017) は 土地改良事業を行うことによって SC が増進する といったように,活動(事業)が SC に与える影 響を見るもので,活動が SC を増進するという立 場に立つものである。この研究のようにある活 動が SC を増進するという見方に立った分析は Takayama and Nakatani(2017)の他,開発計画・ 開発援助が SC に与える影響を明らかにしたも のがある(Gugerty and Kremer, 2002, Labonne and Chase, 2011)。 本稿では, SC が賦存することを前提とし,SC が活動を促進するという前者の立場に立ち,むら づくりの過程の中でそれらがどのように活用され ているかを明らかにする。本稿でこのような考え 方を前提とするのは,いずれの地域においても, むらづくりを始める以前の状態でも SC は必ず賦 存し,初期に一定の SC を有する地域がそれを活 用してむらづくりの活動に取り組むことで,さら に SC が増進され,それによりさらに活動が促進 されるといったポジティブ・スパイラルが形成さ れると考えられるためである。このことから考え ると,上記の2つの見方は,どちらが正しいと いうものではなく,単にどのような切り口で事象 を捉えるかという問題であると言える。

5.近江八幡市白王町での取組の紹介

(1)白王町の概要 本稿の対象地域である滋賀県近江八幡市白王町 は,市内の北部,琵琶湖に面する場所に位置する 集落であり(第1図),人口は 261 人,世帯数は 63 である(2015 年国勢調査)。白王町には権座(ご んざ)という島がある。権座は周辺の陸地とは完 全に離れた島で,周辺の陸地とは遠いところでも 200~300m しか離れていないにもかかわらず,現 在でも橋が架けられていない。白王町はかつては 大中の湖という琵琶湖最大の内湖に面していた が,大中の湖は干拓が行われ,白王町に7つあっ た島のうち6つが陸続きとなり消滅した。しか し,大中の湖の南端に西の湖と呼ばれる干拓され ずに残った部分があり,そこにあった権座だけが そのまま島として残された。権座の面積は 2.5ha で,うち水田面積は 1.5ha,残りの1ha は西の湖 で湖中堤の建設計画があったときに堤防用地とし て国が買い上げた土地となっている(2) 前述のとおり,権座には橋が架かっていないこ とから,ここで耕作する白王町の農業者は,今で も船で農業機械を運んで農作業を続けている。こ のような船で通作する光景はかつては琵琶湖沿岸 のどこでも見られたものだったが,現在でも残っ ているのはほぼ権座だけになってしまった。この ことから,権座は白王町にしかない白王町の最大 の地域資源と言える。白王町住民もこのような認 識を持っており,白王町ではこの権座を活用して むらづくりを積極的に展開して,これまでに権座 に絡めたさまざまな活動を行っている。 以降,白王町における諸活動の編成を紹介した 上で,諸活動の実施主体となる組織及び活動内容 と SC の関係を明らかにする。 (2)白王町におけるむらづくりの諸活動の変 遷 1)権座を地域資源と認識した契機  白王町の住民に権座が地域資源であるという認 識が共有され始めたのは,2006 年の重要文化的 景観の選定と景観農業振興地域整備計画の策定が 契機であった。2004 年に文化財保護法が改正さ れ,重要文化的景観の制度が創設されるととも に,景観法が制定され景観計画が制度化された。 近江八幡市は,文化財保護法の改正を受け,他の 自治体に先駆けて白王町を含む範囲を重要文化的 景観として選定の申し出を行った。  この選定に際しては,景観農業振興地域整備計 画の策定が必要となることから,近江八幡市は住 民参加による計画づくりを進めるため,選定範囲 に含まれる白王町,円山町,北ノ庄町の集落ご とに4回のワークショップを実施したが(3),この ワークショップによって,住民は白王町の景観の 良さ,独自性を認識するに至った。さらにワーク ショップを通じて,住民に景観について考えても らい,地域の景観を再認識し,農業をどう継続し ていくかを検討してもらった。その結果,「営農 を継続することで地域の景観が守られる」,「これ までの地域での生活や営農の積み重ねによって今 の景観ができあがっている」,「外部の人のためで はなく,自分たちのため,子や孫のための景観で ある」といった認識を共有することができた(4) そして,「近江八幡の水郷」は 2006 年1月に 全国で初めて重要文化的景観に選定され,一連の ⌿⍀‘ ኬ὘ᕰ ㎾Ờඳᖦᕰ Ⓣ⋜⏣ ᶊᗑ け䛴‘ ἀᓞ ⁘㈙┬ 第1図 白王町の位置         出所:筆者作成.

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ワークショップの成果をもとに,近江八幡市は 2006 年 12 月に全国初の景観農業振興地域整備計 画を策定した。 2)地域資源の保全活動  続いて,白王町における権座を含む地域資源全 般の保全活動の経緯について概説する。白王町で はさまざまな地域資源の保全活動を行っている が,もともとは鳥獣害対策から始まっている。白 王町では 1990 年代初めからイノシシによる農作 物への被害が出ていた。そこで,これまで農家の 個別対応にとどまっていた対策をイノシシ対策 研修会の開催など,地域ぐるみの対策へ転換し ていった。さらに,2006 年からは NPO 法人「お うみ木質バイオマス利用研究会」,国土緑化推進 機構,市,県,県立大学などと連携し,景観保 全,木質バイオマス利用,畜産振興等を目的と する白王里山再生プロジェクトを4年間実施し た。このプロジェクトでは,鳥獣害対策としての イノシシ除け及び景観整備のための近江牛放牧の 他,里山の間伐などが行われた。さらに 2007 年 には,琵琶湖森林づくり県民税を財源とした里山 リニューアル事業を実施して集落内の竹林を整備 し遊歩道を付けるなどの活動を行った。また,同 じ 2007 年から開始された農地 ・ 水・環境保全向 上対策事業に関しては,白王町は活動組織として 「白王町鳰(にお)の会」(以下,鳰の会)を設立 し事業初年度から参加している。この鳰の会の活 動は多面的機能支払交付金へと変わった現在でも 継続されている。その他,「地域まるごと保全活 動」ではきめ細かな景観づくりとして法面の草刈 りや景観作物(ひまわり)の作付けなどが行われ たほか,農道沿いのごみ拾い,農業濁水対策,魚 のゆりかご水田(水田でのニゴロブナの放流), 西の湖のヨシ刈りや透視度調査などの活動が行わ れている。 3)権座と関連した活動  橋が架かっていない島という現在では他に類を 見ない権座の特徴を活かして,白王町ではさまざ まな活動が行われている。このうち,権座を利用 して外部から人を呼び込む活動については,2006 年 11 月に開催された権座・水郷コンサートが最 初である。このコンサートには白王町外からの参 加者も含めおよそ 850 人が参加した。続いて,前 述の 2007 年に農地 ・ 水・環境保全向上対策の都 市との交流事業として,権座で田植え体験会を実 施した。2008 年 11 月には,権座・水郷コンサー トと併せて「農の収穫感謝祭」を初めて開催した。 これは,地元の人々が食事を提供し,コンサート を行うものである。翌 2009 年3月には,新酒の お披露目,地元食材を使った食事提供(これら 2つについては後述),コンサートなどの「権座 サポーターのつどい」を開催した。以降,農の収 穫感謝祭と権座サポーターのつどいは毎年恒例と なっている。この他に,権座に外部の人を呼び込 むための活動としては,これまでに田植え・稲刈 り体験,芋掘り体験,アートフェスティバル,観 光ツアーの受け入れ,テレビ番組の収録などがあ る。  次に権座でブランド化した商品の開発・販売に ついては,日本酒の販売がある。これは,上述の 田植え体験に当時酒造好適米の普及を担当してい た滋賀県職員がたまたま参加しており,権座での 滋賀渡船6号という酒造好適米の栽培を提案し た(5)。この提案を受け,白王町集落営農組合(以 下,営農組合)は 2008 年に滋賀渡船6号を権座 の 80a の水田で栽培し,日本酒の醸造は東近江市 の酒造会社に依頼した。日本酒の販売をきっかけ に NPO 法人権座・水郷を守り育てる会(以下, 育てる会)が設立された。育てる会では,権座で 栽培した滋賀渡船6号から醸造した日本酒を「權 座」と命名し,西の湖で採れるヨシを漉き込んだ 和紙をラベルにして会員に販売している。現在の 育てる会の会員はおよそ 120 人で,日本酒を販売 することから,近江八幡市内や近隣の酒屋も育て る会の会員になっている。現在では,権座の水田 は3a の体験用を除きすべて酒造好適米を栽培し ている。また,白王町では「権座」,「水郷」とい う言葉で農産物のブランド化に取り組んでおり, 権座では黒丹波や白大豆といった大豆やかぼちゃ の栽培も行っている。また,白王町では北之庄菜 という近江八幡唯一の伝統野菜の栽培も復活させ た。そしてこれらの伝統野菜や地元産食材を使っ た食事を「權座弁当」として来訪者に提供してい る。以上のような外部から人を呼び込んだり権座

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ワークショップの成果をもとに,近江八幡市は 2006 年 12 月に全国初の景観農業振興地域整備計 画を策定した。 2)地域資源の保全活動  続いて,白王町における権座を含む地域資源全 般の保全活動の経緯について概説する。白王町で はさまざまな地域資源の保全活動を行っている が,もともとは鳥獣害対策から始まっている。白 王町では 1990 年代初めからイノシシによる農作 物への被害が出ていた。そこで,これまで農家の 個別対応にとどまっていた対策をイノシシ対策 研修会の開催など,地域ぐるみの対策へ転換し ていった。さらに,2006 年からは NPO 法人「お うみ木質バイオマス利用研究会」,国土緑化推進 機構,市,県,県立大学などと連携し,景観保 全,木質バイオマス利用,畜産振興等を目的と する白王里山再生プロジェクトを4年間実施し た。このプロジェクトでは,鳥獣害対策としての イノシシ除け及び景観整備のための近江牛放牧の 他,里山の間伐などが行われた。さらに 2007 年 には,琵琶湖森林づくり県民税を財源とした里山 リニューアル事業を実施して集落内の竹林を整備 し遊歩道を付けるなどの活動を行った。また,同 じ 2007 年から開始された農地 ・ 水・環境保全向 上対策事業に関しては,白王町は活動組織として 「白王町鳰(にお)の会」(以下,鳰の会)を設立 し事業初年度から参加している。この鳰の会の活 動は多面的機能支払交付金へと変わった現在でも 継続されている。その他,「地域まるごと保全活 動」ではきめ細かな景観づくりとして法面の草刈 りや景観作物(ひまわり)の作付けなどが行われ たほか,農道沿いのごみ拾い,農業濁水対策,魚 のゆりかご水田(水田でのニゴロブナの放流), 西の湖のヨシ刈りや透視度調査などの活動が行わ れている。 3)権座と関連した活動  橋が架かっていない島という現在では他に類を 見ない権座の特徴を活かして,白王町ではさまざ まな活動が行われている。このうち,権座を利用 して外部から人を呼び込む活動については,2006 年 11 月に開催された権座・水郷コンサートが最 初である。このコンサートには白王町外からの参 加者も含めおよそ 850 人が参加した。続いて,前 述の 2007 年に農地 ・ 水・環境保全向上対策の都 市との交流事業として,権座で田植え体験会を実 施した。2008 年 11 月には,権座・水郷コンサー トと併せて「農の収穫感謝祭」を初めて開催した。 これは,地元の人々が食事を提供し,コンサート を行うものである。翌 2009 年3月には,新酒の お披露目,地元食材を使った食事提供(これら 2つについては後述),コンサートなどの「権座 サポーターのつどい」を開催した。以降,農の収 穫感謝祭と権座サポーターのつどいは毎年恒例と なっている。この他に,権座に外部の人を呼び込 むための活動としては,これまでに田植え・稲刈 り体験,芋掘り体験,アートフェスティバル,観 光ツアーの受け入れ,テレビ番組の収録などがあ る。  次に権座でブランド化した商品の開発・販売に ついては,日本酒の販売がある。これは,上述の 田植え体験に当時酒造好適米の普及を担当してい た滋賀県職員がたまたま参加しており,権座での 滋賀渡船6号という酒造好適米の栽培を提案し た(5)。この提案を受け,白王町集落営農組合(以 下,営農組合)は 2008 年に滋賀渡船6号を権座 の 80a の水田で栽培し,日本酒の醸造は東近江市 の酒造会社に依頼した。日本酒の販売をきっかけ に NPO 法人権座・水郷を守り育てる会(以下, 育てる会)が設立された。育てる会では,権座で 栽培した滋賀渡船6号から醸造した日本酒を「權 座」と命名し,西の湖で採れるヨシを漉き込んだ 和紙をラベルにして会員に販売している。現在の 育てる会の会員はおよそ 120 人で,日本酒を販売 することから,近江八幡市内や近隣の酒屋も育て る会の会員になっている。現在では,権座の水田 は3a の体験用を除きすべて酒造好適米を栽培し ている。また,白王町では「権座」,「水郷」とい う言葉で農産物のブランド化に取り組んでおり, 権座では黒丹波や白大豆といった大豆やかぼちゃ の栽培も行っている。また,白王町では北之庄菜 という近江八幡唯一の伝統野菜の栽培も復活させ た。そしてこれらの伝統野菜や地元産食材を使っ た食事を「權座弁当」として来訪者に提供してい る。以上のような外部から人を呼び込んだり権座 でブランド化した商品の販売の他にも,前述の景 観作物としてのひまわりの植え付け,ニゴロブナ の放流,バンブーグリーンハウスの建設(6)など の活動が行われており,これらの活動は主に地元 住民に向けたものである。 このような白王町における一連の活動に対し, さまざまな組織・団体が顕彰している。例えば 2008 年に営農組合が全国田園自然再生コンクー ル朝日新聞社賞を,2010 年には第 49 回農林水 産祭豊かなむらづくり農林水産大臣賞を受賞し, 2016 年には育てる会が第6回地域再生大賞の優 秀賞を受賞した。また,2013 年には育てる会の 活動が日本ユネスコ協会連盟からプロジェクト未 来遺産に登録されている。

6.白王町におけるむらづくりと SC

(1)活動組織と SC タイプ  白王町では,取組の性格や目的によりいくつか の活動組織を編成している(第2表)。最も基盤 的な組織は自治会であり,これは白王町の 63 戸 の住民のみが会員となる組織であり,明らかに同 質な者同士を結びつけるボンディング型 SC であ る。この自治会の範囲内の組織として,子供育成 会,老人クラブ,女性部などがあり,これらも当 然ながらボンディング型 SC となる。また,営農 組合は白王町内の農業者の一部,21 戸が組合員 となる組織であり,これもボンディング型 SC で ある。さらに,農地・水・環境保全向上対策や多 面的機能支払交付金を受けるために編成された組 織である鳰の会の会員は集落内の住民となること から,これもボンディング型 SC に分類される。 一方,ブリッジング型 SC に該当する活動組織 については,まず,みずすまし推進協議会が挙げ られる。これは滋賀県が進める琵琶湖水質改善事 業の1つである「みずすまし構想推進事業」の 一環で作られた組織であり,河川流域ごとに組織 されることから,白王町以外の集落の住民も含ま れ,ブリッジング型 SC に該当する。もう1つ, 権座・水郷を守り育てる会が挙げられる。この会 は白王町の住民及び権座での取組に賛同する外部 の者で構成される団体であり,営農組合が中心的 役割を担っているが,外部の者も参加している団 体であることから,ブリッジング型 SC であると 言える。 (2)むらづくりの活動と SC 西澤他(2016)では白王町における活動を①農 地・農業用水の維持管理,②地域コミュニティ の維持,③環境の保全・向上,④地域資源の積 極的な活用,⑤外部へのアピールの5つに分類 し,これらの5類型の活動が階層構造をなして いることを明らかにしている。本稿では,西澤他 (2016)の活動の5類型に従い,各活動とボンディ ング型,ブリッジング型の双方の SC との関係を 見ていく。 第3表は5類型に分類された活動とそれを実 施する組織,その組織の SC タイプをまとめたも のである。これを見ると,地域資源を活用したむ らづくりの基礎的部分をなす①農地や農業用水の 維持管理は,集落機能維持のために最低限必要な 地域資源の維持管理であり,これに該当する草 刈り,水守当番,水路管理,竹林伐採について は,ボンディング型 SC である自治会や集落営農 組合,鳰の会などが担っていることがわかる。ま た,③環境の保全・向上は,集落内の環境をより 第 2 表 白王町に関連する主な組織 組織名 構成員 発足 SC タイプ 白王町自治会 住民 従来より ボンディング型 (子ども育成会) 住民 従来より ボンディング型 (老人クラブ) 住民 従来より ボンディング型 (女性部) 住民 従来より ボンディング型 白王町集落営農組合 農業者 2006 年 ボンディング型 鳰の会 住民 2007 年 ボンディング型 みずすまし推進協議会 住民・近隣集落住民 2008 年 ブリッジング型 権座・水郷を守り育てる会 住民・地域外の者 2008 年 ブリッジング型 出所:筆者作成. 注.括弧付きで示した組織は白王町自治会の範囲内の組織である.

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良くするための活動であり,①の最低限の活動が 行われた上で実施されるものである。これについ ても,自治会,鳰の会といったボンディング型 SC により実施されていることがわかる。  さらに④地域資源の積極的活用は,③のような 集落の居住環境の保全・向上のための活動だけで なく,住民アメニティ向上のために地域資源を活 用しようとする活動もあり,イベント的な活動な ど住民に楽しみや喜びを提供するものも含まれて くる。この段階になると,ボンディング型 SC だ けではなく,ブリッジング型 SC を形成する組織 も実施主体に含まれるようになる。そして,集落 の住民だけでなく,外部の者を呼び込んで集落の 地域資源を楽しんでもらう⑤外部への積極的ア 第 3 表 白王町の各活動の実施組織と SC タイプ 活動の 種類 具体的内容 実施主体⑴ SC タイプ  ⑵ 権座との関係⑶ むらづくりの類型⑷ ①農地や農業用水の維持管理         (生産) 草刈り 自治会 BD     水守当番 営農 BD     水路管理 営農 BD       竹林伐採(水田周り) 鳰の会 BD     ②地域コミュニティの維持         (社会) 祭り(1,2,4,10 月) 神社 --     運動会・球技大会 学区 --     ふれあいサロン 福祉協力員 --     自治会ニュース(月1回) 個人 --       グラウンドゴルフ大会 自治会 BD     ③環境の保全・向上         (自然) 里山管理(下草刈り) 自治会 BD     放牧 自治会 BD     ごみ拾い 自治会 BD     水田排水の透視度調査 鳰の会 BD ○   ヨシ刈り 鳰の会 BD ○   魚のゆりかご水田(魚道設置) 鳰の会 BD ○   ニゴロブナ放流 鳰の会 BD ○     景観作物の栽培 鳰の会 BD ○   ④地域資源の積極的な活用         権座での田植え,稲刈り体験 営農,育てる会 BD/BR ○ 集客型 酒米栽培 営農 BD ○ 移出型 カボチャ栽培 営農女性部 BD ○ 移出型 バンブーグリーンハウス 育てる会 BR ○   権座弁当 女性営農 BD △ 移出型   権座での芋掘り体験 鳰の会 BD ○ 集客型 ⑤外部へのアピール         (外部) 水郷コンサート 育てる会 BR ○ 集客型 情報発信(育てる会ブログ) 育てる会 BR ○   視察 関係各主体 -- ○ 集客型 農の収穫感謝祭 営農 BD ○ 集客型 権座サポーターのつどい 育てる会 BR ○ 集客型 観光ツアー 育てる会 BR ○ 集客型 テレビ番組収録 育てる会 BR ○ 日本酒販売 育てる会 BR ○ 移出型   アートフェスティバル (株)まっせ⑸ -- 集客型 出所:西澤ら(2016)の表1を改変して作成した. 注⑴  営農:白王町集落営農組合,営農女性部:白王町集落営農組合女性部,鳰の会:多面的機能支払の活動組織, 育てる会:権座・水郷を守り育てる会,学区:小学校区.  ⑵ BD:ボンディング型,BR:ブリッジング型,--:特定できず.  ⑶ ○:関連あり,△:一部関係あり.  ⑷ 坪井(2011)の類型を引用した .  ⑸ 近江八幡市などが出資する地元のまちづくり会社.

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良くするための活動であり,①の最低限の活動が 行われた上で実施されるものである。これについ ても,自治会,鳰の会といったボンディング型 SC により実施されていることがわかる。  さらに④地域資源の積極的活用は,③のような 集落の居住環境の保全・向上のための活動だけで なく,住民アメニティ向上のために地域資源を活 用しようとする活動もあり,イベント的な活動な ど住民に楽しみや喜びを提供するものも含まれて くる。この段階になると,ボンディング型 SC だ けではなく,ブリッジング型 SC を形成する組織 も実施主体に含まれるようになる。そして,集落 の住民だけでなく,外部の者を呼び込んで集落の 地域資源を楽しんでもらう⑤外部への積極的ア 第 3 表 白王町の各活動の実施組織と SC タイプ 活動の 種類 具体的内容 実施主体⑴ SC タイプ  ⑵ 権座との関係⑶ むらづくりの類型⑷ ①農地や農業用水の維持管理         (生産) 草刈り 自治会 BD     水守当番 営農 BD     水路管理 営農 BD       竹林伐採(水田周り) 鳰の会 BD     ②地域コミュニティの維持         (社会) 祭り(1,2,4,10 月) 神社 --     運動会・球技大会 学区 --     ふれあいサロン 福祉協力員 --     自治会ニュース(月1回) 個人 --       グラウンドゴルフ大会 自治会 BD     ③環境の保全・向上         (自然) 里山管理(下草刈り) 自治会 BD     放牧 自治会 BD     ごみ拾い 自治会 BD     水田排水の透視度調査 鳰の会 BD ○   ヨシ刈り 鳰の会 BD ○   魚のゆりかご水田(魚道設置) 鳰の会 BD ○   ニゴロブナ放流 鳰の会 BD ○     景観作物の栽培 鳰の会 BD ○   ④地域資源の積極的な活用         権座での田植え,稲刈り体験 営農,育てる会 BD/BR ○ 集客型 酒米栽培 営農 BD ○ 移出型 カボチャ栽培 営農女性部 BD ○ 移出型 バンブーグリーンハウス 育てる会 BR ○   権座弁当 女性営農 BD △ 移出型   権座での芋掘り体験 鳰の会 BD ○ 集客型 ⑤外部へのアピール         (外部) 水郷コンサート 育てる会 BR ○ 集客型 情報発信(育てる会ブログ) 育てる会 BR ○   視察 関係各主体 -- ○ 集客型 農の収穫感謝祭 営農 BD ○ 集客型 権座サポーターのつどい 育てる会 BR ○ 集客型 観光ツアー 育てる会 BR ○ 集客型 テレビ番組収録 育てる会 BR ○ 日本酒販売 育てる会 BR ○ 移出型   アートフェスティバル (株)まっせ⑸ -- 集客型 出所:西澤ら(2016)の表1を改変して作成した. 注⑴  営農:白王町集落営農組合,営農女性部:白王町集落営農組合女性部,鳰の会:多面的機能支払の活動組織, 育てる会:権座・水郷を守り育てる会,学区:小学校区.  ⑵ BD:ボンディング型,BR:ブリッジング型,--:特定できず.  ⑶ ○:関連あり,△:一部関係あり.  ⑷ 坪井(2011)の類型を引用した .  ⑸ 近江八幡市などが出資する地元のまちづくり会社. ピールという最終段階に至ると,ほとんどの活動 がブリッジング型 SC により行われていることが わかる。 続いて,地域資源すなわち権座の活用と各段階 の関係を見る。第3表では,白王町最大の地域 資源である権座との関連も記している。これを見 ると,権座を活用した活動は③環境の保全・向上 の段階から現れているが,③の段階では西の湖の 透視度調査,ヨシ刈り,景観作物の栽培など,権 座の維持管理的な活動が中心である。そして④の 段階に進むと,ほとんどの活動が権座と関連した ものになっており,さらに⑤の段階ではすべての 活動が権座との関連性を有している。このような 視点から白王町の活動を見ると,白王町では従来 より農業生産基盤や地域コミュニティの維持のた めの活動を実施して住民の生活基盤を維持してき た。この段階まではどの集落でも一般的に行わ れる最低限の活動であり,ボンディング型 SC で 「上手く切り抜け」てきた部分に相当する。また, この段階までは権座の活用には至っていない。白 王町のむらづくりの活動はこれらの活動の上に, さらに③,④の段階を経て権座の活用に発展し, 最終的に⑤の外部の者を呼び込むため,外部にモ ノを売るための手段としての権座の活用に至って いる。この段階ではブリッジング型 SC が重要な 役割を果たしており,これが権座を活用した「積 極的に前へと進む」むらづくりの活動と言えよう (第4表)。  以上をまとめると,既存研究で指摘されている とおり,白王町におけるむらづくりの取組におい ても,地域資源の維持管理といった従来からの活 動ではボンディング型 SC が関係していることが 示された。さらに,地域資源を活用したむらづく りという従来の活動範囲を越えた新たな活動で は,特に外部からの来訪者を獲得するために権座 を活用する取組において,ブリッジング型 SC が 関係していることが示された。 (3)集客型及び移出型むらづくりとブリッジ ング型 SC  さらに,白王町におけるこれらの活動を坪井 (2011)の地域活性化の類型と照らし合わせてみ る。第3表には白王町のむらづくりの活動が, 坪井のむらづくりの類型である集客型,移出型の どちらに該当するかも示した。坪井は,むらづく りを外部とのモノ・人の交流と定義しているた め,坪井(2011)で定義される集客型または移出 型むらづくりに合致するものは,④地域資源の積 極的活用の段階以降である。まず集客型むらづく りの活動に関しては,ほとんどがブリッジング型 SC によって担われており,人を呼び込む活動に は外部とのネットワークの活用が求められるもの であることがわかる。一方で,移出型むらづくり の活動では,酒米やカボチャの栽培,権座弁当の 提供などはボンディング型 SC で行われているこ とがわかる。これらの活動は地域資源を利用した 商品の生産段階にあたり,そこではボンディング 型 SC が活用されている。反面,同じ移出型むら づくりでも日本酒の販売はブリッジング型 SC に より行われており,外部での販路の確保などの販 売面に関しては,やはりブリッジング型 SC の活 用が求められていることがわかる。 第 4 表 各活動類型と生活基盤,権座の関係   生活基盤 権座 ①農地や農業用水の維持管理 最低限の維持 ②地域コミュニティの維持 ③環境の保全・向上 改善・向上さらなる 最低限の維持 ④地域資源の積極的な活用 集落内のイベントに活用 ⑤外部へのアピール   外部へのモノの販売に活用地域外の者の呼び込み, 活用される SC のタイプ ボンディング型 ブリッジング型       出所:筆者作成.

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また,現在の白王町のむらづくりの活動は,日 本酒や農産物の販売といった移出型むらづくりも 散見されるものの集客型が中心であることもわか る。これは,移出型むらづくりでは,集客型むら づくりとは異なり商品の研究・開発やブランド化 や販路確保などのマーケティングに多くの時間や 労力,そして幅広いブリッジング型 SC が必要と なるためと考えられる。実際,日本酒「權座」の 開発のきっかけは外部の人の勧めから酒造好適米 を栽培し始めたことである。また,日本酒の醸造 は市外の酒造会社に依頼している。これらの人や 組織とのつながりはすべてブリッジング型 SC と 言えよう。以上のように,移出型むらづくりで は,より多くのブリッジング型 SC が必要となる ため,白王町でも移出型のむらづくりが成熟する 段階まではいまだ達していないと推察できる。西 澤他(2016)では,現時点までの白王町のむらづ くりの活動を5段階に分類しているが,今後さ らにむらづくりが進展すると,例えば外部への 「地域資源の販売」といった6段階目が追加され るかもしれない。この点も含めて,今後の白王町 のむらづくりの展開に注目したい。 (4)両タイプの SC 同士の関係 以上の分析から,白王町のむらづくりの活動に おいては,ボンディング型 SC で地域資源を維持 しつつ,ブリッジング型 SC において,地域資源 を積極的に活用し外部からの来訪者の呼び込みを 行っていることが示された。白王町では,各種イ ベントの積極的な展開により,これまで就職や結 婚に伴い町を離れていた若者世代が U ターンす る事例や,集落内への定住希望の問い合わせが増 加している。これらの現象は「農」を中心とした むらづくりの結果として,白王町の「魅力」が認 識・再認識された現れであると考えている(農林 水産省,online)。実際に,白王町は 2005 年から 2015 年にかけて人口,世帯数ともに増加してお り(7),これは必ずしも権座を活用したまちづくり による成果ではないものの,むらづくりについて 具体的な成果が数値として表れているとみること もできる。さらに,このような U ターン者,定 住希望者の増加が営農組合の自信と誇りにつなが るとともに,地域全体として活気を取り戻してい る(農林水産省,online)。 ただし,Sobel(2002)が指摘するように,幅 広いブリッジング型 SC の展開を重視すると,も う一方のボンディング型 SC がおろそかになるこ とも危惧される。地域資源を活用したむらづくり には双方の SC が必要ということを鑑みると,両 タイプの SC の間のバランスをどのように取るか が課題となるだろう。しかし,ボンディング型, ブリッジング型両 SC の関係については,必ずし もトレードオフの関係とはならないとも考えられ る。松下(2009)では,ブリッジング型 SC が乏 しい集落ほど,ボンディング型 SC が共同活動の 実施に及ぼす影響も小さくなるとして,両者に正 の相関関係があることが示されている。 筆者らは,白王町の事例においては , 4(2) で指摘した両タイプの SC にポジティブ・スパイ ラルが作用しているのではないかと予想してい る。すなわち,具体的には,ボンディング型 SC である営農組合が,ブリッジング型 SC である育 てる会の影響を適度に受けて,桜井(2012)が指 摘するようなボンディング型 SC の負の側面を和 らげ,育む会の活動展開をサポートしていると いったことが予想される。今後,両タイプの SC によるポジティブ・スパイラルの有無を検証する ことが必要と考える。これは,いわば Takayama and Nakatani(2017)のような,むらづくり活動 による SC への影響を明らかにすることである。 ポジティブ・スパイラルがあることを立証できれ ば,社会全般における活性化は,同質的なつなが りと異質的なつながりの双方がなければ達成でき ないといった,地域活性化・まちづくりに不可欠 な条件をより明確にすることができるだろう。

7.おわりに

 本稿では,地域資源を活用したむらづくりの事 例として滋賀県近江八幡市白王町を事例として取 り上げ,地域資源を活用したむらづくりの各段階 における,ボンディング型とブリッジング型双方 の SC の役割を検証することを目的として分析を 進めてきた。その結果,むらづくりの活動の段 階に応じて利用される SC のタイプが漸次的に変 わってくることが明らかになった。すなわち,白

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