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現代社会における企業の本質的役割

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現代社会における企業の本質的役割

CSR

部門の課題と今後果たすべき役割とは

The Essential Role of Enterprises in Contemporary Society

山本 誠

YAMAMOTO Makoto

1.日本企業の CSR における現状と課題

日本企業が、CSR(corporate social responsibility 企業の社会的責任)を進めてい く上での課題を、経営層、事業部門、CSR部門がどう捉えているのか。公益財団法人 東京財団が発行した『CSR白書

2015』に面白いデータがあるので引用したい。経営

層と事業部門は「事業活動への落とし込み」を一番の課題だと捉えているのに対し、

CSR

部門は「CSR活動方針の社内理解」だと捉えている。それ以外にも、経営層や事 業部門には「CSRに対する理解不足」「CSRの活動方針の社内浸透」など多くの共通 した課題があり、一方で、CSR部門には「活動における資源不足」「部門/グループ横 断的連携体制の整備」など、まるで自分たちは経営資源がないからやりたいことがで きない、と言わんばかりの項目が上位に連なっている(1)。このように、社内の意識の ギャップが

CSR

部門の孤立を生んでおり、そのまま専門性だけを高めていくことで

「マニアックな部門」という認識が生まれ、CSR部門が本来あるべき、十分な役割を果 たせていないというのが日本企業における

CSR

の現状である。

わが国では、2000年代の初頭に相次いで発生した企業不祥事に象徴される企業体質 のネガティブな面が、市場や社会から厳しい批判を受けた。加えて、グローバルな要 素として「SRI(socially responsible investment 社会的責任投資)」が日本でも導入さ れ始めたことによって「CSR元年」を迎えたが、その後の各企業の取組み強化や、社 会の要請が変化していることを受けて

CSR

の定義や本質に関する議論も進んできた。

CSR

の歴史と定義については、「CSR元年」の名付け親でもあるニッセイ基礎研究 所の川村雅彦氏が特別レポート「日本における

CSR

の系譜と現状」(2)の中で、CSR

「CSRとは、法令遵守や社会貢献を超えて、企業が本業のプロセスとプロダクツを通じ て社会的課題を解決し、持続可能な社会の実現の為に自ら実践することである。」と改 めて定義しているが、2016年段階で、まだこの定義は日本企業の中に十分浸透してお らず、それがあるべき活動を行えていないことの原因になっているのではなかろうか。

川村氏はまた、コーポレートガバナンス・企業倫理・法令遵守・内部統制を軸とし たリスクマネジメントや情報開示・企業価値の分配(本業以外の社会貢献活動を含む と想定される)といった、従来わが国の企業が

CSR

活動の主な対象として取組んでき

(2)

た実践領域を「基礎的

CSR」と位置づけ、これは、CSR

経営の基盤整備であり、広義 における企業統治を意味するものである、と定義している。

一方、上記の定義で示されている、ステークホルダー(市場・環境・社会・従業員)

への責任を果たし、事業を通じて社会的課題の解決に取組んでいく領域を「創造的

CSR」と位置づけて、ステークホルダー価値の向上を目指すべきであるとしている。

さらに、川村氏は「これまでは、CSR経営の「取組み」だけが問われてきた為、「成 果」が出ていなくても方針や体制、あるいは取組み状況が良ければ"CSRに優れた企 業"と評価された。それゆえ、一部には"名ばかり

CSR

経営"も見受けられる。しか し、これからは社会的課題の解決につながる

CSR

経営の「成果」が問われる。たとえ

CSR

の方針・体制の整備や取組が良くても、具体的な成果がでなければ評価されない。」

と、先述のレポートにおいて結論づけている。

これまで、わが国の企業の間で推進されてきた

CSR

の取組みは、川村氏が看破して いる通り、その多くが「基礎的

CSR」の領域に留まっているのが実情であろう。そん

な中、最近では経営課題として「マーケティング」や「事業戦略」と結びつける傾向 が見られる。

CSR

に新しい価値を模索する動きの例として、競争戦略論の第一人者であり米国 ハーバードでも教鞭を執る経営学者、マイケル

E.

ポーターが

2011

年に「共通価値の 戦略」という論文で提唱した

CSV(Creating Shared Value 共有価値の創造)の概念

が挙げられる(3)

CSV

は、従来型の

CSR

に取って代わるべきものとして度々議論されるが、「企業の 競争力強化と社会的課題の解決を同時に実現させ、社会と企業の双方に価値を生み出 すビジネスを意味し、企業は社会と共有できる価値の創造を目指すべきである」とい う主張である。一言で表せば、「社会的課題の解決をビジネス化し、社会と価値を共有 する」ということになる。表に示すように、必ずしも

CSR

に取って代わるものではな い(表 1)。

ポーター教授は、それ以前にも

2006

年に発表した「競争優位の

CSR

戦略」におい て、事業活動を通じた価値創造や社会変革こそが企業の本質的な役割であると主張し ている(4)。そして、直接的に関係する取組みを「戦略的

CSR」、それ以外の取組みを

「受動的

CSR」もしくは「善行的 CSR」と位置づけている。

CSV

の概念は「戦略的

CSR」の深化版という解釈ができ、ポーター教授も後に両者

は基本的には同じ概念であると表明している。さらに付け加えるのならば、前述の川 村氏が定義している「創造的

CSR」ともほぼ合致する考え方といえる。

そして、昨今の

CSR

に関するもう一つのトレンドとして挙げられるのが、欧州を中 心に始まっている「統合報告」(5)模索の動きである。

統合報告とは、企業の売上や利益といった財務情報と、ESG(Environment:環境、

Society:

社会、Governance:統治)情報を中心とした非財務情報に、長期経営戦略を 総合的に関連付けて、主に投資家を対象としてステークホルダーに情報開示していく ことである。統合報告の国際フレームワークを開発している

IIRC(The International

Integrated Reporting Council 国際統合報告委員会)がディスカッションを重ねてお

り、2013年末に公表された「統合報告に関するフレームワーク」(6)に基づき、先進企

(3)

業は対応を推し進めている状況である。

ここでは、従来の「法令に基づく決算報告と、CSR報告を単純に合体させた情報開 示」が求められているのではなく、企業経営のあり方や企業価値の意味そのものが根 本的に問われている。各企業は、「事業を通じてどのように社会的課題を解決し、持続 可能な発展に寄与するのか」という点に関して長期ビジョンを示し、ステークホルダー に説明責任を果たすべきである、と解釈できる。

「統合報告」をそのように解釈するならば、企業の情報開示領域が財務情報中心の

20

世紀型企業報告から非財務情報にも及び始めた

21

世紀モデルに変化していると いうことに留まらず、企業経営のあり方や企業価値そのものが問われている、すな わち、CSRの本質に対する理解と実践が社会から要請されているという段階を迎え ていると言えよう。更に、2015

9

月に国連で「持続可能な開発目標(Sustainable

Development Goals:SDGs)」が採択されたが、これは気候変動やエネルギー、健康や

雇用といった先進国でも深刻化している社会的課題に対して

17

の持続可能な開発目標 とそれを支える

169

項目を掲げており、先進国・後進国すべての国を対象としている ことが特徴である。既に、株式会社味の素や株式会社伊藤園、株式会社

LIXIL

などは

17

のテーマの中で自社がどのような事業で社会課題を解決していくのかを明示し、こ

SDGs

に積極的に取組んでいる(表 2)。政府のみならず、産業界や市民社会など、

地球上のすべての人を対象とした共通目標という位置づけとなっており、今後多くの 企業の活動の目標になるだろう。

いずれにしても「CSR元年」以降の日本企業の試行錯誤を経る中で、川村氏が主張 している「基礎的

CSR」の領域は、各企業の中で、一定の取組みが推進、実践され整

備が進んできたと評価できる。その上で繰り返しになるが、これまで述べてきたよう

ISO26000

CSV、そして統合報告、SDGs

の潮流を鑑みると、わが国企業は、CSR 経営導入

10

年の節目(=

2013

年)を経て新しいステージを迎えたわが国の

CSR

に対 表 1 CSR と CSV の違い

Corporate Social Responsibility CSR CSV

Creating Shared Value

価 値 善行 経済的便益と社会的便益

方 向 チズンシップ、フィランソロピー、

持続可能性 企業と地域社会が共同で価値を創出

動 機 任意、外圧 共創に不可欠

利益との関係 利益の最大化は別物 利益の最大化に不可欠

テーマ設定 外部の報告書や個人の嗜好で決まる 企業ごとに異なり内発的である 予算制限 業の業績や

CSR

予算の制限を受

ける 企業の予算全体を再編成する

方 法 とえば、フェア・トレードで購入

する とえば、調達方法を変えることで 品質や収穫量を向上させる 出典:伊吹英子、2014、『新版CSR経営戦略』東洋経済新報社、一部筆者にて改変

(4)

して、これまで以上に「グローバル視点」が要求されている、という認識をもたなけ ればならないと言える。

2.CSR の本質とは

2011

3

11

日に起こった東日本大震災は、わが国の社会全体だけでなく、企業 の社会的責任に対する価値観の変化をもたらした、一つの転機と捉えられる。実際に 東日本大震災において被災地の支援に取り組んだのは、個人のボランティアや非営利 組織のメンバーに留まらない。多くの企業が、自分たちにできることを考え、実行し ていたのは記憶に新しい。その時、単なるフィランソロピー(社会貢献)の枠を超え、

自社の本業を通じた被災地支援に取り組んでいった企業は、大切な問いに向き合うこ とになる。それは、企業にとって「社会貢献」とは何か? 「利益」とは何か? という 問いである。

多くの企業トップは、どうすれば自社の本業を通じて被災地を支援できるかを考え た時に、まず「利益」は度外視して考えようという原点から始めた。しかし、事業を 長期的に継続していく為には、最低限の「利益」が必要だ。そこで企業トップたちの 中に、高度経済成長の時代から数十年、わが国では企業活動の究極の目的は「利益の 追求」であると言われてきたが、本当にそうなのだろうかという疑念が湧いてくる。

企業活動の究極の目的は「社会への貢献」であり、利益とは本業を通じて社会貢献 を持続していく為の「手段」なのではないかという思い。それは、CSRの概念を持ち 出すまでもなく、「3.11」が気付かせてくれた企業のあるべき姿であり、わが国に永く 伝えられてきた思想への回帰とも言える。 田坂広志の言葉を引用するならば、その 思想は「日本型経営」において語り継がれてきた

3

つの言葉に象徴される。

「企業は、本業を通じて社会に貢献する。」

表 2 SDGs への取組み状況

企 業 主な取組み

味の素 アフリカ諸国に多い栄養不足による発育不全を防ぐために、ガーナで「ココ」

というトウモロコシを素材とした伝統的おかゆに加える栄養サプリメント、コ コ・プラスという商品を開発し、国際機関や非政府組織(NGO)とともに販路 を開拓し浸透を図った。また、栄養の重要性を認識してもらうための教育ツー ルの開発や人材育成にも取組んでいる。

伊藤園 自社事業と

SDGs

の関係を紹介する冊子をつくり、海外投資家や顧客へアピー ル。茶産地育成事業は

17

の目標の

1

つ「飢餓をゼロに」の持続可能な農業、カ テキン緑茶の開発は「健康の確保」、茶殻リサイクルは「気候変動対策」などの 環境目標、「おーいお茶新俳句大賞」は「質の高い教育」などを適用している。

LIXIL

途上国での簡易式トイレの販売により、2020年までに世界で

1

億人の衛生環境

を改善する目標を掲げている。すべての人が安全な水とトイレを利用できるよ うにすることは、SDGsの目標であり、事業の拡大は、社会課題の解決に貢献す ることになる。

各社HPより抜粋し、筆者編集・作成

(5)

「利益とは、社会に貢献したことの証である。」

「企業が多くの利益を得たということは、その利益を使ってさらなる社会貢献をせよ との世の声である。」

この

3

つの言葉は、日本という国が世界に誇るべき思想であると田坂は断じる(7) 過去数十年において、「グローバリゼーション」というキーワードと共に海外から 入ってきた価値観は、わが国の企業活動にも少なからず影響をもたらした。

・企業の目的は「利益の追求」であり「株主価値の向上」である。

・経営者の役割は「利益の最大化」であり「時価総額の増大」である。

・経営者にとって社員とは、企業が利益を上げる為の「手段とコスト」である。

しかし、このような考え方が、わが国の誇るべき思想にとって代わり主流を占めて いた時代も永くは続かず、世紀が替わりその反動が「CSR」という形で入ってきてい るという見方もできる。そして「3.11」を契機として、「三方よし」の時代から受け継 がれてきた日本型経営の系譜を思い起こすことにつながったのではないか。

このようにいくつかの段階を経て再び還ってきた一連の思考の移り変わりは、実は

「CSRの本質を探し求める旅」だったと表現することもできる。

いずれにしても、「3.11」が起こった事で、わが国の

CSR

に対する価値観に影響をも たらしたことは間違いない。重要なのは、変化していった社会の要請に対し、いかに して企業が引続き対応していけるか、そして

CSR

部門がどのような役割を果たすべき なのかという点に尽きる。

3.CSR 部門のこれからの役割と会社内での位置付け(中長期的施策)

では、これから

CSR

部門はどうあるべきなのか。まず、我が国の企業経営の性質を 鑑みた時、社内に

CSR

を浸透させていく為には、CSR部門を経営者の直属に置いた 組織体制にする事が重要であると考える。大事なのは経営者が

CSR

の本質、そしてグ ローバル基準(ESG

SDGs

への取組み)を理解し、全社に自らの口で発信すること で本気度を示すことである。その為、経営者のビジョンや方針を直属の

CSR

部門が、

全社へ水平展開すると共に、社員一人ひとりが自分事として積極的に動けるような仕 組みをつくる必要がある。その為の方法論として、私は

3

つあると考えている。

1

に、先に述べたように、組織において

CSR

部門を社長直轄の位置に置くことで ある。この方法を選ぶ一番の目的は社長の意識レベルを高める事、意識だけではなく 本来企業が求められている

CSR

の定義やグローバル基準の

CSR

を、CSR部門がレク チャーして理解をしてもらうことである。もちろん、CSR部門に社長を説き伏せるく らいの正しい知識と理論を兼ね備えた人材がいることも必須条件だろう。

2

に、経営企画部門に

CSR

機能を持たせるもの(図 1)である。「CSR=経営そ のもの」ということは繰り返し述べてきたが、社長のブレーンとして企業経営をつか さどるのは、経営企画部門の使命である。経営企画部門がそれぞれの事業部門の短期

(6)

的な事業計画と数値の取りまとめなどの大部分を管理業務に費やすのではなく、広く 社会に企業を受け入れてもらう為の攻めの要素として

CSR

に向き合い、戦略的な中長 期経営計画を策定すべきではないか。この場合の課題は、経営企画部門の事業コーディ ネート力・事業部門に対する権限強化である。事業部門に影響を与えられないようで は、既存の

CSR

部門が経営企画部門に鞍替えしただけの結果になりかねない。また、

既存の

CSR

部門が担っていた、コミュニケーションや

PR

関連の機能については、広 報・宣伝部門に移行すればよいと筆者は考える。つまり、餅は餅屋に任せるのが社内 浸透・定着は最も効率的に行えるのではないかという発想である。

そして第

3

に、取締役会に付議できる環境を整えることである。現在、多くの企業

CSR

担当役員を置き、ほとんどの活動が担当役員決裁の下で推進されているが、そ れでは全社的な活動に広がっていかない。企業における最高意思決定機関である取締 役会の付議事項として決裁を取り、関係部門だけではなく、企業の経営課題として全 社を巻き込んで活動を推進していく体制にしていくことが今後必要になってくると私 は考えている。その為には、1つ目と

2

つ目の取組みが重要になってくることは改め て言うまでもない。

以上、私なりの見解と方法論を述べてきたが、企業はまず今の

CSR

部門の立ち位置 を知る必要がある。今、自分たちがどこにいるのかを冷静に見つめることが出来なけ れば、周りの情報に振り回され、自社のあるべき姿に行き着くことは到底できない。

具体的には、

・自社の

CSR

部門は何をしているのか

・CSR部門と経営トップのつながりはどうなっているのか

・経営トップの考え方と活動の方向性は合っているのか

これらを正確に把握することが、これから

CSR

部門をあるべき姿に再編し、担うべき 図 1 経営企画部門に CSR の機能を持たせる

筆者作成

(7)

役割を果たせるように変革していく第一歩となる。このように列挙すると、至極当た り前の内容なのだが、ほとんどの企業が当たり前すぎて「(担当部門が)やっている だろう」「うちは大丈夫だろう」というように他人事として捉えている為、経営課題と なっていないケースが散見される。

4.CSR を企業文化として定着させる為にやるべきこと(短期的施策)

CSR

を全社的に推進するために、前章のように中長期的な組織論から入る切り口も あるが、多くの企業では実現までに様々なハードルがあろう。ここでは、即効性のあ るものも含め、具体的な取組み施策をいくつか示していきたい。

・取締役会での付議事項とする

CSR

を経営レベルで取組む為には、取締役全員が

CSR

に向き合い、会社として取組 むことに合意を取り付けることが理想である。未だ多くの企業はトップダウンでの指 示系統が中心になっており、CSRに関してもトップマネジメント層からの指示事項と して動くことが出来れば、半強制的に

CSR

を意識した事業活動を生み出さざるをえな くなる。しかし、そのような方法では継続的な活動としては定着していかないのも事 実である。属人的にならずに、いかにして組織で対応していくのかが大きな課題であ り、その鍵になるのが取締役会ではなかろうか。トップマネジメント層の理解が進め ば、いずれ社長直轄の

CSR

部門の創部へつなげていくことも可能になる。

・ミドルマネジメント層の意識改革を行う

CSR

をミドルマネジメント層に浸透させる目的は、知識の共有だけではない。一つ

CSR

をリスク要因と認識し、社会の関心が何処に向かっているのかを知り、不買運 動や従業員のストライキなどリスク発生の未然防止に活かす為でもある。また、関連 部門が中心となり

CSR

に関するリスクを高い感度と危機感を持って認識し、迅速な対 応を図ることである。もう一つは、社会の課題解決につながる製品やサービスの開発 により企業価値の向上を図る為であり、現場は社会課題を認識して取組む必要がある。

まず、リスクの認識と対応の為には、従来のリスクマネジメント活動の一環として取 組む方が効果的だ。これまで以上にリスクへの感度を高め、中期的なリスクや認識し にくいリスクを洗い出し、管理部門主導で、経営施策に落とし込み、経営戦略の一環 として体系的に取組む。無論、経営戦略への取り込みには、経営陣の理解が前提であ り、経営者の意識向上の為の啓発活動も不可欠だ。このように、ミドルマネジメント 層を対象に、社会の中で事業を行う上では社会に向き合い、社会の要請に応え、社会 と良好な関係を構築することが必要だということを理解させる必要がある。ミドルマ ネジメント層は経営数値を達成する為に日々売上げの確保に追われているのはどこの 企業も同じだと思うが、社会の課題解決につながらないところに需要は生まれないし、

一つの大きなリスクが企業の経営を揺るがす事態になりかねない。「どう売上げを立て るか」を考えるよりも、「どう社会の課題を解決するか」という発想の転換をしていく ことが必要である。今必要なのは、社会への適応を考えることが出来る新しいタイプ

(8)

のゼネラリストである。

・NPO法人との人材交流を行う

社会、そしてリアルな社会の課題を把握する為には、NPO法人への出向や、事業連 携などで日々社会の課題に向き合っている団体の姿勢を学ぶことも有効だろう。それ により、社会の幅広い情報が入るだけではなく、リスクの未然回避につながり、また 担当者とのネットワーキングで様々な課題解決のソリューションにつながる価値共創 の可能性も広がる。

・マーケティングの中心に

CSR

を据える

広告などを中心としたマーケティングコミュニケーションは社内外に大きな影響を 与えることができる。経営層が指示を出すことも社内を動かす為には大事な要素だが、

広告を通じて発信される一つのわかりやすいキーメッセージが企業の意思表示となり、

社員に受け止められ、意識改革、行動改革につながっていくことも私の経験上ほぼ間 違いない。大事なのは、その広告で何を発信するかであるが、社会性のあるテーマを コアにおいてマーケティング戦略を立て、クリエイティブ開発を行っていくことが、

企業として

CSR

に本気で取組んでいくんだという強い意志表示になる。

・ SDGs(持続可能な開発目標)を経営戦略の中に取り込む

従来、事業活動と

CSR

は別々の目標の中で、別組織が個別最適で行って来た。

SDGs

は、事業戦略と一体となって、バリューチェーンの中に組み込むチャンスであ る。SDGsを社会課題を解決するマーケティング視点として捉え、事業戦略の中心に 位置付ける方針を表明する。そして、独自のイニシアティブ名称やロゴを開発し、認 定商品にそのブランドを付与する。合せて数値目標も設定する。認定商品が社会課題 の解決に貢献していることかをビジュアル化して

WEB

SNS

で外部に発信する(認 定商品を購入することが子供たちの未来につながることを消費者に強いメッセージで 伝える)。最終的には、SDGsの目標を達成するため、業界内や業界外で他企業とのコ ラボレーションを主導し、そこで得られた結果をホワイトペーパーなどでフィードバッ クする。

5.おわりに ─ 企業の本質的役割と CSR 部門の未来

改めて、企業の目的とは何だろうか。P.F.ドラッカーは、「組織はそれ自身のために 存在するのではなく、それぞれ社会的な課題を担うための機関である」とその著書『イ ノベーターの条件』など複数の著書の中で度々述べている(8)。私も、企業は企業活動 及び事業活動を通じて様々な社会的課題を解決し、社会をより良い方向へ導いていく ことであり、それを一時的ではなく、できる限り続けていくことだと考えている。そ のため、場合によっては存在し続けることもまた、企業の目的であると考えているだ ろう。

例えば、企業も一定の規模を超えると、もはや企業は法人という一企業市民として

(9)

の存在ではなく、"社会の公器"としての性質を強めてくるが、日本には、大企業と定 義されている企業が約

11,000

社存在する(9)。しかし、それら企業の背後には、数多く の利害関係者が存在することを忘れてはならない。

そして、企業の役割だが、市場の物質的な充足を満たすのではなく、社会的課題を 解決することに変化してきたのは先に述べた通りである。現代マーケティングの父で あるコトラーは、「マーケティングとは、どのような価値を提供すれば市場ニーズを満 たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げる事である」

とその著書の中で主張している(10)。今や市場は、企業に対して便利なモノという物質 ではなく、社会的課題の解決というソリューションを要請しているのである。

そうなると、企業においてまず見直すべき事は、「CSRの定義の見直し」ではないだ ろうか。繰り返しになるが、もはや「CSR=企業の社会的責任、企業の社会貢献活動」

という一義的な定義では今後企業内での改革は容易でない。企業は、時代と共に変化 していく社会が求めるものに適応した企業活動を生み出していく企業文化、企業体質 をつくりあげていかなければならない。

社会に対して影響力の大きくなってきた企業が、企業市民として永続的に存在して いくためには、社会的課題に対して真摯に取組み、社会をより良い方向へ導いていく ためのリーダーシップを取るのが企業の役割となるのではないか。それには、目まぐ るしく変化する社会の課題をいち早くキャッチし、それに適応していくことが必要不 可欠である。その解決方法は必ずしも事業活動だけではなく、例えば高齢者層や産後 の女性活用などの積極的な推進による雇用促進と経済活性化かもしれない。また、発 展途上国や難民キャンプにおける仮住まいの提供による子どもたちの安全保護かもし れない。このように、CSRとは複雑な社会課題に対応するための、「企業の社会への適 応」に他ならない。

社会の課題が高度化・複雑化する昨今、社会が企業に求める役割は事業活動だけに 限ったものではない。社会をより良くするための活動すべてが、企業に求められて きているのである。NPO・NGO法人の役割では、という意見もあると思うが、私は

NPO・NGO

法人単独ではその活動範囲にも限界があるのではないかと考えている。そ

れは、社会に真に貢献していくためには、やはり多額の投資が必要になるからである。

収益源が限られる

NPO・NGO

法人では、活動の内容がいくら良くてもなかなかその 活動規模は大きくならず、課題解決には時間がかかる。協業の道もあると思うが、企 業は「売上げ」というリターンと活動にかかる費用を天秤にかけ、難しい判断を迫ら れることになるのも現実である。

また、「企業は人なり」と多くの経営者が謳っているが、そのために重要なのは、そ もそもその企業自体が、人(=社員、家族)の拠り所となれるような企業なのかどう か、なのである。そこには、会社の規模は関係ない。都心部で働くのか、地方で働く のか、という場所ももはや関係ない。社会と寄り添う企業こそが、企業の持続的発展 につながり、人の拠り所になりうる。特に、昨今の若者が企業に求めるものの価値観 は大きく変化しているようである。従来のように、退職まで安定的に就業できる環境 を求めているのではなく、如何にして社会の役に立つのか。社会を変革できるのか。

このような価値観を持った若者の拠り所になることも、企業には求められている。そ

(10)

の為には、企業は自らが変化をする必要がある。従来は、本業に専念させるために副 業を禁止する企業が多く、従業員は広く社会の環境変化を掴めずにいる。しかし、今 後、企業に変化をもたらすためには、一人ひとりの従業員が、企業人としての感性を 磨き、社会の変化に敏感に対応出来る人材を育成する仕組みを整えていく必要がある のではないだろうか。それには副業という形で異業種経験をすることで、社内に留ま るのではなく、社会に飛び出して視野を広げることも時には必要であろう。元々、会 社を興した多くの創業者達は、社会の課題の中に事業のヒントを見つけ、大きなビジョ ンを掲げて創業を志したはずだ。今、社会環境変化のうねりの中で、原点に戻る時が 来たということではないだろうか。もちろん、副業に拘らなくても

NPO

法人への人材 派遣、企業内でジョブローテーションなどを行うことで、より社会に近い仕事を経験 させるという方法もある。企業においては、社会と結びついた人材の育成が今後ます ます重要になってくるものと考える。

これまで述べてきたように、今後企業が新しい時代の変化の対応に舵を切り、その 変革の中心的役割を果たす為には、社内の意識改革と共に、社会への適応を戦略的に 捉える必要がある。その中心になるのが

CSR

部門ではないだろうか。合わせて、CSR 部門が果たすべき役割は、これまで大事にしていた創業時からの

DNA

を将来に渡って 伝承していくことであると付け加えておきたい。

■註

(1)公益財団法人東京財団、2015、『CSR白書

2015』

(2)川村雅彦、2009、「日本における

CSR

の系譜と現状」、ニッセイ基礎研究所(http://www.

nli-research.co.jp/files/topics/38077_ext_18_0.pdf)、p.27

(3)マイケル E. ポーター、マーク R. クラマー、2011、「共通価値の戦略」『Harvard Business

Review』2011

6

月号、ダイヤモンド社

(4)マイケル E. ポーター、マーク R. クラマー、2008、「競争優位の

CSR

戦略」『Harvard

Business Review』2008

1

月号、ダイヤモンド社

(5)

IIRC(国際統合報告評議会)は、統合報告書を「外部環境の文脈における組織の戦略、ガ

バナンス、パフォーマンス、将来の見通しが、いかに短・中・長期の価値創造につながる かに関する簡潔なコミュニケーション」と定義している。

(6)統合報告に関するフレームワーク日本語訳版 http://integratedreporting.org/wp-content/

uploads/2015/03/International_IR_Framework_JP.pdf(2016

8

24

日アクセス)

(7)田坂広志、2005、「よい会社とは何か 日本型

CSR

に求められる

7

つの条件 」『日本の 人事部』Web:https://jinjibu.jp/article/detl/keyperson/18/(2016

7

29

日アクセス)

(8)

P.F.

ドラッカー、2000、『イノベーターの条件』;P.F.ドラッカー、2007、『ドラッカー名著

7 断絶の時代』など。

(9)中小企業庁

web:http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2016/160 129chukigyocnt.html(2016

8

24

日アクセス)

(10)

フィリップ・コトラー、2004、『コトラーのマーケティング講義』、p.3

■参考文献/ WEB サイト

川村雅彦、2003年、「2003年は『日本の

CSR

経営元年』」『ニッセイ基礎研

REPORT』2003.7

川村雅彦、2009年、「日本における

CSR

の系譜と現状」『ニッセイ基礎研

REPORT』2009.2

(11)

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2012

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10

年」『ニッセイ基礎研

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7

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2014 統合を目指す CSR その現状と課題』

東京財団、2015年、『CSR白書

2015 社会に応える「しなやかな」会社のかたち』

P.F.

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