防衛医学研究センター 情報システム研究部門 准教授 加來浩器 防衛医科大学校 国際感染症学講座 金山敦宏 3月11日の東日本大震災は、死者・行方不明者の合計が約 2 万 5 千名、避難者総数は 30~40 万人にも達した国内でも未曾有の大災害となった。発災直後から全国からの精力的 な医療支援が行われたものの、津波災害の特性から救急救命医療よりはむしろ破壊された 医療の補填が求められた。学校、体育館、集会所などでの避難生活は、劣悪な環境下での 集団生活となるため、ひとたび感染症が発生するとそのコントロールが困難となる。また これらの感染症の一部は、他の地域へと伝播・拡大することも懸念されるため、感染症の 発生を的確に把握するシステムの構築が重要となる。
世界保健機関(WHO)は、21 世紀の新しい感染症対策の一環として GOARN(Global Outbreak Alert Response Network)を構築して、SARS や新型インフルエンザなど新興・再興感染症 へ適切に対応できるような体制をすすめているが、近年ではバイオテロや大規模自然災害 後の感染症への対応に応用されるようになった。 演者が参加した 2004 年のスマトラ島沖地震・津波災害への国際緊急援助活動時には、破 傷風、コレラ、赤痢、麻疹、マラリア、髄膜炎等の流行が懸念されたことから、WHO がイン ドネシアの公衆衛生当局をサポートして症候群サーベイランスが行われた。これは、登録 された医療チームが 1 週間の活動実績を紙又はメールで報告すると、週 2 回開催されるミ ーティング時に地理情報として公開されるというものであった。公衆衛生に係る情報が乏 しいなか、唯一有用な情報であり各支援団体から高く評価されていた。ただしこれらのデ ータを解釈する際には、(1)医療チームの数や活動性の影響を受ける、(2)避難者の移住に よって地域別発生状況が変化する、(3)住民はある程度症状が進展しないと受診しない傾向 がある、(4)1人の患者が複数の施設を渡り歩くいわゆる“ドクターショッピング”の実態 がある、などを加味する必要がある。サーベイランス結果をアウトブレイクの早期発見に 活用するのであれば、(1)診療実績の解析よりは避難所レベルでの健康状態の把握の方が直 接的であり、(2)週報よりも日報にした方が良い。サーベイランスに従事するボアランティ アの参画意欲を高めるためには、(1)サーベイランスデータの即時還元、(2)必要な時の迅 速な介入が不可欠である。 東日本大震災における岩手県では、これらの教訓を生かして、避難所の症候群サーベイ ランス(DSOD:Daily Surveillance for Outbreak Detecting)といわて感染症制御支援チ ーム(ICAT:Infection Control Assistant Team of Iwate)による感染制御活動が行われ た。これは、避難所を中心に復旧作業を進めていたNTTドコモの全面的な協力によって、携 帯端末によるデータ入力と地図上での情報還元が可能となったもので、世界初のITを駆使 した産官学共同のシステムと言える。本勉強会では、本システムの概要と感染制御効果な どについて報告する。
大規模災害時の感染症サーベイランス ~スマトラ津波災害の経験を東日本大震災に生かす~ 防衛医学研究センター 情報システム研究部門 感染症疫学解析対策室 (IDEA Unit) 准教授 加來浩器 (KAKU KOKI) 第3回 第5回災害医療情報システムに関する勉強会 平成23年10月7日 2005年1月 バンダアチェのユニセフ事務所で 子供に対する予防接種の打ち合わせ
サーベイランスとは
疾病の発生状況やその推移などを継続 的に監視することにより、疾病対策の企画 ・実施・評価に必要なデータを実施 評価に必要なデ タを系統的に収系統的に収 集・分析・解釈し、その結果を迅速にかつ 定期的に還元するものであり、疾病の予 防と制御に用いられる。(CDC 1986) 感染症対策におけるサーベイランスの意義 【診療部門】 【サーベイランス担当】 データ ③データの系統的な収集 ⑤分析結果の還元 ④分析と解釈 ①対策の企画 【対策決定部局 (院内感染対策委員会)】 ②対策の実施 ⑦対策見直し/継続 ⑥対策の評価 サーベイ ランスの 結果によ ると・・・ その疾患は優先性が高いか ? 優先順位 サーベイランス・システムの構築の前に! そのサーベイランスの目的は何か? 目 的 ・感染性・伝染性 ・重篤性 ・社会に与えるインパクト ・アウトブレイクの検出 ・流行疾患の動向監視 ・プログラムの進捗確認 ・未来予測 指標として何を使うか? 対象母集団 対象はどのような集団か ? 指 標 報告要領 報告の基準と時期 ・確定例、可能性例、疑い例 ・実数を見る、発生割合や比を見る ・直ちに報告、7日以内に報告、翌月の初日に報告 ・全数を把握(全数報告)、一部から推測する(定点報告) 流行疾患の動向監視 未来予測 自然災害後に問題となった感染症 2005年 ニューオリンズ・ハリケーン ノロウイルス胃腸炎 2008年 四川大地震 ガス壊疽 2009年 ハイチ地震 ジフテリア、コレラ 2010年 パキスタン洪水 コレラ、マラリア クリミア・コンゴ出血熱 1998年 ホンジュラス洪水 レプトスピラ症、デング熱 2006年 ソマリア洪水 リフトバレー熱 2004年 スマトラ沖津波 破傷風 ガ 壊疽 ジフテリア、 レラ 2010年 チリ地震 ハンタ肺症候群 ハイチで活動中の衛生科隊員 (ジフテリアが流行する前だった) http://www.mod.go.jp/gsdf/news/pko/2010/0127‐31.html社会基盤・公衆衛生の整備状況と感染症発生 感染源 感受性者(ヒト) Pathogens 感染経路 A国 B国 感染経路の質的・量的な変化 B国 病原体の増加 ・上下水道の整備× ・居住環境× ・衛生害虫・媒介動物のコントロール× チリ大地震 災害発生時における医療ニーズの時間的推移 発災 外傷 災害復旧に伴う外傷 発災 メンタルケア 感染症 被災生活に伴う感染症の流行 直接的な災害被害 による感染症 発災 潜伏期 自然災害発生後に問題となる感染症 新 規 患 者 発 生 発災 呼吸器感染症 インフルエンザ,麻疹 髄膜炎(小児) ジフテリア 消化管感染症 コレラ、赤痢、腸チフス アルボウイルス感染 日本の結核罹患率 10万人対 20人弱 ハイチの結核罹患率 10万人対 300人 数 発災 外傷に伴う感染症 避難キャンプ、移住に関連した感染症 皮膚感染 節足動物媒介感染 マラリア その他のウイルス性感染症 A型肝炎、E型肝炎、ポリオ アルボウイルス感染 デング熱、日本脳炎 ウエストナイル熱など 動物由来感染症 レプトスピラ症 ハンタ肺症候群 破傷風 ガス壊疽 結核 発症日 • 汚染水 • 粉じん → 呼吸器から感染 感染源 感染経路 病原体の感染経路 → 口から感染 • 水溜り • 汚泥 • 動物 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・・・ ・・・・・・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ → 皮膚から感染 (蚊の産卵場所) → 吸血により感染 自然災害後に発生する感染症 災害に特徴的な感染症 洪水/津波 外傷 創部の化膿、破傷風、ガス壊疽、炭疽 汚染水の吸入、誤嚥 メリオイドーシス肺炎、緑膿菌性肺炎 患者体液、汚物による環境汚染に起因 コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、その他 感染した動物や死体との接触 レプトスピラ症(ワイル病)、ペスト、ハンタウイル ス感染症 避難生活や移住に伴い問題となる感染症 経口感染 ウイルス性感染症(ノロウイルス、ロタウイルス など)、A型肝炎、E型肝炎、コレラ、細菌性赤痢、 腸チフス、サルモネラ症、アメーバ性赤痢、 クリプトスポリジウム、ランブル鞭毛虫、その他 飛沫感染 感冒、インフルエンザ、髄膜炎菌性髄膜炎, 空気感染 麻疹、結核, 経皮感染、汚染水との接触 ス感染症 媒介動物の生息域の拡大 アルボウイルス感染症 (デング熱、ウエストナイル熱、日本脳炎、黄熱、 チクングニアなど)、マラリア、フィラリア 汚染土壌の拡大炭疽 地震 外傷に伴う感染症:洪水、津波と同じ 土壌の真菌の飛散:コクシジオイデス症 森林火災 火傷; 皮膚感染症 経皮感染、汚染水との接触 住血吸虫症 野生動物との接触 レプトスピラ症、狂犬病、ハンタウイルス 感染症、ペスト、トキソプラズマ症、 エキノコッカス(包虫症)、住血線虫症 蚊による吸血 アルボウイルス感染、マラリア、フィラリア その他の吸血性昆虫、動物による感染 ペスト、発疹チフス、ツツガムシ病、 リーシュマニア、トリパノソーマ 創傷部からの感染 痙 笑 潜伏期間:3 ~21 日 破傷風 グラム陽性 桿菌 芽胞形成 嫌気性 http://www.vaccineinformation.org/photos/tetaiac001b.jpg 笑 開 口 障 害 後弓反張
創傷部からの感染 潜伏期間:8時間~20 日(平均4日) ガス壊疽 グラム陽性 桿菌 芽胞形成 嫌気性 疼痛、出血性水疱、握雪感 甘酸っぱい臭気、ガス産生 創傷部からの感染 潜伏期間:1~7日 皮膚炭疽 グラム陽性 桿菌 芽胞形成 4日目 photo taken by P. Brachman, M.D. http://www.ci.nyc.ny.us/html/doh 無痛性の黒色潰瘍 5日目 7 日 目 創傷部からの感染 潜伏期間:5~14日 レプトスピラ グラム陰性 スピロヘータ ドブネズミ、家畜などの尿 経皮・経口感染 重症型(ワイル病)・悪寒、高熱、頭痛 ・出血、黄疸、タンパク尿 ・腓腹筋痛 経口感染 潜伏期間:数時間~5日(通常1日) コレラ グラム陰性 桿菌 米のとぎ汁状の下痢 コレラ顔貌、洗濯婦の手 スキンテント 蚊により媒介される感染症 ハマダラカによる媒介 マラリア(三日熱) 潜伏期間:12~14日 マラリア原虫 1990年代初めの北朝鮮での 大洪水をきっかけに・・・。 新興・再興感染症の台頭 動物の疾病が種を超え人間へ – 未開地への進出 – 食を介して – 家畜・ペットを介して 地球規模で流行 – 高速移動による輸入感染症 世 界 規 模 で の 感 高速移動による輸入感染症 – 物資の移動に伴うベクターの移動 – 地球温暖化による生態系の変化 バイオテロの蓋然性の高まり – 薬剤耐性菌の創出 – 通常と異なる感染経路 感 染 症 対 応 が 重 要 大規模自然災害後の感染症の発生
国際機関等による援助の開始 大規模自然災害発生時における国際機関の援助 救急医療 整形外科 整形外科 救急医療 公衆衛生 現地での統合・調整 が必要 新 規 患 者 発 生 数 災害の発生 外傷に伴う感染 難民キャンプでの感染 呼吸器消化器 皮膚 環境悪化による感染 マラリア、デング熱など 感染症 メンタルヘルス 大規模災害時における国際協力のあり方 UNOCHA 国連人道問題 調整事務所 UNDAC 国連災害評価 調整チーム 災害直後に 派遣 国際社会 被災国 ・災害の調査と調整 ・OSOCCの立ち上げ ・LEMAのサポート 外国の援助チ ムの調整 NGOチーム C国援助チーム 2国間援助 OSOCC 現地活動調整 センター LEMA 被災国政府 現地対策本部 ・外国の援助チームの調整 NGOチーム NGOチーム B国援助チーム A国援助チーム 州・市の 保健担当部局 WHO 世界保健機関 インド 死 者 10,749名 不明 5,640名 タイ 死 者 5,305名 不明者 2,932名 ミャンマー 死 者 61名 不明者 0名 バングラデシュ 死 者 2名 不明者 0名 インドネシア・スマトラ島沖地震及び津波の死者・行方不明者 2004年12月 インドネシア 死 者 126,602名 不明者 94,638名 スリランカ 死 者 38,938名 不明者 4,100名 マレーシア 死 者 69名 不明者 5名 モルディブ 死 者 82名 不明 26名 アフリカ東部 死 者 137名 不明者 0名 死 者 計:182,035名 不明者 計:106,341名 総 計 :288,376名
WHOは、
「被害者の遺体は疫病流行の原因
にはならないので、・・・」
東日本大震災 2011年4月 アチェ州保健局・インドネシア保健省・WHO による疾病サーベイランス 疾病発生・死亡者統計週報 Outpatient Mortality and Morbidity Weekly Surveillance • 目的 アチェ州14地区からの疾病発生・死亡者統計を解析し、公衆衛生的対応 を必要とするようなアウトブレイクの早期発見、諸活動評価の資とする。 • 疾病サーベイランスの対象疾患 急性水様性下痢 麻疹(疑い例を含む) • 報告 – ペーパー又はメール – 前週の月曜から日曜までのデータを毎週月曜日 – 事前に登録された、医療機関(国内外のNGO、国際機関など) – 急性水様性下痢 – 血性下痢 – マラリア(確定例) – 38℃以上のその他の発熱 – 麻疹(疑い例を含む) – 急性呼吸器感染症 – 急性黄疸症候群 – 髄膜炎水様性下痢症の発生状況 :5歳以上 :5歳未満 データ解析時の留意事項 • 医療支援チーム側 • 登録医療チームの数・活動期間・活動内容の変化 • VIPの来訪やマスコミ取材等の影響 • 報告遅れ • 被災民側 • ある程度症状が進展しないと受診しない • 避難者の移住によって地域別発生状況が変化 • “ドクター・ショッピング” 東日本大震災の避難所における感染症サーベイランスを行い、 感染症アウトブレイクの兆候の把握するとともに、感染制御策の 初動対処をサポートする。 ICAT (Infection Control Assistant Team) メンバーによる介入る介入 スマトラ島津波災害の教訓を生かす ・ アウトブレイクの早期探知のためには ‐ 診療実績の解析よりも、避難所での疾病把握が大切 ‐ 週報よりも日報が良い ・ サーベイランスに携わるヒトの参画意欲の向上のために、 即時のデータ還元と感染対策支援が必須 避難所サーベイランスの概要 ・宮城県 ・福島県 ・岩手県 ・青森県 東北大学 感染制御検査診断学 福島県立大学 感染制御・臨床検査医学 岩手医科大学 感染対策室 青森県立中央病院 協力 避難所 東北感染制御ネットワーク アドバイス 自衛隊衛生科 部隊 防衛医学研究センター 情報システム研究部門 GPS company Pasco NTT docomo
Gallaxy Tab Webアプリ
NPO 仮設診療所 サーベイランス・システム評価の要素 1)単純性 Simplicity 2)柔軟性 Flexibility )十全性 6)予測性 Predictability 7)代表性 Representativeness 適時性 3)十全性 Quality 4)受容性 Acceptability 5)感度 Sensitivity 8)適時性 Timeliness 9)安定性 Stability
症候群のカテゴリー 1 急性胃腸症候群・・・ノロウイルス感染、感染性胃腸炎、黄色ブドウ球菌食中毒、 カンピロバクタ‐腸炎、ビブリオ腸炎、EHEC0157、赤痢、コレラ 2 急性呼吸器症候群・・・感冒、インフルエンザ、レジオネラ症 3 急性発疹・粘膜・出血症候群・・麻疹、風疹、咽頭結膜熱、A群溶連菌感染 手足口病、流行性角結膜炎、ツツガムシ病 4 急性神経・筋症候群・・・破傷風、髄膜炎など 5 皮膚・軟部組織感染症・・・ガス壊疽、ビブリオ・バルニフィニカス感染症、疥癬 6 急性黄疸症候群・・肝炎、レプトスピラ 7 非特異症候群・・・インフルエンザ、ツツガムシ病 8 死亡群 避難所 PASCO サーバー 情報発信 情報共有 スマートフォンを活用した避難所での感染症サーベイランスと感染症対策 スマートフォンに入力 ICATメンバーによる介入 情報発信 防衛医大 IDEA unit 情報収集・解析 4月29日 NHKニュース 「おはよう日本」 岩手県では、4月13日~8月16日までの127日間に、20か所以上の避難所で、 延べ1,661日・施設(施設避難者延べ数232,149日・人)のサーベイランス、 4班のICATが、延べ200日・施設への定期巡回指導を行った。 東日本大震災における避難所で重要な感染症 1 ノロウイルス感染 2 インフルエンザ 3 急性呼吸器症候群(乾燥、寒冷、喘息、アレルギーを含む) ・ ・ ・ 手足口病 ・ 破傷風 ・ レジオネラ症 ・ 急性黄疸症候群の報告はO (8月12日現在)