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明星大学所蔵キュリー夫人実験ノートにおける放射線測定 合田一夫

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Res. Bul. Meisei Univ. Fac. Sci. Eng. 54(2018) 1-3

明星大学理工学部研究紀要 第

54

1

【研究論文】

明星大学所蔵キュリー夫人実験ノートにおける放射線測定

合田一夫 1 鈴木 昇 2

Radiation detection for Marie Curie’s laboratory notebook Kazuo GODA 1 , Noboru SUZUKI 2

Marie Curie is known as a researcher who discovered polonium and radium and was awarded the Nobel Prize. Meisei University preserves one of her laboratory notebooks and the notebook was reported still radioactive by some researchers. We have recently detected radiations from the notebook with a specially devised scintillation counter.

.

キーワード:マリー・キュリー,放射線計測,実験ノート Keywords:Marie Curie,radiation detection,

laboratory notebook

1. はじめに

明星大学は,稀覯書として

1919

年から

1933

年の間に記 されたキュリー夫人実験ノートを所蔵している。このノー トには放射性物質が付着していると報告されている(1)。マリ ー・キュリーは,夫のピエール・キュリーとともにウラン 鉱からの放射性物質の分離,ラジウムおよびポロニウムの 発見で知られている。特にノートには

Ra

(ラジウム)‐

226

が検出されている。

Ra-226

は系列崩壊における放射平衡によりα,β,γ線

が放出されている。放射平衡とは親核が娘核に,娘核が孫 核というように次々に崩壊する場合,途中のそれぞれの核 は生成と崩壊がつり合い放射線強度が一定量となる。とく に,半減期の非常に長い核種が半減期の短い核に崩壊する 場合,ある短い期間を見たとき両者の放射線強度が時間的 に一定でほぼ等しくなることを永続平衡という。

Ra-226

の系列崩壊ではγ線はこの系列崩壊による一部の

核から生じている。代表的な放射線検出器であるシンチレ ーション検出器は通常放射線のうちのγ線の測定に用いら れるが,本研究ではγ線のほかにα,β測定が可能となる ように改造したシンチレーション検出器を用いて放射線エ ネルギースペクトルを測定し,その結果について報告する。

2. 測定方法

実験ノートからの放射線を明星大学資料図書館にて

2016

11

11

日に測定した。α,β線が吸収され透過するのを 妨げる検出器カバーを設けないシンチレーターを検出器と して用いて,図

1

のようにシステムを構築した。検出部に 用いたシンチレーターは

Tl

添加

CsI

結晶,光電子増倍管は

R392(浜松ホトニクス)である。これと波高分析器からなる。

ノートの表紙からの放射線エネルギースペクトルとバッ クグランドを測定した。測定器のゲイン

1.5,光電子増倍管

印過電圧

900V,ノートと検出器の距離は約 1.5cm,測定時

間は4時間とした。

また,Ra-226 標準線源の測定をした。この測定には,さ らに,

MPPC (Multi-pixel photon counter)内蔵 CsI (Tl)シンチレ

ーターγ線検出モジュール

C12137 (浜松ホトニクス)も用い

た。

1

明星大学理工学部総合理工学科物理学系 教授 固体分子物性,放射線物理学

2

明星大学理工学部総合理工学科物理学系 准教授 宇宙線(平成

29

3

月定年退職)

1 放射線測定概念図

(2)

2

明星大学所蔵キュリー夫人実験ノートにおける放射線測定

2.

キュリー夫人の実験ノートからの放射線エネルギー スペクトル

3 Ra-226

の崩壊図と半減期

3. 結果と検討

測定により得られたノートからの放射線エネルギースペ クトルとバックグランドを図

2

に示す。縦軸が相対強度(対 数目盛),横軸がエネルギーである。

Ra-226

を親核種とす る放射平衡によるβ線の連続スペクトルとγ線スペクトル が観測されている。α線のピークも小さくはっきりしない が観測されている。

3

Ra-226

の崩壊図と半減期を示す(2)安定な

Pb-206

になるまで崩壊を続け,この系列から

4.78MeV, 5.30 MeV,

5.49 MeV, 6.00 MeV, 7.69 MeV

のα線,

0.672 MeV, 0.729 MeV, 1.02 MeV(

214

Pb),3.27 MeV (

214

Bi)のβ線が放出さ

れている。β線はこの値を上限とする連続エネルギ-分布 で放射される。

永続平衡の場合,半減期 が

≫ , , …

4 Ra-226

標準線源の放射線エネルギ-

スペクトル

5 Ra-226

標準線源のγ線エネルギ-スペクトル

で,

となり,各核種の放射線強度はある期間内では時間的に一 定で等しくなる。 は原子数 は崩壊定数である。Ra-226 の半減期は

1600

年である。

また,我々の研究室にある比較的強度の小さい

Ra-226

標準線源を

4

時間測定したエネルギースペクトルを図

4

示す。

さらに,この標準線源のエネルギ-スペクトルをγ線測 定 用 の シ ン チ レ ー シ ョ ン 検 出 器 で

3

時 間 測 定 し た

(HAMAMATSU C12137)。バックグランドを引いた結果を

5

に示す。得られたピークは,Ra-226の崩壊系列で生じ

Bi-214

Pb-214

によるγ線の光電ピークによるものと考

えられる。

ノート測定に用いられた検出器の場合は,α,β,γが 検出されているが,その検出効率はα線,β線のほうがγ

β

226 Ra1600y

210 Pb 22.3y

214Pb 26.8m

α 4.78 MeV

222 Rn 3.82d

182 Po3.05m

214 Po164μs

Pb

Bi 5.01d

Po138d

206

210 210

Bi19.8m

214

α 5.49 MeV α 6.00 MeV

α 7.69 MeV β

β

β α 5.30 MeV

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000

0 1000 2000 3000

Counts

Energy [keV]

計数

12 0 12

0

B.G.

計数

B.G.

(3)

明星大学理工学部研究紀要 第

54

3

線(光子)より高い。しかし,図

4

において同じ検出器で測定 した標準線源の低エネルギー部に表れているピークは,線 源が密封された構造のため保護膜があり透過力の強いγ線 がより多く放射されているためと考えられる。また,α線 は非常に透過力が小さく標準線源では保護膜による吸収の ため検出されていない。

2

と図

4

の結果からキュリー夫人の実験ノートには微

量の

Ra-226

が付着しているが示される。

4. まとめ

キュリー夫人の実験ノートには微量の

Ra-226

が付着し ていることが確認された。

1999

年の愛知工業大学森千鶴夫 氏らの本ノート測定データ(1)に比べると,ノートの測定部位,

検出器の種類,幾何学的条件,測定時間等の相違により単 純には比較できないが,ノートの主な付着物である放射性

物質

Ra-226

の量が減少していると思われる。

Ra-226

の半減期は

1600

年と非常に長いので,これは物

理的にノートに付着していた放射性物質

Ra-226

が落ちて いっているためと考えられる。また過去に,NH

K

番組サ イエンスアイで,本学において実験ノートのβ線が測定さ れた様子が放映され,表紙からの線量はバックグランドの

300

倍とされた。

森らの報告によると,ノートからの放射線は放射線障害防 止法の定める放射性同位元素の表面密度限度よりも若干少 ないとされている。いずれにしても,α線,β線を放出す

Ra-226

の付着が確認されるため取り扱いには素手で直接

触らないこと,付着物が落ちないようにすること等の注意 が必要である。

今回測定時間を4時間としたが,ノートからの放射線強 度が弱く正確な放射性物質の同定,定量にはさらに長時間 にわたる測定が必要と思われる。

測定にご協力をいただいた,明星大学図書館半澤博太課 長,石井美樹課長,平成 28 年度卒業研究生豊田優樹さん,

藤井優也さん,西出竜馬さん,平成 29 年度卒業研究生山田 涼太さん,西山瞬さん,高島輝樹さんに感謝いたします。

参考文献

(1) 森千鶴夫他:RADIOISOTOPES, 54, 437-448 (2005) (2) 村上悠紀雄他:放射線デーブック(地人書館)

図 1  放射線測定概念図

参照

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