Ⅰ.はじめに
ケアマネジメントは介護保険のシステムとし て我が国に導入されてから 20 年近く経過し、 社会的認識も変わりつつある。そもそもケアマ ネジメントは精神障害者の支援方法として始 まったものであり、高齢者に限定したものでは なく、例えば野中は「生活に困難をきたした人 のニーズに基づいて、必要な資源や支援をとり まとめて、計画案の提示もしくは実際に支援を 提供することで、対象となる人がより良い状態 になるように関わる実践活動」(2013)と定義 している。実際、我が国においても高齢者分野 のみではなく、障害者や児童の分野においても ケアマネジメントは利用されており、日本学術 会議が発表した提言(2008)においても、ケア マネジメントは今やソーシャルワーカーが必須 とする能力であることが示されている。増田 (2013)によれば、2011 年度時点において、ケ アマネジメントは「医療・介護・予防そして生 活支援・住まいという 4 つのコンセプトで地域 における総合的・包括的なケア体制を整えてい く方向へ」向かっていると述べている。様々な 保健医療福祉サービスが制度化されてきている 一方で、そもそも人の生活は、家族や友人によ る日常的なケアや、居住地域における相互扶助 などのインフォーマルなサービスも含めた重層 的なネットワークの中で成り立っているもので あり、利用者の生活を公的制度の組み合わせだ けで補おうとすることは、形だけのケアマネジ メントと言わざるをえない。利用者の生活の質 を高めていくためにも、ソーシャルワーカーと なる社会福祉士や精神保健福祉士などがケアマ ネジメントを効果的に活用するための能力を身 につけていくことが必要である。 しかし、ソーシャルワーカーの養成機関であ る大学においてケアマネジメントを使用するこ とができるだけの能力を身につけさせる教育 (以下、ケアマネジメント技術教育)は十分に 成熟したかといえば、そうとは言い難い。例え ば社会福祉系大学でいえば、社会福祉士などの 国家試験のためのカリキュラムには、ケアマネ ジメントを学習する機会は「相談援助演習」な どの科目であるものの、その量は教員の采配に もよるが 1 ∼ 2 講分にしかならない。また、社 会福祉士並びに精神保健福祉士の指定科目とは 別に、ケアマネジメント知識を教示することを 目的とした「ケアマネジメント論」以外で、ケ アマネジメント技術教育を行う科目を独自科目 として設置している大学は、日本ソーシャル ワーク教育学校連盟に所属する大学・短期大学 206 校のうち、筆者が確認する限り 5 校のみと、 極めて少ない。現実的に、ケアマネジメント技 術の習得に関しては現場実践などによって行わ れるのが現状である。また、ケケアマネジメン ト技術により立てられたプランを実行すること になるのは多職種であるため、チームワーク技 術はケアマネジメントに必須の能力であるといケアマネジメント技術教育の効果に関する研究
― B 大学におけるケアマネジメント演習受講者と非受講者の比較検討から ―
二本柳 覚
論 文
えるが、これを行うためには、多職種との連携 を専門職自体が意識していなければならないと いえる。しかし、松岡(2000)は多職種連携の 課題において専門職自身の価値観や連携に関す る欠如などをあげており、専門職間教育の必要 性を示している。近年、複数の医療系学部を持 つ 大 学 な ど に お い て 専 門 職 連 携 教 育(inter-professional-education:IPE)が徐々に浸透し てきているが、依然専門職の養成は其々独自の 専門職が持つ知識・技術構造と独自に発展して きた教育システムによって縦割りで考えられ、 チーム支援を前提とした専門職養成システムが 十分に構築されているとはいえないのではない か。 かといって、ケアマネジメントを主な業務と する介護支援専門員や相談支援専門員が十分な 知識、技術を持っているかといえば疑問が残る。 例えば厚生労働省の発表(2019)によれば、現 在介護支援専門員の基礎資格で最も多いのが介 護福祉士であり、全体の 43.9%を占めている。 一方で三宅らが行った地域包括ケアシステムに あたり、介護福祉士が要介護高齢者の地域生活 を支えるために、どのような能力が必要である かを調査した研究では、介護福祉士自身は、介 護支援専門員の業務に関する知識は最低限で良 い、と思っているという結果が出ている(三宅 他 2015)。また、楠永らが行った、介護支援専 門員のケアマネジメントにおける課題を既存研 究から整理した調査からは、介護福祉士のカリ キュラムでは、ケアマネジメントに関しては殆 ど記載が見られず、福祉系介護支援専門員はア セスメントやケアプラン作成に関する苦手意識 を持っているという報告が見られる(楠永 他 2018)。さらに、ケアマネジメントを実施する 者(以下、ケアマネジャー)の力量については、 例えば小野らが 2002 年に報告した調査結果で はモニタリングの能力や家族関係調整能力、個 別性を反映したケアプランを作成する力の不十 分さなどを指摘している。その後、2006 年に 報告された「介護支援専門員の生涯研修のあり 方に関する研究会最終報告書」においても、介 護支援専門員がケアマネジメントを実施する上 での課題として、基本プロセスなどのケアマネ ジメントの重要なプロセスの実施が十分でな い、ケアカンファレンスが十分に機能していな い、主治医を始めとした多職種・多機関との連 携が不十分、利用者の状態に応じた継続的なケ アマネジメントが不十分である、専門職として の資質にばらつきがある、などと指摘しており、 介護支援専門員の研修体制について再構築を求 めたものであった。その後に開かれた、介護支 援専門員の資質向上と今後のあり方に関する検 討会においても、介護支援専門員の資質向上に 関して、「実務研修の時間数は、求められる介 護支援専門員の知識や技術に比し、不足してい る」と論じており(2013)、これに基づいて、 介護支援専門員制度では、2016 年度より、研 修実施ガイドラインの策定や実習の追加などを 盛り込んだ新カリキュラムを実施している。し かし、この実習は 3 日間相当(18 時間以上 25 時間程度)かつ見学にとどまるものである。医 療福祉系の専門職における実習時間は、例えば 社会福祉士に課せられた実習時間は 2019 年度 時点で 180 時間、看護師の上乗せ資格である保 健師についても同様に 180 時間あるのに対し て、介護支援専門員制度の研修時間は、社会福 祉士などの基礎資格があることを前提としてい ても相当に少ない。まだ始まったばかりの制度 であり評価はこれからのところはあるものの、 専門職を養成する実習としては時間数としては 不十分ではないかと考える。相談支援専門員に ついても、初任者へのケアマネジメントに関す る教育は、旧カリキュラムでは相談支援従事者 初任者研修における講義、演習を含めて 19 時
間、2019 年度から開始された新カリキュラム では大幅に増えたものの 34.5 時間と限られて いる。そのような状況から考えるに、大学教育 の段階において、ケアマネジメントに関する教 育を実施していくことの必要性は極めて高いと いえる。 二本柳は、我が国のケアマネジメント技術教 育の現状について、A 大学で実施されている、 ケアマネジメント技術教育の一環である、ケア マネジメント演習の効果を測定している。その 結果、ケアマネジメントにおけるインテーク、 アセスメントなどの中核技術に関する知的理解 が演習受講前に比べ増加し、相談援助実習を経 たあと 4 ヶ月を超えても測定結果が微増にとど まったことから、相談援助実習によって得た学 びが知識として定着してきている可能性などを 示唆している(2012)。しかし、二本柳が行っ た調査は、あくまでも演習受講者のみを対象と した調査であり、実際に演習による効果かどう かが未知数の部分が存在する。 そこで今回は、ケアマネジメント技術教育を 行っているソーシャルワーカー養成校1)にお いて、ケアマネジメント演習の受講者(以下、 受講者)と、コントロール群として、ケアマネ ジメント論のみを受講した受講者(以下、非受 講者)群を設定し、比較検討することにより、 ケアマネジメント技術教育による学修効果につ いて明らかにすることを目的として調査を行う こととした。
Ⅱ.調査方法
本調査はケアマネジメント技術教育を実施し ている B 大学において、ケアマネジメント演 習受講者と、非受講者との比較検討を実施した ものである。なお、単年度だけでは受講者数に 限りがあり、またコントロール群とのバランス が取れなかったことから、2 年度分を合わせて 分析を行った。なお、この 2 年度分については、 担当教員と直接やり取りを行い、2 年間におけ る担当教員および授業内容、また学生の受講年 次、相談援助実習の時期などにおける大きな変 化がないことを確認している。 B大学ではケアマネジメント論を 3 回生前期 に、ケアマネジメント演習を 3 回生後期に実施 している。どちらも 1 クラスでの開講となって おり、両年度における教育内容の差はないこと を確認している。また履修者全員が、その間の 夏季休暇期間中に相談援助実習を実施してい る。 ケアマネジメント演習は、ケアマネジメント の歴史的展開、その理論、我が国における現状 などについて講義を行うケアマネジメント論を 履修していることを前提条件として開講されて いる。本科目では、ケアマネジメントにおける ケアプランを作成する能力を身につけることに 加え、ケアマネジメントを行うにあたって必要 になるソーシャルワーク技術についての知識を 擬似的に体験する場になることを意識して実施 されている。開始から 4 講目については、当年 度の夏季休暇中に実施した実習体験から、その 体験で悩んだ事例について解決するための様々 な検討事項をブレインストーミングで個人ごと に出していき、それらから出た意見を統合する 作業を行っている。またその中でケアマネジメ ントプロセスや社会資源、地域ネットワークに 関する助言を教員より行っている。その後、5 講目より、主に事例集を用い、1 事例に約 2-3 講をかけて、サービス計画書を作成する。作成 する対象は高齢者と障害者を 2 例ずつである。 実際のプラン作成では、①テキストにある事例 について、事前に教員によるテキストに記載し ていない情報を肉付けし②学生を 4 ∼ 5 名で構 成されたグループに分け、まずはテキストで示されているアセスメント結果のみを元にプラン を作成する。③その結果について教員の講評を 実施し④その後、学生からのアセスメントに関 する質問を受付け、先に作ったプランの修正を 行う、という流れで実施する。なお使用する事 例は、アセスメントやアドボカシーなどの部分 で特徴的な課題を持つ事例を選定している。(表 1) 本アンケートの対象は、ケアマネジメント論 を受講した者のうち、受講者と非受講者を対象 として、「ケアマネジメント論終了時」=「1 回目」、「ケアマネジメント演習開始時」=「2 回目」、「終了時」=「3 回目」にケアマネジメ ント技術作業指標(Work Index: 以下、WI)2) を用いたアンケートを実施した。 WIは受講者の知的理解を求める評価指標で、 「インテーク」6 項目、「アセスメント」9 項目、 「プランニング」6 項目、「インターベンション」 9 項目、「モニタリング」5 項目、「エバリュエー ション」8 項目、「ターミネーション」3 項目、「関 連技術」5 項目の 8 カテゴリー 51 項目で構成 された質問項目である。評価基準は、1 から順 に「何のことか全くわからない」「おおまかに わかったが、一部理解が危うい」「内容はなん とか理解できた」「内容は理解できたが、人に 説明するには自信がない」「既にほぼ完全に理 解しているし、人にも説明できる」の 5 段階で ある。(表 2) アンケートは各回をケアマネジメント論終了 時、ケアマネジメント演習開始時、同終了時か ら 1 週間以内に、教室・時刻を指定し対象学生 に参集してもらい、調査者が調査内容について の説明を行った上で、実施・回収した。 各項目間の信頼性を確認するため、受講者、 非受講者それぞれについて、各項目間における クロンバックのα係数を確認した。その結果、 表 1:ケアマネジメント論およびケアマネジメント演習のシラバス(一部抜粋) ケアマネジメント論 ケアマネジメント演習 達成目標 (1)ケアマネジメントの概念について理解できる。 (2)ケアマネジメントの歴史について理解できる。 (3) ケアマネジメントの必要性および有効性に ついて理解できる。 (4) ケアマネジメントの支援プロセスについて 理解できる。 (5) わが国のケアマネジメントの実際について 理解できる。 (1) ケアマネジメントに必要な専門知識と技術を 習得する(30%) (2) 演習を通じて、ケアマネジメントにおける実 践能力を習得する(70%) 第 1 講 オリエンテーション オリエンテーション 第 2 講 ケアマネジメントの概念 ケアマネジメントにおけプロセス 第 3 講 海外におけるケアマネジメントの歴史 ケアマネジメントにおける社会資源 第 4 講 わが国におけるケアマネジメントの歴史 ケアマネジメントにおける地域ネットワーク 第 5 講 ケアマネジメントのモデル ケアマネジメントの事例(1) 第 6 講 ケアマネジメントプロセスの全体像 ケアマネジメントの事例(1) 第 7 講 ケアマネジメントプロセス(インテーク) ケアマネジメントの事例(1) 第 8 講 ケアマネジメントプロセス(アセスメント①) ケアマネジメントの事例(2) 第 9 講 ケアマネジメントプロセス(アセスメント②) ケアマネジメントの事例(2) 第 10 講 ケアマネジメントプロセス(ケアプランの作成①)ケアマネジメントの事例(2) 第 11 講 ケアマネジメントプロセス(ケアプランの作成②)ケアマネジメントの事例(3) 第 12 講 ケアマネジメントプロセス(ケアプランの実施・ モニタリング) ケアマネジメントの事例(3) 第 13 講 ケアマネジメントプロセス(評価・終結) ケアマネジメントの事例(3) 第 14 講 わが国におけるケアマネジメントの実際と課題 ケアマネジメントの事例(4) 第 15 講 授業のまとめ ケアマネジメントの事例(4)
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受講者の 2 回目のアセスメント項目に関しての みα=.411 と低い数値が出たものの、他の項目 ではα=.60 以上が計測された。アセスメント においても、他の回は全てにおいてα=.80 以 上となっていることから、項目に大きな問題が あるわけではない、と判断し使用した。(表 3) また、今回 2 年度分のデータを使用している ため、受講段階での平均値のばらつきに差がな い か ど う か を 確 認 す る た め に、2014 年 度 と 2015 年度の 1 回目について、カイ二乗検定を 行った。その結果、すべての項目において、有 意差が認められなかったため、使用することに 問題はないと判断した。 統計処理には SPSS ver.22.0 を使用した。
Ⅲ.倫理的配慮
本調査はケアマネジメント論、ケアマネジメ ント演習の成績に与える影響、及び調査協力を しないことによる不利益は一切ないこと、調査 への協力はあくまで任意であり、協力の中止や 情報の抹消はいつでも可能であること、個人が 特定されることがないよう、すべてデータとし て取り扱うことを伝え、本アンケートの提出を もって同意したとみなすことを伝えた。なお、 本調査は、高知県立大学社会福祉研究倫理審査 委員会の承認を得たものである(承認番号 社 研倫 14-49 号)。Ⅳ.調査結果
アンケート対象者については、ケアマネジメ ント論の受講者数は、2014 年度が 72 名、2015 年度が 67 名の計 139 名であり、本調査協力者 は 78 名(56.1%)であった。そのうち 2014 年 度が 36 名、2015 年度が 42 名であった。調査 協力者のうち、ケアマネジメント演習の受講者 の割合は受講者 46 名(59.0%)、非受講者 32 名(41.0%)であった。(表 4) 単純集計では、全体平均が受講者では 1 回目 3.12、2 回目 3.13、3 回目 3.12 と大幅な変化は 見受けられなかった。また非受講者においても、 1 回目 3.11、2 回目 3.08、3 回目 3.12 と同じく 大きな変化は見受けられず、また受講者と比べ ても同じあるいは若干低い程度にとどまってい る。 表 3:クロンバックα係数 尺度 受講者 非受講者 1 回目 2 回目 3 回目 1 回目 2 回目 3 回目 インテーク .844 .805 .900 .837 .854 .830 アセスメント .866 .411 .944 .850 .868 .812 プランニング .814 .837 .861 .853 .859 .815 インターベンション .928 .935 .743 .837 .865 .871 モニタリング .854 .887 .906 .743 .853 .765 エバリュエーション .900 .613 .934 .879 .918 .900 ターミネーション .854 .859 .881 .828 .810 .844 関連技術 .818 .869 .918 .840 .861 .810 表 4:調査対象者の状況 2014 年度 2015 年度 計 ケアマネジメント 演習受講者 8 38 46 ケアマネジメント 演習非受講者 28 4 36項目間では、「長期目標と短期目標」が、受 講者が 1 回目 3.96、3 回目 4.09、非受講者が 1 回目 3.59、2 回目 3.78、3 回目 3.69 と、それぞ れの回で最も平均が高くなった。なお、非受講 者の 1 回目については関係作りも 3.59 と同率 であった。受講者の 2 回目については「ニーズ の見定め」で、全項目を通じて最も高いものと なったが、3 回目では 3.52 と大きく落ち込んで いる。 得点が低く出たものでは、受講者、非受講者 ともに、3 回とも「費用対効果の考え方」が最 も低く現れた。受講者では 1 回目 2.30、2 回目 2.26、3 回目 2.43、非受講者では 1 回目 2.38、2 回目 2.19、3 回目 2.38 であった。なお非受講者 の 1 回目については「査定会議の開催」も同数 の 2.38 であった。(表 5・6) 続いて、カテゴリー間で見ていくと、ケアマ ネジメント演習で学ぶことになるインテーク、 アセスメント、プランニングの 3 カテゴリーに おいて 3 回目の段階で、非受講者との間で 0.2 以上の差が見られた。特にアセスメントについ ては、0.31 と最も差がつくなど、受講者の方が 非受講者よりも高い傾向が見られている。その 他、受講者では 6 カテゴリーにおいて微増傾向 が確認されたものの、エバリュエーションと ターミネーションについては、1 回目よりも 3 回目の点数が低く現れた。非受講者では 2 回目 に点数が下がり、3 回目で元に戻る、また大き な変動が見られないことが見受けられた。(表 7) 続いて、3 地点における平均点を分散分析で 比較した。まず受講者では、Mauchly の球面 表 5:受講者における各項目の平均点及び一元配置分散分析結果 * p > 0.05
性の検定を見て、分散共分散行列の等質性を チェックした結果、球面性の仮定が成り立って い た 項 目 で は、「 包 括 的 な 状 況 把 握 」(F(2、 90)= 4.01, p < .05)、「ニーズの優先度判定」(F (2、90)= 6.26, p < .01)、「案の提示と合意」(F (2、90)= 3.45, p < .05)の 3 項目において有 意差が見られた。また、一部の項目については、 球面性の仮説が成り立っていなかったため、 Greenhouse-Geisser の自由度の修正を行った。 その結果、権利擁護(F(1.189, 84.91)= 4.81, p < .05)のみに有意差が見られた。有意差が見 られた項目について、ボンフェローニの方法を 用いて多重比較を行ったところ、1 回目と 3 回 目に「ニーズの優先度判定」「案の提示と合意」 「権利擁護」では 5%水準で、2 回目と 3 回目に おいて「包括的な状況把握」「ニーズの優先度 判定」が 5%水準でそれぞれ有意差が確認され た。非受講者においては、すべての項目で有意 差が認められなかった。 また、各回における受講者、非受講者間にお ける差を確認するため、有意水準 5%で両側検 定の t 検定を実施した。その結果、初回では、「長 期目標と短期目標」(t(76)=2.182, p<.05)の み有意差が見られた。2 回目では、「見守り体制」 (t(76)=1.532, p<.05)、3 回目では、「包括的 な状況把握」(t(76)=2.778, p<.01)、「セルフ ケア能力と限界」(t(75.913)=2.301, p<.05)、「ア セスメント表の作成」(t(76)=2.696, p<.01)、 「長期目標と短期目標」(t(76)=2.218, p<.05)、 「ニーズの優先度把握」(t(76)=3.667, p<.001)、 「パッケージプラン策定」(t(76)=2.083, p<.05)、 「 利 用 者・ 家 族 の 満 足 度 評 価 」(t(76)= 表 6:非受講者における各項目の平均点及び一元配置分散分析結果 * p > 0.05
-2.128, p<.05)の 7 項目に有意差が見られた。
Ⅴ.考察
今回の結果から、大幅な数値の差はなかった ものの、全体として受講者の方が得点に伸びが 見られるカテゴリーが多くあることが判明し た。特にアセスメント及びプランニングのカテ ゴリーについては、3 回目調査では 0.2 以上の 差が現れている。ケアマネジメント演習では、 主にケースに対するアセスメント及びプランニ ングを中心に講義展開がされており、その教育 効果が差として現れたものと考えることができ るのではないか。一方、二本柳(2012)で示し た調査では、相談援助実習がケアマネジメント に関する知識について学習効果の維持につな がっている可能性を指摘している。この調査は 初回がケアマネジメントについての学習をして いない段階であり、調査タイミングも異なるた め、今回の結果と純粋な比較としてすることは 難しいが、非受講者の数値は微増もしくは微減 でとどまっており、ケアマネジメント演習がな くとも学習効果の維持に相談援助実習が影響し た可能性は否定できない。今後ケース数を増や し、さらなる調査が必要であろう。 反面、演習では取り上げていないモニタリン グ以降については、受講者のほうが多少高い傾 向はあるものの、有意に差が出るほどではなく、 また、エバリュエーション、ターミネーション に関しては、受講者が 1 回目より 3 回目が低く 出るという結果となった。これについては、理 解の低下というよりも、演習を受講したことに より、自己理解について厳しく見るようになっ たことが原因ではないかと考えられる。対象者 は学生であることから実際にプランを立てたあ と、プランの評価(モニタリングやエバリュエー ション)は経験したことはなく、評価について 知識として一定程度理解できていると思ってい 表 7:カテゴリー毎の平均点推移たものが、ケアマネジメントをより理解したこ とによって、実は「わかったつもり」で終わっ ていた、と感じるようになったのではないだろ うか。 有意差についても、回数間における有意差は、 ケアマネジメント演習受講者については数項目 ではあるものの出ている反面、非受講者につい てはすべての項目で有意差が見受けられないと いう結果となった。二本柳(2012)は WI を用 いた調査において、ケアマネジメント技術教育 を受講した学生を対象に相談援助実習後の変化 を調査しているが、その結果、相談援助実習が ケアマネジメント技術教育の教育効果に持続性 を与える可能性があることを示唆している。し かし、今回の調査対象は 3 年時に相談援助実習 を経験しているが、実習直後に行われた 2 回目 と 1 回目で有意差は見られておらず、ケアマネ ジメント演習の受講の有無にかかわらず、項目 によっては下がったものがあることから、ケア マネジメント論のみによる教育では、統計的に は相談援助実習そのものがケアマネジメント技 術の知識面に影響を与えたとは言い難い。 「包括的な状況把握」「ニーズの優先度判定」 「案の提示と合意」「権利擁護」に有意差が見受 けられた点については、ケアマネジメント演習 の担当教員が「クライエントのアセスメント、 プランニング作業を進めていく中で、クライエ ントのニーズ把握については特に意識した」と 述べており、その結果としてアセスメント、プ ランニングの中でも特に影響があったのではな いかと考えられる。また、「権利擁護」につい ては、アンケートに記載している各項目に関す る説明文で「資源に対して、サービスを提供さ せるための工夫」と記載している。これは社会 資源側へケアマネジャーがアプローチをする事 により、利用者がサービスを受けやすいように 資源調整、資源修正を行っていく。その結果と して利用者が支援を受ける事ができる環境を保 証することを指している。プラン作成において はフォーマル、インフォーマルそれぞれの資源 をクライエントにとって良い形で活用すること が求められ、そのためにケアマネジャーが社会 資源に対して介入することの重要性がより理解 できたと考えられる。 受講者、非受講者間における t 検定結果につ いては、1 回目、2 回目と教育内容に大きな変 化がない回においては、有意差が見られたのは 1 項目と少ないものであった。どちらも受講者 群の方が、点数が高くなっているが、これらが 影響している理由については、それぞれがその 受講している他の科目の影響、また実習による 影響などが考えられるが、それについては今回 の調査範囲外になっており、今後の検討課題で ある。3 回目の結果については、7 項目に有意 差が出ており、「利用者・家族の満足度評価」 以外は全てケアマネジメント演習で行った講義 内容を受けて影響を受けたものと考えられる。 また、「利用者・家族の満足度評価」については、 受講群の方が、有意に点数が低く出ている。こ の項目は受講群の中では初回 3.11 から始まり、 2 回目と点数が微増、3 回目で点数を下げ 2.91 まで落ち込んでいるが、逆に非受講群では点数 が微増を繰り返し、3 回目では 3.31 まで上がっ ている項目である。3 回目で t 検定で有意差が 出るほど差が出たことから、満足度評価につい て、演習を通すなかで説明できるほどの理解が 出来ていないことに気がついた結果、点数の減 少が見られた、と考えることができるのではな いだろうか。
Ⅵ.研究の限界
WIは主観的データであるため、その結果が 対象者の考え方に大きく起因することには注意を払わなければならない。また、今回の対象者 は社会福祉士のみを目指すコースだけでなく、 加えて精神保健福祉士、介護福祉士を目指す別 のコースが存在し、今回コースごとの分析まで はできていない。今後は他の履修科目等につい ても十分な考慮を含めた検討が必要になってく ると考えられる。また、今回の結果において、 平均値では大きな差がつかなかった項目が多く 見られたが、ケアマネジメント論、ケアマネジ メント演習ともに選択科目であり、前提科目で あるケアマネジメント論自体を受ける時点で意 識が高い学生であることが想定される。比較対 象の設定については一考する必要がある。 また、2 年度分のデータを使用したため、全 く同条件のデータを えられたとは言い難い。 同教員による授業であることや、初回段階の t 検定によって、比較対象に有意差がないことを 確認するなど、できる限り条件を えて分析を 行った。しかし、そもそもの在学生数や協力者 数に限りがあるため、統計上処理をするために は仕方がない部分があるものの、本来でいえば 望ましいものではないともいえ、今後の調査課 題と言えよう。 また、二本柳が調査した A 大学と今回の調 査を行った B 大学では科目の配置タイミング などが異なっていることから、大学間における 単純な比較評価を行うことが困難である。国家 資格科目のようにカリキュラムが明確にしてさ れている科目でない以上、開講する大学の意図 や教員の考えによって、教育内容が大きく変わ ることが想定される。今後、ケアマネジメント 技術教育を実施している各校の状況についても 十分な検討が必要であろう。
Ⅶ.おわりに
今回の調査において、ケアマネジメント技術 教育により、ケアマネジメント技術の知的理解 の向上がより望めることが明らかとなった。し かし、その一方で、今回の調査対象としたケア マネジメント演習は、ケアマネジメントプロセ スの評価、終結に関する部分は取り上げること が出来ていない。また、結果からもエバリュエー ションやターミネーションは、他のカテゴリー に比べて各回の変化は少ないことが見受けられ た。これらは、実際に自分たちが立てたプラン を試行させることが出来ないことから、立てた プランがどのように効果を示したか、または示 されなかったのかを疑似体験させることは難し い部分であることが要因といえ、このことから 大学におけるケアマネジメント技術教育におい て、この部分をどのように対応するのか、今後 の大きな課題といえるのではないか。 二本柳(2012)は相談援助実習がケアマネジ メント技術の知的理解に一定の影響を与えるこ とを示唆しているが、それは、ケアマネジメン ト技術教育を受けた上で実習教育を受けた場合 に限定がされていることから、ケアマネジメン ト演習という学内演習と相談援助実習という実 践が結びつけられることが知識の定着につな がった、と考えることができるのではないか。 技術的知識を獲得するにあたっては、座学と実 習を結びつけるために、指導計画上、想起させ、 復習させ、検証させ、定着させることができる よう編成することが必要であると言われている (長谷川 1977)。そのことからも、相談援助実 習前に学内におけるケアマネジメント技術教育 を実施することが、ケアマネジメント技術の定 着においては重要であるといえよう。 近年は社会福祉士、精神保健福祉士の実習に おいて、個別支援計画の作成を含んだ実習プロ グラムが設定されることが多くなった。高梨に よる調査によれば、「職場実習・職種実習・ソー シャルワーク実習」という 3 段階で実習を整理した際、3 段階目であるソーシャルワーク実習 において利用者のアセスメントに対して実習生 の着眼が増えている、という報告がなされてい る(2018)。アセスメント、プランニングを行 う中で、実習施設で対応できることはなにか、 多機関との連携が必要な課題は何か、といった 視点を持つことはケアマネジメント技術の涵養 においては重要であろう。しかしながら、実習 指導者自身がそのような視点をふくめたスー パービジョンができるかは、スーパーバイザー としての力量も影響をしてくることが想定され る(渡邊他 2019)。そのため、ケアマネジメン ト演習等で学んだ内容を想起、検証させること ができる実習プログラムをどう組み込むのか、 実習指導者と養成校教員との間で十分な検討を 行うことが必要であろう。 また、丸山(2012)はソーシャルワーカー養 成教育について「4 年間の大学教育におさまり きれるものではない」と述べており、社会福祉 士養成カリキュラムとソーシャルワーカー養成 との乖離を指摘している。実際、限られた時間 の中でソーシャルワーカーとして持つべき能力 を獲得し切ることは、現状の教育システム上困 難であるといえる。その上で、社会から要求さ れるソーシャルワーカーとしての能力を早期に 獲得するためには、卒業後も見据えた教育シス テムの構築が必要であると考えられる。特にケ アマネジメント技術については、モニタリング など、中長期にわたる関わりを通じて体験的に 獲得しうるものといえ、それを勤務先のみで獲 得することは現状としては難しい(木全 2011)。 それを克服する一手法として、他者の経験した 事例を擬似的に経験するといったプログラム開 発が必要と考えられる。今後、在学生や勤務経 験の浅いソーシャルワーカーに対するプログラ ム開発に向けた調査研究を推し進めていきた い。 注 1)本論で述べるソーシャルワーカー養成校とは、 社会福祉士、精神保健福祉士養成カリキュラム を実施している養成校を指す。 2)WI は、野中らによって作成されたケアマネジメ ントを展開するために必要となる「中核技術」 を自己評価するために開発された指標であり、 その信頼性と妥当性は、検証の結果確保されて いる。 参考・引用文献 上野千代子・吉井清子・奥田亜由子 他(2008)「学部 教育におけるケアマネジメント技術教育の現状 と評価」『日本社会福祉教育学会誌』2, 29-39. 小野美奈子・松本憲子・草野径子(2002)「介護保険 施行後のケアマネジャーの課題 : A 町要介護認定 を受けた 24 名への家庭訪問調査から」『宮崎県 立看護大学研究紀要』 2(1), 30-47. 木全和巳・高山京子・高橋義久(2011)「若手の相談 支援専門員が必要としている研修の内容に関す る基礎的研究(その 2)2 年目のインタビュー調 査の結果から」『日本福祉大学社会福祉論集』 125,143-182. 楠永敏惠・柊崎京子・吉賀成子 他(2018)「「福祉系」 介護支援専門員によるケアマネジメントの課題 についての文献検討」『社会医学研究』35(1), 11-17. 厚生労働省(2013)「介護支援専門員(ケアマネジャー) の資質向上と今後のあり方に関する検討会にお ける議論の中間的な整理」(https://www.mhlw. g o . j p / s t f / s h i n g i /2 r 9 8 5 2 0 0 0 0 0 2 s 7 f 7 -att/2r9852000002s7go.pdf.2019 年 10 月 1 日確認). 厚生労働省(2019)「第 21 回介護支援専門員実務研 修受講試験の実施状況について」(https://www. m h l w . g o . j p / s t f / s e i s a k u n i t s u i t e / bunya/0000187425_00003.html.2019 年 10 月 1 日 確認). 介護支援専門員生涯研修体系のあり方に関する研究 委員会(2006)「介護支援専門員の生涯研修体系 のあり方に関する研究委員会最終報告書」財団 法人 長寿開発センター. 高梨未紀(2018)「生活施設におけるソーシャルワー ク実習生の学びの視点 : テキストマイニングに よる実習日誌の分析から」『日本福祉大学社会福 祉論集』(138), 117-130.
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Abstract
The Educational Effects of Care Management Skills
Training: a Comparative Study of Seminar of Care
Management Participants and Non-participants at
B University
Akira NIHONYANAGI
The purpose of this study is to understand the learning outcomes of education in care management skills after learning Care Management . It conducted a comparative analysis of the intellectual understanding of care management gained by students who took Seminar of Care Management , which teaches care management skills, and students who did not take the seminar at B university, an institution at which social workers are trained. The survey method employed a five-grade evaluation questionnaire on intellectual understanding that utilized care management work indicators at three points in time: at completion of Care Management , at commencement of Seminar of Care Management , and at completion of the seminar.
As a result, in the categories of assessment and planning, a difference in scores was observed at the conclusion of the Seminar of Care Management , with students who took the seminar achieving higher scores. In addition, when the t-test was performed, it showed that the results of the group that took Seminar of Care Management with seven topics were significantly higher at the point in time when Seminar of Care Management ended. These results suggest that an increased intellectual understanding of care management skill can be expected as a result of education in the care management skill.