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多環式芳香族炭素環の触媒的不斉水素化に関する研 究

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

多環式芳香族炭素環の触媒的不斉水素化に関する研 究

金, 玉樹

http://hdl.handle.net/2324/1931711

出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(理学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)

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(様式6-2)

氏 名 金 玉樹

論 文 名 Studies on Catalytic Asymmetric Hydrogenation of Fused Carbocylic Arenes

(多環式芳香族炭素環の触媒的不斉水素化に関する研究)

論文調査委員 主 査 九州大学 教授 氏名 桑野 良一 副 査 九州大学 教授 氏名 徳永 信 副 査 九州大学 教授 氏名 大石 徹

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

触媒的不斉合成は、医薬品、農薬、機能性材料などの原料となる光学活性化合物の有力な供給法の一 つであり、現在でも活発に研究されている。とりわけ、アルケン、ケトン、イミンといったプロキラルな二重結合 の触媒的不斉水素化は成功例が多く、有機合成の様々な局面で利用されている。一方、芳香環は水素と 反応する不飽和結合のπ電子が大きな共鳴安定化を受けており、水素化されにくい。それゆえに、芳香環 の水素化は一般に高温・高圧条件を要し、利用可能な触媒も金属担持触媒に限られているため、この反応 の立体化学制御は困難であると考えられてきた。それにもかかわらず、近年、環内にヘテロ原子をもつ芳香 族複素環の触媒的不斉水素化については多くの成功例が報告されてきた。しかし、ベンゼン環のような 芳香族炭素環は芳香族複素環に比べて大きな芳香族共鳴安定化を受けており、水素化に対する反応 性がより低いため、その触媒的不斉水素化の研究例は数例しかない。本研究者は、博士後期課程の 研究において、イソキノリンの炭素環を還元する化学選択的かつエナンチオ選択的な水素化ならび に不斉水素化を利用した軸性不斉ビアリール化合物の速度論的光学分割に関する研究を行い、以下 に興味深い研究成果を得た。

1) 光学活性ルテニウム触媒によるイソキノリンの炭素環選択的な不斉水素化

イソキノリンはピリジン環とベンゼン環が縮環した化合物である。この化合物の水素化では、ベンゼン環より もピリジン環の方が芳香族性が低く、反応性が高いため、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンが選択的に得られる。

本研究者は、ある種の光学活性ビスホスフィン–ルテニウム錯体を触媒として用いることによりイソキノリンの水 素化がベンゼン環上で進行し、5,6,7,8-テトラヒドロキノリンが単一の生成物として得られることを見出した。こ の水素化の化学選択性はビスホスフィン配位子のリン–ルテニウム–リンの配位挟角に大きく影響され、配位 挟角が 90°に近いと1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンが選択的に生成するが、180°に近くなるにつれて5,6,7,8- テトラヒドロキノリンが生成するようになり、配位挟角が 168°のキレート配位子 PhTRAP を用いることによって 5,6,7,8-テトラヒドロキ ノリンが単一の生成物として得られ るこ とを明らかにした。さらに、この不斉触媒系は

様々な 5-および 8-置換キノリンのベンゼン環を化学選択的に水素化し、良好なエナンチオ選択性(最高

77% ee)で光学活性 5,6,7,8-テトラヒドロキノリンを唯一の生成物として与えることを見出した。さらに、若干の

ピリジン環還元生成物が副生するものの、6-フェニルイソキノリンを基質とすると、鏡像異性体過剰率81% ee で目的の水素化生成物が得られた。以上によって、本研究者は光学活性ルテニウム触媒を用いることによ って、イソキノリンの炭素環選択的な不斉水素化を初めて実現した。

2) ルテニウム触媒不斉水素化による軸性不斉1-(2-ビフェニリル)ナフタレンの速度論的光学分割 光学活性ビアリール化合物は光学活性化合物合成の不斉源としてだけでなく、有用生理活性化合物に

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もしばしばみられる構造であり、有機化学において重要な化合物群で ある。本研究者は、軸性不斉化合物

である 1-(2-ビフェニリル)ナフタレンのラセミ体を PhTRAP–ルテニウム錯体を触媒として水素化すると、片方

の鏡像異性体が優先的に水素化されることを見出した。この反応は、ナフタレンの置換基をもたないベンゼ ン環が水素化され、単離収率45%で鏡像異性体過剰率65% eeの1-(2-ビフェ ニリル)-5,6,7,8-テトラヒドロナ フタレンを生成物として与えた(転化率 60%)。また、1-(2-ビフェニリル)ナフタレンが単離収率 30%で回収さ れ、その鏡像異性体過剰率は98% eeであった。この結果は、基質の鏡像異性体間の反応速度比が20であ ることを示しており、PhTRAP–ルテニウム触媒による分割効率がエナンチオピュアーな光学活性ビアリール 化合物を得るために十分であることを示している。以上により、本研究者は光学活性ビアリール化合物を得 るための新しい手法を開発することに成功した。

以上の結果は、有機合成化学の観点からみて大きな価値があり、この分野の発展に大きく貢献する業績 と認められる。よって、本研究者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める。

参照

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