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憲法保障システムとしての選挙制度考 : 「護憲」

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憲法保障システムとしての選挙制度考 : 「護憲」

する小選挙区比例代表並立制

その他のタイトル The Present electoral system of the House of Representatives is a hidden supporter of The Constitution of JAPAN

著者 君塚 正臣

雑誌名 關西大學法學論集

巻 51

号 1

ページ 140‑169

発行年 2001‑06‑28

URL http://hdl.handle.net/10112/00023575

(2)

一小選挙区下での憲法改正の可能性

二小選挙区比例代表並立制下での憲法改正の可能性

三その他の憲法改正の可能性

従来の中選挙区制度に代わって︑現行の小選挙区比例代表並立制が日本の衆議院総選挙に導入されたのは一九九四 年であった︒冷戦構造の崩壊︑湾岸戦争︑そして一九五五年体制が制度疲労しているという認識がその導火線であっ た︒選挙制度審議会の答申等によれば︑政策本位・政党本位の選挙を行ない︑政権交代の可能性を高め︑それを円滑 に行ない︑個人本位の選挙となりがちな中選挙区選挙下での選挙費用を抑制することなどがその目的であった︒しか

I

憲法保障システムとしての選挙制度考

0)

(3)

( 2 )  

し導入に当たって︑小選挙区制の導入は憲法改正を目論む保守政権の謀略であるかのような非難が一方ではなされ︑

( 3 )  

他方︑憲法論議のために小選挙区制を柱とする制度の導入が必要だとする明示的主張もなされた︒議席の相当数を小

選挙区で選ぶ現在の制度は確かに大政党に有利であり︑それまで自由民主党一党優位システムであった日本では︑こ のような選挙制度がそれを助長するという当初の懸念は強ち的外れでもなく︑ある論者は小選挙区部分の九割は自民

( 4 )  

党の議席となると予想していたほどであった︒

折しもこれまで﹁護憲﹂勢力の中心的役割を果たしてきた日本社会党は度重なる選挙で大きく後退し︑その後身で

ある社会民主党は議席数の点で日本共産党の後塵を拝するようになった︒その両者を併せても衆議院での議席は一割

にも満たない︒旧社会党の議員が多く移った民主党は他の政党からの参加者も多く︑﹁護憲﹂を旗印にしていないば

かりか︑代表はむしろ改憲論者である︒その寄り合い所帯ぶりは一九九九年の国旗・国歌法案や憲法調査会を巡る対

( 5 )  

応によく表われていた︒公明党は与党に参加して自民党を支えている︒﹁護憲﹂派が頼るべきまとまった﹁護憲﹂勢

( 6 )  

力は国会のどこにもないようにすら感じられる︒衆議院の憲法調査会メンバーの六八・八%は﹁改憲﹂論者であり︑

000

年六月総選挙での当選者へのアンケート結果をみても︑確かに憲法改正に賛成する議員が圧倒的となった︒

( 8 )

9

)  

そしてある世論調査によれば改憲賛成は初めて国民の六

0

%に上った︒一昔前には考えられなかったことであるが︑

衆参両院各三分の二以上の発議︑国民投票過半数という憲法改正の要件を充たしかけているようである︒その要件は︑

( 1 0 )  

上下両院三分の二以上に加えて四分の三の州の同意というアメリカより緩やかで独仏よりやや厳しい︑硬性憲法とし

ては普通の範疇に属するものである︒現状はその国際標準とも言うべき基準をクリアしているように見えるのである︒

これらは﹁護憲﹂派にとって何れも不利な状況であるように思われ︑以上のことからは憲法改正は時間の問題とさえ

(4)

くなった︒現行制度下の総選挙における自民党の議席率は︑

第五一巻第一号

見えるのである︒

だが︑憲法改正を早急になそうとする声は政界を支配しておらず︑そもそも憲法改正は二

000

年六月の衆議院総

選挙の目立った争点とはならなかった︒憲法改正を争点にした小選挙区優位の選挙で﹁改憲﹂派が﹁護憲﹂派を圧倒

一気呵成に憲法改正を行うというのが︑﹁改憲﹂派が鼓舞し﹁護憲﹂派が警戒する︑従来よ く知られたシナリオではなかったか︒議会構成も世論も改正に十分な数字が揃いながら︑その動きがないのはそう考 えると不思議に見える︒そればかりか︑以上確認した事情とは別の理由があって︑そしてもしそれが変化しないので あれば︑今後もこの動きは実は遅々として進まないのではなかろうか︒そうなれば︑少なくとも近い将来に大規模な 改正に到達する確率は小さいのではなかろうか︒それは国会議員が憲法九九条の憲法遵守義務を果たしているからな どでは勿論なく︑また本当は﹁改憲﹂か﹁護憲﹂かが大した問題ではないからでもなく︑別の理由から説明できるの

( 1 1 )  

ではなかろうか︒その理由を主に様々な制度︑特に衆議院の選挙制度から提示することが本稿の目的である︒

まず︑﹁改憲﹂を党是とする政党が単独でそれを実現する可能性はあるのだろうか︒従来︑憲法改正は自民党が衆 参両院で三分の二の議席を占めてなされるものと理解されていたので︑純粋な﹁改憲﹂派・﹁護憲﹂派の中にはなお もこのような想定があるように感じられる︒それを実現したいがために自民党は小選挙区制の導入を狙ってきた︑と いう主張は度々された︒ところが今日︑特定の政党が選挙において議席の過半数を占めることすら一九九三年以降な

小選挙区制下での憲法改正の可能性

的少数派に追い込んで︑ 関法

000

(5)

三分の二には程遠い︒自民党に有利とされる小選挙区部分でみても︑その議席率は一九九六年が五六・三%︑二

0 0

0

年が五九

・ O

%であって︑何れも三分の二には達していない︒このことはもし仮に衆議院に単純小選挙区制を導入

したとしても︑三分の二の議席を占める政党は出現し難くなったことを示している︒即ち︑このような想定はあまり

現実的ではなくなってきているのである︒しかし︑事態が変化すれば小選挙区制の下ではそのようなこともあるので

はないかというなお慎重な意見もあろうかと思えるので︑あえて以下︑検討を行ないたい︒

まず小選挙区制の下︑多数派の﹁改憲﹂︑少数派の﹁護憲﹂二つの原理政党があることを想定してみたい︒その意

味は︑両党とも目前の多数の議席獲得よりも原理を優先するということである︒両政党が憲法を争点としないならそ

もそも憲法改正は政治問題化しないので︑以上の想定をするものである︒次の国会で﹁改憲﹂を狙う政党は総選挙で

それを争点とする︒争点隠しをしようとしても︑争点が大きすぎるだけに限界がある︒もしその意図を隠蔽しようと

すれば︑少数派となった﹁護憲﹂党側は相当の追及をするであろうし︑仮に直近にその意図がないとしても﹁護憲﹂

党側はその可能性を指摘すれば選挙対策上有効であるときは追及するであろう︒よって選挙でそれが争点になるとい

うことは︑つまりは二つの政党が他にさほど争点もなく︑何よりも頼るべき憲法原理という体制選択を巡って拮抗し

ていることに等しい︒そのような拮抗状況から﹁改憲﹂がなされるという予測には二点の疑問がある︒

第一にまず︑﹁改憲﹂党が衆議院総選挙で三分の二を占めることは難しい︒両者がこの問題で対峙するということ

は︑それほどの力量の差が両者にないことが普通である︒仮にかなりの差ができたとしても︑﹁護憲﹂側は︱つの政

( 1 2 )  

党か政党連合に結集して︑三分の一を獲得すれば﹁改憲﹂阻止はできるのである︒それは現在の自民党だけではなく

﹁改憲﹂性向を有する複数の政党が合同して新党を結成し︑﹁護憲﹂党と対決する可能性を考えても﹁改憲﹂党の圧

(6)

ところまで貫くことは殆どないと思われるのである︒ 関法第五一巻第一号

党に吸収されるよりも︑対抗して政権奪取を目指す方が理に適っているからである︒

勝は難しい程度でなのである︒単純小選挙区制度が導入されたとしても︑三分の二の議席を獲得するには︑いわゆる

( 1 3 )  

三乗比の法則が妥当するとすれば五五・七五%の得票率をその政党が得なくてはならない︒二

000

年の選挙結果を

前提にすると︑小選挙区部分の得票率でみても︑その獲得のためには︑自民党︑自由党︑保守党︑改革クラプのほか︑

( 1 4 )  

民王党票の三分の一の合流が必要不可欠であり︑このような規模の政党合併は想像しにくいからである︒またこのよ

うな﹁改憲﹂・﹁護憲﹂の政党がそのような比率で議席を分け合うケースの有効政党数は一・九七であるが︑これは小

( 1 5 )  

選挙区部分の現在の有効政党数三・八程度とはあまりにもかけ離れているのである︒これは公明党︑共産党を含む

﹁護憲﹂新党が誕生するというあまり現実的ではないこと仮定しており︑それが不可能なら﹁改憲﹂側はより少ない

得票率で十分となる︒しかし同様に前述の仮定は︑民主党が分裂し︑或いは丸ごと自民党などと一党を形成するとい

うことも前提にしているのであって︑これもまた現実的ではないのである︒なぜなら︑小選挙区下の第二党は︑第一

第二にこの想定は国民の間に重大な亀裂があるということであるが︑だとすれば︑圧倒的な﹁改憲﹂世論を背景に

したときでも︑民意の反映という観点では問題のある選挙制度の下で平常時にそれに決着をつけようとすることは危

険を伴い︑政権政党は避けたがるのが普通である︒そして多数党は︑憲法規定がその政党にとって巨大な阻害要因で

ない限り︑あえてそのような危険な争点を前面に押し出すことは避け︑政権を握り続けられる利益を多数有権者と共

に享受するのではあるまいか︒その政党が政権に就いているということは︑憲法が大きな阻害要因でないことを示し

ていよう︒つまり︑﹁護憲﹂党と対決した﹁改憲﹂党が本気で﹁改憲﹂を選挙公約として︑最終的にそれを実現する

(7)

ところで︑小選挙区制度が二大政党制を招来するという図式ですら︑諸外国の事情を見れば明らかなように必然で

( 1 6 )  

はない︒日本も︑小選挙区部分の有効政党数が三・八程度だということは︑仮に衆議院に単純小選挙区制度が導入さ

れても第三党までは十分に存立しそうだということを予想させる︒

もしも第二党に﹁改憲﹂性向があり︑﹁護憲﹂党が第三党である場合があるとしよう︒その第二党が第三党よりや

や強いだけだとしたら︑両者は連帯して第一党に対抗する戦略を採るであろう︒第二党の﹁改憲﹂性向は薄れること

になる︒また﹁護憲﹂党はキャスティング・ボートを握れるので︑かえって政権構想に﹁改憲﹂を入れさせないこと

は容易にできるようになろう︒もし﹁改憲﹂側が全体として相当に強いならば︑逆説的ではあるが︑そこに属する第

二党はそのことを選挙時の争点にする必要が最早ない︒別の争点で有権者獲得を目指せばよくなるからである︒つま

り︑全体的に圧倒的に﹁改憲﹂が強いのだとすれば︑今度は原理政党ではない対抗政党が登場する可能性が高いので

ある︒よって﹁改憲﹂原理政党の目的は達成されにくいのである︒それはかえって小選挙区制だからこそ困難なので

逆に︑適当に強い第三党が﹁改憲﹂原理党で︑あまり原理政党とは言えない第一党を第三党が揺り動かした場合で︑

両党の議席が三分の二に達するときは確かに﹁改憲﹂の可能性はあろう︒これはまず大方の想定と異なる事態である︒

また三つの政党がこのようなバランスになることは稀な事態だと言わざるを得ない︒第一党は過半数を制してはなら

ないし︑第三党は第二党と比べて強すぎても弱すぎてもいけない︒そして︑このような第三党は比例代表制などなら

ばより多くの議席を獲得している筈であり︑小選挙区制だから目的を達成できるわけではないのである︒

それでも将来﹁改憲﹂を主張する巨大な党ができないとは限らないではないかという見解を示す人はあろう︒だが

(8)

第五一巻第一号

そのような一党支配になった︑常時三分の二の議席を獲得できるような政党があったならば普通は分裂しないだろう

か︒これは第二党が第一党と合併はしないであろうことの裏返しの論理である︒現在は冷戦期でもない︒党内寡頭制

が強まり︑政権党を離れるデメリットが大きいとはいえ︑巨大政党の中にいては役職にありつけず︑議席が飽和状態

だと感じる議員集団は離党して野党連合に回り次の総選挙での議席増を探るか︑すぐさまキャスティング・ボートを

握るという選択肢は十分にある︒そうなれば総選挙又は首班指名選挙の争点は﹁改憲﹂とは別の問題になろう︒もし

分裂しないとするならば︑幅広い一体感を誇り︑議員集団がスケールメリットを得ながら一党支配を続けるこの政党

が︑議席増・維持を賭けて政治的対決軸である﹁改憲﹂をなお公約しようするかは疑問の多いことである︒そのよう

な公約をしないことが浮動票の獲得には有利ではないだろうか︒結局︑﹁改憲﹂は総選挙の争点にならなくなり︑そ

( 1 7 )  

れにより改正の正当性を失うように思われるのである︒

小選挙区制が︑何らかの大義のために団結した原理政党に適合的な制度ではないことは︑英米での二大政党の均質

化傾向から考えても明らかである︒小選挙区制は少数意見を切り捨てるというデメリットがあるということは︑逆に

言えばイデオロギー的・体制選択的な政党対立を抑制する効用があることを想起すべきであろう︒そもそも二つの

﹁改憲﹂党・﹁護憲﹂党などという想定からして︑実はあまり現実的でなかったのである︒小選挙区制度が﹁改憲﹂

原理政党に与しないことは明らかなように思われる︒

以上︑衆議院の選挙制度に焦点を当てて議論を展開してきたが︑更に憲法改正は参議院でも三分の二を占めなけれ

ば発議できないということは忘れるわけにはいかない︒そしてこれが﹁改憲﹂党にとっては寧ろ大きな障害だと言え

( 1 8 )  

よう︒一一院制であるだけで困難さを倍にするのであるが︑三年毎の半数改選という仕組はそれを加速させている︒ 関法

(9)

﹁改憲﹂党は衆議院で一二分の二を占めている間に参議院でも二回連続してほぼそれだけの圧勝をせねばならないからである︒衆議院総選挙である日たまたま圧勝することはあるにしても︑その圧勝を三回続けることは︑単純に考えて

も︑他の政党との間に相当の差がなければ不可能である︒﹁護憲﹂側からみれば︑

このうち一回の選挙で三分の一を獲得すればほぼ﹁改憲﹂阻止は実現できるというところに防衛ラインは下がること

を意味する︒しかも参議院通常選挙は︑比例区部分が衆議院よりやや大きい上に全国一区であり︑選挙区選挙も少な

からぬ割合が複数人区であるので︑衆議院に比べて大政党が有利さを発揮しづらい︒特に二人区は三三・三%の得票

で半分の議席が獲得でき︑第二党に非常に有利に働くため︑少数党の抵抗は容易である︒参議院で一党が三分の二の

議席を占有することは衆議院よりも困難だと言えよう︒

念のために論じれば︑参議院全体に単純小選挙区制を導入する正当性は非常に希薄であるように思える︒連邦制も

貴族制も有さない日本で参議院の存在意義は︑下院の軽率な行為・過誤の回避︑民意の忠実な反映などに傾斜しつつ

あ和︒そのためには︑まず衆議院とは異質な代表制度が必要であることもよく言われ︑そのことは中選挙区制が長く

続いた衆議院に対して︑都道府県単位の選挙区選挙と全国一区の比例代表制や全国区として体現されてきた︒衆議院

の選挙制度を︑政権選択を争点にするため小選挙区制度にすることがある程度説得力を有するとしても︑参議院の選

挙制度を︑衆議院のコピーのように全てを小選挙区にすることには説得力が極めて希薄である︒仮にそれが強行しよ

うとすれば非難は相当に厳しいと思われる︒また選挙区選挙について︑多くの憲法学説はそのため厳密な議員定数の

均衡までは要求しないが︑アメリカの上院のような各都道府県同一の議席配分などは論外と考えており︑最高裁大法

( 2 0 )  

廷判決にも反しよう︒即ち︑選挙区選挙部分だけを四七程度の小選挙区に改正することですら憲法違反と考えられる

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小選挙区比例代表並立制下での憲法改正の可能性

第五一巻第一号

のである︒要するに参議院の選挙制度が大政党有利に抜本的に変わる可能性はまずないのである︒

これらの難題を全部クリアした政党があったとしても︑﹁改憲﹂には最低でも三年という月日がかかるのである︒

半数改選の参議院という存在は三年という時間をも創造する︒この間にも巨大政党の内紛は予想せねばならないし︑

時間の経過に伴い︑国政運営上の失敗やスキャンダルが生じることもあろう︒また一党独裁に対する懸念が生まれる

ことも考えれば︑世論の冷却はあり得︑少数党が国政選挙三回中一回でも三分の一を確保することは十分にありうる

話である︒結論的には﹁改憲﹂党の国政選挙︱二回連続圧勝は極めて難しいと言わざるを得ないのである︒

結局︑衆議院に小選挙区制を導入し︑強大な﹁改憲﹂政党の圧勝を狙うシナリオは困難になった︑或いは最初から

困難だったと言うべきであろう︒そうなるのは相当無理な仮定を重ねた場合︑偶然に偶然が重なったときか︑或いは

既に選挙制度がどうであれ﹁改憲﹂は止められない事態になっているような場合だけであろう︒小選挙区制導入の成

( 2 1 )  

否を憲法改正の関ケ原と考えることは︑どちらの立場にとっても徒労に終わるだけと思われる︒

現行の小選挙区比例代表並立制は︑導入時より比率が減少したとはいえ文字通り比例代表制を抱えている︒このた

め二大政党制や一党支配は単純小選挙区制に比べて生じにくくなっている︒よって︑単純小選挙区制度の考察でほぼ

否定された巨大な﹁改憲﹂党がここで出現すると考える必要はまずなかろう︒そればかりか︑過半数を制する政党が

現われることすら相対的に少ないと言える制度である︒並立制ということで︑選挙戦は横一線スタートの徒競走では

( 2 2 )  

ないが対戦型のボクシングでもない︑複合競技となった︒有力政党は比例代表制部分での票を掘り起こすために︑小

(11)

( 2 3 )  

選挙区で積極的に候補者を擁立して﹁連動効果﹂を狙うので︑二大政党の寡占は更に阻まれやすい︒かといって単純

な比例代表制と比較すれば︑小選挙区制がある分︑いかに比例選挙部分で得票が分れたとしても少数の政党が優位的

地位を占める傾向が生じよう︒穏健な多党制の余地が大きいが︑二大政党と無力なミニ政党群という構図が生まれる

( 2 4 )  

可能性もあるのである︒

何れにせよこの選挙制度の下では︑稀に単独過半数の政党があるとき以外は︑第一位の政党と第二位の政党が中小

の政党に連立を呼びかけ︑衆議院で過半数を占めた側が政権を獲得することが予定されていると言ってよいだろう︒

第一位と第二位の政党は小選挙区で激しく争う関係にあり︑両者の連立はやはり通常は考えにくい︒選挙の最大の争

( 2 5 )  

点はまさに政権選択になり︑両者は多くの有権者の獲得を目指し︑有権者の平均的見解に向かって接近するのである︒

そこでは︑単純小選挙区制度の下での議論と同じように︑両党が原理政党となる可能性はまず考えなくてよかろう︒

両党は各選挙区毎に均衡点を目指して戦ううちに︑全国規模では両党の当選者の立場がオーバーラップすることすら

考え得る︒両党はより大きな得票を得ようと類似の政策を掲げ︑その僅かな違いや政策執行能力を競うことになるで

あろう︒比例代表制部分がある分︑両党はやや独自の主張に回帰する︑つまり若干原理政党化する傾向もあろうが︑

憲法改正のような国家的に大きな争点について両者の間で譲れない論戦が繰り広げられるは通常ないと考えられるの

そしてこの両者の何れかが政権を担うかは︑その他の中小政党の動向によって左右される︒この場合︑仮にこれら

( 2 6 )  

の政党が選挙協力で損ばかりしたとしても︑政権の帰趨を握るこれらの政党の発言力は議席数以上に強まる︒もし中

政党が一っしかないとき︑前節で述べたように︑この第一=党の発言力は絶大となろう︒しかし同程度の中小政党が数

(12)

しかし以上の理論通りにいかないことは明らかである︒有権者が四つないし五つの争点毎に政見をもち︑

くは三四もの政党を分別することは︑やや人間の平均的能力を超えた感がある︒実際︑相互に独立した争点軸をそれ

だけ思い出すのも大変なほどである︒また序列が下位の軸では象限毎に政党ができるほどの争点にならず︑いくつか

の象限を合同してやっと︱つの政党が存在し得ることもあるであろう︒選挙制度が純粋な全国一区の比例代表制だと

しても︑政党である以上︑規模の利益はある︒複数の小政党が会派を構成することをきっかけに次の選挙では統一名

簿を提出することなども想定せねぱなるまい︒つまり僅かな議席を有する多くの泡沫政党にいつまでも投票し続ける

人が一定数いるなどということは︑あまりないだろうと思われるのである︒そうなると制度がどうであっても意味の ことになりそうである︒ 第五一巻第一号

多く出現すれば︑二大政党の側にも取捨選択の自由が生まれてくるので︑必ずしもそうはいかない︒予想される第三

党以下の中小政党の数と規模は意外と大きな関心事なのである︒

0

)

( 2 7 )  

では中小政党の数はいくつとなると予想できるだろうか︒もし日本の政治社会に争点軸が一っしかないならば︑比

例代表制の下でも政党は基本的に二つで十分である︒しかし︑既に述べたように︑小選挙区部分では第一・ニ党が中

央部で接近傾向を帯びるため︑それ以外に明確な主張をもつ原理的な二党が両翼に現われ︑比例代表部分で党勢を拡

大することは十分考えられよう︒よって︑争点軸一のとき︑政党数は︑大政党二︑中小政党二の合計四ということが

一応考えられよう︒単純に考えると︑争点軸が二つなら主に比例代表区で二大政党の守備範囲外を狙う中小政党は四

つとなろうから︑政党数は六となろう︒中小政党の数は二の﹁争点軸の数﹂乗程度ということになり︑順に争点軸が

三つなら政党数は合計一〇︑争点軸が四つなら政党数は合計一八︑争点軸が五つなら政党数は合計三四ほど出現する 関法

(13)

ける政党数の限界はこのあたりだと考えるべきであろう︒

一 五

ある政党の数はどこかに限界がくるだろうと考える方が常識的である︒因みに︑全国一区議席五

0

で阻止条項のない

参議院比例代表選挙でさえ︑議席を得た政党はこれまで最大九にとどまっているである︒

しかも︑現行の比例代表選挙はブロック制で行われている︒全国一区ではない︒最小のブロックは四国で定数六で ある︒これは︑完全な全国政党となる資格は初めから最大六党にしかないことを示している︒仮に四国は捨てる戦略 を小政党が採ったとしても︑北海道︵定数八︶︑北越信越︵定数︱‑︶︑中国︵定数︱‑︶も落とすようでは全国政党と しての存在価値が問われよう︒全国規模の政党数はどう考えても︱一を上回れず︑常識的には北海道の定数である八

程度にとどまると考えられよう︒実際に二

000

年総選挙の比例代表部分での有効政党数は︑この中の最も厳しい数

字である六を下回り︑五・一五になっている︒確かに比例代表部分で議席を確保した政党は六であり︑第六位で比例

代表部分では一五議席を確保した社民党と︑

0

議席のミニ政党との断絶は決定的である︒現行の衆議院選挙制度にお

このことは逆に︑この選挙制度の下では争点軸が︱つでは納まらないことを示す一方︑他方︑第四以降の争点軸は

消滅し、第三の争点軸の影もかなり薄くなることを示しそうである。つまりは、多くの政党が第一•第二軸からなる

平面に散りばめられ、第一•第二党が第一軸に沿って原点付近で相対するモデルを考えればよくなりそうなのである。

小選挙区制の比重が重い現行制度では︑第一軸は必然的に政権選択を主とする対立軸になる︒これまで説明してきた

( 2 8 )  

ように︑ここが憲法改正などという原理的な争点に絡む対決軸となることはまず少ない︒もしそれが争点になるくら いならば︑片方が三分の二を制する可能性は初めから低いことは前節で述べたところと同じである︒政権獲得を狙う 二大政党として望ましくない政見を掲げないであろうから︑﹁改憲﹂が争点となることは稀であろう︒

(14)

第五一巻第一号

︵ 一 五 ︱

‑ ︶

そう考えると︑二

000

年総選挙でも争点となかったのは寧ろ当然なのである︒この選挙では︑都市部・一区・東

日本・若年・高学歴・ホワイトカラー•第三次産業・市民(庶民ではない)・消費者・個人主義・「あそび」志向など

( 2 9 )  

をキーワードとするいわゆる無党派層が︑従来型のムラ的政治手法︑即ち主に自民党を忌避して第一票では取り敢え

( 3 0 )  

ず民主党に結集してそれと対決した︑と言えるからである︒民主党はこの選挙で都市の無党派層のほぼ四割を獲得し

たと言われてい板︒この中に従来の保革︑左右という図式と密接に関係するものは殆どないであろう︒そして︑これ

( 3 2 )  

らの人々はその特性が比較的生来のものである点で︑﹁上り列車﹂でやってきた親たちの世代とも異なる︒以前あっ

( 3 3 )  

た︑﹁夫婦別姓で新党ができる﹂という冗談は全くの冗談でもなくなったのである︒即ち︑二

000

年の選挙におい

て︑従来の保革とは別の︑各人の体質に根差す抜き差し難い対立軸がかなりはっきりと出現したとも言えなくないの

である︒現実問題としても︑これはどう考えても従来型の﹁改憲﹂﹁護憲﹂とは縁遠いものが第一の争点軸になるこ

第二軸はどうか︒第二軸は比例代表制のもつ政党の分散化効果で生まれるため︑以前からの保革などと共振するよ

うな意味でのイデオロギー要因が残る可能性も高い︒価値として自由と平等のいずれを優先するか︑リバータリアン

かリベラルか︑などがここに入ってくる可能性は高い︒実際︑確かに野党側は自由党︑民主党︑社民党と︑この点で

( 3 4 )  

序列ができていると言えなくもない︒対する与党側は︑自民党が一九五五年体制下の保守包括政党的性格をなお保っ

( 3 5 )  

ているため︑第二軸でみるとやや﹁保守﹂的な方に寄り︑そこに発生する空白を公明党が埋めているようにも読める︒

ニ大政党は原理政党にならないという推測が当たるとすれば︑自民党がこれから中道・﹁新人類﹂に接近しようとす

るだろう︒もしそれに嫌気がさした旧保守イデオロギー的な議員集団がそこから飛び出して旧保守原理政党を立ち上 とを認めざるを得ないということであろう︒ 関法

一 五

(15)

( 3 6 )  

げたときは︑現与党側もモデルに近くなろう︒その目はないではない︒現在の与党側は確かにモデルに忠実ではない が︑それでも連立の幅は従来の保守・革新に近いイデオロギー性を取り込んだものになっている感触がある︒即ち︑

( 3 7 )  

現実に︑第二軸には多分に安保防衛問題やいわゆる憲法改正問題も含まれていそうであるということである︒比例代

( 3 8 )

3 9 )

 

表選挙では主張が明確な政党が善戦し︑第一・ニ党はその分を食われる構造になりやすい︒クロス投票が多いこと︑

( 4 0 )  

特に比例区投票では二大政党からそれ以外の党に票が流れていることは︑そのことを証明しよう︒つまり︑第二軸に

こそ﹁改憲﹂﹁護憲﹂という争点が入ってき易いことは十分考え得るのである︒

以上のことから︑この制度下では︑まず︑大多数の有権者が乗っているこの二つの軸からなる平面︵体制︶を壊す

ような憲法改正提案は有権者から拒絶されるであろうことは確認されよう︒二大政党を含め︑この平面に乗る政党は

そこまでの提案をできないであろうし︑そもそもするわけがなかろう︒現行憲法がそれと全く乖離しているような場

合以外︑体制選択を伴うような全面的改正論は成功しないであろうことは想像できる︒

次に︑現行の小選挙区比例代表並立制下での連立政権は︑参加する政党の第二軸的分散が大きく︑多分にイデオロ

ギー的に幅のある政党を抱え込み易いことが予想できる︒中小政党の離脱は政権の運命にも関わるため︑その観点で

偏った政策は実行しにくい︒四つ程度の中小政党のうち二つ程度を抱え込まなくては︑二大政党は政権を獲得できな

い︒そこで第二に︑仮に第二軸に憲法問題が含まれていても︑否︑いるからこそ︑大規模な憲法改正は連立政権の政

( 4 1 )  

策合意にはそもそも含まれにくいのである︒﹁改憲﹂はこの段階で困難になる筈である︒

ところで︑もし小選挙区部分でも一定数の議席を獲得できる比較的有力な第三党が存在可能ならば︑事情は多少異

なってくる︒制度的に比例代表部分の存在は︑二大政党に飽き足らない有権者が第三極を育成するチャンスを与えて

(16)

ということは一応考えてみるに値しよう︒ 第五一巻第一号

( 4 2 )  

いる︒このような第三党の可能性は︑単純小選挙区下よりも考えておく必要があろう︒もし第三党が第一党か第二党 の何れかと組めば過半数となる状況であれば︑この党は政党は完全にキャスティング・ボートを握ることとなる︒第 一党は目下の敵である第二党ではなく第三党との連立を選択することはありそうなことである︒第三党は二大政党対

( 4 3 )  

立とは異なる第二争点軸をあぶり出す︒第三党が﹁改憲﹂志向であるとき︑連立政権の合意にそれを入れ︑政権参加 する可能性があるかもしれない︒そして比較的類似の選挙制度になっている参議院でも同じようなことが起こること は考えられる︒そうして与党側が衆参共に三分の二の議席を占有して﹁改憲﹂を成し遂げることがあるのではないか︑

しかしこのような政党になるためには︑第一党が全議席の半数以下︑第二党が六分の一超のときに︑第三党は第二 党以下で最低でも六分の一の議席を保有することが必要である︒三分の一を超えてしまえば基本的に第三党ではあり 得なくなるので、当然にそれ未満の議席数と考えねばならない。そして第一党•第三党連合は合計で三分の二の議席 を占めていなければならない︒また︑第二党が第三党と大差ない議席数では︑第二党も第一党にとっての連立対象で もあり得てしまうため︑事実上第二党の議席は四分の一を超えて三分の一に迫ってくれる必要がある︒議席数が第二 党に迫った第三党は︑かえってキャスティング・ボートを握る旨味を発揮できなくなるからである︒それは第一党の 議席数が半数にわずかに足らないときには第三党の議席数が四分の一で確実に生じる︒第一党が三分の一少々の議席 数でも第三党の議席数三分の一弱でそのことは発生する︒多分︑第一党が四割七分程度︑第三党が二割程度のときぐ らいしか適当なケースはないのではないだろうか︒つまりこのような﹁改憲﹂可能な三党鼎立はなかなか生じにくい︑

偶然性の高いものでだということが読み取れるのである︒ 関法

(17)

現実の日本をみたとき︑このような第三党になる可能性があるとすれば︑それは自由党だけのように思える︒確か

に第一・ニ党の議席率は︑現在その点では理想的な水準にある︒だが自由党の衆議院での議席率は現在四・六%に過

ぎない︒最低でもこれが約四倍にならなくてはこのシナリオは実現しない︒第三党が小選挙区部分では議席を獲得し

にくいという常識からすれば︑比例区では二五%以上の得票を勝ち取り︑小選挙区部分でも三五議席以上の大善戦を

することが最低条件である︒因みに同党の二

000

年総選挙の比例代表部分での得票率は一︱

・ 0

%

0 .

0

%である︒自由党と合同してそれだけの勢力になるような政党もない︒つまりこれは︑有力な﹁改憲﹂志向の第三

党の登場は現実に可能性が低いということを示すものである︒皮肉にも新進党を解党したこと︑自由党が比例代表部

分を縮小させるよう強く主張したことが︑新自由主義政党の第三極化の可能性を失わせてきたのであった︒

現行選挙制度では与野党共に政権内に様々なイデオロギーを抱え込み易いことは勿論︑﹁護憲﹂派を抱え易いこと

をも意味している︒第三党が﹁改憲﹂党だったらというこれまでの仮定とは逆に︑三党鼎立のキャスティング・ボー

トを握る第三党的な役回りを﹁護憲﹂グループが占める可能性もあるということである︒与党側の﹁護憲﹂党には連

立離脱︑内閣不信任案提出というカードがある︒連立の維持や次回選挙での勝利を考えるならば︑与党第一党として

は彼らも敵に回したくないところである︒そのため連立は﹁護憲﹂も﹁改憲﹂も政権合意に含まないことになろうと

いうのである︒もしそうならば憲法は改正できないということである︒

これを﹁護憲﹂を求める有権者から考えるならば︑与野党に関わらずこれら﹁護憲﹂党群にその程度に有意義な議

席を与え続けることを狙えばよいことになる︒これは必ずしも全議席の三分の一ですらない小さな数字である︒衆参

何れかで﹁改憲﹂志向の中政党が非﹁護憲﹂的な第一党と第二党のどちらに付くかで政権の行方が決まり︑﹁護憲﹂

(18)

第五一巻第一号 党との連立が無意味な状態で︑しかもその連立が三分の二の議席を衆参両院で同時確保する状態を阻止すればよいの である︒前述のようにそのような有力第三党の出現はレア・ケースであり︑これは難しくないのである︒

以上は︑有権者の考え方が争点軸の中央部で最大になっていることを前提にしてきたものである︒仮に国民の間に

( 4 4 )  

そのような深い亀裂があり︑寧ろ両端に意見が集中しているとき︑より原理的に憲法改正や体制選択的なものが選挙 の争点になることもときにはあるかもしれない︒しかし︑比例代表制を抱える現行制度では︑三分の二を﹁改憲﹂グ ループが占めるには︑小選挙区部分では並外れた圧勝を納めなければならない︒そしてやはり参議院でも連続してそ の状態を生じさせなければならない︒しかもその間﹁改憲﹂連立からいくつも政党が脱落しないことが必要になる︒

しかも以上が成功するときは︑前述のように有権者の大多数が乗る平面と憲法が乖離しているときと言うべきであり︑

平時の平和裡な憲法九六条に従った憲法改正の可能性を問おうという前提すら覆す事態だと言えよう︒これは現実に はそうあり得ないと言うべきであろう︒しかもこのような体制選択的な争点が意味を持つ時代は︑日本では遅くとも

0

年代前半に終わったように思われるのである︒よって民意の分裂という想定を今︑展開する必要はないので つまり︑現行の小選挙区比例代表並立制の下では︑﹁改憲﹂党による単独の困難であることは勿論であるが︑﹁改

( 4 5 )  

憲﹂連立政権による﹁改憲﹂もなかなか生じ難いようなのである︒少なくともこの選挙制度が原因で﹁改憲﹂が促進

されるということは言えず︑寧ろ制度特有の意外な阻害要因がそこにはありそうだったのである︒

関法

(19)

その他の憲法改正の可能性

以上のように︑選挙において憲法改正を唱える側が一方的に勝利してそれを成し遂げることは非常に難しい︒また︑

そう主張する者たちが連立政権を組んでそれを実現することも困難である︒だとすれば︑政権選択とは別に与野党を

跨いで﹁改憲﹂勢力が三分の二を占め︑それを実現させることがあり得るかを次に考えねばならない︒確かに現在の

だが︑そのような動きが本格化すれば︑日常政治は与党内でも協議が難航して遅滞する可能性が高い︒憲法問題が

加熱すればするほど︑そのような政党は与野党の枠を超えて連携するからである︒政権のパートナーの意向より野党

の一部との結束を重視することは与党第一党にとって説明が難しい︒連立の組み直しがなされる危険もあろうし︑そ

こに至らなくても連立離脱の揺さぶりはあると考えるのが普通であろう︒しかし︑小選挙区で議席を争う第一党と第

二党の大連立は︑この選挙制度の下ではよほどの国難でもない限り躊躇されよう︒与党第一党の選択肢は他の﹁改

憲﹂野党との連立組み直しとなろうが︑これでは三分の二の議席は確保できないであろう︒

しかもこのことは﹁護憲﹂党が全部野党に回ることを意味する︒憲法問題は第一軸に昇格するということである︒

野党第一党は野党の結束のため︑﹁護憲﹂派の主張も若干取り入れた政策の微修正を行って次の選挙に備えることに

なろう︒基本的に野党第一党は比例区が頼りの原理政党ではないことを思い起こす必要がある︒同様に政権維持を第

一目標にしている与党第一党にとっても︑そこまでして憲法改正を狙うことはリスクが高すぎるのである︒通常︑

( 4 6 )  

﹁護憲﹂党が連立の構成に意味がある限り︑この方法においても大幅な﹁改憲﹂は進められない率が高いのである︒

憲法調査会を巡る状況はこれに近いものである︒

(20)

第五一巻第一号

与野党連携して平然と﹁改憲﹂協議ができるのは︑それ以下に﹁護憲﹂党群が衰弱したときだけであろう︒その水準

は意外と低いというのがこれまでの結論である︒そしてもし仮にこのような事態が出現するとすれば︑そのときは単

純比例代表選挙であっても﹁護憲﹂党は合わせて三分の一の議席を獲得できないであろうから︑それを選挙制度のせ

( 4 7 )  

いにすることは困難であろう︒

繰り返しになるが︑中選挙区制度を小選挙区比例代表並立制にしたから﹁改憲﹂を成し遂げ易くなったと結論づけ

ることは非常に難しいのではないか︑ということである︒それは︑与野党を超えた連携の可能性を含めても言えそう

である︒現行の小選挙区比例代表並立制の導入は︑直感的印象とは逆に大きな﹁改憲﹂の可能性を実は小さくしたよ

うに思われる︒要するに現行の小選挙区比例代表並立制は︑参議院が存在ししかも一二年毎に半数改選であることに次

いで︑相対的には憲法改正阻害即ち﹁護憲﹂的に働く制度となっているようなのである︒

それでもなお︑﹁改憲﹂派がどうしても日本国憲法のほぼ全面改正を目指すなら︑これまで述べてきた選挙制度は

﹁改憲﹂派に有利に働かないと考え直し︑別の選択肢の可能性を模索するべきだったということになろう︒残るは比

例代表制又は大選挙区制︵旧来のいわゆる中選挙区制に戻すことも含む︶である︒この下では各政党は党としての主張を

より原理的になすことが自由になる︒そこではあるとき何かのはずみで第三軸の体制選択的な争点が大きくクローズ

( 4 8 )  

アップされて︑それを成し遂げる連立又はパーシャル連合が憲法の全面的改正を進めるかもしれない︒﹁改憲﹂党と

﹁護憲﹂党の二党が二対一となるとき︑有効政党数は一・八

0

であり︑小選挙区制の一・九七と実は大差はないので︑

このことからしても﹁改憲﹂を目指す勢力にとって比例代表制が小選挙区制より取り立てて不利な制度だということ

はできない︒しかも︑﹁改憲﹂党が分裂してもこの選挙制度の下では選挙戦術にそれほど影響はない︒つまり︑小選 関法

(21)

いかとさえ言えるのである︒

挙区制を含む選挙制度では三分の二を獲得するようなグループは分裂し対決するようになるという宿命はここでは相

当程度軽減されるのである︒つまり︑比例代表制こそが︑本当に世論の六割五分程度が﹁改憲﹂派ならば寧ろ確実に

それが成就できる選挙制度である︒また︑そのような選挙制度下でなされた改正に対しては︑主権原理の変更などの

異常なケースを除けば︑その民主的正統性を﹁護憲﹂派も嫌でも認めざるを得ないのである︒

一九四六年に政府が提出した日本国憲法案は︑男女普通選挙制度と大選挙区制の下で選ばれた衆議院で審

( 4 9 )  

議されたのであった︒このためか︑世論調査でもこの政府案は好意的に受け止められ︑大きな修正はなく公布に至り︑

占領下の憲法でありながら総じて民主的正統性を得たと言えたのである︒その憲法を覆すという意味でも︑衆議院へ

の大選挙区制又は比例代表制の全面導入は大きな﹁改憲﹂を行うときには必須であろう︒現行選挙制度で勝っている

( 5 0 )  

有力政党が︑大政党にとって有利に働かない比例代表制の全面導入を主張する可能性が低い点が︑その障害である︒

だとすれば︑選挙制度の決定が国会の権限であるという憲法規定が実は隠された憲法保障機能を有していたのではな

憲法は自らの存続のため︑様々な仕組を内包している︒公務員の憲法遵守義務や違憲立法審査権︑権力分立原理な

どがその代表的なものとして挙げられている︒その一っとして硬性憲法であることがある︒憲法改正を法律の改変よ

り困難にすることは当然であるが︑国民投票の前に国会による発議が必要だという規定は︑そう考えると重要である︒

そのことにより単に憲法改正のハードルが増えただけではなく︑各議院でそれが政治的議題にされることを難しくさ

(22)

いわゆる全面的な﹁改憲﹂は賢明な主張ではないと思われる︒ 第五一巻第一号

せたのである︒第一には半数改選の参議院という存在によって︑そして第二には大政党が小選挙区制度などを導入し

ようとする性向を有するためである︒勿論︑発議に必要な賛成が各議院の過半数ではなく三分の二だということは大

きいが︑硬性憲法であることを考えれば︑その数が議員除名などに必要な程度を下回らないことは不思議なことでは

ない︒日本国憲法はこのようなことも含めて全面改正を阻止しようとしているし︑仮に平和裡にそれを行ないたいな

らば︑それを目的とする比例代表的総選挙を求めているのである︒憲法九六条が予定しているのは︑言うまでもなく︑

基本原理の改正を伴わない部分改正だということはこれらのことからも裏付けられよう︒

国家の基本法を改正するとは︑いわゆる先進国では通常そのようなことを指しているはずであって︑クーデターや

革命を伴うかのような全面的な改正ではないのである︒もともと憲法改正条項に従った憲法改正というものは︑そう

いうものだったのではないだろうか︒憲法論争が現実の変化に合わせて憲法の一部の条文を改正すべきかというもの

に移行するとすれば︑それは日本の憲法論争が先進諸国並みになるということなのである︒もし現にある憲法が大多

( 5 1 )  

数の有権者の乗る平面から離れたときは全面改正を受けるであろうが︑それは前述のように相当異常なケースである︒

実際︑戦後主要先進国の中で全面的な改正を行ったのは︑アルジェリア独立戦争を契機とする内乱の危機に面した一

九五八年のフランスだけと言ってよい︒その周辺に広げても︑ 関法

フランコ総統死後の一九七八年のスペイン憲法の制定︑

議院内閣制など既に憲法習律となっていたものを明文化した一九七五年のスウェーデン統治法典の制定︑或いは東欧

( 5 2 )

5 3 )

 

社会主義諸国の崩壊に伴うものなどに留まる︒日本にこれらに匹敵する事態が発生しているとは思えないのである︒

世論調査で六割に達したと言われる改憲傾向についても実はこのことを証明するものである︒増加傾向にある改正

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