(受稿2018.11.6/受理2019.2.12)
1富山大学大学院医学薬学研究部 外科学(呼吸・循環・総合外科)
2富山市立富山市民病院 呼吸器・血管外科
の瘤径の経過を観察していたところ術後 6 ヶ月後には 4.1cm, 1 年後には3.9cm, 2 年後には3.6cmと瘤径は縮 小 してきていた。また,術 後 にはEndoleakは 認 めてい なかった。2018年 1 月に突然の両下肢の脱力と背部痛を 認め,救急外来を受診した。
既往歴:狭心症,小脳梗塞,早期胃癌(内視鏡的粘膜切 除術)
家族歴:特記すべきことなし
診療経過:救急外来では,両上肢の麻痺,運動制限は認 めなかったが,両下肢は弛緩性の完全麻痺の状態であっ た。両側の深部腱反射は保たれており,Babinski反射や Chaddock反射は両側とも認めなかった。知覚に関して は,両側鼠径部以下の末梢側に痛覚の反応低下を認めた が位置覚は保たれていた。神経学的所見から前脊髄動脈 症候群を疑われ,胸腹部CT検査を行った。造影CT検査 はじめに
腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術の術後 に急性B型大動脈解離を発症する頻度は少ない。今回 我々は腹部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を 実施した 5 年後に対麻痺により発症した急性B型大動脈 解離を経験したので報告する。
症 例
症例:90歳,男性
主訴:両下肢の脱力,背部痛
現病歴:2013年に4.5cmの腹部大動脈瘤と 3 cmの左総腸 骨 動 脈 瘤 に 対 し てGore® Excluder®C 3 (26mm × 12mm×16mm,ジャパンゴアテックス社製)を用いて ステントグラフト内挿術及び,左内腸骨動脈閉塞術を実 施された。その後は定期的にCT検査にて腹部大動脈瘤
症 例 報 告
腹部大動脈ステントグラフト内挿術の術後に 急性B型大動脈解離を発症した 1 例
嶋田喜文 1 ・武内克憲 1 ・山下重幸 1 ・関 功二 2 ・湖東慶樹 2 ・山下昭雄 1
A case of acute type B aortic dissection after endovascular repair of abdominal aortic aneurysm
Yoshifumi SHIMADA
1, Katsunori TAKEUCHI
1, Shigeyuki YAMASHITA
1, Koji SEKI
2, Keijyu KOTOH
2, Akio YAMASHITA
11
Department of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, University of Toyama
2
Department of Respiratory and Vascular Surgery, Toyama City Hospital
和文要旨
腹部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を実施した遠隔期に急性大動脈解離を発症する例は稀 である。我々は腹部大動脈ステントグラフト内挿術術後 5 年目に対麻痺により発症した急性B型大動脈 解離の症例を経験した。本症例における急性B型大動脈解離の原因は,ステント骨格周囲にエントリー が認められない点などから自然発生による急性大動脈解離と考えられた。
英文要旨
Acute type B aortic dissection after endovascular abdominal aortic aneurysm repair is reported a rare complication. We report a case of acute type B aortic dissection in the fifth year after abdominal aortic endovascular surgery. The patient had paraplegia from the beginning of acute type B aortic dissection. The dissection developed from near the left subclavian arterial bifurcation and no entry was found in the area of the stent framework. We suggested that present case was considered to be spontaneous occurrence of acute aortic dissection.
Key words: Endovascular aneurysm repair, Type B aortic dissection, Paraplegia
Toyama Medical Journal Vol. 29 No. 1 2018
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考 案
今回の症例は,比較的稀とされている腹部大動脈瘤に 対するステントグラフト内挿術の術後遠隔期に急性B型 大動脈解離を発症した事と急性B型大動脈解離の発症時 に対麻痺が認められた事が同時に発症している点で,極 めて稀な症例である。
腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術の遠隔 期の経過観察の報告1,2)では,遠隔期の急性大動脈解離 の発生に関する詳細な記載は見当たらなかった。これま でに報告されている症例を文献的に検索すると1999年に Girardiらによって 最 初 の 報 告3)がされて 以 降16例 が 報 告3-7)されているのみであった。報 告 された16例 の 発 症 時期は術後 2 日目~ 2 年と広範囲であるが,術後 3 ヶ月 以 内 の 症 例 は 9 例(56%),術 後 6 ヶ月 以 内 が12例 では,左鎖骨下動脈分岐部から下行大動脈,腹部大動脈
ステントグラフト留置部直上に及ぶ大動脈解離(図 1 ) を認めた。解離腔には血栓形成を認め,早期血栓閉塞型 大動脈解離と診断された。ステントグラフトには解離腔 による圧迫,変形は認められず,ステントグラフト内の 血流も保たれていた。また,腹腔動脈,上腸間膜動脈,
腎動脈の血流も保たれていた。
解離腔の早期血栓閉塞型であるため入院直後から降圧 療法を開始した。また,対麻痺に対して脳脊髄液ドレ ナージの実施を計画したが,同治療に対する同意を得ら れなかったため実施しなかった。発症後 1 か月目のMRI 検査では,Th12~ L 2 のレベルで前脊髄動脈領域の脊 髄梗塞像(図 2 )を認めた。発症後 2 か月目にリハビリ テーション目的で転院となった。
図 2 発症後 1 か月目の脊髄MRI検査
Th12のレベルのT 2 強調像で高信号を認め,前脊髄動脈領域の脊髄 梗塞像を認める。
図 1 救急外来受診時の造影CT画像
左鎖骨下動脈分岐部から腹部大動脈ステントグラフト留置部直上に及ぶ大動脈解離を認める。解離腔は 血栓閉塞している。ステントグラフトは開存しており,解離腔からの圧迫や変形は認めない。
嶋田ほか:ステントグラフト術後の急性B型大動脈解離
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(75%)と比較的早期に発症している例が多い。ステン トグラフト内挿術術後の急性B型大動脈解離の発生機序 には,順行性の自然発生型とステントグラフト内挿術の 手術手技に伴う逆行性解離の二種類が考えられる。一般 的な急性B型大動脈解離のエントリー好発部位である左 鎖骨下動脈分岐部付近にエントリーを有し下行大動脈,
腹部大動脈へ解離が波及している場合には,順行性の自 然発生と判断する根拠となる。一方で,逆行性解離の原 因としては,ステント骨格自体による大動脈壁の圧迫,
損 傷8),stiffガイドワイヤーやバルーンカテーテルによ る大動脈壁の損傷4 )などが考えられている。また,血 管内操作を行った手術日から発症日の間隔が長いほど,
自然発生の頻度が高くなると考えられる。ただし,ステ ント骨格による大動脈壁損傷に関しては,手術からの期 間が長い場合でも発症した症例9)も報告されている。今 回の我々の症例では,術後 5 年を経過している点,左鎖 骨下動脈分岐部付近から解離が発生している点,ステン ト骨格周囲にエントリーが認められない点などから自然 発生による急性大動脈解離と考えられた。これまでに報 告されている16例中で死亡した症例は 4 例(25%)であ り,解離に伴いステントグラフトが閉塞した症例は 4 例 に認められていた。ステントグラフトが閉塞した症例や 解離腔の拡大や破裂,解離によりmalperfusionに陥った 症例では,直接手術やステントグラフト内挿術等の追加 が行われているが,合併症等の症状がない場合は降圧療 法などの内科的治療が選択されていた。
まとめ
腹部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を実施 した遠隔期に対麻痺により発症した急性B型大動脈解離 の症例を経験した。本症例における急性B型大動脈解離 の原因は,ステント骨格周囲にエントリーが認められな い点などから自然発生による急性大動脈解離と考えられ た。
利益相反自己申告:申告すべきことなし
文 献
1 )Machado R., Antunes IL., Oliveira P., et al. : Institution-