81 6 金沢大 学十全医学会雑 誌 第8 9巻 第6号 81 6‑8 24 (1 98 0)
ヒ ト骨 髄 の冷‡東保 存に関 する研 究
Ⅰ. 骨 髄 冷i東保存 条 件に関 する基 礎 的検討
金沢 大学 医 学 部 第3 内 科
石 野 千 津 子
( 昭和5 5年1 1月2 5 日受付)
本論 文の要 旨は第3 9回 日本血液学 舎総会, 第2 5回 日本 輸血学会 総会におい て発表 し た・
骨髄 抑制は悪 性 疾 患の化 学 療 法や放 射 線 治 療を継 続 す る さい, 必 ず 遭遇す る重 大な問 題であ り, そのた め にし ば し ば治療を中断せ ざ る を得な かった り, あ るい は重 篤な合 併症の発生を み るに いた る. し た がって こ の骨 髄 抑 制を克 服でき れ ば, 現在よ り強 力な化学 療 法 が可 能と な り, し かもよ り良 好な治 療 効 果を期 待 する こと も可 能であ る. こ の よ う な観 点か ら化 学 療 法お よ び放 射線 治 療の結果も た ら さ れ る致 命 的な造 血 不 全に 対して, 前 もっ て冷 凍 保 存しておいた 正常 造 血 能を有 する自 家骨 髄を投与 する という治 療 方 法が考え ら れ る‖2 】. こ の方法を臨床 的に応 用す る た めには, まず冷 凍 保 存さ れ た骨 髄が解 凍後 移 植さ れ る場 合に十 分な造 血機能を維 持し得る よ うに,種々 の角 度か ら冷 凍 保存, 解 凍 条件を検 討し, 至適 条件を設 定 する必 要が あ る.
骨 髄は形 態 的にも機 能 的に も異なっ た数 種 矯の細 胞 群によって構 成さ れて いる. 冷 凍 保 存 する骨 髄の中で 最も重要な細 胞は造 血 幹 細 胞であ り, 骨 髄の冷 凍 保 存
は造 血 幹 細 胞の保 存に他な ら ない. 造 血 幹 細 胞は機 能 的 単 位と して測 定可 能であ る が, 形 態 学 的には ま だ同 定さ れてお らず, 骨 髄 細 胞1 04 〜 1 05 個に1 個の割 合
で存在 する といわ れ る3 ). こ のよ うに骨 髄には造 血 幹 細 胞の他に hete r oge n o u s c el l populatio n s が存 在 す る た め に, 冷 凍 保 存し た骨 髄の生 存性の判 定や至 適 条 件の評 価が困 難であった. 生 存 性の判 定に は形 態 学 的 変 化, 色 素排 泄 試 験,
3H ‑ thy mi d in の と り込み な ど が指 標と して利用さ れてき た. し か し な が ら, これ ら の方 法は必 ずし も造血 幹 細 胞と して の機 能を反 映して いる と はいえず, こ のた め至 適 冷 凍 保 存 条 件は研 究 者
によって異なって いるのが実 状であっ た. 自 家 骨 髄 移 植が成 功 する た めには, 解 凍 骨 髄 細 胞 中の造 血 幹 細 胞 が移 植後た だ ち に生 者 する だ けでな く, 自己再 生, 分 化, 増殖という造 血 幹細 胞と して の機 能を維持し な け
Study o n Cryopre s e r v atio n of H u m a n B one
O p tim al Co nditio n fo r H e m opoietic A ctivit y.
れ ば な ら ない. 近 年造 血 幹 細 胞に関す る研 究は急 速に 進 歩し, その成 果と して いくつかの成 熟 段 階の異な る 造 血 幹 細 胞の存 在が明ら かにさ れ, その定量 的測 定 法 も確 立さ れて い る4 ).多 能 性 幹細 胞 (C Olo ny fo r ming u nitin sp le e n ,C F U ‑ S) は赤 血 軋 白 血 球, 血小 板 に分化 する能 力を有し, 冷 凍 保 存骨 髄の生 存 性の判定
に は最も望ま しい造 血 幹 細 胞の定 量 的 測 定 法であ るユ). し か しこ の C F U ‑ S 測 定 法は致 死 量照射マ ウス にお け る脾コ ロ ニ ー形 成を利用 す る もの で, ヒ ト ではこれ に相 当 する造 血 幹 細 胞の測 定 法は ま だ確 立さ れて いな い. し た がっ て, 七 卜骨 髄の造 血 能を評 価す る に は顆 粒 球 系 前 駆 細 胞 (c olo ny fo r ming u nit in c ultu r e,
C F U ‑ C) や赤 芽 球 系 前 駆 細 胞 (e ry thr opoietin r e spo n siv e c olo ny fo r min g u nit, C F U ‑ E ; e ry thr opoietin r e spo n siv e bu r st fo r ming u nit,
B F U ‑ E) な どで測 定 するのが最も 適当と 思 わ れ る. こ こ では C F U ‑ C を指 標と して, ヒ ト骨 髄 冷 凍 保 存の
至 適 条 件を決 定 する た めの基 礎 的 条 件, 即ち凍 害保 護 剤の種 類と濃 度, 血 清 添加の影 響, 細 胞 濃 度, 保存 期 間等に つい て検討を行い, 臨床 的に も 応用でき る至 適 条件を設 定でき たの で報 告 する.
材 料お よ び方法 1) 骨 髄細胞
鉄 欠 乏性 賓 血, 本 態性 血 小 板 減少 症, 寛解 期白 血 病 患 者, 鑑 別 診 断のた め骨 髄 穿 刺を受け た非血 液疾 患の 患 者のう ち 正常な骨 髄 像を示す症例を対 象と して, 胸 骨よ り 通常の方 法で骨 髄 穿 刺 液を 吸引し, これ を小試 験 管に移して室 温 下で約1時 間 静 置 後,buffy c o at を 採 取し た. つぎに,こ のbuf fy c o at を M cCoy 5 A 培 養 液 (Gr a nd Isla nd Biologic al Co. G I B C O, Ne w
M a r r o w C ell. Ⅰ. D ete r min atio n of the
Clliz uk o Ishin o, D epa rtm e nt of Inte r n al M edicin e (m), K a n a z a w a U niv e r sit y Sch o ol of M ed icin e, K a n a z a w a ,Japa n ■
Yo rk) で2 回 洗 浄し, 骨 髄 細胞 浮 遊 液と し た. 小 郡は
コ ントロ M )L/( 冷 凍前) のC F U ‑ C 測 定に用い, 残り
を冷 凍保 存し た. 2) C F U ‑ C の測定
C F U R C の測 定は P i ke & Rob in s o n5 }の方 法に準 じて行った. 培 養 液は P i ke らの処 方に従っ て,ア ミ ノ
酸やどタミンを添 加し た M cCoy 5 A 培 養 液に牛 胎 児 血 清 (F C S, F lo w Lab. Sta nm o r e, N. S. W .
Au str a ria) を 1 5 % 加え た ものをplatin g m ed iu m と して用いた. こ の Platin g m ed iu m に寒 天 (Ba cto age r,D I F C O Lab.Detr oi t M ich iga n) を 0.5 % 加え,
さ ら に正 常ヒト末梢 血よ り得た白 血 球を 1 × 1 08/・氾エ
と な る よ うに添加 調 整し, こ の1Inエを35 m mの組 織 培 養 皿(Falc o n ♯30 0 1 C A) に分 注してfe ederlaye r を 作 製し た. 新鮮 骨 髄 細 胞あ るい は解 凍 骨 髄 細 胞は,
0.3%寒 天を含むplating m ed iu m に 2 ×1 05/ mL t な る よ う に調 整し, その1 m ほ feede r lay er に重 層し
0 V e r laye r と し た. 培 養は triplic ate で 3 7 ℃,
7.5 % C O2,1 0 0 % 湿 度の条 件 下で1 4 日間 行いt 培 養終 了 後 倒立 顕 微鏡 下で50 個以上の細 胞か ら な る コ ロ ニ ー
を算 定し た. 冷 凍 保 存 前 後の 検 討は同 〜 の fe eder laye rも し く は同一 人の末 梢 白 血球に て作成し た もの
を用いた.
3) 凍 害 保 護 液
凍害 保 護 剤は グ リセリン ( 和 光純 薬, 東京) お よ び d im ethyl s ulfo xi de(D M S O 和光) を用い,
LM cCoy
5 A 培 養 液に種々 の濃 度のグ リセリンま た は D M S O を 使用 直 前に加えて凍 害 保 護 液を作 製し た.
4) 冷 凍 保 存 方 法
細 胞 数を 2 × 107/ mいこ調 整し た骨 髄 細 胞 浮 遊 液に グ リセリンま た は D M S O を そ れ ぞ れ 1 0 % ,20% ,30 % 含 む凍 害 保 護 液を等 量, 緩 徐に加え凍 害 保 護 剤の最 終 濃 度が 5 % ,1 0 %,1 5 % と な る よ うにし た. これ を 1 山 づ っ
凍結 保 存チ ュ ー ブ(Nu n c,N ‑ 1 0 7 6 ‑ 1 De n m a rk)
に分 注し, プロ グラム フリ ー ザ ー ( 荏 原 製 作 所P F 2 2,
東京)に静 置し‑ 1 ℃/min の冷 却 速 度で ‑ 7 0 ℃ まで
緩 速 冷 凍を行い, た だ ちに液体 窒 素 申 (‑ 1 9 6 ℃) に
保 存し た. 5) 解 凍
解 凍は 4 0 ℃の恒 温槽で急 速 解 凍によって行った.原 則と して保 存 後7 日 か ら30 日 まで の間に解 凍し,
一 部
は保 存 期 間の影響をみる た めに, さ らに長 期 間 保 存し た.
6) 洗 浄 方法
M cCoy 5 A 培 養 液をでき る だ け ゆっ く り加え,1 0 倍 以上に希 釈し, 2回 遠心洗 浄を行った後 細 胞数を算定し
細 胞 回 収率を求め, さ らにC F U ‑ C 測定を行っ た.同 時に0 .25 % try pa n b lu e を用い, 色 素排 泄 試 験によ る 生 存性, ギムザ染 色によ る形 態 学 的変 化も検 討し た.
成 繚
1) 凍 害 保 護 剤の細 胞 毒 性
グ リセリン, D M S O な ど凍 害 保護 剤は細 胞 毒性のな い こと が 望 ま しい の で8 ), C F U ‑ C に対す る影響を検 討し た.Ov e rlaye r 中にグ リセリンは 0.5,1.0, 2.0,
8.0 ‰ D M S O は 8.2, 0.5,1.0,2.0, 5.0 % と な る よ うに添 加し, グ リセリンあ るいは D M S O の 存 在 下で C F U ‑ C測 定 を行っ た. その成績は図1 に示さ れ る よ うに , グ リセリン, D M S O は ともに濃 度 依 存 性に in Vitr o コ ロ ニ ー 形 成を抑 制し た. グ リセリンは 1 % で コ ロ ニ ー 形成 抑 制 率は30% ,5 % で抑 制 率は 8 0 % と な り,
グ リセリン8% 以上の存 在 下でコ ロ ニ ー 形 成は全く み ら れ な か った. ま た D M S O が 0.5 % 存在 する とコ ロ ニ
ー形 成 抑制率は30% であり. 1 % では抑制 率 63% と な り, D M S O 2% 以 上ではコ ロ ニ ー 形 成は全 く 認め な か
っ た. 以上の結 果よ り以 下の実 験では凍 害 保 護剤を除 去 する た めに解 凍骨 髄 細 胞は洗 浄を行うことに し た.
2) 形 態 学 的変 化
図 2 は凍結 保 存前 後の骨 髄 細 胞のギムザ染 色標 本で あ る. 解凍骨 髄の染色 標 本で特 徴 的なこと は成熟 好 中 球は著 明な減 少を示し, 形 態 的に分類 不 能の細 胞が著 し く増 加し た. これ らの細 胞は変 性によ り細 胞 質を失
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図1 Cy toto xic effe ct of c ryopr ote ctiv e age nts O n gr an ulo cy te pr oge nito r c ells(C F U‑C)
81 8
った核 幻 影と言わ れ る ものと考え ら れ る. 残 存して い る顆 粒 球も核お よ び細胞 質の膨 化, あ るいは核 濃 縮,
細 胞 質の脱 顆 粒が み ら れ た. 好 中球に比べて好 酸 球,
好 塩 基 球の顆 粒 球は比 較 的よ く保た れて いた.
一 方 赤
芽球や リン パ球は 以上のよ う な変 化が少な く, その形 態 学 的 特 徴を か な り保 持して いた. 表1 は冷 凍 保 存 前 後の骨 髄細 胞の百 分 率を 1 0 例の平 均 値で示し た もの
であ る が. 未 熟お よ び成 熟 顆 粒 球の著 滅が 認 め ら れ る
野
の に対して赤 芽 球お よ び リン パ球の比率は変 化を示さ ず, 一方 形 態 学 的に分類 不能と判 断さ れ る細 胞は 42 .4
±1 7.4 % と高 率にみ ら れ た. 3) 凍 害保護 剤の影 響
グリ セリンお よ び D M S O の各 濃 度 (5 〜 1 5 % ) で骨 髄 細 胞を冷 凍保 存し た場 合の生 存 性, 細 胞 回 収 率,
C F U M C 回 収 率を表2 に示し た.try pa n b lu e 色 素排 泄 試 験によ る生 存 性は グ リセリ ン各 濃 度, D M S O 各濃
図2 G ie m s a‑Stain ed s m e a r s of bo n e m a r r o w c ells fr e sh o n e sin the left a nd fr o z e n・ tha w ed o n e's in the right(×4 0 0)
Tab lel. C ha nge sin di ffe r e ntials of bo n e m a r r o w c ellsbefo r e a nd afte rfr e e zing D iffe r e ntials( % ) Ty pe ofc ell
Ery thr obla sts
Im m atu r e gr a n ulo cy te s
Matu r e gr a n ulo cy te s
Lym pho cy te s
Un cla s si負ed
2 4.8±4.3 2 1.3±7.9 24.6±4.9 21.8±1 1.1
0
2 4.9±1 4.3 4.8± 4.9 3.1 ±4.0 21.4 土 12.2 4 2.4±1 7.4 Ea chv alu e r epr e s e ntsthe m e a n ±sta nda rd de viatio nin l O e xpe rim e nts.