地域サービスの高度化に向けて -SOA活用でサービスを連携・統合- : 1.公共サービスのあるべき姿とその実現に向けた取り組み
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(2) 特集. 1. 地 域 サービスの 高 度 化 に 向 けて. く,協力しようとする外部機関にとっても有用なことが. 務要件に加えて,他機関との情報連携に必要な要件を反. ある.システムの設計段階では見過ごされがちだが,シ. 映するような取り組みが必要になる.たとえば先の引越. ステムは自らの組織の業務効率化に役立つだけではなく,. しの例であれば,市役所が電子申請システムを設計する. 外部と連携させることで別の側面からの価値を持つこと. に際して,自らの住民登録業務に必要な機能だけではな. がある.こうした価値を見出すための戦略的な取り組み. く,電力会社などへ転居通知を行うための機能も検討す. が重要である.. る必要がある.. その第一歩は,地域における個々の関係機関の情報資. こうした取り組みを進めるためには,地域 ICT サービ. 産やサービスの相互関係を,地域活動全体の視点で再. スのあるべき姿が関係機関の間で共有されなければなら. 度捉えなおし,公共ネットワーク上での情報の流れの交. ない.その上で,関係機関のそれぞれが自らの役割に応. 通整理を行うことである.暮らしやすいまちづくりには,. じて,技術上,運用上,制度上のさまざまな対処方法を. 生活圏全体の人の行動や物流等に配慮した都市計画の検. 検討する必要がある.. 討が必要になるように,新しい公共サービスの実現には,. これは非常に難しい作業である.地域の関係機関を横. 情報の流れを円滑化するための全体設計,いわば「電子. 断するような公共情報インフラを設計,構築するとなる. 都市計画」を検討することが重要になる.. と,前例や類例の知見の蓄積はまだ十分ではなく,現場. たとえば「引越し」を考えてみよう.転入者は引越し. は試行錯誤の連続となるのが明らかである.関係機関間. の際に,元住所(や新住所)で利用していた(あるいは. で適切な役割分担を設定することだけでも困難な作業だ. 利用しようとする)サービスの提供機関に転居通知を出. が,その後個別機関が与えられた役割を全うするために. す必要がある.転居通知が必要な機関は,市役所,郵便. 対策すべきことも多い.地域 ICT サービスの事業化に着. 局,電話会社,電力会社,ガス会社,水道局,銀行,ク. 手してみて初めて問題の存在が明らかになるということ. レジットカード会社,プロバイダ,等々たくさんある.. もあるだろう.. さらに細かく見れば,市役所の中だけでも住民登録,健. たとえば技術面では,ネットワークにインターネット. 康保険,児童手当等の手続きがある.これらのそれぞれ. を用いるのは主流になったが,その上の情報システムを. について,転入者と各機関の間では氏名,新住所,旧住. 連携させるアーキテクチャには特に主流と呼べる方式は. 所,顧客番号といったさまざまな情報を交換する必要が. ない.実際に自治体のシステムは,メインフレーム,ク. ある.こうした手間は ICT の活用で大幅に効率化できる. ライアントサーバシステム,Web アプリケーションの. はずである.. システムなどが混在しており,連携に際して必要となる. ここにもし,一度入力した氏名,新住所,旧住所等の. 対策は多種多様である.また運用面でも,アウトソーシ. 情報を情報連携によって関係機関へ通知するサービス. ングの可否やその際の SLA(Service Level Agreement). があれば,転入者も関係機関も引越しにかかる手間を大. の考え方は組織ごとにさまざまである.さらに制度面で. 幅に減らすことができる.さらにこのサービスで,病院,. も,関連する法制度,セキュリティポリシーの記載内容. 学校,自治会等の地域の生活情報の提供も行えば,転入. や,それを支える組織体制と職権の範囲などは,組織ご. 者は手続きの効率化に加えて地域のさまざまな活動に関. とのそれぞれの置かれた状況によって幅がある.. 心を持つ機会も得られる.一方の情報提供者にとっても. こうした数々の設計上の制約条件を調整しなければ情. 不意に現れる転入者に対して確実に情報提供をする機会. 報の流れの整理はできないが,これらは相互に依存しあ. が得られるようになる.. っているため,一筋縄ではいかない.たとえば情報セキュ. このような展望を持てば,ICT が新たな地域の成長の. リティ対策の評価は,技術的な対策だけではなく,運用. 核としての役割を担う可能性が見えてこないだろうか.. 上,制度上の対策を同時に評価しなければサービスのリ. 適切な情報連携を設計することで,従来結びつきのなか. スクを十分に分析したことにはならない.技術的なリス. った者の双方に新たな価値をもたらすことができる.こ. クがあるとしても,制度や運用でそのリスク回避が可能. のような地域の公共サービスを,ここでは「地域 ICT サ. ならばその技術を活用し続けてもよいこともある.技術. ービス」と呼ぶことにしたい.また,その情報連携を支. のみ,あるいは制度のみに注目して,それぞれで解決を. える関係機関のシステムの連携構造を「公共情報インフ. 図るのでは,全体としては不調和な解になることがある.. ラ」と呼ぶことにしたい.. これらの設計の不調和が情報連携の淀みとならないよ うに,技術,制度,運用のそれぞれの側面での検討が過. ● 公共情報インフラの設計における課題. 不足なく補い合うような「適切な設計」を行うのが理想. 公共情報インフラを構築するためには,関係機関のそ. だが,情報連携の規模が大きくなるにつれて個別地域ご. れぞれのシステムを設計する際に,組織ごとの固有の業. とにこれを行うのはますます困難になっている.連携規. 430. 48 巻 5 号 情報処理 2007 年 5 月.
(3) 公共サービスのあるべき姿とその実現に向けた取り組み 公共情報インフラの設計. 1. H13.1 高度情報通信ネットワーク本部設置 H13.1 e-Japan 戦略策定 H15.7 e-Japan 戦略Ⅱ策定 H18.1 IT 新改革戦略策定 H18.9 重点計画 2006. A. 表 -1 政府の IT 戦略の進展 ICT による連携構造の「見える化」 (例:行政手続きのワンストップ化) B C. 技術面の検討. (例:セキュリティ,生産性の向上). 制度面の検討. (例:制度とシステム実装の関係) E. 運用面の検討. D. (例:許容リスク,責任分界). ・個別地域ごとにしか継承されない知見 ・独自性が横展開を阻害する一面も. ・全国で利用可能な知見の蓄積・改善 ・連携基準の提示による横展開の加速. 図 -1 全国の知見の蓄積と再利用. 模の拡大によるシステムの複雑化によって,いずれシス. れを基軸とした知見の集約を進めることが重要である. テムの運用コストを下げるのが困難になり,新たなシス. (図 -1).そのため,政府の IT 戦略の下で地域情報プラ. テムへの投資が不可能になるのではないかと懸念される. ● 電子都市計画と公共情報インフラの設計 現在も全国の自治体で日々新しい情報システムが構. ットフォームプロジェクトが立ち上がった.. 地域情報プラットフォームの取り組み. 築,運用されている.多くの自治体で,情報システム. ● 政府の IT 戦略における位置づけ. が増えるにつれて,システム調達や情報資産管理のポ. 政府の IT 戦略の司令塔である「高度情報通信ネット. リシーを一貫するのが困難になっており,部門ごとに. ワーク社会推進戦略本部(IT 戦略本部)」が内閣に設置. 構築したシステムがデータの重複管理を行っている. されたのは平成 13 年のことであるが,それ以来,政府. などの,非効率が生じがちであるという声をよく耳に. は「e-Japan 戦略」 (平成 13 年 1 月) , 「e-Japan 戦略. する.. Ⅱ」(平成 15 年 7 月), 「IT 新改革戦略」 (平成 18 年)2 ). ). 総務省が行った調査 1 では,自治体の行政情報化推. と IT 戦略を策定してきた(表 -1). 「e-Japan 戦略」策. 進経費は全国で毎年 4,000 億円を超えている.これは. 定以降の 5 年間で,我が国の IT インフラは世界最高水. 行政情報化担当課における経費の合計であるから,行. 準に達したと評価されており,現在は「IT 新改革戦略」. 政情報担当課以外の部門が運用するシステムや,地. に基づいて IT インフラの活用と IT による構造改革を充. 域の関連機関の運用するシステムを加えれば公共部. 実させていくフェーズに移っている.. 門によるシステム開発投資はこれを超える規模にな. 「IT 新改革戦略」では,医療,行政などのいくつかの. る.しかし,昨今の厳しい財政状況の中で,新たなシ. 分野ごとに目標を設定している.行政分野の目標は「世. ステム開発投資を行う余力も乏しいというのが実情で. 界一便利で効率的な電子行政」である.この目標達成に. ある.. 向けて,13 の具体的方策が示されている.その方策の. この全国の公共部門のシステム開発投資から得られる. 1 つに,「国・地方公共団体は,情報システムのデータ. 知見の集約を進め,情報システムの非効率を減らしなが. の標準化を推進する.また,転居や転出の際の窓口にお. ら,新しい公共情報インフラの構築に継続的に取り組め. ける各種行政手続きの一括申請や,地方公共団体の防災. るようにすることが重要である.そのためにはリファレ. 等の公共サービスの共同展開を実現するため,情報シス. ンスモデルとしての「適切な設計」を示す必要がある.. テムの連携基盤を開発し,2007 年度までに標準化を図. 公共情報インフラの設計方法は唯一ではない.しか. るとともに,この標準に基づく地方公共団体のシステム. し,複数の異なる設計を各地域が個別に採用するのでは,. 改革を推進する」とある.. 知 見 の 集 約 は 困 難 で あ る. 設 計 を 1 つ に 絞 っ て, こ. ここで述べられた「各種行政手続きの一括申請」や「防 IPSJ Magazine Vol.48 No.5 May 2007. 431.
(4) 特集. 1. 地 域 サービスの 高 度 化 に 向 けて <A 自治体>. 住民. バック系 業務ユニット. フロント系 業務ユニット. 共通系 業務ユニット. 統合 DB 機能 統合DB. サービス基盤 PF通信機能. セキュリティ. SOAP. プロセス 制御. 地域ポータル. 共通機能. サービス基盤. EE. トランザクション 管理. サービス ディレクトリ. 認証. ・・・. 運用監視. ・・・. <B 自治体>. <民間企業> 民間 業務アプリ. ・・・. SS. BPM機能. <地域ポータル運営会社>. 高信頼性 通信. フロント系 業務ユニット. バック系 業務ユニット. 共通系 業務ユニット. サービス基盤 基盤アプリ. サービス基盤 基盤アプリ. DB : Data Base PF : Platform BPM : Business Process Management. 図 -2 地域情報プラットフォームのイメージ. 災等の公共サービスの共同展開」といった例は,先に述. 域情報プラットフォーム』仕様の策定を推進する」.. べたような将来の公共情報インフラが生み出す地域 ICT. このような仕様の設計に際しては,なるべく多くの専. サービス像を示すものである.地域 ICT サービスの実現. 門家がかかわって技術,制度,運用といった多面的な検. に向けた取り組みとして, 「データの標準化」や「情報. 討を行うことが必要になる.そのためこの仕様策定は産. システムの連携基盤の開発」が挙げられている.公共情. 学官が連携して設立した, (財)全国地域情報化推進協. 報インフラの設計は,まずはこの 2 つの領域から取り. 会(通称 APPLIC)において検討を進めることとされた.. 組まれる.. 総務省はこれを支援する施策を展開しており,両者は連. 「IT 新改革戦略」は平成 22 年までの 5 年間を目標と. 携を図りながら,公共情報インフラの「適切な設計」の. した戦略であるが,その最初の年度にあたる平成 18. 確立に向けた検討を進めている.. 年度の目標が「重点計画 –2006」にまとめられている. 重点計画には連携基盤の開発について次のように記述さ. ● 産学官連携の取り組み. れた. 「ユビキタス環境の実現のため,2008 年までに,. 地域情報プラットフォームプロジェクトは,システム. ユビキタスプラットフォームの研究開発成果の活用等に. 連携基盤とこれを活用した組織横断的な行政サービスを. より,地方公共団体の効率的で質の高い電子自治体を支. 実現するために,産学官の取り組みの調和を図りながら. えるシステム連携基盤『地域情報プラットフォーム』の. 公共情報インフラの設計を進めるプロジェクトである.. 仕様を策定し,その全国標準化を図る.2010 年までに. プロジェクトの中核は APPLIC で,総務省と(独)情. 同標準により連携可能なアプリケーションの展開を推進. 報通信研究機構(通称 NICT)がこれと連携を図っている.. する.2006 年度は,電子自治体のワンストップサービ. APPLIC は連携基盤の標準化に,総務省は自治体の EA. スや防災連携等の実証実験を行い,自治体の情報システ. 分析および地域 ICT サービスモデル調査に,NICT は研. ムの連携に必要となる技術開発を進めるとともに,自治. 究開発にそれぞれ取り組んでおり,互いに成果を共有す. 体 EA ☆1. ☆1. 事業や,データ標準化の成果を活用して,『地. Enterprise Architecture,組織の全体最適の観点から,業務・シ ステムの最適化を図る設計手法. 432. 48 巻 5 号 情報処理 2007 年 5 月. ることで相乗効果を高める関係にある. 《合意形成と標準化活動(APPLIC)》 APPLIC は民間企業,学識経験者,自治体等から構成.
(5) 公共サービスのあるべき姿とその実現に向けた取り組み . 1. 【地域ICTサービス】. 【電子自治体】. 【現状】 【現状】. ・システム間を連携する ・システム間を連携する アーキテクチャの不在 アーキテクチャの不在. ・自治体業務の効率化 ・自治体業務の効率化 連携範囲の拡大 ・調達コスト削減 ・調達コスト削減 ・サービス利便性向上 ・サービス利便性向上. ・連携範囲の拡大による ・連携範囲の拡大による 新たな価値の創出 新たな価値の創出. IDC 民間企業 など. 他自治体. 自治体内部. 地域情報プラットフォームの導入 フェーズ1 (自治体LAN ). 公共機関. フェーズ2 ( 地域公共ネットワーク). 地域組織 NPO など. フェーズ3 (インターネット). 図 -3 地域情報プラットフォームの検討フェーズ. される非営利の公益法人で,産学官連携の要である.会. 域情報プラットフォームは図 -2 に示すように,業務ユ. 員数は 500 を超え,現在も増え続けている.現時点で. ニットとサービス基盤からなり,業務ユニットは自治体. すべての都道府県,すべての政令指定都市,全国市長会,. の業務システムに必要な機能を持ち,サービス基盤はさ. 全国町村会が参加しているほか,国内で活動しているハ. まざまな業務ユニットを連携させる際に必要となる PF. ードベンダ,ソフトベンダ,キャリア,SI,コンサルタ. 通信機能,統合 DB 機能,BPM 機能,共通機能を持つ.. ント等が参加している.. アプリケーション委員会は地域情報プラットフォーム. オープンな議論を担保するため,入会には会費負担以. を活用した地域 ICT サービスの提案を行うのが任務であ. 外には特段の制限は設けられておらず,標準仕様の策定. る.現在までに防災アプリケーション,医療・健康・福. は投票によって行われる.成果物は公開され,その利用. 祉アプリケーション,教育アプリケーションの提案をそ. は無償である.. れぞれまとめている.いずれも自治体,国および地域の. APPLIC には 4 つの委員会が設置されているが,この. 関係機関の横断的な連携による新たな公共サービスの実. うち公共情報インフラの設計に関する検討をしているの. 現を指向した提案になっている.. は技術専門委員会とアプリケーション委員会である.. 地域情報プラットフォームプロジェクトの検討対象は. 技術専門委員会は地域情報プラットフォームの標準仕. きわめて広いが,着実に議論を重ねるため図 -3 に示す. 様の策定を行うのが任務である.標準仕様は大きく, 「ア. ような大きく 3 つのフェーズを想定して検討が進めら. ーキテクチャ標準仕様」 ,「プラットフォーム通信標準仕. れている.フェーズ 1 は電子自治体の最適化,フェー. 様」,「相互接続仕様」 , 「自治体業務アプリケーションユ. ズ 2 は自治体間の連携,フェーズ 3 は官民連携による. ニット標準仕様」等からなる.これらはシステム連携に. 地域 ICT サービスの実現である.平成 19 年度末までに. 必要な外部インタフェース群を規定するものであり,一. はフェーズ 3 までの一通りの検討を達成すべく議論が. 連の仕様全体で公共情報インフラの設計を表現している.. 進められている.. 同委員会はこれとは別に「地域情報プラットフォーム. 標準仕様は,全国各地における地域 ICT サービスの. 基本説明書」. 3). を刊行して,地域情報プラットフォー. 事業化に際して,情報システムの調達者である自治体と,. ムの狙いと検討方針を明確化している.これは会員の意. 開発者である民間企業の双方の議論に共通の枠組みを提. 識合わせや,将来の議論の方向性を確認するための資料. 供することを目指してまとめられている.現時点ですで. として活用されている.基本説明書では,自治体内部の. にいくつかの先進自治体において地域情報プラットフォ. 行政情報システムの全体最適化を達成しつつ,他自治体. ームの考え方に基づくシステム構築が始まっており,ま. との連携や民間企業との連携による地域 ICT サービスの. たいくつかの民間企業において地域情報プラットフォー. 実現を図るとしている.. ム仕様のサポートが表明されている.調達者と開発者の. 基 本 設 計 は,Web サ ー ビ ス 技 術 を 活 用 し た SOA. 双方にこうした動きが広がれば,設計段階の調整が円滑. (Service Oriented Architecture)に基づいている.地. になり,地域 ICT サービスの事業化の機会も得やすくな IPSJ Magazine Vol.48 No.5 May 2007. 433.
(6) 特集. 1. 地 域 サービスの 高 度 化 に 向 けて. ると期待される.また,全国各地で個別に構築したシス. タスプラットフォームプロジェクト」に基づくものであ. テムを,公共情報インフラの一部として活用することも. り,「ネット上で自在に認証,課金,流通,サービス統. 容易になると期待される.. 合などができるプラットフォームをつくる」ことを目標 とした研究領域である.. 《地域 ICT サービスモデルの検討(総務省) 》. 本研究開発は,複数のネットワークドメインにまたが. 総務省では電子自治体や地域 ICT サービスの将来像. るような大規模なシステム連携構造を対象として,サー. についての調査をいくつか行っている.近年の調査で地. ビス開発,サービス連携,サービス運用におけるそれぞ. 域情報プラットフォームプロジェクトとのかかわりが特. れの側面における課題解決のための研究を行うとともに,. に深いものとして, 「自治体 EA 事業(平成 17 年~平成. これらの研究成果を統合した実証実験を行うものである.. 18 年)」と「ユビキタスネット社会における地域 ICT サ. 個々の側面での要素技術の研究開発に所定の成果の達成. ービスの実現に関する調査事業(平成 18 年~平成 19. が求められることはもとより,それらが統合された状態. 年)」がある.. でも矛盾なく運用可能な技術体系を確立することが求め. 「自治体 EA 事業」は自治体の組織全体の業務・シス. られている.. テムの最適化に向けた業務分析を行う事業である.レガ. 最初の研究成果は平成 19 年度末に得られる見込みで. シーシステムの見直しとオープン化,国や地方自治体間. あるが,実証実験においては電子自治体への実装を想定. の連携,既存業務の見直しとサービスの向上を目標とし. した環境を設定する予定である.実験環境となる電子自. て,埼玉県川口市をモデルに業務の現状分析が行われた.. 治体モデルは地域情報プラットフォーム標準仕様に準拠. 検討成果は「自治体 EA ‒業務・システム刷新化の手引. している.これによって,研究活動が社会の実情を踏ま. き‒」としてまとめられ,併せて業務参照モデルとデー. えたものになると同時に,研究成果の社会還元を行いや. タ参照モデルが総務省標準第一版として添付されている.. すくしている.. この総務省標準は,APPLIC の地域情報プラットフォー. 図 -4 に,産学官連携の地域情報プラットフォームプ. ム標準の検討においても参照されている.. ロジェクトの関係者と役割をまとめる.. 「ユビキタスネット社会における地域 ICT サービスの 実現に関する調査事業」は ICT による連携を活かした 新たな公共サービスモデルを仮説的に設定し,そのニ. 地域情報プラットフォームへの期待. ーズや,これを構築する際の課題を洗い出す調査であ. ● 技術,制度,運用の一体的な設計の効果. る.検討対象とするサービスは,「自治体の業務効率化,. 電子自治体や地域 ICT サービスの構築の過程では,技. 地域住民へのサービス向上または地域活性化を目的とし. 術,制度,運用の各側面でさまざまな知見が得られる.. て,自治体のサービスを含む複数のサービスが Web サ. しかしこうした知見はともすれば構築にかかわった当事. ービス技術を用いて連携することによって実現するもの. 者にしか継承されないことも多い.これは,各々の事業. で,主に当該自治体を中心とした地域の住民向けに提供. 主体が,事業化を通じて得られる知見を副次的なものと. されるもの」とされた.子育て支援サービスなど全国. して軽視しがちなことや,この知見を自らの負担によっ. 5 カ所でそれぞれ異なるサービスモデルを設定して検討. て他団体に転用可能な形式に整備する動機に乏しいこと. を進め,自治体の協力を得て組織横断的な業務プロセス. などが要因であろう.しかし,こうした知見の集積が全. の可視化と,解決すべき技術上,制度上,運用上の課題. 国の公共情報インフラの構築に役立つことは間違いない.. の洗い出しを行った.. 地域情報プラットフォーム標準仕様は知見の体系化に一. このような調査の検討成果は,APPLIC での議論に対. 定の枠組みを用意することになるだろう.. して実フィールドからの知見を提供するものであるとと. 個人や組織が,外部の情報と連携し,その連携から価. もに,行政が解決すべき課題の洗い出しを進めるのに活. 値を引き出せるようになるためには,情報の存在や流れ. かされる.. の「見える化」が不可欠である.この「見える化」の一 部はすでに「地域情報プラットフォーム標準仕様」に表. 《ユビキタスプラットフォームの研究(NICT) 》. 現されたが,まだ自治体内部の情報の流れの整理にとど. NICT は,ユビキタスプラットフォームの研究開発を. まっており,公共サービスのすべてを尽くしたものでは. 推進する一環として,サービス連携基盤技術の研究を民. ない.教育,医療,子育て,防犯,高齢者福祉,産業振. 間委託している.これは,総務省の情報通信審議会が平. 興等,さまざまな地域活動に自治体以外の機関がかかわ. 成 17 年 7 月に発表した「ユビキタスネット社会に向け. っており,それぞれの連携においてまだ情報の流れを円. 4). た研究開発の在り方について」. 434. で示された「ユビキ. 48 巻 5 号 情報処理 2007 年 5 月. 滑にする余地がある.地域情報プラットフォームプロジ.
(7) 公共サービスのあるべき姿とその実現に向けた取り組み . 民間企業. 学識経験者. ・標準仕様に則した製品開発. ・専門的見地からの助言 ・公共情報インフラの研究. ・電子自治体の 標準化. 自治体 ・標準仕様に則したシステム調達 ・運用面での各種検討. 【APPLIC】 地域情報プラットフォーム 標準仕様 (+地域 ICT サービスモデル). 国 (総務省) ・自治体EA 事業 ・地域 ICT サービス調査事業 ・制度面での各種検討. 1. ・地域 ICTサービスの 「見える化」. ・公共情報インフラの 「適切な設計」の合意. 研究機関(NICT) ・ユビキタスプラットフォームの研究開発 ・技術面での各種検討. 図 -4 地域情報プラットフォームプロジェクト. ェクトが,標準仕様の策定や地域 ICT サービスモデルの. っかけとなるかもしれない.この意味では,地域情報プ. 検討などの活動をすすめることによって,地域 ICT サー. ラットフォームプロジェクトは,公共情報インフラの設. ビスの「見える化」が進み,地域活動における各々の組. 計の「実践」の場であると同時に,新しい設計の「発見」. 織の役割の再認識や情報の流れの整理が進めやすくなる. の場でもある.. のではないかと期待している.. 社会とこれを支える公共情報インフラは共進化する関. また,知見の集約の過程で技術,制度,運用の各側面. 係にある.この原動力は,将来の地域 ICT サービスを展. での課題が地域 ICT サービスに与える影響が明らかと. 望し,その設計方法をオープンに検討し続ける姿勢の中. なり,それぞれの専門家の知見を情報化社会の設計に活. にある. 「世界一便利で効率的な電子行政」の実現に向. かし,実証していく基礎が得られるのではないかと期待. けて地域情報プラットフォームプロジェクトに,自治体,. している.これによって全国各地の地域情報化の経験を,. 民間企業,学会の各方面からさらなる注目と協力が集ま. 公共情報インフラの礎として着実に積み重ねていける環. り,より充実した検討が可能になることを願っている.. 境が整うようになるだろう. ● 公共情報インフラの新しい設計手法の発見 来たるべきユビキタスネットワーク社会は, 「いつで も,どこでも,何でも,誰でも」つながる社会であると 展望されている.もちろんそれは,人の手による設計に 基づいて構築されるものである.構築には相応の時間と. 参考文献 1)総務省,平成 18 年度版地方自治体コンピュータ総覧(Mar. 2007). 2)IT 戦略本部,IT 新改革戦略,http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/. kettei/060119honbun.pdf 3)APPLIC,地域情報プラットフォーム基本説明書 V2.0,http://www. applic.or.jp/APPLIC/2007/APPLIC-0001-2007.pdf 4)総務省,ユビキタスネット社会に向けた研究開発の在り方について, http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/pdf/050729_7_1.pdf (平成 19 年 3 月 28 日受付). 投資が必要であり,成果を着実に積み重ねていくために は,関係者が「適切な設計」を継承し続けることが求め られる. 地域情報プラットフォームプロジェクトはこうした設 計を具体的かつオープンに示す試みである.社会や技術 が進化するものである以上,地域情報プラットフォーム にもそれに適応することが求められる.逆に,地域情報 プラットフォームの普及は,社会や技術の次の進化のき. 酒井雅之 [email protected]. ---------------------------------------------------------------------------------平成 10 年郵政省入省.郵政省電気通信局電気通信技術システム課, 国土交通省道路局 ITS 推進室等を経て現職.電子自治体を中心とし た公共サービスの連携基盤の構築,自治体 CIO の育成に携わる.. IPSJ Magazine Vol.48 No.5 May 2007. 435.
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