論 文
「APB意見書第!9号の
資金計算書の考察」
中 村 宏
目 次 1. はじめに 2. 目 的 3、概 念 4.標 題 5.形 式 6.おわりに
1.はじめに
1961年11月,メイソン氏(PerryMason)による『キャッシュ・フロー 分析と資金計算書、( Cash−F1ow Analysis and The Fmds Statement)と 題する,会計調査研究書第2号(An A㏄ounting Research Study No.2)ユ)
がアメリカ公認会計士協会の会計原則審議会(TheAccountingPrinci−
plesofTheAmericanInstitutionofCerti丘edPub1icAccountants。以下,
APBと略称)から公刊された。メイソン氏は,そのなかで,資金計算書 を基礎的財務諸表として掲載することとその監査を要求した。これにたい
し,APBは1963年11月, 『資金の源泉と運用表』(The Statement of SourceandApPlicationofFunds)と題する意見書第3号(OpinionNo.
3・)2〕を発表し,資金計算書をたんに補足的計算書として掲載することを奨
励したにすぎなかった。
しかしながら,両者は積極的であれ消極的であれ,ともに株主宛の営業 報告書に資金計算書を掲載するということには一致して釦り,否定的では なかった。それゆえ実際には,株主宛の営業報告書に資金計算書を掲載す る会計慣行が年々一般に普及し,ユ966年には金融機関以外の株式会社600 祉のうち503社までもがその会計慣行を実施するようになった3〕。このよ うな会計慣行の普及化のなかで,証券取引委員会(The Security Ex−
change Committee.以下,SECと略称)は1970年10月,財務諸表規制S−
X(Rule−11a)を改正し,株主宛の営業報告書に資金計算書を掲載するこ ととその監査を要求しだ〕。
このような一般的状況を迎え,APBは(1)資金計算書の必要性と,(2)
資金計算書の会計処理の具体的指針の確立,という二課題に関し,あらた めて検討せざるをえなくなり,その結果を,1971年3月,「財政状態の変 動に関する報告。(ReportingChangesinFinancialPosition.)と題する意 見蓄第19号(Opinion No.19.)5〕に発表した。APBはこのなかで,初めて 公式見解として,資金計算書を基礎的財務諸表として株主宛の営業報告書 に掲載することを要求した。
そして,この意見書第19号はAPBが1970年10月に発表した,『企業の 財務諸表の基礎をなしている基本概念と会計原則。(Basic Concepts and Accounting Princip−es Underlying Financia1Statements of Business En−
terprise.)と題するステイトメント第4号6〕と関連し,アメリカにおける 財務報告制度の画期的な変革をもたらしたと評される。
さてそれでは,財務報告制度の変革をになった意見書第19号はどのよう な資金計算書に関する会計処理の指針を提示したのであろうか。本小論で はとくに,ステイトメント第4号を参照して,これまで幾多の会計人によ って論究されてきた目的,概念,標題,形式に関する指針と,さらにそれ らの立脚基盤に注目し,それぞれAPBの勧告を,会計調査研究書第2号
と意見書第3号とを比較しながら考察し,若干の私見を加えたい。
注
1) Accounting Research Study No・2・, Cash Flow Analysis and The Funds Statement.by Perry Mason,AICPA,1961.染谷恭次郎監訳,『キャッシュ・フ ロー分析と資金計算書。,中央経済杜刊,昭和38年。
2) APB,Op…nion No,3一,The State加ent of Source舳d App1ication of Funds.,
AICAP,1963.(Accounting Research Study No・τ,Inventory of Generauy Accepted Accomting Principles for Business Enterprises.by Pau−Grady,
AICPA,1965.)日本公認会計士協会国際委員会訳,『AICPA会計原則総覧。,
日本公認会計士協会刊,昭和44年,190一ユ97頁)。
3) アメリカ公認会計士協会の調査によれば,1963年以降の実態は,1962年一228 杜,1963年一278杜,1964隼一287杜、1965年一458祉,1966年一503杜となって いる。(中村萬次著,『資金計算論・,国元書房刊,昭和48年,258頁)。
4) SECは1967年1ユ月,有価証券法および証券取引所法のディスクロージュア規 定を強化し,また投資家一般の投資意思決定に有用情報を伝達するための手段 を調査するディスクロージュア・スタディ・グループを発足させた。SECは このグループの調査報告を童とめて,「ウィート報告書,投資家に対するディ スクロージュアー,33年法,34年における連邦管理政策の再検討。(TheWheat Report,Disclosure to Investors:A Reappraisal of Federal Administrative Pohciesmderthe 33and 34Acts,1969、)として公表した。このなかの勧告 にこたえてをされたのが前記の改正である。(大矢知浩司著,『会計監査,アメ リカにおける生成と発展・,申央経済社刊,昭和46年,196頁)。
5) APB,Opinion No.19.,Reporting Changes in Financial Position,AICPA,
1971.(The Joumal of Accomtancy,June1971,pp.69−72.中村萬次著.前掲 書,261−276頁)。なお意見書第19号の審議会は当該意見書の公表にさいし,次 のように述ぺている。「APB意見書第3号は,資金計算書を奨励さえすれ,要 求はしなかった。資金の源泉と使用に関する携報の有用性の認容をいっ層広げ る見地から,当審議会は,このよう凌計算書の提示が,損益計算書や貸借対照 表を補足するのに必要とされるべきかどうかを審議した。意見書第3号は亥た,
資金計算書に関する様式・内容に関し,かなりの自由を主唱した。その結果,
実際上,資金計算書実務は繁雑になってしまった。したがって,当審議会はま た,このような計算書を提出するための指針を確立させることを審議した。・
(パラグラフ2)。
6) APB,Statement No・4・,Basic Concepts and Accounting Principles Underly・
三ngFinancialStatementsofBusinessEnterprises,AICPA,1970.川口順一訳,
『アメリカ公認会計士協会企葉会計原則.」1,同文館刊,昭和48年。
2・目 的
さて資金計算書の目的に関し,会計調査研究書第2号はすべての財務管 理活動を報告するものと述べ刊,意見書第3号は「この計算書はすべての 主要な取引の財政面,すなわち証券の発行による財産の取得などの 非資 金 取引もふくむことになる。」呂〕と勧告した。そして意見書第19号は,
(1)企業が一定期聞内に営業から獲得した資金の内容をふくめて,企業の 財務およぴ投資活動を要約することと,(2)一定期間内における財政状態 の変動を完全に公表する,ことと勧告している(パラグラフ4)。
このことから意見書第19号の勧告が,会計調査研究書第2号および意見 蓄第3号のそれと相反するものでないことは明らかである。しかし意見書 第19号の特徴は,財政状態の変動を公表することにあると明示しているこ
とにある。この目的は,ステイトメント第4号との関連において,資金計 算書が基礎的財務諸表として期待される目的を示している。けだしステイ
トメント第4号によれば日〕,会計情報は,(1)時点の財政状態(経済的資 源と経済的責務との関係)と,(2)期闇における財政状態の変動,という 二っの基本的形態をとる。そしてそのように分類される財務諸表のそれぞ れの目的は,(1)財政状態,(2)経営成績,(3)その他の原因による財政 状態の変動,を公表することにあるとされている。したがってAPBは,
目的(2)において,会計情報としての資金計算書を基礎的財務諸表として 勧告するにさいし,その形態的類別を指摘するとともに,財務諸表体系内 でのその与えられた目的を指摘する。
それゆえ,このような特徴ある意見書第19号の目的観を明確にするため には,基礎的財務諸表体系内での位置,いいかえれぱ資金計算書と損益計
算書・貸借対照表との関係を明確にする必要がある。このことに関し,意 見書第19号はたんに,「資金計算書は損益計算書と貸借対照表の両方に関 連し,それらが単に部分的か,せいぜい断片的にしか獲得しえない情報を 提供する。・,そして「資金計算書は損益計算書と貸借対照表のどちらとも 代位することはできない。・(パラグラフ5)と指摘するにすぎない。しか
し前記のステイトメント第4号の見解から,さらに意見書第19号が資金計 算書を財政状態の変動を公表するところの基礎的財務諸表として規定した ことから,ここに貸借対照表・損益計算書・資金計算書の三者の関係は次 のように要約されるであろう。
会計情報の基本的形態 財務諸表の目的 ■1財務藷表
時点の財政状態 い倣状態霧鱗織的責 貸借対照表
■⊥ ■』 一 L ■一u ■
期間の飼政状態の変動1、経営成績 _ 1財紬よひ投扇洲 1 ■
損益計算書
u ■■■■』 一 L ■一■
資金計算割口)
㍗㍗㌧ 、 、 、
*ステイトメント第4号では,(イ)その他の原因による変動,(口)資金計算 書をふくめたその他の計算書となっており,意見書第19号の発表により,上 記のように確立される。凌お,資金計算書は公式には財政状態変動計算書と 呼ばれる。
前記の要約において,三者の関係はおおむね理解されようが,ここでそ れらをより明確にするために,バッター氏(Wiiliam J・Vatter)およぴケ アリー氏(JohnL.Carey)の具体的および簡明な説明をみることにしよう。
バッター氏は,資金計算書と損益計算=書との関係に注目し,「損益計算 書は,収益,費用とか所得配分(income distribution)に影響するものだ けを表示し,貸借対照表は,すぺての取引が財政状態に与えた純結果を表 示するだけで,それがどのようにして現状になったかということに関し特 別な用語で表示しない。また損益計算書が財政状態に関する用語で示して いるものは利益剰余金だけであって,その項目以外のすべての資産や持分
がどのようにして現状になったのかを説明されないでただ表示されている だけにすぎない。・したがって「資金計算書は期間の財務活動を叙述的に 説明するさいに,損益計算書を補完するための有用な手段である。。10〕と述 べている。そしてケアリー氏は,「例示された計算書には,営業活動から 生ずる純利益ぱかりでなく,遺加的な普通株の発行からと機械およぴ設備 の販売から生ずる受取代金が含まれていることに注意すべきである。かく
して,資金計算書は,貸借対照表と損益計算書の間,さらには連続的な貸 借対照表間の有用な連結環を提供する。。11〕と述べている。
要するに,意見書第19号の資金計算書は,期間のすぺての財務活動およ ぴ投資活動を要約することで,期間の財政状態の変動を損益計算書ととも に協カして公表するとともに,連続せる二時点の貸借対照表を連結する。
したがって,それは,たとえぱ運転資本資金計算書に代表される,企業の 流動牲表示を主目的とする資金計算書とは相違するものだといわなけれぱ
ならない螂〕。
注
7) Accounti1lg Research Study No.2,paragraph2.
8) APB,Opinion No・3,paragraph9・
9) 川口順一訳,前掲書,17,42−43頁。
10)Wil1iam J・Vatter,A㏄omti㎎Measure㎜㎝t for Financial Reports,1971,P.
245,259.
11) John L.Carey,Getting Acquainted with A㏄ounting,1973,p.36.上田雅通 訳,『会計概説。(阪南大学邦訳叢書第一巻),法律文化社刊,昭和50年,61頁。
12)鎌田信夫教授は同様に次のように述ぺておられる。「APB意見書第19号のい う資金計算書はふっう理解されている運転資金計算書と異なり,二つの貸借 対照表のいわぱ連結器のひとつである。。(鎌田信夫著,「APB意見書第19号 による資金計算書批判。,『企業会計、1974,2,83頁)。
3.概 念
前節でみたように,意見書第19号の資金計算書の目的は広い内容のもの であった。したがって,その目的にあてられる計算書が基礎とすべき資金 概念もまた広い概念でなけれぱならないのは当然である。けだし,現金も しくは運転資本概念に基づく資金計算書は,それに直接に影響しない,
「有価証券を発行して,もしくは他の財産と交換して,有形固定資産を獲得 した場合とか,あるいは長期負債もしくは優先株から普通株への転起ω・
のような,当該企業の財務活動およぴ投資活動にっいての重要項目を論理 的に表示できない。もしこのような活動を表示しようとするならば,「仲 介的な取引を仮定する方法」(hypothetical intemediate transati㎝)を便 宜的に採用しなけれぱならない。このような観点から,意見書第19号は資 金概念に関して,「財政状態の変動を集計する計算書は財政状態のすべて の変動を包括する一っの広い概念を基礎とすべきであり。(パラグラフ8,
傍点中村)と勧告する。
このように意見書第19号は,計算書の基底をなし,しかも計算書の目的 と一致する資金概念をたんに「一つの広い概念。だと抽象的に規定し,意 見書第3号のように「すぺての財務資源・(al1丘nancialresoure)14〕と具体 的に指摘しない。しかしながら,意見書第19号と意見書第3号はそれぞれ すべての財務活動およぴ投資活動を表示するという資金計算書の目的では 一致している。それではなぜ意見書第19号はそのように抽象的な規定をし たのであろうか。その事由として,APBの (1)プラグマティックな基 本的態度と,(2)伝統的・一般的な現金 または運転資本概念の重視,が指 摘されよう。
事由(1)は,形式,内容,用語の弾力性に顕著にみられる。すなわち意 見書第19号は,「当審議会は,財政状態変動計算書の形式,内容およぴ用
語は環境のもとでその目的に応じて弾力的になけれぱならないと考える。」,
「各企業はその環境に最も適応する表示方法を採用すべきである。」(パラ グラフ9)と勧告する。このことは,利益追求を目的とするいっさいの企 業に資金計算書を適用させるという観点から,その形式,内容およぴ用語 の含目的的性いいかえれば最適者生存(survivalofthe丘ttest)の思索を示 唆する。要するに,資金計算書の形式,内容およぴ用語の弾力性を保証す るために,あるいは弾力性を主唱するがゆえに,意見書第19号は「一っの 広い概念。という抽象的な資金概念を勧告するにいたったと理解されよう。
さらにこの弾力性は,意見書第19号の審議会のメンバーであったホーング レン氏(Char1esT.Homgren)が「意見書第19号により要求されている資 金計算書のより広い範囲は,形式,内容およぴ用語における弾力性によっ て達成されてきた。・螂と述べるように,すぺての財政状態の変動という広 範囲の計算領域の表示を論拠づける。
そして事由(2)は,「企業が営業によって運転資本もしくは現金を獲得 する能力は,当該企業の財務およぴ投資活動を考慮するさいの重要な要素 である。・との理由から,「当該企業の営業によって設定もしくは運用され た運転資本もしくは現金を見出しをっけて特別に表示する必要がある。・
(パラグラフ10)と勧告するのに顕著にみられる。すなわち,たとえ意見 書第3号のいう「すべての財務資源・が広い意味の概念であったとしても,
そのことに限定するとなれぱ,すべての財務活動のなかでも重要な要素で ある運転資本または現金の変動を特別に表示するように勧告するには論理 的に不都合が生じる。
要するに,意見書第ユ9号は,運転資本または現金の変動の測定を中心に,
それをそれらの属性の変動に拡大していき,その結果すべての財政状態の 変動を測定しようとする観点に立っで引,合目的的な資金の概念として
「一っの広い概念。という抽象的な概念を勧告したと理解される17〕。最後 に注意すぺきは,この勧告が,アメリカにおける資金計算書論(あるいは
資金会計論)の中心を,伝統的な資金概念の検討から目的 または作成技術 等の検討への移行を助長しうることになるだろうと推察されることである。
注
13) APB,0pinion No.19,paragraph8.
14) 意見書第3号は資金概念に関し,「年次報告に表示するための計算書では,運 転資本の概念よりも広いものを,すなわち 全財政資源 としての特色をも ち,または定義できるものを使わ凌ければ凌ら凌い。。(パラグラフ9)と述 べている。童た会計調査研究書第2号は,明確に「 資金 を 財務上の総資 源 ,もしくは消費力凌いし購買力(spendingo正purchasing power)と定義 することは,このような資金計算書の機能に関する考え方にもっとも近いも のに凌る。。(パラグラフ2)と述ぺている。
15)Charles T.Horngren,Accounting forManagement C㎝tro1,An Introduction.
third edition,1973.p.112.
I6) ホーングレン氏は純運転資本概念を支持しその理由を次のように述ぺている。
「資金を運転資本と定義する便益は種々な従属的概念(substitute de丘nition)
を導人してきたことにある。それらの従属的概念には, 現金 , 棚卸商品以 外の流動資産 (net liquidassets,exclusive o{inventories)と すべての財 務資源 凌どがある。。(op,cit.,p−112).
17)鎌田信夫教授はAPB意見書第19号の最も注目すぺき改善策として,この資 金概念を指摘し,次のように述べて合られる。「これはすぺての財務状態に関 する変動を示すぺきであるという立場を堅示し凌がら,必ずしも意義が明瞭 でない 全ての財務的資源 という概念の使用を放棄し,さらに運転資本・ま たは現金概念が資金計算の中心であることを暗黙に認め, 運転資本または現 金 という用語を多く用いている。・(前掲論文,82頁)。
4.榛 題
さて意見書第19号は,この「一っの広い概念・に基づいて作成される資 金計算書の標題に関し,「童たその計算書の標題はその広い概念を反映す べきである。。との基本的態度から,「したがって,・・…・その名称を『財政 状態変動計算書。(Statement of Changes in Financial Position)1宮〕とする
よう・・・…。(パラグラフ8)勧皆している。この標題は,意見書第3号が 勧告した、「供給し,適用した資源の計算書」(S㎏tement of Resources PmvidedandApPlied)と「資金の源泉と運用表。(Statement of Source and Application of Funds)の二標魑とは州,まったく棚違したものであ
る。なかでも注目されるのは,意見書第19号は「資金、(fmds)用語の使 用を避けていることにある。なぜ意見書第19号は『資金・用語の使用を避 けたのであろうか。その事由として,『資金。用語の多様性が指摘されよ
う。
すなわち,意見書第3号の審議会のメンバーであったモイヤー氏(C.A.
Moyer)は,後のマゥッ氏(R.K.Mautz)との共著において,このことに 関し,次のように明瞭に述べている。「この計算書には,種々な標題が付 されているが,より一般的には『賃金の源泉およぴ運用表。(Statementof SourceandApplicationofFunds)が使用される。この標題は多くの批判 の的になってきた。けだし『資金。用語の使用が読者に誤解を与えている ように思われたからである。これと同じ用語が特定の目的のために留保さ れた資産を表わすために使用されるし,玄た多くの人々にとって,『資金、
と『現金・とはほとんど同義語なのである。この計算書は現金収支計算書
(Statement of Cash Receipts and Disbursement) とは明らかに相違す る。。望o〕と。またケンプナー氏(Jack J.Ke血pner)は1950年代の実証的研 究を通して,モイヤー氏と同様に次のように述べている。「『資金・用語は きわめて素人の判断に誤解を招くおそれがある。」,「素人は容易に資金と 現金を混同してしまうおそれがある。・と州。したがって,資金会計処理 の指針としての意見書第19号は少しでも混乱を避けるために,『資金、用 語のふくまない広い概念を反映する標題を勧告するになったと理解されよ う。そのさい『資金・用語に代る『資源、(reSourCeS)用語が使用されな かったのは資金概念からみれば当然のことであろう。またll1村萬次教授は,
この点に関し,次のように説明されている。「意見書がこのようなタイト
ルを付した理曲は,伝統的な資金概念にとらわれることなく,資金計算書 を企薬の財務活動と投資濡動を総括し,期中における財政状態の変動とし て規定したからである。。宣2〕と。
要するに,意見書第19号は,『資金・用語の使用から生じる混乱を避け,
しかもその基本的態度を守り,内容をより叙述しうる標題として,ステイ トメント第4号のいう会計情報としての基本的形態と財務諸表の目的に基 づいて,資金計算書に「財政状態変動計算書・という標題を付したものと 理解されよう。しかしながら,資金計算書にこの標題を付することは,同 じ会計情報としての基本的形態と財務諸表としての目的の立場にある,い わゆる損益計算書との関係において,疑義が生じる。けだし資金計算書も 損益計算書もともに財政状態の変動に関する計算奮だからである。
注
18) この標題は,会許調査研究書第2号が例示した「財務活動要約表。(Summary o{Financial Activities)に類似するものといえよう。
19) 意見書第3号は,「この種の計算書の標題はできるだけ内容を叙述したものと すべきですぺての場合に同一である必要はない。・(パラグラ711)と述ぺ,
適当な例として本文の二標題を示した。
20)C,A,Moyef and R.K.Mautz;Intemediate A㏄ounting,A Functional Ap−
proach,1966■p.532.
21)Jack J.Kempner, The Statement of App1ication o{Funds in Modem Cor−
porate Accounting Practice. (Dissertation for The Degree of Doctor of Phi−
losophyinTheGraduateSchooIofTheOhioStateUniversity.1956,氏の実 証的研究の詳細は,『阪南論集。第9巻第4号より掲載された,拙稿「JackJ。
ヶンプナー氏,資金運用表の実証的研究・(工)〜(4)を参照のこと。
22) 中村篤次教授はその祉会経済的背景に注目し,その意義を,「これは明らかに 60年代に高揚したアメリカの企業合併や,コングロマリットの財務活動およ ぴ投資活動の会計面への反映なのである。・と指摘される(前掲書,275頁)。
5.形 式
最後に,これまでみてきた目的,概念に妥当する合理的な形式はどのよ うなものであろうか,意見書第19号の勧告を検討し,若干の私見を加えた
い。
さて意見書第19号の形式に関する勧告において,次の二点がその形式の 特徴を示すものとお・もわれる。
まず第一点は,計算書の最初に,「当該期間の営業によって設定もしく は運用された運転資本もしくは現金を見出しをっけて特別に表示する必要 がある。・(パラグラフ10)ということにある。意見書第19号がこのような 勧告をしたのは,概念のところでも指摘したように,「企業が営業によっ て設定もしくは運用された運転資本もしくは現金を獲得する能力は,当該 企業の財務およぴ投資活動を考慮する際の重要な要素である。・(パラグラ フ10)と,考えられたことにある。すなわち,形式は内容およぴ用語と同 様に異なった環境のもとでその目的に応じて弾力的でなければならないの であるが,少なくとも少しでも一般的統一性を具備するために,APBは 運転資本または現金の変動の計算・表示を中心とする形式を勧告したもの
と理解されよう。
そしてさらに特徴的なのは,第二点として,上記の「当該企業の営業に よって設定もしくは運用された運転資本もしくは現金・項目の計算・表示 の形式に関する勧告が指摘される。意見書第19号によれぱ,「当該期間の 計算書は,異常項目洲があっても,異常項目控除前損益から表示を開始す べきで,期中の運転資本もしくは現金の運用(もしくは源泉)に影響を及 ぼさなかった損益は,これを戻し加算(もしくは減算)しなけれぱなら ない。」(純利益修正法)。そして「同様な計舜結果となるいまひとっの認め られる手続は,期中の運転資本もしくは現金の源泉となる総収入から始め
て,期中の運転資本もしくは現金の支出を必要とした営業原価およぴ諮費 用を控除する方法である。・(総収人法)(パラグラフ10)と,これら二形 式の計算・表示が勧告されている。
ところで上記の表現から明らかなように,意見書第19号はまず純利益修 正法を基本的形式として認め,総収入法をその代替的形式としてしか認め ていない。しかしなにゆえに純利益修正法が基本的形式として認められる のかということについては,鎌田信夫教授も指摘されるように州,そこで は明らかにされていない。ただ意見書第19号は,「この手続に従って加算 およぴ減算された項目は,運転資本もしくは現金の源泉でも運用でもない。
そしてそれに関する見出しをっけて,これを明瞭にすべきであるコ・(パラ グラフ10)と,加算・減算による混乱にたいしての」般的注意を与えてい るだけである。ところで当審議会のホーングレン氏がこのことに関し明解 な説明を行なっているので,いま少し氏の説明をみることにしよう。
すなわち,並たる営業により生じた資金の言卜算・表示の方法には二通り がある。最も論理的なのは総売上高でもって開始し,それから資金を流出 する営業費用を控除する方法である。ところで会計人や財務分析家は,こ のような方法が不体裁な方法であるとの理由から,純利益でもって開始し,
資金を流出しないすべての費用を戻し加算する簡便法(shortcut method)
を用いる。資金言十算書は通常この簡便法によって作成されている。この簡
〔例I〕
適 正 二 重 総売上高(A) 笛200,ooo $200,ooo 控除:運転資本を要する総費用(B) 140,OOO i40,oOO 営業により生じた総資金(C) $60,OOO$60,000 控除:減価償却(D) 1Z,Oo0 34,oOO 当期純利益(E) $43,OOし$…6,OOu..
申総収入法では「営業により生じた総資金。の計算は,<A−B=C>である。
そして純利益修正法では<E+D=C>である。
The Great Atlontic&Paci丘c Tea Compa−ny,Inc一
連繕財政状態変動計算書
(theFicalYearEndedFebruary26.1972) (単位=千ドル)
1972年2月 1971隼2月 26日までの 26日までの 堅週哩乳__ 幽周__
資金の源泉1
営葉活動1 純利益
運転資本を運用(設定)し凌い費用(収益):
減価償却費およぴ減耗償却費 繰延所得税(非流動部分)
繰延投資税(Defered三nvestmenttax credit)
その他
営業活動より設定された運転資本 財産・設備・備品の売去口
含 針 資金の処分:
財産・設備・備掃への支出 現金配当
合 運転資本の増加(減少)
運転資本・期首有高 運転資本・期末有高 運転資本変動の概要:
流動資産の増加(減少):
現金およぴ短期投資(純額)
受取勘定 商晶およぴ原材料 前払費用 含 流動負憤の減少(増加):
未払勘定およぴ末払費用 合衆国およぴ外国所得税 支払配当金
合 運転資本の増加(減少)
計
$14.619
48.536
4,211 (418)
一一且q50)
64.898
2.091
66.989 61.987 29.229 91,216
(24,227)
350,710
$50.219
50.079
4,412 (1,491)
__…,1Oと 106.238 1.036 107,274.
60.062 32.338 92,400
(14,874)
335,836
$326,483.$350,710
$1工,O王7
(8,885)
(20,338)
4,983
、q3。郷Σ
(10,099)
4,070
(4.g75)
(11,O04)
芋(24,227)
392
2.796 6.422 4,440 14,050
(862)
1,686
824
$14,874
便法は減価償却費がそれ自体で資金源泉の一要因であるという誤った印象 を与えがちである。しかしながら,もし減価償却費が資金源泉の一要素だ ということで,企業が減価償却費を二倍にして資金計算を操作したとすれ ば,〔例I〕の計算が示すように,その操作は減価償却費や純利益の計算に 影響を与えるが,しかし営業によって生じた資金の計算にはなんら直接に 影響を与えない洲。
このようなホーングレン氏の説明から,意見書第19号が純利益修正法を 基本的形式として勧告したその理由は,次のように理解されよう。
(1)それが広く一般的に行なわれている会計慣行であるということ,そ して(2)その計算結果が論理約な総収入法に一一致する,ということである。
最後に,1972年のTheGreatAtlantic&Poci丘cTeaCompany,Inc.杜 の営業報告書に掲載された資金計算書を挙げて洲,意見書第19号の勧告す る資金蕎十算書の形式の梱型の提示に代えたい。
注
23)APBのいう「異常項目。とは次の非反復的を重要を取引項目である。
a.工場設備童たは営業の重要な部分の売却または廃棄。
b.転売のために取得したのでない投資の売却。
C、当該年度内の異常な事象または発展に基くグッド・ウイルの償却。
d,財産の没収または収用。
e.外国通貨の著しい切下げ(中村萬次著,前掲書,269頁)。
24) 鎌蘭信夫教授は,この点に関し,次のように述べておられる。「この表題は明 らかに,二っの方法を認めてはいるが,前者がより基本的な方法であり,後 者は同一一の結果をもたらす代替的方法として承認したことは明瞭である。。と 述ぺ,「このような規定によって,資金計算書の形式およぴ内容にづいて一般 的統一性が体じ資金情報の価値が高まるという意味で望ましいことはいうま でもない。。と,いちおうの評価を与えながらも,「しかし,注意すぺきこと は,何故に・純耳1」益修正法が「もっとも望ましい方法であるのか,その理由 が明らかにされていない。。(前掲論文,79−80頁)。
25) Charles T・Homgren,op.cit、,pp.108−110・
26) The Great Adantic&Pacific Tea Company,Inc.,Annual Report,1972.
6.おわりに
以上のように,資金計算書は,アメリカにおいて最初に会計文献上に取 扱われて以来,およそ60年後に,現金または運転資本の変動を中心に,企 業のすべての財務活動およぴ投資活動を表示し,期間の財政状態の変動を 報告する「財政状態変動計算書・として,第三番目の基礎的財務諸表に登 用された。しかしながら,その間,多くの会計人によって論究されてきた 資金計算書に関する諸間題が意見書第19号の指針においてすべて解決され たわけではない。その指針はAICPAの性格を如実に表わしたところの伝 統的で,しかも便宜的・弾力的なものであった。特に注意すべきことは形 式において純利益修正法州が基本的形式として認められていることにある。
この採択は,意見書第19号の基本的態度が伝統的・便宜的な貸借対照表接 近法にあることを意味しており,その限りでは,財政状態変動許算書もま た伝統的な資金計算書に類似するものといわなけれぱならない。しかしな がら,意見書第19号が真に企業活動による資金の流れを少しでも現実的に 素朴に反映しうる資金計算書を望むとするならぱ,目的適合的で論理的な 総収入法,いいかえれぱ損益計算書接近法が採択されるべきである。その ことによってこそ,発生主義会計の構造上における<損益一資金〉二元計 算制度が確立されるのではなかろうか。
このように伝統性を重んじた意見書第19号の指針のなかにも,変革への 道も開かれている。たとえぱ,勧告された財政状態変動計算書が現金また は運転資本概念を中心に企業の任意によってその属性の最大範囲にまで伸 縮自在な「一つの広い概念」にもとづいて作成されるということにある。
このことは,会計処理の継続性との関連で,期間比較,企業間比較の問題 を内包するとはいえ,従来が資金概念の選択に固執しがちであったアメリ カにおける資金計算書論(あるいは資金会計論)のアプローチにたいして,
本論でも述べたように,資金概念の採択に固執しない,ひとつの新しい方 向を示唆するものと評価されよう。
ともあれ意見書第19号は,伝統と変革の混在した資金計算書あるいは財 政状態変動計算書を勧告し,新たなる財務報告制度を導いた。しかしなが ら,それは,ステイトメント第4号の会計情報の基本的形態に現われてい るように,財政状態に関する会計情報の偏重に起因する,会計情報の量的 拡大にもとづく勧告といわなけれぱならない。
注
27) アメリカ会許学会の外部報告委員会はこの純利益修正法に関し,「さらに減価 償去口賞とかその他の非資金項目を純利益に付加することは、むしろ混乱をも たらすものであり,目的適合的でない。。と評価している(CommitteeonEx−
temal Reporting, An Evaluation of Extema1Reporting Practices, the Ac−
countingReview,Supplement toVol.XLIV,1969,p.111.山形休司著,『現 代会計学の基礎。昭和48年,中央経済杜刊、66頁)。さらに『11村萬次教授は両 方法を比較して,次のように述べておられる。「資金の現実的な流れを素朴に 反映する総収入法が,純利益を起軸とする戻し加算より平易であり,また誤 算の危険は少ない。戻し加算の生体である減価償却費は,もともと見横計算 のうえ簿言己的に処理されたもので,それに照応する現金支出は実在しない。
純利益修正法では,このような振戻計算を避けることはできないという致命 的な欠陥をもっている」(前掲書,274−275頁)。