1 .はじめに
2010年3月,法務省で発表された「第4次出入国管 理基本計画」では,アジア地域の活力を取り込んでい く観点から積極的な外国人受け入れ施策が掲げられた.
ここで,とくに注目に値するのは,日本の大学等を卒 業し介護福祉士等の国家資格を取得した人についても,
介護福祉士として活動できるよう「就労を目的とする 在留資格」に,新たに「介護」を加える方向が示され たことである
1).今から10年ほど前,筆者(趙)は日 本の介護福祉士養成校を卒業と同時に介護福祉士を取 得後,介護職員としての就労に対する日本の在留資格 が取得できず挫折した経験をもつ.そうした自身の苦 い経験を思い浮かべながらも,同じ志をもつ留学生に とっては新たな一歩となるに違いないという想いから,
法務省の基本計画には期待を寄せているところである.
さて,かつて世界に類をみないスピードの高齢化で 注目をよせた日本であるが,隣国の韓国では,これを さらに上回る勢いで高齢化が進んでいる
2).このよう な事態に備えるべく韓国では2008年7月より,日本で 始まった介護保険制度に追随し,老人長期療養保険制 度が開始された.
「福祉は人なり」と言われるように,制度成否の大き
な要となっているのは介護福祉を担う専門職というこ とになる.この専門職の質を担保するために,日本で は国内外の資格制度や研修制度を参考にして介護福祉 士制度が国家資格として誕生,1999年,2007年と2度 のカリキュラム改正もなされている.一方,韓国では 老人長期療養保険制度の施行に合わせて「療養保護士」
と呼ばれる専門資格制度を創設し養成が行われている.
しかし,筆者らはかねてより,日本の介護福祉士に当 てはまるのは韓国の「ケア福祉士」という資格制度で あると認識してきた
3).ケア福祉士の資格は1999年に 韓国ケア福祉協会
4)が設立されたことを契機に養成が 始まったものである.筆者(谷川・趙)は2003年8月,
当時同協会の会長を務めていた安 香林女史のお計らい により安会長が勤務する水原女子大学において「日本 の介護福祉」について講義をする機会に恵まれた.こ のような経験から,実際に韓国の学生が日本の介護事 情に対しては非常に高い関心をもっていることを肌で 実感することができた.
ところで,今日,介護人材不足の課題を抱えながら も,介護福祉士の資質向上を図るべく「社会福祉士及 び介護福祉士法」の改正をおこなって新たな局面に向 き合っているのが日本である.そして,国家資格とし て養成がはじまったばかりであり,量的にも質的にも
* 岡山県立大学
* * 白梅学園大学
* * * 千住介護福祉専門学校
* * * * 金沢大学
* * * * * 関西福祉大学
キーワード:介護福祉士,イメージ,日韓比較,学生,SD(semantic differentia method)法
SD 法を用いた介護福祉学生における 介護福祉士イメージの日韓比較
趙 敏 廷
*森 山 千賀子
**朴 美 蘭
***森 山 治
****谷 川 和 昭
*****介護人材の確保が課題であるのが韓国である
5).この 両国にとって,よりよい介護人材の養成は共通するテー マであるといえよう
6).
では,介護福祉の専門資格制度をもつ日本と韓国に おける学生はそもそも専門資格者(介護福祉士・ケア 福祉士)に対してどのようなイメージを抱いていたの であろうか.このことについて韓国においても日本に おいても,介護福祉士イメージに関する先行研究
7)は 数少ないことから,これからの介護人材の養成を検討 するにあたっては,当時の実態を検証し直しておく必 要があると筆者らは考えたからである.
そこで,本研究では,老人長期療養保険の制度化以 前における,介護福祉士イメージの共通点や相違点を 明らかにすることにより,両国における介護福祉士養 成のあり方を見つめ直す基礎資料を得ることを目的と した.
2 .方 法
日本と韓国の介護福祉士養成施設に在籍する学生を 調査対象として質問紙による集合調査を実施した.こ の調査の時期は,韓国では2003年8月から9月末にか けてであり,日本では同年10月から11月末にかけてで ある.
質問紙は,対象者の基本属性,介護福祉士資格取得 の志望理由,介護に対するイメージ,介護のあり方,
介護の能力・適性・専門性,介護職の志望度,介護政 策などから構成されており,調査結果の一部は公表済 み
8)9)である.しかし,当時においては分析をなし得な かった項目があった.それは具体的には「介護福祉士 イメージ」(22項目)に関するものであり,今回の研究 では,共同研究者の支援を得て分析を進めることとし た.
質問紙の韓国語版の作成にあたっては,日本語から 韓国語にまず翻訳し,次に翻訳した韓国語を再び日本 語に翻訳するといったバック・トランスレーションを 行った.このことで翻訳作業が厳格なものとなるよう 配慮することで,翻訳の妥当性を確保した.
分析対象は,日本の学生が278名,韓国の学生が160 名であった.分析手法には,「介護福祉士イメージ」
(22項目)を SD 法(semantic differentia method)
10)によって比較を試みることにして,主にt検定と因子 分析を用いた.
なお,調査によって得られたデータはすべて統計的
に処理がなされること,したがって,個人が特定され たり,外部に洩れて不利益が生じることがないことを 質問紙の紙面にて明示し,倫理的な配慮を行った.
3 .結 果
⑴ SD 項目の回答内容の分布
選択肢で最も比率が高かった箇所に注目してみた(表 1-①,表1-②).すると,ネガティブな面に回答が 集中しているのは,日本の学生が「労の多い」の1項 目,韓国の学生は「地味な」の1項目ずつであった.
一方,ポジティブな面に回答が集中しているのは次 のような項目であった.すなわち,各選択肢でそれぞ れ2.5割から3割程度以上を占めた項目を基準として選 定したところ,日本では「楽しい」「信頼できる」「明 るい」「温かい」「礼儀正しい」「勤勉な」「進歩的な」
「親切な」「知的な」「やさしい」「親しみやすい」「価値 のある」の12項目においてポジティブな回答傾向がみ られた.また,韓国では「楽しい」「信頼できる」「格 好良い」「明るい」「温かい」「礼儀正しい」「科学的な」
「勤勉な」「親切な」「知的な」「やさしい」「丁寧な」
「活気のある」「楽な」「親しみやすい」「清潔な」「価値 のある」の17項目においてポジティブな回答傾向がみ られた.
⑵ SD 項目の平均値による比較
t検定の結果,有意な差のない項目と差のある項目 が明らかとなった(図1).具体的には,「冷たい-温 かい」 「礼儀悪い-礼儀正しい」 「保守的な-進歩的な」
「知的でない-知的な」「乱暴な-丁寧な」の5項目に 有意な差はなかった.
日本より韓国の平均値の高かったのは, 「つらい-楽 しい」「信頼できない-信頼できる」「格好悪い-格好 良い」「自由でない-自由である」「迷信深い-科学的 な」「怠惰な-勤勉な」「労の多い-楽な」「親しみにく い-親しみやすい」 「不潔な-清潔な」 「醜い-美しい」
「価値のない-価値のある」の以上11項目であった.反 対に日本より韓国の平均値が低かった項目は,「暗い-
明るい」「不親切な-親切な」「こわい-優しい」「地味
な-華麗な」「活気のない-活気のある」「社会的地位
の低い-社会的地位の高い」の以上6項目であった.
表 1 -①.日本の介護福祉学生の SD 項目についての回答内容の分布
ネガティブ面 非常に かなり やや わからない やや かなり 非常に ポジティブ面
SD1 つらい 2.9 10.8 24.8 13.7 34.9 8.6 4.3 楽しい
SD2 信頼できない 1.1 1.4 6.8 23.0 38.5 18.3 10.8 信頼できる
SD3 格好悪い 1.8 3.2 12.6 47.5 20.9 7.2 6.8 格好良い
SD4 暗い 0.4 0.7 6.8 15.1 36.7 21.2 19.1 明るい
SD5 冷たい 0.4 1.4 4.3 9.7 26.3 29.1 28.8 温かい
SD6 自由でない 9.7 13.3 24.1 34.9 14.4 1.4 2.2 自由である
SD7 礼儀悪い 1.1 0.4 7.9 19.4 30.2 23.0 18.0 礼儀正しい
SD8 迷信深い 2.9 3.2 11.5 63.3 12.6 5.4 1.1 科学的な
SD9 怠惰な 0.7 0.7 5.8 43.5 29.1 11.2 9.0 勤勉な
SD10 保守的な 1.4 2.2 10.1 29.9 32.4 15.8 8.3 進歩的な
SD11 不親切な 0.7 0.0 3.6 6.8 28.8 27.3 32.7 親切な
SD12 知的でない 0.7 1.4 8.6 34.5 33.8 13.3 7.6 知的な
SD13 こわい 0.4 0.0 2.5 9.0 24.8 24.1 39.2 やさしい
SD14 乱暴な 0.4 0.4 6.1 14.0 26.6 28.8 23.7 丁寧な
SD15 地味な 9.0 14.4 26.6 31.7 11.5 4.7 2.2 華麗な
SD16 活気のない 0.7 2.2 6.1 25.5 27.7 18.7 19.1 活気のある
SD17 労の多い 30.6 27.0 26.6 8.6 5.4 0.7 1.1 楽な
SD18 親しみにくい 0.7 1.1 7.6 25.5 32.4 17.6 15.1 親しみやすい
SD19 不潔な 3.6 6.5 23.4 30.2 15.5 10.4 10.4 清潔な
SD20 醜い 0.7 4.0 13.7 53.2 17.6 6.8 4.0 美しい
SD21 価値のない 1.1 0.7 1.4 16.9 20.1 21.9 37.8 価値のある
SD22 社会的地位の低い 5.4 5.4 11.9 35.6 20.1 10.4 11.2 社会的地位の高い
%,n=278
表 1 -②.韓国の介護福祉学生の SD 項目についての回答内容の分布
ネガティブ面 非常に かなり やや わからない やや かなり 非常に ポジティブ面
SD1 つらい 0.0 0.6 23.1 19.4 41.9 10.0 5.0 楽しい
SD2 信頼できない 0.6 0.0 5.6 16.9 38.1 27.5 11.3 信頼できる
SD3 格好悪い 0.6 0.0 8.8 13.8 41.3 27.5 8.1 格好良い
SD4 暗い 1.3 1.3 15.0 12.5 30.0 26.3 13.8 明るい
SD5 冷たい 0.0 1.3 6.9 4.4 30.6 33.1 23.8 温かい
SD6 自由でない 3.1 14.4 23.1 18.8 25.6 10.6 4.4 自由である
SD7 礼儀悪い 0.0 3.1 3.8 11.9 36.3 30.6 14.4 礼儀正しい
SD8 迷信深い 1.3 3.8 12.5 31.9 32.5 12.5 5.6 科学的な
SD9 怠惰な 0.0 1.3 2.5 8.1 23.1 40.0 25.0 勤勉な
SD10 保守的な 1.3 3.8 15.6 27.5 25.0 18.8 8.1 進歩的な
SD11 不親切な 0.6 0.6 3.8 8.8 32.5 32.5 21.3 親切な
SD12 知的でない 0.0 2.5 17.5 15.6 36.3 23.1 5.0 知的な
SD13 こわい 0.0 2.5 2.5 10.0 35.6 28.1 21.3 やさしい
SD14 乱暴な 0.0 0.6 6.9 11.3 36.9 30.0 14.4 丁寧な
SD15 地味な 14.4 24.4 23.8 19.4 13.1 3.8 1.3 華麗な
SD16 活気のない 0.6 5.0 10.0 16.3 40.6 19.4 8.1 活気のある
SD17 労の多い 5.0 10.0 11.3 13.8 26.3 16.9 16.9 楽な
SD18 親しみにくい 0.6 2.5 5.0 15.0 33.8 25.6 17.5 親しみやすい
SD19 不潔な 0.0 2.5 6.3 12.5 32.5 32.5 13.8 清潔な
SD20 醜い 0.6 3.8 10.6 30.0 21.3 20.0 13.8 美しい
SD21 価値のない 0.6 0.6 3.1 6.9 12.5 37.5 38.8 価値のある
SD22 社会的地位の低い 11.3 18.1 22.5 23.8 17.5 5.6 1.3 社会的地位の高い
%,n=160
⑶ SD 項目の因子分析
固有値1以上の基準で,直行回転による因子分析を おこなったところ,日本では,「配慮」「優美」「活力」
「裁量」「検証」の5因子が,韓国では「誠実」「活発」
「品性」「進取」の4因子が抽出された(表2-①,表 2-②).
非常に かなり やや わから やや かなり 非常に ない
つらい 楽しい
信頼できない 信頼できる
格好悪い 格好良い
暗い 明るい
冷たい 温かい
自由でない 自由である
礼儀悪い 礼儀正しい
迷信深い 科学的な
怠惰な 勤勉な
保守的な 進歩的な
不親切な 親切な
知的でない 知的な
こわい やさしい
乱暴な 丁寧な
地味な 華麗な
活気のない 活気のある
労の多い 楽な
親しみにくい 親しみやすい
不潔な 清潔な
醜い 美しい
価値のない 価値のある
社会的地位の低い 社会的地位の高い
1 2 3 4 5 6 7
4.10
4.95 4.31
5.27 5.63
3.44
5.18
4.00 4.69 4.70
5.76 4.69
5.87 5.47 3.45
5.10 2.38
5.01 4.21
4.19
5.71 4.36
4.53 5.19
5.10 5.03
5.59
3.99 5.31
4.51
5.73 4.60
5.54 4.75
5.48 5.32
3.09
4.82
4.64 5.26
5.28 4.83
5.98
3.40
日本 韓国
図 1 .SD 項目の平均値についての日韓比較
表 2 -①.日本の介護福祉学生の SD 項目についての因子パターン行列
配慮 優美 活力 裁量 検証
SD11 親切な-不親切な 0.828 0.268 0.125 0.033 0.106
SD13 やさしい-こわい 0.737 0.006 0.178 0.138 0.093
SD5 温かい-冷たい 0.670 0.173 0.351 0.055 0.052
SD14 丁寧な-乱暴な 0.655 0.111 0.266 0.126 0.219
SD2 信頼できる-信頼できない 0.501 0.271 0.279 0.226 0.048
SD7 礼儀正しい-行儀悪い 0.476 0.087 0.311 0.012 0.326
SD10 進歩的な-保守的な 0.347 0.253 0.132 0.103 0.196
SD20 美しい-醜い 0.047 0.643 0.166 0.206 0.198
SD3 格好良い-格好悪い 0.119 0.575 0.211 0.162 0.060
SD21 価値のある-価値のない 0.321 0.454 0.127 -0.115 -0.008
SD19 清潔な-不潔な 0.152 0.451 0.261 0.245 0.152
SD22 社会的地位の高い-社会的地位の低い 0.278 0.341 -0.073 0.163 0.283
SD18 親しみやすい-親しみにくい 0.295 0.288 0.636 0.081 0.096
SD16 活気のある-活気のない 0.331 0.217 0.553 0.179 0.142
SD4 明るい-暗い 0.330 0.305 0.513 0.160 -0.098
SD6 自由な-自由でない 0.190 0.024 0.055 0.659 -0.084
SD17 楽な-労の多い -0.077 0.134 0.053 0.639 0.236
SD15 華麗な-地味な 0.080 0.238 0.032 0.530 0.370
SD1 楽しい-つらい 0.244 0.200 0.175 0.448 -0.140
SD8 科学的な-迷信深い 0.097 0.095 0.061 0.089 0.590
SD12 知的な-知的でない 0.443 0.252 -0.052 0.109 0.447
SD9 勤勉な-怠惰な 0.240 0.032 0.357 -0.224 0.421
表 2 -②.韓国の介護福祉学生の SD 項目についての因子パターン行列
誠実 活発 品性 進取
SD13 やさしい-こわい 0.844 0.347 0.150 0.069
SD14 丁寧な-乱暴な 0.815 0.165 0.203 0.204
SD11 親切な-不親切な 0.706 0.324 0.300 0.265
SD7 礼儀正しい-行儀悪い 0.620 0.168 0.403 0.084
SD9 勤勉な-怠惰な 0.599 0.142 0.473 -0.095
SD4 明るい-暗い 0.230 0.653 0.286 0.185
SD18 親しみやすい-親しみにくい 0.490 0.609 0.116 0.086
SD17 楽な-労の多い 0.268 0.571 0.204 0.250
SD6 自由な-自由でない 0.113 0.543 0.112 0.480
SD5 温かい-冷たい 0.465 0.537 0.237 0.015
SD16 活気のある-活気のない 0.449 0.520 0.189 0.328
SD1 楽しい-つらい 0.060 0.510 0.250 0.256
SD2 信頼できる-信頼できない 0.281 0.425 0.422 0.090
SD19 清潔な-不潔な 0.267 0.295 0.588 0.203
SD3 格好良い-格好悪い 0.197 0.306 0.544 0.184
SD21 価値のある-価値のない 0.410 0.248 0.538 -0.145
SD20 美しい-醜い 0.199 0.094 0.509 0.351
SD12 知的な-知的でない 0.365 0.201 0.483 0.415
SD8 科学的な-迷信深い 0.157 0.232 0.481 0.426
SD15 華麗な-地味な -0.059 0.102 -0.042 0.745
SD22 社会的地位の高い-社会的地位の低い 0.109 0.196 0.261 0.644
SD10 進歩的な-保守的な 0.276 0.333 0.281 0.534
4 .考 察
本研究の目的は,介護福祉の専門資格制度をもつ日 本と韓国における学生はそもそも介護福祉士という有 資格者に対してどのようなイメージを抱いていたのか 点検することにあった.そして,その共通点や相違点 を明らかにすることで,両国における介護福祉士養成 のあり方を見つめ直すための基礎資料を得ることにあっ た.先の分析方法においてデータとして示された結果 にもとづき,日本と韓国の介護福祉学生の介護福祉士 イメージの共通点および相違点をとりあげて考察する ことにする.
まず共通点である.回答分布の結果を踏まえてみる と,日本と韓国の学生の介護福祉士のイメージの共通 点として,「温かい」「礼儀正しい」「進歩的な」「知的 な」「丁寧な」といった点で両国ともポジティブなイ メージをもつ傾向があることが示唆された.
次に相違点である.一つ目の相違点は,日本では「労 の多い」イメージが強い反面,韓国では「楽な」イメー ジが少なからずあるということが分析の結果から見て 取れる.これについては,養成カリキュラムが異なる こと,とりわけ実習の時間数や内容が反映しての結果 とも考えられる.日本の場合,介護福祉士の養成カリ キュラムにおいて450時間の実習が課されている.学生 にとって実習は実践力を養える貴重な機会であると同 時に,介護福祉の現場の実情を知る機会でもある.2011 年現在の今もなお,日本の介護福祉の現場が抱える課 題の一つとして人手不足と多忙さがあげられるが,学 生が450時間の実習でこのような実情を肌で感じるよう な体験をすることは容易に想像できることである.こ のような体験が介護福祉士に対する「労の多い」イメー ジに少なからず影響しているのではないかと思われる.
一方,韓国の場合,ケア福祉士の養成カリキュラムに おける実習時間は40時間以上であり
11),介護福祉の現 場の実情を理解するには十分と言えない.また,実習 内容は見学レベルでの体験が多いことから比較的「楽 な」イメージ形成に影響しているように思われる.
二つ目の相違点は,韓国では「社会的地位の低い」,
日本では「社会的地位の高い」というイメージに分か れていることが今回の調査結果から明らかになった.
これについては,日本の場合,介護福祉士が国家資格 である反面,韓国の場合ケア福祉士が認定資格である ことの影響がここに表れているものと考えられる.
三つ目の相違点は,抽出された因子数は日本が韓国 よりも1つ多く,ネーミングも趣きが異なるものであ ることが示唆された.ここでは抽出された因子のうち,
両国の介護人材養成における現状や課題を表す,象徴 的な因子名を中心に若干の考察を加えておきたい.
日本では「科学的な-迷信深い」「知的な-知的でな い」「勤勉な-怠慢な」の項目からなる因子名について は「検証」と名付けた.これについては,まだ途上と は言え,日本の介護福祉における学問の体系化やエビ デンスに基づいた介護教育が背景にあると考えたこと による.一方,韓国では「華麗な-地味な」「社会的地 位の高い-社会的地位の低い」「進歩的な-保守的な」
の項目からなる因子名については「進取」と名付けた.
これについては,介護人材の養成がまだ緒についたば かりの韓国にとって,社会的な認知度を高めていくた めの積極的な取り組みの必要性があるといった,今後 の課題に対する意識が反映されているものと考えたこ とによる.
5 .本研究の限界と課題
以上,大まかなものではあるが,SD 法を使っての 介護福祉学生の介護福祉士イメージを日韓比較によっ て検討した.しかし,今回の結果についてはランダム・
サンプリングを行っていないため,その一般化には限 界がある.また,集計データも調査時点から既に8年 が経過している.したがって,今後,日本における制 度改正と韓国における新制度を踏まえて,改めて比較 調査を行い,分析していくことが当面の課題といえる.
付 記
本稿は,第18回日本介護福祉学会大会(於:岡山県 立大学,2010年9月19日)で口頭発表した共同研究「介 護福祉学生の介護福祉士イメージ―SD 法よる日韓比 較」を改題,加筆修正したものである.
注
1) 「外国人歯科医師や看護師就労年数など制限撤廃(法務省)」
『シルバー新報』第949号,2010年12月3日.
2) 国立社会保障・人口問題研究所「主要国の65歳以上人口割 合別の到達年次とその倍加年数」『人口統計資料集(2011)』
によると,65歳以上の人口の割合が7%から14%になるま での所要年数が日本は24年であったことに対し,韓国は18 年と予測されている.http://www.ipss.go.jp/syoushika/
tohkei/Popular/,2011年6月9日閲覧.
3) ケア福祉士制度については,尹 靖水が「介護福祉士の養
成制度」として紹介している.詳しくは,尹 靖水(2002)
鬼崎信好・増田雅暢・伊奈川秀和編『世界の介護事情』中 央法規出版,225-244.
4) 韓国ケア福祉協会は,変革を遂げておりその後2010年7月 現在,韓国ケア社会福祉大学協議会(http://www.careswel- fare.or.kr)へと脈が続いており,ケア社会福祉士へと名称 が変更,養成がなされている.
5) 2009年12月現在,療養保護士の資格取得者は45万人に達し ており,供給が需要を上回っている.しかし,低賃金のな どによる低い就業率や履修時間及びカリキュラムなど養成 課程における様々な課題が山積している.林春植・宣賢奎・
住居広士編著(2010)「第4章 療養保護士の養成と職業倫 理」『韓国介護保険制度の創設と展開』ミネルヴァ書房,84
-110.
6) 森山千賀子(2010)「韓国との国際交流における介護福祉の 役割」『第18回日本介護福祉学会大会プログラム・発表要旨 集』第18回日本介護福祉学会大会事務局,25.
7) 論文情報ナビゲータによって検索すると(2011年8月16日 現在),日本の場合に限ってみても「介護福祉士 イメー
ジ」で13本,「介護福祉士のイメージ」で1本ヒットするに とどまる.
8) 趙敏廷・谷川和昭(2005)「介護福祉士養成における学生の 介護意識に関する日韓比較研究」『介護福祉士』第3巻第1 号,45-51.
9) 趙敏廷・谷川和昭(2006)「介護福祉士養成における学生の 介護意識に関する日韓比較研究」『大韓ケア福祉学』第2巻 第1号,136-148.なお,本論文は韓国大韓ケア福祉学会か らの依頼により同上論文をもとに必要な修正を行い寄稿し たものである.
10) SD 法(semantic differentia method)とは,ある事柄に対 して個人が抱く印象を相反する形容詞句の対を用いて測定 する調査法の一つである.それぞれの形容詞句に尺度を持 たせ,その尺度の度合いによって対象事項の意味構造を明 らかにしょうとするものである.
11) 尹 靖水(2002)前掲書,240
(2011年8月25日受理)