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水産加工における過熱水蒸気の応用に関する研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 阿 部    茂

学 位 論 文 題 名

水産加工における過熱水蒸気の応用に関する研究 学位論文内容の要旨

  消費者の食品に対するニーズは年々多様化してきている.また,相次ぐ食中毒事件や食 品の偽装事件から,消費者の食に対する関心も高い,一方,食品加工メーカーでは,徹底 したコス卜削減を図る中で,輸入品との差別化,高品質化,および新製品の開発も急務 となって おり,汎 用性が高 く,即効 性のある 新しい製造 技術が切 望されている,

  本研究で用いる過熱水蒸気とは大気圧下で沸騰気化した飽和水蒸気に熱を加え,100

℃より高い温度にした完全気体状態の乾き蒸気である.過熱水蒸気による加熱処理の 初期では,過熱水蒸気の凝縮伝熱による湿熱加熱が,また,表面温度が100℃に達した 段階からは,過熱水蒸気の顕熱が乾熱として利用される.さらに,処理中の庫内は過 熱水蒸気で満たされるため,低酸素雰囲気下の加熱が可能である,これらの特徴から,

過熱水蒸気は食品加工において迅速な加熱処理,色調改善,表面殺菌,酸化抑制等の 効果を有する新たな加熱方法として注目されている.過熱水蒸気技術は機械金属工業 や化学工業において,空気より伝熱効率の優れた加熱処理方法のーっとして従来から 利用され ていたが,食品加工において過熱水蒸気処理の有用性が報告されるように なったのは比較的最近のことである,しかもその多くは食品の乾燥に過熱水蒸気を用 いた場合の乾燥効率に関する報告であり,過熱水蒸気処理を行った食品の品質にっい て詳細に論じている報告は極めて少ない,

  本研究は従前の熱力学的観点からの過熱水蒸気の乾燥効率にっいて検討を行うので はなく,過熱水蒸気処理を行った食品の品質的な優位性について水産化学的視野から 明らかにすることを主たる目的とし,具体的には水産加工品の製造工程で用いられて いる熱水や高温空気などの加熱方法を,過熱水蒸気処理に置き換えた場合のエキス損 失低 減 効 果, 表 面殺 菌 効 果, お よ び油 脂 酸化 抑 制効果 について 検討を行っ た,

・エキス損失抑制効果および表面改質効果

  過熱水蒸気は加熱初期の凝縮による熱伝達と,表面が100℃に達した段階の顕熱によ る加熱を特徴としているが,第3章ではこれらの特性を利用し,ホタテ貝柱の蒸煮や煮     ―74―

(2)

熟に代わる新たな加熟方法として過熱水蒸気の可能性を検討した,その結果,過熱水 蒸気処理は,加熱初期における表面温度の急激な上昇と表面乾燥後の内部の緩慢な加 熱が,蒸煮や煮熟と異なる特性として示された,蒸煮や煮熟では加熱直後から急激な 重量減少とエキス成分の流出が起きたが,過熱水蒸気処理では重量減少は緩慢であり,

エキス成分の流出はほとんど起きなかった.この現象にっいて組織の微細構造の観察 を行った結果,加熱初期における表面乾燥が表面組織に15〜30皿mのタンパク質の乾 燥皮膜を形成し,この乾燥皮膜がエキス成分の流出を防いでいることが明らかとなっ た.さらに表面には内部から発生した蒸気によって形成したと考えられる多数の小孔

(1〜2pm)が観察された.表面の乾燥皮膜形成は過熱水蒸気処理の独特の現象であり,

色調改善効果や物性改善効果も同様のメカニズムによると考えられた,ただし,200℃ 以上の高温蒸気では着色や食感の硬化などを招いたため,煮熟や蒸煮の代替として過 熱水蒸気を用いる場合は,150℃程度での利用が良好な結果を示すことがわかった,

・表面殺菌効果

  過熱水蒸気による加熱は,初期の湿熱と表面が100℃以上に達した後の乾熱により行わ れる.湿熱加熱から乾熱加熱を極短時間に行うことは,従来湿熱殺菌が困難であった食 品の表面殺菌を可能とする.第4章では過熱水蒸気を用いた水産乾製品の表面殺菌効果に ついて検討した.菌叢解析の結果,サケ乾燥品とスルメにはKocur ia属やStaphylococcus 属などの耐乾性の強い微生物が優勢種であることが判明した,これらの微生物を対象と した場合,120℃や180℃の高温空気では殺菌効果が極めて弱かったが,過熱水蒸気では 同温度の1分間以下の処理で十分な殺菌効果が得られた,さらに内部ーの加熱変性の影響 を抑制するために,スリットより噴射した過熱水蒸気を短時間照射し,境膜の破壊を促 進した場合の殺菌効果をスルメを用いて検討を行った.その結果,170℃および225℃で5 cm/秒のコンベアスピードでは菌数が210gcf u/g以上減少し,色や硬さにも影響が少なぃ ことがわかった,これらの結果は,短時間の過熱水蒸気処理は内部の加熱変性を抑制し,

か つ 表 面 の 微 生 物 を 低 減 さ せ る こ と に 有 効 で あ る こ と を 示 し て い る ,

・加熱時の油脂酸化抑制効果

  過熱水蒸気は無酸素下での加熱が可能であることも特徴の→っであり,油脂の劣化 を抑制した加熱が可能となる.第5章では過熱水蒸気と高温空気の雰囲気下で高度不飽 和脂肪酸を多く含有する油脂を薄膜状にして処理した場合の油脂組成の変化や脂肪酸 組成に与える影響について基礎的な検討を行ない,さらに第6章では高温空気と比較し て乾燥効率が優れていることを応用し,フイッシュミールなどの製造を想定した魚体 の迅速乾燥と抽出油脂の酸化抑制の両面から検討を行った.その結果,高温空気は過

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熱水蒸気より加熱効率が悪いために乾燥までに時間を要した.粗原油の過酸化物価や 極性脂質も顕著に増加し,加熱処理時の酸化が著しく進行することが明らかとなった.

一方,過熱水蒸気処理は乾燥効率が良く,粗原油の色調の変化が少なかった.第5章お よび第6章のいずれの結果においても、脂質組成や遊離脂肪酸組成の変化がわずかであ ったことから,過熱水蒸気処理は高度不飽和脂肪酸を含む油脂の劣化が起こらないこ とがわかった,さらに,過熱水蒸気は粗原油に含まれている過酸化脂質を熟加水分解 し,アルデヒドなどの低分子カルボニル化合物とするため,処理後の粗原油の過酸化 物価やカルボニル価は減少した.また,すべての試験において酸価は大きな変化が見 られなかった.これらの結果はフイッシュミールの乾燥や魚油の製造に過熱水蒸気を 用いることによって,従来の高温空気を用いて製造したものより高品質な製品ができ ることを示している.

  以上,本論文では水産加工において,過熱水蒸気処理はエキス成分損失抑制効果,

表面殺菌効果,および油脂酸化抑制効果を有することを明らかにした.水産加工品に おける消費者の評価は外観と風味でほぼ決定される,一方,食品企業では賞味期限の 延長,製造コス卜の削減,製品歩留まりの向上が重要視されており,消費者と食品企 業が水産加工品に求めている品質は相反しているといえる.その点を考慮すると,エ キス成分損失抑制効果や酸化抑制効果を有する過熱水蒸気技術は消費者の求める高品 質な食品の提供が可能であり,食品企業では製品歩留まりの向上や高い殺菌効率によ る賞味期限の延長などが期待できることから,双方のニーズを充足する新たな加工法 になりえると考える,

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学位論文審査の要旨 主査    教授    宮 下和夫 副査    教授    佐 伯宏樹 副査    准教授   細川雅史

学 位 論 文 題 名

水産加工における過熱水蒸気の応用に関する研究

  過 熱 水 蒸 気 と は 大 気 圧 下 で 沸 騰 気 化 し た 飽 和 水 蒸 気 に 熱 を 加 え 、100℃ よ り 高 い 温 度 に し た 完 全 気 体 状 態 の 乾 き 蒸 気 の こ と を い う 。 過 熱 水 蒸 気 処 理 の 初 期 で は 、 過 熱 水 蒸 気 の 凝 縮 伝 熱 に よ る 湿 熱 加 熱 が 、 表 面 温 度 が100℃ に 達 し た 段 階 以 降 は 、 過 熱 水 蒸 気 の 顕 熱 が 乾 熱 と し て 利 用 で き る 。 ま た 、 処 理 中 に は 大 気 が 過 熱 水 蒸 気 で 飽 和 さ れ る た め 、 低 酸 素 雰 囲 気 下 の 加 熱 が 可 能 で あ る 。 こ れ ら の 特 長 か ら 、 過 熱 水 蒸 気 は 食 品 加 工 に お い て 迅 速 な 加 熱 処 理 、 色 調 改 善 、 表 面 殺 菌 、 酸 化 抑 制 等 の 効 果 が 期 待 で き る が 、 こ う し た 観 点 か ら の 研 究 は ほ と ん ど な い 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 過 熱 水 蒸 気 処 理 の 水 産 食 品 加 工 へ の 優 位 性 に つ い て 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。 具 体 的 に は 、 水 産 加 工 品 の 製 造 工 程 で 用 い ら れ て い る 熱 水 や 高 温 空 気 な ど の 加 熱 方 法 を 、 過 熱 水 蒸 気 処 理 に 置 き 換 え た 場 合 の エ キ ス 損 失 低 減 効 果 、 表 面 殺 菌 効 果 、 油 脂 酸 化 抑 制 効 果 に っ い て 検 討 し た 。

  そ の 結 果 、 以 下 の よ う な 成 果 が 得 ら れ た 。

1. エ キ ス 損 失 抑 制 効 果 お よ び 表 面 改 質 効 果

  ホ タ テ 貝 柱 の 加 熱 処 理 に は 、 蒸 煮 や 煮 熟 が 通 常 用 い ら れ る 。 本 研 究 で は 、 こ う し た 通 常 の 加 熱 処 理 と 過 熱 水 蒸 気 に よ る 処 理 に つ い て 、 特 に 、 エ キ ス 分 の 損 失 に 着 目 し て 比 較 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 過 熱 水 蒸 気 処 理 で は 、 加 熱 初 期 に お け る 表 面 温 度 の 急 激 な 上 昇 と 、 表 面 乾 燥 後 の 内 部 の 緩 慢 な 加 熱 が 蒸 煮 や 煮 熟 と 異 な る 特 性 と し て 明 ら か に な っ た 。 蒸 煮 や 煮 熟 で は 加 熱 直 後 か ら 急 激 な 重 量 減 少 と エ キ ス 成 分 の 流 出 が 起 き た が 、 過 熱 水 蒸 気 処 理 で は 重 量 減 少 は 緩 慢 で あ り 、 エ キ ス 成 分 の 流 出 は ほ と ん ど 起 き な か っ た 。 ホ タ テ 微 細 構 造 の 組 織 観 察 を 行 っ た と こ ろ 、 加 熱 水 蒸 気 処 理 で は 、 そ の 初 期 に 、 表 面 組 織 に15

〜30 mの タ ン パ ク 質 の 乾 燥 皮 膜 が 形 成 さ れ 、 こ の 乾 燥 皮 膜 が 加 熱 時 の エ キ ス 成 分 の 流 出 を 防 い で い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、 こ の よ う な 皮 膜 形 勢 に よ り 、 色 調 改 善 効 果 や 物 性 改 善 効 果 も 見 ら れ た 。

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2 .表面殺菌効果

   過熱水蒸気による加熱は、初期の湿熱と表面が100 ℃以上に達した後の乾 熱により行われる。この湿熱加熱から乾熟加熱を極短時間で行うことによ り、従来湿熱殺菌が困難であった食品の表面殺菌が可能であることが明らか に な っ た 。 サ ケ 乾 燥 品 と ス ル メ の 菌 叢 解 析 の 結 果 、 Kocuria 属 や Staphylococcus 属などの耐乾性の強い微生物がこうした水産食品における優 勢種であった。したがって、120 ℃や180 ℃の高温空気では殺菌効果が極めて 弱かった。一方、過熱水蒸気では1 分間以下の処理で十分な殺菌効果が得ら れた。さらに内部への加熱変性の影響を抑制するために、スリットより噴射 した過熱水蒸気を短時間照射し、境膜の破壊を促進した場合の殺菌効果をス ルメを用いて検討したところ、170 ℃および225 ℃でScm/ 秒のコンベアスピー ドでt ま、菌数が210gcfu/g 以上減少し、色や硬さにも影響が少ないことがわ かった。これらの結果より、短時間の過熱水蒸気処理は内部の加熱変性を抑 制し、かつ表面の微生物を低減させるのに有効であることがわかった。

3. 加熱時の油脂酸化抑制効果

   過熱水蒸気は無酸素下での加熱が可能である。そこで、過熱水蒸気と高温 空気の雰囲気下で高度不飽和脂肪酸を多く含有する水産油脂を薄膜状にした ところ、高温空気では、油脂の酸化が著しく進行したが、過熱水蒸気処理で は油脂の酸化はほとんど観察されず、油脂の色調の変化も少なかった。ま た、フイッシュミールからのタンパク質と油脂の分離工程を想定し、カタク チイワシを通常の高温処理と加熱水蒸気処理を行った。得られた油脂の脂質 組成、遊離脂肪酸組成、過酸化物の生成などについて検討したところ、高温 処理では油脂の酸化が亢進されるのに対し、過熱水蒸気処理では分離された 油脂の酸化はほとんど見られなかった。

   このように、本研究では、過熱水蒸気処理による乾燥および加熱処理が、

従来法と比較して、エキス成分損失が少なく、表面殺菌効果が高く、かつ、

水産油脂の酸化抑制効果を有することを初めて明らかにした。また、本研究

では、加熱水蒸気を現場に応用する際に必要となる機械の設定条件などにつ

いても明らかにした。これらの成果は、品質に優れた水産食品を製造する上

で有益な知見を与えるものと高く評価される。よって審査員一同は本研究の

申請者が博士(水産科学)の学位を授与される資格のあるものと判定した。

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