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神経芽腫における 遺伝子の新規予後規定因子としての検討(要約)

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Academic year: 2021

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(1)

神経芽腫における

Nuclear Receptor subfamily 4, group A, member 3

遺伝子の新規予後規定因子としての検討

(要約)

日本大学大学院医学研究科博士課程 生理系機能生理学専攻

平野 隆幸 修了年 2018 年 指導教員 越永 從道

(2)

はじめに

神経芽腫は、小児固形腫瘍の一種であり、胎生期の神経堤細胞を起源とする 細胞が癌化したものである。体幹の交感神経節・副腎髄質に多く発生し、約60%

が腹部であり、その他にも頚部、胸部、骨盤部などから発生する。小児がんの 中では白血病、脳腫瘍に次いで発症頻度が高く、診断時年齢中央値は約19か月 であり、90%は5歳未満で診断される(1。診断時に約70%は転移巣が見られ る。

発生原因や生物学的機構は不明であるが、発生過程における複数の遺伝子変 異が腫瘍化に関与していると考えられている。また、新生児期や乳児期の神経 芽腫は神経節種に良性転化し自然退縮するものも多く(2)、1歳以降に発症する 高悪性度の神経芽腫とは腫瘍発生原因が根本的に異なると言われており、非常 に多様性の高い腫瘍であると言える。

神経芽腫の予後因子は、診断時年齢、臨床病期、生物学的因子と強く関連し ており、これらをリスク因子とし、リスク毎に層別化している。近年発表され た、最新のリスク分類であるInternational Neuroblastoma Risk Group Risk Classification(INRG)にはINRG staging system(INRGSS)、発症年齢、組 織分類、MYCN 増幅、11q欠失、DNA ploidy がリスク判定のための予後因子 として採用されている(3)

神経芽腫の治療は手術、化学療法、放射線治療、自己末梢血幹細胞移植を組 み合わせた集学的治療が行われる。特に、高リスク群に対しての治療は多くの 臨床研究が行われており、13-cis retinoic acidの投与により神経芽腫細胞を神経 節腫細胞へ良性転化させる手法を自家骨髄移植後の支持療法とする有効性の検 討も行われている(4)。しかしながら、数多くの臨床研究が進行している現在で も、高リスク群における10年無病生存率は50%以下と低い。

以上から、新たな予後予測因子と、それを組み込んだ新規治療の開発が喫緊 の課題となっている。前出のように、分化誘導療法には一定の効果が見込まれ、

より効果的なアプローチによる分化誘導療法の探索も切望されている。

これまでに著者の所属する研究グループでは、神経芽腫組織における予後と 発現に相関のある遺伝子のエピジェネティクス、特にDNAメチル化異常と悪性 腫瘍の関連性を解析し、新規の予後規定因子を報告してきた(5,6)。この解析で は化学発がん剤により誘導した皮膚腫瘍の組織と正常皮膚組織の DNA メチル 化状態を網羅的に調べ、腫瘍特異的DNAメチル化58領域を同定した。それら

(3)

のうち、マウスとヒトの相同領域14カ所を検索し(7)、ヒト神経芽腫において正 常副腎組織とメチル化状態の異なる領域に位置する遺伝子の1つとして、

nuclear receptor subfamily 4, group A, member 3 (NR4A3 )を同定した(5) NR4A3 がコードする核内受容体Neuron-Derived Orphan Receptor 1 (NOR-1)

はリガンドが同定されていないorphan receptorであり、その機能解析はほとん ど進んでいない(8)。当科で保存している神経芽腫臨床検体の DNA メチル化状 態を解析した結果、NR4A3 低発現であるexon3 CpG island (CpGi)の低メチル 化群で有意に予後不良であった。また、MYCN 増幅群で有意にメチル化レベル が低下していた(9)。以上の結果はNR4A3 exon3 CpGiの低メチル状態・低発現 状態が予後不良因子となることを示し、この遺伝子ががん抑制遺伝子としての 機能をもつ可能性を強く示唆した。さらに NR4A3 と予後不良因子である MYCN に何らかの相互作用があることも推察された。本研究では、神経芽腫の 細胞機能に対するNR4A3遺伝子の役割の解明を目的として、実験計画を立案し た。

目的

ヒト神経芽腫細胞株を用いて、NR4A3の発現抑制状態および強制発現状態に おける細胞機能の変化を実験的に検証する。また、MYCN 発現との相関関係を 解明するために MYCN 抑制状態における影響も同様に検証する。これにより、

本症におけるNR4A3の役割を解明し、予後規定因子としての意義および、新規 治療標的としての可能性を検討する。

対象と方法

ヒト神経芽腫細胞株7種(NB1NB9NB69KellySK-N-SHSH-SY5Y

SK-N-AS)を使用した。この中から、NR4A3高発現であるSK-N-AS

Lipofection法によりNR4A3 siRNAを導入し発現抑制実験を、NR4A3低発現 であるNB1NR4A3の発現ベクターを導入し、強制安定発現株を作製するこ とで、強制発現実験を行なった。各々で細胞分化能と細胞増殖能を解析した。

細胞分化能の解析は48時間培養後、細胞形態を観察し、神経突起長を計測した。

細胞増殖能の解析は培養244872時間毎にWST-8 assayを行なった。

次 に 、NR4A3 の 強 制 発 現 株 に 対 し て 分 化 マ ー カ ー で あ る β3-tubulin

TUBB3 )、Transglutaminase2TGM2 )、および Tropomyosin receptor

(4)

kinase(TRKA)の発現解析を行った。また、All-trans-retinoic acid(ATRA)

10μMを投与することで分化誘導を行い、細胞形態の変化を観察した。NR4A3 強制発現株とコントロール株を、ATRA投与群と溶媒のみを投与した群に分け、

それぞれ培養24時間、72時間、120時間後の形態変化を観察し、神経突起長を 計測した。

さらに、当科で保存している神経芽種臨床検体30例に対し、NR4A3の発現 MYCN増幅の有無で比較検討した。その結果を踏まえ、MYCN 増幅株であ NB1に対して、MYCN siRNAを導入しMYCNの発現を抑制した。MYCN 現抑制状態でのNR4A3および分化マーカーの発現解析と細胞形態の変化を観 察し、神経突起長を計測した。

結果

ヒト神経芽腫細胞株7種におけるNR4A3の発現をReal-time RT PCR 解析した結果、発現レベルは細胞ごとに多様であり、MYCN 増幅株で低発現、

MYCN 非増幅株で高発現の傾向を示した。以下、NR4A3 の発現抑制による機 能解析は高発現株SK-N-ASを用いて、強制発現による機能解析は低発現株NB1 を用いて行った。

SK-N-ASに対してNR4A3 の発現抑制を行った結果、コントロール群と比較

して形態変化はなく、神経突起長に有意差はなかった(p=0.62)。また、細胞増 殖能は4872時間後において有意な生存率の低下を認めた(いずれもp<0.001 また、NB1においてNR4A3 の強制発現株における実験では、コントロール 株と比較してNR4A3 強制発現株で有意な神経突起の伸長を認めた(p<0.001) 分化マーカーの発現解析では、TUBB3TGM2TRKAの全ての遺伝子におい NR4A3 強制発現株で高発現であった。また、細胞増殖能の解析では、培養 72時間の時点で生存率に有意差は見られたものの(p<0.001)、全体的な傾向と してコントロール株と NR4A3 強制発現株との間に顕著な違いは見られなかっ た。

また、レチノイン酸投与による分化誘導実験では、NR4A3強制発現株におけ るレチノイン酸投与群で有意な神経突起長の伸長を認めた(p<0.001)が、神経 突起の伸長割合は同程度であった。

神経芽腫臨床検体30例の解析では、細胞株の解析と同様にMYCN 増幅検体

(5)

に比べ、MYCN非増幅検体で高発現の傾向を示した(p=0.042)。NB1に対する、

MYCN 抑制状態での発現解析では、NR4A3 と分化マーカーである TUBB3 TGM2、TRKA の発現亢進を認め、形態変化の観察では神経突起の伸長を認め た(p=0.002)

考察

本研究では、ヒト神経芽腫の発生・進展におけるNR4A3の役割を理解するた めに、神経芽腫培養細胞株を用いた機能解析を行なった。NR4A3の機能を推定 する上で鍵となる成果として、NR4A3低発現株 NB1 NR4A3を導入して作 成した強制発現株が、分化マーカーの発現を亢進し、神経突起の明らかな伸長 を示すことを見出した。レチノイン酸による分化誘導との関係は不明であった。

神経突起の伸びた形態は神経芽腫が分化状態にあることを示し(9)、分化マーカ ーも亢進したことより、今回得た結果はNR4A3が神経芽腫の分化誘導を促進す る機能を持つ事を強く示唆している。

神経芽腫の発生・進展におけるNR4A3の役割を解明する上で重要なもう一つ の成果として、今回、NR4A3が予後規定因子の一つであるMYCNにより発現 抑制を受けている可能性を示すデータを得た。NB1 における MYCN の発現を 抑制したところ、NR4A3の発現が亢進し、神経突起伸長や分化マーカーの発現 上昇が観察された。MYCNの発現抑制にともなうNR4A3の発現亢進によって 細胞分化が誘導された可能性、もしくは強力な予後不良因子であるMYCNの抑 制そのものによって、NR4A3とは独立した機序で細胞分化が亢進した可能性の 両方が考えられる(10)。本研究では、MYCN NR4A3 の直接の関係性は解析 されておらず、今後の詳細な検討が必要である。

結語

ヒト神経芽腫において NR4A3 の高発現は細胞分化能を促進させることが in vitroで確認できた。神経芽腫臨床検体ではNR4A3高発現で予後良好であり、

予後良好因子である可能性が示唆された。レチノイン酸を用いた分化誘導の増 強作用は認められなかったが、分化誘導療法へ応用できる余地は残る。また、

培養系を用いた解析と臨床検体の解析から、NR4A3 の発現が、がん遺伝子 MYCNにより阻害される可能性が示された。逆にNR4A3の強制発現によって MYCNの発現が抑制されることから、両者の間には複雑な制御機構があると

(6)

考えられる。

(7)

【引用文献】

1. London WB, Castleberry RP, Matthay KK, Look AT, Seeger RC, Shimada H, Thorner P, Brodeur G, Maris JM, Reynolds CP, Cohn SL. Evidence for an age cutoff greater than 365 days for neuroblastoma risk group stratification in the Children's Oncology Group. J Clin Oncol. 2005; 23:

6459-65.

2. Maris JM, Hogarty MD, Bagatell R, Cohn SL. Neuroblastoma. Lancet.

2007; 368: 2106-20

3. Monclair T, Brodeur GM, Ambros PF, Brisse HJ, Cecchetto G, Holmes K, Kaneko M, London WB, Matthay KK, Nuchtern JG, von Schweinitz D, Simon T, Cohn SL, Pearson AD. The International Neuroblastoma Risk Group (INRG) staging system: an INRG Task Force report. J Clin Oncol.

2009; 27: 298-303.

4. Matthay KK, Villablanca JG, Seeger RC, Stram DO, Harris RE, Ramsay NK, Swift P, Shimada H, Black CT, Brodeur GM, Gerbing RB, Reynolds CP. Treatment of high-risk neuroblastoma with intensive chemotherapy, radiotherapy, autologous bone marrow transplantation, and

13-cis-retinoic acid. Children’s Cancer Group. N engl J Med. 1999;

341(16): 1165-1173.

5. Uekusa S, Kawashima H, Sugito K, Yoshizawa S, Shinojima Y, Igarashi J, Ghosh S, Wang X, Fujiwara K, Ikeda T, Koshinaga T, Soma M, Nagase H.

Nr4a3, a possibile oncogenic factor for neuroblastoma associated with CpGi methylation within the third exon. Int J Oncol. 2014; 44: 1669-77.

6. Sugito K, Kawashima H, Yoshizawa S, Uekusa S, Hoshi R, Furuya T, Kaneda H, Hosoda T, Konuma N, Masuko T, Ohashi K, Ikeda T,

Koshinaga T, Tomita R, Shinojima Y, Fujiwara K, Watanabe T, Held WA, Nagase H. Non-promoter DNA hypermethylation of Zygote Arrest 1

(8)

(ZAR1) in neuroblastomas. J Pediatr Surg. 2013; 48: 782-8.

7. Shinojima Y, Terui T, Hara H, Kimura M, Igarashi J, Wang X,

Kawashima H, Kobayashi Y, Muroi S, Hayakawa S, Esumi M, Fujiwara K, Ghosh S, Yamamoto T, Held W, Nagase H. Identification and analysis of an early diagnostic marker for malignant melanoma: ZAR1 intra-genic differential methylation. J Dermatol Sci. 2010; 59(2): 98-106.

8. Mohan HM, Aherne CM, Rogers AC, Baird AW, Winter DC, Murphy EP.

Molecular pathways: the role of NR4A orphan nuclear receptors in cancer.

Clin Cancer Res. 2012; 18(12): 3223-8.

9. Shirane M, Nakayama KI. Protrudin induces neurite formation by directional membrane trafficking. Science. 2006; 314(5800): 818-21.

10. Bell E, Chen L, Liu T, Marshall GM, Lunec J, Tweddle DA. MYCN oncoprotein targets and their therapeutic potential. Cancer Lett. 2010;

293(2): 144-57.

参照

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