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4 章  InSb{111}A,B-(2 × 2) 表面上での Au 蒸着素過程の直接観察

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4章 InSb{111}A,B-(2

×

2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

4 章  InSb{111}A,B-(2 × 2) 表面上での Au 蒸着素過程の直接観察

4-1 はじめに

  前章では、Au/InSb(111)A系において形成される合金相の同定を行い、さらに、形成された合金構 造の温度依存性について調べた。その結果、室温に保持した(111)A基板上にAuを蒸着すると、Au9In4 合金が形成され、これは約100℃までの温度範囲で安定であることがわかった。さらに、基板温度を 420℃に上昇させるとAu9In4はAuIn2へと不可逆的に変化することが明らかになった。しかしながら、

Auの吸着からAu9In4合金相の核形成、成長、およびAu9In4→AuIn2への構造変化といった、本系にお ける界面形成反応の素過程がどのように進行していくのかについては未だ明らかとなっていない。ま た、本系において形成される合金系に、基板構成原子のひとつであるSbは含まれていないが、この Sbは、反応の過程でいったいどこへいってしまったのかという大きな疑問が残る。

 本章では、{111}A,B-(2×2)表面上にAuを蒸着させたときの、表面でのAu原子の振る舞いと、Auの 蒸着後の同表面に対してアニールを施した際の合金相の形成、成長、および構造変化の過程をリアル タイム観察した結果について述べる。

4-2 実験方法

  第2章の2-3節に記載した手順に従って調整を行ったプロファイル観察用試料を用意し、端面に、

{111}A,B-(2×2)再構成構造(それぞれIn-vacancy buckling構造およびT4 site Sb-trimer構造[1~4]))を持 つ破片粒子をプロファイルTEM観察により見つけ出した。これらの微粒子端面に、室温において、

約0.2ML/minの蒸着速度でAu蒸着を行った。蒸着量は、室温観察用およびアニール中観察用、それぞ

れの試料に対して約4MLおよび約2MLとした。アニールは、420℃で30分間行った。Au蒸着中の真空 度は、

6.0 × 10

−10Torr以下であった。以上に述べた本実験のフローチャートを図4-1に示す。

 なお、以下の観察は、すべて基板に対して[110]方位に平行に電子線を入射して行った。

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

4-3 InSb{111}A,B-(2 × 2)Au の室温蒸着

 本節では、まず、基板として用いたA,B-(2×2)再構成表面の評価を行い、次に、室温に保持した

A,B-(2×2)表面上へAuを蒸着した際に生じる表面変化の過程を観察した結果について述べる。

4-3-1 InSb(111)A 表面

A) InSb(111)A-(2 × 2) 清浄表面の評価

 図4-2(a)は、InSb(111)A-(2×2)表面の広領域のプロファイルTEM像である。図4-2(b)には、その一部 の拡大像を示す。図4-2(b)は、最適ディフォーカス条件で得たものであり、図4-2(a)とはディフォーカ ス量が異なっている。これらの像中には、A-(2×2)再構成表面の特徴を反映したコントラストがみて とれる(図中の黒い矢印は、In-vacancyサイトを示す)。参考のため、A-(2×2)表面構造モデルを図4-

2(c),(d)に示した。図4-2(b)中の白い四角で囲った部分は、観察像に対応するシミュレーション像を示し

ている。この像は、同じ領域から得た一連のスルーフォーカス像とシミュレーション像が全て一致す るように計算パラメータを決定した後、観察像と一致するディフォーカス量のものを選び出したもの である。この計算から、基板の結晶厚み(T)は、TInSb(111)A =2.98nmであり、最適ディフォーカス量(

defocus value: ⊿fopt)は、⊿fopt InSb(111)A =-5.0nmと見積もられた。観察像とシミュレーション像とを比 較すると、これらは非常に良い一致を示していることから、試料表面にwell-definedなA-(2×2)再構成

62 構造が形成されたと判断できる。

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

B) A-(2 × 2) 表面上での Au の室温蒸着

 図4-3(a)-(f)に、Auの蒸着量(a)0ML、(b)0.3ML、(c)0.5ML、(d)0.8ML、(e)1.0ML、(f)1.5MLにおける A-(2×2)表面のプロファイルTEM像を示す。図4-3(a)に示したAu蒸着前の表面には、図4-2と同様、

A-(2×2)再構成表面に起因する2倍周期のコントラストがみてとれる(図中の黒い矢印は、In-vacancy サイトの位置を示す)。

 図4-3(b)以降の図はAu蒸着を行いながらその場観察したものであり、蒸着量は、蒸着開始からの経

過時間に対応している。蒸着レートは、本章の実験方法において述べたように、約0.2ML/minである ため、例えば、図4-3(e)は、蒸着開始後1分経過時の像、ということになる。

 図4-3(a)に示したA-(2×2)清浄表面にAuを0.3ML蒸着すると、2倍の周期が不明瞭になり、白い点線 で囲んだA1,A2領域の最表面層(SL)のコントラストが、図4-3(a)におけるそれと比べて濃くなった

(図4-3(b))。この濃いコントラストは、Au蒸着とともに出現すること、および、Au原子の散乱能は

基板を構成するInおよびSb原子の散乱能より大きいことから、Au原子が表面に吸着した部分を示す ものと判断できる。濃いコントラストの領域は、最表面層に一様に分布しているのではなく、図中の A1,A2の場所に集中して観察されることから、吸着したAuは、2次元島状に凝集しているものと考え られる。この2次元島は、幅約5-8nmの大きさを持つ。また、図4-3(a)と比較すると、A1,A2領域中の黒 い矢印1-4の位置において、SLと1st バイレイヤー(BL)の間に縦の濃いコントラストが現れている 様子が見られる。この縦の濃いコントラストは、AuがSLから1st BLへと浸透するパスを示しているも のと考えられる。図4-3(c)では、図4-3(b)の段階と比べると、SL中のA1,A2領域の濃いコントラストの 幅が少々縮まり、矢印1,3の位置の縦の濃いコントラストはより強くなっていることがわかる。これ

ら図4-3(b),(c)の観察から、蒸着されたAuはマイグレーション(migration)しながら最表面のある領域

で凝集し、凝集したAuは、SLから基板1st BLへと、ある狭いパスを通して浸透し始めるものと考えら

れる。図4-3(d)では、矢印1,3以外の領域、すなわち、矢印5,6などの領域でも縦の濃いコントラストが

より強くなっていることがわかる。さらに、この段階におけるSLに注目すると、SLの真空側に、淡

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いアモルファス状のコントラスト(図4-3(d)中の白抜き矢印1-4)がしばしば観察される。この弱いコ

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

ントラストは、堆積したAu原子の上に、基板を構成している原子が移動したことによるものと推測 される。なぜなら、室温のInSb基板上にAu, Al, Cuのような金属を蒸着すると、SbまたはIn原子が、

低被覆率においてさえこれらの金属上に表面偏析することが報告[5~7]されているからである。この 表面に偏析する原子の種類については、4-4節での議論で詳しく述べることにする。図4-3(e),(f)では、

濃いコントラストの位置、および、淡いアモルファス状のコントラストの変化から、Au原子は基板 内部へ浸透すると共に、基板原子の表面偏析がさらに進行しているように見える。特に、図4-3(e)の A3領域の矢印の位置では、SLと1st BL間に原子列の乱れが生じており、図4-3(f)では、その乱れが回 復されるとともに、矢印の位置の濃いコントラストが、図4-3(e)でのそれらと比較して均等になって いることがわかる。このことは、SLから基板の1st BLに浸透したAu原子が、{111}面上で表面平行方 向に拡散していることを示唆する。

 図4-4(a)-(f)に、図4-3と同一条件で作製されたA-(2×2)表面上に、室温でAuを約4MLまで蒸着した時 に得た一連のプロファイルTEM像を示す。図4-4中の各図において、蒸着量はそれぞれ、(a)0ML、 (b)1.8ML、(c)2.2ML、(d)2.5ML、(e)2.8ML、(f)4.0MLである。これらの像は、図4-3で説明した領域と は、別領域を観察したものである。

 図4-4(a)は、A-(2×2)再構成表面を示す(図中の黒い矢印は、図4-3(a)中と同様、In-vacancy siteの位 置を示している)。図4-3(f)(Auの蒸着量1.5ML)の次の段階といえる図4-4(b)(Auの蒸着量1.8ML) では、図4-3(f)と同様、基板の1st BLまでに到達したAu原子が、その1st BL中において、表面平行方向 に広がっていることがわかる。濃いコントラストの領域(図4-4(b)中の白抜き矢印)に注目すると、

図中の白いラインとの比較から、Au原子が浸透した部分の格子が、基板方向に凸になるようにベン ディングしていることがわかる。この格子のベンディングは、Au原子が基板中に浸透することで体 積が膨張し、それにより発生した応力によって歪みが生じた結果によるものと考えられる。図4-4(c)で

は、図4-4(b)の段階と比べると、矢印1で示す位置のSLと1stBLの間に、縦の濃いコントラストがみら

れ、それによってSL中の濃いコントラストと1st BL中の濃いコントラストがつながっている様子が明 瞭にみられる。図4-4(d)の段階では、SLのコントラスト、および、矢印1の位置の縦の濃いコントラ

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ストが、図4-4 (c)におけるそれよりも薄くなり、それと逆に、1st BL中の白抜き矢印1で示した範囲の

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

コントラストが強くなっている。このことは、前段階でSLに凝集していたAu原子が、基板内部へ移 動したことを示唆する。さらに、この時、2ndBL中の白い抜き矢印2で示した範囲においても、濃い コントラストが現れている。図4-4(e)では、図4-4(d)の段階と比べて、白抜き矢印1の位置に存在して

いた1st BLの濃いコントラストが弱くなっており、2nd BLの白抜き矢印2の位置では濃いコントラス

トがさらに広がっていることがわかる。さらに、図4-4(f)では、1st BLの濃いコントラストが再び強く なっており、それが表面平行方向に広がっていることがわかる。この観察から、Au原子が、基板内部 へ一層浸透しては基板平行方向へ広がり、その広がりがある程度進むと、さらに、より深い層へと浸 透する、という具合に基板中へ拡散していくことが明らかとなった。このとき、深さ方向への浸透よ

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りも、表面平行方向への広がりの方が、速い速度で進むことが観察された。

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

4-3-2 InSb(111)B 表面

A) InSb(111)B-(2 × 2) 清浄表面の評価

  InSb(111)B-(2×2)表面についても、A-(2×2)と同様、まず、表面再構成構造の確認を行った。図 4-5(a)は、InSb(111)B-(2×2)表面の広領域のプロファイルTEM像である。また、図4-5(b)には、その一 部の、最適ディフォーカス条件で得た拡大像を示す。図4-5(b)中の白い四角で囲んだ領域は、観察像 に対応するシミュレーション像を示しており、シミュレーションにより見積もられた基板結晶の厚み

(T)は、TInSb(111)B =2.52nm、最適ディフォーカス量(defocus value: ⊿fopt)は⊿fopt InSb(111)B =-5.2nm であった。図4-5(b)中には、B-(2×2)再構成表面に存在するSbトライマー構造を特徴づけるコントラ スト(図4-5(b)中の白抜き矢印で示した[2~4])がみてとれることから、well-definedなB-(2×2)再構成構 造が形成されたと判断できる。TEM像とB-(2×2)構造モデルとの比較のため、そのモデルを図4-

69 5(c),(d)に示す。

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

B) InSb(111)B-(2 × 2) 表面上での Au の室温蒸着

  図4-6(a)-(f)は、室温に保持したInSb(111)B-(2×2)表面上への、Auの蒸着中に得られた一連のプロ ファイルTEM像である。Auの蒸着量は、それぞれ、(a)0ML、(b)0.3ML、(c)0.5ML、(d)0.8ML、 (e)1.0ML、(f)1.5MLである。

 Au蒸着開始直前の図4-6(a)には、B-(2×2)再構成表面に起因する特徴的なコントラストがみてとれ る(図中の黒い矢印でSbトライマーの位置を示した)。Auを0.3ML蒸着した後の表面を観察した図4- 6(b)を見ると、A-(2×2)表面の場合と同様、SLに濃いコントラストが出現していることがわかる。こ こで観察された濃いコントラストは、4-3-1(b)節で述べたA-(2×2)表面において観察された濃いコント ラストと同様の理由から、Au原子の吸着によるものと判断した。コントラストの濃淡の変化に加え、

SLでは、Sbトライマーを示すコントラストの形状が変化しており、2倍の周期が失われているよう に見えることに気づく。さらに、図4-6(b)中に白点線で示したA1領域中の濃いコントラストは、Sbト ライマーの下方にある基板1st BLにまで及んでいる。図4-6(c)では、A1領域中のSLの濃いコントラス トが、表面平行方向に広がっている様子が見られる。図4-6(d)の段階では、A1領域のSLの濃いコント ラストがさらに表面平行方向に広がっており、Sbトライマーの間がAuによって埋め尽くされている。

図4-6(e)では、SLのコントラストが薄くなり、1stBLのコントラストが濃くなっていることに気づく。ま

た、図4-6(e)のSLの白抜き矢印eで示した位置に、再びSbトライマーの存在が確認される。

 ここで、図4-6(e)のSbトライマーのコントラストについて、詳しく検討してみる。まず、そのコント ラストを、図4-6(a)の白抜き矢印aの位置でのそれと比較すると、コントラストが薄くなっていること がわかる。いま着目しているコントラストは、Sbトライマー構造という、一定の構造に起因するもの であるため、そのコントラストの濃さは、この構造の電子線進行方向(紙面垂直方向)に並ぶ数を反 映しているものと考えてよい。したがって、図4-6(e)に見られるSbトライマーの電子線進行方向に並 ぶ数は、図4-6(a)のそれに比べ少なくなっていると考えられる。さらに、図4-6(a)の白抜き矢印aと図

4-6(e)の白抜き矢印eのSbトライマーのコントラストを詳細に調べるために、そのレーンプロファイル

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を図4-6(g)および図4-6(h)に示す。これらを比較するとわかるように、図4-6(a)と図4-6(e)の着目したSb

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

トライマーのコントラストは、互いに左右対称の強度分布を持っている。Sbトライマーのコントラス トの非対称性(図4-6(g),(h)中のそれぞれ1gと2g、1hと2h)は、図4-7に点線で示したように、<110>方 向へ投影したときのSb原子の数を反映している。したがって、強度分布が左右対称であることは、

Sbトライマーの向きが、左右対称であることを意味する。このことは、図4-6(e)に見られるSbトライ マーが、本来の存在位置であるT4サイトではなく、H3サイトに存在しているということを示唆する。

InSb(111)B表面上におけるSbトライマーの存在位置に関する第一原理計算の結果によると、この表面

上でSbトライマーは、T4サイトが最安定であるものの、H3サイトでも準安定であり、これらのエネ ルギー差は非常に僅かであることがわかっている[8]。このことを考慮すると、図4-6(e)に見られる準 安定なH3サイトのSbトライマー構造は、B-(2x2)表面上にAuが吸着することで表面が壊されていく過 程で、観察されたものであると言える。図4-6(f)では、A-(2x2)表面における蒸着量0.8MLの段階(図

4-3(d))と同様、基板を形成している原子が表面偏析(図中の白抜き矢印1-3)したものと考えられる

アモルファス状の薄いコントラストが観察される。一方、図4-6(f)までの段階で、すでに1.5MLのAu が表面に蒸着されているが、A-(2×2)表面とAuとの反応とは異なり、Auが、基板の深さ方向へ浸透し

72 ていくことは観察されていない。

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

 図4-8(a)-(f)は、図4-6と同様な条件で作製されたB-(2×2)表面(図4-8(a))上に、室温でAuを約4ML まで蒸着した際に得た一連のプロファイルTEM像である((b)1.8ML(c)2.0ML、(d)2.5ML、(e)3.0ML、 (f)4.0ML)。図4-8(b)(Auの蒸着量1.8ML)では、図4-6(f)(Auの蒸着量1.5ML)と同様、濃いコント ラストが基板1st BLまで及んでいるのがわかる(図4-8(b)のA1領域参照)。図4-8(c)では、図中の白抜

き矢印で示した範囲の濃いコントラストに注目すると、図中の白いラインと原子列を比較することに よってわかるように、A-(2×2)表面における1.8ML蒸着段階(図4-4(b))と同様の、格子のベンディン グが観察できる。図4-8(e)のA2領域では、基板と蒸着されたAu原子との反応生成物の形成を示唆する、

新たな格子縞が観察できる。特に、図4-8(f)では、SLの濃いコントラストがかなり強くなっており、

この部分には、格子のベンディングが存在していることがわかる。また、この4.0ML蒸着した段階に おいても、A-(2×2)表面上での反応とは異なり、Au原子は2nd BLより基板内部へ浸透しないことが明

75 らかになった。

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

4-3-3 InSb{111}A,B-(2 × 2) 表面上への Au の室温蒸着のまとめ

 以上のInSb{111}A,B-(2×2)表面上でのAuの室温蒸着過程に関する評価から、以下のようなことが

明らかになった。

 A-(2×2)表面上にAuを蒸着すると、Auは表面上で凝集し、2次元島を形成する。その後、凝集し た島の一部から、基板の1st BLへと浸透を始める。1st BLへと浸透したAuは、表面平行方向へと広がっ

てゆくが、それとともに、2nd BLへの浸透が進行する。このとき、深さ方向への浸透よりも、表面平 行方向への広がりの方が、速い速度で進むことが観察された。このことは、InSb{111}面の最近接原子 の垂直間距離(<111>方向)が0.28nmであり、それに対してそれらの水平方向には、ほとんど隙間を もたない最密充填構造(closest packed structure)をもっていることに起因するものと考えられる。

 一方、B-(2×2)表面上にAuを蒸着すると、4MLまでの範囲において、それらは、基板内部へなかな か浸透せずにSLおよび基板1st BLの範囲に留まる。また、B-(2×2)表面とAuとの反応過程において、

Sbトライマーは同表面上で最安定なT4サイトだけではなく、準安定サイトであるH3サイト上に形成 される場合がある。Auの蒸着が進むにつれて、A,B-(2×2)両表面ともに、堆積したAu原子の上に、基 板構成元素が表面偏析することが示唆された。

 また、両表面上で生じる反応の大きな違いとして、基板内部への浸透の速度が異なる点が挙げられ る。このことは、図4-9に示すように、A-(2×2)表面の場合には、バイレイヤーの上側にAuと合金相 を形成するInが存在しているが、B-(2×2)表面の場合には、バイレイヤーの下側にInが存在するため、

AuがInと反応するためは、In-Sb間の結合を切る必要があるからであると考えられる。したがって、

A,B-(2×2)表面上でのAuの反応の差異は、InSb{111}A,B表面の、極性の違いに起因するものと考えら

77 れる。

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

4-4 Au/InSb{111}A,B 系における合金相の形成、成長、および 構造変化の動的過程

  前節では、室温のInSb{111}A,B-(2×2)表面上へのAu蒸着過程に関する評価から、A,B両極性 表面上におけるAuの反応に違いが見られることを明らかにした。本節では、Au蒸着された両表 面に対してアニールを施し、そのとき生じる合金相の形成、成長、および構造変化の過程を プロ ファイルTEMを用いてリアルタイム観察した結果について述べる。

 実験は、室温に保持したA,B-(2×2)両表面上にAuを蒸着し、その後、この基板を420℃に昇温す ることを行った。加熱開始後、試料ホルダーは、熱膨張のために大きくドリフトする。このため、

加熱開始直後を除いて温度が安定するまでフォーカスを合わせることが困難であった。そこで以 下では、加熱開始4秒後までの間と、温度が安定した2分後から16分後に観察された変化の様子を、

合金相の形成・成長過程、および、Au9In4からAuIn2への構造変化の過程、の二つに分けて述べ る。

4-4-1 Au/InSb(111)A系

A) 合金相の形成、成長

 図4-10(a)-(f)に、A-(2×2)表面の、(a)Au蒸着前、(b)約2MLのAu蒸着後、および、加熱開始 (c)0sec、 (d)0.5sec、(e)1.5sec、(f)4.0sec後のプロファイルTEM像を示す。

 図4-10(a)をみると、蒸着前の表面に、A-(2×2)再構成構造が現れていることが確認できる(図中の

黒い矢印は、In-vacancy siteを示す)。Au蒸着後の図4-10(b)では、前節で述べた、Au原子による濃い コントラストがみられる。この濃いコントラストは、SLと1st BLに見られ、さらに、SL上には基板と

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異なる格子間隔の縞を持つ領域(図中に点線の楕円で示す)がみられる。第3章で述べたように、室

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4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

温で約3ML Auを蒸着した透過試料から得たTEDパターンに、Au9In4に起因する反射が明瞭に出現し

ていることを考慮すると、ここで見られる格子縞は、Au9In4合金に起因するものと推測できる。図4-

10(c)-(f)に示した加熱直後のこの領域の変化の様子は、以下のようにまとめられる。図4-10(c)のAc

示した領域に、島の形成を示すコントラストが観察されていることから、加熱開始と同時に、まずAu 原子が凝集し、表面上に島が形成されることがわかる。このとき、それまで1st BLまでの範囲にとど まっていた濃いコントラストが、さらに深いレイヤーにまで広がっていることが観察される。また、

この深いレイヤーの濃いコントラストの部分には、格子縞が観察されないことから、この部分におい て、基板構造が壊れ始めていることが示唆される。Auが凝集する様は、時間の経過とともにより顕 著になり、図4-10(f)では、前の(c)-(e)と比較して、蒸着されたAu原子に起因する濃いコントラストを 示す島状領域(図中の白い点線の楕円)がさらに濃化され、その大きさも成長している(高さ:

1.5~2.5nm、幅:6~10nm)様子がみられる。

 図4-11(a)-(f)に、加熱開始後(a)2min4sec、(b)2min6sec、(c)2min15sec、(d)3min2sec、(e)3min12sec、 (f)3min51sec後に撮影した像を示す。

 加熱開始後2min4sec経過すると、基板上に、明らかに基板とは異なるコントラストをもち、基板と 異なる幅の格子縞を呈する反応相(図中のRAと表記)が観察された(図4-11(a))。また、この反応相 の他に、SLの一部に線状の濃いコントラスト(図中の白抜き矢印)、SLの上に、アモルファス状の 薄いコントラスト(図中の赤い矢印)、さらに、In-vacancyに起因するコントラストが微かにみられ る(図中の黒い矢印)。反応相RAについて格子縞の間隔を測定したところ、その間隔は0.28nmであ り、それはAu9In4のdAu9In4{222} に相当することがわかった。さらに、この領域について第3章3-3-1節で 用いたスペクトル解析を行ったところ、Au9In4として指数付けができることがわかった。したがって、

ここで観察された反応相は、Au9In4合金相であると判断した。この結果は、この時点で試料温度が 420℃まで達していないと考えると、第3章で述べた、100℃までの範囲でAu9In4合金相が存在し、420

℃でアニールした場合にAuIn2が形成された、という結果と矛盾しない。その2秒後である図4-11(b)で は、白い抜き矢印で示す濃いコントラストAu9In4合金側に接近しており、左端に見られたIn-vacancy

80

に起因するコントラストはみられなくなった。さらに、Au9In4の部分に着目すると、図4-11(a)中でIa

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

示した部分が、図4-11 (b)中では、Ibと示した位置まで表面平行方向に成長していることがわかる。図 4-11(a)から図4-11(b)への変化から、SLに存在するAuがAu9In4の方向へと表面構造を壊しながら移動 し、それがAu9In4合金に取り込まれることでAu9In4合金が成長する、という描像が浮かび上がる。さ らに9秒経過した後の図4-11(c)では、SLにAuによる濃いコントラストが見られるものの、それは図4-

11(b)と比べて薄くなっており、Au9In4合金中の格子縞が識別できるようになっている。このとき、

Au9In4合金は表面平行方向に成長し続けており(Icと示した位置を参照)、アモルファス状のコント ラスト(図中の黒い矢印)を示す領域の面積も大きくなっていることがわかる。

 図4-11(d)-(f)では、以上の合金反応がさらに進行し、界面の近傍で合金相が表面平行方向に成長(図

(d)-(f)中のId,Ie,If印)すると共に、最表面では、In-vacancyに起因する特徴的なコントラストが復活(図

(d),(f)中の黒い矢印)と消滅(図(e))を繰り返している様子がみられた。これらの段階において、表

面近傍でのアモルファス状コントラスト(図(d),(f)中の黒い矢印)は縮小している。このアモルファ ス状コントラストの起源について、確定的なことは言えないが、420℃という温度に設定したときに、

縮小したという事実を踏まえると、Sbが凝集したものである可能性が高い。なぜなら、SbはInやAuに 比べ、観察温度範囲において、5桁以上大きな平衡蒸気圧を持つ。したがって、アモルファス状コン トラストがSbに起因するものと考えると、時間と共に縮小することをうまく説明できる。さらに、図

4-11(f)のIfで示した、濃いコントラスト層に注目すると、4-3-1節で述べたものと同様に、格子の基板

方向へ凸となるベンディングが観察される。第3章で述べたように、Au9In4はInSbと格子ミスフィッ トが小さい(1.3%)ことを考えると、大きな歪が発生することは、一見奇妙に思える。しかしながら、

Auが基板中に浸透し界面近傍が合金の成長フロントの一つとなっていると考えると、この部分にAu が濃化しても不思議は無い。この場合、Au9In4の組成に比べ過剰なAuが存在するために体積膨張を起 こし、歪みが発生しているものと考えられる。

 以上より、Au/InSb(111)A-(2×2)系におけるアニール中のAu9In4合金相の形成、成長の段階では、

以下のようなことが起きていると推測できる。

 蒸着されたAuは、加熱開始とともに基板表面で凝集し、2次元島を形成する。このとき、Auとの反

81

応により、InSb基板が一部壊され、基板構成原子でありかつ合金構成原子でもあるInは、Auと反応し

(23)

4章 InSb{111}A,B-(2

×

2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

てAu9In4を形成する。このとき、Au9In4合金の成長は、表面平行方向へ優先的に進む。Au-In合金形成 に関与しないSbは、表面偏析し、アモルファス状の島を形成する。しかしながら、この島は、アニー

82 ル中に基板から真空中へと脱離する。

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(25)
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4章 InSb{111}A,B-(2

×

2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

B) Au

9

In

4

から AuIn

2

への構造変化

 図4-12(a)-(f)は、図4-11と同一な条件で作製された別の試料に対する観察結果である。これらは、

加熱開始後約4分-16分の間の、Au9In4からAuIn2への構造変化の様子を観察したプロファイルTEM像 である。

 図4-12(a)の中央部に黒く観察される合金相は、前節と同様の評価から、Au9In4と同定された。この

合金粒子をみると、この段階での点線の楕円1、2に示した領域に、Au原子に起因する濃いコントラ ストが、合金の周りをとり囲むように存在する様子がみてとれる。また、Au9In4合金相の右側には、

表面偏析したSbが凝集したと思われる、大きなアモルファス状のコントラストが見られる。図4-12(b)

は、図4-12(a)の0.7sec後の像である。この図中の点線の楕円2で示した領域では、基板と合金との境界

が区別しにくくなっている。これは、界面近傍における原子の移動が顕著になり、そのために格子縞 が見えにくくなっていると思われる。この1.5sec後に突然、図4-12(c)に示すようにAu9In4と異なる格 子縞間隔をもつ新たな合金相が出現した。この合金相は、格子縞間隔の測定(dAuIn2{111} =0.37nm)と スペクトル解析から、AuIn2であることが明らかになった。ここで、図4-12(b)に存在するAu9In4と図 4-12(c)で観察されるAuIn2の面積を比べてみると、AuIn2の方が1.5〜2倍大きいことがわかる。このよ うに、Au9In4からAuIn2への構造変化において、合金相の体積が膨張するのは、Au9In4中に含まれる Au原子が、基板中に移動することでAuIn2への変化することを示唆する。なお、ここで、合金相の奥 行き方向の大きさの変化は考慮されていないが、後述する第5章での評価から、本系で観察される合金 相のの多くが、基板厚さとほぼ同じ厚さを持つことがわかっているため、奥行き方向の大きさの変化 は小さいとみなした。図4-12(c)からさらに21.4sec後である図4-12(d)は、AuIn2の合金の周囲に新たな 濃いコントラストが観察されている(図中の点線の楕円3,4,5)。この黒いコントラストも、Au原子 が濃化したものと考えられる。この楕円3,4,5のコントラストの境界は不鮮明であり、また原子列の乱 れが観察されることから、この部分で合金化反応が進行していると考えられる。また、図4-12(d)の 3min15sec後である図4-12(e)では、AuIn2がさらに大きくなっていることがわかる。さらに、図4-12(e)

85

の12min3.2sec後である図4-13(f)では、AuIn2中の結晶性が改善していることがわかる。

(27)

4章 InSb{111}A,B-(2

×

2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

 以上のことから、Au/InSb(111)A系におけるアニール中のAu9In4→AuIn2構造変化は、次のように進 むと考えられる。表面に残存するAu原子は、Au9In4合金へと取り込まれながらAu9In4合金の成長が続 く。その一方で、合金近傍のInSb基板中のSb原子が表面偏析し、合金周辺にIn-richな領域が形成され る。ある臨界点まで達すると、Au9In4中のAu原子は、In-richな領域に短い時間で移動し、Au9In4から

86 AuIn2への相変化が起こる。

(28)
(29)

4章 InSb{111}A,B-(2

×

2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

4-4-2 Au/InSb(111)B

A) 合金相の形成、成長

 図4-13に、表面の、(a)Au蒸着前、(b) 約2MLのAu蒸着後、および、この基板を加熱途中に得たプロ ファイルTEM像((c)-(f))を示す。

 図4-13(a)中では、B-(2×2)再構成表面に起因する特徴的なコントラストがみられる(図中の黒い矢

印)。図4-13(b)中では、4-3-2節で述べたように、SLにAu吸着を示す濃いコントラストが見られ、2倍 周期が失われていることがわかる。図4-13(c)は、加熱開始から約2分経過後のものである。なお、4- 4-1A)節において、Au/InSb(111)A系に対して見たのと同様、加熱開始直後に、SLのAuが合金反応し ている領域に凝集していく様子が観察された。図4-13(c)には、明らかに基板とは異なるコントラスト を持つ反応相(図中のRBと表記)が観察される。一方、図4-13(b)で失われていた、SLの2倍周期が再 び現れていることがわかる(図中の黒い矢印)。図4-13(d),(e),(f)は、それぞれ(c)からさらに10sec、

13sec、17sec後に観察された像である。図4-13(d)では、反応相が、その形を変えながら(c)のそれより

大きく成長している。図4-13(e)では、反応相の格子縞が明らかにと識別できるようになったことから、

4-4-1A)節と同様に、この格子縞の測定およびスペクトル解析を行い、この反応相がAu9In4であること

を確かめた。なお、この段階では、Sbトライマーのコントラストとともに(図中の黒い矢印)、A-(2

×2)再構成表面に起因する特徴的なコントラストが現れる(図中の白い矢印)。図4-13(f)では、

Au9In4合金の格子縞が、図4-13(e)より明瞭に観察できる。

 図4-14(a)は、図4-13と同一な条件で作製された別の試料にアニールを施した際に得られたプロファ

イルTEM像である。加熱温度は420℃であり、図4-14(a)-(h)は、それぞれ、加熱開始後(a)2min13sec、 (b)2min15sec、(c)3min13sec、(d)3min52sec、(f)5min14sec、(g)5min38secに対応している。

 図4-14(a)の像は、四つの領域(A-D)に区分することができる。Aと示した領域は、Au9In4合金で

88

ある。これは、格子縞間隔の測定(dAu9In4 {222}=0.28nm)から判断した。Bと示した領域は、Sbトラ

(30)

4章 InSb{111}A,B-(2

×

2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

イマーのコントラスト(図中の黒い矢印)がみられることから、InSbである。CおよびDと示した領 域は、InSbであるが、その厚さがBにくらべ非常に厚くなっている部分である。これは、Au9In4合金 の反応が完了した後でも、CとD領域ではSbトライマーのコントラストが観察できる(図4-14(e),(f)中 の黒矢印)ことから裏付けられる。図4-14(a)において、InSb基板とAu9In4合金との境界(Ia)は、不 鮮明であることから、界面で合金反応が進行していると思われる。また、時間経過とともに界面の変 化を追跡すると、A面上での合金反応と同様に、表面平行方向に優先的に合金が成長していることが わかる(図4-14(a),(b),(c)にそれぞれIa,Ib,Icと示した)。

 以上より、Au/InSb(111)B-(2×2)系におけるアニール中のAu9In4合金相の形成、成長の反応は、基本 的にAu/InSb(111)A-(2×2)系と同様であることがわかった。

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(31)
(32)
(33)

4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

B) Au

9

In

4

から AuIn

2

への構造変化

 図4-15(a)に、図4-13と同一な条件で作製された別の試料をアニールした結果を示す。これは、

Au9In4からAuIn2への構造変化の様子を観察したプロファイルTEM像である。InSb基板上に形成され た合金相は、前節との同様な評価から、Au9In4と同定された。図4-15(a)-(f)は、それぞれ加熱開始後 (a)5min37sec、(b)5min38sec、(c)5min40sec、(d)5min41sec、(e)8min7sec、(f)15min5secでの観察結果で ある。

 図4-15(a),(b)で黒く観察される合金粒子はAu9In4である。図4-15(c)では、図4-15(b)と比べ、Au9In4合 金の形状が変化しており、格子縞の間隔も異なることから、Au9In4からAuIn2へ構造が変化したもの と考えられる。このことは、次の段階である図4-15(d)をみると明らかである。図4-15(d)では、図4-

15(b)で存在していたAu9In4とは異なる格子縞間隔をもつ新たな合金相が出現していることが明らかに

とわかる。この合金相は、格子縞間隔の測定およびスペクトル解析から、これがAuIn2であることが 確かめられた。また、図4-15(b)に存在するAu9In4と図4-15(d)で観察されるAuIn2の面積を比べてみる と、 (c)方が、約2倍大きくなっていることがわかる。これらの結果は、4-4-1B)節で述べたA面の解析 結果と同じである。図4-15(e)では、AuIn2の格子縞が明瞭に観察でき、その結晶性がさらによくなっ ている。図4-15(f)では、AuIn2の粒子が大きく成長している様子がみてとれる。

 これらのことから、InSb(111)B表面上でのAu9In4→AuIn2への構造変化の段階は、InSb(111)A表面上

92 でのそれと同様であることが明らかになった。

(34)
(35)

4章 InSb{111}A,B-(2

×

2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

4-5 結論

 本章では、プロファイルTEM法を用いて、InSb{111}A,B-(2×2)表面上におけるAuの室温蒸着過程、

および、その後のアニールによる同表面上での合金形成、成長、および構造変化の過程をその場観察 評価した。それらの結果を、以下にまとめる。

1. A,B-(2×2)表面上にAuを蒸着すると、Auは表面上で凝集し、2次元島を形成する。その後、凝集し

た島の一部から、基板の1st BLへと浸透を始める。1st BLへと浸透したAuは、表面平行方向へと広がっ てゆく。このとき、深さ方向への浸透よりも、表面平行方向への広がりの方が、速い速度で進む。

2. 基板内部への浸透は、B-(2×2)表面上よりも、A-(2×2)表面上においてより顕著である。A,B-(2×2) 表面上でのAuの反応の差異は、InSb{111}A,B表面の極性の違いに起因するものと考えられる

3 Au9In4形成と成長段階

2次元島を形成したAuは、InSb基板と反応し、Au9In4を形成する。このとき、Au9In4合金の成長は、

拡散してきたAu原子を取り込みながら、表面平行方向に優先的に進む。Au-In合金形成に関与しない Sbは、表面偏析し、アモルファス状の島を形成する。しかしながら、この島は、アニール中に基板か ら真空中へと脱離する。

4  Au9In4→AuIn2への構造変化の段階

Au9In4合金近傍のSb原子が表面偏析し、Au9In4合金周辺にIn-richな領域が形成される。ある臨界点ま で達すると、Au9In4中のAu原子は、In-richな領域に短い時間で移動し、Au9In4からAuIn2への相変化 が起こる。Au9In4からAuIn2への相変化において、約2倍の合金相の体積変化が生じる。

94

(36)

4章 InSb{111}A,B-(2

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2)表面上でのAu蒸着素過程の直接観察

第4章の参考文献

[1] J. Bohr, R. Feidenhans'l, M. Nielsen, M. Toney, R.L. Johnson, I. K. Robinson: Phys. Rev. Lett. 54, 1275 (1985).

[2] T. Nakada and T. Osaka, Phys. Rev. Lett. 67 2834 (1991) . [3] T. Mishima and T. Osaka: Surf. Sci. 395, L256 (1998).

[4] T. Eguchi, T. Miura, S.P. Cho, T. Kadohira, N. Naruse and T. Osaka: Surf. Sci. 51, 343 (2002).

[5] D.M. Hill, F. Xu, Zhangda Lin and J.H. Weaver: Phys. Rev. B 38, 1893 (1988).

[6] Zhangda Lin, F. Xu and J.H. Weaver: Phys. Rev. B 36, 5777 (1987).

[7] Y. Sharira, F. Boscherini, C. Capaso, F. Xu, D.M. Hill and J.H. Weaver: Phys. Rev. B 36, 7656 (1987).

[8] 中澤秀司、早稲田大学修士論文 77 (1995).

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参照

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