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Powered by TCPDF ( Title 新技術の受容と革新の採用 Sub Title Acceptance of new technology and adoption of innovation Author 小野, 晃典 (Ono, Akinori) Pub

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全文

(1)

Sub Title

Acceptance of new technology and adoption of innovation

Author

小野, 晃典(Ono, Akinori)

Publisher

慶應義塾大学出版会

Publication year 2008

Jtitle

三田商学研究 (Mita business review). Vol.51, No.2 (2008. 6) ,p.1- 20

Abstract

第51 巻第1 号において,著者は「新技術受容の消費者行動理論」を提唱した。こ

の理論は,経営情報システム論の領域において盛んに開発中である「技術受容モ

デル(TAM)」を,マーケティング・消費者行動論の視点から精緻化した理論で

あった。新技術受容の消費者行動理論,および,技術受容モデルの説明対象は,

コンピュータ関連製品に代表される新しい技術がユーザによって受容されたり拒

否されたりするのはなぜかという論題に関連していた。これと同様の論題に古く

から挑んできたのは,イノベーション普及/採用論である。イノベーション,す

なわち,新しい製品・サービス・アイディアが個々人に採用され,それゆえ,社

会に普及するのはなぜかという論題を取り扱ってきたイノベーション普及/採用

論の知見は,これまで,マーケティング・消費者行動論者たちによって大いに援

用されてきた。上記の拙稿においては,技術受容モデルの鍵概念である「有用性

」と「使用容易性」に関連づけて,5

つのイノベーション特性のうち,「相対的優位性」と「複雑性」の2 つが「新技

術受容の消費者行動理論」にモデル化された。そこで,本稿においては,「新技

術受容の消費者行動理論」の適応領域の拡大を企図して,残る3 つのイノベーシ

ョン特性,すなわち,「両立性」,「試用可能性」,および,「可視性」のモデ

ル化を試みる。また, 5 つのイノベーション特性としては含まれてはいないもの

の,イノベーション普及/採用における鍵概念であり,技術受容モデルにおいて

も開発途上において組み込まれた「社会的影響」についてモデル化を行う。

Notes

論文

Genre

Journal Article

URL

http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN0023

4698-20080600-0001

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1.新技術受容の消費者行動理論 コンピュータ関連製品に代表される新しい技術がユーザによって受容されたり拒否されたりす る の は な ぜ か, と い う 問 い に 解 答 す る モ デ ル で あ る「 技 術 受 容 モ デ ル(TAM: Technology 第51巻第 2 号 2008 年 6 月 キーワード 技術受容モデル(TAM),合理的行為理論,多属性モデル,イノベーション普及,イノベーシ ョン採用,社会的影響,主観的規範,相対的優位性,複雑性,両立性,試用可能性,可視性,イ ノベーション特性

新技術の受容と革新の採用

要 約 第 51 巻第 1 号において,著者は「新技術受容の消費者行動理論」を提唱した。この理論は, 経営情報システム論の領域において盛んに開発中である「技術受容モデル(TAM)」を,マーケ ティング・消費者行動論の視点から精緻化した理論であった。新技術受容の消費者行動理論,お よび,技術受容モデルの説明対象は,コンピュータ関連製品に代表される新しい技術がユーザに よって受容されたり拒否されたりするのはなぜかという論題に関連していた。これと同様の論題 に古くから挑んできたのは,イノベーション普及/採用論である。イノベーション,すなわち, 新しい製品・サービス・アイディアが個々人に採用され,それゆえ,社会に普及するのはなぜか という論題を取り扱ってきたイノベーション普及/採用論の知見は,これまで,マーケティング・ 消費者行動論者たちによって大いに援用されてきた。上記の拙稿においては,技術受容モデルの 鍵概念である「有用性」と「使用容易性」に関連づけて,5 つのイノベーション特性のうち,「相 対的優位性」と「複雑性」の 2 つが「新技術受容の消費者行動理論」にモデル化された。そこで, 本稿においては,「新技術受容の消費者行動理論」の適応領域の拡大を企図して,残る 3 つのイ ノベーション特性,すなわち,「両立性」,「試用可能性」,および,「可視性」のモデル化を試みる。 また, 5 つのイノベーション特性としては含まれてはいないものの,イノベーション普及/採用 における鍵概念であり,技術受容モデルにおいても開発途上において組み込まれた「社会的影響」 についてモデル化を行う。

小 野 晃 典

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Acceptance Model)」が,現在,Davis (1986, 1989),Davis, Bagozzi, and Warshaw (1989)らを先駆 として盛んに開発されている。マーケティング・消費者行動研究者たちにとって,このモデルは, 経営情報システム論という異分野において開発されてきた 1モデルではあるものの,なぜ消費者は ある特定の製品を購買すること(あるいは,購買しないこと)を意思決定したのだろうかという 最も重要な研究課題の 1 つに関連している点で,注目に値するモデルであると考えられる。技術 受容モデルは,さらに,マーケティング・消費者行動研究者たちが上記の重要課題を解くのに際 して古くから援用してきた「合理的行為理論(TRA: Theory of Reasoned Action)」(Fishbein and Ajzen, 1975; Ajzen and Fishbein, 19802)の応用型であり,実証分析によってより高い適合度を持つこ とが裏付けられた代替モデルであると主張されているがゆえに,マーケティング・消費者行動研 究者たちにとっても注目すべきモデルであると言えよう。 ここで,元来の合理的行為理論は,例えば,以下のような数式群によって描写される。すなわ ち,第 1 に, (1) なる式によって示される「態度」概念とその規定要因の関係が,この因果理論の根幹部を形成す るとされる。ただし, A =当の購買行動に対する個人の態度(attitude) =購買対象が属性i に関連しているという個人の信念(belief) =属性i に対する個人の評価(evaluation) n =個人が信念と評価を形成する属性の総数 である。第 2 に,「態度」と対を成すようにして,ほどなくして「主観的規範」概念もモデル化 されてきた。すなわち, (2) ただし, SN =当の購買行動に対する個人の主観的規範(subjective norm) =他の個人ないし集団j にその購買を期待されているという個人の信念(normative belief) =他の個人ないし集団 j の期待に応えようとする個人の動因(motivation to comply) 1) ただし,技術受容モデルに関する先駆的論文の 1 つである Davis, et al. (1989)は,マーケティング・消費 者行動研究者の投稿先にも選ばれる Management Science 誌への掲載論文であり,共著者の 1 人である R. P. Bagozzi はマーケティング・消費者行動研究者として知られる学者である。 2) マーケティング・消費者行動研究の領域において,一部の研究者にとっては,「合理的行為理論」よりも むしろ「行動意図モデル」や「多属性モデル」という名称に馴染みがあるかもしれない。また,本文中で後 述する(1)式は,「多属性態度モデル」という名称で知られている。例えば,中西編(1984)を参照のこと。

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m =個人が信念と動因を形成する他の個人ないし集団の総数 である。第 3 に,「(消費者行動の文脈においては,「購買」という)行動」を直接的に規定する「行 動意図(behavioral intention)」は, (3) のごとく,(1)式と(2)式によって定義づけられた「態度」および「主観的規範」の 2 つによって 規定されるものとしてモデル化されている。 他方,Davis らは,コンピュータ関連製品を代表とする新しい技術の使用行動のモデル化を図 って,「技術受容モデル」を提唱した。彼の主張の要点は,新技術の使用者による使用行動を主 として規定する要因は,その他にも規定要因が考えられうるかもしれないものの,主として「知 覚有用性」と「知覚使用容易性」の 2 つであるという点にある。ただし,「知覚有用性(perceived usefulness)」とは,当該テクノロジーの使用が使用者の活動パフォーマンスを増加させるであろ うとする個人的知覚を意味し,「知覚使用容易性(perceived ease of use)」とは,使用者個人が努 力を費やさずに新技術を使用することができる度合いを意味する。彼の主張は厳格なプロセスに 沿った測定尺度の開発とそれを用いての使用行動との直接的な因果的関係の実証分析によって裏 付けられている。これを数式に書き表すと,次のようになるだろう 3。 (4) ただし, U =知覚有用性(usefulness) E =知覚簡便性(ease of use) である。つまり,合理的行為理論を表す(3)式から,主観的規範 SN を捨象し,また,態度 A の 定義式である(1)式において属性i の数を「有用性」( )と「使用容易性」( )の 2 つに 制限したうえで,新製品の属性毎の評価値である を および へと再述し たものが,(4)式であるということになろう 4。 この技術受容モデルに従うと,消費者が新技術を採用するのは,それが有用であり,かつ/ま た,使用が容易であると感じられたときである。「有用性」と「使用容易性」の 2 つが,新技術 3) ただし,技術受容モデルには当初より様々なバリエーションがある。ここで示されるモデルは,Davis(1989) のそれに類するが,「有用性」と「使用容易性」の 2 つは,「態度」も「行動意図」も介さずに,「使用(行動)」 の直接的規定要因として導入されている。また,本文中において後述されるとおり,Davis, et al. (1989)に おいては,「有用性」と「使用容易性」の 2 つは,「態度」の規定要因としてモデル化されているが,「使用 容易性」から「有用性」への影響と,「有用性」から「使用意図(行動意図)」への影響が,モデルに追加さ れている。 4)(4)式は Davis (1989)に準拠した記述ではあるが,U や E を ではなく と見なし, と記述したほうがよいかもしれない(ただし, , は , に相当する加重値である)。この点につい ては,本論の要点ではないので,本文中では議論しない。

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の使用に対する個々人の好ましい「態度」の形成に影響を与え,ひいては,その技術を採用しよ うとする「意図」へと帰着するというわけである。技術受容モデル((4)式)は,汎用モデルで ある合理的行動理論((3)式)に比べると,「主観的規範」の影響力をモデル化していない点と, 態度規定要因を 2 種類の属性に限定している点について,大きな 2 つの制約を有している。それ にもかかわらず,新しいコンピュータ関連製品の採用という領域においては頑健なモデルである ことが精緻な実証分析によって裏付けられたため,一躍,学界に最も影響力のあるモデルの 1 つ となるに至っている。 しかし,技術受容モデルは,もともと合理的行為理論を単純化したモデルとして提唱されたに もかかわらず,その後は,モデル拡張が図られることによって逆に複雑化のプロセスをたどり, その結果,似て非なる多数の対抗モデルが乱立する無秩序状態を生み出している。多くの研究者 たちが,技術受容モデルは典型的なコンピュータ関連技術の使用という事例においては経験的証 拠によって支持されているものの,その他の多くの状況下に適応するにはあまりに少ない属性し か考慮に入れていない点を問題として指摘してきた(Dabholkar and Bagozzi, 2002; Lu, Yu, Liu, and Yao, 2003)。実際,Davis 自身も別の論文において,感情的効果を描写した「有用性」から「購買 意図」への直接ルート(cf. Bagozzi, 1982)を追加し,さらには,熟達しなくては新技術の機能は 使いこなせないという論拠から「使用容易性」から「有用性」へのルートを追加した形のより複 雑な概念モデルを提示し(Davis, Bagozzi, and Warshaw, 1989),さらに,それまで考慮に入れられ ていなかった「主観的規範」やその他の規定要因を加えることによって大幅に拡張した概念モデ ル を も 提 唱 し て い る(Venkatesh and Davis, 2000; Venkatesh, Morris, Davis, and Davis, 2003. 併 せ て Malhotra and Galletta, 1999も参照のこと)。

Davis 以外の研究者たちもまた,例えば,「有用性」概念を「短期的有用性」と「長期的有用性」 に分けた研究(Chau, 1996)や,「有用性」と「使用容易性」のほかに,「訓練」,「経験」,「ユーザ・ サポート」,「マネジメント・サポート」,「システムの特徴」という 5 つの規定要因を追加した研 究(Igbaria, Guimaraes, and Davis, 19955)や,「楽しみ」という別の規定要因を追加した研究(Dabhalkar and Bagozzi, 2002),「楽しみ」を「有用性」と「使用容易性」の原因変数と見なしたうえで,そ の規定要因として 7 つもの属性を追加した研究(Al-Gahatani and King, 1999)を展開してきた。

このように,異なるモデルが乱立する現状において,その根本的な問題点と見なされるのは, 技術受容モデルがごく単純なパス図によって表わされる因果モデルであり,その支持基盤が実証 分析にしかないという点である。そこで,先の拙稿(2008)では,これを解消する最初の試みと して,Davis による初期の技術受容モデルを理論的に整序する作業を行い,「新技術受容の消費 者行動理論」を提唱した。図 1 には,その理論的基礎が,多属性効用型モデルに準拠したダイア グラムによって示されている。 同図においては,まず,技術受容モデルを構成する鍵概念である「有用性」と「使用容易性」 を,合理的行為理論における限定され具体化された 2 属性として位置づけることをやめ,代わり 5) なお,この研究の共著者 Davis は,技術受容モデルの提唱者である Davis とは,同姓の別人である。

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に,品質と価格の 2 属性を軸にした属性空間が形成される 6。この空間上には,低価格・高品質の 方向を理想とする消費者価値を示す無差別曲線(V)と,旧製品と新製品の 2 つの代替物がプロ ットされている。図中で注目すべきことは,旧製品は,円弧で示された技術フロンティアの範囲 内で最も高い価値を消費者に提供しているが,そのフロンティアからのブレイクスルーを成した 新製品は,旧製品と同じ価格で高い品質を実現している 7 ,という点である。 新しい技術的背景によって高い品質を実現した点は,旧製品に対する新製品の相対的優位性を 成すものであり,技術受容モデルの第 1 の鍵概念である「有用性」の側面を示していると考えら れるだろう。図においては, から への品質向上に伴って,旧製品の採用によって得られる 価値 よりも大きな価値 が,新製品の採用によって得られるということが,新製品の「有 用性」の帰結としてモデル化されていると見なしうるであろう。他方,技術受容モデルの主唱者 たちによると,「有用性」の反面,新製品はしばしば「使用容易性」に乏しいことがある。実際, 顧客にとって慣れ親しんだ旧製品に比べて,新製品は使用するのに手間取るかもしれないし,そ うでなくとも,高いパフォーマンスを発揮する新製品を制御するのは難しいかもしれない。この ような複雑性が新製品に伴うとき,たとえ製品代価が旧製品であっても,消費者は金銭的コスト とは別に追加的な物理的・精神的コストを支払わなくてはならないと想定される。このことを描 くために,新製品のプロット位置はこの追加的コストc だけ上方に修正されている。これに伴っ て,仮に使用容易性に問題がなかったとしたら新製品の採用によって得られたであろう価値 6) このモデル化の方途の必要性については,拙稿(2008)第 3 節を参照のこと。 7) 単純化のために価格は一定としているが,その必然性はない。価格についても新製品のほうが優位である (新製品のほうが低価格である)ケースや,高品質の実現と引き換えに新製品が高価格化したケースについ ては,拙稿(2008)において検討されている。 図 1 新技術受容の消費者行動理論 品質 新製品 旧製品 価 格

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よりも小さな価値 しか,使用容易性に難点を抱えた新製品の採用によっては得られないとい う現象が,新製品の「使用容易性」の帰結としてモデル化されていると見なしうるであろう。 「使用容易性」が高い新製品の価値 は,旧製品の価値 に比べて高い水準であるため,そ の新製品は顧客を旧製品から新製品へとブランド・スイッチさせる力に富んでいる。他方,「使用 容易性」が低い新製品の価値 は,旧製品の価値 とさほど変わらない水準であるため,相 対的に,その新製品は顧客を旧製品から新製品へとブランド・スイッチさせる力に乏しい。この ような状況が描写しうる「新技術受容の消費者行動理論」が,異分野で開発された「技術受容モ デル」をマーケティング・消費者行動論の視点から改良することによって提唱されたのである。 2.新技術受容とイノベーション採用 新技術の受容/拒否という限定された意思決定課題の描写を試みた技術受容モデルは,より一 般的な意思決定課題を取り扱った合理的行為理論の派生形であった。それと同様に,新技術受容 の消費者行動理論は,なぜ消費者はある特定の製品を購買すること(あるいは,購買しないこと) を意思決定するのだろうかという課題を解くために広く利用されうる多属性型のプロダクト・マ ップを援用しつつ,なぜ消費者は新4製品を購買すること(あるいは,購買しないこと)を意思決 定するのだろうかという限定的な課題を解くために前提条件を整序した点に特徴がある。他方, 一部のマーケティング・消費者行動研究においては,この限定的な課題に対しては特別に,消費 者行動論における製品選択モデルの主流を占める多属性アプローチではなく,「イノベーション 普及/採用論(innovation diffusion/adoption theory)」(Rogers, 1962, 2003)を援用しようとする傾 向が見られる。 改良された農作物,農機具,あるいは農法が農村コミュニティ内に伝播する様子を観察して無 数の一般命題を提唱してきた農村社会学を初端の 1 つとして蓄積された膨大なイノベーション普 及/採用研究の成果は,主として Rogers による著書(1962, 2003)を通じて,新製品の普及/採 用に関心を持つマーケティング研究および実務にも広く紹介され,援用されてきた。イノベーシ ョン普及/採用論は,新製品がいかに個々人に採用されるかというミクロ的論題と,社会にいか に普及するかというマクロ的論題の両方に関連した興味深い経験命題を提唱しており,さらには, 普及現象や採用行動に影響を与える採用者特性(消費者特性)やイノベーション特性((新)製品 特性)についても深い洞察を与えることによって,マーケティング論においても興隆を極めてき たのである(cf. 拙稿, 2000, 2001)。 イノベーション普及/採用論における最も著名な研究成果は,新製品はコミュニティ内の個々 人に一斉に採用されるわけではなくコミュニティに徐々に浸透していくという当該研究領域を支 えるテーゼに関連して,各期に顕在化した採用者数を時系列的に並べたヒストグラムが典型的に は釣鐘型ないし指数関数型を描くであろうと主張した点にある。Rogers は正規分布(釣鐘型) のグラフを描き,最も早期に採用する採用者グループを「イノベータ(Innovators)」,次に早期 に採用する採用者グループを「初期採用者(Early adopters)」,第 1 変曲点より最頻値までの大規

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模グループを「前期多数派(Early majority)」,同様に最頻値から第 2 変曲点までの大規模グルー プを「後期多数派(Late majority)」,そして,それ以降にしか採用しない採用者グループを「遅 滞者(Laggards)」と呼称して,これら 5 つの採用者グループの各々に対して観察に基づくプロ ファイリングを行った。これら 5 つのグループが互いに異なる採用者特性を持つからこそ,彼ら のイノベーション採用時期に差が生じ,ひいては,釣鐘型(正規分布型)の普及パターンが形成 されるという因果的関係が示唆されたのである。 Rogers は他方,採用者特性だけでなく,イノベーション特性についても,経験的一般命題群 を提唱している。すなわち,「相対的優位性(relative advantage)」,「複雑性(complexity)」,「両 立性(compatibility)」,「試用可能性(triability)」,および「可視性(visibility)」の 5 つのイノベー ション特性が,個々人の採用行動を促進し,ひいては,普及速度(diffusion rate)を高める,と 主張したのである。この主張は,大きな注目を集めた上記の採用者特性に関する主張と関連づけ られなかったために,採用者特性についての命題群に比して相対的に小さな注目しか集めてはい ないものの,技術受容モデルとの関連性に着目すれば重要な主張である。なぜなら,Davis がオ リジナルの技術受容モデルにおいて「有用性」と「使用容易性」の 2 つの新技術特性を挙げて,個々 人の新技術受容行動を説明しようと試みたのに対して,Rogers は,上記の 5 つこそが新技術受 容行動を説明する新技術特性であるという対抗仮説を示唆していると見なすことができるからで ある。 より後発の研究者である Davis は,この異分野の対抗仮説について短く言及している(Davis, 1989)。すなわち,「両立性」,「相対的優位性」,および「複雑性」の 3 変数が多くのタイプのイ ノベーションの採用行動に有意な影響を与えていることを見いだした Tornatzky and Klein(1982) の実証分析結果を紹介し,そのうちの「両立性」と「相対的優位性」は多義的な概念であって解 釈困難であるとのコメントに触れたうえで,残った「複雑性」が自身の 「使用容易性」と対義語 的な概念であることを Rogers and Shoemaker (1971)による定義を引用して指摘した。要するに, 統計技法を用いた実証分析を行った上でのイノベーション普及/採用論の知見として見いだしう るのは,「複雑性」という「使用容易性」に類似した規定要因 1 つのみである一方,自身の技術 受容モデルは,その他に「有用性」をその明示的な概念的・操作的定義とともに導入して「コス ト」と「ベネフィット」のバランスをとることに成功した選択モデルであるうえ,その実証分析 に成功しているために,イノベーション普及/採用論の既存研究より勝っている,という主張を 暗示したのである。 その後,Davis は共著者たちとともに,当該分野における新たな研究を念頭において持説と対 抗仮説の関連性について詳しく論じることによって,イノベーション普及/採用論への歩み寄り を見せている(Venkatesh, et al., 2003)。彼らはまず,Thompson, Higgins, and Howell (1991)の定 義を引用しつつ,「使用容易性」が普及論における「複雑性」に類似した概念であることを, Davis (1989)と同様に主張した(そして,両者は「努力期待(effort expectancy)」という名の新たな 変数の下で統合された

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)。他方の「有用性」については,Moore and Benbasat (1991)の定義を引 用しつつ,普及論における「相対的優位性」に類似した概念であると主張した(そして,両者は「成

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果期待(performance expectancy)」という名の新たな変数の下で統合された)。Davis と共著者たちは, さらに,同じく Moore and Benbasat の定義を引用しつつ普及論の「両立性」概念に触れ,他の 概念と統合する形で「促進条件(facilitating conditions)」という概念に変えてモデル化している。 Davis らが「試用可能性」および「可視性」という残る 2 つのイノベーション特性について全 く言及しなかったことは,著者たちが意識したか否かは別として,もっともなことであろう。言 及されなかったこの 2 概念を除く諸概念はいずれも,それらを用いて個人が「情報統合プロセス」 (cf. Bettman, 1979)を遂行するところの新技術ないしイノベーションに関する属性群の評価水準 に関連しており,技術受容モデルのパス図全体がそれらを用いた新技術ないしイノベーションの 評価に基づいて個人が行動する様子を描写するのに首尾よく適合している。それに対して,言及 されなかった 2 概念は,他の諸概念が表している対象評価に関わる属性群について個々人が信念 を形成する際に必要な情報取得行動がどれだけ容易であるかを意味する概念であるから,「情報 統合プロセス」というよりもむしろ「情報取得プロセス」に関わっている。それゆえ,これらは もともと情報統合プロセスのみを描いた技術受容モデルには適合しないのである。その点におい ても,後述されるとおり,既存研究者たちによって行われてきたパス図による技術受容モデルの 開発の限界性と,新技術受容の消費者行動理論の優位性が見いだされることになる。 さて,先の拙稿(2008)においては,技術受容モデルの鍵概念である「有用性」と「使用容易 性」に焦点を合わせつつ,技術受容モデルの主唱者たちと同様にそれらの概念と関連づけを行っ て,イノベーション普及/採用論の 5 つのイノベーション特性のうち「有用性」と「複雑性」の 2 つについて言及を試みた。同論文に詳述したとおり,新製品が旧製品が提供する価値に比して より高い価値を提供しうるということが,新製品の「有用性」でもあり「相対的優位性」でもあ るとモデル化することができ,これらの概念が高い水準を取るとき,新製品が採用される傾向性 も高いという帰結が導出された。また,慣れ親しんだ旧製品の継続採用時には不必要な追加的コ ストが,「複雑性」が高く「使用容易性」が低い新製品には負荷されるであろうことがモデル化 することができ,「使用容易性」概念が低い水準を取るとき,すなわち,「複雑性」概念が高い水 準を取るとき,新製品が採用されない傾向性が高いという帰結が導出された。 ここで浮上するのは,当然,残る 3 つのイノベーション特性,すなわち,「両立性」,「試用可 能性」,および「可視性」を,同一モデルのなかでモデル化するという課題である。この課題へ の取り組みは,新製品の選択意思決定という同一の状況を研究対象としたイノベーション普及/ 採用論と技術受容モデルを有機的に統合することを意味するであろう。それに加えて,不特定の 製品の選択意思決定についてモデル化してきたマーケティング・消費者行動論の主流を成す多属 性モデルに対して,イノベーション普及/採用論の成果を組み込むことをも意味すると考えられる。 8) 原著の他,拙稿(2008)における図 2 を参照のこと。

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3.社会的影響 一般に,個々人が社会の一員である限り,彼らの製品選択行動は社会の他者たちの影響を受け るであろう。新製品ないし新技術の受容行動の状況もその例外ではない。イノベーション普及/ 採用に関する研究者たちは,この「社会的影響」について, 5 つのイノベーション特性―すな わち,「相対的優位性」,「複雑性」,「両立性」,「試用可能性」,および「可視性」―の 1 つとい う形では勘案していないものの,この分野における重要性の高さを古くから強調しており(e.g. Tarde, 1903; Simmel, 1904),コミュニティ内外での社会的影響こそイノベーション普及の主たる駆 動力として位置づけられている(Rogers, 1962, 2003)。それゆえ,本節においては,イノベーショ ン特性の吟味に先立って,まず,「社会的影響」を議論の対象としたい。 多くの既存研究者たちによってはしばしば曖昧なままに論じられてきたが,新製品の採用行動 が受ける社会的影響は 2 つに大別されるであろう(拙稿, 2000, 2001)。すなわち,新製品に関する 客観的情報を保有している他者がそれを未だ保有していない当の個人に対して情報伝達を行うと いうタイプの影響と,個人が新製品を使用すること,あるいは,新製品そのものに対する他者の 評価が,当の個人によって重要視されることによって購買を促進したり阻害したりするというタ イプの影響である。ここでは後者のタイプのみを指して「社会的影響」と呼ぶ。 このタイプの社会的影響の 1 つと見なしうる「主観的規範」は,合理的行為理論に導入されて きた概念である。行動の個人的価値が,当の行動を採用することによってある属性を入手しうる と当の個人が信じている度合と,その属性が当の個人によって重要視されている度合を,当の個 人が想起する属性の数だけ積和した値によって定義される概念であるのに似て,行動の社会的価 値を表す「主観的規範」という概念は,当の個人が当の行動を採用すべきだと他者が考えている と当の個人が信じている度合いと,その他者が当の個人によって重要視されている度合いを,当 の個人が想起する他者の数だけ積和した値によって定義される概念である(Fishbein and Ajzen, 1975; Ajzen and Fishbein, 1980)。この概念は,本論の問題状況においては,新製品を購買すること に対して他者の賛同が得られるか否かに関する評価を勘案して購買意思決定を行う個人像の描写 に応用することができる。 技術受容モデルにおいては当初,「主観的規範」は「態度」および「行動意図」との関係につ いての合理的行為理論の問題と混乱を考慮に入れて導入されなかった(cf. Davis, et al., 1989)。す なわち,形成される「態度」は「主観的規範」と大きく共変動するであろうから,これら 2 つの 概念を同時に「行動意図」の規定要因としてモデル化することはできないのではないかというこ とである。しかし,後になって,単純に「態度」概念をパス図から削除することによって,「有 用性」および「使用便宜性」に次ぐ第 3 の「行動意図」の規定要因として導入された(Venkatesh and Davis, 2000)という経緯がある。「主観的規範」という概念は,Venkatesh and Davis (2000) によると,自分の行動に影響ある人々が自分がそれを使用すべきだとどれだけ考えているか,自 分にとって重要な人々が自分がそれを使用すべきだとどれだけ考えているか,といった質問項目

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によって測定される概念であるという。Fishibein と Ajzen の元々の主張は,多属性アプローチ のアイディアのアナロジーとして多数の他者を多数の製品属性と同様にモデル化することであっ たが,多数存在しうる製品属性が「有用性」(あるいは,それに加えて「使用便宜性」)のみに単純 化してモデル化されたのと同様に,多数の他者は“人々”という 1 個の束として 1 元化されてモ デル化されていることになる。 「主観的規範」が製品選択結果に与える影響を検討するために,図 2 が描かれている。横軸の「社 会的影響」は先に触れた Venkatesh, et al. (2003)の改称に準じた名称であり,「主観的規範」と 同義的概念である。Venkatesh and Davis (2000)や Venkatesh, et al. (2003)のように,総体とし ての他者がどれだけ新製品購買に対して賛同しているかを示すと見なす概念であると捉えてもよ いし,また,オリジナルの合理的行為理論のように,ある特定の他者についての概念であると捉 えてもよい。後者の場合は,当の消費者が考慮に入れるその他の他者がどれだけ新製品購買に対 して賛同しているかということが図中に描かれていないことになるが,これらは図中に描かれて いない第 3 ,第 4 の次元軸で同時に吟味されていると見なされよう。また,前者と後者のいずれ の場合においても,新製品と旧製品の品質水準について図中に描かれていない次元軸によって同 時に吟味されていると見なされることになる。「社会的影響」というここでの議論の焦点を単純 な 2 次元空間で検討しうるようにするという目的のために,図に明示されていないこれらの次元 軸の考慮は省略しうるものと想定されるが,「価格+学習コスト」の代わりに「品質」を縦軸に 導入して考慮に入れ,「価格+学習コスト」を図からはずして考慮外としてもかまわないであろう。 ここで,消費者が他者の考えを重要視しているということは,同図において実線で示されてい る無差別曲線群が傾斜していることによって表現されている。もし消費者が他者の考えを無視し て購買するならば,点線で示されるように無差別曲線群は水平になっていたであろう。他方,新 図 2 社会的影響 社会的影響 新製品 旧製品 価 格 + 学 習 コ ス ト

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製品を使用することに対して他者が賛同している(と当の消費者が信じている)ことは,正値の si によって示されている。また,もしむしろ旧製品を使用すべきだと他者が考えている(と当の 消費者が信じている)ならば,si は負値をとり,新製品は縦軸より左方にプロットされるであろう。 なお,焦点となる問題状況が新製品か旧製品かの二者択一であるということや,この概念に対す る「新製品を使用すべきだ」という調査質問項目における表現に「旧製品よりもむしろ」という ニュアンスが含まれているということを考慮に入れて,ここでは「社会的影響」概念は新製品の みに対して相対水準によって測られる概念であると想定され,旧製品の水準はゼロと見なされて いる。無論のこと,元々の合理的行為理論のアイディアに準じて,新製品と旧製品の各々に対し て絶対水準によって測定される概念として導入しなおすことは,縦軸の位置を左右にシフトさせ るだけの容易な修正作業だけで行うことができる。 仮に消費者が新製品購買が持つ社会的影響を考慮に入れないとしたら,上記のとおり,点線の 無差別曲線によって製品評価がなされることになる。この新製品は旧製品に比して価格が高いた め,あるいは,価格は高くなくても複雑な製品であるために使用には学習コストが必要であるた め,それが決め手となって消費者には選好されないであろう。他方,消費者が社会的影響を考慮 に入れる場合には,実線の無差別曲線によって製品評価がなされることになる。この新製品は使 用すべきだと他者に考えられている(と当の消費者が信じている)製品であり,そのことが当の 消費者にとっては重要視すべき事項であるため,たとえ価格が高い製品であっても,あるいは複 雑な製品であっても,新製品を購買することが選択される結果になるであろう。 ここで議論すべき問題がある。それはすなわち,ここで描写された単純なモデルによって果た して複雑な社会的影響が描きうるであろうかということである。多種多様な社会的影響の例につ いてはイノベーション普及/採用論の知見が参考になる。例えば Rogers が 5 種の採用者カテゴ リーをプロファイリングしたことは先述のとおりであるが,これらの異なる採用者たちは異なる 隣人の考えを異なる仕方で重要視することによって異なる社会的影響を受けて新製品評価を行っ ていると解釈することができるであろう 9。 まず「イノベータ」は,コミュニティ内の大多数の他者が旧製品を採用している状態のとき, あるいは,コミュニティの成員がある特定の(旧)製品を採用すべきだという規範を形成してい るときに,そうした他者の行動を(理解できなかったり,重要視しなかったりするために)無視し たり,他者の行動とは違った行動を取りたいと考えたりする結果として新製品を採用しようとす る採用者カテゴリーである。「初期採用者」は,新製品の有用性をいち早く吟味してもし有用だ と判断されるならば先頭に立っていち早く採用してほしいというコミュニティの多数派の期待を 一身に受け,彼らからリーダーとしての尊敬を勝ち取るために新製品を採用しようとする採用者 カテゴリーである。「前期多数派」は,「初期採用者」の新製品採用行動を見て追随し,まだ「後 期多数派」が採用していないことに対して優越性を感じるために新製品を採用しようとする採用 9) ただし,Rogers の採用者カテゴリーのプロファイルには,客観的な新製品情報が口コミを通じて社会コ ミュニティ内に伝播することに関連する側面と,社会コミュニティ内の他者の考えに製品選好が影響される ことに関連する側面が,未整序のまま混在している(拙論, 2000, 2001)。

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者カテゴリーである。「後期多数派」は,コミュニティ内の過半数が新製品を採用するに至って 旧製品から新製品への社会の流れが確認できたためにそれに追随して新製品を採用しようとする 採用者カテゴリーである。最後に,「遅滞者」は,コミュニティ内の大多数が新製品を採用する に至ってようやく新製品を採用しようとする採用者カテゴリーである。 このような複雑な社会的影響は,技術受容モデルのように多数の他者を“人々”という 1 個の 束として 1 元化したうえで「主観的規範」ないし「社会的影響」という変数をモデルに組み込む ことによっては充分には表現されないだろうし,たとえ他者を個別に次元軸に採用したとしても, 「当の消費者は新製品を採用すべきだと他者が考えていると当の消費者が信じる度合」と「その 度合を当の消費者が重要視する度合」をモデルに組み込むことによっては充分には表現されない だろう。 Venkatesh, et al. (2003)は,「社会的影響」という概念のもとに「主観的規範」のほか,それ を使用している人は使用していない人より大きなプレステージを持っている,それを使用してい る人は高位のプロファイルを持っている,それを持っていることはステイタス・シンボルだ,と どれだけ思うかによって測定される「イメージ」という概念を統合している。統合という位置づ けにもかかわらず,彼らは「社会的影響」に対して「主観的規範」に準じた概念的定義を与え, 分析を通じて得られた操作的定義からも「イメージ」に関する質問項目は 1 つも含まれることは なかった。今後,もともと「主観的規範」とは意味合いの異なるこの概念を積極的に取り入れる ことによって,イノベーション普及/採用論が記述してきた経験的知見をモデル化することは重 要なことであると考えられるであろう。 4.両立性 「両立性」という概念は,イノベーション普及/採用論においてイノベーションの普及/採用 に影響を与えるイノベーション特性として列挙された 5 変数のうちの 1 つとして提唱されてきた 概念である(cf. Rogers, 1962)。技術受容モデルにおいては,いささか曖昧な概念で解釈困難な概 念であるとして当初は組み込まれなかった(Davis, 1989)が,この概念は,後になって,技術受 容の「促進要因(facilitating conditions)」という概念に統合されて,「成果期待(すなわち,有用性)」, 「努力期待(すなわち,使用容易性)」,および「社会的影響(すなわち,主観的規範)」によって規 定された「行動意図」と並ぶ「行動」の規定要因として概念化された(Venkatesh, et al., 2003)。 そして,「イメージ」に関する質問項目が,「社会的影響」の観測変数候補として挙げられたもの の,分析の結果,結局は 1 つも組み込まれなかったのとは異なり,「両立性」に関する質問項目は, 「促進要因」の観測変数候補として挙げられたうえで,分析の結果,組み込まれるに至っている。 「両立性」は,もともと,「イノベーションが潜在的採用者が持つ既存の価値,ニーズ,経験と 一貫していると知覚される度合い」と定義される。いかに旧製品に対して相対的に優位な属性を 持つ新製品が登場しても,消費者が持つ既存の価値,ニーズ,経験と一貫している度合いが低け れば,消費者は新製品が内含する優位性を高くは評価しないために,その消費者は新製品を採用

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するには至らない。逆に,旧製品に対して相対的に優位な属性を持つ新製品が登場したとき,消 費者が持つ既存の価値,ニーズ,経験と一貫している度合いが高ければ,消費者は新製品が内含 する優位性を高く評価するために,その消費者が新製品を採用する見込みは高いであろう。これ が「両立性」概念を用いたイノベーション普及/採用論者の主張内容である。重要なことは「既 存の価値,ニーズ,経験と一貫している」という状態をいかに解釈し,モデル化するかというこ とである。本研究においては消費者が持つ価値構造は属性空間上に無差別曲線として示され,他 方の製品は同じ属性空間上の点として示されるため,両者が両立している度合いは,それらの位 置関係によって表現することができると考えられる。 本研究の「新技術受容の消費者行動理論」における「両立性」概念の位置づけを検討するため に,図 3 が描かれている。同図における 2 つの新製品は,同一のフロンティア上に位置づけられ ていることが示すとおり,同一時期の技術によって生産可能な製品である。一方の新製品①は, と の差分で表されているとおり,旧製品に比して相当に高い品質を持つ製品であり,極め て大きな相対的優位性を有している。他方の新製品②は, と の差分で表されるとおり,旧 製品に比して低価格である点で優位性を有している。価格と品質の次元軸の違いゆえに,新製品 ①と新製品②のいずれの「相対的優位性」が高いかを論じることはできないが,ともかく両製品 とも相当に高い相対的優位性を旧製品に対して有していることは確かなことである。ここで注目 すべきことは, 2 つの新製品に対する消費者の評価である。新製品①は旧製品より 2 倍の品質を 持っているにもかかわらず,消費者がこの新製品に対して知覚する価値 は,新製品②に対す る価値 より小さい。この相違が生じた一因は,品質が高いことよりも価格が低いことを重要 視するこの消費者に対して,価格を低めることよりも品質を高めることに重点を置いた不適切な 新製品開発を行ったことであると考えられる。このような不一致が「両立性」が低い状態である 図 3 両立性の影響 品質 新製品② 新製品① 旧製品 価 格

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と定義することができるであろう。 より明確に「両立性」を定義づけるものは,新製品が含有する各製品属性のバランスと消費者 が理想とする各製品属性のバランスの一致度であろう。前者のバランスは,図 3 において,旧製 品を示す点が通る有効性フロンティアが消費者の無差別曲線と接する点(図中においては,旧製 品が旧いフロンティア上で最も理想的な価格−品質のバランスを持つ製品として描かれているため,旧 製品を示す点)から,各新製品を示す点へと引かれた実線のベクトルによって示されるであろう。 他方,後者のバランスは,同図において,同じ点から,新製品を示す点が通る有効性フロンティ アが消費者の無差別曲線と接する点(図中においては,白抜きの点)へと引かれた点線のベクトル によって示されるであろう。これら 1 組のベクトルの角度の差の逆数が,「両立性」という概念 の値として厳密に定義することができるということである。 図 3 においては,新製品①へのベクトルは高品質化の方向へと傾きすぎており,その結果,「両 立性」が低い製品になってしまっていることがわかる。他方,新製品②へのベクトルは低価格へ の方向へと傾きすぎているものの,新製品①に比べて,点線で示される理想ベクトルの角度との 差が小さいために「両立性」は相対的に高く,それゆえ,消費者からの支持を得ていると考えら れるのである。新製品 が消費者支持を得るためには「両立性」を高めることが肝要であろう。 それは,売り手が高品質化の努力量の多くを低価格化の努力に振り替えることを意味している。 無論,「相対的重要性」を高める方途も考えられる。すなわち,一層の高品質化への努力によって, 新製品②に勝る価値を消費者に提供することができるかもしれない。しかし,それに必要な努力 量の大きさを考えると極めて非効率であると考えられるであろう。 このように,「両立性」概念は,新製品が消費者ニーズにどれだけ合致しているかというマー ケティング理念にも関わる問題を描写するうえで重要な概念の 1 つである。先述のとおり,技術 受容モデルは「両立性」概念を組み込みはじめたものの,それは「行動意図」には影響を与えず 「行動」に直接的に影響を与えるような偶然的行動を誘発するような外生的な促進要因としての 扱いに留まっている。また,「促進要因」という名称の概念に統合されて,使用に必要な資源を 持っている,使用に必要な知識を持っている,困難が生じたときに助力を求める人がいる,とい った意味内容の異なる質問項目と同一視されている点にも疑問が残る 10。そもそも,これらの問題 を克服できたとしても,この概念を技術受容モデルのようにパス図で描写することを試みること 自体,困難なことであると考えられる。 5.試用可能性 「試用可能性(triability)」と「可視性(visibility)」は,イノベーション普及/採用論が 5 つの イノベーション特性として列挙した概念の残りの 2 つである。一方の「試用可能性」は,採用前 にイノベーションを評価するために情報を収集する目的で,潜在的採用者が未知のイノベーショ 10) これらは明らかに「使用容易性」に関連する質問項目であろう。

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ンを試しに小規模で使用することができる度合いに関連した概念である。Rogers が強調したこ とは,農民が所有する農園全てに新種のタネを植える前に一部の畑に植えてみて従来種よりも良 い品種かどうかを評価するといった状況のように,イノベーションへの多額の投資の前にいかに 少額の支払いによる試用が可能かという点であった。もちろん,チェンジ・エージェント(すな わち,ここでは新種のタネを売り込む販売業者ないし行政機関)が無償でサンプルを配布するような 状況を想定してもよい。これらの安価ないし無料での試用は,採用前の情報取得行動を容易にし てイノベーションの採用を促進するであろう。逆に,試用が困難な状況下においては,いかに実 際に相対的優位性,使用容易性,あるいは両立性について好ましいイノベーションであっても, 潜在的採用者がその好ましさを認識するための情報を取得することが困難であれば,イノベーシ ョンの採用は起こらないであろう。 無料ないし安価なベータ版の供給や,ハードウェアのリースやレンタル,インターネット・プ ロバイダの無料試用期間といった実際に行われている事例に見られるように,技術受容モデルが 想定した状況下においても,「試用可能性」は新技術受容に対して大いに影響を与えているよう にも思われる。それにもかかわらずこの概念が Davis らによって全く言及されていないことは, 彼らのパス図が「情報統合プロセス」(e.g. Bettman, 1979)を描いたものであって,「情報取得プ ロセス」は暗黙裡のうちに捨象されているからかもしれない。その点,本論のモデルは情報取得 プロセスをも描写可能である。 図 4 は,チェンジ・エージェント(すなわち,ここでは新製品の売り手)が主張する,白抜きの 点で表された新製品の品質水準 について,消費者が確信を持つことができず,試用に代表さ 図4 試用可能性の影響(1) 品質 新製品 旧製品 価 格 + 情 報 取 得 コ ス ト

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れる購買前情報取得を必要とする様子を描いている。図においては描写が省略されているものの, 新製品の品質水準が極めて低いために旧製品を採用しつづけたほうがよい可能性があるため,消 費者は情報取得コストを支払って試用を行い,新製品の品質水準を事前に評価する必要があるも のとする。情報取得コスト,すなわち,試用にかかるコストが で示されるように相対的に低 水準であるような場合には,消費者は,最終的には品質水準は で間違いがないと確信を持つ ことになる新製品に対して,品質水準に確信を持つための情報取得コスト を価格 に加えて 費やすことを,品質 の旧製品に価格 を費やすことより選好するであろう。他方,試用に かかるコストが で示されるように相対的に高水準であるような場合には,消費者は,最終的 には品質水準は で間違いがないと確信を持つことになってもこの新製品に対して価格 と 情報取得コスト を費やすことはなく,むしろ品質 の旧製品に価格 を費やすことを選好 するであろう。 先の拙稿(2008)で取り扱った,購買後の製品の使用の「複雑性」を解決するための学習コス トと同じように,購買前の製品の試用可能性の低さを克服するための情報取得コストは,消費者 にとって支払わないという選択も可能であろう。このことを描いたのが図 5 である。消費者は情 報取得コストc を支払って新製品の高い品質 を確かめてから購買するという選択肢のほかに, この情報取得コストを支払わない代わりにもしかしたらチェンジ・エージェントが言うほど品質 が高くはないかもしれないというリスクを負う分だけ低く見積もられた品質 を用いて旧 製品との比較を行うという選択肢も持っているということである。同図においては,実際,この 消費者が後者を選択し,情報取得にコストを割かずにリスクを負いつつ新製品を購買するであろ うことが描かれている。また,消費者が直面しているのは,全く情報取得を試みないか完全に情 図 5 試用可能性の影響(2) 品質 新製品 旧製品 価 格 + 情 報 取 得 コ ス ト

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報取得を行うかの二者択一問題ではなく,彼らは情報取得コストと新製品品質に関するリスクの トレードオフにおける何らかの中間点を選択しようとするかもしれない。この行動についてはこ こでは省略するものの,拙稿(2008)における図10に類似した図によって容易に描くことができ るであろう。 6.可視性 「試用可能性」と同じく「可視性」もまた,イノベーション普及/採用論によって列挙された 一方で技術受容モデルに組み込まれなかった情報取得プロセス中の概念である。「可視性」に関 して Rogers が読者に紹介したのは,新種の導入によって 1 つの株に実った実が従来種に比べて 多いような畑を見ても,畑全体を眺めるばかりでは隣人の畑に新種が導入されたことには気づか ないために,新種の普及は進まない,という事例であった。実際,このように新製品を目にして いてもその存在に気づかないケースもあるだろうし,新製品を目にしたことがないために,ある いは,新製品に関する情報を耳にしたことがないために,その存在をそもそも知らないというケ ースもあるだろう。このような可視性が欠如した状況では当然,新製品が選択される余地はなく, 旧製品が購買されるであろう。 図 6 にはこのことが描写されている。新製品が「可視性」に乏しい場合,消費者はそれを選択 肢として考慮に入れることができないため,たとえ新製品のほうが旧製品より大きな価値を消費 者にもたらす製品であったとしても,消費者は旧製品を使用しつづける結果になるであろう。新 製品の「可視性」が大きい場合,新製品の存在が消費者たちに知られる可能性は高くなる。ひと 図 6 可視性の影響 品質 新製品 旧製品 価 格

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たび新製品の存在を知った消費者は,新製品を購買するであろう。 ここで注意すべきことに,製品の品質に関わる情報の取得を取り扱った前節の図 4 とは異なり, 製品の存在に関わる情報の取得についての図 6 においては,情報取得コストは考慮に入れられて いない。いつ誕生するかわからない新製品の存在をめぐって,消費者はどんなタイミングで旧製 品からのスイッチングを行うためにその対象となりうる新製品についての情報取得を行おうとす ると想定すべきかがモデル化困難だからというのがその理由の 1 つである。また,たとえあると きに消費者が旧製品から新製品へのスイッチを検討し,それに見合う新製品が登場しているかど うかについての情報を取得しようとしたとしても,まだ見ぬ新製品の品質や価格について消費者 がどのように空想して,図 6 における白抜きの点のような位置にプロットして旧製品と比較する かをモデル化することは困難である。 もし消費者が定期的に情報取得コストを積極的に支払って新製品の探知を行いうる存在として 描かれるとしたら,何もせずに旧製品を購買するか,情報取得を伴って新製品の存在を知った上 で新製品を購買するかという選択問題に取り組む消費者像ではなく,旧製品と新製品のいずれを 購買するにせよ,まずは情報を取得して選択集合を形成したうえで製品選択に取り組む消費者像 をモデル化するのが妥当かもしれない。この場合,情報取得コストは旧製品と新製品のいずれを 購買しても課させることになり,図 6 に描かれた新旧 2 製品を示す 2 つの点はともに上方シフト した状態で比較されるであろう。新製品の「可視性」が低くシフト幅が大きくても,新製品の「可 視性」が高くシフト幅が小さくても,費やした情報取得コストによって確実に新製品の存在が明 らかになりさえすれば,同図においては結局,新製品が旧製品より選好されるわけであるから, その局面を捉えるならば 「可視性」には製品選択結果を変える影響力はないと主張することもで きるであろう。 7.今後の理論開発 本研究は,「新技術受容の消費者行動理論」を構築し,異分野の研究者たちが「技術受容モデル」 あるいは「イノベーション特性群」として論じてきた諸概念およびそれらが新技術受容に与える 影響を再吟味してきた。現在も経営情報システム論において盛んに開発中である「技術受容モデ ル」は,先行するイノベーション普及/採用論が列挙した「イノベーション特性群」の幾つかを 捨象したままであり,他方のイノベーション普及/採用論は,それに代わる理論的枠組を有して はいない。また,経営情報システム論とイノベーション普及/採用論の両方について言いうるこ とであるが,「受容」や「採用」という概念が必ずしも,代価を支払って新製品を購買するとい う消費者行動を念頭においているとは限らないという,マーケティング・消費者行動研究者が知 見を援用する際に生起する問題点をもはらんでいる。仮に異分野の知見が首尾よく新製品に関す る消費者選択問題に援用できたとしても,新製品 vs. 旧製品の選択問題が製品一般の選択問題の 下位問題にあるという位置づけに欠けており,その異同について議論されてこなかったという反 省点も,マーケティング・消費者行動研究の側に存在する。その点において,一般的な消費者選

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択行動が描写可能な伝統的な多属性アプローチに基づいて新製品と旧製品の選択問題を抱える消 費者像を想定した「新技術受容の消費者行動理論」の下で,技術受容モデルおよびイノベーショ ン普及/採用論が研究焦点として取り扱ってきた,「有用性」ないし「相対的優位性」,「使用容 易性」ないし「複雑性」,「主観的規範」ないし「社会的影響」,「両立性」,「試用可能性」,および, 「可視性」を順に理論分析の対象とし,概念整序をなしえたことは,本研究の最大の成果と見な しうるだろう。 今後,新技術受容に関する消費者行動について取り扱おうとする研究にとって,新概念の列挙 によってパス・ダイアグラムを無秩序に複雑化してきた「技術受容モデル」の既存研究に追随す ることなく,消費者の意思決定原理を交換枠組のなかで想定した本研究の「新技術受容の消費者 行動理論」に基礎を置くことが重要であろう。主唱者 Davis 以外の研究者たちが「技術受容モデ ル」に導入することを各個に提案してきた多数の概念は,本研究においては取り扱われなかった。 まずは,これらの概念について検討して本研究のモデルのなかに描写することが,興味深い今後 の課題となるであろう。さらに,単なる新製品の購買ではなく,技術受容モデルやイノベーショ ン普及/採用論が捨象してきた旧製品から新製品へのスイッチングという観点を採用して,本研 究のモデルにおいて描写することも大きな課題として考えられる。各種のスイッチング・コスト をモデルに導入するだけでなく,頻繁にモデル・チェンジが行われる環境下で消費者がいかなる タイミングでどのブランドに対して買い換えを行うかということを描写することのできる動態モ デルの開発が求められるところである。また,これに関連して,売り手が複数の新製品を投入す る順序を最適化する様子を描くことも重要な課題になるであろう。 参 考 文 献

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参照

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