ディスカッションにおける意思決定プロセスの分析
The Analysis of Decision Making Process
in the Discussion
駒形憲彦
1*大塚裕子
1Norihiko Komagata
1, Hiroko Otsuka
11
公立はこだて未来大学
システム情報科学部
1
Faculty of System Information Science, Future University Hakodate
Abstract: The purpose of this paper is to clarify how the decision making process is built in the discussion for
problem solving. We let some university students taking a communication class carry out the group discussion of the fishbowl style to aim for the problem solving on given topic. One group consists of five or six the students. We record the discussion with audio and video as data and analyze it. Specifically, we annotate the three steps which are the cognition of the problem, the design of solution proposal, choice in the decision making process for the recorded data as three kind of labels. For the annotated data, we analyze how three steps constitute the decision making process, and how the transition of each step influence the discussion. Furthermore, we analysed the participants addressed consensus building on the transition of each step to clarify the action of the designing and the control of the participants for the decision making process.
.Keyword decision making process, group discussion, problem-solving, annotation, consensus building
* 連絡先:公立はこだて未来大学 システム情報科学部 〒041-8655 北海道函館市亀田中野町 116-2 E-mail:[email protected]
1.はじめに
1.1.背景
意思決定や問題解決を目的とした現実の話し合いは,そ の理想的な進め方,いわばモデルとしての意思決定プロセ スとどのような点が合致し,あるいは乖離しているのか, この問題意識のもとに問題解決型のディスカッションを 分析し,話し合いの設計の一助となる知見を得ることが本 研究の目的である. 近年,人々の価値観の多様化と社会の多極化のため,社 会的意思決定の場における市民参加の機会が増えている [7][9].先行事例としては,裁判官と市民で評議を行う裁 判員裁判[10],関係者で協議を重ね,課題の性質や状況に 応じて合意形成を目指すこともあるパブリック・インボル ブメント[4]などがある.こうした機会の多くは,複数の 個人からなる集団および組織が話し合いをはじめとする 共同作業によって実施されている[6].このような話し合 いでは,価値観,知識,経験,立場,利害などの異なる当 事者や関係者が話し合われる課題に対して相互の認識を 共有し,対等に議論を進めることが重要である.そのため, ファシリテーターなど議事進行役による進行支援や発言 促進などが期待され,その養成が求められている.一方, すべての話し合いの場にファシリテーターが存在するわ けではないこと,あるいは参加者自身が議論の主体である ことを鑑みると,参加者自身が議論の進め方を身につける 必要もある [7].このような関心から,本研究では社会的 意思決定の場の潜在的参加者である大学生を対象にした 実践授業におけるディスカッションを分析対象としてい る.話し合いの進め方に関する問題点や知見などが得られ ると考えているためである. 集団や組織による意思決定に関する研究として, Simon[1][2]の組織行動論における意思決定学がある. Simon によれば,意思決定は情報活動,設計活動,選択活 動(再選択活動も含む)の三局面からなる.これらの局面に ついて,Simon は,設計活動,情報活動,選択活動の順に 多く時間が必要で,情報活動,設計活動,選択活動の順に 進むと指摘している.本研究では,これを理想的な意思決 定モデルと仮定する.一方で,現実的には設計活動から情 報活動に戻る,すなわち,順序立てた階段状に意思決定が なされるわけではないことも Simon は指摘している. 以上の背景を踏まえ,本稿では,理想的な意思決定モデ ルに対し,実際には順序どおりに意思決定が進まないこと, 意思決定の検討時間が理想的に割かれないことを前提に, 意思決定の順序や検討時間の配分が具体的にどのような 要因で決まるのかを明らかにする.そのため,意思決定モ デルの各局面を段階,局面が変わることを段階が移行する と称し,話し合いにおける段階の移行に着目する.人工知能学会研究会資料
SIG-SLUD-B402-09
また,各三局面で行われる活動の特徴から,意思決定プ ロセス[6]や会議の進め方[3][5][11]に関する書籍などで は,その具体的活動の内容から情報活動を問題認識,設計 活動を解決案の設計,選択活動を選択という意思決定の段 階として示される1ため,これらの用語を使用する.
2.研究方法
ここでは,実際の話し合いにおける意思決定プロセスの 段階の移行について検討するためのタグ付き発話データ の作成について述べる.2.1 節ではデータの対象としたデ ィスカッションについて説明する.2.2 節ではタグ付与作 業の際に必要となる基準の設定方法について述べる.2.3 節では,設定した基準にしたがったタグ付与データの作成 手順を示す.2.1 対象としたディスカッション
分析の対象としたのは,公立はこだて未来大学の選択教 養科目「言語と社会」という授業で実施されたグループデ ィスカッションである.受講生は,システム情報科学部 1 年生から 4 年生の約 150 名で,1,2 年生が 8 割以上を占 めている. 対象としたディスカッションは,全受講生から観察され ることを承知のうえで参加した希望者 16 名による 3 グル ープである.グループ構成は次のとおりである. グループ A:5 名(1 年男子 4 名,1 年女子 1 名, 2 年男子 1 名) グループ B:5 名(1 年男子 4 名,2 年男子 1 名) グループ C:6 名(1 年男子 2 名,1 年女子 2 名, 2 年男子 2 名) ディスカッションにあたって,テーマ説明と 25 分で行 う合意形成課題であることを指示した.テーマは「あなた 方のクループに,ティスカッションに対して積極的でない メンバーがもう 1 名います.そのメンバーに対する,グル ープの方針を決めてください.」で,下記いずれかをグル ープで決定する. A:グルーフの一員と考えて参加するよう働きか ける B:自己責任と考えて働きかけはしない C:その他の方針 A,B,C いずれの場合も,理由および具体的な方法につ いても話し合う. なお,このディスカッションが実施された回より以前の 授業では,基本的なディスカッションの進め方や,進行管 理および他者の発話を引き出すファシリテーターの役割 について説明している.しかし,当該ディスカッションに あたってはそれを実践するよう明示的な指示はしていな い.とくにファシリテーターについては,ディスカッショ ン時に役割決定することが必須ではないことも授業で述 べている.1 例えば,問題認識段階は書籍の中では問題の認知と示されてい る[5]
2.2 行動要件表の作成によるタグ付与基準
の設定
再現性の高いタグ付与を通したデータの構造化を目指 すため,基準にもとづいたタグ付与作業を行う.発話への タグ付与にあたっては,意思決定モデルの各段階で行うべ き活動が発話行動として発話に表れているか否かを基準 とする.基準にもとづくタグ付与作業を可能にするため, 各段階で行うべき活動を行動要件としてまとめた行動要 件表を作成する. 本研究では,ディスカッションの構成要素を,導入部・ 意思決定部・終了部として大別する.ディスカッションの 各発話に付与する上位カテゴリのタグとして,導入部はデ ィスカッションの導入時に行われる参加者の役割の確認 や時間配分の検討などの活動・行為(導入要件)が行われて いる発話,意思決定部は意思決定モデルの各段階に関する 行動が実践されている発話,終了部はグループの意思決定 のまとめや確認などの発話に付与する. 意思決定部については,さらに,問題認識,解決案の設 計,選択の下位カテゴリの区分も行う.これら3段階で行 われるべき活動を行動要件と呼ぶ.本稿では,発話におけ る行動要件の有無と種類を判別することにより,発話が意 思決定プロセスのどの段階にあるかを認定する.この判別 に使用するのが行動用件表である.次の手順で,各段階の 行動要件を整理した行動要件表を作成する. <行動要件表の作成手順> 1) Simon の意思決定モデル[1][2],意思決定プロセ ス[6]や会議の進め方[3][5][11]を対象に,各段階 で求められる行動要件を抽出する.例)解決案の メリット,デメリットを挙げる →解決案の設計段階[5] 2) 1の作業によりリスト化された行動要件の重複項 目を削除整理する 以上の作業を経て,行動要件表を作成した(表1). 表 1 意思決定プロセスの行動要件表(1)問題認識 問題を確認,定義,診断する活動 (1-1)現状分析 問題の根底にある原因を明確にする. 問題をいくつかの構成要素に分解し,それらが結びつくかを考える. (1-2)定義付け 「問題自体」を発見したり,確定したりすること 問題分野を限定するため事実に基づいて定義する. (1-3)問題確認 問題が何かを確認すること 本当に問題なのかを考える (1-4)問題探索 幅広く情報を集め,目的達成を阻害している問題を探す. 集めた情報を様々な角度から分析して問題の糸口を見つける (2)解決案の設計 (2-1)解決案の考案 アイデアを評価または統合して解決策の選択肢を作る (2-2)解決策の分析 共通の判断基準を作り,合意する メリット,デメリットを書き出す (3)選択 解決案を評価し,最善のものを選択すること 利用可能な行為の代替案のうちから,ある特定のものを選択すること
2.3 意思決定プロセスのタグ付与データの
作成
2.1 節に述べたディスカッションの録画データから書 き起こしテキストを作成する.書き起こした各発話を話者 が交替するごとに改行し,発話番号と各発話者に対応した アルファベットを付与する.タグ付与手順を以下にまとめ る. <タグ付与の手順> 1) 各発話に,2.2.節で設定した導入部,意思決定部,終 了部のタグを付与する. 2) 意思決定部タグを付与した発話ごとに,行動要件表 (表 1)に記載された行動要件と発話の行為を照らし合 わせ,問題認識段階での行為と示される発話に 1,解 決案の設計段階での行為と示される発話に 2,選択段 階での行為と示される発話に 3 を付与する. 例)ディスカッションテーマの積極的でないメンバー の定義付けの行為を示す発話には 1 を付与する. 以上の作業により,各グループディスカッションの意思 決定プロセスを構造化し,段階の移行について検討する.
3.分析と考察
本章では,2.3 節で作成した意思決定プロセスのタグ 付き発話データについて,とくに,意思決定プロセスの各 段階(問題認識,解決案の作成,選択)から異なる段階に 移行する場面に注目する. 3.1 節では意思決定プロセスの組み立てについてタグ付 与の結果にもとづき示す.意思決定モデルの順序どおりに プロセスが進まないことについて,各段階の移行をディス カッション参加者が意識的に行っているか否かという観 点から確認する.意識的か否かについて,段階の移行時の 働きかけの有無,働きかけに対する合意の有無に着目し, 考察する.この結果,働きかけの有無,合意の有無につい て 3 つのパタンがあることがわかった.これについては 3.2 節以降で詳しく述べる.
3.1 意思決定プロセスの各段階の移行に関
する検討
2.3 節で行ったタグ付与の結果を可視化する(図 1,2,3). 図 1,2,3 に示すとおり,意思決定プロセスがどのように変 化しているかを確認することができる.図の横軸は発話番 号すなわち時間軸を,縦軸はそれぞれ意思決定プロセスの 3 段階である問題認識,解決案の設計,選択を示す.アル ファベットの小文字が示しているのは,意思決定プロセス の各段階が継続している個所,移行が生じている個所であ る. 図 1,2,3 をみると,Simon の指摘にもとづき前提として いたとおり,各グループの段階の移行は実際階段状にはな っていない.グループ C の段階の移行は比較的階段状に近 いといえるが,妥当な移行であるかは詳しく見る必要があ る.各箇所の発話連鎖を詳細に示す前に,段階の移行時の 働きかけや,働きかけに対する合意に着目し分析した結果 を示す. アルファベットの小文字が示す箇所のうち,段階が移行 している発話に含まれる,移行を働きかける発話の有無, それに対する合意を示す発話の有無,その組み合わせパタ ンの出現数,すべての段階移行の発話箇所における各パタ ン出現の割合を表 2 にまとめた. 表 2 段階移行を働きかける発話と合意形成の有無 段階の移行を 働きかける発 話の有無 合意の 有無組み合わせ パタンの出 現数
段階の移行があった発 話箇所における各パタ ン出現の割合
有
有
4
15%
有
無
2
7%
無
有
0
0%
無
無
21
78%
段階移行を働きかける発話もなく,合意もない発話箇 所が 78%と高いことから,ディスカッション参加者は,意 思決定プロセスの段階が移行することを意識せず進めて いたと考えられる. 3.2 節以降では,どのような理由で,段階を移行する働 きかけに対する合意形成がなされたのか,もしくはなされ なかったのか,合意形成がない場合どのように段階が移行 したかについて発話事例をあげながら考察する2.
図 1 グループ A の意思決定プロセスの移行 図 2 グループ B の意思決定プロセスの移行 図 3 グループ C の意思決定プロセスの移行
3.2 段階移行の働きかけへの合意の意味
本節では,段階の移行への働きかけに対して合意がなさ れた要因や条件などを探るため,移行個所での相互行為を 分析し考察した.その結果,段階の移行には次の 2 つのパ タンがあることがわかった. 1)話し合うべき内容の必要性から働きかけが 生じ,それに対し他の参加者も必要と判断した 2)参加者ほぼ全員が段階の移行を支持する発話をし た後の働きかけであったため合意しない理由がなかっ た 1)については 3.2.1 項,2)については 3.2.2 項で詳しく 述べる.2 転記記号(発話,発話者について付与). 。;, 、;, :;音声の引き伸ばし. 相対的な長さに 対応.-;言葉が不完全なまま途切れている.[;重なり部分.=;発話が途切れなく密着.(.);感知 できる程のわずかな間.(数字) ;その秒数だけ間.(/);発話者不特定.(なまえ);発話者に確信 がない場合.下線;プロセス移行のきっかけと考えられる発話,もしくは,プロセス移行し たと判断ができる発話.
3.2.1 必要性の高い段階移行の働きかけ 上述1)の働きかけと合意のプロセスについて,発話事 例(図 1 の b, 図 2 の l)を参照しながら述べる.図 1 の b は解決案の設計から問題認識に戻った例である.事例 1 の 発話番号102-105 は図 1 の a,106-111 は図 1 の b,112 以 降は図1 の c に相当する. ---【事例 1】--- 102:そうですね. 私もAだと思ってて:(.) やっぱりその:: みんな言っ てるんですけど, その: 積極的で- でないメンバーがどういう状況なの かって言う事が重要で, その人によって: やる- やる気の問題だったり: (1) やる気の問題だったり その: 性格的な問題だったりすることもある んで: とりあえず:(.) その:: 意見を自分たちが: 話し- あんま話しか け(.)話す事が苦手とかいう積極的でない- でない人にどうですかって意 見を求める(.) とこから始め: ますかねって言う. だからAの立場. 103(/): なるほど 104C:えと: 私も:: Aなんですけど::, (.) こう積極的でないってゆ: 所に観点を置いたんじゃなくて::, Aは: なんか今の皆言ってくれた色 んな人の意見 みんなの意見を聞かなきゃいけないっていうのもあるんで すけど:, んとここも: 問題なんですけど:; このグループっていうの問 題で[:, = 105(B): [うんうん. 106C: =もしこれが三人人とかだったら:, たぶん[絶対聞かなきゃいけな いと思うけど,これが百人とかだったら[:, : 107(/) :[あ:なるほど. 108(/): うんうん[ 109C: =なんか:: 別に: 皆に: 聞け: るとは限らないかなと思ったからグ ループの(.) 設定? [を積極的でないの設定みたいな= 110 (/): [うんうん. 111C: =今のみたくグループの設定をしてから:, ディスカッションした 方 がいいのかなって思いました:.= 112D: =[なるほど:. 113(/): [そうだね.] 114B: [そうだ]ね.[その定義だね. 115D: [今回この定義づけ[ですね. 116C: [ここと: 積極的. 117D: え でも: どの場合においても:: って事じゃないんですか[ね. たとえ[- --- 102 からの発話に示されているとおり,これより前では, 合意形成の選択肢 ABC について,現時点で自分がどれを, どのような理由,条件,場合のもとで妥当と考えるかを述 べ合っている.選択肢を選ぶための考え方を主張している ため,C の発話を含むそれまでのやりとりを解決案の設計 段階とみなす. 104 から,109 および 111 に至るプロセスに着目する. この間,参加者 C はグループサイズ(「グループの設定」) や参加者「(積極的でないの設定)」の定義つけを話し合う 必要性を提案している.その後,参加者 C に対し参加者 B と D が合意し,議論が続いている.行動要件表(表 1)に 示すとおり,定義に関する検討は問題認識で行われる.移 行が確定している参加者 C の発話 111 の後,他の参加者が 「そうだね」と合意を示し,定義について話し合うことが 必要と合意した上で解決案の設計から問題認識に段階が 戻っている.また,104,106,109,111 の発話により,参加 者 C がグループサイズの定義づけが必要であることに気 づき発話しつつ,暗黙的に段階の移行を働きかけていたこ とがわかる. 同様のプロセスが図 2 の l にも見られた.この個所の前 (図 2 の i)では,合意形成の選択肢 ABC の選択理由やその 方法についての議論を行っていた.しかし,十分な吟味や 検討がなされないまま,ある参加者の発話の「積極的」と いう言葉にひきずられ,問題認識の段階に移行している (図 2 の j〜k).その後,図 2 の l で「(積極的でない人が) 来た時に ここに,じゃ,積極的じゃない人が居て僕たちは その人に何をしますか って言う話 をしましょう.」と, ひとりの参加者が具体的方法に関する検討を行おうと提 案し,解決案の設計段階に戻そうとした.他の参加者も合 意し,方針や方法の議論を再びしていた. 3.2.2 合意を前提とした働きかけ 上述2)の働きかけと合意のプロセスについて図 2 の f の発話事例を示す.図 2 の d〜e ではディスカッションテ ーマの合意形成の選択肢 ABC のどれを選択するか議論を していた.選択肢 A をグループの方針として話し合うこと でよいのか話し合いの方向性を確認をするための発話「僕 も A がいいと思うんですけど,で 一応グループの一員と して考えて参加を促すってゆ事を前提として, じゃど そ れを働きかけていくかを話し合うって方向でいいですか?」 があり,他の参加者も合意して段階が移行した.他の参加 者も(図 2 の d〜e 中)選択肢 A を選択していたこともあり, 合意が得られた.この個所では,合意しない理由がなかっ たと考えられる.
3.3 段階移行の働きかけに合意がないこと
の意味
ここでは,段階の移行に関する働きかけがあったにも 関わらず合意がなかったプロセスについて 3.2 節とどの ような違いがあったかについて述べる. この違いを考察した結果,段階の移行に合意がなされる には以下の条件が必要であることがわかった. A) 働きかけの発話があること B) その他の参加者が聞く意思を持っている行為を示 していること C) 働きかけた話し合うべきことが議論の中で必要と 判断されること また,合意がなくても段階が移行した理由については次の 要因が見られた. 1)働きかけた参加者が継続して発話し,その発話に引き ずられて段階が移行した 2)働きかけた有無とは別に,議論すべき要件があり段階 移行が生じた 上記の B),1)については発話事例(図 2 の p)をあげて述 べ,B)C),2)について(図 1 の l)も述べる. 事例 2 の発話番号 191 から 194 は図 2 の o,195 から 203 は図 2 の p,203 以降は図 2 の q に相当する. ---【事例 2】--- 191E: A で大丈夫かな? 192(/):ん:: 193E:A の方でディスカッションには(.) 参加した方がいいんじゃない? 194(D):決定事項として,. 195A:じゃ: 理由及び具体的な方法ですね. 196A:あとはもう(.) 直接書いちゃっていいと思うんです.(.) とりあえ ず A にするって事決めて:, 197E:ふんふん. 198A:何故 A にすべきか(.) っていうのは:, じゃ: そのさっき(.) が言っ た(.) え::っと(2)眠すぎて日本語が出てこない. 199(/):hhhhh 200A:多様性(.) 多様性(.) 深まり. 201E:議論の多様性(.) 質を求める. 議論の多様性重視.= 202C:あとその議論とか場面じゃなくて, 例えば: その自分で働きかける ことがそのこれからの自分とかにプラスになってくるかもしれないか ら:. 203(A):あ:: 204C:そういう人が出会うときはいつだかわかんない. 205(C):働きかける.
206(/):ディスカッション 207(C):話をふっていく. 207E:これか. 話をふっていく. ---
参加者 E の 191 からの発話に示されているとおり,合 意形成の選択肢 ABC を選択しようと述べ合っている.この 間のやりとりでは,解決案 A を選ぶための設計に相当する 検討を行っていないことから,この間のやりとりは選択段 階とみなす. 着目するのは,195~202 の過程である.参加者 A の 195 の発話「じゃ: 理由及び具体的な方法ですね.」から,具 体的方法や方針 A を選択する理由に相当する検討つまり, 解決案の設計段階への段階移行を働きかけている.しかし, 参加者 A の働きかけの発話に対し,他の参加者から「うん, そうだね」といった合意を示す発話がなく参加者 A 自ら継 続して発話し続けている.195 の発話以降,参加者 A の発 話につられて具体的方法や理由についての議論をしてい るため,行動要件表(表 1)によりこの発話以降は解決案の 設計段階とみなす. 段階の移行に関する働きかけがあったにも関わらず,合 意がなかった要因をさらに探るため,次の点について 3.2 節の事例と比較する. 1) 働きかけた時間 2) 働きかけをした発参加者が他の参加者に視線を向け ていたか 3) 他の参加者が働きかけをした発参加者に視線を向け ていたか 4) 働きかけの発話の発話態度(モダリティ[8]) 1),2),3)については表 3 に,4)については表 4 にまとめた. 表 4 の発話は,順に図 1 の b,図 1 の l,図 2 の f,図 2 の l, 図 2 の p,図 3 の d での働きかけの発話である.
表 3.段階移行の働きかけの発話があった個所
表 3 をみると事例 2 の参加者 A は他の参加者に視線を 向けているが,それに対して他の参加者は参加者 A に視線 をむけていなかった.また,参加者 A の 195 の段階移行の 働きかけの発話以降,4 秒間の間があった.つまり,短い 時間であるが,参加者 A が段階移行に関して働きかけたに も関わらず,他の参加者は参加者 A に視線を向けておらず, また 4 秒という返答時間を持ったが返答がなかったため, 仕方なく継続して発話し,その具体的方法に関する議論に つられて,段階が移行したと考えられる. また,表 4 から働きかけの発話態度には,明確な違いが ないといえる.つまり,段階移行を働きかける発話には, 違いがないといえる. 表 4 働きかけの発話とその発話態度 上記の B)C),2)について,もう一つの個所(図 1 の l)の 事例を用いて述べる.この個所では,選択から解決案の設 計の段階への移行のための働きかけた発話「で 何をする かっていうのを, まだもうちょっと絞らないといけない ね.」が無視され,「絞らないといけないね」という発話に 対し,「ふくらまして」や「この何をするかって今思いつ いたんですけど,逆に, あ 書けるかな」といった発話が継 続されていた.表 3 をみると,発参加者が他の参加者に視 線を向けていたが,他の参加者が発参加者に視線を向けて いなかった.遡ってディスカッションをみると,これまで に出ていた解決案は 2 つ(役割を与える,話を振る)しかな くその解決案の具体化もできていなかった.解決案につい て広く検討する必要があると他の参加者が考えたため,合 意がなされなかったと考えられる.さらに,「この何をす るか」という発話につられたことも段階が移行した要因の 一つだと考えられる.
3.4 働きかけおよび合意が無いことの意味
本節では,3.2 節と 3.3 節とは異なり,働きかけがなく 合意もない場合の段階の移行について述べる.このタイプ の移行は見出せたのは4 件のみで,各移行の仕方に共通性 がみられない.したがって,以下にこれらの特徴について 次で説明する. 1) 前の発話に引きずられて段階が移行している 2) 内容に関して議論するような働きかけの発話によ り段階が移行している 3) 一つの発話の中で選択を行って段階が移行してい る 4) ある参加者が合意形成の選択肢C を選んだことによ り,具体的方法についての議論をするために選択か ら解決案の設計段階に戻った これらの中で,段階移行に際し傾向としてよくみられた 1)について発話事例を示す.発話事例 3 の 138~141 までは 図2 の i,147~150 は図 2 の j,151 以降は図 2 の k に相当 する. 個所 (合意形成の 有無)
働きかけ時間 (無:返答無し)
発参加者が他の 参加者に視線を 向けていたか
他の参加者が発 参加者に視線を 向けていたか
図 1b(有)
1 ○ ○ 図 1l (無)
1(無) ○ × 図 2f (有)
1 ○ ○ 図 2l (有)
1 ○ ○ 図 2p (無)
4(無) ○ × 図 3d (有) 1 ○ ○ 働きかけ発話 モダリティ =今のみたくグループの設定をしてから:, ディ スカッションした方がいいのかなって思いまし た:.= 当為(忠告) で 何をするかっていうのを::, まだもうちょっ と絞らないといけないね. 意思・申し出・勧誘 僕も A がいいと思うんですけど,で 一応(1) グ ループの一員として考えて参加を促すってゆ事 を前提として, じゃど それを働きかけていくか を話し合うって方向でいいですか? 確言 (同意を求める) (積極的でない人が)来た時に ここにじゃ,積極 的じゃない人が居て僕たちはその人に何をしま すか って言う話 をしましょう. 意思・申し出・勧誘 じゃ: 理由及び具体的な方法ですね. 確言 (同意を求める) えと では 今時間が十二分なので, 一時この議 論は一回保留にしたいと思います. え では 逆 に今まで今度はあの 今まではあの お互いの悪 い点て言うのをみてきましたが, 逆に A の人か らみて B のいい点だったり B の人からみて A のい い点を考えていきたいと思います. 願望
---【事例 3】 ---138B: でも(.) 僕らがやってきたこの授業の中では, やっぱりそ の意見の多様性とか深まりとか 結構重視してきたじゃないすか. そうい う事をやっぱり重視していきたいからっていうのもあるんですね, A は. 139(/): 質を求める. 140D: A になりきらない(.) B よりって言う考え方で C 141E: そ(.)そ(.) そう言ってくと C になっちゃうよね. ----【中略】--- 147D: あの: 完全に一員に入れようとしてないけど:, えと 保険とか 第三者視点という形で参加するから: つまり: 完全に一員にもしないけ ど:, 完全に自己責任にもしないと言う中間(…)になるから:, ある意味 C なのかも(しれない.)(.) 今の(.) 意見のかたまりをいうとね. 148B: ディスカッションしてて, 積極的ではない人は一番必要なのかも しれないす. 149B: 逆に:, 熱くなりすぎて(.) ちょっと方向性ズレてし まうことってあるじゃないですか. 逆に(.) 積極的じゃない人ってあん まりそこに入ってないから, まわり(.) 一番見てるってことじゃないで すか. 150(/): え(.) でも積極性がないんだったら, まわりを見てないんじゃ ないかっていう. 151C: 積極性の種類もまた変わってくるけど:. 152(/): う::ん. 153E: これだよね. 154C:積極的にまわってるって人ってもいるわけなんで:. --- 140 および 141 に見られるように,事例 3 の発話以前は, 合意形成の選択肢 ABC について,どのような理由で選択す るべきかを述べ合っている.選択肢を設計するための議論 しているため,ここでのやりとりは解決案の設計段階とみ なす. 着目するのは,147 の発話から 154 の発話である.この 間,参加者 D が 147 でディスカッションテーマの方針につ いて述べていることに対し,参加者 B が 148 で突然,積極 的でないメンバーについて発話している.その後,C も積 極性の定義に関して議論を続けている.つまり,B の発話 により解決案の設計での議論が十分になされず,148 の参 加者 B の唐突な発話から「積極的」という言葉につられた ため解決案の設計から問題認識の段階に戻っている.他の 個所でも「方法」や「合意形成の選択肢 ABC」についての 話題に関する発話につられて段階が移行している個所が あった. 以下では,上述の 2),3),4)について発話事例を用いて 示す. 2)について具体的に述べると,「B について話しあいま せんか」という話し合いの進め方の質問ではなく,「これ 逆に一回 B 考えてみ? B の場合どうする? B と A ほぼ逆じ ゃないですか.」(図 1 の h)というコンテンツに関して議 論するような働きかけの発話をして,段階が移行していた. 3)については,「ではえと全員一致と言う事で, A の方 法で. 理由はま 主にここにあげられた通りだと思うんで すが, 具体的な方法というのはじゃこの中の今のあがっ た意見でどのようなものが考えられるでしょうか?」(図 3 の f~h)という一つの発話の中で,選択を行い,方法につ いての議論をしようと働きかけて段階が移行していた. 4)については,参加者が合意形成の選択肢 C を選択した 際に,「具体的な方法お願いします.」(図 2 の d)という発 話で選択から解決案の設計段階に戻った. さらに,問題認識の段階で話し合うべき行動要件の議論 について,段階の移行の際,働きかけなく合意形成がない 個所で,堂々巡りが起こっていた(図 1 の n,r,図 2 の i,t). この個所では,積極的ではないメンバー,グループサイズ の定義付け,積極的でないについての定義付けに関する議 論についてであった. 以上から,意思決定プロセスに関する管理や設計を全員 で意識して行うことができていなかったと考えられる.そ こで,議論の支援をしているファシリテーターが同様のデ ィスカッションを行った場合,意思決定プロセスに関する 管理や設計の行為が学生とどこが違うのかを検討する.こ の検討により,ディスカッション支援や教育に必要なスキ ルや支援方法についての知見が得ることができると考え られる.
4.まとめ
本稿では,5,6 名の大学生を一つのグループとして,収 録された音声画像データと書き起こしデータを対象に意 思決定プロセスの各段階の移行がディスカッションにど のように影響しているか考察した. 今後は,今回行ったディスカッションと同様のテーマと 制限時間でファシリテーターによるディスカッションを 収録し,学生のディスカッションと比べ,意思決定プロセ スの設計や管理の行為についてどのような違いがあるの かを明らかにする.
参考文献
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