不斉 NHC 配位子‐金属錯体の設計、合成と 触媒活性に関する研究
Research on Design, Synthesis, and Catalytic Activity of Chiral N-Heterocyclic
Carbene Ligand-Metal Complexes
2016 年 2 月
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 化学・生命化学専攻 化学合成法研究
碓井 建佑
Kensuke USUI
略語表
Ac : acetyl
AIBN : 2,2'-azo-bisisobutylonitrile
Alloc : allyloxycarbonyl
aq. : aqueous
Ar : aryl
BINAP : 2,2'-bis(diphenylphosphino)-1,1'-binaphthyl BINOL : 1,1'-bi-2,2'-naphthol
Bn : benzyl
Bu : butyl
cod : 1,5-cyclooctadiene
Cp : cyclopentadienyl
Cy : cyclohexyl
DART : direct analysis in real time
DCE : 1,2-dichloroethane
DIBAL-H : diisobutylaluminum hydride
DME : 1,2-dimethoxyethane
DMF : N,N-dimethylformamide
DMSO : dimethylsulfoxide
ee : enantiomeric excess
equiv. : equivalent
ESI : electrospray ionization
Et : ethyl
HFIP : 1,1,1,3,3,3-hexafluoroisopropanol HPLC : high-pressure liquid chromatography HRMS : high-resolution mass spectrometry KHMDS : potassium bis(trimethylsilyl)amide LRMS : low-resolution mass spectrometry
Me : methyl
Mes : mesityl
MOM : methoxymethyl
mp : Melting point
MS : molecular sieves
N.R. : no reaction
NBS : N-bromosuccinimide
NHC : N-heterocyclic carbene NMP : N-methyl-2-pyrrolidinone
NMR : nuclear magnetic resonance
ORTEP : oak ridge thermal ellipsoid plot
ovn : overnight
Ph : phenyl
pTSA : p-toluenesulfonic acid
Rf : retention factor in chromatography
rt : room temperature
sat. : saturated
soln. : solution
solv. : solvent
temp. : temperature
Tf : trifluoromethansulfonyl
TFAA : trifluoroacetic anhydride
THF : tetrahydrofuran
TLC : thin-layer chromatography
TON : turnover number
目次 第1章 序論
第1節 研究背景 … 1
第2節 NHC配位子 … 2
第3節 不斉NHC配位子の分類 … 4
第2章 C2対称不斉三座NHC配位子の設計と合成に関する研究
第1節 配位子設計 … 6
第2節 アキラルNHC配位子の合成戦略 … 8 第3節 アキラルNHC配位子の合成(ジアミンの合成) … 9 第4節 アキラルNHC配位子の合成(イミダゾリニウム塩の合成) … 10 第5節 キラルNHC配位子の合成戦略 … 14 第6節 キラルNHC配位子の合成(ジアミンの合成) … 15 第7節 キラルNHC配位子の合成(イミダゾリニウム塩の合成) … 17
第3章 C2対称不斉ビナフチルNHC配位子の設計と合成、及び触 媒活性に関する研究
第1節 配位子設計 … 20
第2節 合成戦略 … 21
第3節 8員環1,2-ジケトンの合成 … 22
第4節 イミダゾリウム塩の合成 … 25
第5節 NHC-ロジウム(I)錯体の合成と不斉1,2-付加反応の検討 … 27 第6節 NHC-金(I)錯体の合成 … 29 第7節 不斉エン-イン環化反応の検討 … 31
第4章 C2対称不斉ビスビナフチルNHC配位子の設計と合成、及 び触媒活性に関する研究
第1節 配位子設計 … 34
第2節 合成戦略 … 36
第3節 イミダゾリウム塩の合成 … 37
第4節 NHC-金(I)錯体の合成 … 40 第5節 不斉エン-イン環化反応の検討 … 42
第5章 総括 … 48
第6章 実験項 … 50
参考文献 … 100
1 第1章 序論
第1節 研究背景
有機合成化学は、これまで医薬品をはじめ、農薬や有機機能性分子などの発展に大き く寄与し、人間社会に対して多大な貢献をしてきた。なかでも、人体に投与するため精 密な合成が必要とされる医薬品合成において、有機合成化学が果たしてきた役割は非常 に大きい。こうした生物活性化合物の精密合成において重要なのが、いかにして光学純 度の高い光学活性化合物を得るか、ということである。光学活性化合物を合成するため には、キラルプール法や光学分割といった手法があるが、前者は合成手法が限られてし まうため、後者は一方の鏡像異性体を無駄にしてしまうため効率が低い。一方、不斉触 媒反応は、光学不活性化合物から望みの光学活性化合物を選択的に合成することができ、
加えて触媒量の不斉源で効率的に行えるため、社会的要請である省資源や省エネルギー、
低環境負荷にも対応できる有用な手法である。なかでも不斉遷移金属触媒反応は、少な い触媒量で反応が進行し、これまでは合成が困難であった構造をもつ化合物も合成可能 となることから非常に重要な反応といえる。この不斉遷移金属触媒反応の反応性や選択 性の鍵を握るのが不斉配位子である。そのため、これまでに多くの研究者によって様々 な不斉配位子が開発されてきたが、また、それと同時に新たな配位子や遷移金属触媒反 応が開発されており、まだまだ発展の余地を含んでいる。そこで著者は効率的な不斉遷 移金属触媒反応を開発するため、近年、急速に研究が展開されている含窒素複素環カル ベン(N-heterocyclic carbene、以下NHC)配位子に着目した。
2 第2節 NHC配位子
NHCとは窒素原子によって安定化された環状のカルベン種であり、1968年にÖfele1)
とWanzlick2)によってそれぞれ金属錯体が合成された(Fig. 1A, B)。そして彼らの研究か
ら二十年余り後の1991年、Arduengo3)によって安定なNHCが合成され、X線結晶構造 解析によってカルベン構造が確認された(Fig. 1C)。
N N
Cr(CO)5
Öfele's NHC-chromium complex
N N Hg
N N
Ph Ph
Ph Ph
2+
2ClO4
Wanzlick's NHC-mercury complex
N N
Arduengo's free NHC
A B C
Figure 1. Pioneering studies on NHC.
これらの先駆的な研究を皮切りに、NHC に関して盛んに研究がなされ、その化学的 特徴から多くの研究者の興味を引いてきた4)。NHCは特にσ ドナー性とπ アクセプタ ー性を併せ持つため、後期遷移金属に対して強く配位することができ、安定な錯体を形 成するという特徴をもつ(Fig. 2)。
NN R
R
M
-acceptation N N
R
R
M
-donation
Figure 2. NHC's coordination character.
後期遷移金属に対する配位子としてはリン配位子が古くから研究されており、一般的 によく用いられているが、NHC 配位子の配位能はリン配位子よりも強く、そのためリ ン配位子よりも安定な錯体を形成する。また、リン配位子は空気中で酸化されやすいた め、配位子やその錯体は取扱いが煩雑となる場合があるが、NHC 配位子は空気中でも 安定であり取扱いは容易である。加えて、NHC 配位子はリン配位子よりもσ ドナー性 が強くπアクセプター性が弱いため、金属原子の電子密度を高くし高原子価状態を安定 化させることで、錯体の反応性を高めることが知られている(Scheme 1)。
3
Scheme 1. Ring-Closing Metathesis with Grubbs Catalyst I or II5)
Ru PCy3
PCy3 Cl
Cl Ph
Grubbs I
Ru PCy3 Cl
Cl Ph
Grubbs II N
N Mes
Mes
E E Me
OH OH
Me E Grubbs I or II E
(5 mol%) 10 min
Grubbs I or II (5 mol%)
10 min
1st: 20%
2nd: quant.
1st: 0%
2nd: quant.
E = CO2Et
以上の理由からNHC配位子は既存のリン配位子に代わる新たな配位子として盛んに 研究されてきたが、不斉NHC配位子の研究は未発達である6)。それはNHC配位子の構 造上の問題に起因している。NHC配位子の窒素原子上の置換基は、炭素–窒素結合や炭 素–金属結合の自由回転により、効果的な不斉環境を構築することが困難となるからで
ある(Fig. 3)。そこで筆者は、不斉NHC配位子に関する研究、そして不斉遷移金属触媒
反応の発展に寄与すべく、この問題を解決するような新規不斉NHC配位子を設計、合 成し、その性能を評価することを研究目的とした。
N N
Me
Ph Me
Ph N N Ph
Ph Me
Me N N Ph
Me Ph
Me C–N bond
rotation C–N bond
rotation
Figure 3. C–N bond rotation on chiral NHC.
4 第3節 不斉NHC配位子の分類
これまでに報告されているNHC配位子はイミダゾリリデン型(Fig. 4A)とイミダゾリ ニリデン型(Fig. 4B)に大別される。このほかにも6員環(Fig. 4C)や7員環(Fig. 4D)のNHC 配位子や、カルベン炭素の位置が異なるアブノーマルNHC配位子(Fig. 4E)などが報告 されているが、安定性や合成の容易さなどからイミダゾリリデン型とイミダゾリニリデ ン型のNHC配位子が大部分を占めている。この二種類の違いはNHCの4,5位に二重結 合が導入されているか否かである。二重結合によりπ電子の共役系が拡張されているイ ミダゾリリデン型は安定性の面で優れており、一方で4,5位が飽和炭素であるイミダゾ リニリデン型はσドナー性に優れている。
N N N N
imidazolylidene type imidazolinylidene type
N N
6-membered NHC
N N
7-membered NHC
N N
abnormal NHC
4 5 4 5
4
A B
C D E
Figure 4. Examples of various NHC ligand7).
また不斉NHC配位子は、配位子のどこに不斉源があるのかで次の二つに分類される。
一つ目は、イミダゾリニリデン環の4,5位の炭素原子を不斉炭素原子とし、それにより 窒素原子上の置換基Rに不斉環境を誘起させるタイプである(Type A, Fig. 5)。このタイ プは置換基 R に制限がないため、様々な機能をもつ置換基を導入することができ、多 様なNHC配位子を合成することが可能である。その反面、イミダゾリニリデン型のNHC 配位子に限定されてしまうため、前述の理由でイミダゾリリデン型NHC配位子よりも NHC、前駆体ともに不安定であり、しばしば慎重な取り扱いが必要となる。
二つ目は、窒素原子上の置換基に不斉炭素原子を導入することで、直接不斉環境を構 築するタイプである(Type B, Fig. 5)。このタイプはイミダゾリニリデン型、イミダゾリ リデン型ともに合成することが可能であり、またイミダゾリリデン型であれば4,5位の 置換基の電子的な性質を変化させることで配位子のドナー性やアクセプター性などの
5
電子的な調整を行いやすい。その反面、置換基 R の構造が制限されてしまうことに加 え、炭素–窒素結合の自由回転によって効果的な不斉環境の構築が困難となる。後者の 問題点に関しては、窒素原子上の置換基をイミダゾリリデン環(またはイミダゾリニリ デン環)の 4,5 位と結合させ、固定することで改善した NHC 配位子も報告されている (Type B’, Fig. 5)。
N N
R' R'
R R
N N
R R
R' R'
N N
R R
R' R'
N N
R
R
R' R'
Type A Type A' Type B Type B'
Figure 5. Types of chiral NHC ligand.
筆者は異なる3つのアプローチで不斉NHC配位子の開発に関する研究を行った。第 2章では三座で配位することができるType Aの不斉NHC配位子の開発に関する研究を、
第3章ではType Aの問題点である安定性の問題点を解決したType A’(Fig. 5)の不斉NHC
配位子の開発に関する研究を、第4章では第3章にて開発した配位子の問題点を解決し
たType B’の不斉NHC配位子の開発に関する研究を記載する。
6
第2章 C2対称不斉三座NHC配位子の設計と合成に関する研究 第1節 配位子設計
第1章で述べた NHC配位子の問題を克服する新たな不斉 NHC 配位子を設計するに 当たり、金属に対し三座で強固に配位することができるピンサー型配位子に着目した。
ピンサー型配位子は1970 年代初頭より研究されてきた配位子であり、安定な金属錯 体を形成することで知られている 8)。その特徴として、炭素–金属結合を有するため金 属周りの電子状態を容易に調節することができ、また、窒素原子やリン原子などのドナ ーを分子内に有し三座で金属に配位するため、熱的に非常に安定な錯体を形成する点が 挙げられる。そのため触媒反応においてピンサー錯体は高い触媒回転数を示すことが報 告されている(Scheme 2)。
Scheme 2. Heck Reaction with Pincer-Pd Catalyst9)
Pd
O O
P ArO P
ArO
OAr OAr I
I CO2nBu Na2CO3, hydroquinone NMP, 180 °C, 22 h 89% yield, TON = 8,900,000
CO2nBu Ar = 4-MeO-C6H4
Shibasaki's catalyst (0.1 ppm)
このようなピンサー型配位子の特徴とNHC配位子を組み合わせれば、第1章で述べ た炭素–窒素結合や炭素–金属結合の自由回転による問題を三座配位により克服し、効果 的な不斉環境が構築できるだけでなく、触媒回転数の高い反応が開発できると考えた。
NHC配位子とピンサー型配位子を組み合わせたピンサー型NHC配位子はこれまでにも 研究、開発されてきたが、その数は少なく8e)、不斉配位子ともなると極めて少ない(Fig.
6)。加えて、それらを用いた不斉触媒反応は報告が無く、未だ開拓の余地を大きく残し ている。そこでピンサー型NHC配位子の不斉触媒反応における知見を集積するために も、新規なC2対称不斉三座NHC配位子を設計することにした。
7
N N
Me Me
Fe
Fe PPh2 Ph2P
Togni's NHC ligand
N N
N O
O N
Gade's NHC ligand
N N
N N
Angelici's NHC ligand
Figure 6. Examples of reported chiral tridentate NHC ligand10).
設計した不斉NHC配位子をFigure 7に示す。合成の簡便さを考慮して、前述のType Aの不斉NHC配位子を選択した。これにより市販されている光学活性なエチレンジア ミン誘導体から短工程での合成が可能になると考えた。またイミダゾリニリデン環とド ナー部位とを結ぶリンカーには、剛直な平面により効果的に4,5位の不斉炭素からの不 斉誘起が期待できるベンゼン環を採用した。ドナー部位は平面性の高いピリジン環とす ることで効果的な不斉環境の構築ができると考えた。また配位子を C2対称な構造とす ることで、不斉触媒反応において取りうる遷移状態を限定的にした。
N N
M O
O N N
R R
N N
O O
N N
M R
R
C2-symmetry N N
M R R
N N
N N
N N M
C2-symmetry
R
R
Figure 7. Designed chiral tridentate NHC ligand.
8 第2節 アキラルNHC配位子の合成戦略
前述のようにピンサー型NHC配位子に関する研究はほとんど行われていないため、
まずイミダゾリニリデンの 4,5 位に不斉炭素原子をもたないアキラルなピンサー型 NHC 配位子を合成し、その物性や反応性についての知見を得ることにした。本配位子 の合成戦略をScheme 3に示す。配位子前駆体であるイミダゾリニウム塩2はジアミン 3から合成できると考え、ジアミン3はジイミン4もしくはジアミド5を還元すること で得られると考えた。ジイミン4およびジアミド5はオルト位にピリジンを有するアニ リン誘導体6から合成できるものとした。
Scheme 3. Synthetic Plan for Achiral Tridentate NHC Ligand 1
3 NH HN
N N
2
N N
NX N
1
N N
N N
4
N N
N N
NH HN O O
N N
5
NH2 N
6 or
9
第3節 アキラルNHC配位子の合成(ジアミンの合成)
アキラル三座NHC配位子を合成するに当たり、まずオルト位にピリジンを有するア ニリン誘導体6 をOalmann らの報告に従って合成し11)、これを用いてジイミンの合成 を検討した(Table 1)。まず一般的な手法である、触媒量のギ酸を用いて6とグリオキサ ール溶液との反応を試みたが、反応は進行しなかった(entry 1)。続いて反応性を向上さ せるため、グリオキサール溶液を凍結乾燥させて得たグリオキサールポリマーとpTSA を用いて無溶媒で反応を行ったが、この条件においても反応は全く進行しなかった
(entry 2)12)。また、コバルト塩を鋳型として用いた反応も試したが、微量のアリールア
ミン-コバルト錯体が観測されるのみで、所望のジイミン4は全く得られなかった(entry 3)13)。
Table 1. Dehydrative Concentration of Arylamine 6 with Glyoxal
entry 1 2 3
conditions result
N.R.
N.R.
N.R.
glyoxal soln. HCO2H, MeOH, reflux, 72 h glyoxal polymera, pTSAH2O, 70 °C, 24 h glyoxal soln. CoCl2·6H2O, MeOH, reflux, 48 h
aGlyoxal polymer was prepared from glyoxal solution by freeze-drying.
NH2 N
6 4
N N
N N
この結果は、一般的にアニリンは求核性が低いことに加え、アニリンのオルト位に置 換基が張り出しているため窒素原子上の非共有電子対が置換基側を向いていることで、
その求核性が著しく低下していることが原因と考えられた。
そこで、より求電子性の高い二塩化オキサリルとの反応を試みた(Scheme 4)。二塩化 オキサリルに対して、塩基存在下、アニリン誘導体6を反応させたところ、期待通り反 応は進行し対応するオキサリルジアミド5を合成することに成功した。つづいて、得ら れたオキサリルジアミドを還元することによりジアミン3を合成した。
Scheme 4. Preparation of Diamine 3a
NH HN O O
N N
aReagents and conditions: (a) (COCl)2, Et3N, CH52Cl2, rt, 1 h, 88%; (b) DIBAL-H, 1,4-dioxane, 50 °C, 3 h, 30%.3 NH HN
N N
NH2 N
6
a) b)
10
第4節 アキラルNHC配位子の合成(イミダゾリニウム塩の合成)
オルト位にピリジンを有するジアミン3が合成できたため、配位子前駆体となるイミ ダゾリニウム塩の合成に取り掛かった(Table 2)。まず常法に則り、触媒量のギ酸とアン モニウム塩存在下、オルトギ酸トリエチルを溶媒として反応を行ったところ、イミダゾ リニウム塩は全く得られず、代わりにホルムアミド7とビスホルムアミド8が得られた
(entry 1)。ここで問題となるのはビスホルムアミドが生成したことである。これはすな
わち、片方のアミンがオルトエステルと反応してイミニウムイオンが生じた後、もう一 方のアミンがイミニウムイオンに対して分子内で反応するよりも、もう一分子のオルト エステルと分子間で反応するほうが速いことを意味している。そこでトルエンでオルト エステルを希釈することで分子内反応を優先させようとしたが、entry 2の条件でもビス ホルムアミド8が得られてしまった。entry 3の条件ではビスホルムアミドは得られなか ったが、ホルムアミド7が得られるのみであり、イミダゾリニウム塩を合成することは 出来なかった。
この結果はジアミン3の求核性が非常に低いことが原因と考えた。一般的にアリール アミンの求核性は低いことが知られているが、ジアミン3の場合、それに加えて分子内 水素結合による影響も考えられた。ジアミン3の1H NMRを解析してみると、アミン上 のプロトンのケミカルシフト値がδ(CDCl3) = 8.38 ppm、δ(DMSO-d6) = 8.62 ppmであり、
一般的なアリールアミンに比べると大きく低磁場シフトしている。このことからジアミ ン3は分子内水素結合していることが示唆された(Fig. 8)。そのためピリジン環が窒素原 子の近傍に固定され、立体的にも求核性が低下していると思われた。
また、この水素結合によるアミン部位の嵩高さによって二つのアミンが反対方向を向 いてしまうことが、分子内反応を進行しにくくする原因と考えた。
以上のことから、分子内水素結合を阻害できれば分子内反応が進行しやすくなると考 え、アルコールの添加を試みた。まず、100 °C以上の反応条件にも耐える1-ブタノール を溶媒として用いたところ、期待通り反応は進行し、TLC上で目的のイミダゾリニウム 塩と思われる化合物が確認された(entry 4)。しかしながらこの化合物はヘキサンなどの 低極性の溶媒中では不安定であり、溶媒として用いた1-ブタノールやオルトギ酸トリエ チルを除く際に、徐々にホルムアミド7へと分解してしまい単離することが出来なかっ た。そこで容易に留去することができる揮発性の高いアルコールとして1,1,1,3,3,3-ヘキ サフルオロイソプロパノール(HFIP)に着目した。HFIP は分子内に 6 つのフッ素原子を 有するため分子間力が弱く揮発性が高い。また、ベンズイミダゾールやアミジンを合成 する際の溶媒として有用なことが報告されており14)、イミダゾリニウム塩の合成に適し ていると考えた。オルトギ酸トリエチルの代わりに、より沸点の低いオルトギ酸トリメ チルを用いて反応を行ったところ、室温でも反応が速やかに進行し、対応するイミダゾ リニウム塩を良好な収率で与えた(entries 5 and 6)。
11 Table 2. Preparation of Imidazolinium Salts 2
3 NH HN
N N
2
N N
NX N
entry reagent (equiv) solv. temp. (°C) yielda (%)
1 2 3 4 5 6
NH4BF4 (3), HCO2H (cat.) NH4BF4 (3) NH4BF4 (3), CH(OEt)3 (2)
NH4BF4 (3) NH4BF4 (1.2)
NH4Cl (1.2)
CH(OEt)3 CH(OEt)3/toluene = 1/10
toluene CH(OEt)3/nBuOH = 1/10
CH(OMe)3/HFIP = 1/10 CH(OMe)3/HFIP = 1/10
120 reflux reflux reflux rt rt
0b 0b 0c 0d 79 (X = BF4)
73 (X = Cl)
aYields were determined by 1H NMR using fluorene as internal standard. bFormamide 7 and bisformamide 8 were obtained.cFormamide7was obtained.dImidazolinium salt was observed at TLC, but it decomposed to formamide 7 at purification.
N HN
N N
OHC
N N
N N
OHC CHO
7
8 time (h) 24 24 24 24 1 1
N N
H H
N N
H(amine)
CDCl3) = 8.38 ppm
DMSO-d6) = 8.62 ppm
3
Figure 8. Hydrogen bonds between amine and pyridine on diamine 3.
合成したイミダゾリニウム塩2は、低極性溶媒中や無溶媒では不安定であったが、興 味深いことに、メタノールや DMSO といった高極性溶媒中では安定であった。そこで 構造決定は未精製のイミダゾリニウム塩のメタノール、または DMSO 溶液を用いて行
った(Fig. 9)。まずイミダゾリニウム塩のメタノール溶液を用いて高分解能質量分析を行
ったところ、対アニオンのないイミダゾリニウムカチオンのm/zが観測された。つづい てイミダゾリニウム塩の重DMSO溶液を用いて1H NMRの測定を行ったところ。Hbの ケミカルシフト値がジアミン3と比較して約0.7 ppm低磁場シフトしていること、およ
び8.9 ppm付近にHaのシグナルが観測された。これらを持ってイミダゾリニウム塩が
合成できていることを確認した。なお対アニオンは、反応条件からの推定である。
12
3 NH HN
N N 2-BF4
N N
N N
BF4
N N
N N
Cl
2-Cl Hb
HRMS (ESI) [M-BF4] Calcd.: 377.1761 Found: 377.1754
HRMS (ESI) [M-Cl]
Calcd.: 377.1761 Found: 377.1760
Hb Hb
Ha Ha
1H NMR(DMSO-d6)
(Hb) = 3.45 ppm 1H NMR(DMSO-d6)
(Hb) = 4.17 ppm
(Ha) = 8.92 ppm
1H NMR(DMSO-d6)
(Hb) = 4.18 ppm
(Ha) = 8.89 ppm
Figure 9. Structure determination of imidazolinium salts 2.
配位子前駆体であるイミダゾリニウム塩2 が合成できたので、NHC-金属錯体の合成 に取り掛かった(Table 3)。前述のようにイミダゾリニウム塩は分解しやすいため、直前 に調製したものを、減圧下、溶媒を留去するのみで続く反応に用いた。
まず、様々な金属塩と金属交換可能なNHC-銀(I)錯体の合成を試みた。MS 4Å存在下、
塩基性の銀塩である酸化銀(I)との反応を行ったが、塩基性を強めるために水酸化ナトリ ウムを添加しても反応は進行せず、徐々にイミダゾリニウム塩がホルムアミド7に分解 されるのみであった(entries 1–3)。
銀錯体を経由する方法は困難であったため、つぎに塩基存在下、直接金属塩と反応さ せる手法を検討した。これまでの知見から、イミダゾリニウム塩はメタノール中では安 定に存在できることが分かっていたので、まず、溶媒としてメタノール、塩基としてナ トリウムメトキシドを用いて検討した。一価および二価の塩化銅を用いて反応を行った ところ、複雑な混合物を得るのみであった(entries 4 and 5)。二価および三価の塩化鉄を 用いたところ、ジアミン3とホルムアミド7が分解物として得られた(entries 6 and 7)。 二価および三価の塩化クロムを用いたところ、二価の塩からは目的の錯体ではない複雑 な化合物が得られ、三価の塩からはジアミド錯体10 (Fig. 10)と思われる化合物が得られ
た(entries 8 and 9)。二価の塩化パラジウムおよび酢酸パラジウムとの反応を行ったとこ
ろ、ともにジアミド錯体11 (Fig. 10) と思われる化合物が得られた(entries 10 and 11)。 つづいて溶媒として THF、塩基として KHMDSおよびカリウム tert-ブトキシドを用 いて反応を行った。まず一価および二価の塩化銅を用いて反応を行ったところ、この反 応条件においても複雑な混合物が得られるのみであった(entries 12 and 13)。つぎに二価 の塩化パラジウムおよび酢酸パラジウムとの反応を行った。イミダゾリニウム塩の対ア ニオンとパラジウムの対アニオンがともに塩化物イオンの場合は、興味深いことに、ジ アミド錯体はほとんど生成せず、ジアミンとホルムアミドに分解するのみであった (entries 14 and 16)。それ以外の組み合わせではジアミド錯体11が得られた(entries 15, 17
13 and 18)。
このように様々な条件を検討したが、イミダゾリニウム塩 2 が不安定であったため NHC-金属錯体の合成は困難であった。
Table 3. Attempted Synthesis of Tridentate NHC-Metal Complex 9
NH HN
N N
N N
N N
X
2 NH4X (1.2 equiv)
HFIP/CH(OMe)3
N N
N M N
9 3
entry MYn temp. (°C) yield (%)
1a 2a 3a 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
Ag2Ob Ag2Ob Ag2Ob CuCl CuCl2 FeCl2
FeCl3 CrCl2 CrCl3THF
PdCl2 Pd(OAc)2
CuCl CuCl2 PdCl2 Pd(OAc)2
PdCl2 PdCl2 Pd(OAc)2
50 50 50 rt rt 50 reflux
50 reflux
60 rt rt rt rt rt rt rt rt X
Cl Cl BF4
Cl Cl Cl Cl Cl Cl Cl BF4
Cl Cl Cl BF4
Cl BF4 BF4
base (1.5 eq) MYn (1.5 eq)
base none NaOH none NaOMe NaOMe NaOMe NaOMe NaOMe NaOMe NaOMe NaOMe KHMDS KHMDS KHMDS KHMDS KOtBu KOtBu KOtBu
solv.
DCE DCE DCE MeOH MeOH MeOH MeOH MeOH MeOH MeOH MeOH THF THF THF THF THF THF THF
N.R.c N.R.c N.R.c complex mixture complex mixture
0d 0d 0 0e 0f 0f complex mixture complex mixture
0d 0f 0d 0f 0f
aMS 4Å was added. b0.6 equiv. of Ag2O was used. cImidazolinium salt gradually decomposed to formamide 7. dDiamine 3 and formamide 7 were obtained.eDiamide-Cr complex 10 was probably obtained. fDiamide-Pd complex 11 was obtained.
time (h) 24 27 24 17 19 18 13 18 13 14 14 20 20 17 2 8 17 19
N N
N N
11 N N Pd
N N
10 Cr Cl
LRMS (ESI) [M-Cl]
Calcd.: 416.11 Found: 416.07 [M-Cl+MeOH]
Calcd.: 448.14 Found: 448.08
LRMS (ESI) [M+H]
Calcd.: 471.08 Found: 471.06
Figure 10. Obtained diamide-metal complexes.
14 第5節 キラルNHC配位子の合成戦略
第4節にて、アキラルなNHC-金属錯体を合成することは出来なかったが、その前駆 体となるイミダゾリニウム塩の合成には成功した。そこでキラルNHC配位子の合成を 次なる目的とした。アキラルNHC配位子の配位子前駆体は安定性に問題があったが、
イミダゾリニリデン環の4,5位にシクロヘキサン環が縮環したキラルなNHC配位子の 前駆体であれば、それによって配座が固定され分解が抑えられると期待した。
本配位子の合成戦略をScheme 5に示す。配位子前駆体であるイミダゾリニウム塩13 はジアミン14から合成できると考え、ジアミン14は市販されているキラルなエチレン ジアミンとオルト位にドナーとなる置換基、もしくはそれに変換可能な官能基を有する ブロモベンゼン誘導体15からBuchwaldカップリングにて合成できるものとした。
Scheme 5. Synthetic Plan for Chiral Tridentate NHC Ligand 12
13
N N
R X R
H2N NH2 (1R,2R)-1,2-cyclo-
hexanediamine
Br + R
15
N N
X = none or O 12
14 NH HN
R R
O O
N N
15
第6節 キラルNHC配位子の合成(ジアミンの合成)
キラル三座NHC配位子を合成するに当たり、まずオルト位にドナーとなる置換基、
もしくはそれに変換可能な官能基を有するブロモベンゼン誘導体の合成を行った
(Scheme 6)。まず2-フェニルピリジンを、パラジウムを用いたC–H官能基化によって、
オルト位にピリジンを有するブロモベンゼン16を合成した15)。つづいて2-ブロモフェ ノールの水酸基をピリジル化することで、ブロモベンゼン誘導体17を合成した。また、
のちにドナー部位を導入可能な、ベンジル保護されたブロモフェノール18も合成した。
Scheme 6. Preparation of o-Substituted Bromobenzene Derivativesa
N Br N
2-phenylpyridine 16
a) Br
OH
Br
O N
17 2-bromophenol
b)
Br OH
2-bromophenol
Br OBn
18 c)
aReagents and conditions: (a) Pd(OAc)2, NBS, MeCN, 120 °C, 5 d, 23%; (b) 2-fluoropyridine, NaH, DMF, 120 °C, 2 d, 59%; (c) BnCl, K2CO3, DMF, 70 °C, 1.5 h, 99%.
つづいて合成したブロモベンゼン誘導体と(1R,2R)-1,2-シクロヘキサンジアミンとの
Buchwaldカップリングの検討を行った(Table 4)。その結果、16や17を用いた場合、オ
ルト位の立体障害のためか反応は全く進行しなかった(entries 1 and 2)。しかし18との反 応は進行し、中程度の収率でカップリング体を得ることに成功した(entry 3)。
Table 4. Buchwald Coupling of Aryl Bromide with 1,2-Cyclohexanediamine
Pd2(dba)3 (5 mol%) (R)-BINAP (12 mol%)
NaOtBu (3 equiv.)
2.5 equivArBr 14
NH HN
R R
H2N NH2
(1R,2R)-1,2-cyclo- hexanediamine
entry ArBr yield (%)
1 2 3
1617 18
N.R.
N.R.
53
aDegassed solvent was used.
solv.a temp. (°C) toluene
toluene toluene
reflux reflux reflux Br
+ R
time (h) 24 24 24
16
カップリング体 19 が得られたので、次にドナーとなるピリジン部位を導入した
(Scheme 7)。19を、ベンジル基の加水素分解により脱保護し、生じたフェノール性ヒド
ロキシ基をピリジル化することでジアミン21の合成に成功した。
Scheme 7. Preparation of Diamine 21a
HN NH
BnO OBn
19
HN NH
HO OH
20
2HCl
HN NH
21 O O
N N
a) b)
aReagents and conditions: (a) Pd/C, H2, MeOH/AcOH = 1/1, rt, 5 d; then aq. HCl, quant.; (b) 2-fluoropyridine, NaH, DMF, 2 d,120 °C, 35%.
17
第7節 キラルNHC配位子の合成(イミダゾリニウム塩の合成)
ドナーとしてピリジルエーテル部位を持つ、キラルなジアミン21が合成できたので、
配位子前駆体となるイミダゾリニウム塩の合成に取り掛かった(Table 5)。まず常法に則 り、アンモニウム塩存在下、オルトギ酸トリエチルを溶媒として反応を行ったところ、
21が分解するのみであった(entries 1 and 2)。そこでオルトギ酸トリエチルを、立体障害 がより小さいオルトギ酸トリメチルへと換え、反応温度をさらに下げて反応を行った。
その結果、反応温度が50 °Cでは痕跡量のイミダゾリニウム塩と思われる化合物がTLC 上で確認されたが、21の大部分は分解してしまい(entry 3)、室温では、反応は全く進行 しなかった(entry 4)。また、あらかじめジアミン21の塩酸塩を調製してオルトギ酸トリ エチルとの反応を試みたが、この条件でも21が分解するのみであった(entry 5)。そこで 第4節にて見出した手法を用いて反応を行ったところ、このジアミンにおいても温和な 条件のもとで反応は進行し、目的の配位子前駆体であるイミダゾリニウム塩22を中程 度の収率で得ることに成功した(entries 6 and 7)。
Table 5. Preparation of Imidazolinium Salts 22
HN NH
21 O O
N N
N N
22 O O
N N
X
entry reagent (equiv) solv. temp. (°C) yielda (%)
1 2 3 4 5c 6 7
NH4BF4 (5) NH4BF4 (5) NH4BF4 (5) NH4BF4 (5)
- NH4BF4 (1.2)
NH4Cl (1.2)
CH(OEt)3 CH(OEt)3 CH(OMe)3 CH(OMe)3 CH(OEt)3 CH(OMe)3/HFIP = 1/10 CH(OMe)3/HFIP = 1/10
120 80 50 rt 120
rt rt
decomposition decomposition
traceb N.R.
decomposition 59 (X = BF4)
73 (X = Cl)
aYields determined by 1H NMR using phenanthrene as internal standard. bTrace amount of 22 was observed with decomposition products by TLC analysis. cDiamine 21 hydrochloride was used.
time (h) 24 24 4 4 24
1 1
合成したイミダゾリニウム塩22も、低極性溶媒中や無溶媒では不安定であったが、
メタノールや DMSO といった高極性溶媒中では安定であった。そこで構造決定は未精 製のイミダゾリニウム塩のメタノール、またはDMSO溶液を用いて行った(Fig. 11)。ま ずイミダゾリニウム塩のメタノール溶液を用いて高分解能質量分析を行ったところ、対 アニオンのないイミダゾリニウムカチオンのm/zが観測された。つづいてイミダゾリニ ウム塩の重DMSO溶液を用いて1H NMRの測定を行ったところ。Hbのケミカルシフト
18
値がジアミン20と比較して約0.6 ppm低磁場シフトしていること、および9.5 ppm付近 に Haのシグナルが観測された。これらを持ってイミダゾリニウム塩が合成できている ことを確認した。なお対アニオンは反応条件からの推定である。
HN NH
21 O O
N N
N N
O O
N N
BF4 Hb
1H NMR (DMSO-d6)
(Hb) = 3.28 ppm
Hb
Ha
N N
O O
N N
Cl Hb
Ha
1H NMR (DMSO-d6)
(Hb) = 3.91 ppm
(Ha) = 9.47 ppm
1H NMR (DMSO-d6)
(Hb) = 3.91 ppm
(Ha) = 9.47 ppm HRMS (ESI)
[M-BF4] Calcd.: 463.2129 Found: 463.2129
HRMS (ESI) [M-Cl]
Calcd.: 463.2129 Found: 463.2131
22-BF4 22-Cl
Figure 11. Structure determination of imidazolinium salts 22.
配位子前駆体であるイミダゾリニウム塩22が合成できたので、NHC-金属錯体の合成 に取り掛かった(Table 6)。前述のようにイミダゾリニウム塩は分解しやすいため、直前 に調製したものを、減圧下、溶媒を留去するのみで続く反応に用いた。
まず、様々な金属塩と金属交換可能なNHC-銀(I)錯体の合成を試みた。MS 4Å存在下、
塩基性の銀塩である酸化銀(I)との反応を行ったが、いずれの反応条件においても複雑な 混合物を得るか、分解物であるホルムアミド24を得るのみであった(entries 1 –3)。
つぎに、塩基と酢酸パラジウム(II)より NHC-パラジウム錯体の合成を試みたところ、
アキラルのイミダゾリニウム塩の際に見られたジアミド錯体の生成は質量分析にて観 測されず、複雑な混合物が得られるのみであった(entries 4–6)。
19
Table 6. Attempted Synthesis of Chiral Tridentate NHC-Metal Complex 23
NH HN NH4X (1.2 equiv.) HFIP/CH(OMe)3
21
entry MYn temp. (°C) yield (%)
1a 2a 3a 4 5 6
Ag2Ob Ag2Ob Ag2Ob Pd(OAc)2
Pd(OAc)2 Pd(OAc)2
rt 80
rt rt rt rt X
Cl Cl BF4 BF4
BF4 BF4 base (1.5 equiv.) MYn (1.5 equiv.)
base none none none NaOMe KHMDS KOtBu
solv.
DCE DCE DCE MeOH
THF THF
complex mixture 0c complex mixture complex mixture complex mixture complex mixture
aMS 4Å was added. b1 equiv. of Ag2O was used. cFormamide 24 was obtained.
N N
M O
O N N
23
O O
N N
N HN
24
O O
N N
CHO N N
22 O O
N N
X
time (h) 21 12 21 17 16 16
以上のように、本章にて設計したC2対称不斉三座NHC配位子は、その前駆体となる イミダゾリニウム塩が非常に分解しやすく、合成は困難であった。しかし、それゆえに 既存の手法よりも非常に温和なイミダゾリニウム塩の合成法を見出すことができた。こ れは、今後のNHC配位子の開発のための新知見となるものである。
20
第 3 章 C2対称不斉ビナフチル NHC 配位子の設計と合成、及び触媒活性に関 する研究
第1節 配位子設計
第2章にて設計した不斉NHC配位子は、その前駆体であるイミダゾリニウム塩が不 安定であったため、取扱いが難しく、NHC–金属錯体を合成することができなかった。
そこで、より安定なイミダゾリリデン型NHC配位子であれば配位子やその前駆体を容 易に取り扱うことができると考え、不斉イミダゾリリデン型NHC配位子を新たに設計 することにした。第1章で述べたように、イミダゾリリデン型の不斉NHC配位子では
Type Aの配位子を作ることができない。しかしType Aであれば、不斉NHC配位子の
問題点である炭素–窒素結合の自由回転を制限することができ、また、不斉環境に直接 関与する窒素原子上の置換基を自由に調整することができるため、そのメリットは大き い。そこでイミダゾリリデン環の4,5位の置換基上に不斉源を持つType A’の不斉NHC 配位子を設計することにした。
設計した不斉NHC配位子をFigure 12 に示す。本配位子を設計するに当たり重要な のは、不斉源の構造をどのような構造にするのか、である。イミダゾリリデン環の背後 に不斉源を設けると窒素原子上の置換基との距離が遠くなるため、窒素原子上の置換基 の向きを制御することにより効果的な不斉環境を構築するには、4,5 位の置換基を非常 に剛直な構造とする必要がある。そこで着目したのが軸不斉をもつビナフチル構造であ る。剛直なビナフチルを炭素8員環で固定しイミダゾリリデン環と連結させることで、
ビナフチル上の 3,3’位のフェニル基によって炭素–窒素結合の自由回転を制限し、ビナ フチルの軸不斉を窒素原子上の置換基に遠隔誘起させる戦略をとった。加えてビナフチ ル骨格はこれまでにも、不斉二座リン配位子のBINAPをはじめとして様々な不斉触媒 へと用いられてきたため16)、構造修飾の知見は多く得られており、設計した配位子の迅 速な合成が可能と考えた。また、配位子を C2対称な構造とすることで、不斉触媒反応 において取りうる遷移状態を限定的にした。
N N Ph
Ph R
R
3
3'
3
3'
remote induction of asymmetric environment
N N R
C2-symmetry R
Figure 12. Designed chiral NHC ligand.
21 第2節 合成戦略
本配位子の合成戦略をScheme 8に示す。配位子前駆体であるイミダゾリウム塩26は ジイミン27から合成できると考え、ジイミン27は1,2-ジケトン28と種々のアミンと を脱水縮合させることで、置換基 R の異なる多様な配位子を合成終盤にて作り分けら れると考えた。1,2-ジケトン28はジアルデヒド29をピナコールカップリングすること で8員環を構築し、その後酸化することで得られるものとし、アルデヒド29はジブロ モ体 30 から誘導できると考えた。ジブロモ体 30 は丸岡らによって、市販されている
(R)-BINOLから合成できることが既に報告されている17)。
Scheme 8. Synthetic Plan for Binaphthyl NHC Ligand 25
N N Ph
Ph R
R 25
N N Ph
Ph R
R 26
N N Ph
Ph R
R 27
X
O O Ph
Ph 28
Ph
Ph CHO CHO
29 Ph
Ph Br Br
30
OH OH
(R)-BINOL
22 第3節 8員環1,2-ジケトンの合成
まず本配位子を合成する上で重要な中間体である8 員環1,2-ジケトン28 の合成を、
Wittig反応を経由した合成ルートで試みた(Scheme 9)。丸岡らの報告を参考に、市販さ
れている(R)-BINOLからジブロモ体30の合成を行い、つづいてこれをKornblum酸化す
ることでジアルデヒド31 を合成した。ピナコールカップリング前駆体であるジアルデ ヒド29を合成するため、得られた31に対してWittig反応を行い、得られた32の加水 分解を行ったが、分子内アルドール縮合によって33や34が得られるのみで、目的のジ アルデヒド29を得ることはできなかった。
Scheme 9. Attempted Preparation of Dialdehyde 29 via Wittig Reactiona
OH OH
(R)-BINOL
Ph
Ph Br Br
30
Ph
Ph CHO CHO
31 Ph
Ph 32
OMe OMe
Ph
Ph CHO CHO
29
a) b)
c)
Ph
Ph CHO
OH
Ph
Ph CHO
33 34
aReagents and conditions: (a) NaHCO3, DMSO, 100 °C, ovn, 58%; (b) Ph3P(Cl)CH2OMe, KOtBu, THF, rt, 4 h, 60%
(two isomers mixture); (c) aq. HCl, THF, rt, 3 d, 33: 56%, 34: 44%.
そこでScheme 10に示す合成ルートにて8員環1,2-ジケトン28の合成を行った。ま ずジブロモ体30に対してシアノ化を行い、続いてDIBAL-Hを用いてシアノ基を還元す ることでピナコールカップリング前駆体となるジアルデヒド 29を合成した。前述のよ うに29は分子内アルドール縮合が起こりやすく、通常の後処理方法では不飽和アルデ ヒド 34 が、分離することのできない副生成物として得られた(Table 7)。シアノ基の
DIBAL-H を用いた還元では塩酸による後処理が一般的だが、本反応においては複雑な
混合物を与えるのみであった(entry 1)。次に塩酸よりも酸性の弱い塩化アンモニウム水 溶液での後処理を行ったところ、ジアルデヒド29が不飽和アルデヒド34との混合物と して得られた(entry 2)。そこで塩基性であるRochelle塩水溶液を用いて後処理を行った が、この条件においても29と34の混合物が得られるのみであった(entry 3)。これらの 結果は、水溶液による後処理によって温度が0 °C付近まで上昇してしまうことが原因 と考えられた。そこで弱酸性であり、また微量の水分を含んでいるシリカゲルを用いて、