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「模擬投票」を活用したシチズンシップ教育の取り組み

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Academic year: 2021

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はじめに

 神奈川県では,シチズンシップ教育,政治参加教育,主権者教育等の具体の取り組みと して高校現場において参議院議員通常選挙にあわせて「模擬投票」が行われるようになっ た。神奈川県の県立高校においては,県教育委員会が中心となって平成 19 年7月の参議 院議員通常選挙にあわせて実践研究校を指定して模擬投票の試行を行い,平成 22 年の参 議院議員通常選挙から全県立高校で模擬投票を行うようになった。

 平成 19 年の試行に向けて,平成 18 年 12 月に当時の勤務校の校長から模擬投票の実施に ついての話があり模擬投票に関わることになった。平成 19 年7月の模擬投票では実務を 中心となって行った。今年度は現在の勤務校である大和南高校で模擬投票を実施した。

 本稿では,今年度の模擬投票の実施の状況とその経過をまとめ,指導方法や結果を検証 し,今後の指導法の研究の一助としたい。

1 神奈川県におけるシチズンシップ教育及び模擬投票について

 神奈川県教育委員会としてのシチズンシップ教育及び模擬投票への取り組みは,平成 19 年度に「積極的に社会に参加する態度を育成する実践的な教育(シチズンシップ教育)

の実践研究校」を指定して始まった。模擬投票については,平成 19 年7月実施の参議院 議員通常選挙にあわせて県立高校3校で模擬投票を行った。その後,平成 22 年の参議院 議員通常選挙の際には県立工業高校の生徒が「木製の投票箱」を製作し全校に配付し,全 県立高校で模擬投票を実施する取り組みが行われた。今年度からはすべての県立特別支援 学校の高等部でも模擬投票の取り組みを行った。

「模擬投票」を活用したシチズンシップ教育の取り組み

─ 主権者としての資質を向上させる高校公民科指導の考察 ─

堀  俊

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 神奈川県におけるシチズンシップ教育としては,平成 23 年度から全県立高校で本格実 施するようになった。シチズンシップ教育の全体像は,取組方針と4つの柱からなってい る。

 取組方針は次の4項目である。

○「かながわ教育ビジョン」を踏まえ,これからの社会を担う自立した社会人の育成

○積極的に社会参加するための能力と態度の育成

○キャリア教育の一環として教育課程上に位置づけ

○家庭・地域・関係機関等の理解・協力・連携  4つの柱とそれぞれの目的は,

①政治参加教育~【目的】政治意識を高め,主体的に政治に参加する意欲と態度を養う。

②司法参加教育~【目的】司法制度を理解し,主体的に司法にかかわる意欲と態度を養う。

③消費者教育~【目的】消費者としての基本的な権利と責任を学び,主体的に社会を形成 する意欲と態度を養う。

④道徳教育~【目的】モラルやマナーの意識を高め,主体的に社会にかかわる意欲と態度 を養う。

 これらの取り組みを通して育成したい能力・態度については次のようになっている。

○責任ある社会的な行動

○地域社会への積極的な参加

○社会や経済の仕組みについての理解と諸課題の解決

2 平成 31 年度(令和元年度)の県立高校における模擬投票の実施について

 模擬投票の実施の目的は「シチズンシップ教育の推進に当たり,平成 31 年度(令和元 年度)の参議院議員通常選挙の機会を活用し,全県立学校において模擬投票を実施し,主 権者として必要な資質・能力の向上を図る。」である。実施対象生徒は,県立高等学校と 県立中等教育学校の公民科「現代社会」「政治経済」を履修する全生徒を原則とし,学校 として他科目を履修する生徒も加えることができるとした。また,今回から新たに県立特 別支援学校の高等部の全生徒も対象とした。実施方法としては,神奈川県選挙区選挙を原 則として投票対象とし,比例選挙区については対象に加えることも可能とした。

 「模擬投票」はシチズンシップ教育の中の政治参加教育の主たる取り組みと位置付けて

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いる。平成 19 年当初の指導モデルとしては,(1)公民科(現代社会,政治経済)の授業 の中で取り上げて実施する,(2)総合的な学習の時間の中で実施する,(3)特別活動(生 徒会活動)として実施するという3つを想定して取り組んだが,今年度は公民科の授業を 履修する生徒を対象として実施した。

3 模擬投票までの事前準備

 全県立高校で実施することとなった模擬投票は,勤務校である大和南高校では以下のよ うな手順で準備を進めることとした。

①職員への周知

 4月の職員会議で,7月の参議院議員通常選挙にあわせて模擬投票を実施すること,目 的,実施予定日,投票対象者は3年生,事前指導は3年生必修の「現代社会」の授業にお いて行うこと,生徒会の選挙管理委員に投票啓発のポスターの作成と模擬投票の際の受付 等の選挙事務を依頼する等を周知した。

②保護者へのお知らせ

 選挙の実施が確定したことを受けて,校長名で実施のお知らせを生徒を通じて配付し,

周知を図った。

③大和市選挙管理委員会への協力依頼

 6月に大和市選挙管理委員会に出向き,投票箱2個と記載台2人用4台の借用と選挙公 報 40 部(各クラスに3部,投票所前に5部,分教室への配付用)の提供を依頼した。

 7月の模擬投票の前日に借用書を作成して持参して借用し,投票終了後に返却した。な お,公職選挙法の規定を踏まえて開票はせずに,封筒に移し替えて保管した。開票につい ては,2学期が始まってから選挙管理委員にやってもらうことにした。

④投票用紙の準備

 大和市選挙管理委員会でも市内の中学生等を対象とした「模擬投票」の取り組みを行っ ているとのことで,その模擬投票用に作成した投票用紙を提供してもらうことになった。

本物の投票用紙と同じ素材で作られたもので,二つ折りにして投票すると投票箱の中で開 くものである。この投票用紙を選挙区選挙の投票用紙として使用することにした。比例代 表選挙の投票用紙は,本物の投票用紙の見本を大和市選挙管理委員会から提供してもらっ たので,それを一部加工して作成した。この2種類の投票用紙より実際の選挙により近い

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形での模擬投票が行えるようになった。

4 模擬投票実施までの指導

①「現代社会」の授業での事前学習

 選挙の役割,選挙の基本原則,選挙権の拡大,衆議院と参議院の選挙制度,日本の選挙 制度の問題点等を授業で扱った。さらに,「私たちが拓く日本の未来~有権者として求め られる力を身に付けるために~」(総務省文部科学省発行)を活用して,神奈川県選挙区 の立候補者や政党の主張等の調べ学習と,調べた内容をグループ及びクラスで発表し共有 を図った。授業やグループでの説明や発表の中で,特定の政党や候補者の宣伝や応援にな らないように留意した。

②生徒会の選挙管理委員の参加

 投票対象の3年生だけでなく,1年生2年生への模擬投票の実施の周知とできるところ で参加してもらうために,6月に選挙管理委員会を開催して,投票啓発のポスターの作成 を各委員に依頼した。提出されたポスターは模擬投票の当日に投票場所である会議室前に 掲示した。また,出来のいいポスターについては,模擬投票終了後に,大和市選挙管理委 員会を通じて明るい選挙推進協会のポスターコンクールに応募した。

 模擬投票前日に会場準備,当日は受付,投票用紙の交付係,立会人を1年生と2年生の 選挙管理委員が行った。また,ポスター以外の入口の掲示物等については書道部の生徒が 協力してくれた。

5 模擬投票の実施

 模擬投票当日の朝,3年生の各クラスに選挙公報各3部を配付した。帰りのホームルー ムの終了と同時に投票の受付を開始し,あわせて校内放送で投票の呼びかけを行った。

 投票の受付には学年名票を使い,受付の生徒が投票に来た3年生一人ひとりから所属ク ラスと名前を聞いて,選挙区選挙用の投票用紙を渡した。選挙区用の投票用紙をもらった 生徒は記載台で立候補者の名前を書いて選挙区選挙用の投票箱に投票し,その後で比例代 表用の投票用紙を受け取り,記載台で記載してから比例代表用の投票箱に投票した。大和 市選挙管理委員会から提供してもらった投票箱の中で開く投票用紙が,本当に開くかを確

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かめてから投票する生徒も見られた。

 本物の投票所と同じ配置にしたつもりだったが,帰りのホームルーム終了後に多くの生 徒がいっぺんに来てしまったことから混雑し,ルートがみだれて比例代表の投票をしない で退出する生徒もいた。途中で何度か放送にて投票を呼び掛けたが,投票人数が増えな かったのが残念だった。

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6 事後アンケートの結果(資料参照)

 模擬投票終了後に,現代社会の授業の各クラスで事後アンケートを実施した。まず,実 際の投票数と「参加した」という回答数に誤差があった。アンケートの実施日に参加した 生徒が欠席であれば「参加した」が減ることはあっても増えることは考えられない。選挙 年齢が 18 歳になり期日前投票に行ってきたという生徒もいたこと,アンケートの実施が クラスによっては本番の投票日の後になったことから,本番の選挙との混同があったのか もしれない。

 参加しなかった理由は記述させた。用事があった,めんどくさかった,早く帰りたかっ た等が多かったが,中には模擬投票の実施日時を知らなかった,場所がわからなかったと いう回答もあった。授業で事前学習を行って,模擬投票の実施については何度もアナウン スしており,投票日には朝と帰りのホームルームでクラス担任からも実施について伝達し てもらった。投票時間中には校内放送も何度かしているので,この回答には疑問が残る。

今年は選挙権がないから,模擬投票だからとか投票用紙をもらわなかったからといった残 念な回答もあった。そうした中で,自分が一人投票しても何も変わらないとか,誰に投票 しても変わらないからという回答は,世の中にもありがちな回答でもあり,課題として考 えていかなければならない。

 政治的関心について模擬投票の前と後で高まったかどうかという点については,やや増 えているという結果であった。また,有権者になったら投票に行こうという気持ちが強く なったかという問いに関して,強くなったという回答が 17%とやや低調であった。

 アンケートの最後で,今回の模擬投票について感じたことや考えたことを記述させた。

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さまざまな意見があったが,自分の意見をしっかり一票に込めて投票することの大切さが わかったとか,ちゃんと調べて投票に行きたい,選挙の流れがわかってよかった,実戦的 な経験ができたなど,前向きな回答も数多くあった。また,選挙管理委員会から借用した 投票箱や記載台,本番と同じ材質の投票用紙が本格的でよかったという感想もあった。

7 評価と課題

 政治参加教育の目的である「政治意識を高め,主体的に政治に参加する意欲と態度を養 う。」に関して,事後のアンケートの感想をみると,政治に対する意識,主体的に政治に 参加しようという意欲が高まっていることがうかがえる。また,投票箱や記載台,本物と 同じ材質の投票用紙などを準備したことで,臨場感のある模擬投票を行うことができたこ とも意識を高めることに寄与したと考えられる。こうしたことから,模擬投票を実際に行 うことで主権者としての資質の向上につながっている,主権者教育の具体の取り組みとし ては大いに効果的な取り組みであると評価している。一方で,投票率が低かったことは残 念であった。より多くの生徒が模擬投票を体験し,政治意識や政治参加の意欲と態度を養 うことができるようにしていきたい。

(1)事前学習について

 特に衆議院と参議院の選挙制度の学習においては,知識・理解の分野で考えると,結果 として,制度が複雑なので生徒が具体的にイメージしていくことがなかなか難しかったと いう印象である。立候補者や政党についての調べ学習では,ほとんどの生徒が持っている スマートホンを使って調べさせたが,中には調べ方がわからないという生徒もいた。ゲー ムやSNS等には使っているが,情報を検索するなどには使っていないという生徒も何人 かいたことは驚きでもあった。調べた内容をグループで共有したり,クラスで発表して共 有するということについては,さまざまな教科でも行っていることから,全体的に慣れて いるように感じられた。調べ学習,グループでの共有等の学習活動の意図としては,思考 力や判断力,表現力の育成があげられるが,授業の最後に書かせている振り返りシートの 記述などをみると,生徒によって深い浅いはあるものの思考力・判断力・表現力の育成に つながっていると判断している。その場限りでなく,思考のプロセスを次につなげられる ようにしていくとさらに効果的な学習活動になると思われる。

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(2)生徒が関わる選挙事務について

 選挙への興味・関心を喚起することをねらいとして,選挙管理委員の生徒に,投票啓発 のポスターの作成,前日の会場準備,当日の受付等の選挙事務,開票等に参加させた。ポ スターについては力作もあり,取り組みとしてはとても良い取り組みであった。また,通 常見ることのない本番と同じ投票箱や記載台を使って投票所を設営したり,実際の投票用 紙によく似た投票用紙を見たので,選挙管理委員から話を聞いたり様子を見ると,選挙へ の興味・関心は高まったようである。

(3)市の選挙管理委員会との連携について

 今回は,投票箱と記載台を借用し,選挙公報を提供してもらった。選挙管理委員会も若 い層の投票率の向上に向けて模擬投票の取り組みを行っているとのことで,忙しい中だと は思うがとても前向きで協力的であった。本物の投票用紙と同じ素材の用紙を提供してい ただけたのは望外であり,生徒にとっても投票用紙について知るいい機会となった。模擬 投票においては,本物の投票箱や記載台を使うことで臨場感も出るので,積極的に協力を お願いすべきである。

(4)課題

○選挙の意義や主権者としての意識について,事前学習でより一層具体的にイメージさせ たい。一票の意義や大切さなどを意識させるような学習になるようにさらに工夫したい。

○期日前投票の設定や投票時間の確保については,会議室等に投票所を設営するため,期 日前投票の期間を長く取ることは難しい。自由投票のため投票時間は帰りのホームルー ム終了後になるが,同じ時間に集中するためかなりの混雑となる。混んでいるので投票 をしなかった生徒もいる。対策を考えたい。

○事後アンケートについて,無回答が多かったのは反省点である。問1で参加しなかった 理由を記述させたことで,参加しなかった生徒が問2以降を回答しなかったことが想定 される。また,設問についても,実施校が違うので比較にならないかもしれないが,平 成 19 年の資料を確認して同じ設問にして,比較できるようにすべきであった。

おわりに

 新学習指導要領の「公民」の目標や新科目「公共」の目標は,「社会的な見方・考え方 を働かせ(公共:人間と社会の在り方についての見方・考え方を働かせ),現代の諸課題

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を追究したり解決したりする活動を通して,広い視野に立ち,グローバル化する国際社会 に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資 質・能力を育成することを目指す。」となっている。シチズンシップ教育は,公民科の「公 共」や「政治・経済」と学習範囲と重なる①政治参加教育,②司法参加教育,③消費者教 育,④道徳教育の4つからなっており,いずれもそれぞれの分野で具体の取り組みを行い,

社会に主体的にかかわる意欲や態度を育成することを目標としている。

 模擬投票や模擬裁判等のシチズンシップ教育の具体的・体験的な学習は,公民科で言う ところの「現代の諸課題を追究したり解決したりする活動」である。これらの活動を通し て,人間としての在り方生き方を考えさせたり,社会により主体的にかかわる意欲や態度 を育み,主権者としての資質の向上を図ることを目指している。模擬投票を行うにあたっ て,本物の投票箱や記載台を選挙管理委員会から借りてきたり,投票用紙にこだわったり したのは,文字通り模擬体験の場にしたかったからである。実際の投票と同じような場面 を作ることで,選挙や投票についての「知識・理解」だけでなく,その場で求められる「思 考・判断」が行われ,それにより主権者としての資質の向上が期待できる。このことは生 徒の感想の中からも見て取れる。このプロセスを期待して行ってきた類似の取り組みとし て,模擬裁判の取り組みであったり,かながわハイスクール議会への生徒の参加がある。

また,金融広報中央委員会の金融教育の公開授業を担当して金利やクレジットについて考 えさせたり,日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会から講師に来てもらって消費 者安全啓発及び製品安全教室を行ったりしてきた。こうした現代の諸課題に係る取り組み は,内容的にはいずれも模擬体験を要素としており,その中で「知識・理解」と「思考力・

判断力」を育む取り組みであった。

 これから求められる「主体的,対話的で深い学び」を具現化するためには,「公共」や「政 治・経済」のみならず「倫理」の授業においても,知識を表面的に教えるだけではなく,

それぞれの課題を自分のこととして具体的に想像しイメージさせることが重要である。そ の場面を自分のこととして具体的に想像しイメージしてから,その場面での思考・判断を 行うことで,深い学びへとつながっていくのである。模擬投票等の取り組みをさらに検証 し,今後の指導法を研究していくとともに,日常の授業の展開にあっても,課題を自分の こととして具体的に想像させイメージさせることで知識・理解を促進し,その場面での思 考・判断・表現の力を育む授業法をさらに探究していきたい。

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[ 参考資料 ]

・平成 30 年3月告示高等学校学習指導要領

・神奈川県教育委員会高校教育課模擬投票説明会資料

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参照

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