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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 理 学 ) 井 上 博 紀

    

学位論文題名

DetoxificationofBisphenolA

an Environmental Estrogen

  by Glucuronidation Reaction in the Rat Hepatointestine

(ラット肝および腸における、環境エストロジェンピスフェノールA の

    

グルクロン酸抱合による解毒代謝)

学位論文内容の要旨

  

ポリカーボネート樹脂原料として使用されるビスフェノー一ルA は内分泌かく乱物質のーつ であり、生体に対してエスト□ジェン様の作用を示す。ビスフウノールA は重合の不十分に より、食品バッケージ、食器、歯科シーラントなどから溶出することから、人や動物は主と して経ロ的にこの化学物質に暴露されると推察される。近年の研究により、ビスフェノール

A

を経口投与されたラットにおいて尿および糞中に大量のビスフウノール

A

グルク口ン酸抱 合体が排泄されることが報告されている。グルク口ン酸抱合はUDP −グルク口ン酸転移酵素 によって触媒される第二相の薬物代謝反応である。すなわち、経口的に人や動物の体内に浸 入したビスフウノールA は、その吸収の過程でグルク口ン酸抱合され、結果的に低活性で水 溶性を増したビスフェノール

A

グルクロン酸抱合体として尿または糞中に排泄されているこ とが考えられる。そこで本研究では、グルクロン酸抱合を主軸に定め、ラッ卜肝および腸に おけるビスフウノールA 代謝・動態について検討した。

1

. ラ ッ ト 腸 管 に お け る ビ ス フ ウ ノ ー ル

A

の 吸 収 と グ ル ク 口 ン 酸 抱 合

  

多くの薬物は腸管において吸収される。本研究では、まず吸収臓器である腸管に焦点を絞 り、ピスフェノール

A

の吸収とグルク口ン酸抱合による代謝について調べた。4 等分したラッ ト空回腸および結腸を用いて反転腸管を作成し、腸管の粘膜側にビスフウノールA を添加し たところ、腸管のいずれの部位でもビスフェノールA の腸管組織中への吸収が認められた。

腸管に吸収されたビスフェノールA のほとんどは組織中でグルクロン酸抱合され、腸管の粘 膜側もしくは漿膜側に排泄された。ピスフウノールA グルク口ン酸抱合体の粘膜側への排泄 は空回腸に多く、結腸に少なかった。一方、漿膜側へのグルク口ン酸抱合体の排泄は遠位消 化管、特に結腸で多かった。反転腸管の粘膜側に適用するビスフウノールA 濃度を増したと ころ、漿膜側に未抱合のビスフェノールA が検出された。未抱合ビスフェノールA の漿膜側 への移送は特に結腸で顕著だった。以上の結果より、ラット腸管においてビスフェノールA は効率にグルクロン酸抱合され、近位消化管では粘膜側に、また遠位消化管では漿膜側に排 泄されることが分かった。しかし、高濃度のピスフウノールA 存在下ではビスフウノールA は腸壁を越えて血液中に移行することが明らかとなった。

2

. ラ ッ ト 肝 に お け る ビ ス フ ウ ノ ー ル

A

グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 お よ び 抱 合 体 動 態

  

血液中に流入したビスフウノールA は門脈を経て肝臓に流入する。そこで、ラット肝灌流

(2)

モデ ルを 用い て、 肝に おけるビスフウ ノールA 動態を調べた。ラッ ト肝に門脈を介してビス フウ ノー ルA を灌 流し た とこ ろ、 ほと んど のビ スフ ェノールA は肝 組織中に移行した。肝組 織中 に移 行し たピ スフ ェノールA は高率にグルク□ン酸抱合され、 静脈中の灌流液ならびに 胆汁 中に 排泄 され た。 ピスフウノール

A

グルクロン酸抱合体の排泄 は特に胆汁中に多く認め られ た。 ラッ 卜肝 に灌 流させたピスフ ェノールA 量を増加させたと ころ、胆汁側へのグルク 口ン酸抱合体排泄量がプラトーに達し、静脈側への排 泄が代償的に増加した。これらの結果 から 、ラ ット 肝に おい てピスフェノー ルA は高率にグルク口ン酸抱 合され、主として胆汁中 に排泄されることが分かった。

3

.ピスフェノールA グルク口ン酸抱合体輸送におけるMRP2 の関与

  

多くの薬物グルク□ン酸抱合体はmultidrug resistance associated protein (MRP) によって輸送 さ れ る 。

MRP

フ ァミ リー のー つ 、MRP2 は 肝細 胞の 胆管 側膜 や腸 粘膜 上皮 細胞 の刷 子緑 膜 な ど に局 在し 、細 胞内 の薬物グルク口ン酸抱合体を細胞外へと汲み出す。本研 究でラット反転 腸管および 肝灌流実験で認められたビスフウノール

A

グルク口ン酸抱合体の排泄方向の決定に、

MRP2

が関与 するか調べるべく、

MRP2

欠損ラットであるEisai hyperbilirubinemic rat (EHBR) を 用 い た 肝 灌 流実 験を 行っ た。

EHBR

肝に ビス フウ ノー ルA を 流入 させ たと ころ 、胆 汁側 へ の ビ スフ ェノ ール

A

グル ク口 ン酸 抱合 体排 泄が ほとんど消失し、静脈側への排 泄が著明に増加 し た 。 こ の こ と か ら

MRP2

は ビ ス フ ウ ノ ー ル

A

の 排 泄 に 関 与 す る こ とが 明ら かと なっ た 。

4

. ラ ッ ト 肝 ピ ス フ ェ ノ ー ル

A

グ ル ク 口 ン 酸 抱 合 能 に 及 ぼ す 妊 娠 の 影 響

  

ラ ット 肝MRP2 発 現量 は妊 娠時 に減 少す る。 また 以 前の 研究 にお いて 、妊娠時にはラット 肝ミ ク口 ゾー ムで のピ スフ ェノ ール

A

グル ク口 ン酸抱合能の低下が示されている。これらの 点か ら、 臓器 レベ ルで の肝 ビス フウ ノー ルA グ ルク口ン酸抱合能は妊娠時に減退するとの仮 説を 立て 、こ れを 検証 した 。雌 雄ラ ット を用 いて肝灌流実験を 行い、ビスフェノールA 動態 を比 較し たと ころ 、雌 雄共 にピ スフ ウノ ール

A

は肝組織中で高率にグルク口ン酸抱合され、

主と して 胆汁 中に 排泄 され るこ とが 分か った 。ピスフェノール

A

グルク口ン酸抱合体の胆汁 また は静 脈中 への 総排泄量は雌が雄 を上回った。さらに、妊娠ラット肝を用いて肝灌流実験 を行い、非妊娠雌ラットと比較したところ、妊娠時で は非妊娠時に比べて胆汁側へのピスフェ ノー ルA 排泄 量が 約2 分 の

1

に 低下 した 。一 方、 代償的に静脈側へのグルク口ン酸抱合体排泄 量は 非妊 娠時 の約

3

倍 に 増加 した 。妊 娠ラ ット 肝に おけ るビ スフ ェノ ニル

A

グルク口ン酸抱 合体の胆汁または静脈中への総排泄量は、わずかに非 妊娠雌ラットを下回った。以上の結果、

妊娠 時に は胆 汁中 への ピス フウ ノー ルA グ ルク 口ン酸抱合体排泄量が減少し、代償的に静脈 中への排泄量が増すことが分かった。

  

以 上を まと める と、 ラッ トにおいてピスフウノール

A

は腸および肝において高率にグルク 口ン酸抱合されることが分かった。生成 されたグルク口ン酸抱合体のうち、腸管で粘膜側に 排泄されたものと、肝で胆汁中に排泄さ れたものは共に糞中に、また腸管で漿膜側に排泄さ れたものと、肝で静脈側に排泄されたも のは共に血液を介して腎臓から尿中に排泄されるこ とが 推察 され た。 しか し、 肝ビスフウノールA グルク口ン酸抱合体動態は、妊娠時において 大き く変 調し 、妊 娠時 には 血中を巡るピスフウノールA グルク口ン酸抱合体量が増加するこ とが 考え られ た。

‑ 30

(3)

学位論文審査の要旨

主査

  

教授

  

田 村   守 副査

  

教授

  

坂 口和 靖 副査

  

教授

  

矢 澤道 生

副査

  

教授

  

斉 藤昌 之 (獣 医 学研 究科 )

    

学 位論 文 題名

Detoxification of BisphenolA

an Environmental Estrogen

  by Glucuronidation Reaction in the Rat Hepatointestine

(ラット肝および腸における、環境エストロジェンビスフェノールA の

    

グルクロン酸抱合による解毒代謝)

  本論文は 、内分 泌撹乱 物質のーっであるポリカボネート系樹脂原料のビスフェノールAの生 体 内解毒機構の解明を目指し、グルクロン酸抱合を主軸に定め、ラット肝および腸におけるビ ス フェノ ールA代 謝・動 態につ いて検 討した 結果の 報告であ る。

1.ラット腸管におけるビスフェノールAの吸収とグルクロン酸抱合

  多くの薬物は腸管において吸収される。本研究では、まず吸収臓器である腸管に焦点を絞り、

ビ スフェノ ールAの 吸収と グルク ロン酸 抱合に よる代 謝にっ いて調 べた。4等分したラット空 回 腸および 結腸を 用いて 反転腸 管を作 成し、 腸管の 粘膜側にビスフェノールAを添加したとこ ろ 、腸管の いずれ の部位 でもビ スフェ ノールAの腸管 組織中への吸収が認められた。腸管に吸 収 されたビ スフェ ノールAのほと んどは 組織中 でグル クロン酸抱合され、腸管の粘膜側もしく は 漿膜側に 排泄さ れた。 ビスフ ェノー ルAグル クロン 酸抱合体の粘膜側への排泄は空回腸に多 く 、結腸に 少なか った。 一方、漿膜側へのグルクロン酸抱合体の排泄は遠位消化管、特に結腸 で 多かった 。反転 腸管の 粘膜側 に適用 するビ スフェ ノールA濃度を増したところ、漿膜側に未 抱 合のビス フェノ ールAが 検出さ れた。 未抱合 ビスフ ェノー ルAの漿 膜側へ の移送は特に結腸 で 顕著だっ た。以 上の結 果より 、ラッ ト腸管 におい てビスフェノールAは効率にグルクロン酸 抱合され、近位消化管では粘膜側に、また遠位消化管では漿膜側に排泄されることが分かった。

し かし、高 濃度の ビスフ ェノー ルA存在 下では ビスフ ェノー ルAは腸 壁を越 えて血液中に移行 することが明らかとなった。

2. ラ ッ ト 肝 に お け る ビ ス フ ェ ノ ー ルAグ ル ク ロ ン 酸 抱 合 お よ び 抱 合 体 動 態   血 液中に 流入し たビスフ ェノー ルAは門脈を経て肝臓に流入する。そこで、ラット肝灌流モ デル′を用いて、肝におけるビスフェノー′レA動態を調べた。ラット肝に門脈を介してビスフェ ノ ールAを 灌流した ところ 、ほと んどの ビスフ ェノー ルAは肝組織中に移行した。肝組織中に     ―31一

(4)

移 行 し た ビ ス フ ェ ノ ー ルAは 高 率 に グ ル クロ ン 酸 抱 合 され 、 静 脈 中 の灌 流 液 な ら びに 胆 汁 中 に 排 泄 さ れ た 。 ビ ス フ ェ ノ ー ルAグ ル ク ロ ン酸 抱 合 体 の 排泄 は 特 に 胆 汁中 に 多 く 認 めら れ た 。 ラ ッ ト 肝 に 灌 流 さ せ た ビ ス フ ェノ ー ルA量 を増 加 さ せ た とこ ろ 、 胆 汁 側ー の グ ル ク ロン 酸 抱 合 体 排 泄 量 が プ ラト ー に 達 し 、静 脈 側 へ の 排 泄が 代 償 的 に 増加 し た 。 こ れら の 結 果 か ら、 ラ ッ ト 肝 に お い て ビ ス フ ェ ノ ー ルAは 高 率 に グ ル クロ ン 酸 抱 合 され 、 主 と し て胆 汁 中 に 排 泄さ れ る こ と が 分 か っ た 。

3. ビ ス フ ェ ノ ー ルAグ ル ク ロ ン 酸 抱 合 体 輸 送 に お け るMRP2の 関 与 と 妊 娠 へ の 影 響   多くの 薬物グルクロン酸抱合体はmultidrug resistance associated protein (MRP)によって輸送され る 。MRPフ ァ ミ リ ー の ー つ 、MRP2は 肝 細 胞 の 胆 管 側 膜 や 腸 粘 膜 上 皮 細 胞 の 刷 子 縁 膜 な どに 局 在 し 、 細 胞 内 の薬 物 グ ル ク ロ ン酸 抱 合 体 を 細胞 外 へ と 汲 み出 す 。 本 研 究で ラ ッ ト 反 転 腸管 お よ び 肝 灌 流 実 験 で 認 め ら れ た ビ ス フ ェ ノ ー ルAグ ル ク ロ ン 酸 抱 合 体 の 排 泄 方 向 の 決 定 に、MRP2 が 関 与 す る か調 べ るべく 、MRP2欠 損ラッ トで あるEisai hyperbilirubinernicmt伍HBR) を用い た肝 灌 流 実 験 を 行 っ た 。El佃R肝 に ビ ス フ ェ ノ ー ルAを 流 入 さ せ た とこ ろ 、 胆 汁 側 ーの ビ ス フ ェ ノ ー ルAグ ル クロ ン 酸 抱 合 体排 泄 が ほ と ん ど消 失 し 、 静 脈側/丶 丶の排 泄が著 明に 増加し た。こ のこ と か らMRP2は ビ ス フ ェ ノ ー ノ レAの 排 泄 に 関 与 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。 次 に ラ ッ ト 肝 MRP2発 現 量 は 妊 娠 時 に 減 少 し ラ ッ ト 肝 ミ ク ロ ゾ ー ム で の ビ ス フ ェ ノ ー ルAグ ル ク ロ ン 酸 抱 合 能 の 低 下 が 示 され て い る 。 申 請者 は 、 雌 雄 ラッ ト を 用 い て肝 灌 流 実 験 を行 い 、 ビ ス フ ェノ ー ル A動 態 を 比 較 した と こ ろ 、 ゛雌 雄 共 に ビ ス フェ ノ ー ルAは肝 組 織 中 で 高率 に グ ル ク ロン 酸 抱 合 さ れ 、 主 と し て 胆 汁 中 に 排 泄 さ れ る こ と を 示 した 。 ビ ス フ ェノ ー ルAグ ルク ロ ン 酸 抱 合 体の 胆 汁 ま た は 静 脈 中 への 総 排 泄 量 は 雌が 雄 を 上 回 った 。 さ ら に 、妊 娠 ラ ッ ト 肝を 用 い て 肝 灌 流実 験 を 行 い 、 非 妊 娠 雌ラ ッ ト と 比 較 した と こ ろ 、 妊娠 時 で は 非 妊娠 時 に 比 べ て胆 汁 側 へ の ビ スフ ェ ノ ー ルA排 泄 量 が 約2分 の1に 低 下 し た 。 一 方 、 代 償 的 に 静 脈 側 ー の グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 体 排 泄 量 は 非 妊 娠 時 の 約3倍 に 増 加 し た 。 以 上 の 結 果 、 妊 娠 時 に は 胆 汁 中 へ のビ ス フ ェ ノ ールAグ ル ク ロ ン 酸 抱 合 体 排 泄 量 が 減 少 し 、 代 償 的 に 静 脈 中 へ の 排 泄 量 が 増 す こ と が 分 か っ た 。

  以 上 の 結 果 は 、 環 境 エス ト ロ ゲ ン であ る ビ ス フ ェノ ー ルAの 生体 内 解 毒 機 構 を明 ら か に し た もの で 、 特 に 妊娠 時 の 挙 動 は 本物 質 の 生 体 毒性 を 初 め て 生化 学 的 な 立 場か ら 示 唆 し た もの で あ り 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) を 授 与 さ れ る 資 格 が あ る も の と 認 め る 。

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参照

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