職業的意思決定と不決断
その他のタイトル Vocational Decision Making and Indecision
著者 清水 和秋
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 14
号 2
ページ 203‑222
発行年 1983‑03‑28
URL http://hdl.handle.net/10112/00022785
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1
水 和 秋
1 . は じ め に
職業指導の最近の一つの主流として,アメリカ連邦教育長官 M a r l a n d ,S . P . , J r . の提唱によ って始まった C a r e e rE d u c a t i o n の問題がある。これは,学校教育における知的教育と職業的教 育とを分離して取り扱うのではなく,将来の職業生活に役立つものへと両教育を総合化するため のカリキュラムを再編しようとする運動である。そして,このような統合教育は,仙崎 ( 1 9 7 9 ) が 紹介しているようにアメリカの各州やヨーロッパにおいて実践的に取りくまれようとしている。
なお,この C a r e e r E d u c a t i o n においては,単なる職業に関する知識を獲得させるという意味 での職業教育ではなく,一生にわたる職業生活に焦点をあてることによって, S u p e r( 1 9 5 7 ) の いう職業的な自己概念の確立を目指そうとするものである。そして,この教育の最大の特徴は,職 業に対する考え方やそれと関わる自己概念の明確化はもちろんのこと,さらに,自己の進路決定 あるいは職業選択についての技術的な能力の向上を図ろうとしていることである。このように,
C a r e e r E d u c a t i o n においては生徒や学生の職業的意思決定を中心的な課題概念としている。
ところで,人間の生涯においてどのような意思決定が行われているかを, S u p e r( 1 9 8 0 ) は , 次のように整理している。彼は,人間の生活段階を,成長,探索,確立,維持,下降の 5段階に 分け,各段階における生活上の役割として,子供,生徒・学生,余暇人,働く人,市民,配偶者,
家計維持,親,年金生活の 9 個の役割が各人の成長とともに機能していることを論じている。そ して,人が新しい役割を果たさなければならなくなる時点や古い役割を終えようとする時点にお いて,次にいかなる役割を選択するのか,あるいはどの程度の役割を果たすかについての意思決 定が必要となると考えられる。例えば,就職するのか進学するのか,どのような職業を選択する のか,配偶者を得ようとするのか,子の役割として親を扶養するのか,引退し年金生活に入るの かなど, S u p e r は人生全体を通じて 1 6 回の意思決定が必要であることを論じている。このよう な意思決定に対する対処の仕方を学校教育に導入したのが C a r e e r E d u c a t i o n の構想であり,
ここに V o c a t i o n a lE d u c a t i o n との最大の差異があると考えられる。
ところでわが国の大学生の選職行動は,職業選択ではなく企業選択である(清水 1 9 8 0 ) 。また,
その際の特徴として,安定企業や成長企業や流行業種への偏重傾向が認められる(中西他 1 9 8 0 ) 。
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号一方,日本の基幹産業における構造的変化は次第に進み,例えば,サービス産業,特に,情報産 業を中心とする産業構造の変化(仙崎 1 9 8 2 ; 吉谷 1 9 8 2 ) などが考えられるが,情報処理の技術 革新によって新しく発生する職業において要求される適性の諸要因は,現状ではほとんど不明な 点が多く,またこれらの職種に対する適性諸要因の測定も,このような職業構造の変化に対応し ているとはいえない。例えば K u d e r ,G . F . や S t r o n g ,E . K . , J r . の研究を基礎とする興味検 査では,パソコンなどに対する生徒や学生の活動を測定項目として含めておらず,これからの産 業の重要分野の一つである情報処理についての様々な興味を測定することはできない。そして,
GATB に代表される職業適性検査も,様々に細分化されつつある職務への適合性への判定基準 を有してはいないと考えられる。すなわち,単純な,ー変量解析的な,特性因子論的な視点では,
現状の職業の変化に十分には対処できないといえよう。いかなる能力や興味を持っていたとして も,職務を選択できず,また産業構造の変化の方向がわからないために,大学生の選職行動にお いては,進学における成績のように一次元的な尺度が主な判断基準となっているのではないだろ うか。
しかしながらこのような大学生の選職行動は,近年になって急に発生したものではない。欧米 の C a r e e rE d u c a t i o n とは異なり,職業指郡に関わる中学校や高等学校の教育活動としての啓 発的経験では,文化祭や体育祭などの学校行事やあるいはクラプ活動などの活動内容の観察評価 が中心となっている。職業選択のもつ問題点や意思決定の技能などは,これを取り上げようとす る学校は少なく(加部・田村 1 9 7 8 ) , ほとんどの学校では進学問題の解決が中心課題と考えられ ている。このような結果として,職業選択についての先行経験を持たない大学生では,大学への 進学時の類推による企業の安定性という一次元的評価基準が意思決定の中心的な役割を果たして きたものと考えられる。このように考えてみた場合,広井・中西 ( 1 9 7 8 ) が主張するように,職 業指薬の実践においては,意思決定のプロセスについての学習が,大学生にとって重要な役割を もつようになる。
ところで,この C a r e e r E d u c a t i o n の流れに先行しながらこれに大きな影響を与えているの が職業的発達理論である。 C r i t e s( 1 9 6 9 ) によれば, P e r s o n s ,F . に始まる特性因子論の流れと,
F r e u d , S . の影響のもとでの動因や欲求などの心理的変数によって職業行動を研究する流れとを 総合化して,職業指導に発達の概念を導入したのが S u p e r( 1 9 5 7 ) であった。 Super は,職業 生活を送るなかで様々な経験を通じて自己概念が形成される過程を「職業的発達 ( V o c a t i o n a l D e v e l o p m e n t ) 」と呼んだのである。そして彼は, この職業的発達が一つの辿続的つながりのな かで進行するものと考え, こ の 発 達 の 程 度 を 示 す も の と し て の 「 職 業 的 成 熟 ( V o c a t i o n a l M a t u r i t y ) 」という用語を導入している。さらに,この成熟度を測定することによって,暦年令
との比から職業的成熟指数の可能性についても論じている。
なお,このような職業的成熟の指標に関しては,研究者間において十分な一致はみられていな い 。 Super は職業的成熟と共に,職業選択問題への関心としての「職業選択への方向づけ」が
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定まり,職業についての情報やその職業へ就くための計両などに関する「知識情報と計画」が増 え,確立し,さらに目標に関係しないものを排除することによる「職業に対する好みの一貫性」
が高まると考えている。さらに個人の能力などの適性要因が形づくられ,分化し,特定の分野に 対する「特性と性能の結晶化」が成熟の基礎であり,以上を総合化する「職業の好みについての 知恵」も成熟の次元と考えている。 C r i t e s( 1 9 7 8 ) は , 図 1 のようにこれを階層的な構造へと展 開している。このような職業的成熟の諸概念について Westbrook( 1 9 7 4 ) , 坂柳 ( 1 9 8 1 ) が整理 しているように,様々な研究によって測定尺度が構成されており,識業的発達の測定可能性が検 討されている。従来の職業指遅における測定は,主に適性諸要因を中心とするものであったのに 対して,このような職業的発達の測定は,職業選択における意思決定の問題点を診断するために 大きな役割を果たすであろう。また職業指迎の教育活動が生徒や学生にどの程度の効果があった かを測定することは,職業指祁活動の評価にも役立つものであると考えられる。
図 1 青年期の職業的成熟モデル ( C r i t e s 1 9 7 8 )
また一方,情報処理技術の進歩は,消水 ( 1 9 8 0 ) が先に一部紹介したように,職業指導へのコ ンビュータ利用という大きな影瞥を及ぼしており,またコンピュータの利用形態はバッチ処理あ るいは会話型による情報検索システムを中心とするものから,さらに自己概念の形成に関わる会 話 型 の 意 思 決 定 シ ス テ ム ヘ と 発 展 し つ つ あ る (Super 1 9 7 0 , 1 9 7 3 ; Rayman & H a r r i s ‑ Bowlsbey 1 9 7 7 ) 。 さらにこのシステムに加えて職業的成熟の測定を行うことは, コンビュータ の援助がどの程度職業的意思決定に対して効果があったかの評価を行うことを可能にするもので ある (Super1 9 7 3 ) 。そして,これら一連の ComputerA s s i s t e d V o c a t i o n a l Guidance (CA VG) は , 意思決定のどのような段階部分に問題があったかを診断することにもこれを役立てる
ことができよう。
ところで,関西大学学生部の「学生生活実態調査報告書」によれば,辿路や職業選択への不安
を訴える学生は,該当する項目を 2 個選択する形式の質問であるにもかかわらず,かなりの数に
のぼっている。また C r i t e s( 1 9 6 9 ) は,職業的な決定をできず困難を感じている者は, 同世代
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の学生の約 30% 程度存在することを報告している。先の職業的成熟尺度は,主に各要因がどの程 度まで発達しているかを測定しているのに対して, C r i t e s( 1 9 6 9 ) が紹介している「職業的不決 断 ( V o c a t i o n a lI n d e c i s i o n ) 」は,次の進路を決断しなければならない時点に焦点をあて,そこ で問題を生じている心理的な過程を分析しようとするものである。 C a r e e rEducation の考え方 を,ゆとりの時間や進路指導の時間において活用できる中学校や高等学校とは異なり,大学生に 対しては,かなり主体的な探索的選択行動が要求されている。このような職業的意思決定に困難 を感じている不決断者に対して,特に,職業指導の援助を与えるために,診断システムと援助シ ステムが必要とされる。なぜなら,悩みを感じている学生は,自ら積極的に解決の方策を行動に 移すことは少ないと考えられるからである。そして,「機械とかコンビュータは決して完全では ない。人間より完全ではないが,誰とも話す機会がないよりは,はるかにましだ ( S u p e r 1 9 6 9 ) 」 と考えるならば,職業的不決断者に対してこそ,むしろ逆にコンビュータによる職業システムは 大きな力を発揮するものといえよう。
すなわち,職業的成熟測定は,職業指導の教育的な効果に関わるものであり,大学生を対象と したコンビュータによる職業指導を考える場合には,援助を求めている学生をまず発見するため の不決断測定尺度の構成の方が先決条件であり,より重要な役割をもつものと考える。そこで本 論文においては,まず第一課題として「職業的不決断」を取り上げ,これを心理的側面から検討 することとした。
2 . 職 業 選 択 に お け る 不 決 断 A. 不決断 ( i n d e c i s i o n ) について
どのような職業を選択するかについての決心がつかないということを, C r i t e s( 1 9 6 9 ) は , ( a ) 選択ができないということではなく,むしろ 2 つあるいはそれ以上の数多くの選択肢があり,ど れが自分にふさわしいか判断がつかないために決定ができない場合, ( b ) 可能な選択肢のどれに対 しても何らの決定を下さない場合, ( c ) ある選択をなしたとしても,それについて確信がなくその 選択が興味パターンによって支えられていないために, それを選択すべきかどうかゆれ動く場 合,以上 3 つに分けて整理している。
このような決定できない状況を説明するための変数として, Bordin( 1 9 4 6 ) や Byrne( 1 9 5 8 ) らが取り上げているものを整理すれば,次のようになる。
1 . 依 存 性 決定の内容と方向を自分で決定できず他者に決定を求める。
2 . 自 己 葛 藤 選択をしようとしている本人の考え方と友人あるいは親の考え方が合わな いことによって生じる。または自己評価の見通しがつかないことによって も生じる。
3 . 選 択 不 安 職業の選択は自己の力だけではどうすることもできず,雇用者の判断が入
ることによって生じる。
4 . 保証の欠如 選択したものが本人にとって最良のものであるかどうかの保証がない。
このような問題点は次のような条件が加わることによりさらに不決断を増加させる。
5 . 情報の欠如 自分や仕事の世界についての情報を知らない,あるいは自己評価の見通し がつかないことによっても生じる。
6 . 問題解決技能の欠如 職業選択では先行する経験をもたず,また現状の学校教育では十 分には意思決定についての学習をしていないことが考えられる。
以上の観点は視点を変えれば,職業的決定に困難を感じている人に,カウンセリングを通じて 援助しなければならない問題点を示したものとも考えられる。
ところでこれらの変数は,カウンセリングの研究者達が相談場面において得られた情報を概念 的に整理したにすぎず,主観的な情報をより客観的な立場より補うことは,いかなる実際的な応 用場面においても必要なことである。そして,これらの概念の客観的な測定を可能とする尺度を 構成し提供することは, 数千人もの学生を対象とした場合の職業相談においては重要なことと 考えられる。そこで以下ではこのような不決断現象の研究の現状について検討してみることとす る 。
B. 不決断の測定方法
①一個の質問によって不決断群を見出す方法
代表的なものとしては, Kimes & Troth ( 1 9 7 4 ) のように意思決定の水準をその程度に応じ て以下のような 5 段階に分けて調べる方法がある。彼らの職業的意思決定の 5 水準とは以下の通 りである。
( a ) 明確に決定している。
( b ) 暫定的な決定をしている。
( c ) 決定したい方向ではあるがまだ暫定的な決定をしていない。
( d ) 職業のことは気にしているが決定の方向にはむかっていない。
( e ) 全く未決定である。
また, Holland & Holland ( 1 9 7 7 ) は「暫定的な職業選択をなしているか, あるいは現在フ ルタイム雇用されているか」という質問に「はい」と答えた者は決定群,そうではない者を不決
断群に分けている。 Holland & N i c h o l s ( 1 9 6 4 ) は「現在の職業選択について可能ならば名前 をあげさせる」という質問において, 「未定, わからない」と答えた者を不決断群としている。
B a i r d ( 1 9 6 9 ) も「未定,わからない」と答えた者を不決断群としている。職業選択の状況にお いて,以上の手続によって決断群と不決断群とを分けたとしても,これらは暫定的,主観的な報 告にすぎず,またこれらの研究は,大学生の新入生をその対象とするものが多く,不決断の新入 生にとっては卒業するということの方がまず第一目的となっており,職業選択は二の次であるこ
とが考えられ,データとしての信頼性に欠けるものといえよう。
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②外顕的行動などにより測定する方法
①の方法に対して,より不決断の現象を究明するために Rose& E l t o n ( 1 9 7 1 ) は,同じく不 決断な新入生でも進級した学生と退学した学生とを比較することにより,外顕的行動に関わる変 数を取り上げている。また E l t o n& R o s e ( 1 9 7 1 ) は,新入時の H o l l a n d ( 1 9 7 3 ) の 6 種類型 が卒業時においても変わらない群と変化した群に分けることによって,縦断的な研究方法の必要 性を主張している。 Lunneborg ( 1 9 7 5 ) では, 選択といっても当面本人にとって現実味のない 新入生ではなく,専攻を決めねばならない上級学年時において未だに専攻が決められない者を不 決断群としている。しかしながら実際の進路決定では, M i l l e r ,D . C . & F o r m , W. H . の「偶 然の理論 ( A c c i d e n t a lTheory) 」のように, 運または偶然の要因が不決断者に新しい進路を提 供する場合も考えられる。そして, O s i p o w , S . H . の「抵抗最少化理論 ( L e a s t R e s i s t a n c e Theory) 」のように,自己概念を実現できる職業を選びたいという本人の基本的欲求よりは,安 易で身近な抵抗の少ない進路へと進む場合も考えられる。このように考えると,外顕的行動その ものが決断・不決断を完全に分離すると考えることは困難であり,決断・不決断の心理的過程や 現象の解明には不十分な変数といえる。
③尺度によって不決断を測定する方法
H o l l a n d & N i c h o l s ( 1 9 6 4 ) は,大学入試前の男女学生に, 種々の活動や趣味や教科そして スポーツに関する 2 7 3 の活動名を項目とした質問紙を施行している。そして,同時に被験者すべ てを「決断群」と「不決断群」とに分類し,それぞれの群で特に選択された項目を合せて 1 5 項目 ずつからなる男子用と女子用の不決断群を測定する尺度を構成している。なお彼らの尺度に含ま れる諸項目を概説すれば,男子の不決断者は個人としての孤立した活動や学校の教科への指向が 強く,決断者ではローラースケートや映画を見に行き,ミステリー,犯罪,冒険,旅行小説を読 むことを好むようであり,女子の場合,不決断者は音楽,ペットを育てる,白昼夢などのように 個人としての活動を好み,決断者は新語を造ったり,子供を教えたり,子供と遊んだりといった 不決断者よりは,より積極的な行動を好むようである。
この研究に対して C r i t e s ( 1 9 6 9 ) は,不決断の人々が好む活動からその心理状態を記述する ことはできても,この尺度ではより正確に選択行動を予測できないことを指摘している。すなわ ち , H o l l a n d らの手続は,項目を両群に判別するためにパーセンテージのみを使用しているに すぎない。また Osipowe t a l . ( 1 9 7 6 ) の指摘するように, このようにして構成された尺度は,
この研究データにのみしか使用できないものと考えられる。
この H o l l a n d& N i c h o l s の尺度を,より一般的な新入大学生に適用できるように再構成した 尺度を, B a i r d ( 1 9 6 8 ) は作成してる。その際,男女それぞれにおいて項目数も増やし, K‑R の 2 0 式による信頼性も高めてはいても,判別分析的な方法による尺度構成の手続を全く採用して いないために, B a i r d の尺度では「決断者」と「不決断者」との尺度得点の平均値間には有意差
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はない。
これらの研究では, C r i t e s や Osipow らが批判するように,尺度構成の方法論に関して混乱 があるように思える。すなわち,一般に 2 つの群の弁別を目的として項目分析を行うのならば,
構成された尺度における内的整合性は,その分析目的とは併存しない目標となる。ここで検討し た研究のような場合の尺度構成の評価基準は,その尺度による弁別効率であって,弁別尺度を意 図はしていても結果としては,その意図を反映した尺度を作成したとはいえない。
以上の方向に対して H o l l a n d& H o l l a n d ( 1 9 7 7 ) は,不決断の理由を質問項目として 1 3 項目 書き出し, 自分の現在の職業の選択に「確信のない」「不満足である」「変えたい」「将来につい て何ら決めていない」と答えた,すなわち不決断の高校生男子,女子,大学生男子,女子に 2 件 法で回答を求め,内的整合性の高い尺度を構成している。この尺度は,なぜに不決断であるかを 探り,また不決断の傾向の特徴を明らかにすることによって,職業相談の場面において役立つも のと考えられる。しかしながら彼らの分析では,この尺度がいかなる因子から構成されているか,
すなわち,不決断という現象を説明するための基本的な枠組みは提示されていない。
この研究と同様, O s i p o w ,Carney & Barak ( 1 9 7 6 ) は,先の一個の質問によって不決断者 かどうかを判定する方法では,不決断という現象を包括的な概念でしか扱うことができないとい う欠点を指摘している。そこで彼らは,職業相談の場で個々人の意思決定のどのようなところに 問題があるかを診断するのに役立つ尺度の構成を目的として,大学生 837 名を被験者とし,不決 断に関する 4 件法の 1 6 個の項目間の相関行列より,主因子法で解を求め, Varimax 法で回転し た 4因子について解釈している。彼らの 4因子解を要約すれば,次のようになる。
第 I 因子 職業的意思決定という課題への自信のなさと,選択不安に関する項目が多数負荷 しており,不決断を導く一般的な因子と考えられる。
第 I l 因子 第 I 因子とは異なり,進むべき方向については決定していてもそれを遂行する自 信がなく,決断がつかないことをあらわす因子である。
第 1 I I 因子 たくさんの魅力ある選択肢の間で決心がつかないことを意味する因子である。
第 w 因子 いかにして決定をなすかについての個人的な葛藤を意味する因子である。
この結果,不決断という心理的過程の中には,決定そのものができない場合,決定しても実行が できない場合,接近ー接近型の葛藤状態の場合,自己葛藤に陥る場合の 4 つが明らかとなった。
また, Hartman,Utz & Farnum ( 1 9 7 9 ) は , Osipow らの項目を 1 0 0 名の大学院生に施行 し,アルファ因子分析により 4 因子を抽出し, Varimax 法で回転した直交解を提示している。
第 I 因子 Osipow らとほぼ同じ因子であり,職業的意思決定という課題へ取りくむことへ の自信の欠如と選択不安を表わす因子である。
第 I l 因子 Osipow らの第 I l 因子とよく似た因子であり,職業を選択したとしてもそれを実 現するにはどのようにしたらよいかわからず,不決断に陥っていることを意味す る因子である。
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関西大学「社会学部紀要」第 1 4 巻第 2
号第皿因子 「接近ー接近葛藤」の因子である。
第 w 因子 自己および職業についての情報の欠如を示す因子である。
この研究では,不決断の要因の一つとして自己および職業についての情報の欠如が因子として抽 出されている。
以上 2 つの研究の結果から,被験者の質や人数が違うために多少異なる因子が抽出されてはい ても,不決断という心理的過程を解明するための仮説的な枠組みの第一段階が提供されたと考え られる。しかしながら,これらの因子分析的研究では因子数決定の基準が累積寄与率のみを基準 としており,また項目間の相関行列を因子分析に用いている点で厳密な分析とはいえない。また,
研究の出発点から 1 6 項目という限られた範囲の質問文しか用いていないために,この結果をもっ て不決断を診断するための尺度が構成されたと考えることはできない。信頼性が高く,かつ職業 的不決断の源泉的な基本因子を測定するための尺度構成を主目的とするのならば,まず,より幅 広くより多くの質問項目を収集しなければならない。そして単なる項目の因子分析から出発する ことなく,辻岡•清水 (1975) のような「因子的真実性の原理」による項目分折を適用すること によって,不決断現象を構成する個々の因子を確認し,尺度を構成することが,この問題の根本 的解決への糸口と考えられる。
C. 不決断と関連する心理学的変数
職業を選択しなければならない状況において,決断を下せないのはなぜかを心理学的な観点か ら検討しようとする試みは,古くから行われてきている。 1 9 3 0 年代から 4 0 年代の研究を整理した C r i t e s ( 1 9 6 9 ) によれば,これらの時代の研究は不決断という現象そのものに焦点をあてたもの というよりは,他の問題を研究するなかで付随的に検討されたにすぎないと考えることができる。
そしてまた,不決断と他の変数の間には体系的な結論は得られていない。方法論的な問題やサン プリングの不適切さが,このような結果を生み出したとも考えられる。
C r i t e s による分類の 1 9 6 9 年代以降の研究の特徴は,不決断そのものの性質の解明に焦点があ てられていることである。しかしながら,先に「不決断の測定方法」において検討したように,
不決断を完全に測定する尺度は完成されてはいない。またデータ解析の方法も,決断群と不決断 群の平均値差の検定や分散分析あるいは単相関を求めるなどの検定が多く,変量群の内的組成を 多変量解析によって明らかにしようという視点は非常に少ない。サンプル数の差による変動が結 果に反映することを防ぐためにも,多変量解析的方法論は望まれるところではあるが,ここでは 将来への研究の見通しを与えるものとして,現在までに得られている結果について整理すること
とする。
まず,学校の成績などの知的な面に関しては, Ashby,W a l l l & Osipow ( 1 9 6 6 ) は大学の新 入生を ( D ) 決断群(男子 8 1 名,女子 2 7 名)と ( T ) 暫定的決断群(男子 7 9 名,女子 1 2 名 ) , ( U ) 不決断
(男子 2 6 名,女子 3 名)とに分けて比較し,学科成績や能力では ( T ) 群が ( D ) 群や( u ) 群より有意に低
いという結果を発表している。また B a i r d( 1 9 6 9 ) は,大学の新入生男子 6 , 2 8 9 名,女子 6 , 1 4 3 名 を対象として ACT (英語,数学,社会,理科についての AcademicA p t i t u d e T e s t ) の得点 や高校の成績を比較した結果, 決断群と不決断群との間に有意な差を見出してはいない。 E l t o n
& Rose ( 1 9 7 1 ) も , 1 5 5 名の大学新入生において同様な結果であった。 Harman( 1 9 7 3 ) は,こ れまでの研究や大学の相談センターに訪れた不決断の男子 3 0 名,女子 3 3 名を被験者とする彼自身 の研究結果から,能力面において有意な差はないと結論している。通常,成績の良い学生は決断 的であると考えられるかもしれないが, B a i r d( 1 9 6 8 ) が論じるように,成績の良い学生で不決 断である学生は多くのものごとを成し遂げる能力があり,また多くの可能性に混乱させられると いうよりは多くの可能性が目の前に広がっているように感じているといえる。そして,その可能 性を探究したいと考えるがために,現状では,将来は未決定であると感じていると考えるべきか もしれない。すなわち,学業成績のような面からは不決断者を判定できないことは,進路指導の 実際場面では注意すべきことであろう。
興味との関連においてもまた,多くの研究は決断群と不決断群との間に有意差がみられないこ とを報告している。なお, Lunneborg( 1 9 7 5 ) は , Rose の興味の分類の「戸外」や「工業技術」
と不決断は負に,「ビジネス関係」とは正に, 不決断が多少関連することを報告している。 しか しながら,不決断ではあっても,現在の興味検査では項目に反応すれば,何らかの興味分野に自 動的にあるいはキューダーの興味検査の場合には強制的に分類される。 C r i t e s は,行った選択 についての信頼が興味パターンによってささえられていることを仮説として考えていたが,特定 の興味分野と不決断とを結びつけて考えることは困難であった。それよりは,どのような活動に 対しても興味の程度が弱い,あるいはいかなる活動に対しても興味がないことを訴える者こそ,
不決断との関係で研究すべき対象であると考えられる。すなわち,職業相談の場において,興味 検査の結果から不決断を判定することは, Ashby,Wall & Osipow ( 1 9 6 6 ) の述ぺるように,
不可能に近いと考えるべきであろう。
パーソナリティとの関連の研究では, E l t o n & Rose ( 1 9 7 1 ) や Harman( 1 9 7 3 ) によって 使用された OmnibusP e r s o n a l i t y I n v e n t o r y からは,不決断群を特徴づけるような結果は得 られていない。しかしながら依存性に関しては, Ashby, Wall & Osipow ( 1 9 6 6 ) と Harman ( 1 9 7 3 ) は,決断者より不決断者の方がその程度が強いことを報告している。そして,彼らの特徴 として他者に自分の決断がそれで正しいという支持の発言を求めたり,あるいは勇気づけを求め たりすることを挙げている。また, H o l l a n d& H o l l a n d ( 1 9 7 7 ) は,不決断者には自己の興味,
能力,性格などの特性について正確に評価できない者や,どのような将来生活を望んでいるかと いう未来設計を十分に確立していない者が多いことを報告している。すなわち自己を正確に評価 できず, Super( 1 9 5 7 ) の,自己概念を完成していない職業的に未成熟な者が不決断的といえる。
次に, B a i r d( 1 9 6 9 ) や H o l l a n d & H o l l a n d ( 1 9 7 7 ) は,不決断者は対人的な競争を嫌う傾
向にあることを報告している。また K e l s o( 1 9 7 5 ) は,高校生を被験者として選択者 ( c h o o s e r )
関西大学『社会学部紀要』第 1 4 巻第 2 号
と非選択者 (nonc h o o s e r ) に分けたところ,後者は仕事への関与, 自己信頼や他人との会話技 術に欠け,さらに弱くではあるが,仲間や家族,学校を避ける傾向を報告している。
このように,不決断者は他人への依存を期待しながら孤立を好むというパーソナリティ特徴が 考えられる。このような行動傾向から,不決断者は自主的に職業相談を希望することが少ないの ではないかと考えられる。このことから,不決断者に対して十分な注意を払った職業相談の運営 方法と形態と計画との必要が明らかとなった。そして,カウンセリングの実際場面においては,
依存的な性格に注意しながら, Jepsen( 1 9 7 4 ) , Mackay ( 1 9 7 5 ) , Smith & Southern ( 1 9 8 0 ) などのように,自己概念の自律的な確立を援助しなければならないといえる。
D. 不決断と不安との関係
意思決定をしなければならない時には,誰しも不安を感じるものである。とりわけ生涯の方向 を決めることになる職業を選択する際には,当然のこととして不安が高まる。ところで,不安は 状態不安 ( s t a t ea n x i e t y ) と特性不安 ( t r a i ta n x i e t y ) の 2 つに分けられる。職業の選択をし なければならないという状況において喚起される不安は前者であり,バーソナリティの傾向とし て不安が恒常的に存在するのが後者である。
C r i t e s ( 1 9 6 9 ) は,職業的な不決断を上記の 2 つの不安と関連づけて 2 つに分けることを提案 している。一つは,経験や準備の不足を原因とするものであり,選択しなければならないことは わかっていてもそのために必要な課題解決のための方法,そして解決に役立つ情報がわからない ために不安が高まるものである。彼はこれを不決断 ( i n d e c i s i o n ) と名付けている。もう一方は 特性不安に起因するものであって,決定を一応は行ってもすぐにまた決定についで悩み,不安感 が強くなる場合である。これが極端なものになると,不安を回避するために決定を回避するとい う場合をも生じさせる。これは,性格特性との関連が強く,優柔不断 ( i n d e c i s i v e n e s s ) と名付け られている。そして, C r i t e s が職業情報に関する体験の前 ( P r e ‑ T e s t ) と体験の後 ( P o s t ‑ T e s t ) との間において考えている仮説を図で表わせば次のようになる。
不決断者 ( i n d e c i s i o n )
優柔不断者 ( i n d e c i s i v e n e s s )
P r e ‑ T e s t 不安得点 職業的成熟
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不安得点 職業的成熟
P o s t ‑ T e s t 不安得点 ^ 職業的成熟 >
不安得点 職業的成熟
図 2 職業的体験と不決断・優柔不断
この図から,情報を知るという体験は,不決断者に対しては意思決定の方向や手段をもたらし,
決断を促し,そして不安を低減する役割を果たすことが考えられる。しかしながら,優柔不断者 にとって情報は,不決断者の場合とは異なり,何ら不安低減には役立たないと考えられる。
以上の概念的なものに対して,実証的なものとしては S a l t o u n ( 1 9 8 0 ) の研究がある。彼は,
大学生を被験者としてにせの知能テストを用いて,失敗への恐怖を生じるような実験状況を構成 することによって状態不安を喚起させた群 ( 4 6 名)と, そのような状況下にはおかれなかった 統制群 ( 2 9 名)とを構成し,両群に C r i t e s ( 1 9 7 3 ) の C a r e e rM a t u r i t y I n v e n t o r y と TAT を 施行している。その結果, TAT より測定された不安得点と CMI の成熟得点との間には,逆相 関の関係が見出されている。このように,状態不安が喚起されれば,自信の喪失や一時的な自己 概念の崩壊を引きおこし,発達的には退行した心理状態を生み出し,その結果職業的未成熟な現 象が出現したといえる。
しかしながら,状態不安に基づく不決断は,その状況を改善するような情報あるいは現時点で 問題となっている課題を解決するため,技術的な手段が与えられれば改善されるものである。な ぜなら, N u c k o l s& B a n d u c c i ( 1 9 7 4 ) によれば,職業についての知識は当然のこととして職 業の選択に重要な要因であり, また B a r a k ,Carney & A r c h i b a l d ( 1 9 7 5 ) が明らかにしたよ うに,情報探索行動は,興味や価値観の復雑な独自のパクーンを通じて一人一人の意思決定に重 大な影響を及ぽしているからである。単なる職業的事実としての情報ではなく,佃 ( 1 9 8 2 ) が論 じるように,職業情報 ( c a r e e ri n f o r m a t i o n ) が意思決定への関心を高め,意思決定の具体的な 方法を提供し,自己概念の確立と実現を促進させる役割を果たすものであるならば,状態不安低 減に役立つといえる。そして,進路指導教育の一環としての啓発的経験 ( e x p l o r a t o r ye x p e r i ‑ e n c e ) においても,適切な進路選択の確立にその目標をおくならば(竹内 1 9 8 2 ) , 意思決定に伴
う状態不安を低めることが可能となろう。
これに対して,特性不安と関連する優柔不断の場合においては, Kimes& T r o t h ( 1 9 7 4 ) が 研究しているように,決定という行為そのものよりは決定後でのその決定を考え直す際に生じる 葛藤が,特性不安と強く関連すると思われる。彼らによれば,大学生を被験者とする「決定に満 足している ( 2 8 0 名)」,「最良の決定をしたと考える ( 2 5 3 名)」の 2 つの群と,「かなり満足はして いるが多少の疑問がある ( 1 5 4 名)」,「全く満足していない。決定を再度考える ( 1 6 名)」,「いかな る決定もしていない ( 1 2 5 名)」の 3 群間では,特性不安得点に有意差があり,特に決定を再度考 えたいとする学生の特性不安が一番高いことが示されている。すなわち,決定についての後悔は 特性不安と強く関係づけて考えなければならないといえよう。そして,このような優柔不断の問 題の解決に関して Mendonca& S i e s s ( 1 9 7 6 ) は,職業相談の実際場面において,行動カウン セリングの技法である「不安マネジメント法」と「問題解決訓練法」の両方を組み合わせた方法 を用いることによって,優柔不断である者や不決断者がより効果的に職業的意思決定の課題に取 りくめるようになることを示している。広井・中西 ( 1 9 7 8 ) は,このような問題を解決するため
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関西大学「社会学部紀要」第 1 4 巻第 2
号の行動カウンセリングの諸方法を上記の方法も含め紹介している。
このように,職業を決定できないといっても,不決断と優柔不断のいずれであるかを見極め,
それぞれに適切な援助を職業相談の場で考えることが重要であるといえる。
3 . 職 業 的 成 熟 測 定 と そ の 問 題 点
職業的不決断の研究は,先に概観したように,就職先を決定しようとする意思決定そのものの 心理的過程に焦点をあてるものであった。これに対して,職業的成熟の測定法の研究は,意思決 定に致るまでの過程において, どの程度の職業的決断の準備 ( r e a d i n e s s ) が完成されているか を検討するためのものである。換言すれば,職業情報や職業的意思決定の技能などの職業の決断 に際して必要となる諸要件を,各人がどの程度獲得しているかを測定することこそが,職業的成 熟研究の焦点であるといえる。このため,職業的成熟の研究においては,職業的成熟の各領域に おける連続的な発達の程度を測定することを,可能とする尺度を構成することが要求される。こ の発達的な視点を重視する立場においては,従来の職業興味検査や職業適性検査を作成する場合 以上に,縦断的なデータによる分析が要求される。このような視点にたって,以下においては,
職業的成熟検査の現状とその問題点について考察したい。
A. 内外の職業的成熟検査
職業的成熟の測定において対象となる領域を考えてみると, Westbrook( 1 9 7 4 ) による下記の 6 種の検査に含まれる 6 0 9 項目の内容分析は,大いに参考となるものである。それらの検査の編
(著)者と名称は以下の通りである。
E d u c a t i o n a l T e s t i n g S e r v i c e ( 1 9 5 8 ) G r i b b o n s & Lohns ( 1 9 6 8 )
Westbrook ( 1 9 7 0 )
ETS G u i d a n c e I n q u i r y .
R e a d i n e s s f o r V o c a t i o n a l P l a n n i n g . C o g n i t i v e V o c a t i o n a l M a t u r i t y T e s t . Super e t a l . ( 1 9 7 1 ) C a r e e r D e v e l o p m e n t I n v e n t o r y . American C o l l e g e T e s t i n g Program ( 1 9 7 2 ) A s s e s m e n t o f C a r e e r D e v e l o p m e n t . C r i t e s ( 1 9 7 8 ) C a r e e r M a t u r i t y I n v e n t o r y .
また,内容分折において Westbrook は,大分類のカテゴリーとして ( a ) 感情的領域, ( b ) 行動的 領域, ( c ) 認知的領域の 3領域を定義している。この内容を簡単に紹介すると,これらは,
( a ) 「感情的領域」としては, ( A ) 自己や仕事に対する好意的な態度,職業的意思決定への責任 感の受容, ( B ) 教育水準,職業,職業的価値,労働環境や条件などに関する好み, ( C ) 職業計画 に関して学校で与えられた援助についての評価,さまざまな情報源からの援助についての評 価,自分自身の職業選択の確実性についての評価,などを測定する項目群が挙げられている。
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( b ) 「行動的領域」については, ( A ) 職業計画活動への関与, ( B ) 広い範囲の職業活動への関与,
( C ) 好きな職業に関連した活動への関与,などを測定する項目群からなる。
( c ) 「認知的領域」については, ( A ) 能力,興味,価値観などの諸特性についての概念的把握や 自己評価, ( B ) 職業情報についての知識, ( C ) 自分にふさわしい職業の選択とその選択理由の正 当性, ( D ) 現在のコースとカリキュラムを選択した理由, ( E ) 学校と職業間の計画性, ( F ) 学校と 職業間の問題解決,などを測定する項目群から構成されている。
このように, Westbrook が明確な意図をもっていなかったにもかかわらず,職業的成熟の測 定は,社会的態度における態度内構造の測定と同じように,職業的意思決定に関する ( a ) 感情 ( b ) 行 動傾向( c ) 認知の 3 成分をその測定の対象としているといえる。しかし,上記の各検査の分類項目 について,一応すべての領域を含む検査は, A s s e s m e n to f C a r e e r D e v e l o p m e n t だけである。
ほとんどの検査は認知領域の測定を中心とするものであり,職業的成熟の測定領域についての著 者間の合意は十分ではないと考えられる。
一方,わが国における職業成熟検査とそこに含まれる尺度には,次のようなものがある。
福山 ( 1 9 8 2 ) 「 F 式選職能カテスト」 ①自己分析能力③職業分析能力⑧職業試行経験 職業研究所 ( 1 9 7 2 ) 「職業レディネステスト」 ①職業興味③基礎的志向性⑧職務遂行の自信度 中西 ( 1 9 7 6 ) 「進路発達検査 (CDT‑2) 」①職業希望プロフィール③職業知識尺度⑧職業 的統覚テスト④進路成熟尺度(自発性,独立性,
計画性)
これらの検査の中で,福山の F 式選職能カテストは, 1 9 4 9 年からの継続的な研究に基づくもの であり,また,中西の CDT‑2 は CDT‑1 (中西 1 9 6 7 ) を発展させたものであり,一部他の心理 学的な変数との相互関係などについての検討も行われている。このほか,標準化の手続を経ては いないが竹内 ( 1 9 7 9 ) は,教育的進路成熟と職業的進路成熟の両面に関して下位尺度を含む進路 成熟尺度を研究に用いている。また,神谷 ( 1 9 8 0 ) が進路選択レディネスについての 2 1 項目を提 案している。
ところで,このような職業的成熟尺度の研究における問題点の一つは,約 1 0 0 0 個の質問文を項 目分析の出発点とした C r i t e s( 1 9 7 8 ) の研究を除いて,ほとんどの研究が,概念的, 仮説的妥 当性をそのより所としており,項目分析の手続を経ていないという事実である。このように心理 測定論的な視点を欠いた研究傾向が特に強い日本において,さらにまた,職業的成熟がいかなる 領域から構成されているかについての合意は得られていない現状(坂柳 1 9 8 1 ) において,職業的 不決断の測定尺度構成のための研究と同様,より幅広い,多次元的特性を包含する質問項目を用
いた,職業的成熟の源泉的な基本因子を探究する基礎的研究が,ぜひ必要であるといえよう。
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関西大学『社会学部紀要』第 1 4 巻第 2
号B. 職業的成熟尺度構成法上の問題点
以上の方法論上の視点に加えて,さらに職業的成熟検査の構成において要求されることは,ぁ る特定の年令段階における識業的意思決定を規定する要因を確認するだけではなく,発達的に各 年令段階において,各要因がどのような結合図式を示すかを併せて検討しなければならないこと である。すなわち, A d e l s t e i n & Webster ( 1 9 7 9 ) や Westbrooke t a l . ( 1 9 8 0 ) らが指摘す るように,職業的に未発達で意思決定の諸要因が未分化な段階から,完全に分化した段階までを 測定しうる尺度を構成することが,職業的成熟検査の要件であるといえる。
すなわち,まず第一に,個々人が職業的発達の連続体上どのような地点に位置しているかを測 定するための質問項目を作成しなければならないということである。その際, B u e h l e r ,C . の生 活段階の区分のように,職業選択問題に対する典型的な行動様式を各年令段階において調査する ことによって,職業的な発達を区分する基準を作成する方法が考えられる。しかしながら, 2 万 種類を超えるような職業を対象とする選職に対しては,現象的には種々雑多な行動が出現するこ とが考えられるので,これを表面的に観察しながらその行動の内容を分析することと,これらの 背後にある職業選択に一貫した行動傾向を見出すことは,必ずしも容易ではない。
それ故,戦業行動を現象的に検討するこのような方法に対して,各年令段階において職業的成 熟を達成するために解決しなければならない発達課題を基準とするもう一つの方法が考えられる ( C r i t e s 1 9 6 1 ) 。彼のいう発達課題とは,職業的な発達の連続体上において,現象的には形を変 えて出現してはいても,その背後に潜在する,習得されなければならない一貫した課題を意味し ており,このような職業的な発達課題が各年令段階において明らかとなれば,どのような課題と 取りくんでいるかによって,職業的な成熟の程度を測定することができることになる。そして,
同一年令層における相対的な位置も,尺度化と標準化の手続によって測定できることになる。し かし,現状の職業的成熟検査では,測定領域についての合意と確認が得られていなかったように,
また, C a r e e rE d u c a t i o n の各教育プログラム(仙崎 1 9 7 9 ) における教育課題においても統一見 解がないように,現状においては,各年令段階で取りくまなければならない戦業的発達課題を確 定することは,未だ困難であるといえる。また, H a v i g h u r s t ,R . J . に始まる理念的,概念的発 達課題を設定する方法によってはこのような問題の根本的な解決が得られるとも思えない。
そこで,第二に検討しなければならないことは,実証的,操作的に,各年令段階における幅広い 種々の行動が,職業的意思決定や,識業生活の満足とどのように結合するかを,縦断的データに よって探究検証するための方法論を成立させることである。このような実証科学的な研究を行う ためには, C r i t e s( 1 9 6 5 ) による図 3 のようなデータが必要となる。この図における中核サンプ ル ( c o r es a m p l e ) は,各年令段階において繰り返し調査対象となる被験者群を表わしている。
このような数年以上にわたる継続的な測定が得られる標本数にはおのずから限界があり,各年令
層を十分に代表するものといえないかもしれない。そこでこの中核サンプルに各年令ごとに新規
の被験者を加えることによって,これを補完することにより,各年令段階における職業成熟に関
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職業的成熟研究のための標本計画 ( C r i t e s 1 9 6 5 を変更)
1 6 2 1 2 2 年
令
する基本的な枠組みを探究することが可能となると考える。 ところで, 清水・辻岡 ( 1 9 8 1 b ) が 既に指摘したように,発達的に変化する被験者集団を縦断的に研究する場合には,年令が変化す るにつれて,使用上適切な質問項目そのものが変化していくことに注意しなければならない。例 えば, 1 4 オにおいては通過率が 3 0 彩程度であった項目が, 2 2 オになると 1 0 0 形近くになることは 容易に想像できることである。このような項目を,成熟の測定項目としては不適当なものとして 排除するのではなく, 1 4 オから 1 8 オまでの間に,この項目によって測定される潜在的な意味内容 が , 2 2 オの発達段階になると別な項目によって受け継がれるべきものと考えるのである。すなわ ち,成熟の過程において探究すべきは,表面的,現象的な項目による行動表現ではなく,
後に存在する潜在的な発達の基本次元であると考えるのである。すなわち図 4 のように,中核的 な項目を含みながら,各年令段階に特徴的な項目を加えた質問紙を施行する方法が考えられる。
その背
この中核的な項目は先の中核サンプルとは異なり,すべての年令に共通したものである必 要はなく,ある程度隣接した年令間においてのみ共通であるならば,潜在的な基本次元は,各発 達段階の基本的な因子得点の間の相関をほとんど完全にするような FACTORMAX 法によって,
これを求めることが不可能ではない。例えば,交叉断面的確認的因子分析法(辻岡•清水・柴田 なお,
1 9 7 9 , 清水・辻岡 1981•) によって, 22 オにおける基本的次元を 21オの段階との間に共通する項 目群によってこれを確認し,さらに交叉相面的確認的因子分析法(清水・辻岡 1 9 8 1 りによって,
2 1 オに特徴的な項目と 2 2 オの基本的な次元との関係を,同一の斜交因子体系(清水 1 9 8 1 ) におい
て確認することが可能となる。このようにして順次 2 1 オでの基本次元を 2 0 オとの間で共通な項目
を用いて確認し, 2 0 オとの間に交叉的な方法を適用し,さらにこの手続を順次 1 4 オまで繰り下げ
ていけば,項目の全く異なる 2 2 オと 1 4 オとの発達段階を通じた共通の基本的な次元を見出すこと
関西大学「社会学部紀要』第