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商人資格の取得時期

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(1)

商人資格の取得時期

その他のタイトル The time of acquisition of a trader's status

著者 岩本 慧

雑誌名 關西大學法學論集

巻 44

号 2

ページ 169‑187

発行年 1994‑06‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/00024644

(2)

︹ 論

商 人 資 格 の 取 得 時 期

従来︑商人資格の取得時期に関しては︑商人の開業準備行為と附属的商行為との関連において論ぜられている︒商

法四条一項は︑商人とは︑商行為をなすを業とする者をいう︑と規定している︒しかし︑多くは︑開業準備行為に

よって商人資格を取得すると解されており︑これによれば︑その行為は︑右にいう営業としてなす商行為であると解

説 ︺

岩 本

(3)

人となると解さなければならない︒

︵ 口 ︶

第四四巻第二号

0)

さざるをえない︒しかるに︑一般的に︑開業準備行為は︑附属的商行為である︑とするのは︑いかなる解釈であろうか︒

本来︑商人としての法的地位︑すなわち︑商人資格の取得は︑右の規定によって決定されるべきである︑との観点

から︑先ず︑これを主柱としてその解明を試ろみ︑これを基底として開業準備行為の問題に及ぴたいと思う︒

わが商法は︑二大基本概念として商人およぴ商行為の概念の決定にいわゆる商行為法主義を原則とし︵実質

主義︶︑その四条一項に固有の商人として︑商行為をなすを業とする者をいう︑と規定し︑その二項において︑商行

為を業としないが︑営利目的をもって営業をなす者を商人とみなす︵形式主義︶いわゆる擬制商人を認めている︒

ここに︑固有の商人が営業として行なう商行為とは︑基本的商行為たる絶対的商行為︵商法五

0

一条︑担保附社債

信託法三条︶および営業的商行為︵商法五

0

二条︑信託法六条︑無尽業法二条︶

であるが︑その他︑準商行為︵商法

・附属的商行為︵商法五

0

三条︶などもある︒

( l )  

固有の商人について︑﹁商行為をなすを業とする者﹂と規定しているが︑この文言によれば︑営業とする行

為は︑﹁成立した︵既存の︶商行為﹂なのか︑または︑﹁将来︑商行為として認められる行為﹂なのか︑など︑いずれ

の意味内容の表現として解すべきか︒もし︑﹁成立した商行為そのもの﹂と解すれば︑それは︑商人たらんとする者

においては︑営業とする以前に︑いわば先行的に存在し︵既存の商行為として︶︑それを営業とすることによって商

そこで︑先ず︑基本的商行為たる行為は︑どのように﹁商行為﹂として認められるか︑その成立時期を確定しなけ ︵ イ ︶

関法

(4)

︵ 口 ︵ イ

ればならない︒次に︑それと不離の関係にある商人のなす﹁営業﹂とは︑

なる関係にあるであろうか︑などを明らかにしなければならない︒ いかなる概念であり︑商人と営業とはいか

右の解明は︑至って基本的で︑しかも︑原初的であると評価されるであろうが︑それは︑後に述べるところの商人

資格の取得時期の問題に関して重要な役割を演ずることとなるであろう︒

先ず︑基本的商行為︑次に︑これと関連する附属的商行為に関して︑その成立ないしその時期について考察してみ

(1

)

商行為をなすを﹁業とする﹂という文言において︑ここに﹁業とする﹂とは︑﹁営業とする﹂という意味である︑と一般に説明されている︒本来︑﹁業﹂それ自体の既定概念には﹁営利﹂の意味は含まれていない︒たとえば︑学業・授業・修業

などのように︒右において︑法文に﹁営業﹂としないで︑特に﹁業﹂としたのは︑﹁商行為﹂中に営利の意味を含んでいるからであり(商法五0一条•五0二条、信託法六条、無尽業法二条など参照)、法文の表現は適切であるといえよう。ただ

1 1

絶対的商行為

うる行為である︒

絶対的商行為は︑客観主義的立法によるもので︑商人はもとより︑営業と無関係の非商人においてもなされ

ところで︑このような行為は︑

商人資格の取得時期 よう︵準商行為は除く︶︒

いつ商行為として認められ︑その成立時期はいつであろうか︒たとえば︑営

(5)

は︑営利目的をもって業的ー計画的・反覆的・継続的・集団的・大量的ーに行なうこと︑すなわち︑企業活動そのも

のをいう︵主観的意義︒ここでは︑客観的意義ではない︶︒

ところで︑﹁営業としてなすときは商行為とする﹂との文言によれば︑たとえば︑運送契約︵商法五

0

は︑営業として︑すなわち︑本来的既定概念からすれば︑営利目的をもって運送行為を反覆・継続することに

よってはじめて涸行為となる︑と解されないでもない︒しかし︑ここに﹁営業としてなすときは﹂とは︑もちろん︑

既に﹁営業としてなした行為﹂ではなく︑現実に反覆・継続はなくとも︑将来︑運送営業をなす目的をもってそれの

実現のための運送契約たる行為に﹁着手﹂︵接点︶︵論理的要件︶することにより﹁営業としてなす行為﹂であって︑

その行為は商行為となり︑商行為として成立する︒すなわち︑ここにいう営業とは︑論理的要件であって︑時間的要

︵ 口 ︶ ︵ イ

に﹁目的とする商行為﹂が成立すると解すべきである︒

第四四巻第二号

0

二条本文前段︶︒営業と

利意思をもって有償取得を目的とするいわゆる投機購買︵営利購買︶としての売買契約︵売買に限らない︶は︑商行

0

一条一号︶︒この場合︑営利意思・有償取得を﹁目的とする行為﹂とは︑論理的要件であって︑

売買契約により﹁目的として既に行なった行為﹂ではないことはもちろん︑現実に遂行されるか否か︑また︑その効

果が発生するか否かも問わない︒それは︑売買契約の締結行為︑すなわち︑営利意思をもってそれを実行すべく有償

取得する目的のための行為への﹁着手﹂︵接点︶︵論理的要件︶により﹁目的とする行為﹂として商行為となり︑ここ

営業的商行為

営業的商行為は︑﹁営業としてなすときは商行為とする﹂と規定している 為となる 関法

(6)

論理的には︑商人が営業のための必要的行為としてなす行為への﹁着手﹂︵接点︶︵論理的要件︶によってその行為は

商行為となり︑商行為として成立する︒したがって︑また︑端的に︑商法五

0

三条一項の規定の文言によっても︑附

( 2 )  

属的商行為が認められるためには︑商人が︑そして︑その営業の存在が前提であるといわなければならない︒

的商行為と認めるとしても︑それの前提要件である商人の営業の存在とその商人資格の取得時期との関係が不明確の

ように思われるが︑これに関しては︑後に述べるところにゆずる︒

︵ 口 ︶ 附属的商行為

附属的商行為は︑商人のいわゆる主たる営業ではなく︑商人がその営業上︑必要のために行なうことによっ

て商行為となる行為である

0

三条一項︶︒あえて述べれば︑たとえば︑運送行為は︑運送業者によってなさ

れるときは営業的商行為︵商法五

0 1

︱一条四号︶となるが︑それが︑商人たる物品販売業者によってその営業の遂行の

ために必要的行為としてなされる商品の運送や販売品の配達などの附随的行為は︑これを附属的商行為として︑特に

商行為性を認めている︒これは︑商人の営利目的遂行に関連する企業活動として商法の規制・適用を受けるのが適当

( 1 )  

とするからである︒このような意味において︑この行為は︑通常︑相対的商行為の範疇に属するといわれている︒

︵ イ ︶

先きに述べたと同様の理論によって︑附属的商行為は︑﹁なした行為﹂ではなく︑﹁なす行為﹂︑すなわち︑

一概に同一視することはできないとしても︑従来の多くの論説によれば︑たとえ︑開業準備行為を附属 件ではない︑と解すべきである︒

(7)

︵ イ )れら両者について述べる︒ 社(商法五二条•五七条、有限会社法一条一項•四条)がこれに属し、後者は、実質的決定であり、個人商人(商法 場合と︑商人としての商法上の要件を実質的に具備することによる場合とがあり︑前者は︑法形式的決定であり︑会 商法上の商人としての法的地位︑すなわち︑商人資格の取得については︑商法上︑形式的に定められた規定による

および商人資格を取得しうる会社以外の法人︵以下︑単に﹁会社以外の法人﹂という︶がこれに属する︒次に︑

会社は︑固有の商人たる会社と︑擬制商人たる民事会社があるが︵商法四条・五二条・五四条︑有限会社法

一条・二条・八九条・民法三五条︶︑主として前者によって論をすすめる︒

関法

(1)非商人たる福祉事業団体が︑無料で利用者やその荷物の運送行為を非営利的に反覆的・継続的になしても︑その行為は︑附属的商行為にはならないが︑それを有料で営業としてなすときは︑この限りにおいて︑その団体とは別個に営業者として

商人となる︒この場合︑右の行為は︑附属的商行為ではなく︑営業行為であり︑営業的商行為となる︒

(2

)

商人資格の取得後︑開業しない場合もあり︑商人資格の取得と現実に営業をなすか否かとは別問題であるが︑商法五

0 1

︱ ︱

条一項の規定からすれば︑商人︑そしてその営業の存在が前提要件である︒なお︑商法三0条︑休民会社︵商法四0

商人資格の取得

(8)

会社法一条二項︶︒したがって︑会社は︑

︵ 口 ︶

商法五二条一項によれば︑会社は︑﹁商行為をなすを業とする目的をもって設立したる社団﹂をいう︑と規定して

いる︒この規定によれば︑会社の設立には︑﹁設立︵成立︶後﹂︑﹁商行為をなすを営業とする目的﹂を有することが︑

その必須的要件であるが︑ここに﹁商行為﹂とは︑どのような行為をいうのであろうか︒

そうであれば︑右のいわゆる﹁商行為﹂とは︑ 一時的・個々的であっても

営利行為としてなすときは商行為として認められる絶対的商行為︑なかんずく︑営業としてなすとき︑はじめて商行

為と認められる営業的商行為においても︑それらは︑﹁行為﹂としてなされることにより商行為として認められる︒

いまだ︑商行為として成立した行為ではないが︑将来︑会社の設立

︵成立︶後︑会社の行為によって認められる商行為であり︑現実には存在しない︑表現上︑しいていえば︑﹁既存の

商行為﹂を意味するものではない︒ここに﹁商行為をなすを営業とする目的﹂との文言表現上の﹁商行為﹂の概念の

( l )  

意味内容は︑観念的・論理的であると解すべきであろう︒

そこで︑会社の商人たる資格は︑いつ取得されるのであろうか︒本来︑会社の設立行為︵発起人組合・設立

中の会社の設立関係手続︶は︑商人の開業準備行為に相当し︑これに着手することによって商人資格の取得︵後述︶

( 2 )

3

)  

が可能であると考えられないでもないが︵認めないのが通説︶︑会社の特質︑すなわち︑会社の社会的存在としての

機能︑権利義務の帰属関係︵権利能力︶などの観点・配慮により︑特に︑会社は︑設立手続によりその実体の完成後︑

設立登記をなすにより成立し︵商法五七条︑有限会社法四条︶︑法人格を取得する︑としている︵商法五四条︑有限

( 4 )  

一般的には︑準則主義により︑設立に関する法的要件︵設立手続︶の完成

後︑その登記により成立したときに︑たとえ︑商行為たる行為を営業として行なうか否か︑また︑その行為に着手

( 5 )  

︵後述︶したか否かを問わず︑法形式的に商人資格を取得すると解さざるをえない︵通説︶︒

(9)

この説は︑商人資格を取得するためには︑表白行為は必要でないが︑開業準備行為により営業意思が主観的に実現

(3

) 

この説は︑表白行為がなくとも︑店舗の借入︑営業資金の調達︑使用人の雇入などの開業準備行為により営業意思

( 8 )  

が主観的に実現されることにより︑商人資格を取得し︑その行為は︑附属的商行為と認められる︑とする︒

営業意思客観的認識可能説

(2

) 

(1

) 

︵ 二 ︶ 法形式的︵登記︶に決することはできず︑結局︑商法四条の規定により︑商人としての要件を実質的に具備するか否 商法上︑個人商人︵会社以外の法人を含む︶︵以下︑単に﹁商人﹂という︶

( 6 )  

かによって判断決定するほかはない︒

先きに述べたように︑従来︑久しく︑商人資格の取得︑殊に︑その時期に関する論議の多くは︑関業準備行為と附

属的商行為との関連において論ぜられ︑判例はもとより︑学説においても種々の見解の変遷がみられる︒

学説の概観

表白行為説

この説は︑営業意思の表白行為︑すなわち︑営業をなす意思を外部に発表することを要する︑とする︒判例におい

ては︑営業︵開業︶の準備行為をなしても︑営業意思を外部に発表したものと認めることはできない︑とし︑その行

( 7 )  

為は︑附属的商行為と認められない︑と判示している︵昔日の判例︶︒

営業意思主観的実現説

︵ 一 ︶

個人商人 関法

の商人としての資格の取得に関しては︑

(10)

( 1

)  

総説

︵ 三 ︶

︵ イ ︶

( 9 )  

されるだけではなく︑それが客観的に認識可能であることが必要である︑とする︒広義ではこの範疇に属するといえ

ようが︑行為自体の性質から開業意思が客観的または外部的に認識可能な場合に限るとし︑たとえば︑営業設備のあ

る営業所の借入れ︑使用人の雇入れなどの行為により商人資格を取得し︑その行為は附属的商行為となるが︑家具の

( 1 0 )  

買入行為などは︑これによって商人資格を取得することはできない︑とする説もある︒

この説は︑営業意思による開業準備行為とそれの認識との関連において︑商人資格またはその行為の附属的商行為

性について︑行為者または相手方︵第三者の場合も含めて︶が︑どのような場合にそれらを主張できるか︑を段階的

( 1 1 )  

に決定するものである︒

開業準備行為は︑附属的商行為として認められるか︑という論議が︑商人資格の取得ないし

その時期との関連の問題としてなされる論拠は︑まさしく︑附属的商行為が認められるためには︑商法五

0 1

の規定にのっとり︑先ず︑商人が︑そして︑その営業の存在が前提であると解することに起因する︒したがって︑従

来︑それぞれの認識・視点は異なるであろうが︑開業準備行為は︑附属的商行為と解すべき︑ないし︑それが至当で

あるとの意識をもって︑それとの関連において︑先ず︑商人資格の取得についての論決を︑との発想がうかがわれる︒

先きに挙げた学説・判例において︑その認め方の見解に差異があるとしても︑いずれも﹁開業準備行為﹂によって

商人資格が取得される︑と解する点においては同然のようである︒もし︑このように解するとすれば︑それは︑商法

四条一項の規定との関係において︑どのような行為といえるであろう︒この規定によれば︑右の行為は︑主たる営業

(4

) 

(11)

第四四巻第二号 としての商行為︑すなわち︑商人資格の取得の前提要件たる営業としてなされる基本的商行為としての役割を果して いる行為であって︑これは︑端的に︑この限りにおいては︑附属的商行為ということはできない︒しかし︑

右の行為︑すなわち︑開業準備行為は︑附属的商行為と解されており︑右の立論からすれば︑営業としての基本的商 行為と補助的商行為たる附属的商行為との区別が明らかにされていないといえよう︒それでは︑なに故︑開業準備行

ここに︑私が︑商法五

0 1

︱一条一項の規定と同法四条一項のそれとの連動的関係において︑商行為ないしその成立に 本来︑開業準備行為が︑附属的商行為といえるか否かは︑商人資格の取得後︑それが︑商人の営業のための

必要的行為であるか否かによって決定︑すなわち︑商人の営業のための必要的行為であると解されるならば︑それは︑

必然的に﹁商法五

0 1

︱一条一項の適用﹂により︑氷解的に疑義なく附属的商行為として認められるわけである︒

そこで︑商人資格の取得時期の解明に関して︑開業準備行為は︑附属的商行為として認められるべきであるという 認識と関連せしめての論議の試ろみはさておき︑今一度︑原点に返り︑

いわば︑それの基底ともいうべき﹁商人資格 の取得ないしその時期﹂それ自体について原初的に考えてみることとする︒

先きに︑商人資格の取得に関しては︑結局︑商法四条に規定する商人としての要件を実質的に具備するか否 かによって判断・決定するよりほかはない︑と述べたが︑ここに︑同条一項を中心として論をすすめる︒

同条一項は︑﹁商人とは︑⁝⁝商行為をなすを業とする者をいう﹂と規定している︒ここに商行為とは︑﹁既存の商 行為﹂でないことはいうまでもないが︑営利目的・有償取得を目的とする行為︵絶対的商行為ー前例による︶

︵ ハ ︶ ︵ 口 ︶

関して︑特に︑関心を有するゆえんである︒ 為は︑附属的商行為と解されるのであろうか︒ 関法

1 0  

i

(12)

為として成立する︑と述べた︒

ところで︑ここに︑商人概念ないし商人資格の取得の前提要件である営業︑すなわち︑活動の営利性および反覆

( 1 2 )  

性・継続性・集団性などは︑商人としての論理的前提要件であって︑時間的前提要件ではない︒したがって︑基本的

商行為として認められる行為が︑絶対的商行為であれ︑また︑営業的商行為であれ︑商行為としての要件を実質的に

具備すべく行為への﹁着手﹂︵論理的要件︶によりその行為は商行為となり︑

もってそれの行為への﹁着手﹂︵接点︶︵論理的前提要件︶によって商人資格を取得し︵商法四条一項︶︑その時点を

( 1 3 )

1 4

)

1 5 )

 

もってその取得時期と解すべきであろう︒したがって︑商人資格の取得後︑営業を開始するか否かはもちろん︑将来︑

0

条︑その他︑休民会社︿商法四

0

六条の三﹀︑休民法人︿民法七一条﹀

( 1 6 )  

参照︶︒けだし︑それは︑商人資格の取得後の問題であって︑商人資格の取得要件ではないからである︒

開業準備行為

時期について述べたが︑これを前提として開業準備行為に関して考えてみよう︒

ためのトラック購入など︑ そのような商行為を営業とする目的を

右に︑主として商行為とそれを営業とする関係において商人資格の取得ないしその

将来︑営業をなす目的をもって︑たとえば︑営業資金の調達︑店舗の借入︑使用人の雇入︑あるいは︑運送営業の

( 1 7 )  

いわゆる開業準備行為は︑附属的商行為と認められると解するのが通説である︒しかし︑

その認める時期に関して︑商人資格の取得時期との関連において見解が分れている︒それは︑いずれの学説・判例に

おいても︑商行為の成立︑殊に商人資格の取得時期について︑その判断決定が明確性を欠くからではなかろうか︒そ

れは︑営業意思について︑主観的または客観的にせよ︑実現または認識可能という行為は︑それの認識において流動

2)

 

︵ イ ︶

営業を現実化するか否かも問わない ﹁着手﹂により︑また︑営業目的とする行為︵営業的商行為︶

への﹁着手﹂により︑それらの行為は︑それぞれ商行

(13)

︵ ハ ︵ 口

第四四巻第二号

的で不確定であって︑それの明確な一時点の設定により判断決定することは︑至難のわざであり︑これがその因由で

はなかろうか︒ここに︑いわゆる段階説がとなえられるに至ったともいえよう︒

︵ 一

0)

開業準備行為は︑附属的商行為と解されるとの潜在的意識があるとしても︑それは︑将来︑営業遂行に欠く

べからざる行為︑たとえば︑営業資金の調達︑使用人の扉入︑トラック運送営業のためのトラックの購入など︑すな

わち︑絶対的必要的行為と︑たとえば︑営業所の調度品の購入など︑いわば相対的必要的行為︵これを準備行為から

除く考え方もある︶とがあるが︑いずれにしても︑営業遂行のための実質的必要的行為として営業との関連において

なされる常態的行為である︒すべてではないとしでも︑このような連携行為なくしては︑営業は︑不可能︵開業を含

めて︶︑または︑準備欠如による停滞など︑その企業活動は困難となり︑営業としてなす商行為としての機能を十全

に発揮・具現しえない事態の発生もあるであろう︒したがって︑右のような行為は︑営業としてなす商行為の成立要

( 1 8 )  

件に包含されると解し︑営業は︑開業準備行為を包含する商行為によって開業され︑遂行可能ということができる︒

右のように︑営業としてなす商行為は︑開業準備行為をも包含する行為であると解することによって︑商法四条一

項にいう﹁商行為﹂︑すなわち︑これに包含された開業準備行為への﹁着手﹂︵接点︶︵論理的要件︶により︑その行

為は商行為となり︵成立︶︑その商行為を営業とする目的をもってそれに﹁着手﹂︵接点︶︵論理的前提要件︶するこ

とにより商人資格を取得し︑その時点をもって取得時期と解すべきであろう︒

なお︑商人資格の取得時期に関する実質的決定について述べたが︑この決定に関して︑法形式的決定の会社

に関する規定を借用し︑これに基づいて体現してみよう︒すなわち︑商法五二条一項により︑﹁会社とは︑商行為を

なすを業とする目的をもって﹃設立﹄したる社団をいう﹂および同法五七条により︑﹁会社は︑﹃設立登記﹄をなすに 関法

(14)

よりて﹃成立﹄する﹂の両規定を読み替えれば︑﹁商人とは︑商行為をなすを業とする目的をもって﹃開業準備行為

に着手﹄︵会社の﹁設立﹂︶したる者をいう﹂および﹁商人は⁝⁝﹃開業準備行為の着手時点︵時期︶﹄︵会社の設立登

記︶をもって﹃資格を取得﹄︵会社の成立︶する﹂ということができる︒これと関連する課題︑すなわち︑開業準備

しかしながら︑︑開業準備行為は︑資質的には右のように商行為︵広義︶中に包含されるが︑行為それ自体

は︑主たる営業としてなされる基本的行為たる商行為︵営業それ自体︶︵商法四条一項︶とは同質ではない︒しかし︑

それは︑営業の遂行に必要のための行為︵商法五

0

三条︶という実質において︑これを商法上の制度ないし規定︑す

なわち︑商行為法主義︑また︑商行為の主従的機能的地位による類別によれば︑開業準備行為は︑基本的商行為に対

( 1 9 )  

して︑補助的商行為としての役割をなす附属的商行為と解することができる︒

商人資格の取得時期と開業準備行為・附属的商行為との関連において︑関係当事者相互間に発生する問題に

先きに指摘したように︑学説・判例における商人資格の取得時期の決定に関しては︑いずれも︑行為者の営業意思

の実現行為に対して外観的・客観的に判断するものであるが︑その現出された実現行為に対しては︑確定的一時点に

ついてなすのではなく︑たとえ︑概念上︑客観的とはいえ︑それは︑判断者の主観的識知を通しての判断であって︑

各人の客観基準が異なる︑いわば主観的客観的判断であり︑絶対的客観的判断はありえないといえよう︵社会科学に

おいて︶︒したがって︑商人資格の取得時期についての判断は︑確定的な一時点たる基準が存しない限り︑おのずか

ら︑不明確・流動的にならざるをえない︒ここに︑関係当事者相互間に発生する諸問題が錯綜することとなる︒

ついて考察してみよう︒

︵ ホ ︶ ︵ 二 ︶

行為への関係当事者相互間の問題については後に述べる︒

(15)

第四四巻第二号

また︑右の判断の方法ないし措置は︑商人資格の取得への行為者の意思とは︑ある意味では関係なく︑客観的に︑

いわば他律的に︑その時々の相手方または第三者の認識により左右され︵したがって︑開業準備行為の附属的商行為

性についても︶︑あるときは︑商人として認知され︑あるときは︑非商人に︑という事態の発生を招来する結果とな

る︒商人として︑実質的に︑しかも自律的にその目的を遂行せんとする行為者との開係は︑いかに対処すべきか︒

ここにおいて︑行為者の営業をなす内在的意思の発展により︑それの客観化された外在的行為としての開業準備行

為への﹁着手﹂の一時点をもって商人資格の取得時期と認めるとすれば︑行為者と開業準備行為関連者との関係は︑

行為者たる商人との問題となり︑商人資格の取得時期云々とは関係なく︑別個の問題として対処できることとなる︒

そこで︑開業準備の行為者たる商人とその行為への関係当事者との間に発生するいわゆる関係当事者相互間

の諸問題については︑先きに述べた会社の﹁設立登記﹂と商人の﹁開業準備行為への着手時点﹂との相関関係と︑商

( 2 0 )  

法︱二条の規定の類推解釈・類推援用により︑その立法趣旨を基底として対処し︑論定することとする︒

商業登記の一般的効力の規定として商法︱二条は︑登記すべき事項は︑登記前に成立︵法上の成立要件によって︶︑

( 2 1 )  

確定しているが︑特に︑﹁登記しなければその事項について善意の第三者に対抗することはできない﹂と規定してい

る︵同条前段︶︒特に︑商人資格の取得について登記制度のない商人︵自然人︶において右規定を類推し︑その立法

趣旨を援用すれば︑商人たらんとする意思のみでは対外的に不明であり︑したがって︑商人としての実質的要件を具

備すべくその開業準備行為への着手という﹁事実の確定﹂により︑右の﹁登記事項の登記﹂と同様にその時点におい

て商人資格を取得すると解することとする︒もし︑これが許されるとすれば︑その﹁着手﹂による商人資格の取得は︑

善意の第三者に対しても商人であることを対抗できるが︑この場合︑もとより︑同条後段の規定の類推.援用により︑

︵ へ ︶

(16)

︑ ︒ カ

一 五

悪意の存否︑あるいは︑知・不知

その趣旨に従って︑正当な事由によって︑行為者が︑商人であること︑すなわち︑商人資格を取得している事実を知

らなかった善意者は︑そのことの事由をもって抗弁事由とし︑商人であると主張する行為者に対し︑その主張を否認

( 2 2 )  

︵または排除︶することができる︵この場合︑抗弁の問題として対処︶︒このような諸問題に関しては︑出発点・理

( 2 3 )  

論構成は異なるとしても︑段階説の見解による関係当事者相互間への処遇については︑右の場合も︑それと類似の結

いずれにしても︑関係当事者相互間においては︑開業準備の行為者は︑商人であることをもって

抗・主張することができ︵法律要件・相手方の否認または排除の主張とは関係なく︑﹁商人﹂としての資格は不変︒

成立要件とは異なる︶︑また︑相手方または第一二者においては︑善意︵過失︶

︵対抗要件︶対

︵抗弁事由︶による抗弁︵否認・排除の主張︶などの諸問題︑それらすべてに関しては︑商法ニ一条

の規定の類推により︑その援用・推認について︑それの一般的解釈に基づいて対処することができるのではなかろう

(1

)

﹁商行為をなすを営業とする目的﹂を有することが要件で︑現実はもちろん︑将来においても営業をなすか否かを問わな

0条︑問題はあるが︑休民会社︿商法四0

︿

(2

)

1 1

0

(3

)

会社は︑商人として出生するのであり︑設立中の会社は︑自然人における胎児に相当し︑出生前︵民法一条の三︑ただし︑同八八六条︶に該当し︑権利能力なき社団であって︑その行為は︑開業準備行為として認められない︑とするならば︑しいていえば︑設立登記申請手続行為だけは︑開業準備行為と解されないであろうか︒もし︑これが認められるならば︑その行

為の着手により︑登記前に商人資格を取得することとなる︵商法一六条・五七条︑商業登記法五五条・七七条・九二条・一

商人資格の取得時期 果となるのではなかろうか︒

︵ 一 八 ︱

︱ ‑

(17)

第四四巻第二号

0一条参照︶︒たとえば︑相続に関する胎児のように︵民法八八六条参照︶︒

(4

)

登記事務官は︑設立手続きにつき準則によっているか否かの形式的審査のみで︑実質的審査を行なわないのが通常である︒

実体調査の結果も同様である︒鈴木•新版会社法(全訂第四版)四三頁注二参照。

(5

)

ある事項について︑その実体とは関係なく法形式的︵登記︶に決定される類例を挙げてれば︑たとえば︑会社の設立の登

記に際しての商号︵商法一六条ー商号使用者たる商人が前提︶︑本店・支店の登記︑または︑会社の成立後の支店の登記

︵商法六四条一項二号・六五条・一四九条一項・一四七条・一八八条二項二号三項︑有限会社法一三条二項二号︑なお︑移転ー商法六六条、有限会社法ニ―一条三項、その他、商法九条•

10

なお︑個人商人についても︑これに類似する登記事項がある︒たとえぱ︑営業所に関して︑商法上のそれについての概念

として︑その実体が問題とされる場合があるが︑次の場合は︑実体とは関係なく登記される︒たとえば︑商号の登記︵商業

登記法二八条二項三号参照︶・未成年者営業登記︵商業登記法四三条一項三号参照︶・後見人登記︵商業登記法四八条一項

四号参照︶・支配人登記︵商業登記法五一条一項四号二項参照︶などである︒(6)ドイツ商法においては、すべての商人に対して商号登記の義務が課せられ、これによって商人資格が発生•取得される

︵ドイツ商法︿HGB﹀二九条・一条1

(7)大判・大一四・ニ•10民集四巻二号五六頁ー評釈•田中(耕)・判民大正一四年度(七事件)三二頁参照。大判・大一四•三・ニ七新聞二四0七号一八頁参照。

W i e l a n d ,   H a n d e l s r e c h t ,   B d .

 

I, 

s s .   9 5  ‑ 9 6 .  

(8)松本・商法総論――一頁、同・商行為法五一頁、田中(耕)・改正商法総則概論二五九頁、大森•新版商法総則講義八六

大判・昭六•四·二四民集一0巻六号二八九頁ー評釈・鈴木·判民昭和六年度(三二事件)―二七頁、大判・昭一六・ニ・ニ―新聞四六八五号一

0

頁、最判・昭三三•六・一九民集―二巻一

0

号一五七五頁、最判・昭四七・ニ・ニ四民集二六

巻一号一七二頁参照︒

(9

)

伊沢・註釈商法総則︵再版︶四六頁︑小町谷・商法講義︵巻一総則・会社︶二七頁︑同・商行為法論五二頁︑米谷・商法

(18)

商人資格の取得時期

概輸

I

︵営業法︶一九三頁︑石井

1 1

鴻・商法総則︵商法

I )

六九頁・七三頁参照︒

( 1 0 )

片山﹁開業準備行為に関する法律問題日﹂民商一四巻三号四九頁以下︑大隅・商法総則︵新版︶︵法律学全集二七︶九二

頁︑九三頁注④・︱ニニ頁ー︱二六頁︑西原・商行為法︵法律学全集二九︶八七頁・八八頁注④参照︒

( 1 1 )

北沢﹁商人資格の取得時期と開業準備行為の附属的商行為性﹂現代商法学の課題上︵鈴木竹雄先生古稀記念︶一九七頁(本論文によってご教不を受けた)、同「商人資格の取得時期」商法の争点I(平五•五·―四)八頁、同「開業準備行為

の商行為性と商人資格の取得時期﹂︵判批︶民商四0巻二号八九頁︑同﹁附属的商行為﹂︵判批︶商法の判例︵第二版︶︵基

本判例解説シリーズ

3)

0九頁︑評釈ー鈴木・判民昭和六年度︵三二事件︶︱二七頁参照︒同説ー田中(誠)•前掲一九六頁、田中(誠)11喜多•前掲一〇六頁-10七頁、、服部・商法総則(三版)二六二頁、

︵一部分︑異見もあるが︶︑鴻・商法総則︵全訂四版︶︳

o ‑

︱‑頁︑大浜﹁営業の準備行為と附属的商行為﹂商法演習

I I

(12)大森•前掲八一頁、岩本・全訂商法I(総則・商行為法)(改訂版)(平六•三・ニ0)四五頁参照。

( 1 3 )

田中︵耕︶﹁営業の準備と商人たる身分の取得﹂︵評釈︶判民大正一四年度︵七事件︶三六頁参照︒

関東高院判・大六︵月日不詳︶新聞︱二六一号ニー頁︑東京控判︵年月日不詳︶民集四巻二号五八頁参照︒(14)商法五0二条列挙の行為が、商行為と認められる場合は、その行為者は、常に商人である(商四条一項)ー岩本•前掲二

(15)田中(耕)・改正商法総則概論二五九頁。なお、商法三0条•四0六条の三(休民会社)参照。

( 1 6 )

個人商人が︑商号を登記する場合︑商人資格の取得後になされる場合もあるが︑開業のときになされる場合は︑商人資格

は︑商法四条一項の規定に基づいて商人資格を取得していなければならないから︵商法一六条︶︑この場合は︑登記するに

ついてのいわゆる登記申請手続という準備行為︵後述︶に着手した時点において商人資格を取得し︑商人として登記すると

解すべきであろう︒

( 1 7 )

元来︑開業とは︑商人が営業を開始することであり︑開業準備行為は︑そのための準備行為であるから︑行為者は︑開業

以前に商人でなければならず︑ここにはじめて開業といえるわけである︒

( 1 8 )

本来︑商人としては︑いわゆる附属的商行為なる行為を離れては︑営業それ自体の運営は不可能であろう︒基本的商行為

(19)

関法

第四四巻第二号

︵特に商行為法主義における︶と補助的商行為たる附属的商行為は︑法制度上によるものであり︑両者の現実的機能につい

ての軽重は︑そう簡単には判定できるものではなく︑共生のために相互依存︑共存共栄の関係にあるといえよう︒

( 1 9 )

私の見解によれば︑非商人の絶対的商行為の場合においてもいわゆる附属的商行為が認められるべき場合が考えられる︒

たとえば︑非商人の準備行為ないし附随的行為として︑投機購買のために︑不動産の有償取得の必要的行為として資金借入

などはこれに該当する︒この場合︑たとえば︑民事会社以外の擬制商人に対して商法五二三条の規定を類推適用するのと同様に、同法五

0

三条一項の規定を類推適用すべきではなかろうか(たとえば、商法五一四条•五二二条など)。(20)会社の設立(商法五七条、有限会社法四条)・合併(商法一〇二条・一四七条•四一六条一項、有限会社法六三条)など

の登記︑いわゆる創設的効力を有する登記の場合︑商業登記の一般的効力の規定︵商法︱二条︑一三条︶の適用があるか否

かについて見解が分れているが︑ここでは登記の一般的効力関係について類推・援用するものである︒(21)現在では、公告不要(昭―一四法一三七号法務局及び地方法務局設置に伴う関係法律の整理に関する法律附則九•

10

照 ︶

( 2 2 )

開業準備行為への着手によって商人資格を取得すると述べたが︑金員借入行為への着手時点においては︑開業準備として

使用する目的はなく︑後日︑その借入金を開業準備に使用した場合︑商法︱二条の規定によれば︑相手方が︑営業資金の事

実を知っていた場合︵悪意︶は︑行為者は対抗できるが︑知らなかった場合︵善意︶は対抗できない︒しかし︑本文によれ

ば︑商人資格は︑開業準備行為への着手によって取得するが︑金員借入の時点においては︑いまだ着手せず︑したがって︑

この時点においては︑行為者は︑非商人であるが︑この場合も︑当事者相互間の問題処理については︑右規定の類推適用に

おいて︑本文と同様に対処すべきであろう︒

( 2 3 )

北沢﹁商人資格の取得時期と開業準備行為の附属的商行為性﹂前掲二0

l

10

一 八

(20)

いと思う︒︵平成六︿一九九四﹀年四月二二日 の観点から︑それにのっとり︑その基本的行為である商行為と営業を中心とし︑

一 九

いわば﹁営業意思実現着手説﹂とも

最後に︑商人の開業準備行為について︑その行為者との関係当事者相互間の諸問題に開しては︑会社の設立・成立

に関する規定(商法五二条•五七条)と商業登記の一般的効力(原則的効力)に関する規定(商法―二条)などの類

推.援用によって︑それに対処する見解を述べた︒ここに︑右両者の拙論は︑専決的とも思えないでもないが︑

解の提言ともいえよう︒いずれにしても︑これに終息することなく︑それに関する再論については︑次の機会を得た

商人資格の取得時期 いうべき見解を試ろみた︒

参照