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重点課題①

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厚生労働科学研究費補助金 (成育疾患克服等次世代育成総合研究事業)

総合研究報告書

重点課題① 育てにくさを感じる親に寄り添う支援

―周産期メンタルヘルスケアにおける多領域連携の促進に向けた

スクリーニングと支援方法の開発と普及―

研究分担者 山下 洋 (九州大学病院 子どものこころの診療部)

A.研究目的

親子の心の診療の周産期における重要課題 として育てにくさを感じている親にファース トタッチで出会う周産期医療従事者が寄り添 い、切れ目ないパートナーシップに基づく支援 を行うことが挙げられる。そこで本分担研究の 3カ年を通じた目的を、育てにくさにつながる

重要な要因である養育者のメンタルヘルスと 親子関係の関連のエビデンスを明らかにし、国 内の実情にマッチしたスクリーニングと支援 の方法を検討し。その普及に向けた教育研修方 法を開発することとした。

具体的には、①平成29年度:周産期の養育者 のメンタルヘルスと親子関係に関する文献的 研究要旨

背景と目的: 親子の心の診療において関係性の問題の診断・評価はライフステージを通じて主 要な課題の一つである。なかでも周産期は関係性発達の最早期にあたり産後うつ病など養育者 のメンタルヘルスが絆形成の過程に与える影響は看過できない。本班研究では、①平成29年度:

周産期の養育者のメンタルヘルスと親子関係に関する文献的研究、②平成30年度:周産期の母 子と家族のケアのニーズを多職種で共有するスクリーニング法の普及と適正な運用のための研 修のあり方、③令和1年度:周産期のメンタルヘルスと関係性への介入と支援に関する教育・研 修素材の作成を行った。

方法: ①平成29年度:文献検索ソフトを用いて周産期のボンディングのKeyWordによるデ ータ収集を行い概念分析の方法を用いて検討を行った。②平成30年度:国内外の周産期メンタ ルヘルスのスクリーニングと介入のシステムの文献的検討に基づき国内の実情に応用可能なス クリーニングとその普及の方法を検討した。③令和1年度:周産期メンタルヘルスの理解を助け るケースビネットを作成して周産期スタッフへの研修に利用した。

結果と考察: ①周産期うつ病およびボンディングとその障害は親子の心の診療において周産 期における重要な問題であり診断と評価の方法を周産期医療に関わる多職種で共有する必要が ある。②これらの問題についての全ての妊産婦を対象とするスクリーニングとケアの提供は、母 子 2 世代の否定的転帰による経済損失から分析すれば、十分な有効性と妥当性を持つと考えら れた。③周産期メンタルヘルスの支援の基本要素として周産期うつ病と親子の絆形成の過程の 意義の理解と対応のスキルを多職種スタッフで共有することは不可欠であり、その研修におい てケースビネットを用いることは有効であった。

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研究、②平成30年度:周産期の母子と家族の ケアのニーズを多職種で共有するスクリーニ ング法の普及と適正な運用のための研修のあ り方の検討、③令和1年度:周産期のメンタル ヘルスと関係性への介入と支援に関する教育・

研修素材の作成を目的とした。

B.研究方法

①平成29年度: 英文(

Pubmed, CINAHL, PyschINFO / PsychARTICLES )

および和文

CiNii, 医中誌 web )

文献検索ツールを用い て 、 Maternal Infant bonding, prenatal bonding, perinatal bondingおよび周産期のボ ンディング、ボンディング障害を検索用語とし て、データ収集を行い抽出された72編の文献 を中心に概念分析の方法を用いて検討を行っ た。

②平成30年度: 周産期メンタルヘルスケア のガイドラインを公表しシステム作りを推進 している英国、米国、オーストラリアのガイド ラインと、それらの実践のエビデンスの報告論 文を検討した。

③令和1年度: ボンディングの形成過程とそ の障害、リスク因子および介入についての理解 を助けるケースビネットを作成して周産期ス タッフへの研修に利用しその有用性を検討し た。

(倫理面への配慮)

本研究は文献研究および教育普及方法の開 発であり個人情報は取り扱わないため倫理面 の配慮は要さない。

C.研究結果

Ⅰ 養育者と子どもの絆の形成過程とその障 害 -ボンディングの概念分析―(平成29年 度)

1. ボンディングの歴史的背景と定義 ボンディングは重要な概念として看護、小児 科学、精神医学の多領域で取り上げられてきた (Klaus & Kennell, 1976) (Kumar, 1997) (Brockington et al., 2001)。

ボンディングの定義に関してKinseyら (2013)は、多職種が関わる臨床領域の視点か ら方法論的概念分析を行い定義を“ボンディ ングとは母親から子どもへの情緒的絆を育て る過程であり、出生後の最初の週から1年間 の成長の過程で生じる” とした。そのうえ で相互作用としてのアタッチメントや母親の 精神保健の問題との混同がみられることを指 摘し、母親の子どもに対する情動の次元の事 象として操作的に定義し測定、記述すること を改めて提唱した。

2. 周産期メンタルヘルスにおけるボンディ ングとその障害の診断と評価方法

養育者の絆の形成は周産期を通じて進行す る過程である。誕生後の養育者と新生児、乳幼 児の絆の感情については、この時期のうつ病な どの精神障害のリスクへの注目と共に診断や スクリーニングの視点が強調されている。

Kumarら(1997)は、不安・抑うつなどの精神 症状をもつ女性の乳児との関係性の困難の指 標として44人のうつ病などの精神疾患のある 女性の我が子への感情の分析から Mother to Infant Bonding Questionnaire (MIBQ; Kumar, not published)を作成した(山下, 2003)。これ は、乳児への感情を表す形容詞の10項目から

なるが、Taylorらが標準化の手続きを行ない、

8 項目からなる Mother to Infant Bonding Scale (Taylor et al., 2005)として報告した。

Brockingtonらは、乳児との関係性の困難か

ら情緒的な拒絶や不適切養育に至る臨床的障 害として乳児の情緒的拒絶についての診断ク

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ライテリアを提唱し同時に診断基準に準拠す るスクリーニングを目的として、25 項目から なる Postpartum Bonding Questionnaire が 開発した(Brockington, C et al., 2001)。日本語 版も複数の研究者による標準化手続きがなさ れ、4次元(ボンディングの障害、拒絶と怒り、

育児の不安、愛情の欠如)(Suetsuguら, 2015)、

3次元(怒りと束縛, 愛情の欠如, 怒りと恐れ)

(Ohashiら, 2016)、1次元の (Kaneko & Honjo, 2014)の各モデルが報告されている。

ボンディングの障害を正常と区別される病理 的状態として仮定するカテゴリカル・モデルの 妥当性も検討されている。松長らは MIBS を 用いた産後の調査において、MIBSの総合得点 のクラスター分析を行なった結果 2 つのクラ スターを見出し産後5日目で3/4 産後1カ月 目で 4/5 が最適な区分点であることを報告し ている(Matsunaga et al, 2017)。

これらの知見も含め疾患単位としてのボン ディングの「障害」の頻度を推定すると、周産 期精神保健の領域で15-18%では、うつ病の女

性の32%、一般人口では1%以下と考えられる

(Brockington, 2016) (Ohashi et al., 2014) 。

3. ボンディングとその障害の転帰と介入 ボンディングとその障害の転帰として養育 者の側では、Bonding とうつ病が不適切養育-

Abusive Parenting に独立して寄与すること が明らかにされている。児の側の発達の転帰に ついては、周産期からのコホート研究において 周産期うつ病の否定的影響が示されている (Verkuijl et al., 2014)。Hairstonらは生後 4か月の時点でのボンディングの障害が、睡眠 の問題を媒介して 1 歳半の時点での子どもの 外在化する問題行動と関連していたことを示 している(Hairston et al., 2011)。また心的 外傷をもつ母親では、ボンディングの障害と生

後1か月の児の情緒・行動の発達との間に産後 うつ病を媒介要因として関連がみられた(Choi et al., 2017)。

ボンディングとその障害に対する介入につ いては身体接触-近接性を保障する周産期の 環境調整からさらに進んで養育者の児への情 緒的応答性の発展のプロセスへの介入が試み られている。情緒的絆の発達-適応過程(ディ メンジョナル・モデル)にもとづく、ポピュレ ーション・アプローチとして妊娠・出産への肯 定的な反応や親となる準備を促進することや 養育者とその子育てに対して支持的・共感的な 家庭・社会環境づくりがある。

心理社会的逆境状況や精神保健の問題をも つ養育者に対するハイリスク・アプローチとし てボンディングの阻害要因を軽減するうつ病 や心的外傷に対する治療的介入がある。また子 どもの要因として乳児の難しい気質や睡眠の 問題による育児疲労の軽減が考えられる。NI CUなど分離状況にある母子へのケアとして 身体接触を促す配慮や、それらが困難な状況で の写真やヴィデオの活用(妊娠中であれば

3D,4D超音波画像など)すること等がある。

ボンディングの障害の治療は育児の継続と 改善を望む養育者に向けては母子単位への精 神療法的介入や母親へのアプローチとして動 作 法 や内 観 法を 試み た報 告 があ る(古市 ら, 2006) (吉川 & 今野, 2008)。母子の関係性への アプローチとして、プレイセッションなどを通 じて母子相互作用にコーチングやヴィデオフ ィードバックなどの方法で働きかけ肯定的な 反応を引き出し、関係性を強化することが試み られていた。

Ⅱ 諸外国と国内の周産期メンタルヘルス・ス クリーニングと多職種連携の実状(平成30年 度)

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1. 周産期メンタルヘルスケアのガイドライ ンとユニバーサル・スクリーニング:

ユニバーサル・スクリーニングとは周産期の 女性の精神保健に影響する心理的、社会的、文 化的リスクファクターを評価するものであり、

頻度の高い精神保健の問題である不安障害や うつ病のスクリーニングを一部に含むが、それ のみに限定しない多次元的な評価を行うこと

である。スクリーニングは統合されたケアプロ グラムの一環として実施される。

近年の国内外の周産期メンタルヘルスケアの スクリーニングと介入に関する主なガイドラ インを表1に示す。

表1 周産期メンタルヘルスケアの主なガイドラインと介入モデル ガイドラインと

作成の方法論

アプローチの概要 主なアプローチ・モデルの要

推奨される心理社会的アセ スメント

British Antenatal

& Postnatal mental health CPGs(2015に更 新)

シ ス テ マ テ ィ ッ ク・レビュー ンク付けされた推 多職種向けの 勧告(2017に追補)

・地域保健スタッフの協働ネッ トワーク 1次、2次、3次まで のステップドケアモデル

・ネットワークの要因は共通し ているが、紹介・連携のプロトコ ールはさまざまである。

・一式のプロトコールを設定し たプライマリー・ケアでの対応 から専門家やセカンドオピニオ ンまでのケアの経路がある。

・ケアのプロトコールや研修プ ログラムを共有した多職種ミー ティング

Whooley質問項目 1)過去1 か月の抑うつや望みのなさ、ア ンヘドニアの基本症状 2)精 神疾患の既往歴・家族歴

・追加してEPDSを用いる場合

・幅広い心理社会的リスクにつ いての質問はない。

・母子の絆や家族への焦点付け はない。

Scottish

Management of Perinatal mood disorders

(2012)

シ ス テ マ テ ィ ッ ク・レビュー 奨および実践のポ イント

多職種向けの勧告

・専門的ケアの基準、連携とマ ネージメントの経路、専門家の 技能、サービスへの公平なアク セスの確立に向けた臨床家のネ ットワーク

・選択肢の検討と多職種協働ミ ーティング

・プライマリー・ケアの対応の 基準

・スタッフ教育により支えられ るモデル

・妊娠中、出産後にルーチンとし て抑うつ症状について聞く

・情緒的な問題について聞く手 が か り と し て EPDS お よ び Whooley質問を用いる。

・出産後の主な精神疾患のリス クをスクリーニングする。

・母子の絆や家族への焦点付け はない

Australian Clinical Practice Guidelines (CPG ) for perinatal depression(2011)

・ニーズに応じた統合的な産前 ケア(軽症およびリスク・ケー スから重症の複雑な精神疾患ま で)

・一次対応での心理社会的サポ

・一次対応におけるマネージメ ントのための明確な基準

・第一次の地域保健において大 部分のケアが心理社会的サービ スを基本として提供される。

・心理社会的アセスメントをル ーチンで行う。幅広い精神障害 のリスク因子を含む構造化され た質問および抑うつ、不安症状 の評価のためにEPDSを用いる

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シ ス テ マ テ ィ ッ ク・レビュー 奨および優れた実 践のポイント 多職種向けの勧告

ートと臨床実践の受け皿

・研修とスーパーバイズ、2 および3次の医療の選択肢

・家族中心アプローチ

・重症の精神疾患のある女性向 けのケアプラン

・多職種ケース会議

・スタッフの研修とスーパーヴ ァイズに支えられたモデル

(妊娠期と産後6-12週)。

・精神疾患と子育て困難(不適 応)の双方の問題を見出す

・母子相互作用や子育て、家族へ の影響に注目する

US Preventive Services Task Force (2009) 2016に更新 シ ス テ マ テ ィ ッ ク・レビュー ランク付けされた 推奨

・確定診断、効果的な治療、適 切なフォローアップシステムの もとでのうつ病のスクリーニン グの有効性

・限られた地域のメンタルヘル スケアの資源による家庭医療と の協働/統合的ケア・モデル

・保健制度によって周産期のう つ病はスクリーニングと引き続 く治療がカバーされる。

・地域診療クリニックにおける 家庭医療モデルとして身体疾患 と精神疾患の両方の治療を統合 的に提供する。

・ケア・チームによるスクリー ニング・アセスメント(スタッフ 教育)

・段階付けられた治療・介入・連 携システム

・標準化されたうつ病スクリー ニングを行う。Patient Health Questionnaire-9EPDSの不 安の3項目またはEPDSが推奨 される。

・心理社会的リスクを社会経済 的指標や生育歴、ACE(小児期逆 境体験)の項目も含めて評価

日本周産期メンタ ルヘルス学会 周産期メンタルヘ ルスコンセンサス ガイド(2017) 専門家による文献 レビューに基づく

・20項目のクリニカル・クエス チョンとしてスクリーニング、

具体的な連携、向精神薬治療の リスクベネフィット、心理社会 的介入についてコンセンサスと 推奨される対応を記述

・妊産婦に関わる精神保健の非 専門家と専門家の円滑な連携の ために、メンタルヘルスケアに 関するコンセンサスを得ること を目的としている。

・NICE ガイドラインをはじめ と す る 国 外 の 文 献 を 参 考 に 、 Whooley2項目、GAD、EPDS などを紹介している。いずれも 国内のエビデンスの不足を課題 としている。

・母子関係、子育て困難について ボンディング障害、心理社会的 リスクについて特定妊婦への言 及がある。

日本産婦人科学会 ガ イ ド ラ イ ン (2017)

専門家による文献 レビューに基づく

・クリニカルクエスチョンとし

CQ11 妊娠中の精神障害の

リスク評価の方法、CQ315 褥精神障害、CQ413 未受診妊 婦への対応などが記述されてい る。

・妊産婦に関わる精神保健の非 専門家から精神科治療への連携 のための判断(生活機能にもと づく重症度の評価)の方法の共 有と地域の連携体制の構築を目 的としている。

NICE ガイドラインをはじめと す る 国 外 の 文 献 を 参 考 に 、 Whooleyの2項目、GAD、EPDS、

GAFスコアなどを紹介。

2.周産期におけるユニバーサル・スクリー ニングの有益性について

各国でみられるスクリーニングの是非を問

う議論や検討の多くはスクリーニングの評価

尺度の Psychometrics としての妥当性を問う

よりも、その後の対応やケアの体制および転帰

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を懸念したものである。すなわち第一に各種の スクリーニング法の妥当性のエビデンスがあ るもののスクリーニングによって産後うつ病 のリスクが減ずるかについては質の高いエビ デンスが不足していることがある。第二にエジ ンバラ産後うつ病質問票などを含めてスクリ ーニングの陽性的中率がそれほど高くないこ とがある。たとえばエジンバラ産後うつ病質問 票が国際的にもっとも広く用いられているが、

国内での妥当性を検討すると小うつ病および 大うつ病を含めた産後 1 カ月目での陽性的中 率は 8/9 の区分点で 75%( Yamashita et al., 2000)であった。うつ病の診断基準(小うつ病、

その他のうつ病を含めるか)と方法(用いられ た診断面接)は報告により異なるが、最近の妊 娠中期における大うつ病のみのスクリーニン グに関する研究でも 12/13 の区分点で 59.5%

に留まる(Usuda, Nishi et al. 2017)。

かなりの割合でみられる偽陽性の妊産婦へ の対応を含めて考えるとルーチンに行うスク リーニングの時間的および経済的コストにつ いての懸念がある。NICEガイドラインでのス クリーニングとしてのWhooleyの二項目の質 問法の推奨はこのような医療経済的な視点を 強く反映していると考えられる。メンタルヘル スのリテラシーを欠いた環境で時間・コスト短 縮といった医療経済的側面のみが強調される とこのような事が生じることを危惧し、EPDS の 開 発 者 で あ る Cox は Person Centered Approach や傾聴による訪問支援(Listening Visit)を強調している。このような議論を踏ま え包括的なケアへのアクセスに向けてのスク リーニングとして提案されているのがユニバ ーサル・スクリーニングである。

不安抑うつなどの精神症状や心理社会的リ スク要因についての段階付けられた包括的な アセスメントは心理社会的サポートの提供か

ら低強度から高強度の心理的介入、薬物療法や 入院などの危機介入まで、実施できるケアの選 択肢がある環境下ではじめて意味をもつ(山下 洋 2019)。

Ⅲ 養育者と子どもの絆の形成過程とその障 害についてのケースビネットの作成

近年、ボンディングの概念はうつ病の社会学 的モデルやアタッチメント理論を援用して、よ り包括的な心理社会的な過程として示される ようになっており、周産期の精神面支援におい て多職種がプライマリーケアのレベルで共有 するべき基本的な概念に位置付けられている。

これらについて実践的な理解を深めるために ケースビネットを作成した。

1.ケースビネットの内容の検討

ケースビネットを通して学ぶ概念と実践 スキルには以下の内容を含めた。

1)ボンディングの定義

多職種の実践での概念使用の課題として定 義と用語の一貫性は十分ではなく相互作用と してのアタッチメントや母親の精神保健の問 題との混同がみられるとの指摘がある。この ため定義を概念分析にもとづき“ボンディン グとは母親から子どもへの情緒的絆を育てる 過程であり、出生後の最初の週から1年間の 成長の過程で生じる” として記述した。ま たボンディングを母親の子どもに対する情動 の次元の事象であることを示すスキーマをケ ースビネットの解説に加えた。

2)ボンディングの評価尺度

赤 ち ゃ ん へ の 気 持 ち 質 問 票 (Mother-to- Infant Bonding Scale; MIBS((Yoshida ら, 2012)(Kitamuraら, 2013)は、国内外の臨床 研究に広く用いられ標準化がなされている。こ れらのエビデンスにもとづき妊産婦の赤ちゃ

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んへの絆形成の過程を可視化する評価ツール として、MIBSをケースビネットの記述にも取 り入れた。さらに母親が赤ちゃんへの感情の打 ち明けを促し傾聴と共感により支援関係を構 築するプロセスについてケースビネットの質 問票への回答・記入例に基づくロールプレイや グループワークを通じて実践的な理解が得ら れるようにした。

3)ボンディングの関連要因の理解

周産期のボンディング形成の過程への支援 の実際では周産期うつ病・不適切養育との異同 や関連の理解が必要である。うつ病に関連して はボンディング障害が産後うつ病に先行する ことや(Kokubu et al., 2012)、 うつ病とボン ディング障害が不適切養育に独立して寄与す るエビデンスが示されている(Kitamura et al., 2013) (Ohashi et al., 2016)。ボンディング形 成の阻害要因(若年妊娠、ドメスティック・ヴ ァイオレンスへの曝露、妊娠・出産に関する外 傷体験、母子分離、育児疲労)の軽減と保護要 因の提供(妊娠出産への周囲の肯定的な反応、

継続的な情緒的サポート、母児の情緒的な接 触・近接)を通じた子育てに対して支持的・共 感的な家庭・社会環境づくりが精神面支援の基 盤となることを、ケースビネットの総括に示し た。

2.多職種参加による周産期メンタルヘルス ケア研修会でのケースビネットの活用 若年妊娠および流死産の経験があるとい う設定の妊産婦のケースビネットを作成し研 修会における教育素材として活用した。助産師、

保健師、産科医が参加する研修会のグループワ ークにおいて、スクリーニングの実施と結果に 基づき支援計画を立てるプロセスを協議して もらった。グループワークを通じてボンディン グの概念と評価方法を具体的な実践スキルと して経験することが出来、妊娠・出産の生物学 的側面への注目から心理社会的側面の重要性 の認識につながった。研修会後のアンケートで はケースビネットを用いた協議が、親と子のメ ンタルヘルスケアの実践に有用な評価ツール の用い方やメンタルヘルスケアにつながる治 療的コミュニケーションのスキルの習得に役 立ったことが示されていた。

D.考察

医療や保健の実践において養育者の評価を 行う際の課題として、現場の状況に応じ実施可 能なスクリーニングや面接法の開発がある。妊 娠から出産、子育てへ切れ目のない支援のシス テム作の取り組みによって、周産期医療スタッ フがファーストタッチの窓口となり養育者に スクリーニングやアセスメントを行う機会が 増すことが考えられる。そのような場合にエジ ンバラ産後うつ病質問票や赤ちゃんへの気持 ち質問票などの自己質問票は、見過ごされがち な母親自身のメンタルヘルスや胎児・乳児に対 してもつ感情を知る有効な手立てである。その 一方で用いるタイミングやセッティング、その 後の支援の受け皿につなぐプロセスには配慮 を要する。スクリーニング後の介入効果の検討 の手続きも含め、一般人口か若年、精神疾患を 有するハイリスク集団か、など対象の置かれて

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いる心理社会的文脈の違いによってうつ病の スクリーニングやボンディングの概念を使用 する意義が異なる可能性も検証する必要があ る。この意味でも母親-養育者の不安抑うつな どの精神症状、心理社会的リスク要因、育児困 難感などを包括的にアセスメントするユニバ ーサル・スクリーニングがポピュレーションア プローチにおいてもつ意義は大きい。

E.結論

国内外の周産期のメンタルヘルスケアの 取り組みを概観すると、気づかれにくい心のケ アのニーズのスクリーニング法の開発を端緒 として、ケアへの経路や実際の支援の受け皿の 整備へと取り組みの重点を移しつつある現状 が明らかとなった。国内では重症例のトリアー ジと安全な子育ての見守りを視野に入れスク リーニング法や治療に関する知識のアップデ ートと共有に加え、多職種連携の拠点づくり

(子育て世代包括支援センター、要保護児童地 域対策協議会など)が急務と考えられる。

そこで周産期医療と精神医療における連携 を中心としたメンタルヘルスケアの取り組み が、母親の育児機能と乳幼児期の子どもの育ち にもたらすベネフィットとして最適化される ためには、産科・精神科のみならずペリネイタ ルビジットや乳幼児健診などを担う小児医療 領域との情報共有と支援の連携の仕組み作り が行われる必要がある。医療における取り組み の第一に産婦人科、精神科、小児科の各領域に おいて母子の 2 世代への支援の視点の共有が ある。支援の具体化と継続に向けては包括的な アセスメントツールの使用および国内での介 入プログラムやシステム導入の臨床エビデン スについての多領域・多職種での継続的な教育 研 修 が 望 ま れ る(山 下 洋, 鈴 宮 寛 子 et al.

2018)。

ポピュレーション・アプローチおよびハイリ スク・アプローチのいずれの文脈においても、

周産期の親と子への支援において、ボンディン グ形成の過程をアセスメントし介入すること は重要な実践的スキルであり、多職種がそれら を共有することは心の診療を支える基盤とし て不可欠である。ロールプレイやふるーぷワー クなど多職種のチームで取り組むことのでき る教育研修の素材と仕組み作りが望まれる。

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山下 洋、錦井友美、岩元澄子、鈴宮寛子、

吉田敬子. 産後の抑うつ症状の臨床経過か らみた予防的介入の検討 シンポジウム①

「どうしたら産後うつ病を減らせるか?」

第14回日本周産期メンタルヘルス学会 大 分 2017 10

山下 洋 周産期精神保健における「母親の 感情」と「子どもの視点」の意義 パネルデ ィスカッション “いのち”との出会いを支 える 第 3 回日本周産期精神保健研究会 名古屋 2018 1

G.知的財産権の出願・登録状況 なし

1.特許取得 なし

2.実用新案登録 なし

3.その他 なし

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