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(1)

ダイバーシティのもとでの集団的労使コミュニケー ション : 分野別の自発的小集団・ERGからの示唆

著者 松浦 民恵, 坂爪 洋美, 武石 恵美子, 中川 有紀子 , 松原 光代

出版者 法政大学キャリアデザイン学会

雑誌名 生涯学習とキャリアデザイン

巻 17

号 2

ページ 83‑102

発行年 2020‑03

URL http://doi.org/10.15002/00023239

(2)

1 課題認識と本稿の目的

(1) 本稿における労使コミュニケーション の定義

 労使コミュニケーションには実にさまざまな形 のコミュニケーションが含まれる1)が、大きく は「集団的労使コミュニケーション」と「個別的 労使コミュニケーション」に区分されよう。

 ここでいう「集団的労使コミュニケーション」

とは、労働者が集団としての立場で発言し、使用 者側と議論や交渉をすることを指す。

 伝統的な集団的労使コミュニケーションの主な 担い手としては、労働組合や社員会等の従業員組 織、さらには過半数代表があげられる。多くの場 合、これらは企業あるいは事業所・職場単位の集 団として形成され、集団のなかでの意見調整を経 て、団体交渉、労使協議、職場懇談会等2)を通 じて使用者側と対峙する。もちろん個人の意見が 労働組合、従業員組織、過半数代表等に寄せられ て、個人や組織の課題が解決されることは多々あ るが、これらはあくまでも集団を介してのやりと りとなることから、ここでは集団的労使コミュニ ケーションに分類する。

 また、集団的労使コミュニケーションは、使用 者側の主導によって行われる場合もある。たとえ ば人事部が女性活躍推進のためにメンバーを募集 して推進のためのチームを組成し、そのチームを 介して女性社員の発言を集め、議論したり交渉し たりするというケースもこれに該当しよう。

 一方、ここでいう「個別的労使コミュニケーショ ン」とは、労働者個人が個人としての意見を上司 や人事部を含む使用者側に発言し、使用者側と議 論や交渉をすることを意味する。

 個別的労使コミュニケーションは、管理職や人 事部との個人面談、企業の設置する相談窓口、管 理職や人事部さらには経営者との公式・非公式な 対話の場、従業員調査等、さまざまなルートで行 われているが、個人の発言が使用者側のどの層に まで伝達され、どの程度議論や交渉につながって いくかはケースバイケースである。ただ、個別的 コミュニケーションについては、いずれのルート にせよ、ルート自体は使用者側が用意する場合が 多いと考えられる。

 なお、労使コミュニケーションを広く捉える と、産業、職業、地域単位で行われる形態、労使 以外(政府や紛争処理のための第三者機関等)を 法政大学キャリアデザイン学部教授

 松浦 民恵

法政大学キャリアデザイン学部教授

 坂爪 洋美

法政大学キャリアデザイン学部教授

 武石恵美子

立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授

 中川有紀子

PwC コンサルティング合同会社主任研究員

 松原 光代

ダイバーシティのもとでの 集団的労使コミュニケーション

―分野別の自発的小集団・ERG からの示唆―

(3)

巻き込んで行われる形態も含まれるが、本稿では、

基本的に1つの企業・団体における労使コミュニ ケーションのうち、特に集団的労使コミュニケー ションに焦点を当てる。

(2) ダイバーシティと集団的労使コミュニ ケーション

 集団的労使コミュニケーションの主な担い手 である労働組合について、Freeman and Medoff

(1984)は、「労働条件を引き上げる独占力」と

「労働者を代表する集団的発言」という「2つの顔」

を持つとしている。このような「2つの顔」すな わち機能については、従業員組織等の他の集団的 労使コミュニケーションの担い手も、発揮する素 地があり、実際発揮しているケースも多いだろう。

 前者の「独占力」という機能については、集団 の団結が強固であるほど、労働供給の独占力を背 景とする交渉力が高まり、使用者側からすると警 戒の対象ともなり得ると考えられる。一方、後者 の「集団的発言」の機能については、労働組合等 が労働者の声を吸い上げ、意見を調整してまとめ てくれるという意味で、使用者側としても歓迎す る面が大きいと考えられる。

 本稿の関心事は、このような機能を持つ集団的 労使コミュニケーションが、労働者のダイバーシ ティ(多様性)3)にどのように対応していくのか という課題である。

 「独占力」という機能において、ダイバーシティ は、まず、集団への組織化という面で課題を抱え る。つまり、集団の多数派と利害を共有しにくい 多様な少数派が、集団のメンバーになれない、あ るいはメンバーになったとしても団結できない可 能性である。結果として、独占力が部分的にしか 機能しなくなり、交渉力の低下につながる。

 「集団的発言」という機能においても、ダイバー シティは、意思統一という面で課題を抱える。具 体的には、多様な少数派の意見が吸い上げきれな い、あるいは埋没するなど、多様性ゆえに意見調 整が困難になる可能性である。おそらく労働者が 多様になるほど、労使コミュニケーションに至る

前の「労労コミュニケーション」や、そもそも意 見調整の前段階としてそれぞれの背景や事情を理 解し合うことが、より大切になってくると考えら れる。

(3)本稿の目的と構成

 集団的労使コミュニケーションがダイバーシ ティに対応するうえでのヒントとして、本稿で は欧米のグローバル企業を中心として展開され ている自発的小集団(従業員組織)であるERG

(Employee Resource Group)に注目する。

 ERGの実態はさまざまで一律的な定義は難し いが、従業員が自発的に、女性、LGBT、障がい者、

外国人などの分野別に形成する小集団であり、そ の活発な活動が注目されている(Mercer(2011)、

Theresa, Skylar and Steven(2015)等)。

 ERGは小集団であるがゆえに、伝統的な集団 的労使コミュニケーションの担い手のように、ど ちらかといえば多数派による集団に比べれば「独 占力」は劣るが、個別的労使コミュニケーション に比べれば強い交渉力を持つと考えられる。「集 団的発言」という面で、ERGは特定の分野に特 化しているがゆえに、少なくともその分野に属す る労働者の意見を吸い上げることには長けている はずである。また、取扱う分野に属する労働者の 背景や課題について積極的に発言することを通じ て、使用者側との労使コミュニケーションのみな らず、他の従業員との「労労コミュニケーション」

にも貢献できる可能性が高い。

 そこで本稿では、このようなERGをヒントに して、ダイバーシティのもとで、今後集団的労使 コミュニケーションのあり方をどうしていくべき かについて考えてみたい。

 本稿では、まず、集団的労使コミュニケーショ ンに関する先行研究を整理した上で、欧米のグ ローバル企業におけるERGについて、先行研 究からその実態を概観する。次に、ドイツの大 手グローバル企業に対するインタビュー調査を もとに、集団的労使コミュニケーションにおけ るERGの役割について分析・検討する。最後

(4)

に、ERGと日本における集団的労使コミュニケー ションとの比較を通じて、ダイバーシティのもと での集団的労使コミュニケーションのあり方につ いて考察することとしたい。

 

2 集団的労使コミュニケーションや ERG に関する先行研究

(1) 日本における集団的労使コミュニケー ションの現状

 日本の集団的労使コミュニケーションについ て、まずはいくつかの調査で現状を概観しておき たい。

 集団的労使コミュニケーションの主な担い手の 1つである労働組合の推定組織率(厚生労働省「労 働組合基礎調査」4)の労働組合員数を、総務省「労働力調査」

の雇用者数で除して計算されたもの)は、戦後1949年 の55.8%をピークとしてその後減少傾向が続いて おり、1953年(36.3%)には4割を、1983年(29.7%)

には3割を、2003年(19.6%)には2割を切り、

2019年には16.7%まで低下している。

 また、単一労働組合(「単位組織組合」及び単一組 織組合の最上部の組織である「本部組合」)の組合数は 1980年代半ばから減少傾向にある。労働組合員 数も、おそらく非正社員の組織化等を背景として か、2010年代半ば以降は若干増加に転じている ものの、大きくは1990年半ばから減少傾向がみ てとれる(いずれも厚生労働省「労働組合基礎調 査」)。

 次に、厚生労働省が労働組合に対して実施し ている「労使間の交渉に関する実態調査」(2017 年)で過去3年間の労使交渉についてみると、団 体交渉を行った割合が67.6%にのぼる一方、労働 争議(争議行為もしくは第三者機関の関与)があったの は1.7%にとどまる。労使間の諸問題を解決する ために今後最も重視する手段としては、「労使協 議機関」(事業所又は企業における生産、経営などに関す る諸問題につき労働者ないし労働組合の意思を反映させる ため、それらに対して使用者と労働者の代表とが協議する 常設的機関5)が56.3%と過半数を占め、次に「団

体交渉」(38.1%)が続く。「争議行為」(ストライキ、

サボタージュ、作業所閉鎖(ロックアウト)その他労働者 がその主張貫徹を目的として行う行為及びこれに対抗する 行為であって、業務の正常運営を阻害するもの)は0.4% にとどまり、「苦情処理機関」(賃金、配置転換、日 常の作業条件等について、従業員個人の苦情を解決するた めの労使代表で構成される常設機関)も1.3%と低い。

 このように、労働組合を対象とした調査でみて も、「争議行為」はほとんど行われておらず、今 後の手段としても、法律によって交渉のための権 利が保護され、決裂時には争議行為も想定される

「団体交渉」よりも、むしろそういう縛りがない「労 使協議機関」のほうが重視されている。

 このような中、久本(2009)は、「労使交渉に おいては、団体交渉が後景に退き、労使協議が中 心的な役割を果たすようになってから、すでにか なり長い時間が経過している。」(p.1)と指摘し ている。また、佐藤(1994)は労働組合や従業 員組織と労使協議機関との関係を分析し、労働組 合や従業員組織がある場合、労使協議機関の労働 側の代表は労働組合や従業員組織の代表であるこ とが多いことを明らかにしている。

 本稿の主要な関心事である、集団的労使コミュ ニケーションとダイバーシティに関係するデータ も見ておきたい。

 日本においては、ダイバーシティのなかでも特 に男女や就業形態が注目されることが多い。そ こで、前述の「労使間の交渉に関する実態調査」

(2017年)で、非正社員がいる事業所に関して、

非正社員の組合加入資格がある割合と、実際に非 正社員の組合員がいる割合をみると、パートタイ ム労働者は各35.2%、26.8%、有期契約労働者は 各37.0%、30.8%、派遣労働者は各7.4%、1.5%、

嘱託労働者は各38.4%、29.3%となっている。非 正社員の増加に伴い、その組織化を推進しようと している労働組合は少なくないが、必ずしも順調 に進んでいない様子が垣間見える。

 また、過去3年間に何らかの労使間の交渉が あった事項については、「賃金・退職給付に関す る事項」(89.7%)、「労働時間・休日・休暇に関

(5)

する事項」(79.0%)、「雇用・人事に関する事項」

(65.9%)が上位3位に並んでいる。そもそも選 択肢として、ダイバーシティに直接関連する項目 がほとんど設定されていない中で、唯一目を引 く「男女の均等取扱いに関する事項」の回答率は 17.2%にとどまっている。

 さらに、厚生労働省が民営事業所とそこで雇用 される労働者を対象として5年毎に実施している

「労使コミュニケーション調査」(2014年、労働 者調査)によると、労働組合が「是非必要」、「必 要計」(「是非必要」と「どちらかといえば必要」

を含む)は、全体では各26.4%、56.6%だが、女 性は各17.3%、48.8%、パートタイム労働者は各 16.1%、40.9%と低い(表1)。

(2) 集団的労使コミュニケーションに関す る先行研究

 ①先行研究における主要なテーマ

 集団的労使コミュニケーションの重要性自体に ついては、古くはHirschman(1970)以来、広 く支持されてきた。また、労働条件の改善、離職 率の低下、生産性の向上をアウトカムとして、集 団的労使コミュニケーションの有効性を検証しよ

うとする多くの試みがなされ、日本でも先行研究 が蓄積されてきた(佐野(1970)、大津(1973)、

小野(1973)、中村・佐藤・神谷(1988)、都留(2002)、

原(2003)、松浦・野田(2012)、野田(2019)等)。

 一方、集団的労使コミュニケーションの課題と しては、労働組合の組織率低下に伴って、「①非 正社員の組織化を含め、労働組合の組織化をどう 進めるかという観点」(中村・佐藤・神谷(1988)、

連合総研(2009・2011・2017)、労働政策研究・

研修機構(2013・2016)、仁田・連合(2015)、

本田(2017)等)、あるいは「②従業員代表制の 法的整備という観点」(連合総研(2002)、労働 政策研究・研修機構(2013・2018b)、呉(2014)、

仁田・連合(2015)、竹内(奥野)(2019)等)

からの議論が長く続けられている。また、「③企 業別組合を中心とする日本の労働組合が、企業再 編やグローバル化にどう対応していくか」という 観点も、クローズアップされてきている(仁田・

連合(2015)、首藤(2017)、労働政策研究・研 修機構(2018a)、呉(2019)等)。

 労働組合の組織率低下の要因としては、中村・

佐藤・神谷(1988)が、組織率低下がみられた 比較的初期の段階から指摘されていた雇用者数の

表 1 労働組合の必要度

必要計 どちらとも

いえない 必要ではない 不明 是非必要 どちらかと

いえば必要

1999 年 33.1 41.2 74.3 21.1 4.0 0.6 2004 年 26.9 36.1 63.0 25.2 11.7 0.0 2009 年 23.4 31.1 54.5 23.9 19.9 1.6 2014 年 26.4 30.1 56.6 28.0 15.3 0.2 男性 32.2 29.3 61.5 22.7 15.7 0.1 女性 17.3 31.5 48.8 36.4 14.6 0.3 正社員 28.5 30.7 59.2 25.6 15.0 0.2 パートタイム労働者 16.1 24.9 40.9 42.0 16.8 0.3 上記以外の労働者 18.1 33.3 51.3 33.2 15.4 0.0 注 . 1999年は「労働組合は是非必要だ」を「是非必要」、「労働組合はどちらかといえばあった方がよい」を「どちら

かといえば必要」、「労働組合はあってもなくてもよい」を「どちらともいえない」、「労働組合はない方がよい」を「必 要ではない」に割り当てている。

(出所)厚生労働省「労使コミュニケーション調査」(労働者調査)より。

(6)

増加、産業構造の変化、労働者の組合離れよりも、

むしろ非正社員が増加していること、組織率の低 い産業における組織化のための体制が不十分であ ることを問題視している。一方、都留(2002)は、

企業と労働組合との利害の一体化によって労働組 合の賃金プレミアムが欠如することで、未組織労 働者の組織化への関心が低下し、かつ労働組合が それを感じ取れない結果が「緩慢だが歯止めのか からない労働組合組織率の低下」(p.113)だとし て、企業別組合の限界にまで言及している。

 また、社員会等の従業員組織が労働組合に近い 機能を果たしていることを見出した小池(1981) 以降、未組織企業の労使関係、従業員組織の実態 や機能について分析した先行研究も蓄積されてき ている(中村(1988)、佐藤(1994)、守島(1999)、

連合総研(2002)、労働政策研究・研修機構(2007)、

田口・梅崎(2011)等)。

 ②ダイバーシティの観点からの先行研究  このように、集団的労使コミュニケーションに ついては、多くの先行研究が蓄積されているが、

集団的労使コミュニケーションをダイバーシティ の観点から論じた先行研究は限られる。ただし、

前述の非正社員の組織化に関する先行研究につい ては、伝統的な多数派集団のなかに、過去には少 数派だった非正社員をどう融合させるかという点 で、ダイバーシティの観点に通ずるものとして捉 えられる。

 また、ジェンダーの観点から労働組合員の意識 や活動を分析した研究として、篠塚(2008)は、

連合傘下の労働組合員に対するアンケート調査を もとに、男性役員が女性役員の倍以上にのぼり、

男性役員は選挙、女性役員は指名によって選ばれ る傾向があると指摘するとともに、女性の方が労 働組合活動時間が短いことから、男性の意見がよ り強く反映されるのではないかと危惧している。

松浦(2016)も、労働組合員の多数派による阿 吽の呼吸による意思決定や、長時間に及ぶ労働組 合活動が、労働組合への多様な人材の参画、さら には多様な人材の声を吸い上げることを難しくし

ているのではないかと課題を提起している。

 労働組合への女性役員の登用について、首藤

(2009)は、「組合役員に女性が少ない理由には、

組合が男性中心主義であり、女性を排除してきた 側面と、女性自身が組合活動に消極的な側面とが ある。」(p.138)と述べている。また、片岡(2008) は、非正社員の組織化は労働組合の組織拡大のみ ならず、女性役員の選出を促す上でも重要である と指摘している。

 西谷(1999)が論じた労働条件の個別化は、

ダイバーシティに対する本稿の課題意識に近接し ており、その問題提起は示唆に富む。西谷(1999) は、もともと集団主義的な色彩が強かった日本的 経営が大きく変化し、賃金、労働契約の終了時期、

労働時間、教育訓練、福利厚生が個別化している とした上で、こうした労働条件の個別化が、使用 者による一方的で恣意的な決定、個々の労働者の 労働条件の不安定化をもたらすと懸念を表明して いる。一方、労働者の多様化が労働条件の画一的 決定になじまなくなってきている面もあることか ら、「労働者や社会の要請に対応した労働条件の 個別化を進めつつ、それが歯止めのない労働条件 引き下げ競争をもたらすことのないよう、いかな る労働条件決定システムを構築するかが、労働組 合にとっても労働法学にとってもきわめて重要か つ緊急の検討課題」(p.25)とし、「労働条件の個 別化は、その決定過程における労働組合の関与を 排除するものではない」(p.26)とも指摘している。

 集団的労使コミュニケーションをダイバーシ ティの観点から論じた海外の先行研究として、

Hyman(2001)は、労働組合の役員や活動家が、

比較的地位が高い男性の、地元出身かつフルタイ ム従業員に偏っているなか、ジェンダーや人種、

その他の多様性の問題への議論や対応が遅れてい ると指摘している。Heery and Abbott(2000) は、疎外されてきたグループを組織化することで、

労働組合が自身を刷新すべきだと主張している。

Dorothy and Monica(2003)も、ジェンダーの みならず、階層、人種、セクシャリティに基づく 多様性を含む、より包括的で協力的な交渉体制を

(7)

再構築すべきと主張している。

 1994年~1998年にかけてイギリスの2つの労 働組合を追跡し、女性、黒人、レズビアン、ゲイ、

障がい者といった少数派による連帯の過程や影響 を分析したFiona and Sue(2003)は、少数派 の連帯行動が労働組合の多数派との対立により周 辺化、あるいは制約されるという課題はあるもの の、労働組合のもとで新しい民主主義を構築して いくために、こうした組織化された連帯行動が今 後より重要になるとしている。

(3) ERG に関する先行研究  ①ERGの概要

 次にERGについて、先行研究からその実態、

さらには集団的労使コミュニケーションにおける 立ち位置を概観したい。

 Theresa, Skylar and Steven(2015)によると、

ERGは米国企業の職場における人種差別への抵 抗を起源として、1960年代から始まった従業員 による組織内の自発的なグループであり、もとも と “Affinity Groups”6)とも呼ばれていた。従来 はダイバーシティ&インクルージョンの達成を主 たる目的としてきたが、昨今リーダーシップ開発、

革新的な風土形成などにまで活動の目的が広がっ

てきている。また、2015年時点ではERGに関す る先行研究が限られ、実態が十分に明らかにされ ていないとされている。

 数少ない先行研究の1つであるMercer(2011) は、64の企業・団体7)を対象としたオンライン 調査(2010年夏に実施)、10社のERGメンバー を対象としたインタビュー調査(2010年9・10 月に実施)によって、ERGの実態を明らかにし ている。

 Mercer(2011)のオンライン調査によると、

回答企業のグローバル従業員に占めるERGメン バーの割合は7.9%となっている。ERGの重点分 野は「女性」(93%)、「人種・民族」(90%)、「LGBT」

(84%)が上位3位に並び、回答企業の大部分で これらをテーマとするERGが展開されているこ とがわかる。この他にも「障がい」(52%)、「世代」

(48%)、「多文化」(43%)、「働く親」(35%)、「兵 役」(34%)も3割を超えており、ERGの活動分 野が多彩であることがみてとれる(図1)。

 ERGが活動する上では資金が必要となること から、その資金調達の実態をみると、「特別な資 金を申請」が46%、「承認された行動計画に基 づいて」が44%、「承認された予算に基づいて」

が37%、「全てのERGに同額の資金を提供」が

図 1 調査対象企業の ERG の重点分野

93 90

84

52 48 43

35 34

16 13 11 9

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

⼥性 ⼈種・⺠族 LGBT 障がい 世代 多⽂化 働く親 兵役 単⼀宗教 養親 介護 異教徒間

(%)

N=64

注.複数回答。

(出所)Mercer(2011)より

(8)

100 100 98

92 92

16

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

会議室の貸与 事務の利⽤ 電⼦メールの利⽤ イントラネットの利⽤ 勤務時間中の会議 その他

(%)

N=64

35%と、企業・団体から何らかの資金提供を受 けているケースが少なくない(図2)。また、資 金以外の追加的支援として、ほとんどの企業・団 体はERGに対して、「会議室の貸与」「事務の利

用」「電子メールの利用」「イントラネットの利用」

「勤務時間中の会議」を認めている(図3)。さら に、ERGのリーダーに対して、「ダイバーシティ 推進のスタッフによるコーチングやメンタリン

3 6

14

35 37

44 46

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

資⾦提供なし メンバーの会費による メンバー数に応じて資⾦を提供 全てのERGsに同額の資⾦を提供 承認された予算に基づいて 承認された⾏動計画に基づいて 特別な資⾦を申請

N=64 (%)

3 6

14

35 37

44 46

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

資⾦提供なし メンバーの会費による メンバー数に応じて資⾦を提供 全てのERGsに同額の資⾦を提供 承認された予算に基づいて 承認された⾏動計画に基づいて 特別な資⾦を申請

N=64 (%)

注.複数回答。

(出所)Mercer(2011)より。

図 2 ERG の資金調達の実態

図 3 ERG に対する追加的支援 注.複数回答。

(出所)Mercer(2011)より

(9)

グ」(75%)、「ERG管理用のツールやテンプレー ト」(67%)、「ダイバーシティに関する意識・ス キル研修」(64%)、「リーダーシップ研修」(58%)、

「ダイバーシティ戦略・実践研修」(51%)といっ た支援を行っている企業・団体が半数を超えてい る(図4)。

 ダイバーシティ&インクルージョンを推進しよ うとするERGの活動が、企業・団体にとっても 有益だと評価されているがゆえに、従業員の自発 的な活動ではあるものの、企業・団体から多くの 支援を受けながら活動が展開されている様子がう かがえる。Mercer(2011)は「ビジネスの成功 を支援しているERGは、経営幹部から理解とサ ポートを得て、組織のさらなる発展と、メンバー に対する実績の見える化につなげている。」(p.7) と指摘している。ERGと企業・団体がWin-Win の関係にあることがERGの発展につながってい る可能性がある。さらにいうとERGの活動を、

参加メンバーがビジネススキルやリーダーシップ

を獲得できる成長機会として捉えているとすれ ば、ERGメンバー、ERG、企業・団体の三者が Win-Win-Winの関係となる可能性も考えられる。

 20年以上にわたってERGについて研究し、

その立ち上げや運営を支援してきた非営利団体 Catalystも、ERGについて、「純粋な社会的なグ ループから、事業目標やキャリア開発と密接に関 連する組織へと発展してきた。」と指摘し、さら に「ERGは職場の問題に取り組み、顧客やビジ ネス機会を開拓し、異文化やグローバルな理解を 深め、地域社会に働きかけることで、企業として の責任を果たす。他のタイプのグループとは異な り、多くのERGは企業のビジネス目標に整合的 である。」としている。

 ②集団的労使コミュニケーションにおける ERGの役割

 Bell et al.(2011)は、ダイバーシティのも とでは、少数派グループの声を吸い上げる新た

23 23 25

38 51

58 64

67 75

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 ファシリテーター研修

プロジェクトマネジメント研修 ビジネス基礎研修 経営者によるメンタリング ダイバーシティ戦略・実践研修 リーダーシップ研修 ダイバーシティに関する意識・スキル研修 ERGs管理⽤のツールやテンプレート ダイバーシティ推進のスタッフによるコーチングや

メンタリング

N=64 (%)

23 23 25

38 51

58 64

67 75

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 ファシリテーター研修

プロジェクトマネジメント研修 ビジネス基礎研修 経営者によるメンタリング ダイバーシティ戦略・実践研修 リーダーシップ研修 ダイバーシティに関する意識・スキル研修 ERGs管理⽤のツールやテンプレート ダイバーシティ推進のスタッフによるコーチングや

メンタリング

N=64 (%)

注.複数回答。

(出所)Mercer(2011)より。

図 4 ERG のリーダーに対する支援

(10)

な発言メカニズムが必要であると指摘している。

Colgan and Ledwith(2002)は、少数派による 自発的な連帯・組織化は、少数派が集団としての アイデンティティや意識を育み、現状を変えるた めの戦略を策定できる、安全な「空間」をつくり 得ると主張している。

 このように、ダイバーシティのもとでの集団的 労使コミュニケーションとして、労働組合をはじ めとする伝統的な担い手だけでなく、少数派の発 言を吸い上げる新しい担い手・小集団の登場が期 待されていることは注目される。ERGは少数派 の発言を吸い上げる新しい担い手となり得るかも しれない。ただ、だからといってERGが労働組 合をはじめとする集団的労使コミュニケーション の伝統的な担い手ととってかわるというわけでは なく、両者が共存し、役割分担しながら相乗効果 をもたらす可能性もある。

 Fiona and Aidan(2012)は、2004年~2006 年にかけて実施した14の組織、149人のLGBT の従業員、55件の経営側・労働組合・ERGに対 するインタビュー調査をもとに、LGBTの労働 組合とERGが、LGBTの従業員の発言メカニズ ムとしてどのように機能しているかを分析した。

この研究によると、LGBTのERGが設立された 当初、LGBT労働組合のメンバーは、ERGが労 働組合を無視したり弱体化させたりするために経 営側に利用されることを懸念したものの、そのよ うなことがなかったことから、結果として双方が LGBTの従業員の発言メカニズムにおいて重要か つ補完的な役割を果たしたとされている。LGBT のERGは、多くのLGBTの従業員からLGBT の認知度や発言力を向上させたと評価され、ダイ バーシティに関する会議体にも(労働組合と共に)

参加し、方針や実践に関する議論に参加できてい るという(労使関係に関する正式な問題は、労働 組合に適宜付託される)。ただし、ERGがこのよ うな形でLGBTの発言メカニズムにおける役割 を発揮し続けられるかどうかは、ダイバーシティ

&インクルージョンのための予算が圧迫される景 気後退の時期に試されることになるだろうと付言

されている。

3 ドイツ企業における ERG の事例

(1)インタビュー調査結果の紹介に当たって  ①インタビュー調査の概要

 筆者らは、企業のダイバーシティ経営という経 営戦略・人事戦略のもとで、どのような人事制度 や職場マネジメントが経営成果につながるのかを 明らかにすることを主たる目的として、ダイバー シティ「先進国」であると同時に生産性も高いと いわれる8)ドイツ・スイスの企業の、人事・ダ イバーシティ担当者と管理職を対象とするインタ ビュー調査を実施した。

 ここでは、ERGの活動について一定の情報が 得られた金融A社と製造B社の事例を紹介す る9)。A社、B社はいずれもドイツの大手グロー バル企業である。

 A社については、まず、2019年7月5日に日 本法人で、ダイバーシティ&インクルージョン・

フォーラム(グローバルで展開されているフォー ラム)の日本代表に対して1時間15分のインタ ビュー調査を実施した。その後2019年8月26日 にドイツ本社で、人事担当者1名、ダイバーシティ 推進担当者1名に対して、1時間半のインタビュー 調査を実施した。

 B社については、9月4日にドイツ本社で人事 担当者1名、ダイバーシティ推進担当者1名に対 して、2時間のインタビュー調査を実施した。

 ②ドイツにおける集団的労使コミュニケーショ ンの現状

 ERGに関するインタビュー調査結果について 紹介する前に、ドイツの集団的労使コミュニケー ションがどのような基本構造になっているのかを 概観しておきたい。

 団体交渉も労使協議も企業単位で実施されるの が一般的である日本と異なり、ドイツでは「産業 レベル」と「各企業の事業所レベル」の「二元的 労使関係システム」(山本(2017))が構築され

(11)

ている10)。「産業レベル」の労使関係については 労働協約法(Tarifvertragsgesetz)、「各企業の 事業所レベル」の労使関係については事業所組織 法(Betriebsverfassungsgesetz)によって主に 規定されている。

 「産業レベル」では、産業別労働組合と当該産 業の使用者団体による団体交渉を経て労働協約が 締結される。一定の要件を充足する労働協約につ いては、「一般的拘束力宣言」により非組合員に も及ぶことから、当該労働協約の内容は、原則と して当該産業に属する企業横断的に労働者に適 用される。例えば、管理職未満の一般労働者が同 じ産業の別の企業に勤務していても、担当する職 務や経験年数等が同じであれば同じ賃金水準にな る。

 「各企業の事業所レベル」では、労働者から選 出される事業所委員会が、労働者の代表として、

労働条件等に関する事業所協定を企業の使用者側 と締結し、この事業所協定が当該事業所の全ての 労働者に適用される。事業所委員会には、社会的 事項(評価基準、配置転換や解雇の選定基準、賃 金の支払方法、労働時間の配分、事業所内秩序、

福利厚生、教育訓練等)に関して共同決定権(主 に同意権)が与えられている。また、事業所委員 会は、使用者側から必要な費用や情報の提供を受 けることができ、事業所委員会の活動に対する使 用者側による妨害や不利益取扱いは禁止されてい る。

 一方、山本(2017)は、このような「二元的 労使関係システム」を維持してきたドイツにお いて、1990年以降、「産業レベル」では産業別 労働協約のカバー率の低下(それに伴う低賃金 労働者の増加)、「各企業の事業所レベル」では 事業所委員会の設置率の低下といった課題が顕 在化してきたと指摘している。久本(2019)も、

事業所委員会の設置率が低下傾向にあり、特に 規模が小さい事業所で低いと指摘し、「ドイツで も労働者が団結するのは容易ではない」(p.39)、

「費用が使用者負担であるにもかかわらず、ド イツでも従業員にとって事業所委員会を作るの

は面倒だと考える人々は少なくない」(p.50)と 述べている。また久本(2019)は、事業所組織 法によらない任意の従業員代表機関(Andere Vertretungsorgane, AVOs)が増加傾向にあり、

この設置率は事業所規模による差が小さいこと、

企業指名による労使協議機関となっているケース が多いことを紹介している。

(2)インタビュー調査結果の概要

 ①集団的労使コミュニケーションにおける ERGの機能

 前述のとおり、ドイツでは産業別労働協約と事 業所委員会が労働条件の交渉・協議機能を中心的 に担っており、賃金や人事制度の枠組みは基本的 にこの中で決定される。しかしながら制度が整備 されるだけで、自動的に制度を利用しやすい職場 風土まで形成されるわけではない。とりわけ少数 派の労働者が制度を円滑に利用できるようにする ためには、ダイバーシティ&インクルージョンの 風土形成が重要なポイントとなる。

 A社のERGは、従業員主導の自発的なグルー プとして、ERGのメンバーのみならず職場の全 ての人にとってより良い職場を作るという共通目 的に基づいて活動している。A社で展開されて いるERGの重点分野は、障がい、家族、世代、

LGBTIQ、男性、女性、多文化/有色人種、退

役軍人、多次元等である。ERGの活動としては、

さまざまなイベントの実施、プログラムや学習・

成長の機会提供、関連トピックに関するディス カッション、コミュニティへの働きかけ等があげ られる。

 B社のERGは、そもそも1960年に多くのト ルコ人が移民としてドイツに移住してきた頃に始 まった。B社では、現在10グループのERGが 展開されており、トルコ人や、女性(製造グルー プ、秘書グループなど4種類)、LGBT等の多様 なERGが積極的に活動している。

 ERGは、取り扱う重点分野において労働者の 声を吸い上げ、集約するという「集団的発言」の 機能に加えて、制度の趣旨や労働者の声を他の労

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働者に伝える「労労コミュニケーション」の機能 も担っている。

 こうしたERGの活動は人事部にとっても有益 であり、A社においては、ERGとの友好的な関 係のもとで、ERGの意見を人事部の取組に活か したり、ダイバーシティ推進に対してERGから の協力を得たりしながら、経営に対する効果も期 待する姿勢がみてとれる。

 この背景には、人事部の人員が限られているこ とも影響している可能性がある(A社のグローバ ル本社のダイバーシティ推進担当者は5名)。ま た、ERGが任意の小集団であり、「独占力」を伴っ た交渉機能を担うのは実質的に難しいことが、人 事部の警戒心を弱め、友好的な関係構築に寄与し ている面もあるかもしれない。

 一方、B社においては、人事部とERGの間で A社ほど密接な連携はとられていない。B社の 人事部は、「集団的発言」の機能を、ERGより も、むしろ人事部が主導しているダイバーシティ・

ネットワークに求める戦略をとっている。

 A社とB社で、ERGとの関係に対する人事部 のスタンスが異なるのはなぜなのだろうか。

 B社のダイバーシティ推進担当者は10名と、

A社に比べれば多いが、企業規模から考えると決 して潤沢な要員数とはいえない。このため、人事 部の人員が限られる、ERGの独占力が弱い、と いう条件はA社とB社でさほど変わらない。つ まり、両者の人事部のERGとの関係性の相違に は別の理由があるということになる。推測になる が、その背景として、ERGの活動方針や活動内 容が人事部の意向と必ずしも一致しない可能性が 考えられる。

社内に制度があっても、利用するのをため らってしまう、はばかってしまう従業員が 多い。そこをサポートしていくのがERG。

[金融A社・日本法人]

人事部とERGは必要に応じて連携してい る。たとえばLGBTのERGが人事部と一 緒に、LGBTについてカミングアウトし

ている従業員に対するサポートについて検 討したこともある。[金融A社・日本法人]

各地域のERGの声をいかにA社の取組に 反映させていくかについては、ドイツにお けるERGは四半期に1回、各地域のERG とTele-Conferenceを持っている。Tele- Conferenceの目的は、①A社の考え方 や要望をERGに伝えること、②各地域の 情報をERGからインプットしてもらうこ と、③各ERG同士でコミュニケーション を取ってもらうこと、があげられる。[金 融A社]

ERGはA社において重要な柱となってお り、ERGを通じて本社では知り得ない情 報を得ることができている。また、ERG により部門を越えたネットワークづくりが 可能になり、業務のみならず業務以外の テーマに係る情報交換機会の創出が可能に なっている。A社としては、ERGを活用し、

他社との共同活動も展開しつつ、A社で 働くことの価値を高めていきたいと考えて いる。[金融A社]

B社には、普段の仕事以外で自発的にダイ バーシティ推進に貢献してくれている、ダ イバーシティ・ネットワークがある。この ネットワークへの参加はボランティアだ が、B社が必要とする組織なので、ERG よりもフォーマルな組織として位置づけ、

従業員のダイバーシティ・ネットワークへ の貢献を、より組織的に支援している。[製 造B社]

ERGについては、B社にとっての必要性 によるものではなく、従業員の自発的希望 による組成を許可しているという位置づけ である。したがって、ERGにB社が直接 関わることはない。[製造B社]

 ②ERGの活動の範囲・基盤

 ダイバーシティ&インクルージョンの推進につ いては、グローバル本社の人事部が方針を決定し、

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各事業部門や各国法人のダイバーシティ推進担当 者もそれを推進する役割を担っている。これらの 組織と異なり、ERGは労働者の自発的な活動で あることから、その活動基盤に対して人事部や管 理職からどの程度の支援が得られるかは、経営環 境、使用者側との関係性、ERGの交渉力等によっ て変わってくる。実際、ERGに対する人事部の スタンスや支援のあり方は、A社とB社で随分 と異なる。

 A社の人事部とその傘下にあるダイバーシティ 推進チームは、ダイバーシティ&インクルージョ ンの専門家としてERGの相談に乗ったり、必要 な情報提供を行ったりしている。また、ERGが 活動しやすくするために、管理職の理解や支援が 不可欠であると考えており、ERGの活動に対す る管理職の参画にも理解を示している。

 一方、B社の人事部は、ERGに対して会議室 の使用等を認めているものの、直接的な関与は 行っていない。

本社のダイバーシティ推進チームは、グ ローバルでエキスパートとしての役割を果 たし、同社のフレームワークや方針を経営 層と共に構築している。ERGに対しても、

エキスパートとして相談に乗ると共に、今 後の取組に対する知見やスキルを提供して いる。なお、各事業部門にはそれぞれの人 事部門があり、ダイバーシティ推進担当者 がいる。[金融A社]

基本的には各自が担当業務に支障がないと して上司の許可をとることとしていること から、ERGの活動への参加時間は勤務時 間として計上され、万が一の場合は労災扱 いになる。ただし、週末の活動については、

自身の余暇としてカウントされることもあ る。[金融A社]

ERGの活動については、全ての経営層や 各部門の管理職から理解され、支持されて いるわけではないため、本社のダイバーシ ティ推進チームとしては、ERGに関する

理解を管理職等にも浸透させ、むしろ管理 職等にもERGに参加してもらうことが重 要であると考えている。[金融A社]

ダイバーシティ専門の担当者は、本社で 10人。支店が大きい場合は、人事部の人 員が50%ダイバーシティを担当する場合 もある。各地域やビジネスユニットにおけ るダイバーシティの推進体制は、従業員規 模等によって多様である。ダイバーシティ だけに時間を費やす担当者が必要な場合も あれば、人事部の誰かがダイバーシティ担 当を兼務すれば足りる場合もある。[製造 B社]

ERGに対して、会議室の使用許可等の支 援は行っている。[製造B社]

 ③ERGの活動の特徴

 インタビュー調査の結果から、ERGの特徴を 改めて整理すると、「自発性」「柔軟性」「専門性」

「積極性」「開放性」という5つのキーワードが浮 かび上がってくる。

 「自発性」については労働者の自発的小集団で あるがゆえに、また、「柔軟性」(労働組合活動で はないので管理職も参画可能等)については法制 度にとらわれないインフォーマルな小集団であ るがゆえに、実現できているといえよう。また、

ERGの活動は特定の分野に特化していることか ら、その分野の「専門性」が醸成されることも期 待される。

 さらに、インタビュー調査のなかで驚かされた のは、ERGに関する次の2つの特徴である。

 1つ目は、ERGがあくまでも労働者の自発的な 活動であり、本来の労働に加えて行われるもので あるにもかかわらず、メンバーの活動状況にかな りの「積極性」がみられることである。

 2つ目は、前述の「柔軟性」ゆえか、あるいは ERGが取り扱う分野が必ずしも企業特殊的では なく、汎用的であるためか、その活動には「開放 性」があり、部門や国をまたがって、また企業の 外にまで、ERGが連携するネットワークが広がっ

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ていることである。

日本法人では約8%の社員がERGに参加 している。自分自身は外資系が長いので、

こういったボランティア活動は自分たち従 業員主体でやるものであって、人事部が中 心となってやるものではないと考えてい る。[金融A社・日本法人]

ERGの活動として、自分自身は内外あわ せて年間で80件程度のイベントに参加し ている。[金融A社・日本法人]

ERGは自発的なグループであり、積極的 に活動している。[製造B社]

 一方、集団的労使コミュニケーションにおける ERGの機能については、任意の小集団であるが ゆえの不安要素もある。まず、使用者側との関係 に関する懸念事項としては、「安定性」と「中立性」

の2つがあげられる。

 「安定性」については、ERGの活動基盤は使用 者側の支援による面が大きいことから、経営環境 や使用者側の態度の変化によっては活動基盤が脆 弱になるという不安定さがある。また、ERG自 身の事情による懸念事項として、自発的小集団で あるがゆえに、リーダーやメンバーによって活動 の方針や内容が変わってくる可能性があり、転職 等に伴うリーダーの交代によって活動が停滞する リスクも想定される。

 「中立性」については、ERGと使用者側との距 離が近くなり過ぎた場合に、使用者側が好まない 意見表明や行動を、ERGがやりにくくなるとい う心配がある。

4 日 本 の 集 団 的 労 使 コ ミ ュ ニ ケ ー ションに対する ERG からの示唆

(1) 集団的労使コミュニケーションのダイ バーシティへのアプローチ~ ERG との 比較

 日本においてはダイバーシティ推進の中でも、

特に女性の活躍に焦点を当てた取組が目立つ。

2016年4月の女性活躍推進法(女性の職業生活 における活躍の推進に関する法律)の施行に伴っ て、法対応の面からも、企業が女性活躍推進に取 り組む必要に迫られたという事情もあり、人事部 主導でダイバーシティ推進チームを立ち上げ、そ こで「集団的発言」を吸い上げながら取組に活か しているケースも目立つ。

 労働組合も、非正社員の組織化や女性活躍推進 に取り組んでいる。先行研究にもあったように女 性役員を指名で登用するのはその取組の一環だと も捉えられよう。また、ダイバーシティ推進をテー マとする委員会活動等によって、労働組合員の意 見を吸い上げ、推進のための戦略策定に活かして いる労働組合もある。

 最後に、ダイバーシティに対するアプローチの 類型として、ERG、人事部主導、労働組合主導 の3つを取り上げ、それぞれの特徴を整理するこ とを通じて、日本におけるダイバーシティのもと での集団的労使コミュニケーションのあり方につ いて考察したい。

(2)比較結果のまとめと今後の課題

 表2は、ERGの活動と、人事部主導もしくは 労働組合主導のダイバーシティ推進組織(プロ ジェクト・委員会等)の活動を、活動の概要、集 団的コミュニケーションの機能、活動の特徴から 比較したものである。ERGは先行研究と2社の インタビュー調査、人事部主導と労働組合主導の アプローチは筆者らが見聞きしている範囲で記載 したものであることから、現段階では「仮説」と して位置づけている。

 ①活動の概要

 主な活動内容として、リーダーの育成、外部ネッ トワークや地域とのコミュニケーションにも取り 組んでいるという意味で、ERGの方が人事部主 導、労働組合主導よりも活動範囲が幅広い可能性 がある。

 一方、活動を支える予算やその他のリソースに

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ついては、ERGに関しては所与ではなく、交渉 によって獲得する必要があるという意味で、人事 部主導や労働組合主導に比べて不安定な面が大き い。また、労働組合は交渉に当たっての諸々の権 利が法律で保障されているという面で、ERGよ りも優位性がある。

 ②集団的労使コミュニケーションの機能  前述の法的保護を考慮すると、集団的労使コ ミュニケーションにおける「独占力」の機能は労 働組合主導が強い。

 「集団的発言」の機能は、いずれの類型も、例 えば女性活躍推進等の該当分野においては発揮さ れ得るだろう。ただ、「集団的発言」の機能発揮 の程度は、類型それぞれの事情によって異なって くる可能性がある。

 ERGについては、リーダーやメンバーの意欲 やスキルが低い場合には、「集団的発言」機能が 低下することが懸念される(だからこそ、ERG はリーダーやメンバーの育成に注力しているのか もしれない)。人事部主導や労働組合主導の場合 は、メンバー選出や意見とりまとめに対する人事 部や労働組合の関与のあり方次第で、「集団的発 言」の機能が歪むリスクを孕む。

 ③活動の特徴

 活動の特徴として、ERGは「自発性」「柔軟性」

「開放性」において、人事部主導や労働組合主導 よりも優位に立っている可能性が高い。これはそ れぞれの類型の出自によるところが大きい。

 一方、ERGは、予算をはじめとする活動のた めのリソースが確保できるかどうか不透明である という意味で、活動基盤の「安定性」という面で は、人事部主導や労働組合主導に比べて不安定だ といわざるを得ない。

 また、主に使用者側からの「中立性」について、

ERGは人事部と別の組織であるという意味では 中立だが、活動のためのリソースを人事部に頼っ ている場合は「中立性」を保てないケースも出て くることが懸念される。人事部主導はもともと人

事部の意向を反映したものなので、「中立性」を 担保するのは難しく、人事部寄りの位置取りとな る可能性が高い。労働組合は法的保護や予算があ り、交渉・協議等において、相対的には人事部と 異なる意見を表明しやすいという意味で「中立性」

が高い。ただし、労働組合内の意思決定において は、多数派の意見が有利になる等パワーバランス が偏る懸念は残る。

 ④今後の課題

 本稿で焦点を当てたERGは、ダイバーシティ のもとでの日本の集団的労使コミュニケーション のあり方を考える上で示唆に富んでいる。

 ERGのような自発的小集団が、どういう形で あれば日本の集団的コミュニケーションの中で効 果的に機能し得るのか。表2で整理したいずれの アプローチにも一長一短があるが、こうして比較 してみると、ERGの長所を他のアプローチに取 り入れられないのかという疑問も湧く。

 また、日系の企業でERGのような自発的小集 団が立ち上がるという事例をほとんど見聞きしな いのはなぜなのか。A社の日本法人で日本人労 働者もERGで活発に活動している事例を踏まえ ると、国民性の違いというわけでもなさそうであ る。

 いずれも重要な論点となるが、具体的な検討に ついては今後の課題としたい。

[謝辞]

 インタビュー調査にご協力頂いた企業の皆様、

並びに調査実施をご支援頂いた皆様に心よりお礼 申しあげる。

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 の基盤研究(B)課題番号18H00891(研究代表者:

武石恵美子)の「ダイバーシティ経営と整合する 人事権のあり方に関する研究」の研究助成、日本 学術振興会科学研究費助成事業の基盤研究(B)

課題番号18H00892(研究代表者:坂爪洋美)の

「性別というダイバーシティを成果につなげる管 理職の行動とその規定要因」の研究助成、及び中

(16)

表 2 ダイバーシティへのアプローチの比較(仮説)

ERG 人事部主導 労働組合主導

活動の概要

メンバーの

選出 主に立候補 主に他薦

(人事部や管理職等による) 主に他薦

(役員等の幹部による)

主な活動内容

現場の声の吸い上げ、当事者 同士もしくは当事者以外との ディスカッション、ダイバー シティ推進戦略や人事制度の 設計・運用に関する人事部と の意見交換、リーダーの育成、

外部ネットワークや地域との コミュニケーション等

現場の声の吸い上げ、当事者 同士もしくは当事者以外との ディスカッション、ダイバー シティ推進戦略や人事制度の 設計・運用に関する人事部と の意見交換等

現場の声の吸い上げ、当事者 同士もしくは当事者以外との ディスカッション、労働組合 におけるダイバーシティ推進 戦略や使用者側との交渉・協 議事項に関する労働組合との 意見交換等

予算 人事部との交渉によって獲得

する予算、メンバーの拠出 人事部の用意する予算 労働組合員の拠出(組合費)

その他活動

リソース 人事部と交渉して獲得、もし

くは人事部が支援 人事部が用意 労働組合が用意

法的保護 なし なし あり

集団的労使コミュニケーションの機能 独占力の機能 弱い 弱い 強い 集団的発言の

機能

該当分野では強い

(ただし、リーダーやメンバー の意欲やスキルに左右される 面がある)

該当分野では強い

(ただしメンバーの選出や意 見のとりまとめに、人事部や 管理職等の意向が反映される 懸念はある)

該当分野では強い

(ただしメンバーは労働組合 員に限られ、メンバーの選出 や意見のとりまとめに、労働 組合の幹部や多数派の意向が 反映される懸念はある)

活動の特徴

自発性 高い 低い

(他薦であるという意味で) 低い

(他薦であるという意味で)

柔軟性 高い 低い

(人事部のコントロール下に あるという意味で)

(労働組合のコントロール下低い にあるという意味で)

専門性 高い 高い 高い

積極性 高い 高い 高い

開放性 高い 低い 低い

安定性 不安定

(活動リソースを確保できるか どうかが不透明という意味で)

(人事部が必要とする限りに安定 おいて)

(労働組合幹部や多数派が支安定 持する限りにおいて)

中立性

どちらともいえない

(人事部と別の組織であると いう意味では中立だが、活動 のリソース獲得のために人事 部の協力を必要とする場合は 人事部との距離が近くなり過 ぎることも懸念されるという 意味で)

(もともと人事部主導というなし 意味で)

(交渉・協議等で、人事部とあり 異なる意見を表明しやすいと いう意味で)

注.網かけのセルは ERG と異なる内容。 (出所)筆者らが作成。

央大学大学院戦略経営研究科「ワーク・ライフ・

バランス&多様性推進・研究プロジェクト」(代表:

佐藤博樹 中央大学教授、武石恵美子 法政大学 教授)の助成を受けて実施している。

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1)藤村(2006)は図1で、労使コミュニケーショ ンの構図を示し、その実態を俯瞰・整理してい る。

2)いずれも集団的労使コミュニケーションの代表 的な形態だが、団体交渉は交渉の権利が法的に 保護されており、決裂時にはストライキなどの 争議行為も想定される。また、労使協議が使用 者と労働者の代表による常設的協議機関である のに対して、職場懇談会は職場単位の話し合い のための会合を指すことが多い。

3)日本経営者団体連盟ダイバーシティ・ワーク・

ルール研究会(2002)は、「ダイバーシティの 本質は、『異質・多様』を受け入れること、違 いを認め合うことである」と述べている。

4)民営事業所における労働組合員30名以上の労 働組合を対象とする調査。1947年は「労働組 合調査」、1948~1982年は「労働組合基本調査」。

5)厚生労働省「労使コミュニケーション調査」の 用語解説による。「労使協議会」「経営協議会」

などと呼ばれることもある。

6)「従業員ネットワーク」「従業員評議会」「従業 員フォーラム」「ビジネスリソースグループ」

などと呼ばれることもある。

7)調査対象の大部分は米国に本社がある大手グ ローバル企業。

8)日本生産性本部『労働生産性の国際比較2019』 によると、就業者1人当たり労働生産性は、日 本が81,258ドル(21位/36ヵ国)であるのに 対して、ドイツは106,315ドル(13位/36ヵ国)、

スイスは123,979ドル(5位/36ヵ国)。

9)インタビュー調査全体は2019年8月26日~9 月4日にかけて、ドイツの金融2社・製造2社、

スイツの金融1社、製造1社に対して実施した。

10)ドイツの集団的労使関係については山本(2017) や労働政策研究・研修機構(2017)で詳述され ている。

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表 2 ダイバーシティへのアプローチの比較(仮説) ERG 人事部主導 労働組合主導 活動の概要 メンバーの選出 主に立候補 主に他薦 (人事部や管理職等による) 主に他薦 (役員等の幹部による)主な活動 内容 現場の声の吸い上げ、当事者同士もしくは当事者以外とのディスカッション、ダイバーシティ推進戦略や人事制度の設計・運用に関する人事部と の意見交換、リーダーの育成、 外部ネットワークや地域との コミュニケーション等 現場の声の吸い上げ、当事者同士もしくは当事者以外とのディスカッション、ダイバーシティ推進

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