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その他のタイトル Die Wechselerklarung und die Streichung eines die Bevllmachtigung ausdruckenden Vermerkes

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(1)

研究ノート 手形行為の性質 : 福岡高判平成一九年 二月二二日判時一九七二号一五八頁を契機に

その他のタイトル Die Wechselerklarung und die Streichung eines die Bevllmachtigung ausdruckenden Vermerkes

‑Zugleich eine Besprechung des Urteils des OLG Fukuoka v.22.2.2007,Hanreijiho Nr.1972,S.158‑

著者 福瀧 博之

雑誌名 關西大學法學論集

巻 60

号 3

ページ 762‑730

発行年 2010‑10‑26

URL http://hdl.handle.net/10112/4710

(2)

︵本稿︑二︶︑多少の検討を試みたい

︹ 研 究 ノ ー ト ︺

︵七

六二

‑︶︑判旨の考え方を紹介し

福岡高判平成一九年二月二二日判時一九七二号一五八頁を契機に

下級審判決であるが︑取立委任文言の抹消と手形の根譲渡担保の効力発生時期に関する福岡高判平成一九年二月二二日判時

一九

七二号一五八頁︑判タ

︱ 二 四七号三二三頁︵以下においては︑本判決とか本件判決と呼び︑さらに︑本判決の事案または本判決を 指して単に本件という︶が注目を集めており︑判例研究のみならず︑この判決が取り扱う問題をテーマとする論文の形式の研究も

1 ( ) 

散見される︒これは︑あるいは︑近時︑手形法に関する判決そのものが少ないことにもよるかと考えられるが︑それだけではなく︑

この判決が手形法の基本的な問題の一

である手形行為の性質︵あるいは手形行為そのもの︶の理解に関するものであることにもよ ると考えられる︒以下においては︑先ず︑この判決の事実および判旨の概要を示したうえ

︵本

稿︑

︵本

稿︑

一︳

︳以

下︶

︒ あるいは︑これは︑いわゆる判例研究として取り上げるべき問題ではないのか︑との異論があり得るであろう︒本稿も︑また︑

冗長な判例研究にすぎないかも知れない

︒た だ︑本件判決の手形行為の理解は︑従来の手形行為の性質の理解とは相当大きく違う ものであるにもかかわらず︑本件判決を取り上げる判例研究の多くは︑そのことに必ずしも関心を払っていないようにも見受けら れるので︑本稿においては︑本件判決の判例研究というよりも︑もう少し広く︑本判決の場合を例にとりながら手形行為の性質に

手 形 行 為 の 性 質

手 形 行 為 の 性 質

(3)

︵前

提事

実②

イ⑦

︑い

︶︒

ついて考えてみることにしたい︒本稿に﹁︹研究ノート︺手形行為の性質1福岡高判平成一九年二月二二日判時一九七二号一五

本件の判例研究などには︑たとえば︑次のようなものがある︒

今井克典・ジュリスト一三五四号︱ニニ頁︑今川嘉文﹁手形の取立委任文言の記載と譲渡裏書の効力﹂神戸学院法学三七巻――•四号一九七頁、菊地雄介・受験新報二00七年―二月号二頁、酒井太郎・金判一三一四号―一頁、笹本幸祐・法学

セミナー六三六号―ニ―頁、新里慶一「隠れた譲渡裏書」中京法学四四巻三•四号二三頁、水野信次・銀行法務21六八六号

四一頁︑弥永真生・金法一八四四号

一 ︱ 頁 ︒

右の判決︵福岡高判平成一九・ニ・ニニ判時一九七二号一五八頁︑判タ

︱ 二

四七

号三

二三

頁︶

もの

であ

る︒

プロローグ'~福岡高判平成一九年二月二二日判時一九七二号一五八頁!

‑︑

Y

金庫︵商工組合中央金庫︹大分支店︺︑被告・控訴人︶

第三者振出の商業手形︵見返り手形︶ ︹

事実

(1

八頁を契機に﹂と題する所以である︒

関 法 第 六

0

巻三号

の事実および判旨は︑次のような

は︑平成五年九月三

0

日付

けで

X会社︵原告・被控訴人︶

︵七

一︶

の間において︑手形貸付︑証書貸付等の一切の取引に関する債務の履行について定めた約定書︵本件約定書︶を取り交わし︑

それに従って取引を行ってきた︒

X

Y

間の決済の方式は︑

Y

金庫が

X

会社に対する貸付の見返りとして取立委任裏書の方式で

の交付を受け︑これを預かり保管したうえ︑見返り手形を取り立てた手形金を

Y

に開設

した

X

名義の普通預金口座に入金し︑その預金債権と貸金債権とを適宜の時期に対当額において相殺するというものであった

(4)

つき︑弁済期を平成一六年三月一九日とすることなどを合意し

︵本

件抹

消行

為︶

︵七

0 )

Y金庫は、X会社に対し、平成一四年三二二日に一四二0万円(弁済期•平成一五年二0日)を、平成一四年七月四

日に五00万円

弁済期•平成一

五年七月四日)を、いずれも手形貸付の方法により貸付けた

本件貸付)

前提事実③ウ

しか

し︑

その

後︑

X

会社の資金事情の悪化により︑本件貸付の弁済が難しくなったので︑

Y

金庫と

X

会社は︑平成一

五年

三月

一九日付けで債務承認弁済契約証書を取り交わし︑本件貸付にかかる借入金が現存することを確認するとともに︑同借入金に

︵前提事実②エ︑オ︶︑平成

一五年四月二二日︑同年四月

二三 日付けで︑﹁手形譲渡に関する契約書

︵本件譲渡契約書︑本件譲渡契約書

にか

かる

契約

を本

件譲

渡契

約と

いう

︶﹂

﹁商業手形担

保約定書﹂

および﹁念書︵商業手形担保特約︶﹂を取り交わした

︒本件譲渡契約書には︑

X会

社は

Y金庫に対して﹁現在お

よび将来負担するいっさいの債務の根担保として︑原判決別紙手形目録記載の八四通の手形︵本件手形︶を

Y金庫に譲渡﹂す

る旨の記載があった︵前提事実②オ

︶ ︒

本件

手形

は︑

X

会社から

Y

金庫に﹁見返り手形﹂として取立委任裏書をして交付されたものであったが︑他の見返り手形と

ともに︑いずれも東京にある

Y

金庫の手形集中センターにおいて保管されていたので所定の組戻手続を経て

Y

金庫大分支店に

回送され︑右の合意に基づき︑本件手形の取立委任文

言は︑遅くとも︑平成一

五年四月二八日午後六時ころには︑

X

会社の

A

二︑他方︑平成一五年四月二

八日

午前

X

会社は︑大分地方裁判所︵再生裁判所︶

に対して民事再生手続開始および保全処分 の申立てをした︒再生裁判所は︑同日午前

︱ 一

時こ

ろ︑

X

会社については︑予め裁判所の許可を得た場合を除き︑同月

二七日

までの原因に基づいて生じた債務の弁済および担保の提供をしてはならない旨の保全処分

︵本件保全処分︶ならびにその所有

する財産に係る権利の譲渡︑担保権の設定等の

一切の処分︑その有する債権について譲渡︑担保権の設定その他の

一切の処分

( X

会社による取立を除く︶

等をする場合には︑監督委員の同意を得なければならない旨の監督命令

︵本件監督命令︶を発し

た︒なお︑再生裁判所は︑平成一

五年

六月

九日

X

会社につき再生手続を開始する旨の決定をした︒また︑再生裁判所は︑平

手 形 行 為 の 性 質

専務によって抹消された

(5)

︹ 判

旨]

渡りとなった目録番号七六の手形を除く七五通の各手形の支払を受けた

︵七

五九

成一

六年

二月

六日

X

会社にかかる再生計画を認可する旨の決定をし︑同決定は︑同年三月一六日確定した︒

三 ︑

Y

金庫は︑平成一五年四月二八日以降︑本件手形を所持し︑この間︑目録番号一ないし七六の各手形の支払呈示をし︑不

︵手

形金

合計

0

四三万三

0

0

0

︶︒

そこ

で︑

X

社は︑本件手形は︑平成一五年四月二八日に

X

会社が取立委任文言を抹消する方法で

Y

金庫に裏書譲渡したものであるが︑こ

の裏書譲渡は︑①代表権を有しない専務取締役が行ったものであり︑②

x

会社を再生債務者とする平成一六年改正前の民事

再生法に基づく保全処分および監督命令に違反するから無効であり︑したがって︑本件手形のうち

Y

金庫が現に支払呈示して

取り立てた手形︵目録番号一

ない

し七

六︶

ると

して

の手形金相当額および取立未了の手形︵目録番号七七ないし八四︶は不当利得にな

Y金庫に対し︑不当利得返還請求権に基づき︑①目録番号

一ないし七六の各手形の額面相当額二

0

五八万一

0 0

0

円および遅延損害金の支払を求めるとともに︑②目録番号七七ないし八四の各手形の引渡ならびにその代償請求として各

手形につき上記目録中﹁金額﹂欄記載の各金員および遅延損害金の支払を求めて訴えを提起した︒

原審︵大分地判平成一

八 ・

三・

三 一

︑判例集未登載のため判旨不詳︶は︑上記①の請求のうち︑目録番号九ないし七五の各

手形に基づいて

Y

金庫が取り立てた手形金︵合計一

八八

一万

0 0

0

円 ︶

は不当利得に当たるとして︑同金額および遅延損害

金の限度でこれを認容したが︑上記請求のその余の部分および上記②の請求の全部を棄却した︒これに対し︑

Y

金庫は︑本件

手形債権は︑平成一五年四月二三日に譲渡担保として

X

会社からY金庫に移転済みであり︑本件手形の引渡も完了していると

主張して控訴した︒取立委任文言の抹消自体が新たな譲渡裏書になるのではなく︑

Y

金庫による本件手形債権の取得は︑本件

保全処分および監督命令には違反しないものであり︑その後︑本件貸付が完済されていない以上︑Y金庫が本件手形を所持し︑

手形金を取り立てることには法律上の原因があるというのである︒本判決は︑控訴人の主張を認め︑以下のように判示して︑

原判決中控訴人敗訴部分を取消し︑被控訴人の請求を棄却した︒

(1) 

取消

︵上

告︶

関 法 第 六

0

三 号

(6)

かのようである︒

一見すると本件の場合にも当てはまる

本件手形は︑控訴人への取立委任裏書がなされた上で︑見返り手形として控訴人に交付され︑控訴人において保管中 のものであったところ︑本件譲渡契約により︑被控訴人の控訴人に対する現在又は将来の一切の債務を担保するために控訴人 に譲渡されたものである︵前提事実③オ︶︒しかも︑同契約は︑被控訴人の資金事情の悪化により︑本件貸付けの弁済期日が 延長されるという非常措置がとられた直後に締結され︑その際には商業手形担保約定書や念書も取り交わされているのであっ て︑これによれば︑控訴人に担保手形の取立金を任意の時期にいずれの債務の弁済にも充当することができるとされていたの

︵同エ︑オ︶︒そうであれば︑本件手形は︑従来の見返り手形ないしそれに基づく決済の方式︵前提事実②イ︑

m

い︶

から︑手形に表象された手形金︵手形債権︶それ自体が控訴人に譲渡担保に供されたものであるといわなければならない

そうすると︑本件手形債権は︑本件譲渡契約に基づき︑平成一五年四月二三日の同契約締結の時点で︑根譲渡担保として控 訴人に移転したものというべく︑その後なされた本件抹消行為は︑同契約に基づく手形面上の処理が事実行為としてなされた にすぎず︑これによりはじめて本件手形債権が控訴人に譲渡されたというものではないのである

この点につき︑被控訴人は︑︹本件抹消行為により︑その時点で︑被控訴人から控訴人への新たな譲渡裏書がなされた

ことになると主張して︑昭和六

0

年最判︵最判昭和六

0

年三月二六日判時

︱ ︱

五六号一

四三頁︶を援用するが︑︺同判決は︑

﹃取立委任文言の抹消により︑その時から通常の譲渡裏書となる﹄とする昭和五

0

年最判を引用した上で︑﹃約束手形の取立

委任裏書を受けてこれを所持している者が︑その裏書人との間で当該手形の譲渡を受ける旨の合意をしたとしても︑そのとき に右取立委任裏書を抹消して新たに通常の譲渡裏書がされるか︑又は取立委任文言が抹消されるなど︑右譲渡のための裏書が なされなかったときには︑後日取立委任文言を抹消しても︑これによって譲渡裏書としての効力を生ずるのは右抹消の時から であって︑前記譲渡の時に遡って効力を生ずるものではない﹄としたものであるから︑

しかし︑同判決の事案は︑取立委任裏書を受けていた者から取立委任文言が抹消された手形の裏書︵白地︶譲渡を受けた者 手 形 行 為 の 性 質

( 2 )  

である

﹁ ①

︵七

五八

(7)

が振出人に手形金請求をしたというものであるから︑あくまで手形上の記載に依るべきことは当然であるが︑本件は︑本件譲

渡契約の当事者である控訴人と被控訴人との間において本件手形債権の移転の有無や移転の時期が争われているのであるから︑

両者は事案を異にし︑同列に論ずることはできないものというぺきである︒﹂

(1)酒井・前掲﹁判批﹂金判

一三一四号

一 ︱ 頁 ︑

年七月四日︶﹂となったとのことである︒

問題の所在

譲渡担保として︶を受ける合意をした場合であって︑その合意のときに取立委任裏書を抹消して新たに通常の譲渡裏書がされるか︑

または取立委任文言が抹消されるなど︑譲渡のための裏書がなされず︑後日取立委任文言が抹消された場合には︑手形債権の譲渡

がその効力を生じるのは︑手形文言の抹消の時点か︑それとも手形債権を譲渡する旨の合意があった時なのかが争われてきた︵本

従来の判例 問題の所在︵前掲福岡高判平成平成一九・ニ・ニニにおける問題の所在︶

本件のように︑取立委任裏書を受けて手形を所持する者が裏書人との間において当該手形の譲渡︵本件では根

件手形の手形債権移転の効力︑取立委任文言の抹消と譲渡裏書の効力発生時期︶︒

2 一般に︑当事者の合意︵または譲渡人の明示または黙示の同意︶があれば︑取立委任文言の抹消によって取立

委任裏書が譲渡裏書になることが認められているが

頁︑大隅健一郎

1 1河本一郎・注釈手形法・小切手法︹有斐閣・昭和五二年︺

場合︑それによって譲渡裏書としての効力を生ずる時期︵譲渡裏書の効力発生時期︶については︑本判決において

X

会社が引用す

るように︑すでに最高裁判所の判決があり︑取立委任文言の抹消によって譲渡裏書としての効力を生ずるのは﹁抹消の時から﹂で

あるとされてきた

︵最

判昭

和五

O ・ 1 ・

ニ―金法七四六号二七頁、前掲最判昭和六0•三・ニ六)。

関 法 第 六

0

三 号

︱ 二

頁によると︑本件は︑その後︑﹁上告棄却・上告不受理決定︵平成二〇

︵中西正明﹁戻裏書と裏書の抹消﹂手形法小切手法講座三巻一︱︱頁︑

一七七頁、前掲最判昭和六0•・ニ六参照)、その 六

︵七

五七

︱二

(8)

手 形 行 為 の 性 質

取立委任文言の抹消による譲渡裏書の効力発生時期に関する判例の根拠 渡裏書の方式︵手形法七七条一項一号︑

解してよいとすれば︑取立委任文言の抹消による手形債権の譲渡時期の問題は︑要するに︑手形法

一三条の

方式を充たす譲渡裏書

がいつから有効に成立するか︑という問題︵譲渡裏書の成立要件の問題︶に他ならない︒

裏書などの﹁手形行為は要式の書面行為であって︑すべて書面上に法定の方式をもってなされなければならず﹂︑手形行為に あっては﹁方式と行為とは性質上分離して観念しえない﹂といわれている︵大隅健

一郎・新版手形法小切手法講義︹有斐閣・

一九

八九年︺二四頁︶︒手形行為にあっては︑書面の記載を離れて意思表示を観念することはできず︑したがって︑裏書もまた︑必ず

法定の記載事項を記載して行うべきものである︒

﹁裏書︵譲渡裏書︶は︑裏書人が法定の方式に従って手形に署名し︑これを相手 方すなわち被裏書人に交付することによって成立する手形行為であって︑これにより被裏書人は手形上の権利を取得する﹂のであ このことは︑法定の方式に従った通常の譲渡裏書でも︑それに代わるものとして認められている取立委任文言の抹消の場合でも

同じであると解される︒したがって︑取立委任文言の抹消により取立委任裏書を譲渡裏書に変更するためには︑裏書の当事者の合 意だけでは足らず︑必ず取立委任文言を抹消しなければならないのであり︵東京地判昭和四ニ・三・八金法四七四号

二頁

︶︑

こ のことからすれば︑﹁取立委任文言の抹消により︑その時から通常の譲渡裏書となる﹂とし

﹁譲渡裏書としての効力を生ずるのは右抹消の時からであって︑前記譲渡の時に遡ってその効力を生ずるものではない﹂とする

(前掲最判昭和六0•

三・ニ六)判例の見解は、むしろ当然のことを確認するものにすぎない。

隠れた譲渡裏書という捉え方一

︑ところで︑手形を譲渡する当事者が譲渡裏書をすべきときに︵これには︑たとえば︑債

(l) 

権担保の目的とか︑隠れた質入裏書の趣旨などの場合もある︶︑そうしないで︑取立委任裏書を利用する場合がある︒取立委任裏

書の形式をとりながら裏書当事者間では実質上は譲渡の目的で裏書がなされる場合であり︑これを﹁隠れた譲渡裏書﹂と呼ぶこと 一る︵大隅・前掲書

0 0

頁 ︶

( 3 )  

二条︶を充たす裏書に他ならない

七︵七五六︶ (前掲最判昭和五0•一ニ―)、また、

︵あるいは︑少なくともそれに準じるものである︶と 当事者の合意に基づく取立委任文言の抹消は︑譲

(9)

ない

ので

ある

二︑隠れた譲渡裏書は︑これもまた︑当該手形行為︵ここでは︑取立委任裏書︶が本来予定されている経済的な目的とは別の趣旨

で利用される場合の一であり︑隠れた手形保証︑隠れた質入裏書︑隠れた取立委任裏書などに連なる問題であって︑従来︑そのよ

件の視点からみた問題を成立した手形行為の解釈の視点から捉え直すものにすぎず︑結論を異にするものではない︒

︵手形上の法律関係としては︶あくまでも取立委任裏書として扱うものとされている

一下民集―二巻四号七六五頁、東京地判平成一0•八・ニ七金法一五四五号五五頁)。その経済上の目的が債権担保の趣旨の譲渡

にあっても︑手形行為としては︑取立委任裏書の形を選択した以上︑要式の書面行為としては︑取立委任裏書が認められるにすぎ

三︑前述のように﹁手形行為は手形上の記載をもって自己の意思表示の内容とする法律行為であるから︹手形行為の文言性︺︑手

形行為の解釈はもっぱら手形の文言にもとづいてなすべきであって︑手形上に表われていない事情︹手形外の事情︺によって当事

者の意思を推知しまたは手形の記載を補充変更することは許されない﹂︵手形客観解釈の原則または手形外観解釈の原則︶︵大隅・ にも︑法律上は すなわち︑当事者が手形債権を譲渡する趣旨で うな視点からの検討もなされてきた て

よい

であ

ろう

また︑右にみたように︑当事者が取立委任裏書から譲渡裏書への変更に合意したが︑直ちに取立委任文言の抹消を行わず︑後に

なってから初めて取立委任文言が抹消される場合には︑譲渡裏書としての効力を生じるのは︑その抹消の時からであると解する場

合︑当事者が譲渡裏書への変更に合意しても︑取立委任文言の抹消が行われるまでは︑手形行為としては︑依然として取立委任裏

書があるだけである︒この場合には︑取立委任裏書は︑譲渡裏書に変更する旨の合意があった時点からは︑譲渡の目的で

保の目的で︑あるいは隠れた質入裏書の趣旨で︶利用されているということもできる︒このような場合も︑隠れた譲渡裏書に入れ

︵加藤・前掲五頁など参照︶︒しかし︑私見によれば︑それは︑右において手形行為の成立要

︵債権担保の目的︑隠れた質入裏書の趣旨で︶取立委任裏書を利用している場合 がある︵加藤勝郎﹁隠れた譲渡裏書の効力﹂手形研究四

一号

四頁

︶︒

関 法 第 六

0

巻 三 号

(東京裔判昭和三六•四 八

︵債

権担

︵七

五五

(10)

︵手形行為が書面を離れてはあり得ない要式の書面行為であることから導かれる手形行為の文言性のコロラリーと しての手形客観解釈の原則︶︒このことは︑最初から手形債権を譲渡する趣旨で

用された場合だけでなく︑本件のように︑最初は︑取立委任の目的でなされた取立委任裏書が後に当事者の合意によって手形債権

(2 )( 3)  

︵債権担保の目的で︶利用される場合にも妥当すると考える

X

会社から

Y

金庫への本件手形債権の譲渡︵根譲渡担保のための譲渡︶は︑本件譲渡

譲渡の趣旨で

⑤本件判旨と従来の判例との関係

契約に基づいて︑

X

会社が取立委任文言を抹消して本件手形を

Y

金庫に裏書譲渡して行われた︒従来の判例によれば︑取立委任文 言の抹消が譲渡裏書としての効力を生じ︑本件手形債権が根譲渡担保として

Y

に移転するのは︑﹁抹消の時から﹂である︒しかし︑

本判決は︑﹁本件手形債権は︑本件譲渡契約に基づき︑平成

一五年四月二三日の同契約締結の時点で︑根譲渡担保として控訴人

Y

判決は︑﹁取立委任文言の抹消により︑その時から通常の譲渡裏書となる﹂とする従来の最高裁判決の考え方︵前掲最判昭和六

0•三・ニ六)を採用しなかった理由に関しては、昭和六0

年「判決の事案は、取立委任裏書を受けていた者から取立委任文言が

抹消された手形の裏書︵白地︶譲渡を受けた者が振出人に手形金請求をしたというものであるから︑あくまで手形上の記載に依る

べきことは当然であるが﹂︑本件は︑﹁本件譲渡契約の当事者の間において本件手形債権の移転の有無や移転の時期が争われている のであるから︑両者は事案を異にし︑同列に論ずることはできない﹂旨判示している

︑これは︑従来の最高裁判決の場合とは事案が異なるから︑本判決は︑従来の判例には従わないとするものであるが︑そうであ るとしても︑問題は︑本判決の理由付けが説得力のあるものかどうかである︒

判旨は︑その認定する本件譲渡契約からすれば︑﹁手形債権それ自体が

Y金庫に譲渡担保に供された﹂ものであるとしたうえ︑

﹁そうすると﹂︑﹁本件手形債権は︑本件譲渡契約に基づき︑同契約締結の時点で︑根譲渡担保として

Y

に移転したもの﹂であると

いっている︒

しかし︑手形債権自体を譲渡担保に供する契約が締結されたからといっても︑そのことは︑その契約に基づいて︑そ 手 形 行 為 の 性 質

に移転した﹂と判示した︒

0

前掲書三

頁 ︶

︵七

五四

︵あるいは債権担保の目的で︶取立委任裏書が利

(11)

6 ` ︑

9

̲ 9  

︵別

個独

自︶

の手形上の法律行為であって ばよいとする見解をとるものとも考えられる︒ の契約が締結された時点において手形債権が根譲渡担保として移転することと同義ではない︒むしろ︑本件において︑

X

会社が主

張しているように︑手形を目的物とする譲渡担保契約を締結したからといって︑そのことのみによって手形債権まで移転するわけ

ではなく︑手形上の権利移転に関する意思表示が別途必要であると考えるべきである︒手形行為は︑原因関係とは別個︵別個独

自︶の手形上の法律行為であって︵独自性︶︑少なくとも裏書による手形債権の譲渡には︑﹁手形上の権利移転に関する意思表示﹂

が原因関係とは別に必要であると考える︒そのような意思表示に当たるのが︑取立委任文言の抹消であり︑本件抹消行為により︑

その時点で新たな譲渡裏書がなされたことになると解すぺきである︒

三︑判決は︑本件手形債権は︑本件譲渡契約﹁締結の時点で︑根譲渡担保として控訴人に移転したもの﹂であるというべきであり︑

﹁その後なされた本件抹消行為は︑同契約に基づく手形面上の処理が事実行為としてなされたにすぎず︑これによりはじめて本件

手形債権が控訴人に譲渡された﹂というものではない︑とする︒したがって︑本判決は︑取立委任文言の抹消を譲渡裏書に必要な

書面行為と捉えていないことは明らかである︒書面の作成がなくても合意︵および手形の引渡︶があれば︵本件の事案においても

引渡と合意は認定し︑あるいは擬制する余地はあると考える︶︑手形行為としては成立し︑すでに効力を生じているというのであ

ろうか︒手形債権譲渡の相対的構成にあたって︑当事者間では︑証券の記載は問題ではなく︑当事者の手形外の意思表示さえあれ

本判決の判旨と手形行為の性質との対立

︵七

五三

これを要するに︑本判決は︑裏書をはじめとする手形行為が原因関係とは別個

︵独自性︶︑要式の書面行為であるとされていること︑手形行為に関しては︑いわゆる文

言性が認められており︑また手形行為の解釈に関しては︑いわゆる手形客観解釈の原則が認められていることなどと正面から衝突

するものと解さざるを得ない︒本判決の判旨は︑手形行為の性質という観点・視点から見ると︑到底看過できないものである︒

しかし、それにもかかわらず、ー本'判決の事案は従来の判決とは違って、裏書の当事者間に関するものであって、裏書の当事

(4) 者︵被裏書人︶と第三者との関係に関するものではないとしても︑しかし︑その法的構成からみれば︑本判決は︑むしろ従来の最

関 法 第 六

0

巻三号

1 0 

(12)

高裁判例と正面から衝突するようなものであるにもかかわらず││'本件の結論に関しては︑多くの判例批評がむしろ好意的であ り︑さらに進んで︑判旨と同様の結論を導くための法的構成の提案もみられる︒そこで︑以下においては︑本判決の結論の是非

︵本稿︑三︶と︑本件判旨の結論を導くような他の法的構成の可能性︵本稿︑

四︶にも少し言及し︑多少の検討を試みることにす

( l

)

一般に︑手形債権︵手形上の権利︶を譲渡する目的で行なわれる譲渡裏書︑手形上の権利を行使する代理権を付与する目

的でその旨を記載して行なわれる取立委任裏書︑さらには︑手形上の権利に質権を設定する目的でその旨を記載して行われ る質入裏書などというように裏書の種類に従った区別のもとに議論しているが︑他方︑判例においては︑経済的目的に着目

して

﹁担保目的で利用︵授受︶される手形﹂などという表現が用いられることも多い︒

金融機関が商業手形に担保を設定する方法としては①質権設定の方法︵質権設定のための担保差入証および質入裏書を した担保商業手形の引渡を受けることによって成立する︑譲渡裏書︹隠れた質入裏書︺がなされることもある︶︑②譲渡担 保方式︵手形に譲渡裏書をして︑譲渡担保差入証とともに債権者に交付する︑金融機関においてはもっとも普通に行われて いるといわれる︶︑③法律上の担保制度とはいえないが︑取立委任裏書を利用する方法︵担保差入人が金融機関に対して︑

保有する商業手形の取立委任︹取立委任裏書︺をし︑それが取立ずみとなったうえは債務の弁済に充当されて差し支えない という弁済充当契約を併せて結んでおくことによっても︑ある程度担保目的を達することができるといわれる︶があるとさ れている︵斎藤睦馬﹁商業手形担保の設定手続と注意点﹂堀内仁監修・銀行実務判例︹経済法令研究会・昭和五二年︺六

一七頁参照

︶ ︒

(2

)

取立委任文言

の抹消により︑譲渡裏書が成立するまでは︑取立委任裏書であるから裏書人から被裏書人への手形債権の譲 渡は生じておらず︑また︑譲渡裏書が成立した時期によっては︑期限後裏書

︵手

0

条︶の効力しか認められない︒たとえば︑前掲最判昭和六

0

︱ ︱

︱ 月二六日の事案参照︒

(3)

それにもかかわらず︑本件判決の判例研究・判例批評には︑判例を分析して︑

1少なくとも前掲最判昭和五

0

年一月二一日および前掲最判昭和六

0

年三

月二六日より前の従来の下級審判例は分かれていたとして︑ー│'本文で紹介したような判

例とは違って︑﹁取立委任文言

が記載されていても︑手形の譲渡契約に従って︑手形債権の移転を認める裁判例﹂があった

る︒

手 形 行 為 の 性 質

︵七

五 二 ︶

(13)

とするものが見られる(たとえば、弥永•前掲「判批」金法一八四四号一―頁、一三頁、酒井•前掲「判批」金判一三一

号︱︱

頁 ︑ 一 三

頁︑今井・前掲﹁判批﹂ジュリスト

一 三

五四号︱

ニニ

︱二三

頁な

ど参

照︶

そのような判決として挙げられているのは︑東京高判昭和五七年二月二七日金判七

二三

号八頁であり︑さらには︑東京高

判昭和四五年二月一

0

日金法五七五号

三 一

頁である︒しかし︑前者は前掲最判昭和六

0

年三月二六日の第一審判決であっ

て ︑

いうまでもなく上級審においてそのような考え方は否定されており︑﹁かつて判例が分かれていた﹂とはいえても︑前掲最

判昭和五

0

年一

月ニ

︱日および前掲最判昭和六

0

年三月二六日以降の判例としては意味が少ないと考える︒

また︑右の東京高判昭和四五年二月一

0

日は︑手形の所持人︵金融機関︶が譲渡裏書がなされた後に誤って取立委任文言

を付記し︑後日︑それを抹消したという事案に関するものであり︑本文で取り上げている場合とは事案を異にする︵酒井・

前掲﹁判批﹂金判

ニ ニ

︱ 四号

︱ 一 頁 ︑

一四

頁参

照︶

︒これは︑手形行為の後に手形の記載に他者の手によって無権限に変更

が加えられた点において︑変造に似た事案であり︑手形行為の後に手形の記載に無権限で変更が加えられても手形行為の内容に影響はないという意味で、変造と同様に考えてよいであろう。この判決(前掲東京高判昭和四五・ニ

0 )

が﹁抹消

された﹃取立委任候に付﹄なる文字﹂は︑そのような文字が付記されていた時点においても︵抹消前であっても︶︑その

﹁裏書が取立委任裏書であることを肯定させる資料となるものでない﹂と判示しているのも︑このことを確認するものであ

ろう

手形上の記載通りの内容の手形債務が認められるのは︑手形行為の文言性︵手形行為は︑手形上の記載︹文

言 ︺

をもって

意思表示の内容とするものであること︶によるものであるが︑後日︑他人が手形の記載に無権限で変更を加えても︑そのこ

とは手形債務の内容に影響を与えるものでないと考えられている︒したがって︑手形の記載が後日他人によって変造された

り︑誤って変更されてもそのことは手形債務の内容︵手形意思表示︶には影響を与えないのである︒

したがって︑このような判例を例に挙げて︑﹁取立委任文言が記載されていても︑手形の譲渡契約に従って︑手形債権の

移転を認める判例﹂であると説明するのは疑問である︒このような説明は︑﹁手形の記載︵すなわち︑手形上

の意

思表

示︑

手形行為︶にもかかわらず︑それと異なる手形の譲渡契約に従って﹂法的効果が認められるかのような表現になっているが︑

この場合の﹁取立委任文言の記載﹂は︑手形行為の要素である手形意思表示となる手形の記載ではなく︑手形行為︵手形意

思表示︶が行なわれた後に無権限で加えられた変更なのである︒これらの判例も︑前掲最判昭和五

0

年一月

ニ ︱

日および前

関 法 第 六

0

巻三号︵七

一 ︶

(14)

掲最判昭和六

0

年三

月二六日と対立するものではなく︑逆に︑前掲最判昭和五

0

年一

月ニ

︱日および前掲最判昭和六

0

年三

月二六日を前提とするものなのである︵なお︑前掲東京高判昭和四五・ニ

・ 1 0

と同様に︑通常の譲渡裏書がなされた後に

︹これには担保の趣旨の場合もある︺︑被

裏書人︹所持人︺によって取立委任文言が誤って記入される︹誤記︺という事例が散見されるが〔たとえば、東京高判昭和六•―ニ・ニ―金法二九八号九頁、前掲東京高判昭和四五・ニ一0の原審ではないかと考えられる東京地判昭和四・六・ニ八金判一四号一三頁、最判昭和四

I O ・ 

ニ九金判一三

八号

一四

頁 ︺

いずれも、前掲東京高判昭和四五・ニ

1 0

と同様の見解をとっている

︶ ︒

これを要するに︑従来の裁判例は︑早くから前掲最判昭和五

0

年一

月ニ

︱日および前掲最判昭和六

0

年三月二六日と同様の見解を採用していたと解される︒

(4)前掲最判昭和五

0

年一月ニ︱日および前掲最判昭和六

0

年三月二

六日は︑いずれも﹁取立委任裏書の当事者間で手形債権

の移転を主張できないとするもの﹂ではなかったことを強調し︑併せて︑従来

の下級審判例には︑むしろそのような場合に

は︵取立委任裏書の当事者間においては︶

︑別異に解する余地の認められることを示唆するものがあったとして︑本判決も またその系列に属する判決であると説くものがある

︵弥永・前掲﹁判批﹂金法一八四四号︱︱

頁 ︑

一 三

頁参照︶︒示唆に富 む見解であるが︑そこで挙げられているのは︑福岡高判昭和

三七年三月二八日金法三

0

七号四頁および大阪高判昭和四五年三月二六日判時六

︱ 一

号八六頁︑金法五七九

号二

九頁である︒

後者は︑なるほど︑﹁︹取立委任文

言の抹消により裏書が通常

の譲渡裏書になるのは︑抹消された時であり︑事案の場合の通常の譲渡裏書は期限後裏書となるとしたうえ︑︺けだし︑手 形は権利が化体した証券で転転流通するから︑右券面に記載された文

に従って解釈すべく︑たとい割引のため譲渡された

︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑

もので譲渡裏書の内容を有していても︑取立委任裏書の形式が採られた以上︑割引当事者間をのぞくその他の手形上の権利

関係においては︑右形式に拘束されることは止むを得ないところである﹂と判示している︵傍点付加︑前掲大阪高判昭和四

五 ・

三・ニ六判時六

︱ 一

号八六頁︑八七頁

︶ ︒

また︑右の福岡高判昭和三七年三月二八日においては︑先ず︑取立委任裏書

の当事者間において︑当該手形が担保として提供されたものかどうかが争われたが︑

﹁担保とする契約は成立していない﹂

としたうえ︑次に︑﹁仮りに﹂担保として提供することを承諾して取立委任

書をしたとしても︑﹁担保の特約は手形外の効 力を生ずるにとどまり﹂︑振出人に対しては︹所持人︺は単に取立委任裏書の被裏書人としての権利を有するにとどまり︑

︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑

振出人の裏書人に対する﹁抗弁の対抗を受けることを免れない

︒ ︵ 被控訴人︹振出人︺が︑右の如き特約を知っていた場合 手 形 行 為 の 性 質

︵七

0 )

(15)

六頁

︶︑

説得

力に

富む

(Y

金庫の担当者にXの弁護士から民事再生手続

( Y

金庫は︑本件譲渡契約

︵ 七

四 九

1 0 

関 法 第 六

0

巻三号

︑︑

︑︑

︑︑

は別論であるが︑そのような事実を認めるに足る確証はない︶﹂と判示したものである︵傍点付加︶︒いずれも判決の結論に

関係しないいわゆる傍論にすぎないが︑その点を別にしても︑本文で見るように︑そのような結論を説明する法的理由付け

が必要である︒本稿は︑そのような結論を支持するに足りる法律構成は容易ではないと考えている︵本稿︑三および四参

照 ︶ ︒

︑前述のように︑取立委任文言の抹消により取立委任裏書が通常の譲渡裏書に変更される場合︑それによって譲渡裏書としての

効力を生ずるのは「抹消の時から」であるとする従来の判例(前掲最判昭和五0.-.ニ、前掲最判昭和六0•・ニ六)

解は︑利害関係者のおかれている状況を正当に評価するものといえるか︒本件でいえば︑仮に︑私見のように本判決の結論に反対

する

場合

Y金庫とX会社の利害の調整としてはそれで妥当といえるか︒Y金庫の立場を不当に害することにならないであろうか︒

従来の判例の見解を支持して︑裏書人と被裏書人との間において取立委任文言を抹消して譲渡裏書とする旨の合意ができている

以上︑被裏書人は自己の手中にある手形の取立文言を抹消すればよいだけであるから︑このような立場にある被裏書人が取立文言

を抹消していなかったとしても︑これを特に保護する必要はなく︑手形上の権利内容は手形の記載によって定めるという原則通り

の処理で問題はない、と説く見解があり(近藤光男「判批〈前掲最判昭和六0•三・ニ六〉」手形小切手判例百選(第5版)

二︑しかし︑本件の場合には︑ Y 金庫も︑そのような見解を前提として︑速やかに処理手続を進めたが

を締結すると同時に手形組戻依頼書に

A

専務の記名押印を得て︑手形集中センターに送るなどしている︶︑本件手形が東京にある

手形集中センターに保管されていたため︑ Y 金庫大分支店において本件手形の回送をまって X 会社 A 専務による本件抹消行為が行

われたのは︑本件保全処分および本件監督命令が出された後になったものである 最高裁判所の判例および本判決の結論の妥当性

一四

の見

(16)

日午後一

時こ

ろで

あっ

︶た

一五

開始の申立てがなされた事実ならびに本件保全処分および本件監督命令が発令された事実が伝えられたのは︑平成

一五年四月二八

金融機関実務では﹁取立受任手形であれ割引手形・担保手形であれ︑受領後直ちに事務センター等の集中処理部署に集中し︑手 形現物は取引店になくその後の状勢に応じた裏書変更等の処理が事務的に著しく困難である﹂との指摘がある 掲最判昭和六0•三・ニ六〉」担保法の判例I(ジュリスト増刊)三七頁、一八頁)。たとえば、「たまたま取立委任裏書によ り金融機関の手中にある手形を手形割引に引き直す場合において︑手形の現物が金融機関の取引店にないために︑現物を所在部署 から取り戻すなどして取立委任文言を抹消するのが事後になる事例も少なくない﹂というのである︵林部・前掲﹁判批﹂三一九

頁 ︶ ︒

いずれにせよ︑本件におけるY

金庫のような手続を前提にするのであれば︵それが必要なのであれば︶︑必ずしも﹁被裏書人は 自己の手中にある手形の取立文言を抹消すればよいだけである﹂とはいえない場合もあることになる︒

( 1

)

もっとも︑この見解も︑﹁手形の文言性の重視は特段の事由がない限りこれを貰徹すべきものであ﹂り︑﹁また当事者の利 益衡量を重視しても︑せっかく裏書人の協力を得て取立手形を譲渡手形に引き直す旨の合意が成立したからには︑手形上に その旨の処理をしなかったのは︑理由は種々あろうとも︑被裏書人の怠慢とされてもやむをえず︑この者を保護する妥当性 に乏しいといえる﹂として︑取立委任文言抹消の効力発生時期に関する判例︵昭和六

0

年最判︶の結論に﹁賛成せざるをえ

ない﹂とされてはいる︵林部・前掲﹁判批﹂三

一八

頁 ︶

それでは︑従来の手形法の考え方を前提にしながら本判決と同様の結論を導くことは無理であろうか︒

手 形 行 為 の 性 質

四本判決の判旨に代わる法的構成の可能性

︵七

四八

︶ ︵

林部

賓﹁

判批

︿前

(17)

︵七

四七

同じく手形の形式と実質の食い違いということでは共通点のある隠れた取立委任裏書の議論を借用することによって︑実質面を

重視して︑取立委任裏書の形式がとられていても︑譲渡裏書と同じ効果を認め︑たとえば︑本件のような場合であれば︑すでに取

立委任文言が抹消される前の段階において手形債権の譲渡を認めることができないかどうかが検討されてきた

譲渡裏書の効力﹂手形研究四︱一

号四

頁参

照︶

(1) 資格授与説の考え方を隠れた譲渡裏書の場合に応用して問題を解決する試み

方を隠れた譲渡裏書の場合に応用して問題を解決する試みとして︑隠れた譲渡裏書においては︑﹁当事者間ではその合意の時点で 一︑隠れた取立委任裏書の資格授与説の考え

譲渡の効力が生じているものと解し︑ただ︑取立委任裏書の形式を信じて行為をした者に対しては譲渡の効力を主張しえないと解

(田邊光政「判批

前掲最判昭和六0•ニ六

」ジュリスト

10五頁、結論同旨、濯阿憲「判批

前掲東京地判平成一0•八・ニ八

」ジュリスト―二0九号一四八頁、一五

0

頁 ︶

二︑このような見解は︑資格授与説が│̲'手形法においては﹁表示を重んじ形式を尊重すべきである﹂との信託裏書説からの批

判に

応え

て︑

1表示や形式の尊重は︑﹁流通証券たる手形取引の安全を保持するために必要だから﹂意味があるのであり︑﹁表示

や形式の尊重もその範囲内で認められれば足りる﹂として︑﹁手形取引の安全を害し法秩序にもとるおそれがない限り︑むしろ当

事者の経済的な目的に適合するような解釈をすることが︑法律解釈学としてとるべき態度﹂であるとしていること

﹁手形の隠れた取立委任裏書﹂法律時報三四巻八号七二頁︶に依拠した見解であると解される︒資格授与説の実質的理由を﹁第三

者の利益保護が充たされるかぎり︑裏書当事者の意図する経済的目的に沿うような効果を認めよう﹂という考えにみるならば︵富

山康吉﹁取立委任裏書﹂手形法小切手法講座三

巻二

三七

頁︑

二五四頁︶︑傾聴すべき見解である︒

ただ︑次のような疑問がある︒右の説は︑隠れた譲渡裏書の場合︑取立委任文言を抹消すれば︑譲渡の合意が成立した時点に

遡って譲渡裏書としての効力が認められ︑また︑抹消しなくても︑裏書人および合意を知っている振出人に対しては被裏書人は権 する﹂有力な見解がある ー.隠れた取立委任裏書の考え方の応用

関 法 第 六

0

巻三号

︵大隅健一郎

︵昭

和六

0

年度重要判例解説︶ 一

1 0

三頁

︵加藤勝郎﹁隠れた

(18)

にすぎない者も譲渡裏書とする旨の合意があったことを立証して実質的な権利移転を証明すれば手形上の権利を行使できると説明 しかし︑取立委任文言の抹消があった場合に譲渡裏書の効力が合意の時点まで遡及する根拠が不明である︒また︑取立委任文言

が抹消されていない場合の実質的な権利移転は︑如何なる法律要件によって生ずるのであろうか︒譲渡の合意だけで実質的な権利 移転があったというのであれば本判決と同様の問題︵本稿︑二︑⑥参照︶を回避しえないと考える

資格授与説の考え方

も権利が移転したというためには︑抹消を要件とすることはできないことになる︶︒

2 ﹁被裏書人に手形上の権利者たる資格とともに︑自己の名をもって裏書人の手形上の権利を行使する権限

(E rm ac ht ig un g)

を与

える﹂ものである

︵大

・隅

前掲

書一

二頁︶︒しかし︑このような見解が︑同時に裏書を要式の書面行為と考え︑﹁その行為の内容

はもっぱら証券上の記載を標準として定められ︑証券上の記載は行為者の意思いかんにかかわらずこれを拘束し︑行為者の意思と 証券上の記載との矛盾は︑直接の当事者間および悪意の取得者に対する関係において抗弁事由となるにすぎない﹂

︵大隅・前掲書

二七頁︶とする場合︑隠れた取立委任裏書は︑それが通常の譲渡裏書の記載のある手形であるにもかかわらず︑なぜ︑それによっ て手形上の権利︵手形債権︶

一︑ところで︑資格授与説によれば︑隠れた取立委任裏書は手形上の権利を移転するものではなく︑

は譲渡されず︑被裏書人には︑﹁手形上の権利者たる資格とともに︑自己の名をもって裏書人の手形

上の権利を行使する権限

(E rm ac ht ig un g)

が与えられる﹂ことになるのであろうか︒

二︑資格授与説を説く古典的な論文︵大隅健一郎﹁手形の隠れたる取立委任裏書︵一︶︵ニ・完︶﹂法学論叢二五巻五号六九八頁お よび法学論叢二五巻六号八六六頁︑以下においては︑大隅・法学論叢として引用する︶においては︑手形所有権説

︵手形所有権と

手形法上の権利とを結合し︑手形上の権利の帰属は手形所有権の帰属によって定まり︑したがって前者は後者に追随するとする見

解︑大隅・法学論叢七ニ︱頁註九︶が前提とされていることが注目される

手 形 行 為 の 性 質

されている(田邊•前掲一0五頁)。 利を行使できると説いている

一七︵

七四

六︶

︵大隅・法学論叢七二

0

頁︶︒この見解は︑裏書の権利 ︵取立委任文言の抹消がなくて

(田邊•前掲一0

五頁)。後者の場合(抹消がない場合)にも、形式的には取立委任裏書の被裏書人

(19)

われているのである︒

︵七

四五

移転的効力の説明に当たっては︑債権譲渡説を採用するが︵大隅・法学論叢七二

0

頁︶︑所有権説が前提とされているので︑譲渡

裏書の説明は︑﹁手形所有権および手形上の権利の移転﹂ということになり︑﹁手形所有権したがって手形上の権利の移転﹂には単

なる形式的な﹁裏書の外に権利移転を内容とする交付契約が必要である﹂と説くことになる︵大隅・法学論叢七一

五頁

︶︒

﹁通

常の

裏書による手形の譲渡は手形上の権利の譲渡を目的として手形に一定の形式を具してなす手形所有権移転の物権契約﹂であり︵大︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑隅・法学論叢七二四頁︶︑﹁手形上の権利の移転には︑裏書ある手形の引渡の外に手形所有権移転の物権契約︵当事者の合意が同時

に手形上の権利に及んでいることを要するとされる︶が必要﹂であると説明されている︵大隅・法学論叢七二七頁以下

︶ ︒

また

隠れた取立委任裏書に関するドイツおよびわが国の学説を紹介して︑次のような説明が行われていることは︑きわめて興味深い︒

三︑すなわち︑学説によれば︑信託裏書説は︑裏書﹁によりて当然に手形上の権利の移転を生ずるという前提﹂

から

出発

して

﹁隠れたる取立委任裏書に於て常に手形所有権及び手形上の権利の移転を見る﹂のに対して︑資格授与説は︑﹁それに対応する意

思を伴はざる限り︑単なる形式のみによりて︑手形所有権従って手形上の権利の移転を生ずるものではない︑之を生ずるがために

は裏書の外に権利移転を内容とする交付契約が存しなければならぬという思想にその出発点を求めてゐる﹂︒学者によって理論構

成は異なるが︑﹁大体に於て︑隠れたる取立委任裏書に於ては﹂︑当事者は﹁固有裏書の形式を採るにも拘らず︑権利移転の意思を

欠如するが故に︑手形の所有権及び債権者権は被裏書人に移転することなく︑依然として裏書人に留保されて居り︑被裏書人は単

に手形上の権利を行使する資格の下に於て︑裏書人の権利を行使する権限を有するものたるに過ぎずとなしてゐるのである﹂︵大

(2 ) 

隅・法学論叢七一

五頁

参照

︶︒

これを要するに︑資格授与説からいえば︑隠れた取立委任裏書の場合には︑固有の裏書の形式をとりながらも権利移転の意思を

欠如するので︑手形の所有権および債権は被裏書人に移転することなく︑依然として裏書人に留保されることになる旨の説明が行

四︑なお︑ここでは立ち入らないが︑裏書人が︑﹁自己の名をもって裏書人の手形上の権利を行使する権限

(E rm ac ht ig un g)

﹂︵大

関 法 第 六

0

巻三号一八

(20)

わち被裏書人に交付すること

一九

︵大

・隅

前掲

隅•前掲書一―

二頁、これに対して、大隅・法学論叢八六八頁においては、「手形上の権利を自己の名に於て行使する権能」とい う表現を使用しておられる︶だけを被裏書人に与えて︑﹁手形所有権および手形上の権利はこれを裏書人に留保しておくことが可 能か﹂﹁そもそも︑そのような権能がわが国において認められるか﹂については争いがある︵これを認める大隅・法学論叢八六九

(3 ) 

頁以下および否定する竹田省・手形法・小切手法︹有斐閣・昭和三

0

年 ︺

︱一 三 頁参照︶︒結局のところ︑このような権限を認め るかどうかが︑資格授与説を認めるかどうかの見解が分かれる理由となっているといってよいであろう︵富山・前掲論文二五五頁︑

わが国の多くの学説は︑手形所有権という概念も︑物権的な交付契約の考え方も用いないと考えられるが︑そのためか︑右に述

べた点が強調されることは余りなく︵大隅健一

郎・新版手形法小切手法講義︹有斐閣・

一九

八九

年︺

用いないで説明されている︶︑資格授与説は︑隠れた取立委任裏書をその実質面から説明するものであること︑そして妥当な結論 五︑私見によれば︑資格授与説は︑裏書の形式的な側面を無視してその実質的な目的を取り上げているのではなく︑隠れた取立委

任裏書の場合の﹁裏書の形式的な側面の理解﹂において︑信託裏書説とは見解を異にするものであるにすぎない︒資格授与説も︑

隠れた取立委任裏書の場合には︑裏書の形式としては︑通常の譲渡裏書の方式で手形行為が行われていることは︑これを当然の前

︵形式的な記載が譲渡裏書であることは認めている︶

のであり︑このことは信託裏書説と異ならない

ただ︑資格授与説では︑通常の方式の裏書があっても︑手形上の権利が被裏書人に移転するかどうかは︑方式ある手形の引渡だ けで決まるのではなく︑物権的な交付契約によって手形所有権が譲渡されるかどうかによって決まると解されているのである

すなわち︑最近のわが国の学説が裏書を説明して︑﹁裏書人が法定の方式に従って手形に署名し

100

頁および鈴木竹雄"前田庸・手形・小切手法〔新版〕〔有斐閣•平成四年〕二四

頁参照)

手 形 行 為 の 性 質

︱︱ 二

頁もそのような概念を

︵書面行為︶︑これを相手方すな

︵手形の交付︶によって成立する手形行為︵要式の書面行為︶﹂であると解している

のに対して︑ここに取り上げた

︵七

四四

提としている を導く理論であることのみが強調されるきらいがある︒ さらに大隅・前掲書︱

一 三

頁参

照︶

(21)

の解釈学としてはさらに補強的な説明を要するであろう︒ 資格授与説は︑手形上の権利が被裏書人に移転するかどうかは︑方式ある手形の引渡だけで決まるのではなく︑物権的な交付契約によって手形所有権が譲渡されるかどうかによって決まるとしているのである︒

資格授与説も︑しばしばいわれるように︑手形裏書の方式︵形式︶と異なる実質的な目的からその効果を考えるものではなく︑

実は︑通常の譲渡裏書によって示される裏書契約の意思表示の内容の理解において

て︶信託裏書説と異なるにすぎないのではないであろうか︒

︵認めるかどうか争いのある︶わが国 そうであれば︑資格授与説も裏書の形式面︵すなわち︑その成立要件︶を無視するものではなく︑信託裏書説と同じく︑書面行

為である手形意思表示に従ったものであるということができる︒ただ︑資格授与説は︑隠れた取立委任裏書の場合には︑譲渡裏書

︵通常の譲渡裏書の方式に従った記載のある手形の引渡︶に手形上の権利︵手形債権︶を譲渡する意思表示を認めるのではなく

(2) ︵そういう場合もあるが︶︑むしろ︑自己の名をもって裏書人の手形上の権利を行使する権限

(E rm ac ht ig un g)

を授与する意思表

示を認めるものなのである︒

六︑しかし︑仮に︑このように資格授与説も裏書の形式面︵すなわち︑その成立要件︶を無視するものではないとしても︑古典的

な資格授与説は︑手形の記載そのものではなく︑物権的な交付契約に手形上の権利の譲渡の根拠を求めていると解されるから︑そ

のような考え方になじんでいるドイツ学説はともかく︑所有権説を認めず︑物権的交付契約を知らないわが国の多くの学説からは

距離がある︒仮に所有権説を用いないで資格授与説を所有権説による説明に近づけようとすれば︑譲渡裏書の方式は手形上の権利

の譲渡のみならず︑自己の名をもって裏書人の手形上の権利を行使する権限

(E rm ii ch ti gu ng )

︵七

四三

の授与をも表示するものであると

説明せざるを得ないことになるが︑率直にいってそのような構成自体が分かりにくいうえ︑加えて︑自己の名をもって裏書人の手

形上の権利を行使する権限

(E rm ac ht ig un g)

といった考え方が必ずしも認められていない

隠れた取立委任裏書に関する議論を以上のように理解する場合︑このことは︑本件のような﹁隠れた譲渡裏書﹂の場合に参考に

関 法 第 六

0

巻 三 号

︵隠れた取立委任裏書の形式面の理解におい

二 0

(22)

なるであろうか。手形に取立委任裏書の形式の記載がある場合、ー——手形の記載文言を意思表示の内容と解し、所有権説を認めず、

物権的交付契約を知らないわが国の多くの見解からは︑そのような記載に﹁手形上の権利を譲渡する意思の表示﹂を認めるこ とは︑きわめて困難であろう︵ただし︑本稿︑

四 ︑

7

. 参

照 ︶

( l

)

ところで︑隠れた取立委任裏書の場合に︑実質面︵すなわち︑取立委任の目的︶に配慮するための法的構成は︑信託裏書 説と資格授与説では異なっている︒信託裏書説は︑﹁裏書の種類及びその方式は手形法の規定して居るところであって︑手 形法は隠れた取立委任裏書なる特殊の裏書は認めて居ないから、之は譲渡裏書と見るより外はない」(伊澤•前掲書

九九

頁︶として︑隠れた取立委任裏書の場合にも︑

﹁裏書自体は通常の裏書であるから︑手形上の権利は被裏書人に完全に移転

し︑取立委任の合意は裏書人・被裏書人間の人的関係をなすに止まる﹂︵鈴木

1 1 前田・前掲書二九一頁︶とする︒

そし

て︑

隠れた取立委任裏書における実質面︵すなわち人的関係︶の考慮は︑いわゆる﹁人的関係に基づく抗弁﹂の問題として処理 されることになるのであり︑したがって︑﹁直接の相手方に対しては対抗しうる﹂のである︵鈴木"前田・前掲書二五九頁︑

なお

二六三

頁註ニニによれば︑﹁隠れたる取立委任裏書であること﹂は︑人的関係に基づく抗弁のうち︑﹁

当事者間の実質

関係に基づく事由﹂の代表例︵

顕著なもの︶として掲げられている︶

(2

) 隠れた取立委任裏書といわれる場合には多くは手形所有権の移転はないとの前提に立ってはいるが︑所有権を移転する信 託裏書としての隠れた取立委任裏書も認められるとされる︵大隅・法学論叢七一六頁︶

資格授与説は︑通常の譲渡裏書の方式に従った書面行為がなされる場合︑裏書人の意思表示は︑信託裏書説の主張するよ うに手形上の権利の譲渡に向けられているとは限らず︑むしろ︑自己の名をもって裏書人の手形上の権利を行使する権限

(E rm ac ht ig un g)

を与えることに向けられている場合もあるとして︑そのいずれであるかは︑書面の記載ではなく︑交付契 約によって決まるとするものである︒

( 3

)

大隅・法学論叢では︑

Er ma ch ti gu ng

にも︑大隅・前掲書に従った本稿本文の記述とは︑少し違う説明が与えられている

次のように述べられている︵

大隅・法学論叢八六八頁︶

﹁隠れたる取立委任裏書の被裏書人は︑手形上の権利者たる資格のみならず︑裏書人に属する手形上の権利を自己の名に 手 形 行 為 の 性 質

︵七

二四

(23)

︵七 四

一︶

於て行使する権能をも有するものと見らる︑のであるが︑一

般に

一人が他人をして︑其他人の名を以てする法律行為によ

りて︑自己の権利圏内に効力を及ぼすことを得しむる力の授与は︑授権

(E rm ii ch ti gu ng )

として概念せらる︑が故に︑こ

れをとって説明すれば︑隠れたる取立委任裏書に於ては︑一方に於てその裏書による手形上の権利者たる資格の授与がある

と共に︑他方に於てその基礎として手形上の権利行使の授権が存するものと云ひうるのである︒﹂

そのうえで︑ここにいう﹁授権なるものが︑我が国法上認めらるるべきや否や﹂が問題であるとして︑これを検討される

︵大隅・法学論叢八六九頁以下︶︒ドイツ法と違ってわが国では︑﹁非権利者による権利の処分に対する同意や権利行使の譲

渡の如き権利の処分又は行使の授権に関する規定﹂はないが︑﹁仮令法律に規定はなくとも︑荀くもそれが法律上不能でな

<又不法でもない限り︑当事者がか︑る効果を欲し且つ其の意思を表示したる以上︑それに相当する法律効果を生ずるもの

となさなければならぬ﹂と説かれている︵大隅・法学論叢八七

0

頁 ︶ ︒

右にみたように︑隠れた譲渡裏書の場合︑通常の譲渡裏書の効果は認められないことになる︒しかし︑本件のような裏書の当事

者間においては︑本件譲渡契約による手形債権の譲渡を原因関係として主張できるとする考え方が見られる︒これは妥当か︒

なるほど︑隠れた取立委任裏書の場合に信託裏書説によるときは︑取立委任の実質は︑隠れた取立委任裏書の原因関係に基づく

抗弁となると解される︒これと同様に︑本件譲渡契約の存在・内容を当事者間においては主張できることにならないであろうか︒

およそ裏書であれ︑約束手形の振出であれ︑人的関係に基づく抗弁︵とくにその一である原因関係上の抗弁︶は︑ある手形行為

が有効であることを前提として︑その手形行為の効力を争う﹁抗弁﹂として主張できるとされている︒本件のような隠れた譲渡裏

書の場合には︑手形上に譲渡裏書の記載がない以上︑譲渡裏書が有効に成立することはあり得ないから手形行為としては取立委任

裏書が存在するのであり︑原因関係をいうのであれば︑取立委任裏書の原因関係は問題にしてよいが︑通常の譲渡裏書が認められ

ないのに譲渡裏書の原因関係である手形債権の譲渡を主張できるという見解には与し得ない︒本件譲渡契約は︑当事者間の譲渡裏

2

.原因関係の主張

関 法 第 六

0

巻三号

参照

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