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重点課題①

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Academic year: 2021

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厚生労働科学研究費補助金 (成育疾患克服等次世代育成総合研究事業)

分担研究報告書

重点課題① 育てにくさを感じる親に寄り添う支援

―産後うつ病の母親と子どもの関係性への支援方法の 普及啓発に関する研究―

研究分担者 山下 洋 (九州大学病院 子どものこころの診療部)

A.研究目的

親子の心の診療の周産期における重要課題 である養育者のメンタルヘルスと親子関係の 関連を検討し、その知見を取り入れた介入を多 職種の臨床実践で実装できるようにする。今年 度は周産期のメンタルヘルスの重要な課題の 一つであるボンディングとその障害について これまで明らかにした診断・評価の現状にもと づき、その知見を多職種で共有できる教育素材 を検討することとした。

B.研究方法

昨年度実施した周産期のボンディングの概 念分析の結果で示された、ボンディングの形成 過程とその障害、リスク因子および介入につい ての理解を助けるケースビネットを作成して 周産期スタッフへの研修に利用しその有用性 を検討した。また要約版を作成し多職種連携の 重要性を啓発する本研究班の教育資料の一部 として活用した。

研究要旨

背景と目的: 親子の心の診療において養育者と子どもの関係性の問題の評価と介入はライフ ステージを通じて不可欠な課題である。なかでも周産期は関係性発達の最早期にあたり産後う つ病など養育者のメンタルヘルスが絆形成の過程に与える影響は看過できない。周産期に関わ る多職種が親子の絆形成の重要性の認識を共有し支援に携わることが求められる。このため本 年度は周産期のメンタルヘルスと関係性への介入と支援に関する教育・研修素材の作成を試み た。

方法: 昨年度実施した周産期のボンディングの概念分析の結果で示された、ボンディングの形 成過程とその障害、リスク因子および介入についての理解を助けるケースビネットを作成して 周産期スタッフへの研修に利用した。また要約版を用いて周産期における多職種連携の重要性 を啓発する教育資料として活用した。

結果と考察: ボンディングとその障害は周産期における親子の心の診療において産後うつ病 と並んで重要な問題であり、その診断と評価の方法を多職種で共有する必要がある。周産期メン タルヘルスの支援の基本要素としての親子の絆形成の過程の意義を多職種スタッフで共有する 方法として研修においてケースビネットを用いることは有効であった。

考察:

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(倫理面への配慮)

本研究は文献研究および教育普及方法の開 発であり個人情報は取り扱わないため倫理面 の配慮は要さない。

C.研究結果

Ⅰ 養育者と子どもの絆の形成過程とその障 害についてのケースビネットの作成

周産期メンタルヘルスの実践では周産期う つ病の予防および早期発見と治療が喫緊の課 題として取り組まれスクリーニングの適切な 実施から精神科での専門的治療へとつなぐた めの実践的スキルおよび根拠となるエビデン ス作りが推進されている。その一方で実践の現 場ではうつ病症状は軽症で精神科治療が緊急 に要請されることはないものの、育児不安や育 児困難感などの精神面支援のニーズをもつ母 子と家族も多く存在する。このような事例では 周産期医療・保健のスタッフが中心になって継 続的な支援にあたっている。そこで周産期の母 と子に関わり精神面支援を提供する助産師、保 健師、産科医師、精神科医師、臨床心理士など の多職種スタッフを対象として開催される研 修会では実践的な理解とスキルの獲得に向け てロールプレイやグループワークが取り入れ られている。

精神面支援においては周産期うつ病と並ぶ 主要な問題の1つとして親子の絆形成の障害 が位置付けられ、母親の側からの記述として

Bondingという用語が用いられている(Kumar,

1997) (Brockington et al., 2001)。ボンディン グの概念は、近年うつ病の社会学的モデルやア タッチメント理論を援用して、より包括的な心 理社会的な過程として示されるようになって おり、周産期の精神面支援において多職種がプ ライマリーケアのレベルで共有するべき基本 的な概念に位置付けられている。これらについ て実践的な理解を深めるためにケースビネッ

トを作成した(図1)。

ケースビネットを通して学ぶ概念と実践ス キルには以下の内容を含めた。

1. ボンディングの定義 Kinseyら (2013)は、多職種が関わる臨床領域の視点か ら方法論的概念分析を行い、その定義を“ボ ンディングとは母親から子どもへの情緒的絆 を育てる過程であり、出生後の最初の週から 1年間の成長の過程で生じる” とした。多 職種の実践での概念使用の課題として定義と 用語の一貫性は十分ではなく相互作用として のアタッチメントや母親の精神保健の問題と の混同がみられるとの指摘がある。このため ボンディングを母親の子どもに対する情動の 次元の事象であることを示すスキーマをケー スビネットの解説に加えた。

2. ボンディングの評価尺度

赤 ち ゃ ん へ の 気 持 ち 質 問 票 (Mother-to- Infant Bonding Scale; MIBS((Yoshida ら, 2012)(Kitamuraら, 2013)は、国内外の臨床 研究に広く用いられ標準化がなされている。松 長らは MIBS を用いた産後の調査において、

MIBS の総合得点のクラスター分析を行なっ た結果、介入が必要な臨床的な障害の判断のた めに産後5日目で3/4 産後1カ月目で4/5が 最 適 な 区 分 点 で あ る こ と を 報 告 し て い る (Matsunaga et al, 2017)。これらのエビデンス

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にもとづいて妊産婦の赤ちゃんへの絆形成の 過程を可視化する評価ツールとして、MIBSを ケースビネットの記述にも取り入れた。さらに 母親が赤ちゃんへの感情の打ち明けを促し傾 聴と共感により支援関係を構築するプロセス についてケースビネットの質問票への回答・記 入例に基づくロールプレイやグループワーク を通じて実践的な理解が得られるようにした。

3. ボンディングの関連要因の理解

周産期のボンディング形成の過程への支援 の実際では周産期うつ病・不適切養育との異同 や関連の理解が必要である。うつ病に関連して はボンディング障害が産後うつ病に先行する ことや(Kokubu et al., 2012)、 うつ病とボン ディング障害が不適切養育に独立して寄与す るエビデンスが示されている(Kitamura et al., 2013) (Ohashi et al., 2016)。

ボンディング形成の阻害要因(若年妊娠、ド メスティック・ヴァイオレンスへの曝露、妊娠・

出産に関する外傷体験、母子分離、育児疲労)

の軽減と保護要因の提供(妊娠出産への周囲の 肯定的な反応、継続的な情緒的サポート、母児 の情緒的な接触・近接)を通じた子育てに対し て支持的・共感的な家庭・社会環境づくりが精 神面支援の基盤となることを、ケースビネット の総括に示した(図2)。

Ⅱ 多職種参加による周産期メンタルヘルス

ケア研修会におけるケースビネットの活用 若年妊娠および流死産の経験があるという 設定の妊産婦のケースビネットを作成し研修 会における教育素材として活用した。助産師、

保健師、産科医が参加する研修会のグループワ ークにおいて、スクリーニングの実施と結果に 基づき支援計画を立てるプロセスを協議して もらった。グループワークを通じてボンディン グの概念と評価方法を具体的な実践スキルと して経験することが出来、妊娠・出産の生物学 的側面への注目から心理社会的側面の重要性 の認識につながった。グループワークではポピ ュレーションアプローチとハイリスク・アプロ ーチの観点から支援方法を振り返ることを課 題とした。ポピュレーションアプローチとして 妊娠・出産への肯定的な反応や親となる準備を 促進することや養育者とその子育てに対して 支持的・共感的な家庭・社会環境づくりに向け て周産期の実践の現場において各職種が出来 ることを検討した。またハイリスク・アプロー チとして養育者のうつ病や心的外傷に対する 治療的介入や子どもの難しい気質や睡眠の問 題による育児疲労など阻害要因の軽減に向け た多職種連携の在り方を検討した。

研修会後のアンケートではケースビネット を用いた協議が、親と子のメンタルヘルスケア の実践に有用な評価ツールの用い方やメンタ ルヘルスケアにつながる治療的コミュニケー ションのスキルの習得に役立ったことが示さ れていた。

D.考察

親と子のこころの診療の実践において養育 者と子どもの関係性を評価し介入することは 重要な課題である。周産期では妊娠から出産、

子育てへ切れ目のない支援のシステム作りの 取り組みによって、医療従事者が養育者へのフ

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ァーストタッチとしてスクリーニングやアセ スメントを行う機会が増している。このような 場合に赤ちゃんへの気持ち質問票などの自己 質問票は胎児・乳児に対してもつ感情を知る有 効な手立てとして支援への導入の契機となる。

実践の場では、その使用に際してタイミングや セッティング、態度には配慮を要する。またス クリーニング後の介入の受け皿として多職種 の連携が出来ることが不可欠である。親子の関 係性への傾聴と共感による介入や多職種連携 による支援のための実践的スキルの習得のた めに、ケースビネットを用いたロールプレイや グループワークは効果的な研修方法と考えら れた。

E.結論

-周産期メンタルヘルケアの多領域の実践に おける意義と課題―

多職種による親子の心の診療において周産 期医療では養育者のボンディング形成の過程 を中心とする関係性の問題に気づき関わるこ とが育児困難や不適切養育に対する妊娠期か らの継続的・予防的な介入の手がかりとなる。

新生児医療でも肯定的なボンディングの形成 を促すことを通じて、養育者の生活の質や精神 的健康の質を高め家族の関係性を強化する分 離などのストレス―阻害要因に対する早期介 入・環境の最適化につながる。さらに地域での 子育て支援においても養育者の子どもへの絆 の感情に気づくことは、個別的で情緒的なサポ ートの提供につながる。また子どもの発達支援 においても関係性臨床の側面では母親の子ど もに対する肯定的な感情は、子どものコミュニ ケーションや愛着欲求に対する随伴的応答的 な反応の基盤となるものである。精神疾患をも つ養育者の妊娠出産の過程への支援にあたっ ては育児も含めた対人関係の大きな変化に伴

い、生活機能の評価と合わせて母親の児への感 情を把握することは心理社会的介入に向けた アセスメントの要になる。

いずれの文脈においても周産期の親と子へ の関りにおいて、ボンディング形成の過程をア セスメントし介入することは重要な実践的ス キルであり、多職種がそれらを共有することは 心の診療を支える基盤として不可欠である。多 職種のチームで取り組むことのできる教育研 修の素材と仕組み作りが望まれる。

―今後の展望―

親と子の心の診療において、精神保健の問題 や不適切養育の世代間伝達の連続・不連続性に 関わる要の時期として妊娠・出産は捉えられて きた。周産期以降の子どもの側の発達の転帰に ついては、周産期からのコホート研究において 周産期うつ病の否定的影響が示され、ボンディ ング障害独自の寄与を明らかにする報告もあ る。(Verkuijl et al., 2014)。Hairstonらは 生後4か月の時点でのボンディングの障害が、

睡眠の問題を媒介して 1 歳半の時点での子ど もの外在化する問題行動と関連していたこと を示している(Hairston et al., 2011)。周産 期を超えた否定的影響のエビデンスを鑑みる と、安心感を伴う身体接触-近接性や養育的エ アの提供を保障する周産期の環境調整からさ らに進んで幼児期の養育者の児への情緒的応 答性の発展のプロセスへの介入が求められる。

【参考文献】

Hairston, I. S., Waxler, E., Seng, J. S., Fezzey, A. G., Rosenblum, K. L., & Muzik, M.

(2011). The role of infant sleep in intergenerational transmission of trauma. Sleep, 34(10), 1373-1383.

Kinsey, C. B., & Hupcey, J. E. (2013). State of

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the science of maternal–infant bonding: A principle-based concept analysis. Midwifery, 29(12), 1314-1320.

Kitamura, T., Ohashi, Y., Kita, S., Haruna, M.,

& Kubo, R. (2013). Depressive mood, bonding failure, and abusive parenting among mothers with three-month-old babies in a Japanese community. Open Journal of Psychiatry, 3(03), 1.

Kokubu, M., Okano, T., & Sugiyama, T. (2012).

Postnatal depression, maternal bonding failure, and negative attitudes towards pregnancy: a longitudinal study of pregnant women in Japan.

Arch Womens Ment Health, 15(3), 211- 216.

Matsunaga, A., Takauma, F., Tada, K., &

Kitamura, T. (2017). Discrete category of mother-to-infant bonding disorder and its identification by the Mother-to- Infant Bonding Scale: A study in Japanese mothers of a 1-month-old.

Early Human Development, 111, 1-5.

doi:10.1016/j.earlhumdev.2017.04.008 Ohara, M., Okada, T., Kubota, C., Nakamura,

Y., Shiino, T., Aleksic, B., . . . Murase, S.

(2016). Validation and factor analysis of mother-infant bonding questionnaire in pregnant and postpartum women in Japan. BMC psychiatry, 16(1), 212.

Ohashi, Y., Sakanashi, K., Tanaka, T., &

Kitamura, T. (2016). Mother-To-Infant Bonding Disorder, but not Depression, 5 days After Delivery is a Risk Factor For Neonate Emotional Abuse: A Study in Japanese Mothers of 1-Month Olds.

The Open Family Studies Journal, 8(1).

Verkuijl, N. E., Richter, L., Norris, S. A., Stein, A., Avan, B., & Ramchandani, P. G.

(2014). Postnatal depressive symptoms and child psychological development at 10 years: a prospective study of longitudinal data from the South African Birth to Twenty cohort. The Lancet Psychiatry, 1(6), 454-460.

山下, 洋. (2003). 【養育者の愛着スタイルとボン ディング障害】 産後うつ病とBonding 障害の関連. 精神科診断学, 14(1), 41-48.

Yoshida, K., Yamashita, H., Conroy, S., Marks, M., & Kumar, C. (2012). A Japanese version of Mother-to-Infant Bonding Scale: factor structure, longitudinal changes and links with maternal mood during the early postnatal period in Japanese mothers. Arch Womens Ment Health, 15(5), 343-352.

F.研究発表 1.論文発表

山下 洋,吉田敬子. 産後のボンディング の概念と測定方法 「胎児・新生児へのボン ディング障害・虐待は精神疾患か?」. 精神 科診断学, 10(1):7-14, 2017 6

山下 洋:特集「環境とライフコース:精 神はどのように発達していくのか、精神疾患 はどのよう な経過をたどるのか」周産期の 親のメンタルヘルスと子どもの発達. 日本 社会精神医学会雑誌 26(2): 143-152, 2017 5 2.学会発表

山下 洋、錦井友美、岩元澄子、鈴宮寛子、

吉田敬子. 産後の抑うつ症状の臨床経過か らみた予防的介入の検討 シンポジウム①

「どうしたら産後うつ病を減らせるか?」

第14回日本周産期メンタルヘルス学会 大

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分 2017 10

山下 洋 周産期精神保健における「母親の 感情」と「子どもの視点」の意義 パネルデ ィスカッション “いのち”との出会いを支 える 第 3 回日本周産期精神保健研究会 名古屋 2018 1

G.知的財産権の出願・登録状況 なし

1.特許取得 なし

2.実用新案登録 なし

3.その他 なし

参照

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