人間発達科学部紀要 第 1巻 第 2号 :129‑137(2007)
高齢者への運動支援が運動機能や 日常活動に及ぼす影響 (事例的研究)
北村 潔 和 ・清水 美 花*
An Effect of Exercise lgppo1t o_n Motor Function and Daily Living Activity of Elderly People ( a case study )
Kiyokazu KITAMURA,ヽ 4ika SHIIИIZU キーワー ド:高齢者、運動支援、運動機能、日常活動
〕rcise support, motor function, daily living activity Keywords:elderly peOple,ex(
I.緒 言
総務省は、平成 17年 9月 19日の 「敬老 の 日」に 合わせて高齢者 の推計人 口 (9月 15日現在)を 発 表 したO。それによると、わが国の高齢者 (65歳以上) は、前年比71万 人増の2556万 人 (男性 1081万 人、
女性 1475万 人)で ある。総人口に占める割合は0。5 ポイ ン ト増の20。0%で 、初めて 2割 に達 し、人数、
比率 ともに過去最高で、国民の 5人 に 1人 が65歳 以上 となった。国立社会保障 0人 日問題研究所の推 計 による と、高齢者の割合 は10年後 には26%に 上 昇 し、国民の 4人 に 1人 が高齢者になる見込み と報 告されている。
高齢化社会を豊かに活力あるものにす るために は、高齢者がいつまでも自立できる健康 と体力を持 ち続けることであろう。また、高齢者が 自立 した生 活を送 り続けるためには、適度な運動を定期的に行 うことが大切であることについて異論は無いであろ ぅ3,o。
しか し、高齢者に対する運動支援は始まった ばか りで、運動が どのような機能に影響を及ぼすか についての報告は少ない4,0。
また、高齢者施設への入所者は、認知症を発症 し ている場合が少な くないが、それ らの人々を対象に した報告は見当たらない。高齢者への運動支援を実 りあるものにするためには、運動支援 と認知症の関 係や 日常活動への影響を早急に検討する必要があろ う。本研究は、定期的な運動が、認知症高齢者の運 動機能や 日常活動に及ぼす影響 と認知症の進行を遅 らせ る効果がみ られ るかを検討す るために企画 し た。
Ⅱ.方 法 1)被 験者
被験者 は富 山県 内の グルー プホームに入所 してい る男性 4人 、女性 12人 の合計 16人 の高齢者 であ り、
要介護度 1〜 5で 、進行性 の認知症 と診 断されてい る。認知症であるために、話を理解す る ことが難 し い こともあ り、研究への参加 の承諾を本人か ら得 る こ とは無理 であ った。 そ こで、研究 の 目的、効果、
表 1 被 験者の性別、年齢及び身体的特徴
危険性を職員 と家族 に説明 して研究参加への承諾を 得 た。 また、後 で述べ る週 に2回 の運動への参カロは、
氏 名 性 男J 年齢 (才) 身長 (cm) 体重 (kg)
ToN 女 80 157.0 45.4
T O M 女 73 144。0 54。7
HOS 女 81 146。 5 40。2
TOI 女 77 150。4 41。5
S・ T 女 76 146.8 52.3
K・ S 男 87 142。0 41。6
SOO 女 91 140.0 41。6
H・ S 女 94
TOT 男 72 151.0 62。7
KOI 女 89 146。2 51.1
SON 女 90 143。0 36.3
KOY 男 77 151。0 45.5
T O Y 女 90 142。0 48。0
EOS 女 69 148.0 70.6
Y o M 女 78 144。0 56.8
M O K 男 78 168。0 54.3
*ア クティブスピリット
もあ った。 また、仕事 に励んできた人 は、 プライ ド が高い ところも見 られた。
一方、被験者の多 くは、生活動作を体が覚えてい ることも多 く、料理 の味付 けは難 しくとも、包丁で 野菜 の皮を剥いた り、切 った りできた。 また、昔の 歌を歌 った り、趣味である詩を書いた りと好 きな こ
とには夢 中に取 り組む姿 も見 られた。
グルー プホー ム に入所 す る主 な理 由は、 「一人暮 らしで認知症が進行 し、 自分 で身の周 りの ことがで きな くな った。」 ことや 「深夜徘徊 をす るため、家 族ではめん どうを見切れな くな った。」 な どである。
これ ら被験者 の年齢、性別、身体的特徴を表 1に 示 した。 グルー プホームでは、運動指導開始後 の 7 月29日 に男 性 1人 が入所 し、 また、女性 被験者 の
1人 が 9月 20日 に入院 し、 9月 27日 に死亡 した。
2)グ ルー プホームの特徴
本 グルー プホームは、認知症高齢者 が個人の尊厳 と生活の質 を保 ちなが ら家庭的な生活空間の中で食 事、掃除く洗濯な どの支援を受 けなが ら、 自分 らし い生活を送 る ところである。入所者全員に個室が与 え られ、強制ではないが食事やお茶、レク リエー シ ョ ンを行 うときは、全員がホールに集 まる約束 になっ てい る。 この グルー プホームの特徴 は、施設の扉 の 鍵を開めずに、入所者が外 出 したい ときには、職員 が付 き添 うことで 自由に外 出できる仕組みになって いる。
職 員 は 15人 で、昼 間 は入所者 3人 に対 して 1人 の職員が世話を して、夜 間は職員 1人 で 9人 の入所 者を見 てい る。 グルー プホニムの 1日 のスケジュー ルを表 2に 示 した。食事や入浴な どは、スケジュー ル通 りに行われてい るが、起床や就寝の時間はおよ その 目安で、入所者個 々の行動 に合わせて職員が対 応 している。
3)運 動指導
運動指導期 間は、平成 17年 6月 30日 か ら10月 13 日まで とし、その間の月曜 と木 曜の 2回 、 1回 につ き 15分〜 2o分 程度の運動指導を計20回 (テス ト日 は除いた。)行 った。運動指導 は午前 10時か らグルー プホームの 1階 に住 む 8人 を、その後 2階 に移動 し、
そ こに住む 8人 を対象 に実施 した6
運動指導 で用いた運動 プログラムは、資料 1と し て文末 に示 した。すなわち、運動指導期 間を第 1期 、
時 間 内 容
4 : 0 0 〜 ′6 : 0 0 7 : 0 0 〜
8 : 3 0 〜 1 0 : 0 0 〜
0 0 〜
0 0 〜
起 床 朝 食 掃 除
テ ィー タイム
テ レビ体操 0買 い物 な ど 昼 食
お風 呂 0買 い物 な ど 夕 食
就 寝
第 2期 、第 3期 に別け、第 1期 は椅子に座った状態 で運動を行い、第 2期 には椅子か ら立ち上がっての 運動を加え、第 3期 にはセラバン ド (トレーニング 用のゴムのバ ン ド)を 用いた運動を加 えて実施 し た。いずれも被験者の運動への取 り組む様子を観察
しなが ら運動強度を徐々に上げた。運動は、体を動 かす ことが気持ちいい と感 じてもらえるように、ス トレッチの中に動きを取 り入れて簡単に誰でも行え るように した。また、指導にあたっては、被験者 と コミュニケーションを とりなが ら楽 しく体を動かせ るように心がけた。
4)運 動機能テス ト
本研究では、全ての被験者に運動指導の初 日 (1 回日)、中間 日 (2回 目)、最終 日 (3回 目)に 運動 機能テス トを実施 した。運動機能テス トは、 日常生 活の質の向上が検討できる種 日と考えて、「豆つ ま み」、「階段歩行」、「起き上が り」 とした。
「豆つまみ」は、割 り箸を用いて、20個の小豆を 左の箱か ら右の箱へ 1個 ずつ移動させ、全てを入れ 終わるまでにかかる時間を測定 した。
「階段歩行」は、要介護度の低い入所者で、普段 階段 を使 って生活 してい る被験者 について実施 し た。「階段歩行」には、施設の 1階 か ら 2階 までの 階段を使用 し、20段 の階段を上 り始めか ら、上 り 終わるまでの時間を測定 した。
「起き上が り」は、被験者が毎 日使用 しているベ ッ ドを用いて、普段寝ている姿勢を とらせて、それか ら上体を起 こして足を床に付けるまでの時間を測定 した。また、それぞれの被験者の起き上が り方を観 察 した。
いずれの運動機能テス トも安全を考え、テス ト時 には 「普段 と同 じよ うに行 って ください。」 と声を
高齢者への運動支援が運動機能や 日常活動に及ぼす影響 (事例的研究)
かけた。 この よ うな条件 に して も、運動の効果があ れば、それぞれのテス ト終 了時間は短縮 される と考 えたか らである。
また、本研究では、テス トの開始か ら終了までの 速 さを測定す るだけでな く、行動 内容やテス トに対 す る取 り組み方 な どを詳細 に観察 した。 さ らに、運 動指導 中な どの被験者 の発言を忠実 に聞き取 り、表 情 の観察 を行 い、その変化を毎 回書 き とめた。最終 日には、介護職員の意見 も聞き、 日常行動 の変化 も 調査 した。
被験者HSは 、 9月 27日 に死亡 の ため、 1回 目の テ ス トの記録 のみ で、被 験 者ESは体 調 が悪 く、 1 回 目のテ ス トを行 うこ とが で きなか った。被験者 MKは 7月 25日 に入居 したため 1回 目のテス トはで きなか った。
テス ト結果 は、参考 までに 3回 のテス トが実施で きた被験者 の平均値 と標準偏差 で示 した。 しか し、
認知症高齢者 においては、個 々の事例を集 めること が今後 の運動支援を考 える資料 として有用 である と 考 えた ことか ら、統計資料 に とらわれ る ことな く考 察 を進めることに した。
Ⅲ.結 果 と考 察
認知症 の高齢者 を被験者 とす る場合 は、研究の 目 的を説明 して、理解を得て、運動指導や運動機能テ ス トを直 ちに実施 す る ことは難 しい。本研究 では、
運 動指 導者 が被験者 と 3日 間の交 流 (レ ク リエー シ ョンや 日常会話 な ど。)を 重ね て、 さ らに、職員 の補助を得 る ことで運動指導前の運動機能テス トが 実施できた。
また、先 に述べ たよ うに、本人か ら研究への参加 の承諾を直接得 ることができなか った ことや高齢で あることか ら、運動への参加不参加 は、その ときの 体調や気分 に合 わせ て本人 が決 め る約束 で始 めた。
これは、本 グルー プホームのお茶や レク リエー シ ョ ンの実施形態 に習 った。その結果、 3人 の被験者が 一度 も休む ことな く運動に参加 した。 1回 休んだ被 験者 が 2人 、 3回 休 んだのは 3人 、 5回 休 んだのが 2人 、 7回 休 ん だのが 2人 、 10回休 ん だのが 2人 であ った。全体 の平均 出席率 は、82.5%で あ った。
休み方 は、一度休 む と連続 して休む傾 向が見 られた。
運動 に参加 しない主 な理 由は、気分 が乗 らない、
体調不 良な どであ った。高齢 で認知症 であるために、
研究 だか らと強制的に運動 させ ることの難 しさを感
じた ことか ら、参加不参加 をその 日の気分 によって 本人 に決めさせ た ことが このよ うな参カロ率 にな った
と考 え られ る。
運動機能 テス ト 1)「 豆つまみ」
「豆つ まみ」 は、指 (手)の 機能 を計 るテス トと して採用 し、 自分 で食事や着替 えができることな ど を念頭 におい て実施 した。 1回 目の測定 で は、 16 人 中 14人 が終 了す る こ とが で きたが、最終 的 に 3 回のテ ス トを終 了 したの は H人 で あ った。初 回の テス トがで きなか った理 由は、 「途 中で豆つ かみを 放 棄 した。」、 「箸 で豆 をつ か まず に手 を使 った。」、
「手 でつかんで口に持 ってい って食べ た。」 とい った ことである。 3回 の 「豆つ まみ」テス トを終了 した H人 の結 果 を 図 1に 示 した。 図 1で も明 らか な よ うに、 3回 の テ ス トで大 きな変動 を示 す被験 者 は い なか った。 それ らの被験者 の平均 値 と標準 偏 差 は、 1回 目が93.70±43.53秒 で、 2回 目で は H9
±42.24秒、 3回 目には 122.30±52.39秒であ った。
運動 の効果があれば 「普段通 りに」 とい って 「豆つ まみ」を行わせ た として も、終了時間が短縮す る こ とが考 え られ る。 しか し、本研究では顕著 な変化 は 認め られなか った。
「豆つまみ」
― D― T・N ― T・M ― T・1 ‑S・ T
‑ 0 ‑ K ・ S ― S ・0 ‑ T ・ T ― K ・1
3.50 3.00 2.50 台 ょ2.00 題1.50 奮 1.00 0.50 0 . ∞
1回 目 2回 目 3回 目 測定回数 ( 回)
図 1 「豆つまみ」の運動指導前 、中、後の変化
梅 田 ら1)は
、 認 知症 の な い60歳 か ら79歳 の男 女 被験者 を対象 に、「豆運 び」 として30秒 で何個 の豆 を左側か ら右側 に移動 できるかについて報告 してい る。それによる と男女 ともに年齢 による有意な変化 は認 め られ なか った。本結 果 や梅 田 ら1)の
報 告 は、
指先を巧みに動かす とい った機能の低下 は起 こ りに くい ことを示 してい る。その理 由は、普段 の生活動
させ るまでにはいた らなか った といえるであろ う。
興味ある結果 は、 3回 のテス トが終 了できた被験 者 よ りも、 1回 目のテス トができなか った被験者 に 認 め られ た。 す なわ ち、被験者HSは 1回 目の テ ス トで豆を 3個 移 し変 える と、その後 は豆を国に入れ た り、手を使 って移 した りしてテス トができなか っ た。 しか し、 2回 目のテス トでは、途 中箸を反対 に しよ うとす る行動 も見 られ たが、 2分 46秒 で 18個 まで移 し変 えることができるよ うにな った。そ して、
3回 目のテス トでは途 中豆を目に入れた り、箸を反 対 に した りす る行動 もな く、 6分 39秒 か けて20個 の全 ての豆を移 し終 えた。
被 験 者TIは、 1回 目のテ ス トで H個 (1分 )ま では箸 で摘 まず箸 に乗せて移 し変 えた り、手 を使お
うとした りしていたが、その後飽 きて席を立 って し まった。 2回 目のテス トで も、 1回 目のテス トと同 じよ うに手を使お うとし、箸で摘 まずに乗せて移 し 変 え る行動 も見 られ たが、 1分 46秒 か けて最後 ま で移 し変 える ことができるよ うになった。 3回 目の テス トでは手を使お うとす る行動 は見 られたが、「豆 が摘 み に くい。」 と言 って箸 を逆 に して、箸 に乗せ る こ とな く 2分 40秒 か けて移 し終 え る こ とが で き た。
これ らの事例 は、運動機能の向上 と、今、 ここで 何をすべ きかが理解 できるよ うになってきた ことを 示す ものであろ う。 この ことは、運動 は認知症の進 行を遅 らせ る ことに有効 である ことを示す ものか も
しれない。
2)「 階段歩行」
外 出 した場合 に段 差や 階段 の上 り下 が必 要 にな る。 したが って、階段歩行能力は、行動範 囲を狭め る こ とがない よ うにす るために も重要 であ る。 「階 段歩行」テス トは、普段 か ら階段 を使 ってい る被験 者を対象 に した ことか ら、‐3回 のテス トを全 ての被 験者 が終 了す る こ とがで きた (図 2)。 1回 目の平 均 値 と標 準 イ扁差 は21.71±8.49秒、 2回 目は 19.30
±5。H秒 、 3回 目は22.17±5.49秒であ った。被験 者TNや HSの よ うに 1回 目、 2回 目、 3回 目 と階段 を上 り終 える時間にバ ラツキがみ られたが、他の 4 人 は 3回 の測定 で大 きなバ ラツキ はみ られ なか っ た。
高齢者施設の中に階段 を設置 し、入所者 に使わせ
一 T ・N ― T O M ‐ ―十一 H ・S
―A― 丁・1 ‑S・ T ― T ・丁 40
35 30 き25 20 距 古 1 5
1 0 5 0
1 回目 2回 日 3回 目 測定回数 ( 回)
図2運 動指導前、中、後の「階段歩行Jの変化
ている施設 は少ない。本 グルー プホームは、その少 ない施設の中の一つで、運動機能を落 とさないよ う に との経営者 の配慮 で施設の中に階段が設 け られて い る。エ レベー ター も設置 してあるが、できる人は 階段を使 っての上 り下 りを している。本研究の運動 指導では、速 く上れ るよ うにはな らなか ったが、大 きな筋群の運動機能 は維持 された。 この ことは、定 期的な運動 と普段 の 日常活動を しっか りと行 うこと で、大 きな筋群の運動機能を維持 できることを示 し た といえよ う。
高齢者の運動機能テス トには、平地を速 く歩 く能 力や長 く歩 く能力を測定す る種 目があるが、階段や 段差を乗 り越 えるテス ト種 目は見 られない。しか し、
一旦街に出ると段差や階段 と遭遇する。 これ らに対 処す る機能が衰 える ことは、活動範 囲を狭めて しま うことになる。普段 の活動が、運動機能の維持 向上 に有効 であることを考 える と、階段 の上 り下 りす る 能力を検討す る必要 はあるだろ う。
3)「 起 き上が り」
朝、 日覚 めてベ ッ ドか ら誰の助 け も借 りずに起 き 上が り、 1日 の活動が始め られ る と快適な 日常生活 を送 る ことがで きるであ ろ う。 「起 き上が り」 テス トで は、 13人 が 3回 のテ ス トを、 3人 が 2回 の テ ス トを終 了 した。 その 13人の結果 を図 3に 示 した。
また、 そ の平均値 と標準 偏 差 は、 1回 目で4.86±
1.77秒、 2回 目で5。23± 1.16秒、 3回 目で4.53±
2.10秒であ り、顕著 な変化 は認め られなか った。
梅 田 ら1)は
仰臥位 か ら可能 な限 り早 く起 き上が る 起立動作の測定を行い、男子 では加齢 による差 は無 く、女子では加齢 によって遅 くなる傾 向が見 られた
高齢者への運動支援が運動機能や 日常活動に及ぼす影響 (事例的研究)
「起き上がり」
.ir{-T.N -raET.M +H.S {-T.t .-{-S.T
-<-K.S -r{-S.O <-T.T -{r-K.t -!a-s.N
-T.Y -I{EE.S -K.Y
1 2 1 0
案8
題 6 宙 4 2 0
1回 目 2回 目 3回 目 測定回数 (回)
図3運 動指導前、中、後の「起き上がり」の変化
ことを報告 している。女子被験者で加齢によって起 立動作が遅 くなった原因は、膝や腰の痛みによるも のでな く、過体重によるもの と推測 している。本研 究においても、膝や腰に痛みを訴える被験者がいた が、「起き上が り」時間は変わ らなかった。
本研究では、被験者の起 き上が り方を観察 し、そ の結果を表 3に 示 した。多 くの被験者は、 自分の体 調に合わせて起き上が り方を工夫 している様子が伺 えた。 このことが、膝や腰が痛 くなっても、5秒程 度でベ ッ ドか ら起き上がることができることと関係
しているのであろう。
興味ある結果は、布団での生活を している被験者 TTが 、他の被験者 に比べて 3回 のテス トで素早 く
立 ち上が ることができた ことである。布 団での生活 は、ベ ッ ドでの生活 と異な り、毎 日布 団の上げ下 げ が必要で、 また、立 ち上が るにもベ ッ ドと違 った身 体的負担の大 きな動作が求 め られ る。 これ らの 日常 生活の身体的負担が、大 きな筋群 の衰 えを防いでい るもの と推測できる。
4)運 動への取 り組み方
被験者 の運動への取 り組み方が、運動指導を行 な うことによって変わ った。被験者TIは、運動 に参加 す る前は 15〜 20分 程度 の時間、椅子 に座 ってい る ことができず、いつ も歩 き回つていた。それが運動 を続けてい くうちに、運動が終わ るまで座 ってい ら れ るよ うにな った。 また、ビデオを見 ての体操 では、
リズムを取 っているだけであ ったが、本研究で話 し かけなが ら指導す る と、一緒 に身体を動かせ るよ う にな った。 これ らの変化 は、指導者が話 しかけなが ら、相手 のペー スに合わせ て運動指導を行 なった結 果 と考 え られ る。認知症高齢者 に対す る運動指導 は、
相手 に合わせ なが ら、話 しかけなが ら行 な うことで 効果的に実施 できる ことを示 した ものであろ う。
また、下肢の骨折で車椅子生活を していた被験者 KSは、「元のよ うに歩けるよ うにな りたい。」 と思 う気持ちが強 く、最初は立つ ことも困難であったが、
途中か らみんな と同 じように立って運動ができるよ うになった。怪我な どによる突発的な事故で運動障 害を受けた人は、回復への意欲が高いために、運動
表 3 起 き上が り方
氏 名 性 男リ 1 回 目 (6月30日) 2回 目 (8月25日 ) 3 回 目 ( 1 0 月1 3 日 ) TON 女 右 手 をついて布 団 を引つ張 る 右手 をついて布 団 を引つ張 る 右 向きになつて右手で押す T・ M 女 腹筋 を使 つて起 き上が る 腹筋 を使 つて起 き上が る 腹 筋 を使 って起 き上が る
HOS 女 腹筋 を使 つて起 き上が る 両手で押す 腹筋を使 って両手で押す
TO I 女 右手をついて押す 腹筋 を使 つて起 き上が る 腹筋 を使 つて起 き上が る SOT 女 左 手で布 団 を引つ張 る 右 を向いて右 手で押す 左手で布 団 を引つ張 る
K o S 男 左 手で手す りを引つ張 る 左手で手す りを引っ張 る 両手で手す りを引 つ張 る
S・ 〇 女 両手 で手す りを引つ張 る 両手で手す りを引つ張る 両手 で手す りを引つ張 る HOS 女 腹筋 を使 つて起 き上が る
TOT 男 両手で押 して起 き上が る 両手で押 して起 き上が る 腹筋 を使 つて起 き上が る K・ I 女 左 向きになつて左手で押す 左 向きになつて左手で押す 左 向きになつて左手で押す
S O N 女 両手で押 して起 き上が る 両手で押 して起 き上が る 左手で布 団引つ張 り右肘 をついて
T・ Y 女 両手 で押 して起 き上が る 右手肘 をつ いて押 して起 きる 右肘 をつ いて押 して起 きる K・ Y 男 左手で押 して右 向きで起 きる 左手で押 して右 向きで起 きる 右肘 をついて押 して起 きる YOM 女 左足 曲げて手で押 して起 きる 左 向きになつて左手で押す 右肘 をついて腹筋 で起 きる
MOK 男 両手 で押 して起 き上が る 膝 曲げて右肘つ いて起 き上が る
Ees 女 右を向いて右手で押す 左 向きで左肘 と手で押す
を理解するのに時間がかか り、なかなか行動に表す ことができなかった被験者 も、徐々に言葉を理解 し、
動 きを体で表現できるようになってきた。 これは、
体を動かす ことを繰 り返す うちに、脳神経に何 らか の刺激が加わ り理解できるようにならたと考えられ るの。
被験者TMは 、いつ も右手が挙が らず、痛い といい なが らも運動 を一生懸命 に行 っていた。被験者ST は、運動が大事だとわかっているため、やっていな い人がいれば 「やれば元気 になるよ。」 と勧めるよ
うになった。
運動指導を始めたばか りの頃は、「長い。」、「普段 動かないか ら疲れ る。」な どといった消極的な言葉 が多かった。 しか し、運動指導を続けてい くうちに、
「気持 ちがいい。」、「元気がでる。」、「1歳 若返 る気 がす る。」、「体が軽 くなる。」、「す っき りす る。」な どと、積極的な言葉に変化 していった。そ して、「次 はいつ くるの ?」とか、「また来てね。待 っているよ。」
と自分から声をかけて くれ、外まで出てきて見送っ て くれるようになった。また、他の人に 「体操する と元気になるか らやろうよ。」 と勧める言葉 も聞か れるようになった。運動指導後半では、前向きな言 葉が多 く、「嫌だうた。」、「もうや りた くない。」な どといった言葉は聞かれな くなった。 このような気 持ちの変化が、日常的に運動を実施する動機 とな り、
運動機能や 日常活動の改善につながるもの と考えら れる。
Ⅳ.要 約
本研究では、富山県内のグループホームに入所 し ている男性 4人 、女性 12人 の合計 16人 の認知症高 齢者を被験者 として、運動指導を行いその効果を検 討 した8
運動指導は週に 2回 、 1回 15分〜 20分 の軽い運 動 とした。運動指導の前、中、後に 「豆つまみ」、「階 段歩行」、「起 き上が り」の運動機能テス トを実施 し た6い ずれのテス トも統計的に有意な変化は認めら れなか った。 しか し、「豆つ まみ」テス トでは、 2 人の被験者が、運動指導前では豆を食べようとした
り、手でつまもうとした り、いやになって席を立 っ た りして実施できなかったのが、運動指導後には最 後まで行えるようになった。 このように決め られた
進行を遅 らせ ることが可能 である ことを示す ものか もしれない。
また、運動指導の後半 で指導者 に投げかけ られ る 言葉が、運動す ることへの積極的な気持 ちに変化 し た。 このよ うな気持 ちの変化が、 日常的に運動を実 施す る動機 とな り、今後 の運動機能の改善 につ なが るもの と考 え られ る。
文 献
1)梅 田典子 ら :Body mass indexからみ た高齢者 にお け る体 力 の検 討。 体 育 学 研 究、47:439‑
450, 2002.
2)八 田有洋 :運動が脳 内情報処理過程 に及ぼす影 響。体力科学、53:p54,2004。
3)中 谷敏 明 ら :日 本 人 高齢者 の下肢 筋 力 を簡便 に評価す る30秒 椅子立 ち上が リテス トの妥 当性。
体育学研究、 4 7 : 4 5 1 ´ ν4 6 1 , 2 0 0 2 。
4)神 山吉輝 ら :高 齢者 の筋力系 トレーニ ングによ る医療費抑制効果。体力科学、53:205〜 210, 2004。
5)久 野譜也 :高齢者 の筋カ トレーニ ング。体育の 科等生、 52:617‑625, 2002。
6)総 務省
http://―。stategOjp/data/topics/topics05 1.htln
(2006年10月20日受付) (2006年12月 6日 受理)
高齢者べの運動支援が運動機能や 日常活動に及ぼす影響 (事例的研究)
資料 1:「運動プログラム」
〜第 1期 〜
項 目 運動 の仕方 項 目 運動 の仕方
2)
3)
(上半身〉
1)深 呼吸
肩の上げ下げ
背中
胸 と肩 腰
6 ) 肩 を回す
7)腕 の上げ下げ
〈下半身〉 (座位) 8)足 踏み
4 5
胸 を大 き く広 げた ときに 息 を吸 い、吐 いた ときに 元 に戻す。
肩 に力 を入 れ て ス トン と 落 とす。 リラ ックス させ
る。
手 を組 んで、腕 を前 に伸 ば し、体 ゆ つ く り前 に倒
してい く。
そ して ゆつ く り起 き上 が る。
i 腕を広 げて、胸 を大 き く 開 くも
座 つた ままで、両手 を片 方 のお尻へ もうてい く。
顔 も同 じ方 向 に向 けて隣 の人 の顔 を見 てニ ッコ リ す る。左右交互 に行 う。
肘 を 曲 げ て 肩 に 手 を 置 き、肩 甲骨 うごかす よ う に回す。 前 回 り、後 ろ回
り (5回ずつ)
バ ンザイをす る。前、横 、 下 手 ・1 0 ブ ラ ブ ラt グー、パー
太 ももを上げて足踏みす る。
両足 を広 げた り、閉 じた りす る。
両足同時にもや る。
9 ) す り足 1 0 ) 膝 の伸展
H ) つ ま先 立 ち
(立位)
12)股 関節 の運動
〈クニル ダ ウン) 13)首
14)肩
胸
全身 の伸び 深呼吸
5 6 7
足を前後に動かす。
太 ももに力 を入れ て足 を 持 ち上げ、膝 を伸ばす。
片方ずつ
両 足 で つ ま先 立 ち をす る。次にかか とを付けて、
つま先を上げる。
(10回ずつ)
① ももあげをす る。膝 を 曲げて胸 の方 にゆつ く り と上げる。
② イ ス の背 に手 をか け、
片足 をゆつ く り横へ動か す。
(片足10回ずつ)
前、横、後 ろ、回転 させ る。
手 を組 んで、腕 を前 に伸 ば し、体 をゆつ くり前 に 倒 してい く。
手 を広 げて、胸 を大 き く 開 く。
腕 を伸 ば して、背伸び し て脱力す る。
胸 を大 き く広 げて息 を吸 う、そ して吐 く。
項 目 運動 の仕方 項 目 運動 の仕方
肩の上げ下げ
背中 ( 上半身〉
1 ) 深 呼吸
2)
3)
胸 腰
4 5
6)肩 を回す
7 8
手
腕 の上 げ下 げ
〈下半身〉 (座位) 9 ) 足 踏 み
10)す り足
胸 を大 き く広 げ た とき に 息 を 吸 い 、 吐 い た とき に 元 に戻 す。
肩 に力 を入 れ て ス トン と 落 とす。 リラ ックス させ
る。
手 を組 ん で、腕 を前 に伸 ば し、体 を ゆつ く り前 に 倒 してい く。 そ して ゆつ
く り起 き上が る。
手 を広 げて、胸 を大 き く 開 く。
座 った ま まで、 両手 を片 方 のお尻 の方 へ もつてい
く。
顔 も同 じ方 向 に向 けて隣 の人 の顔 を見 てニ ッコ リ す る。左右交互 に行 う。
肘 を 曲 げ て 肩 に 手 を 置 き、肩 甲骨 を動 かす よ う に回す。
前 回 り、後 ろ回 り ( 5 回 ずつ)
手 を 胸 の 前 に 出 し て、
グー、パー を繰 り返す。
左 右 交 互 に 上 げ 下 げ す る。 上 げた手 をパ ー、下 げた手 を グー にす る。 二 回 目はパ ー とグー を反 対 にす る。
太 も もを上 げて足踏 みす る。 両足 を広 げた り、 閉
じた りす る。
両足 同時に もや る。
足 を前後 に動かす。
膝 の 伸 展 つ ま先 立 ち
(立位)
13)股 関節 の運 動
(クァル ダ ウン) 14)首
15)肩 16)胸
17)全 身 の伸 び 18)深 呼 吸
1 2
太 ももに力 を入れ て足 を 持 ち上 げる。片方ずっ 両 足 で つ ま 先 立 ち を す る。次 にかか とを付 けて、
つ ま 先 を 上 げ る。 (10回 ずつ) i
① ももあげをす る。膝 を 曲げて胸 の方 にゆつ く り と上げる。
② イ ス の背 に手 をか け、
片足 をゆつ く り横へ動か す。 (片足10回ずつ)
③②の動作で片足 を後 ろ へ 動 かす。 (片足10回ず つ)
前、横、後ろ、回転 させ る。
肩 甲骨 を寄せ た り広 げた りす る。
手 を広 げて、胸 を大 き く 開 く。
腕 を伸 ば してt 背 伸び し て脱力す る。
胸 を大 き く広 げて息 を吸 う、そ して吐 く。
︲ ヒFF♂
ヽ ヽ
〜第 3期 〜
高齢者べの運動支援が運動機能や 日常活動に及ぼす影響 (事例的研究)
項 目 運動 の仕方 項 目 運 動 の仕 方
( 上半身〉
1 ) 深 呼吸
2 3
胸 背 中
4)肩 を回す
5)手
6)腕 の上 げ下 げ
(下半身)(座 位) 7)足 踏み
8)つ ま先立 ち
9)股 関節
〈セ ラバ ン ド〉 (座位) 1 0 ) 上 半身
胸 を大 き く広 げた ときに 息 を吸 い、吐 い た ときに 元 に戻す。
手 を広 げて、胸 を大 き く 開 く。
手 を組 ん で、‐
腕 を前 に伸 ば し、体 をゆ つ く り前 に 倒 してい く̀
ゆつ く り起 き上が る。
肘 を 曲 げ て 肩 に 手 を置 き、肩 甲骨 を動かす よ う に回す。前回 り、後 ろ回
り ( 5 回ずつ)
手 を 胸 の 前 に 出 して、
グニ、パーを繰 り返す。
左 右 交 互 に上 げ 下 げす る。 この ときに上げた手 をパす、下げた手 をグァ にす る。二回 日はパー と グーを反対にす る。
太 ももを上げて足踏みす る。 両足 を広 げた り、閉 じた りす る。 両足同時に もや る。
両 足 で つ ま 先 立 ち をす る。次にかか とを付けて、
つ ま先 を上 げ る。 (10回 ずつ)
① 両足同時に開いて閉 じ ての繰 り返 しをす る。
②手 を付 ける。足 を開い た 時 は も もの 上 を た た き、閉 じた時は胸 の前で 手をたた く。
①胸 の前でセ ラバ ン ドを 引つ張る。
②首にかけ、両足で踏み、
下 か ら上 ヘ チ ュ早 ブ を 引つ張る。
③首にかけ、片足で踏み、
片 方 の 手 を 上 方 へ 伸 ば す。
H)下 半身
12) 膝 (立位)
13)股 関節 の運 動
( クール ダ ウン〉 ( 立位) 1 4 ) 首 の体操
1 5 ) 胸 と肩 1 6 ) 深 呼吸
首 にか け、片 足 に引 つ掛 けて、 も もを持 ち上 げて 膝 を伸 ばす。
セ ラバ ン ドを 首 に か け、
両足 で踏 み、軽 く膝 を曲 げる。
① ももあげをす る。膝 を 曲げて胸 の方 にゆっ く り
と上げる。
手 を放せ る人 は手 を振 つ て行 う。
② イ ス の背 に手 をか け、
片足 をゆつ く り横へ動 か す。 (片足10回ずつ)
③② の動作で片足 を後 ろ へ 動 かす。 (片足10回ず つ)
前、横 、後 ろ、回転 させ る。
手 を広 げて、胸 を大 き く 開 く。
胸 を大 き く広 げて息 を吸 う、そ して吐 く。