13.2 事例地域の中小ベンチャー企業
本項においては、事例地域の中小ベンチャー企業等を対象とした調査の結果から、地域 の工業系企業家活動についての分析を行うこととする。
13.2.1項にて太田地域における新分野進出企業を対象とした調査(1994年度−
1997年度)の結果の分析を、13.2.2項にて群馬県の中小創造法認定企業を対象と した調査(1998年度)の結果の分析を、13.2.3項にて首都圏北部地域のフロントラ ンナー企業を対象とした調査(2001年度)の結果の分析をそれぞれ行うこととする。
13.2.1 新分野進出企業の調査
ここでは、1994年度−1997年度に実施された太田市新分野進出企業に対する調 査結果の分析を行う。(1)調査の概要、(2)太田市の新分野進出支援補助金制度の概要、(3) 太田市の新分野進出企業、(4)調査結果のまとめ、について順次論じていくこととする。
( 1 ) 調査の概要
近年、ベンチャー企業に関する議論は株式公開等と関連してなされる場合が多い。
しかし、現実には、13.1項にて明らかにしたように、地方都市においては直接金融 による資金調達は必ずしも身近なテーマではない。
地方都市においてベンチャー企業を論ずる場合は、意欲的な企業による革新性の高い企 業家活動に、よりウェートを置く必要がある。
成長意欲と革新性を有する地域の中小・中堅企業を、本項においては以下に「地域ベン チャー企業」と呼ぶ事とする。
地域ベンチャー企業には、量的成長を重視する企業のみならず、質的変革を重視する企 業も含まれる。質的変革志向の企業が地域に増加した場合、雇用増加などの量的効果はさ ほど期待できないが、地域産業の多様性向上という点で貢献する。多様性が存在する事に より、地域産業の環境変化への適応力が向上する。
そして、地域ベンチャー企業には、新規創業企業と、新分野に事業展開する既存企業、
即ち「第二創業企業」がある。
開廃業率改善の観点からは新規創業企業の重要性に注目が集まるが、地方都市において、
革新的な企業家活動は既存企業の第二創業に見られる場合が多い。
13.1項においても述べたように、特に製造企業の新規創業は容易ではない。
土地・設備、資金、人材、取引先等を新規創業時に確保するというハードルが、現在の 経済状況下では企業家にとり高い。その上、既存業者間の競合が激しい。結果的に、創業 のし難さと投下資本収益率の期待値が低いことが製造企業の開業率を低下させている。
地方都市では、基礎となるスキルや経営資源、過去の成功体験、を有する第二創業企業 に着目する事の重要性が高い。
そこで、本項においては、地域ベンチャー企業の有力な形態として、新分野に進出する
製造系の第二創業企業に着目した分析を行うこととする。
既存企業が企業家精神を抱き、量的成長や質的変革を目指して第二創業に挑戦する事例 を分析する事は、その地域の産業特性を把握し産業振興策を立案する上でも重要である。
本項においては、群馬県太田市の新分野進出補助金交付企業等に焦点を合わせており、
地域製造企業に重点を置いたものとなっている。
表 1 3 − 7 調 査 の 方 法 調査方法 14社へのヒアリング調査
調査対象企業 太田市新分野進出補助金の交付企業 調査期間 1994年4月−1998年3月 調査項目 既存事業と新規事業
技術戦略と市場戦略 企業に対する総合評価 現状における成果等
調査方法は、表13−7に示されている通り、1994年度から1997年度に太田市 新分野進出補助金を交付された14企業(以下、交付企業)を対象とする4年越しの手間をか けたヒアリング調査である。調査項目は、既存事業と新規事業、技術戦略と市場戦略のタ イプ、企業に対する総合評価、現状における成果等である。
本調査方法を通じて、地域における新分野進出企業、すなわち第二創業企業の企業家活 動を分析することとする。
( 2 ) 太田市の新分野進出支援補助金制度の概要
太田市経済部工業振興課は、1994年度より「太田市中小企業新分野進出促進モデル 事業補助金」という制度(以下、新分野進出補助金)を創設している。
この補助金制度は、国や県からの補助を受けない太田市の単独事業である。
自動車産業・電機産業の企業城下町的色彩の強い工業集積地域である事例地域において は、新分野進出を通じて産業構造の転換や多様性をもたらすことが求められている。
本補助金は、事業構造を転換しようとする既存企業を支援することを目的としている。
ここでは、本制度の概要、及び申請企業の評価方式等について論じることとする。
この制度の概要については、表13−8に示されている通りである。
太田市内に事業所を持ち、1年以上継続して事業を営み、新分野に進出して3年以内の 特定中小企業者に申請が認められている。
この制度を開始するにあたっては、どの様な視点で公正かつ中立な申請企業に対する評 価を行うかについて筆者も協力する形で議論された。
その結果、補助金を申請した企業を評価するための手法は、図13−42に示されるよ
うに3通りのアプローチの中から、最適のアプローチを選択する事となった。
評価手法を決定するにあたり、補償型評価か非補償型か、そして金銭評価か非金銭評価 か、という二つの切り口に着目した。
補償型の評価方式は、複数の評価項目に関する評価結果を総合的に勘案するので、総合 評価アプローチと呼ぶ事とする。
一方、非補償型の評価方式では、ある特定の評価項目に関する評価結果が悪ければ他の 項目により挽回が許されない事となる。
その特定項目として、金銭的効果を重視する評価アプローチを金銭評価アプローチ、非 金銭的効果に着目する評価アプローチを比較優位アプローチと呼ぶ事とする。
公的施策の評価に際しては、コストベネフィットに着目した金銭評価アプローチを試み る場合が多いが、公共工事のように公的機関が主体的に事業を進める場合とは異なり、新 分野進出補助金は民間企業が主体的に進める計画の一部を補助するものである。
表13−8 太田市の新分野進出補助金制度の概要
目 的 特 定 中 小 企 業 の 新 分 野 進 出 支 援 対 象 従 来 の 業 種 と 異 な る 分 野 等 へ の 進 出 補助対象
となる経費
材料、構築物、機械装置、工業所有権、外注加工、技術 指導、等の関連費用
金
額
各社の補助対象経費合計額の1/3以内、予算の範囲内 において1社4百万円以内
図 1 3 − 4 2 評価手法の体系
評価方式
補償型評価 非補償型評価
金銭評価 非金銭評価
金銭評価アプローチ
総合評価アプローチ 比較優位アプローチ
表13−9 総合評価表のフォーマット
評価項目 ウ ェ イ ト 評 点 評価指標
1.量的評価項目 − − −
1)経済的効果 − − −
①新規事業の売上高(5年後) w1 P1 I1 ②新規事業への投資額(5年間) w2 P2 I2
2)事業構造 − − −
①新規事業の構成比率(5年後) w3 P3 I3 ②新規事業の付加価値率(5年後) w4 P4 I4 3)地域への量的波及効果 − − −
①地域における雇用創出力 w5 P5 I5
②地域における原材料の使用、加工 w6 P6 I6
③地域における販売、顧客 w7 P7 I7
2.質的評価項目 − − −
1)事業の新規性、個性 − − −
①全国的水準の新規性、個性 w8 P8 I8 ②地域的水準の新規性、個性 w9 P9 I9 2)経営システムの革新、能力向上 − − −
①技術開発、生産技術の革新 w10 P10 I10
②販売、サービスの革新 w11 P11 I11 ③管理、情報システムの革新 w12 P12 I12 3)地域への質的波及効果 − − −
①地域住民、地域顧客の満足 w13 P13 I13
②モデル事業としての波及効果 w14 P14 I14
③地域へのノウハウ蓄積 w15 P15 I15
総合評価指標 I
補助金支出による地域への経済的効果を算定するには、やや恣意的な割り勘計算を行う
必要性が出てくる。Wood,W.C.(1999)が指摘しているように、各種支援を金銭評価する際の 我田引水の問題は不可避である。
また、新規事業の経済的規模により評価するという考え方もあるが、そうすると相対的 に小規模の企業が不利になりかねない。
比較優位アプローチは、直感力の優れたリーダーの存在を前提とする方式である。
しかし、公的機関の補助金については、継続性や公明正大さ等の観点から、比較優位ア プローチによる申請企業の評価には運用上の問題がある。
こうした見地から、太田市の新分野進出補助金申請企業の評価に関しては、中小企業の 新分野進出による量的効果と質的効果を考慮した総合評価アプローチが採用されている。
総合評価指標Iは、(式1)により求められる。
但し、wi=各評価項目のウェート、Pi=各評価項目の評点、I=総合評価指標である。
n n I=ΣwiPi 、Σwi=1 ・・ (式1) i=1 i=1
総合評価アプローチにより評価を行う場合は、①評価項目の選定、②各評価項目の重要 度に基づくウェートwiの決定、③各評価項目の評点Piのスケールの決定、④総合評価指 標Iの評点に基づく評価、という手順となる。
①の評価項目の選定については、量的評価項目と質的評価項目を網羅しており、表13−
9に示される総合評価表が公開されている。
②の各評価指標のウェートについては公開していないが、評価対象が中小企業であるた め、量的評価項目よりも質的評価項目を重視すべきとの認識が各審査委員の総意であった。
③の各評価項目の評点Piについては、100点満点のスケールにより、優、良、やや良、
可、不可、の5段階で採点する事に決定した。
そして、ウェートwiと各評価項目の評点Piが決まれば、④総合評価指標Iによる評価 となる。各審査委員の評点を総合して、ディスカッションの上で各申請企業への交付の可 否、交付金額が決定される。
各評価項目やウェートについては、社会的状況が変化した場合に優れた企業を排除して しまう事を避けるため、必要に応じて柔軟に見直す事としている。
( 3 ) 太田市の新分野進出企業
ここでは、太田市の新分野進出補助金交付企業に関して分析を行う事とする。
分析に用いられる情報のアイテムは、表13−10に示される通りである。
表13−11にその分析結果の概要が示されている。
1994年度から1997年度までの4年間で14社が新分野進出補助金の交付を受け ており、資本金1千万円以内の中小企業が主として交付を受けている。
各交付企業の既存事業は、自動車部品・弱電部品等、この地域の系列組織の影響が強い ものとなっている。
どの様な新分野に進出しているかを見ると、住宅系事業への進出が4社と最も多く、自 動車系企業の電機系事業への進出が3社とそれに次いでいる。
残りの7社のうち4社が、既存事業である自動車産業・電機産業の周辺分野に進出し、
その他3社が、ショッピングカート、義歯製造、浄水器といった全くの異分野に進出している。
一部を除き、土地勘のある自動車産業・電機産業周辺、技術的シナジーが見込まれる住 宅産業に活路を見いだそうとしている。
各審査委員の総合評価を集計した結果は、詳細については非公開であるが、高評価企業 (A)が3社、中評価企業(B)が4社、低評価企業(C)が7社であった。
表13−10 交付企業の分析に用いる情報のアイテム
Ⅰ.既存事業と新事業 Ⅱ.資本金の規模
A:5千万円−1億円以下 B:1千万円−5千万円以下 既存事業と新事業の具体名
C:1千万円以下
Ⅲ.総合評価の結果(非公開) Ⅳ.技術戦略のタイプ
A:高 A:主に新技術開発・導入 B:中 B:一部、新技術開発・導入
C:低
C:既存技術の応用
Ⅴ.市場戦略のタイプ Ⅵ.現時点における成果 A:最終顧客への販売 A:一定の成果 B:新規法人顧客への販売 B:多少の成果
C:既存法人顧客への販売
C:成果不十分
技術戦略としては、新しい技術を開発・導入し新分野に進出した企業(A)が3社、既存 技術をベースに一部新技術開発・導入導入を行った企業(B)が4社、主として既存技術の 応用により新分野進出した企業(C)が7社、であった。
挑んだ技術の水準については表に記載されていないが、例えばA企業3社のうち、1社 は自社技術水準に対してやや高水準の新技術に、2社はそれほど高水準ではない新技術に、
それぞれ挑んでいる。
市場戦略については、最終顧客への販売に挑んでいる企業(A)が1社、新規に生産財販 売ルートまたは間接販売ルートを開拓している企業(B)が11社、既存の顧客に新商品・
サービスを提供するタイプの企業(C)が2社、であった。
表13−11 交付企業の分析表 1994年度交付企業
企業 規模 既存事業 新事業 評価 技術 市場 現状 ①社 C 金型材料 切削工具 − A C C ②社 B 自動車部品 ショッピングカート − C B C ③社 A 自動車部品 住宅部品 − B B A ④社 C 機械部品 義歯製造 − A B A ⑤社 C 自動車部品 弱電部品 − C B A ⑥社 C 自動車部品 住宅部品 − B B A 1995年度交付企業
企業 規模 既存事業 新事業 評価 技術 市場 現状 ⑦社 C 自動車部品 再生処理 − A B B
⑧社 B 弱電部品 浄水器 − C B C ⑨社 C 一般塗装業 建材塗装等 − B B C 1996年度交付企業
企業 規模 既存事業 新事業 評価 技術 市場 現状 ⑩社 B 自動車設備 電機系設備 − C B B 1997年度交付企業
企業 規模 既存事業 新事業 評価 技術 市場 現状 ⑪社 C 自動車部品 弱電部品 − C B − ⑫社 B 自動車部品 改造自動車 − C A − ⑬社 C 電気メッキ 複合表面処理 − B C −
⑭社 C 住宅部品 建材塗装 − C B −
表13−11には記載していないが、各企業の納入方式は、個別顧客の注文に応じて一 品納入するタイプの企業が6社と半数近くを占めている。
主として、一品納入、小ロット納入、カスタム納入、といった中小企業らしい小回りを 利かせた納入方式が採用されている。
調査時点(1998年3月)における各社の新分野進出の成果については、まだ新規事業を 立ち上げて間もない1997年度交付企業4社を除き、10社に対して質問を行った。
回答結果をまとめると、一定の成果を収めた企業(A)が4社、ある程度の成果を収めた 企業(B)が2社、成果が不十分な企業(C)が4社であった。
一定の成果を収めたのは、1994年度交付企業に集中している。
これは、初年度には総合評価スコアの高い企業が多かった事に加えて、新分野進出後の 期間が3年以上経過しており、事業立ち上げがほぼ完了しているためと考えられる。
回答企業10社のうち、総合評価がB以上の企業5社を見ると、4社がB以上の成果で あった。評価方式と各審査委員の評点が共に妥当であったと考えられる。
総合評価がAであったにも係わらず現時点の成果が不十分な企業も1社あった。
この企業は技術的挑戦度合いが高かったが、期待した技術水準を達成できなかった。
こうした技術的挑戦を狙う企業をいかに地域に育成していくかが今後の課題と言えよう。
総合評価と成果が共にAの2社(④社、⑤社)を更に分析すると、共に、従来生産性が低 かった分野に高い生産性を持ち込んだ企業であった。
④社は、住宅の塗装済み外装パネル部品事業に参入している。
住宅建設現場で職人が一軒毎に吹き付けする塗装作業は、手仕事である上、雨が降れば 仕事が出来ない事もあり生産性に問題がある。
この企業の部品を採用すれば、これらの職人作業が不要となる。
しかもこの企業は、迅速に段取り替えする事を通じて顧客の好みに応じた色調の塗装を 行うなど、新たなスキルを身に付けている。
⑤社は、歯科医向けの義歯製造事業に参入している。
この分野も零細事業者が多く、顧客の歯型毎に異なる形状の義歯を作らなければならず、
手間がかかる職人仕事である。
そのため、こうした生産性の低さを克服するところに事業成功の可能性がある。
既存事業である機械部品加工や金型加工に比べると技術的な難易度は低い。
表13−12 優良事例の共通点
参 入 領 域 需 要 の 特 徴 技 術 の 特 徴 両 社 の 共 通 点
職 人 仕 事 の 領 域 顧 客 個 別 の 需 要 生 産 性 の 向 上
顧客は地域の歯科医達であり、むしろ販売面が課題であったが、この企業は、義歯市場 を熟知するマネージャーをスカウトし弱点を補った。
設備投資と分業による生産性向上と併せて順調に事業立ち上げしていた。
優良事例である両社は、参入分野こそ異なるが、表13−12に示される通り、参入領 域、需要の特徴、技術の特徴、等の点で共通点がある。
数少ない事例の分析ではあるが、必ずしもハイテクが求められているのではなく、参入 余地のある領域において確実に需要を捉えることの重要性が浮き彫りとなった。
一方、ここで挙げた優良事例についても、「事業としての優秀性」は、財務管理等を中心 とした「企業の優秀性」と合致してはじめて継続的な発展への道が開かれる。
13.1項にて述べた第一次調査における太田地域の機械金属系製造企業へのアンケー ト調査(1297社に発送、回収率28.9%)では、企業規模と成長戦略の間には、密接な 関係がある事が判明している。
技術開発主導による成長戦略は、規模の相対的に大きな企業(従業員100人以上)を中心 として採用されていた。中堅以下の企業(従業員99人以下)は、人材的にも資金的にも技術 開発投資を核とした成長戦略を採用する基盤が弱く、既存技術を活用した市場開発戦略・
市場浸透化戦略に傾斜していた。
新分野進出補助金交付企業の多くは小規模であるため、難易度の高い技術を追求する企 業は少数派であったと推測される。
規模の小さな地域ベンチャー企業の新分野進出は、表13−12の優良事例に見られる 通り、領域選定が重要である。
技術的な挑戦度合い、技術的な不確実性の小さい分野に汗をかいて参入する。
そうした新分野進出戦略が、成功率を高める上では重要となるのである。
( 4 ) 調査結果のまとめ
本調査は、事例地域の製造系の地域ベンチャー企業による新分野進出を限られた期間で はあるが、時系列的に概観することを通じて分析しているところに特徴がある。
各企業が活用した新分野進出補助金制度の立ち上げ時から運用時に至るまで事例地域に 協力したため、政策的な知見を得る上で、非常に貴重な機会を得ることが出来た。
本調査結果をまとめると以下の通りにまとめられる。
1) 事例地域で活用されている補償型の総合評価アプローチは、その後の交付企業の成 果と事前評価点の間に相関関係が見られるところから有効性が認められる。
2) 自動車産業との技術的シナジーが見込まれる住宅産業への進出、土地勘のある自動 車産業・電機産業周辺の新分野進出が中心である。
3) 既存技術の応用、ハイテクとは言えない新技術によるチャレンジが、各企業の技術 戦略の核となっている。
4) 顧客が明確化された生産財分野への参入、新規間接販売ルートの開拓が、市場戦略 の核となっている。
5) 個別顧客の注文に応じて一品納入、小ロット納入、カスタム納入を行うといった汗
をかくタイプの企業が半数近くを占めている。
6) 一定の成果を収めたのは、初年度交付企業に集中している。
7) 技術的挑戦度合い企業をいかに地域に育成していくかが地域の課題である。
8) 新分野進出の優良事例は、従来生産性が低かった職人仕事の領域に高い生産性を持 ち込んだ企業であった。
9) 優良事例のうち1社は、販売部門のマネージャーをスカウトし、生産性向上と販売 促進に力を入れた。
10) 必ずしもハイテクが求められているのではなく、参入余地のある領域において確実 に需要を捉えることの重要性が浮き彫りとなった。
13.2.2 中小創造法認定企業の調査
1995年に施行された中小創造法は、その後のベンチャー支援ブームの口火を切った と言われている特別な存在の法律である。
本項では、中小創造法の認定を受けた地域ベンチャー企業の事業と経営システムの実態 を調査・分析することとする。
ここでは、1998年度に実施された群馬県の中小創造法認定企業に対する調査結果の 分析を行う。(1)調査の概要、(2)中小創造法による支援制度の概要と群馬県における運用 実態、(3)群馬県の中小創造法認定企業、(4)調査結果のまとめ、について順次論じていく こととする。
( 1 ) 調査の概要
中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法(以下、中小創造法)は、代表的な地 域ベンチャー企業支援施策である。
この法律が登場した1995年が「日本のベンチャー支援元年」であると言われるよう に、これ以後様々な支援施策が登場していく。地域ベンチャー支援施策の原点とも言える 中小創造法の実態等を調査・分析し、中間評価を行うことは有意義である。
ここでは、群馬県内において中小創造法に基づく認定を受けた地域ベンチャー企業を対 象とした調査の結果についてまとめることとする。
調査の概要は、表13−13に示される通りである。
調査方法は、調査対象企業数が限られていることから全数ヒアリング調査とした。
調査時点において中小創造法の認定を群馬県より受けた企業は40社あったが、そのう ち調査への協力が可能な30社を訪問した。
筆者のヒアリング調査と県内トップメディアである上毛新聞社記者の取材をセットして、
調査協力に応じる企業は新聞連載で掲載されるという特典を付けた。
筆者がヒアリング調査を円滑に進めるために上毛新聞社に提案した地域ベンチャー連載
「光る才覚 県内の先進企業」には、筆者の分析が1年間掲載された。
表13−13 中小創造法認定企業調査の概要 調査対象 群馬県内の中小創造法認定企業 調査方法 ヒアリング調査(30/40社) 調査期間 1998/3−1999/3
調査内容 1) 会社概要(事業内容、規模、社歴) 2) 財務状況(成長性、収益性、健全性) 3) スキル(技術、販売、製造、管理) 4) 将来展望(将来像、現状とのギャップ) 5) その他(1)−(4)に関連する事項
結果的に、群馬県内の主要な中小創造法認定企業については、つまり新聞に出ても良い と考える自信のある企業をほぼ100%ヒアリング調査によりカバーすることが出来た。
調査期間は1998年3月から1999年3月までの一年間である。
調査内容は、1)会社概要(事業内容、規模、社歴)、2)財務状況(成長性、収益性、健全性)、
3)スキル(技術、販売、製造、管理)、4)将来展望(将来像、現状とのギャップ)等であり、こ れらについて全て経営者に直接質問を行った。
( 2 ) 中小創造法による支援制度の概要と群馬県における運用実態
中小創造法の目的は、周知の通り「中小企業の創業及び技術に関する研究開発等を支援 するための措置を講ずることにより、中小企業の創造的事業活動の促進を通じて、新たな 事業分野の開拓を図り、もって我が国産業構造の転換の円滑化と国民経済の健全な発展に 資すること」である。
地域ベンチャー企業(中小企業者等又は事業を営んでいない個人)は、研究開発等事業計画 を都道府県知事に提出し認定を受けるのである。
国及び地方公共団体は認定された研究開発等事業に必要な資金の確保に務め、指導助言 を行うものとされている。
中小企業投資育成株式会社法、各種信用保険法、中小企業近代化資金等助成法、課税、
中小企業等協同組合法、等の特例措置も定められている。
指定支援機関は、社債に係わる債務保証、株式や社債を引き受ける者に対する低利融資、
株式、社債の引受、基金設立等を行う。中小創造法に基づく主たる地域ベンチャー支援手 段は、表13−14に示される通りである。
中小創造法による支援策は、都道府県のイニシアティブを重視した政策でもあり、多岐 にわたる支援手段を盛り込んでいる。都道府県のイニシアティブ重視による中小創造法以 降のベンチャー支援は、ある意味では、国にとってチープな政策ともなりうる。
中小創造法といえば指定支援機関(ベンチャー財団)による直接金融支援が注目を受ける
が、実際にはその他に多彩な支援手段が用意されている。
各地域が地域実態に即した手段で、認定企業に対する支援を実施すれば良いのである。
表13−15に示される通り、群馬県においては最も支援実績が件数ベースで多いのが 補助金による支援である。
表13−14 中小創造法による地域中小・ベンチャー企業への主な支援手段 (1) リース・割賦制度の利用促進、
(2) 信用保証協会の債務保証制度の拡充、
(3) 投資育成会社の投資制度の充実、
(4) 設備近代化資金制度の充実、
(5) 設備投資減税などの減税措置、
(6) 創造技術研究開発費補助金 (7) 政府系金融機関の低利融資制度の充実、
(8) 個人資金の調達の促進 (9) 指定支援機関による直接金融支援
(債務保証、間接投資、直接投資)
表13−15 群馬県の中小創造法認定企業の支援施策活用実績 支援希望件数(B) 支援実績(A) 比率(A/B) 補助金 42件 40件 95%
債務保証 40件 6件 15%
低利融資 38件 5件 13%
VC投資 28件 1件 4%
設備減税 2件 0件 0%
近代化資金 8件 1件 13%
設備リース 10件 5件 50%
(群馬県商工労働部、99/12)
創造法認定を受けた地域ベンチャー企業といっても、今回の調査で訪問してみて、その 社歴は予想以上に長かった。
各企業は、自治体の補助金を受けた実績が認定前にもかなりある。
補助金という手法は、自治体と企業の双方になじみが深いものであり、補助金による創 造法認定企業への支援は積極的かつ優先的に行われていると言えるだろう。
債務保証と低利融資については、希望している企業の一部に支援が限られている。
信用保証協会や公的金融機関による別途審査があるため、結果的に10%台の支援率と なっている。
設備減税については、収益水準が低い企業、赤字企業、ファブレス企業等にとり魅力が 少ない支援施策であり希望企業がほとんどない。
近代化資金については、低利融資や設備貸与といったニーズはあると思われるが利用実 績につながっていない。設備リースの支援は一部の企業にニーズがあり利用されている。
ベンチャーキャピタルや投資育成会社による直接金融的支援については、群馬県は調査 時点で1社の支援にとどまっていた。
筆者が調査した30社のうち、ベンチャーキャピタルが民間ベースで投資を行うと思わ れる企業は1社あったが、その企業は諸般の事情により投資受け入れを決断出来ない状況 であった。その1社を含めて計5社程度はベンチャー財団と地銀系キャピタルや投資育成 会社が協力し直接金融支援しても良い企業であると思われるが、企業側の受け入れ態勢の 問題もあり、結果的に直接金融支援の実績は限られたものとなっている。
2000年3月末の数値では、各都道府県のベンチャー財団の直接金融支援実績合計は 468件(21,481百万円)である。最も件数が多いのが徳島県の48件(2,465百万円)、
それに福岡県の31件(1,597百万円)、山口県の29件(999百万円)、山形県の28件 (1,735百万円)が続いている。それに対して、群馬県は2件(79百万円)と直接金融支援 実績が全国で最も少ない部類に入る。
こうした数値が新聞等で報道されると、直接金融支援件数が少ない群馬県は不熱心だと の印象を与えがちである。実際のところ、最も件数の多い徳島県については県レベルでニ ュービジネス協議会を有するなど企業家育成に熱心である。
そして、地銀系キャピタル間の競争と県の直接金融支援への注力があいまって支援実績 となっている。しかしそれらの投資がどの程度公的資金の使途として適切であるかは充分 分析されていない。
群馬県の中小創造法認定企業には、家族経営の第二創業系製造業が多く、IT関連のベ ンチャー企業等のように急成長を直接金融で賄うタイプは少ない。
群馬県のベンチャー財団が2000年末までに直接金融支援した2社は、筆者がヒアリ ング調査を通じて直接金融支援の対象として無難であると感じた計5社程度のうちに共に 含まれている。
それらの点を考慮に入れると、群馬県の創造法認定企業への直接金融支援はやや慎重な スタンスであるものの、それなりに節度ある妥当な内容となっている。
一方、今後の課題は、新規創業企業の創出及びそれとリンクさせた形式での直接金融支 援である。非製造系企業への支援や地銀系キャピタル、投資育成会社との連携等について も改善の余地がある。
( 3 ) 群馬県の中小創造法認定企業
ここでは、調査対象企業の会社概要、財務状況、スキル、将来展望等についての調査結 果を示し、分析を行うこととする。
群馬県の中小創造法認定企業の事業内容は多岐にわたっている。一つの企業が性格の異 なる複数の事業を保有している場合もある。認定された「研究開発等事業計画」の内容を 見ると、ソフトウェア系2社、バイオ系1社、建設系2社、施工系1社を除いた24社が 製造系の計画となっている。製造系事業計画の内容は、一般機械、電子機器、木工、繊維、
紙袋、環境機器等多彩である。
企業規模、社歴を見てみると、全般的に小規模で社歴は長い。
調査対象企業像を平均値で見ると、「従業員41.8人、資本金22.5百万円、売上高 929.4百万円、社歴21.3年」である。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
0−300百万円 301−600百万円 601−900百万円 901−1200百万円 1201−1500百万 円
1501百万円−
構 成 比
図13−43 調査対象企業の売上高
一方、こうした数が限られている上に分散の大きい地域ベンチャー企業の分析には、平 均値という中央値概念の取り扱いに注意が必要である。
図13−43に調査対象企業の売上高の分布が示されているが、特定の売上高が大きい 企業が平均値を押し上げており、実態としては売上高300百万円以下の企業が多いこと がわかる。売上高については、12億円以下の企業が調査対象企業の85%(非回答企業を 除く)を占めており、48%(同)の企業が3億円以下である。
中小企業には「売上高10億円前後の壁」があると言われるが、小さいながらもニッチ 市場に進出し大手との棲み分けに成功している企業も多い。
一方、一旦そうしたニッチ戦略が成功すると、市場が成長しない限り高成長は困難とな る。しかし、市場が拡大していった場合は、大手企業等との競合が生じるリスクが膨らむ。
そうした状況に身を置き閉塞感を持つ経営者もいるが、「ニッチな高収益事業を複数保有
しリスクを分散すると同時に、それらの事業間で相乗効果を生み出していく」という理想 像を目指す経営者もいる。
そのため、社歴が長い割に必ずしも規模的に大きくなっていない企業も見受けられる。
企業規模に関する平均値は一部大手企業のデータに影響されており、実際には平均値よ り小規模な企業が多数派を占めている。
従業員数については、40人以下の企業が調査対象企業の70%を占めており、47%
の企業が従業員20人以下である。資本金については、30百万円以下の企業が調査対象 企業の87%を占めており、47%の企業が10百万円以下である。
結果的に、一部優良企業を除いては、間接金融に大きく依存している。調査対象企業に は、融資が受けられず事業資金が不足している状況の企業も含まれている。
0%
5%
10%
15%
20%
25%
0−5年 6−10年 11−15年 16−20年 21−25年 26−30年 31年−
構 成 比
図13−44 調査対象企業の社歴
成長分野に参入し一気に大きくなろうとするか、理知的な成長戦略を持つかが地域ベン チャー企業にとっては重要な選択肢である。
社歴については、図13−44に示されている通り、5年以下の企業が調査対象企業の 10%を占めているに過ぎない。それに対し、社歴21年以上の企業が57%と多い。
地域ベンチャー企業というと社歴が短いという先入観を持つ人が多いかもしれないが、
実態はそれとは異なる。都道府県に研究開発等事業計画を提出している中小創造法認定企 業には当然のことながら製造業が多い。
13.1項にて論じたように、製造業分野では新規創業型よりも第二創業型の方が有利 な場合が多く、必然的に第二創業型の社歴の長い企業が多くなるのである。一方、二世経
営者率は30%と低く、業歴の長いベテラン創業経営者による新規事業進出が多い。
中小創造法認定企業は開発投資を積極的に実施しているため、成長力は一般企業に比し 大きい。図13−45に示されている通り、我が国の経済成長率が低迷する中、過去最高 の売上高を計上した企業が調査対象企業の23%を占めている。成長基調にあるとする企 業を含めると約40%であり、一般企業に比し力強い成長性を示している。
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
過去最高更新 成長基調 一進一退 減少基調 事業未確立
構 成 比
図13−45 調査対象企業の直近の成長性
製品開発型企業の業績が下請け型企業に比し優れていることは関東経済産業局の調査で 明らかにされているが、調査対象企業のうち67%が自社製品を保有している。
自社製品をもつ地域ベンチャー企業は地域を牽引する成長性を秘めている。
一方、直近期に経常利益ベースで黒字基調の企業は調査対象企業の43%(非回答企業を 除く)を占め、採算ライン前後の企業が32%(同)、赤字基調の企業が25%(同)であった。
自己資本比率については、半数以上の企業が非回答であった。
回答企業のうち半数の自己資本比率が10%以下であり、資本の安定性に欠けていた。
本調査では、損益計算書関連のデータに比し、貸借対照表関連のデータについて非回答 企業が多かった。
ヒアリング調査時に、財務内容に自信を持つ企業は詳細に情報を開示する傾向が見られ たので、非回答企業には貸借対照表に自信がない企業が多いことが予想される。
非回答企業を含めた場合、他人資本依存型の企業の比率は一層膨らむ可能性が高い。
調査対象企業のうちでは「独自性の高い技術」を自社開発している企業は17%を占め
ているに過ぎなかった。
50%の企業が「既存技術の改良」、33%の企業が「既存技術の導入」による事業計画 である。調査対象企業はその多くが小規模であるため、研究開発専任の技術者を保有出来 ない場合がほとんどである。
その結果、既存技術の改良や導入が多くなっていると考えられる。
販売する商品については、消費財は少なく圧倒的に生産財であり、特定顧客に材料や設 備、ソフトウェア等を販売する場合が多い。
消費財については、日本全国あるいは世界中の不特定多数の消費者に販売しなければな らないので、販売網への投資、マーケティング人材の確保、在庫投資や大量生産のための 設備投資等が必要となる。これらは体力不足の企業には困難が伴う。
生産財の販売方法については、顧客ターゲットを明確化した直接販売の方がマーケティ ング投資の点で少なくて済む。
製造プロセスについては、調査対象企業の50%が幅広い加工を社内で行っている。
社歴の長い企業の場合は、長期にわたり様々な設備を揃えてきたものと思われる。
ファブレスについては、社歴が短い企業を中心に調査対象企業中の17%を占めていた。
ファブレスを成功させるには、顧客と協力工場の双方を満足させていかねばならないの で、管理やマーケティングのセンスが不可欠である。
例えば、特殊な生産工程を必要とする場合、協力工場側にイニシアティブを握られるリ スクがある。また、顧客に魅力的な商品やサービスを提供できなければ注文が取れず、結 果的に協力工場側の信用も得られない。
「強み」となるコアスキルと「弱み」である不足スキルについては、図13−46に示さ れている通りである。
技術企画、技術開発、製造技術のいずれかをコアスキルとして事業を進めている企業が 多い。技術企画とは導入し応用していく技術を決めるスキルである。技術開発とは新しい 技術を研究開発していくスキルであり、製造技術とはものづくりに関するスキルである。
一方、各企業にとり不足しているスキルは、事業企画と財務管理である場合が多い。
「技術には自信があるが、その技術を商売にする事業企画スキルや事業を発展させていく 上で基礎となる財務管理スキルが不足している」というのが実態である。
良好な経営状況にある企業は、技術に特長がある上に事業企画と財務管理が弱みとなっ ていないという共通点があった。
技術に強みがあっても、事業企画が弱い企業は事業が立ち上がり難く、財務管理が弱い 企業は研究開発投資やマーケティング投資が継続し難い。
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
技術企画 技術開発 事業企画 製造技術 マーケティング 生産管理 労務管理 財務管理 構
成 比
コアスキル 不足スキル
図13−46 コアスキルと不足スキル
地域ベンチャー企業の目指す将来像は、A.株式公開企業、B.元気な中堅企業、C.
優良中堅企業、D.元気な中小企業、E.優良中小企業、に分かれる。
Aは、「株式公開を目指しており中堅企業の枠を越えていくタイプ」である。
また「元気な」とは「積極的に新規事業投資を行い成長していくタイプ」を指し、「優良」
とは「財務的に冒険はせずに差別化や棲み分けに注力するタイプ」を指す。
「中堅」とは「中小企業としての壁を越えるタイプ」を指し、「中小」とは「その壁を越え ないタイプ」を指す。
今回の調査対象企業については、株式公開企業と元気な中小企業を将来像としてイメー ジしている企業が各10社(構成比33%)あり最も多かった。
次に優良中堅企業を目指す企業(5社)が続き、以下、元気な中堅企業(3社)、優良中小企 業(2社)と続く。
13.1項において示した第一次調査では、株式公開志向の企業は2%に過ぎなかった。
調査時期に違いはあるものの、中小創造法認定企業は一般の中小企業に比し株式公開願 望を強く抱いていると言うことが出来る。
現状と目指している将来像とのギャップについては、a.目標と現状の「ギャップは小 さい」、b.目標に到達するには「ある程度の努力が必要」、c.目標に到達するには「大 きな努力が必要」、d.目標に到達するには「非常に大きな努力が必要」、e.目標到達以 前に「経営的に大きな問題」を抱えている、に分かれる。
ギャップについては、bの目標到達に「ある程度の努力が必要な企業」が9社と最も多 く、次にaの目標と現状の「ギャップは小さい企業」が7社となっている。
以下、cの「大きなギャップを抱えている企業」とeの目標到達以前に「経営上の大き な問題を抱えている企業」が各5社あり、dの「非常に大きなギャップを抱えている」が 4社と続いている。実現が困難な将来像を有する企業、すなわちdタイプかeタイプの企 業は30%(9社)であった。
今回の調査により、調査対象企業のうち構成比で53%(16社)と半数以上の企業が、比 較的実現性の高い将来像を抱いており、aタイプかbタイプであることが判明した。
aタイプとbタイプの企業が目指す将来像を見ると、最も多いのが元気な中小企業(6社)、
次いで優良中堅企業(5社)であった。
株式公開を目指している企業のうち実現性があるのは、「ある程度の努力が必要」な1社 に過ぎなかった。この企業は、創造法の認定を受けなくとも民間ベンチャーキャピタルが 投資を検討できるレベルにあり、それに準ずる企業が一部あった。
早期の成果が期待できるのは、主として「元気な中小企業」と「優良中堅企業」を目指 している企業であるという調査結果は、まさに中小創造法認定企業の実態と言えるだろう。
大きなギャップを抱えているcタイプ企業5社のうち、株式公開を目指す企業が4社を 占めていた。最近は東証マザーズ等の新興市場が創設されているので、cタイプ企業の一 部には株式公開のチャンスが訪れる可能性もあろう。
非常に大きなギャップを抱えているdタイプ企業は4社全てが株式公開志向であった。
これらの企業は、もう一段階飛躍するか目標変更するかを迫られるだろう。
ヒアリング調査後に倒産した企業が3社あったが、dタイプが2社、eタイプが1社で あり、目標と現状のギャップが大きい企業ほどリスクが高い。
ギャップ は小さい
ある程度努力 が必要
大きな努力 が必要
非常 に大きな努力
が必要
経営的 に問題
株式公開企業 元 気な中堅企業
優良中堅企業 元気な中小企業
優良中小企業
0 1 2 3 4 回 答 企 業 数
現状とのギャップ
将来像
図13−47 経営者の抱く将来像と現状のギャップ
特にdタイプで倒産した2社には共通点がある。財務管理のスキルに課題があるにもか かわらず株式公開を目指していたという点だ。eタイプで倒産した企業は、ビジネスモデ ル的には競争優位性を保持していたが過剰投資を継続していた。
( 4 ) 調査結果のまとめ
中小創造法認定を受けた群馬県内の地域ベンチャー企業30社を対象とした網羅的ヒア リング調査の結果について、以下の通りにまとめることとする。
1) 中小創造法といえばベンチャー財団を関与させた直接金融支援が有名だが、支援実績 から見ると、研究開発型企業や製品開発型企業に対する補助金交付のウェートが高い。
2)
債務保証と低利融資については、信用保証協会や公的金融機関による別途審査がある ため、結果的に10%台の支援率となっている。3)
設備減税については、収益水準が低い企業、赤字企業、ファブレス企業等にとり魅力 が少ない支援施策であり希望企業がほとんどない。4)
近代化資金については、低利融資や設備貸与といったニーズはあると思われるが利用 実績につながっていない。設備リースの支援は一部の企業にニーズがあり利用されて いる。5)
群馬県の直接金融支援の実績は限られたものとなっているが、節度ある妥当性の高い 支援という見方も可能である。群馬県の中小創造法認定企業には、家族経営の第二創 業系製造業も多く含まれており、急成長を直接金融で賄うタイプの企業ばかりではな い。6)
今後の課題は、新規創業企業の創出及びそれとリンクさせた形式での直接金融支援で ある。VCとの連携等についても改善の余地がある。7)
群馬県の中小創造法認定企業の事業内容は、ソフトウェア系2社、バイオ系1社、建 設系2社、施工系1社を除いた24社が製造系である。8)
企業規模、社歴を見てみると、全般的に小規模で社歴は長い。調査対象企業像を平均 値で見ると、「従業員41.8人、資本金22.5百万円、売上高929.4百万円、社歴21.3年」である。
9)
実態としては売上高300百万円以下の企業が多い。中小企業には「売上高10億円 前後の壁」があると言われるが、小さいながらもニッチ市場に進出し大手との棲み分 けに成功している企業も多い。10)
一旦そうしたニッチ戦略が成功すると、市場が成長しない限り高成長は困難となる。しかし、市場が成長すると大手等との競合リスクが高まるというジレンマがある。
11)
「ニッチな高収益事業を複数保有しリスクを分散すると同時に、それらの事業間で相 乗効果を生み出していく」という理想像を目指す経営者もいる。12)
一部優良企業を除いては、間接金融に大きく依存している。調査対象企業には、融資 が受けられず事業資金が不足している状況の企業も含まれている。13)
社歴については、5年以下の企業が調査対象企業の10%を占めているに過ぎず、社歴21年以上の企業が57%と多い。製造業分野では新規創業型よりも第二創業型 の方が有利な場合が多く、必然的に第二創業型の社歴の長い企業が多くなるのである。
14)
経営者に占める二世経営者率は30%と低く、業歴の長いベテラン創業経営者による 新規事業進出が多い。15) 中小創造法認定企業は開発投資を積極的に実施しているため、成長力は一般企業に比 し大きい。調査対象企業のうち67%が自社製品を保有している。
16) 地域ベンチャー企業の課題は、損益計算書より、むしろ貸借対照表にある。特に資本 の安定性、財務管理に課題がある企業が多い。
17) 調査対象企業のうちでは「独自性の高い技術」を自社開発している企業は17%を占 めているに過ぎなかった。多くの企業が「既存技術の改良」、「既存技術の導入」によ る事業計画である。
18) 販売する商品については、消費財は少なく圧倒的に生産財であり、特定顧客に材料や 設備、ソフトウェア等を販売する場合が多い。生産財の販売方法については、顧客タ ーゲットを明確化した直接販売の方がマーケティング投資の点で少なくて済む。
19) ファブレスについては、社歴が短い企業を中心に調査対象企業中の17%を占めてい た。
20) 技術企画、技術開発、製造技術のいずれかをコアスキルとして事業を進めている企業 が多く、各企業にとり不足しているスキルは、事業企画と財務管理である場合が多い。
21) 良好な経営状況にある企業は、技術に特長がある上に事業企画と財務管理が弱みとな っていないという共通点があった。
22) 中小創造法認定企業は一般の中小企業に比し株式公開願望を強く抱いていると言う ことが出来る。
23) 調査対象企業のうち構成比で50%以上の企業が、比較的実現性の高い将来像を抱い ていることが判明した。
24) 早期の成果が期待できるのは、主として「元気な中小企業」と「優良中堅企業」を目 指している企業である。
25) ヒアリング調査後に倒産した企業が3社あったが、全て目標と現状のギャップが極め て大きい企業であった。財務管理のスキルに課題があるにもかかわらず株式公開を目 指すとしていた企業の倒産が含まれている。
13.2.3 首都圏北部地域のフロントランナー企業の調査
本項においては、2001年度に実施された首都圏北部地域のフロントランナー企業に 対する調査結果(2001/7/1−2001/10/31)の分析を行う。フロントランナー企業とは、群馬県、
栃木県内で一目置かれる存在の先進的な中小ベンチャー企業である。
(1)調査の概要、(2)首都圏北部地域のフロントランナー企業、(3)調査結果のまとめ、
について順次論じていくこととする。
( 1 ) 調査の概要
本調査においては、新事業創出主体である企業計26社に対するヒアリング調査を実施 した。調査対象である各企業は、首都圏北部地域のフロントランナー企業家達により率い られている。
そして、それぞれのスタンスは異なるものの、各企業は個性的なテクノロジーを保有し、
製造/製造周辺を主たる事業領域としている。
これら26社は、首都県北部地域内の各自治体を代表する先進中小ベンチャー企業であ り、イノベーションの担い手である。新事業創出につながるイノベーションを地域に引き 起こすには、まずは企業家セクターを代表する革新者を知る必要がある。
調査対象企業の選定に際しては、良質のイノベーションを引き起こしている企業家を「1.
代表的フロントランナー企業家の紹介、2.フロントランナー大学人(企業家のスキルを 積極的に活用し技術開発する大学人)の紹介、3.群馬・栃木両県・関東経済産業局の紹 介」という方法により26社をピックアップした。群馬県央部より8社、両毛地域より1 0社、栃木県央部より8社とバランスよく調査することが出来た。
産業クラスター政策の成否は、まさに「良質のイノベーションの創出が群生的になされ るかどうか」が生命線となる。
各個別企業へのヒアリング調査で得られた詳細情報は、守秘義務の関係上開示をするこ とは出来ないが、ここでは各企業のプロフィールや新事業創出に向けてのアプローチを開 示することとする。調査項目については、13.2.2項における中小創造法認定企業へ の調査に準ずることとする。
( 2 ) 首都圏北部地域のフロントランナー企業
各企業の本社は、図13−48に示されている通り14の自治体に立地している。
産業クラスター政策を推進する際に考慮すべきは、この広域点在性である。
地理的に広域な首都圏北部地域にて、市町村単位で1−2社「とんがった企業」がいる という状況であり、フロントランナー企業家達は各コミュニティ内で少数派となっている。
社歴の長い企業は親の代からの付き合いがあるが、新規創業して日の浅い企業は、自治 体、商工会議所等の旧来型の論理とは相容れないと考えている企業が多い。
各企業の生み出す産出物は、生産財と消費財に二分され、生産財は部材等と資本財に二 分され、部材等、資本財、消費財に三分類される。
首都圏北部地域のフロントランナー企業の生み出す財は、部材等が12社、資本財が1 3社、消費財が1社であり、大多数が生産財を産出していた。
消費財を生産・販売する1社は、マニア向けのパソコン用部品をインターネットショッ プ経由やパソコンショップ経由で販売していた。この企業の商品は、ユニーク度の高い消
費者、SOHO業者等に支持されているので純然たる消費財メーカーというわけではない。
この企業は、販売網構築とブランド構築に成功している。
0 1 2 3 4 5
高崎市 前橋市 伊勢崎市 群馬郡榛名町 桐生市 太田市 足利市 新田郡新田町 新田郡尾島町 新田郡薮塚本町 小山市 宇都宮市 鹿沼市 真岡市
企 業 数
図13−48 調査対象企業の本社所在地
各経営者達のうち、創業者が11人、後継者が15人であった。しかし、後継者の中に は実質的創業者と言えるような企業も含まれており、それを含めると創業者+実質的創業 者は全体の中の6割強である。
後継者の内訳を見ると、「a.事業構造を前経営者の時代のそれとは大きく異なるものと した、b.事業運営の在り方を大幅に近代化した、c.路線を踏襲している」にほぼ三等 分される。aは実質的な創業者、bはQCD(品質・コスト・納期)等の管理指標を向上させ た改革者、cは事業基盤に磨きをかけている改善者である。
調査対象企業の全てが、程度の差こそあれ、創業以来どこかの時点でイノベーションを 実現し、その後も継続的に努力している。
各経営者の年齢は、調査時点で67歳から40歳、平均年齢は52.5歳であった。
先進企業の経営者は50代の熟年者が中心であり、これは13.1項における調査結果 とほぼ同一である。
各社の社歴は、図13−49に示される通り、創業後6年から109年まで幅広い構成 となっている。創業10年以内でフロントランナーと見なされている企業は1社に過ぎず、
技術系・製造系のフロントランナー輩出には、創業後10年はかかるということになる。
平均社歴は33.3年であるが、創業者と継承者が母集団に混合されているため山が二 つの分散が大きいデータ構造となっている。大まかにいって、図の左半分の企業は初代創
業者が経営を行っている場合が多く、右半分の企業は継承企業である場合が多い。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
〜9年 10〜19年 20〜29年 30〜39年 40〜49年 50年〜
(max=109年、min=6年、ave=33.3年)
企 業 数
図13−49 調査対象企業の社歴
新規事業を興して経営不振企業を再生した実質的創業者を1名創業者に加えて、創業者 12名の創業時年齢を見てみると、6人が30歳台、20歳代と40歳代が3人ずつとな っている。創業後の経過年は、平均は16.8年となっている。
23歳から45歳にわたる平均34.8歳の創業者達が、10年以上かけて周囲から認 められるようになるのは50歳代ということになる。
工業系の中心である製造分野で仕事を得ようとすると、加工から設計にわたるスキルを 身につけるのに一定の時間を要する。
20代で創業している三名の経営者は、IT系、マーケティング系、修理サポート系で 事業をスタートしている。製造そのものではなく、製造周辺分野では、若手企業家にもチ ャンスがあるということである。
各企業の資本金は、1千万円から1億9千万円まで幅があり、平均は4千5百万円であ った。株式公開をしている企業は含まれていない。
財務的には、資金繰りに窮している企業、本業から得られる潤沢なキャッシュを利用し ている優良企業、社歴が古く不動産担保を充分持っている企業と様々である。
売上高については、図13−50に示される通り、5億円以下の企業が最も多く、平均 は11億3千万円であり、過半の企業が10億円の壁を越えていないのが実情である。
従業員数については、最大221人、最小5人、平均55.2人という結果となって いるが、生産技術型の製造業で、下請け部門が大きい場合に従業員数は膨らむ。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
5億円未満 5億円以上10億円未満 10億円以上15億円未満 15億円以上20億円未満 20億円以上 (max= 48億円、min=0.4億円、ave=11.3億円)
企 業 数
図13−50 調査対象企業の売上高
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
特定顧客50%超 3社で50%超 二桁分散 三桁分散
企 業 数
図13−51 調査対象企業の顧客の多様性
従業員に占める技術者の比率が最も高い企業は79.8%であった。最も低い企業は、
やはり下請け製造部門を抱える企業で3.9%、平均は26.7%であった。