二〇二〇年度 二月三日午後入試(第五回)
国 語 (
45分)
注意 1 開始の「チャイム」が鳴るまでは、中を見てはいけません。
2 答えはすべて解答用紙の解答らんに、はっきり書きなさい。
3 終わりの「チャイム」が鳴ったら、とちゅうでもやめなさい。
4 問題のページは、 から まであります。
5−1
5−10
一
も字数に数えます。 ) 次 の 文 章 を 読 ん で、 後 の 問 い に 答 え な さ い。 ( 字 数 制 限 の あ る 場 合 は 、 句 読 点 や 記 号
小 学 5 年 生 の「 ぼ く 」( 野
の崎
ざき翔
しょう太
た) は「 フ ァ ル コ ン ズ 」 と い う 少 年 野 球 チ ー ム で 野 球 に う ち こ ん で い たが、 転校をきっかけに野球をやめ、 今は、 引
ひっ 越
こした先で 偶
ぐう然
ぜん出会っ た ※ 将
しょう棋
ぎに夢中になっている。 「 朝
あさ霞
かこ ど も 将 棋 教 室 」 に 通 い な が ら 実 力 を つ け て い っ た「 ぼ く 」 だ が、 あ る 日、 同 じ 将 棋 教 室 に 通 う、 自 分 よ り 三 つ も 年 下 の 山
やま沢
さわ君 に 負 け て し ま う。 「 ぼ く 」 は、 次 に 山 沢 君 と 対 ※ 局 す る と き は な ん と し て も 勝 ち たいと研究を重ねていた。
アパートの部屋で、ひとりで将棋をしていると、山沢君の顔が頭に浮かんだ。小学2年生なのに厚いレン ズのメガネをかけて、 肌
はだの色は白く、 手足も細い。きっと、 サッカーも野球も、 あまりうまくはないだろう。
ぼくが山沢君について知っているのは、その程度だった。どこの小学校なのかや、何 歳
さいで将棋を始めたの かも知らない。山沢君だって、ぼくのことは名前と学年しか知らないはずだ。 (同じ将棋教室に通っていても、ぼくたちはおたがいのことをほとんど知らずに対局しているんだ。 )
①そのことに、ぼくは初めて気づいた 。 ファルコンズのメンバーは全員同じ小学校だったし、どこに住んで いるのかも、きょうだいが何人いるのかも知っていた。食べものの好き 嫌
きらいや、勉強がどのくらいできるの かも知っていた。土まみれになって練習し、試合に勝てばみんなで喜び、負けてはみんなで 悔
くやしがった。
でも、一対一で戦う将棋では、勝っても、喜び合うチームメイトがいない。チームメイト同士で 励
はげまし合 うこともない。将棋では、自分以外は全員が敵なのだ。
②野球と将棋のちがいを考えているうちに、ぼくはさみしくなってきた。 (でも、山沢君がどのくらい強いかは、いやというほど知ってるぜ。 )
ぼくは山沢君との一局をくりかえし並べていた。おそらく、 ぼ ※ くの指し手は全て読み筋にあったにちがい ない。つまり、多少 手
て強
ごわくはあっても、負ける気はしなかったはずだ。 (見てろよ、山沢。今度は、おまえが泣く番だ。 )
ぼくは気合いを入れたが、ますますさみしくなってきた。 (自分以外は、全員が敵か。 )
頭のなかでつぶやくと、 涙
なみだがこぼれそうになった。 (将棋は、ある意味、野球よりきついよな。 )
③ぼくは初めて将棋が 怖
こわくなった。
前回の将棋教室から2週間がたち、ぼくは自転車で公民館にむかった。母は、午後3時前に来てくれるこ とになっていた。 介
かい護
ご施
し設
せつでの昼食の 支
し度
たくと片付けがあるため、Aコースが始まる午後1時に来るのはどう しても無理だからだ。そのことは、母の 携
けい帯
たい電話からのメールで 、 ※ 有
あり賀
が先生に伝えていた。
この2週間、ぼくはひたす ら ※ 横
よこ歩
ふ取
どりを研究した。できれば、今日は山沢君とは対戦せずに、別の相手に 研究の成果をぶつけてみたい。
ぼくは父と母にも山沢君のことを話していた。二人とも 、 ※ 大
おお熊
くま君と同じく、ぼくが負けた相手が小学2年 生だということに 驚
おどろいていた。 「何回負けたって、いいんだぞ。おとうさんは、翔太が夢中になれるものを見つけたことがうれしいんだか ら。 」
「おかあさん、 将
しょう棋
ぎは野球よりも、ずっと大変だと思うの。だって、野球なら、味方の 活
かつ躍
やくで勝つこともあ るけど、将棋には味方がいないじゃない。 」
二人とも、 駒
こまの動かしかたすらわかっていないのだが、それなりに的確なアドバイスなのがおもしろかっ た。
公民館に着いて、こども将棋教室がおこなわれる103号室に入ると、ぼくは 挨
あい拶
さつをした。 「こんにちは。お願いします。 」
気合いが入りすぎて、いつもより大きな声が出た。 「おっ、いい挨拶だね。みんなも、 野
の崎
ざき君みたいにしっかり挨拶をしよう。 」
有
あり賀
が先 生 が 言 っ た の に、 返 事 を し た 生 徒 は ひ と り も い な か っ た。 先 生 も、 困 っ た よ う に 頭 を か い て い る。 ファルコンズだったら、 罰
ばつとして全員でベースランニングをさせられるところだ。
④( 将棋 一
いっ辺
ぺん倒
とうじゃなくて、野球もやっててよかったよな。 )
ぼく は ※ 航
こう太
た君のおとうさんと 田
た坂
さか監
かん督
とくに胸のうちで感謝した。
朝
あさ霞
かこども将棋教室では、最初の
30分はクラス別に講義がおこなわれる。ぼくは
初 ※ 段になったので、今日 から 山
やま沢
さわ君たちと同じ、一番上のクラスだ。ところが、有段者で来ているのはぼくと山沢君だけだった。 「そうなんだ。みんな、かぜをひいたり、法事だったりでね。 」
講義のあとは、 ぼくと山沢君が対戦し、 2局目は有賀先生がぼくたち二人を相手に 二 ※ 面指しをするという。 前にも、先生が3人の生徒と同時に対局するところを見たが、手を読む速さに 驚
おどろいた。プロが本気になった らどれほど強いのか、ぼくは想像もつかなかった。 「前回と同じ対局になってしまうけど、それでもいいかな? 先手は野崎君で。 」 「はい。 」
⑤ぼくは自分を奮い立たせるように答えた が、山沢君はつまらなそうだった。 (よし
⑥。 にもの見せてやる。 )
ぼくは 椅
い子
すにすわり、 盤
ばんに駒を並べていった。 「おねがいします。 」
二人が同時に礼をした。 (中略)
二人の勝負は、対戦開始から激しい展開となった。どちらにも決め手がないまま、数十分を 超
こえる長期戦 となる。
「 そ ※ のまま、最後まで指しなさい。 」
有賀先生が言って、そうこなくちゃと、ぼくは気合いが入った。かなり 疲
つかれていたが、絶対に負けるわけ にはいかない。山沢君だって、そう思っているはずだ。 (勝ちをあせるな。 相 ※ 手 玉
ぎょくを 詰
つますことよりも、自玉が詰まされないようにすることを第一に考えろ)
細心の注意を 払
はらって指していくうちに
⑦、 形勢がぼくに 傾
かたむいてきた 。 ただし、頭が疲れすぎていて、目がチ カチカする。指がふるえて、駒をまっすぐにおけない。 「残念だけど、今日はここまでにしよう。 」
ぼくに手番がまわってきたところで、有賀先生が対局時計を止めた。 「もうすぐ3時だからね。 」
そう言われて 壁
かべの時計を見ると、短針は「3」を指し、長針が「
12」にかかっている。
40分どころか、1
時間半も対局していたのだ。
ぼ く は 盤
ばん面
めんに 視 線 を 戻
もどし た 。 ぼ く の 玉
ぎょくは す で に 相 手 陣
じんに 入 っ て い て 、 ※ 詰
つま せ ら れ る こ と は な い 。 山
やま沢
さわ君 も ※ 入
にゅう玉
ぎょくをねらっているが、
10手あれば
詰 ※ ませられそうな気がする。ただし手順がはっきり見えているわけではな かった。 「すごい勝負だったね。ぼくが 将
しょう棋
ぎ教室を始めてから一番の熱戦だった。 」
⑧プロ五段の 有
あり賀
が先生から最高の賛辞をもらった が、ぼくは 詰 ※ み筋を 懸
けん命
めいに探し続けた。 「 馬
うま引 ※ きからの7手詰めだよ。 」
⑨山沢 君が 悔
くやしそうに言って、ぼくの馬を動かした。 「えっ?」
まさか山沢君が話しかけてくるとは思わなかったので、ぼくはうまく返事ができなかった。 「こうして、こうなって。 」
詰 ※ め将棋をするように、山沢君が盤上の 駒
こまを動かしていく。 「ほら、これで詰みだよ。 」 (なるほど、そのとおりだ。 )
⑩頭のなかで答えながら、ぼくはあらためてメガネをかけた小学2年生の実力に感心していた。 「プロ同士の対局では、時間切れ引き分けなんてない。それは 研 ※ 修会でも、 奨
しょう励
れい会でも同じで、将棋の対局 はかならず決着がつく。でも、ここは、小中学生むけのこども将棋教室だからね。今日の 野
の崎
ざき君と山沢君の 対局は引き分けとします。 」
有賀先生のことばに、ぼくはうなずいた。 「さあ、二人とも礼をして。 」 「ありがとうございました。 」
山沢君とぼくは同時に頭をさげた。そして顔をあげたとき、山沢君のうしろにぼくの両親が立っていた。 「えっ、あれっ。ああ、そうか。 」
ぼくは母が3時前に来る約束になっていたことを思いだしたが、まさか父まで来てくれるとは思ってもみ なかった。もうBコースの生徒たちが部屋に入ってきていたので、ぼくは急いで駒を箱にしまった。 「みなさん、ちょっと注目。これから野崎君に 認
にん定
てい書を交付します。 」
ふつうは教室が始まるときにするのだが、有賀先生はぼくの両親に合わせてくれたのだ。 「野崎 翔
しょう太
た殿
どの。あなたを、 朝
あさ霞
かこども将棋教室初段に認定します。 」
みんなの前で賞状をもらうなんて、生まれて初めてだ。そのあと有賀先生の 奥
おくさんが賞状を持ったぼくと 有賀先生のツーショット写真を 撮
とってくれた。両親が入った4人での写真も撮ってくれた。 「野崎さん、ちょっといいですか。翔太君も。 」
有賀先生に手招きされて、ぼくと両親は 廊
ろう下
かに出た。 「もう少し、むこうで話しましょうか。 」
どんな用件なのかと心配になりながら、ぼくは先生についていった。 「翔太君ですが、成長のスピードが 著
いちじるしいし、とてもまじめです。今日の一局も、じつにすばらしかった。 」
有賀先生によると、山沢君は小学生低学年の部で 埼
さい玉
たま県のベスト4に入るほどの実力者なのだという。来 年には研修会に入り、 奨励会試験の合格、 さらにはプロ の ※ 棋
き士
しになることを目標にしているとのことだった。
⑪
「 小学5年生の5月でアマチュア初段というのは、正直に言えば、プロを目ざすには 遅
おそすぎます。しかし野 崎君には 伸
のびしろが相当あると思いますので、親 御
ごさんのほうでも、これまで以上に 応
おう援
えんしてあげてくださ い。 」
そう言うと、 有
あり賀
が先生は足早に 廊
ろう下
かを 戻
もどっていった。
まさか、ここまで認めてもらっているとは思わなかったので、ぼくは 呆
ぼう然
ぜんとしていた
⑫。 将
しょうぎ棋 界のことをな にも知らない父と母はキツネにつままれたような顔をしている 。 二人とも、すぐに仕事に戻らなければなら ないというので、 詳
くわしいことは今晩話すことにした。
103号室に戻り、カバンを持って出入り口にむかうと、 山
やま沢
さわ君が立っていた。ぼくより
20センチは小さ
くて、 腕
うでも 脚
あしもまるきり細いのに、負けん気の強そうな顔でこっちを見ている。 「つぎの対局は負けないよ。絶対に勝ってやる。 」 「うん、また指そう。そして、 一
いっ緒
しょに強くなろうよ。 」
ぼくが言うと、山沢君がメガネの 奥
おくの目をつりあげた。 「なに言ってんだよ。将棋では、自分以外はみんな敵なんだ。 」
小学2年生らしいムキになった態度がおかしかったし、 「自分以外はみんな敵だ。 」と、ぼくだって思って いた。 「たしかに対局中は敵だけど、 盤
ばんを 離
はなれたら、同じ将棋教室に通うライバルでいいんじゃないかな
⑬。 ぼくは 初段になったばかりだから、三段になろうとしているきみをライバルっていうのは、おこがましいけど。 」
⑭ぼくの心ははずんでいた 。 個人競技である将棋にチームメイトはいないが、ライバルはきっといくらでも あらわれる。勝ったり負けたりをくりかえしながら、一緒に強くなっていけばいい。
( 佐
さ川
がわ光
みつ晴
はる「初めてのライバル」 『 駒
こま音
おと高く』より)
※(注) 将棋 盤 ばんという台の上に置かれた駒を使い、一対一で対戦するゲーム。
駒 こまを交 こう互 ごに動かして、先に相手の「王 おう将 しょう(玉 ぎょく)」という駒を動けな
い状態にした方が勝ちとなる。
対局
将棋の対戦のこと。
ぼくの指し手は全て読み筋にあった
ぼくがどう駒を動かすかを山沢君は全て予測していた。
有賀先生
「ぼく」の将棋の先生。「朝 あさ霞 かこども将棋教室」を開いている。
横
よこ歩 ふ取 どり 将棋の戦術の一つ。
大
おお熊 くま君 「ぼく」のクラスメイト。
航
こう太 た君のおとうさんと田 た坂 さか監 かん督 とく 少年野球チーム「ファルコンズ」の指導者。
将棋の盤と駒
初段
腕 うで前 まえを示す位。初段から二段、三段と順に高くなる。
二面指し
二人同時に相手にして将 しょう棋 ぎを指すこと。
そのまま、最後まで指しなさい
そのまま、最後まで対戦を続けなさい。
相手玉を
詰 つますことよりも、自玉
が詰まされないようにすることを
勝つことよりも、負けないようにすることを。
詰ませられることはない
負けることはない。
入
にゅうぎょく 玉 自分の「王 おう将 しょう(玉 ぎょく)」を相手の陣 じん地 ちに入れて負けにくくすること。
詰ませられそうな気がする
勝てそうな気がする。
詰み筋
相手の「王将(玉)」を追い詰めるまでの手順。
馬
うま引き 馬という駒 こまを動かすこと。
詰め将棋をするように
勝つまでの手順を確 かく認 にんするように。
研修会でも、
奨 しょう励 れい会でも 研修会・奨励会は、将棋のプロを目ざす人たちが入る会。