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清代法に於ける放火罪と失火罪の仕組みおよびその 被害の賠償

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清代法に於ける放火罪と失火罪の仕組みおよびその 被害の賠償

著者 森田 成満

雑誌名 星薬科大学一般教育論集

号 19

ページ 1‑28

発行年 2001

URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000213/

(2)

清 代 法に於ける放火罪と失火罪の仕組みおよびその被害の賠償

田 成満

  目 次

序言:⁝⁝⁝⁝・⁝・⁝・⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝二

第一節 放火罪と失火罪の仕組み⁝⁝⁝⁝⁝⁝・・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・・⁝⁝三

 第一款 放火罪の仕組み⁝⁝:⁝⁝:⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝・⁝⁝⁝三

 第二款 失火罪の仕組み⁝⁝・⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝−・⁝⁝⁝⁝二二

第二節 放火や失火による被害の賠償⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝一九

  第︸款放火による被害の賠償⁝⁝・⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・::⁝⁝⁝⁝・⁝・⁝二九

第二款 失火による被害の賠償⁝⁝⁝⁝⁝⁝・・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・::二一

結語⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・・⁝⁝⁝⁝⁝・⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・二四

1

(3)

2

本稿は清律の刑律雑犯故焼人房屋条と失火条が記す放火罪と失火罪の仕組みおよび放火や失火による被害に対する賠償

責任のあり方を解明することを目的とする︒

まず︑内容から見てどのような主体や客体︑行為を軸にしてどのように体系化しているかということと形式から見て律

例が果たしている役割に着眼して︑放火罪と失火罪の成立要件と処罰のなし方を明らかにする︒被害に対する賠償を巡っ

は放火や失火をなしたものと被災者との間に特別の関係があった場合に留意する︒

罰や賠償の仕組みの特徴はそれが官民や親属等の身分秩序と関係していることと人命に関わりがなければ失火をなし

ものに対する処罰は抑制的で賠償も限定的であるところに見られる︒官は責任を追及し社会秩序の維持を計ることに劣

らず将来に向かっての復興を重要視している︒

本稿に関係する先学の業績を検索できない︒それ故︑第一次史料に依拠して論述する︒使用する主な史料は律例と刑案

省例である︒

ω  唐律には放火や失火に関して雑律の中に︑山陵兆域内失火︑庫蔵倉不得燃火︑非時焼田野︑官府倉庫失火︑焼官府私家宅舎︑見火

 起不告救︑水火損敗徴償の各条がある︒︵唐律巻二七︑雑律下︶︒失火の損害が大きいとき賊に坐して論じるとする清律にはない文言

 があるのが特徴である︒

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第一節 放火罪と失火罪の仕組み 第一款放火罪の仕組み

房屋条はその主体や客体︑行為の簾︑ど・まで認識していたかという内心の情況︑拡大した被害等に

よ・て刑罰を決める仕組みに三ている︒

ぞ  律条は自己の房屋や人が現住する官民の房屋︑公癖︵官署︶︑倉庫︑そこに官がたくわえている物を故焼する行為を軸にょ して︑その特別罪を考えたりそれに他の犯罪行為を加えて放火罪を体系化している︒人の住まない房屋や田畑にたくわえる物を故焼する行為は特別罪としている︒自己の房髪故焼してそれが官民の房屋やたくわえている物に延焼したと

き・および・その延焼を機会に窃盗をなしたり︑延焼の結果人を殺傷したときを刑罰を導くための;の犯罪類型として火 とらえている︒それらは具体的な事実に沿う個別的な性格が強い︒

       uと  条例は律を修正︑補充する︒放火条に付されている条例の多くは律条の客体に着眼する特別罪となっている︒また︑未

遂の多くや従犯を独立した犯罪類型としてとらえている︒

   そして︑律例の果たす役割として︑依るべきものとして律例を使うとき︵﹁依﹂︑﹁照﹂︶と比付するものとして律例を使

       ②

 うとき︵﹁比依﹂︑﹁比照﹂︑﹁比付﹂︶がある︒依るべき律例を欠くところは比付するときと処罰しないときがある︒法      31引代  放火故焼人房屋条は次のように記してい劃︒刑罰は斬監候にまで至る︒

3  およそ︑放火して自己の房屋を故焼したものは杖一百︒もし︑官民の房屋︑および︑たくわえている物に延焼したら杖一百︑徒三年︒

それによって財物を盗み取ったら斬監候︒人を殺傷したものは故殺傷として処断する︒

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4  もし︑放火して官民の房屋︑および︑公癖や倉庫︑そこに官がたくわえている物を故焼したら︑首従にかかわらず︑皆斬監候︒放火

したところで捕らえなければならない︒証拠があって︑調べてはっきりしたらただちに処断する︒

 その人の住まない房屋︑および︑田畑にたくわえている物を故焼するものは︑それぞれ一等を減じる︒そして︑焼いた物を計算し減

じて犯人の財産をすべて換算して賠償させ官に還して主に手渡す︒焼け残って現にあるものを除いてそのすでに焼けた物について犯人

家産を銀にして一人の主であれば全部を償い︑多くの主があれば故焼したいくつかの場所を計算して家産を分けていくつかにしてそ

を賠償する︒官と民であっても品質をみて等しく賠償する︒もし家産がなくなってしまえば追及を免除する︒赤貧のものは処罰する

だけに止どめる︒もし︑奴埠︑雇工人が犯したなら凡人として処断する︒

放火罪は身分秩序の中に於ける不特定多数の他人の生命と財産を保護することを目指す︒

火の主体で問題になるのは尊卑の親属間や家長と奴脾︑雇工人の間でなした放火である︒尊長が卑幼の家屋に放火し

たとき親属間の強盗の場合と同じく減刑する︒道光十四年の四川総督の上申に対する刑部の判断を示す次のような事案が ⑤ある︒

 ⁝ただ︑王士学は王登潮の無服の同族の叔祖である︒服制はないけれども尊卑の名分はまだ存在する︒もし︑平人に照らして一律に

処 するとすると漫然として区別がない︒例の中には明文がないとはいっても︑ただ︑親属で強盗をなしたとき尊長が卑幼無服の親

属を犯したとき一等を減刑することができる︒今該犯は空き家を故焼した︒全く財物を奪おうと企んで殺傷した事実はない︒情況は強

盗 をするよりも軽い︒王士学は恨みを抱いて空き地の空き家を故焼した首犯の枷号二か月満流の例から一等を減じて杖一百徒三年枷号

五 日に処する︒

長の家屋に放火したときは︑減刑しない︒親属相盗の際に卑幼が尊長を殺傷したときは凡人として処理す      ⑥るという条例を比付して減刑しない有服の間の事案がある︒また︑親属相盗をなした無服の親の間では一等を減じるとい

う律条を比付して減刑するのはよくないとする無服の尊卑の間の事案がある︒道光五年の次の事案は親属相盗の条項を比      m付して一等を減刑した広東巡撫の定擬を斥けている無服の族弟が放火した尊卑の間の事案である︒

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 ⁝査するに︑恨みを抱いて放火し柴薪を故焼するのは窃盗とは事情が同じではない︒例の中に親属が犯したときに減等する明文がな

らには︑にわかに比付して定擬するべきではない︒謹伯茂は改めて恨みを抱いて田畑にたくわえている物を故焼したら満徒にする

例によって従犯なので一等を減じて杖九十徒二年半とする︒

脾や雇工人のなした放火は凡人に比べて加重して処罰するのが原則になっていったらしい︒律条は奴碑︑雇工人が犯

したならば凡人として処断すると記している︒しかし︑それがいかなる行為をなしたときに誰を凡人として処断する意味

しもは・きりしない︒輯註は婿や雇工人が放火したときに家長を罰する・﹂とはないという璽日にも取れるん︑

埠や雇工人が家長の財産に放火しても凡人として処断し格別の袈はしないという意味にも取る・とができると竃︒

よ 別の註は奴埠が家主の房屋に放火したときは奴脾が家長を罵倒した律に依って絞とするとする例があるけれども放火故焼

      引

 房屋条に沿って凡人として処断するのがよいと記す︒ただ︑乾隆四十四年に裁可されその趣旨が通行されることになった吐  事案は︑そこにいっている例とは定例を作る過程を記した参考資料でしかない比引条例を指すのであって︑奴脾が放火し

たときは・の条例も律条のどちらも適用せず雍正七年の定例により重きに従い立決にするとしている︒重く処罰する・と

失     oθ

と になる︒

 −現在︑奴禦放火した案件はすべて重きに従って例に照・bして問責する︒情状が重い事案は凡人に照・りして立決にしても律と例の

け  どちらにも抵触しない︒今︑その少卿が上奏していう比引律の中の奴脾が放火したら絞に処するという文はこの律と符合しない︒特に︑搬   例ができてからは斬監候のこの律もまた引用しないということを知らない︒ただ︑律は定まりできあがった法であり急に改正するの

 はよくない︒すべての比引の各条もまたもとの古い律条であって︑削除するべきではない︒

客体として律条は官民の房屋︑公解︑倉庫︑官がたくわえている物︑人の住まない房屋︑田畑にたくわえている物︑自

 り       け   己の房産を挙げている︒条例には官の銭糧と草束を辺域の倉庫や田畑に於ける故焼の客体とする規定や空地の間房︑田畑

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6       ⑫

堆積する柴草等を客体とするものがある︒官民の房屋の中の物や公癖にある文案や倉庫の銭糧のような建物の中にある

動産や田畑にたくわえている物については規定するけれども︑建物の外にあるその他の動産に関しては規定していない︒

人が住んでいるかどうかは人命に対する危険の有無に関係する︒自己の物か他人の物かとか官の物か民間人の物かは財

要性の大小や身分に関係する︒それらによって刑罰の軽重が異なる︒不特定の他人の生命や財産を侵害する危険が

高い物や官の物に対しては刑罰が重い︒

  実行行為は出火行為に着眼する︒放火罪にいう放火とは故なく火を着けることを指す︒

火の客体や行為や危険の発生を認識して焼くのが故焼である︒本稿は実行行為に即して放火罪と呼んでいるけれども

内心に着眼して故焼罪とすることもできる︒有意の殺人は計画的な謀殺と時に臨んで殺意を抱いた故殺とに分かれるのに      み         ゐ       ロ

対 して︑故焼は計画的な放火も含む︒恨みを晴らすためとか︵﹁挟讐﹂︑﹁挟嫌﹂︑﹁懐挟私讐﹂︶︑財物を奪おうと企んだ︵﹁図

ゆ      ゆ財﹂︑﹁謀財﹂︶というようなはっきりした目的があることが多い︒

住する官民の房屋に対する放火罪の成立には︑人が現にいる房屋であることの認識が必要である︒住宅であって

も進んで放火の当時に人がいないと認識していたときは人が住まない房屋とされる︒結局︑恩赦によって免罪されている      鵬けれども︑嘉慶年間の広東省の事案に次のような刑部の判断が記されている︒

 ⁝この案︑侯万鵬は趙位に向かって借金を申し込んだがうまくいかずかえって斥けられ︑恨みを抱いて趙位の寮房に放火して焼いた

を傷つけることはなく︑捜査していることを聞いて自首した︒供述を聞くと趙位の建てた寮房は黄竹坑地方にあり付近に隣人はい

ない︒該犯は趙位は妻と共にそこで仕事をしており︑屋内には人がいないことを知って始めて放火して寮を焼いた︒まさに恨みを抱い

間房で孤村畷野の民房に隣り合わせにないものを故焼するという例に符合する︒⁝

客体を焼媛したとき放火罪は既遂となる︒ただ︑完全な財産犯罪ではないことを反映して燃やそうとした物すべてを燃

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し尽くさなくても不特定の他人の生命や財産に危険が及べば焼熾となる︒道光八年の山東司からの説帖は張建彪が恨み       ¢o

ら張付兆の房屋に放火したものである︒条例にいう延焼の字句が隣居まで燃えたときか房屋二間を燃やしたときかにつ

山東巡撫が部の考えを尋ねてきたことを巡る︒

償   ⁝該撫は例が延焼というのは焼けて隣居まで及んだときをいっているのか︑そもそも被害の家が焼かれた房屋二間以上になればただ

 ちに延焼の例に照らして処断するべきであるのか例文ははっきりいってはいないので︑部の指示を待ちたい等々︒⁝恨みを抱いて放火して人の房髪焼いたときは・その心は計る一﹂とができな・し・その毒は特・悪い・もし恨みを抱・て・る家屋が既・燃えて個人的

な恨みを晴りしてしまえば隣人の房屋がまだ延焼して・ないからとい.て曲げて減刑すξ︑とはできな・︒A﹁︑張建彪は恨みを抱いて

そ  放火し張付兆の房屋十余間を延焼した︒延焼の例に依って問責するべきである︒速やかに審理調査して例に沿って処断するべきであ

  る・紘縦 その物を燃やし尽くさなくても房屋二間を焼けば延焼となるという璽方が窺われる︒そして︑Aフ後譲りを避けるた

めに既遂の基準としては延焼ではなくて焼熾という字句を用いることにして道光+年に条例を修正してい魏︒

火が消えたり・消し止められて︵﹁救憶﹂︶・︵﹁撲働﹂︶嬢せずボヤですんだときは減刑する・放火故焼人房屋条に付さ

と れている条例が︑官民の房屋を財物を取ろうとして放火したとき︑恨みを抱いて放火したとき︑孤村墳野内および民房に

接していない控き家や田畑・たわえている物に放火したときの三つの場A口において︑それらが燃︑えなか.己き三い

規定してい勧︒この条例は雍正年間に制定され嘉慶六年︑道光十年の修正を経て長く準拠とされてきたとい加︒前二者

場合は進んでそのときの刑罰を記しそれを独立した構成要件のように見ているのに対して・第三の場合は未遂としてと

代 らえて燃やそうとした物が燃えたいわば既遂から一等を減刑するとする︒例えば︑嘉慶二十五年湖広司現審の次の事案は清       陶

  恨みを抱いて倉庫に放火したけれども火が消えて目的を達成できなかったものである︒

7

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8

  東陵衙門の杏するに︑和舎里氏は花尚阿が補充任用されたために彼のしゅうとの五十五が馬甲から引退することになったことに心に

恨みを抱いて思い立って彼の夫の存幅に向かい相談して花尚阿がその担当のときを待って空に乗じて礼部庫に放火して馬甲から引退した恨みを晴らそうと願った︒ついですぐ空に乗じて放火したけれども︑まだ延焼しないうちに捕らえられた︒和舎里氏は一家が共犯

あるのでその夫を処罰するべきである︒存幅を倉庫を故焼したとき恨みを抱いて放火し消火されれば枷号にし軍に処する例によって

駐防に発して差に当てて︑さらに枷号二か月に処する︒

焼とは燃やそうとした物を越えて燃えてしまうことを意味する︒勿論︑放火との間に自然的な因果関係が存在しなけ      ⑳

ならない︒律条は自分の房屋を焼こうとして官民の房屋やたくわえている物に延焼したときの処罰を記している︒し

し︑現住の官民の房屋や公癖︑官がたくわえた物を燃こうとして人が住まない房屋や田畑にたくわえた物に延焼したと

き︑人が住まない房屋を焼こうとして現住の官民の房屋や公解︑官がたくわえた物に延焼したとき等の規定はない︒

焼は故焼に比べて犯罪性は小さい︒延焼の可能性があることを予見していたかどうかということや延焼した物の価

値︑あるいは︑その広さを総合的に考えて処罰を決めている︒延焼の可能性があることを予見していたときに放火罪の刑

を加重している例として道光二十五年の直隷司の説帖がある︒

  直隷司︒この案は楊塁は窃盗団で恨みを抱き二度放火して韓寿朋等の家の庭のきびがら等の物を焼椴した︒それは韓連城の家の門楼

焼した︒該犯が放火して故焼したのではないといっても︑ただ︑門楼の小屋は穀草と連なっており認識が及ぶものではない

ということはできない︒もし︑わずかに菜園に積み上げた柴草を故焼した例に沿って満流に枷号を加えて処断しては︑まだ情況が法を

る︒酌量して加等して処断するべきである︒⁝

焼の可能性があることを予見していなかったときは放火罪の刑を加等することもあるし加等しないこともある︒焼死

者が出たときには人が死ぬ可能性の存在を予見していなかったとして責任を加重していない例を検索できない︒ところ

が︑人命を失うことがなければ延焼しても加重しないことがある︒

(10)

    年︑刑部は菜園の柴米に放火して広く延焼した情況の重い事案に於いて棍徒擾害の例に照らして重く処罰したい

   とする盛京刑部からの上申を斥けている︒刑を加重せず菜園に積み上げた柴草を故焼したときの条例を適用するとする︒

年にはそれよりもさらに広く延焼した事案について︑延焼の大小が予見できなかったとして同じ条例を適用すると

している︒

林将軍の上申を巡る威豊九年の律例館からの説帖は︑延焼の予見可能性のないときに焼失した広さを考えて刑を加重

している例であ翻︒戴連生が恨みから干鳳沼のきびがらに放火し︑それが干會等の住宅に延焼した事案である︒

 −・該将軍は該犯が恨みを抱いて干鳳沼の菜園の柴草を故焼して怒りを発散させて空一髪焼きさらに干會等の+九戸を延焼した︒該犯

よ  の意識がおよぶところではないけれども︑ただ︑災いは多くの家におよび調べると通常の菜園の柴草を故焼した事案の事情より重い︒戴連生を恨みを抱いて菜園・積んだ柴草等の物を故焼したら枷号二か月杖言流三千里に処する例の上量酌し三等を加えて枷号

 二か月にして付近に送って軍に充てるように処断する等々︒部に上申する︒該司は戴連生は干會等の住宅十九戸を延焼したといっても

結 局該犯の意識がおよぶと・ろではな・︒律例の中・加重の文はな・︒過去・処理した成案はすべて本例・沿・て問責している︒各省

   にはときに加重して軍に処している事案もあるけれども︑本部が議して駁して訂正している︒⁝

衆   を加重するべきであるとする吉林将軍の意見とは異なり清吏司は加重するべきではないとする︒それに対して律例館

は先の道光元年の成案は引用する条項が不適当であるので斥けて・るのであ・て加重するべきではな・とい・ているので

賭  はないし︑失火して官民の房屋百間以上に延焼したときは例に本律の上に枷号を加えて処断するとあることを考慮して該

  将軍の判断を是認している︒

放火したあとかり思い立.て財物を盗取したり人を殺傷したとき︑あるいは︑逆に盗取︑殺傷のあとに放火したときは

行刑法では放火罪と窃盗罪あるいは殺傷罪の併合罪となるのであろう︒名例律は二罪倶発のときは軽い罪を吸収すると

9 する︒そして︑実際そのように処断する例もある︒熱河都統が上申してきた道光十一年の次の事案は︑殴り殺した証

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10        ㎝ 拠 を浬滅しようとして放火したものである︒軽い罪を吸収している︒

 ⁝蒙古の例の中には人命を殴り殺し跡を消そうとして房屋に放火したときの処断のための条項はない︒那素克を刑律に照らして問責

する︒無服の姪女を殴り殺した罪の絞候に止どまるものは議論しないでおく︒放火し官民房屋を故焼した律によって斬監候に処断す

る︒ ただ︑一つながりの犯罪か否かの評価は緩やかであって︑全体として一つの犯罪類型ととらえることが少なくない︒自

房屋に放火し官民の房屋に延焼したのを機会に物を盗むと斬監候に処し︑人を殺傷すると故殺傷罪として処罰する︒

窃盗の後に放火して失火を装おうとした同治三年の山西司からの次の説帖は窃盗と放火の二つを考慮して量刑している︒

 ⁝該犯は人が看守していない刺普済雅の房内の帳房等の物を盗み取り房屋を焼搬した︒律例の中には窃盗をなし失火のように装い人

看守していない房屋を焼いたときの処罰の明文はない︒⁝情をはかって処断する︒巴勒孔爾を官民房屋に放火して故焼したとき首従を分けずに皆斬監候に処する律から一等を減じて杖一百流三千里とし蒙古は情況がやや重いので枷号に変えることは認めず理藩院か

ら場所を決めて実際に送付する︒

ω  放火故焼人房屋条に付されている条例には後に紹介するもののほか︵本稿二七頁︑二八頁︶嘉慶六年に定め道光十年に改正したも

 のと嘉慶十五年続纂のものがある︒﹇大清律例︷﹃大清律例彙輯便覧︵光緒二九年︑成文出版社影印︶を使用︸巻三四︑刑律雑犯︑放

火故焼人房屋条条例一︑二︑三﹈︒

主 権に基づく現代法はすべての準則を成文法から導く︒特に刑法は罪刑法定主義の原則をとるので概念を厳格に規定する︒清   代の民事的な成文の条項は不文の準則を見つける手がかりとして働くことがあるし︑刑事的な条項にも適用するための準則か不文の

準 則を見つける手がかりかがはっきりしないこともある︒﹇拙稿﹁清代に於ける民事法秩序の構造再論﹂︷﹃混沌のなかの所有﹄︵国際   書院︑二〇〇〇年︶所収︸六九頁﹈︒このように成文法の役割に現代法とは異なるところがあるけれども︑準則を適用して演繹的に結   論を導く点は現代法と異ならない︒

 大清律例巻三四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条︒

(12)

ω

  律条は現行犯のみ立件するとする︒官の犯人捜査の能力が限られていたことを反映する制度であろう︒ただ︑現行犯人ではないも

を立件している事案も見受けられるのであって︑︵本稿六頁︶運用の実際はやや異なる︒

 続増刑案確覧巻一四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁川督 杏王士学因挟王登潮不給姻葉⁝道光十四年案﹂︒

  同右書同巻同条﹁東撫杏陳秋因挟小功服叔陳玉振不允借糧之嫌⁝道光九年案﹂︒

m

 同右書同巻同条﹁広東撫杏謂伯茂聴従謹栄錦放火故焼謹慶揚山場積聚柴薪⁝道光五年案﹂︒

 大清律例巻三四︑刑律雑犯︑放火故焼人一房屋条輯註︒︵影印本四七二〇頁︶︒

同右書同巻同条集註︒︵影印本四七=頁︶︒害  oo 刑案薩覧巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁大理寺少卿 奏稻律内放火故稻人房屋条下⁝乾隆四十四年奏准通行﹂︒

例巻三四・刑纂犯・放火故焼人房屋条条例二

同皇.同巻同条条例二︒

よ  03 刑案歴覧巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁川督 題雷開潤挟讐放火焚死余庭英並胡聾聴従商謀並未下手燃火一案⁝道光四年 説帖﹂︒

04 同右書同巻同条﹁直督 杏璽貴厩挟嫌放火故焼陳恒瑞場園延焼住房 案⁝道光四年説帖﹂︒律例巻三四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条条例二︒

  個 同右書同巻同条︒

同右書同巻同条︒

と  08 輿東成案初編巻二一︑擾害詐騙︑五三頁a﹁挟讐放火焼人住居寮房因付近並無隣佑放火之時事主並未在寮駁改故焼空地間房例問

 擬﹂︒

放  ㈹ 燃やそうとした範囲で焼熾を越えて物が焼失したときの失火罪にあるような刑を加重する明文はない︒しかし︑加重する取扱いを なしたことは容易に想像できる︒

巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁山東司査例載挟讐放火延焼未傷人者⁝道光八年説帖﹂︒

⑳  きっかけとなった道光十年の事案がある︒︵同右書同巻同条﹁川督 題傅潮況与兄傅啓況至彰家義家⁝道光十年通行已纂例﹂︶︒

献  た凝騰雛麟癖毅鐘鵠げ羅籠鱒慧曇竃藷農醐蹟羅︒舗竃竃い

ー    て処理しているものは勿論多い︒往々にして︑焼けて仕返しする家の隣の房屋に及んで初めて延焼の例に照らして斬に処断してい      るものがある︒僅かに仕返しする家の房屋が焼爆して消火されたら︑やはり延焼しないとして軍に処断する︒皆例の中の延の文字

(13)

   の意味を誤解することにより判断が二つに分かれる︒例文を勘酌して改正して統一するべきである︒⁝

1  ㎝ 同右書同巻同条﹁東撫 道光十年秋季外結徒犯杜札呼挟嫌故焼王功相場円草棚﹁案⁝道光十﹁年説帖﹂︒火災の予防や消火は官に

  とって重要な職務であった︒湖南省例成案に多くの関連史料が見られる︒

㈱  大清律例巻三四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条条例二︒

   ⑳ 同右書同巻同条︒

案匪覧巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁東撫 杏挟讐放火当被救娘与故焼空地間房為従各犯罪名軽重不同請部核示⁝道光

行已纂例﹂︒

  同右書同巻同条﹁東陵衙門 沓和舎里氏因花尚阿係挑補⁝嘉慶二十五年湖広司現審案﹂︒

閻  本稿三頁︑四頁︒

  輯註は次のように記している︒︷大清律例巻三四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条輯註︵影印本四七二〇頁︶︸︒

  人の住まない房屋を故焼することにより官民の房屋および公癖︑倉庫にたくわえた物を延焼した場合について︑律に文はない︒

  ある人は︑また︑皆斬にするという︒しかし︑延焼は結局故焼とは差異がある︒さきに自分の房を故焼し官民の房屋やたくわえた

  物を延焼したものは︑ただ満徒に処する︒皆斬の重罪にするとどうして当て推量できるであろうか︒

¢勃案匪覧続編巻二八︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁直隷司 此案楊書以窃匪挟嫌両次放火焼徴⁝道光二十五年説帖﹂︒

 刑案確覧巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁直督 杏璽貴廟挟嫌放火故焼陳恒瑞場園延焼住房一案﹂︒

09  刑案睡覧続編巻二八︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁吉林将軍 杏戴連生挟仇放火故焼干濾沼場園林楷延及民房一案⁝威豊九年説

帖﹂︒

続 増刑案瞳覧巻一四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁熱河都統 盗蒙古那素克殴傷無服姪女身死放火焼房希図滅跡一案⁝道光十一 年直隷司案﹂︒

 本稿三頁︑四頁︒唐律とは異なり︑放火罪は坐賊条と競合することはないと思われる︒焼失した物の大きさや価値は賠償額を決め

    る際に考慮される︒

倒  刑案確覧続編巻二八︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁山西司此案蒙古賊犯巴勒札爾聴従已故蒙古車伯克商⁝同治三年説帖﹂︒

第二款 失火罪の仕組み

条は次のように記している︒例えば︑失火により宗廟や宮殿を焼綴したときは絞監候という重い刑罰が科され

(14)

       にる︒ただ︑官民の房屋に対する放火が斬監候であるのに比べ失火のときは答五十であることから窺われるように︑失火を

なしたものに対する刑罰は放火をなしたものに対する刑罰よりもはるかに軽い︒

よそ︑失火して自己の房屋を焼いたものは答四十︑官民の房屋を焼徴したものは答五十︑よって人命を損なったものは親属︑凡人

を分けずに杖一百︒ただ︑人を傷つけたものは致傷の罪に処さない︒その罪は失火をなした人を処罰するに止める︒もし︑宗廟および

殿 を霞したら絞監候とす・︒社は季を減じる︒すべて民間で失火したときをいスもし︑天子の山陵や墓地の中で失火したら焼

害  爆しなくても杖八十︑徒二年とし︑さらに山林や墓地の中の林木を焼鍛したら杖百︑流二千里に処する︒もし︑官府・公癖および倉庫

中で失火したものも︑また︑杖八+︑徒二年︒倉庫を管理している人が・・て財物を侵欺したら臓を計算して監守自盗として処断す

  る︒首従を分けない︒民間人が失火して焼徴したら各三等を減じる︒もし︑管理人がよって財物を侵欺しても減等の中に入らない︒もし︑常人が火によ.て盗み取・たら常人盗として処断する︒倉庫の中で失火したものは杖八+︑徒二年︒倉庫被窃盗庫子はその財産を

お  尽してすべて追徴して賠償させる例に比付する︒もし︑庫蔵および庫廠の中で火を燃やしたものは失火しなくても杖八十︒⁝縦吐 失火罪の体系には官府・公癖︑倉庫の中で官人が失火したときを軸にして民間人が失火した場合を特別罪として構成す

火 る場合のような立体的な仕組みのところもあるけれども︑殆どは客体の違いに着眼して処罰を記す平面的な構造になって

 いる︒また︑失火によって人命を損なったときを独立した一つの犯罪類型としてとらえている︒

現行刑法の重過失失火罪のように失の程度によ・て分けて構成する明文はない︒

鵬   官府・公癖︑倉庫の中で官員が失火をなした︑いわば現代法の業務上の失火に類似するとき︑民間人より重く処罰する︒に  客体については自己の房屋︑官民の房屋︑宗廟︑宮殿︑社︑林木とするときと客体を限定しないで場所を天子の山陵や

墓地︑官府.公癬︑倉庫の中に限定する.﹂とによ.て要件を定めるときがある︒放火罪にある田畑斐くわえている物の      ほ ような建物の外にある動産を律条は記していない︒他方︑放火罪にはない宗廟︑宮殿が記されている︒身分秩序を反映し

13官という身分に関係する客体がある︒

(15)

とは意識することなしに火を出すことである︒失は故に対立する︒成孔志が火を失して四人を死亡させた事件に関4       ー エ      る   する嘉慶十八年の安徽司からの説帖がある︒失火は無意犯であるとしている︒

 ⁝査するに︑成孔志等が人を集めて出かけたのは︑気持ちは棚を壊すことにあり︑決して故意に放火したものではない︒その棚の上

きびがらを切り落としかまどの口のランプに引火して燃えて煙がかまどの煙突に入って窒息死させた︒実際︑該犯等の考えが及ぶところではない︒失火して焼鍛するのと異ならない︒ただ︑該犯等が紛争を起こしごたごたし四人もの多くを窒息死させた︒もし︑僅か

失火焼搬し人命を致傷した律に照らして満杖に処断するとしたら特に情況は法を越える︒⁝

      ⑤ 史料に現れる失火の実例には︑薬を煎じた残り火を捨てたり︑油紙を作るのに燃え易いことに気を使わなかったものが

       アある︒また︑ランプの火を消して寝なかったために火を出した例もある︒

  火が着いてから燃え広がるまでに時の経過があるものを遺火と呼ぶ︒火を着けようとして着けていない点で失火に含ま

       ⑧⑨

れ る︒︷﹁遺火事出無心﹂︵﹁遺火はこと無心から出ている︒﹂︶︸︒

  直接自らの手で起こした火災ではなくてもそれに等しいと評価されるときはそのものの失火として取り扱う︒太平倉の

管理をしていた戸口が十分に見回りをしなかったために人夫の遺火が燃え広がったとする歩軍統領︑倉場侍郎等の上奏を       oo る道光年間の事案がある︒その戸口の失火として処断している︒遺火を見付けたのを放置した訳でもないのに彼の失火

としているのであって︑広い概念として失火行為をとらえている︒

  ⁝この案︑太平倉の戸口の穆観喜は倉にあって当番であった︒この日八旗の兵丁に与える食米を運びだし︑また︑米倉を修理した︒

夫の出入りは多い︒該犯は厳密に調査するべきなのに人夫が米倉に入り座って煙草を吸うのに任せ倉を閉じるとき時間が遅くなった

米 倉を細かく調査せずそそっかしく門を封じ遺火によって延焼した︒取り調べるに︑米が足りないので故焼したというような事

実はない︒全く︑通例の疎忽の比べられるものではない︒直ちに失火の罪で処断し︑穆観喜は倉庫内失火律によって杖八十徒二年にす

るべきである︒母は老い息子は一人だけれども留養を許さない︒⁝その焼椴した米倉や焼けた米もまた倉場侍郎の上奏してきた通り分

(16)

けて賠修賠補させる︒戸工二部に連絡して調べて処断させる︒⁝

    これからは煙草の携帯を禁じ︑その調査を厳しくするとする︒       カ       カ

失 は内心に着眼する︒このことは失を巡って﹁疎忽之答﹂︵うっかりしたとがめ︶とか﹁誤﹂のような内心を描く言葉を

使.てい種︑とから窺われるそれはなすべき注意を怠る・︑とである︒嘉慶二+三年の直隷総督の上申を巡る次のような

案があ劃︒

そ   直督の杏するに︑僧人の昌玉は霊雨寺廟を住持している︒行在所という重要な土地に近接しているのに全く注意して予防しないで勝手・神仏・隻た後・花火・火を着けて花火の紙が風で吹き飛ばされて行在所の回り廊下にある部屋が延焼した︒ただ︑行在所は巡回

お  の駐在しているところであって宮殿とはやや区別がある︒かつ焼けたのは回り廊下にある部屋である︒昌玉を延焼宮闘絞候律に比付し三等を減じて杖舌流三重・処する︒仕      ※

       醐

  このような注意は結果発生の危険を予見し︑予見した危険を回避する措置をとるために要求される︒同治八年の山西司

      θ

らの説帖に次のような記述がある︒火が消えたかどうか確かめなかった点に失火の原因があるとしで︑出火を予見するきであることをなすべき注意の;の要素としている︒

け   ⁝査するに︑この案失の火は装漬作が起こしたものである︒既に成玉等が供述するに日中に煙草に火を着けて吸い︑終わって消した讃   といっても机の上に投げ捨ててしっかり消えたかどうかを確かめないで夜に宮殿の部屋を焼いた︒失火の原因は該匠役等が注意しな

法  かったからである︒律に沿って処罰するべきである︒⁝

    さらに︑予見したら出火を回避する措置をとらなければいけないことがなすべき注意の第二の要素となることは︑直隷5      θw

       ロロ   司が取り扱った嘉慶二十四年の現審の事案に事に先んじて予防しなかったことを失火としていることから窺われる︒

(17)

 直隷司の奏するに︑文穎館が失火して房屋を延焼した一案︒査するに︑厨役の李海元はストーブをぐにゃぐにゃにして板壁を焼いて1  穴を開けた︒該犯は事に先んじて予防できなかった︒ただ︑文穎館は書籍を編纂するところであって宮殿の重要地に比べることはでき

   ない︒ただ︑紫禁城内に在るのは在外の役所と同じではない︒李海元を失火延焼宮闘絞候律に照らして一等を減じて杖一百流三千里に

断 して枷号二か月を加える︒

  留意しなければいけないのは︑出火を予見する可能性や出火を回避する可能性がなかったとする例を検索できないとい

うことである︒その人の行為によって火災が起きたときであって︑彼に出火を予見する可能性や出火を回避する可能性が

ないことは︑実際上︑まずなかったし︑あるいは︑もし︑それらの可能性がないときは恐らく問責せず︑それ故︑立件さ

なかったために史料に出てこないのであろう︒

結果として焼熾まで至るときと失火行為に止どまるときがある︒失火行為に止まるときにも山陵や墓地の中でなしたと       ㈹きについては律条に規定がある︒その他の失火行為はそれに止どまる限り恐らく不可罰であったのであろう︒

  唐律にあるような坐賊条を適用し焼失した物の賊額を計算している事案を検索できない︒失火罪に於いて財産の保護は

的であって︑独立した財産犯罪としてとらえる坐賊条を適用する処理はしないらしい︒しかし︑焼失した広さを考慮

することが全くない訳ではない︒刑の加重の程度は大きくないけれども︑失火条に付されている嘉慶十一年続纂の次の条       ⑱¢o劇例は律条を修正して焼失したところが極めて広いことを考慮する︒

 ⁝失火して官民の房屋を焼失した数が一百間に至れば枷号一か月を加え︑二百間に至れば枷号二か月を加える︒もし︑官府・公癬︑

倉庫の官物および官民の房屋を焼失し三百間以上のものは︑枷号三か月を加えてすべて失火の場所に枷号してさらす︒

  また︑長く刑部で働いた醇允升はこの条例に対する解説の中で唐律の行き方を評価する立場から次のように記してい

る︒

(18)

⁝しかれども唐律には賊を計って重いものは賊に坐して減等︑不減等を分けて論ずるという文がある︒明律は削除して使っていな

    い︒それ故︑いろいろでこぼこができた︒古法は軽々しく改あるべきではないことがわかる︒罪を加えないで枷を加えるのはその無心

出るところを考慮しているのである︒焼けたものを計算しないで房間を計算しているのは画一的に処理する趣旨である︒染店当舗失

   火の↓条を参照するべきである︒そして︑すべて唐律の賊を計って賊に坐して減等︑不減等を分けて処理することの妥当であるに越し   たことはない︒⁝

 註

害  ω 大清律例巻三四︑刑律雑犯︑失火条︒

本 稿三頁︑四頁︒

そ  ③ 同右頁︒ω 董覧巻五三・刑律雑犯・失火条﹁安撫奏藁遺弟赴京呈控成孔志等争轟棚鷺薔命一案嘉慶+八年説帖﹂・

同右書同巻同条﹁福撫 題海澄県監房失火焼整監犯将典史並提牢禁卒人等擬徒一案⁝嘉慶元年説帖﹂︒組  ⑥ 同右書同巻同条﹁内務府 奏  御書処失火一案⁝道光二年陳西司現審案﹂︒吐 m同右高巻同条﹁内務府奏内閣中書飽唐輪応値宿・道光二年広東司現審案﹂︒同右書同巻同条﹁東陵大臣奏膳房失火一案・嘉慶

罪   二十年山東司現審案﹂︒

続増刑黍覧巻西︑刑纂犯︑放火故焼房髪東撫暢二聴従量子起意倫㊧道光+三年案交館核過﹂︒

と  ⑨ 窃盗のような違法行為に伴って犯人がなした遺火が問題になる︒その犯罪性の大きさは事案によって失火罪に近いものから放火罪 ・近・ものまである︒﹃刑案讐﹄は放火罪のと・うに遺火を巡・妻を分類している︒失火罪とする事案と失火を巡る規定を比照す

放   るとき︑さらに放火を巡る規定を比照するときがある︒河南司からの道光二十六年の説帖に次のように記している︒︵刑案睡覧続編巻八︑刑律雑犯︑放火故焼房屋条﹁河南司 此案曹茂修先因聴従胡大所糾殴⁝道光二十六年説帖﹂︶︒於     ⁝該犯は発配の土地から脱走して思い立って李来等を集めて被害者の奨士魁の家に盗みをなし火を揺らして落したために房屋 と糧食を延焼した︒査するに︑該犯の曹茂修の紛争を起し人を集めて盗んだのは財物を取ろうとしたのと違わない︒その遺火して

    を延焼したのは意図して故意に放火するものとは距離がある︒従来︑すべて財物を奪おうと企んで放火して既に延焼したとき清    の首犯は斬監候に処するという例の上から減等して流に処してきた︒ただ・該犯は極辺四千里を越える充軍の犯人であり・その発

7    配地から脱走して窃盗をなした︒例により改めて極辺の煙庫に発するべきである︒重きに従って問責するべきである︒1川総督が上申してきた羅二娃が盗みをなし遺火して張二太等の草房を延焼し機に乗じて銭文を槍奪した事案を巡る道光七年の

(19)

  四川司からの説帖がある︒︵刑案歴覧巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁川督 杏合州賊犯羅二娃行窃遺火延焼張二太等草房乗機

1   槍奪銭文一案⁝道光七年説帖﹂︶︒該省は失火を巡る規定を加重して適用するべきであるとする︒成案には放火を巡る規定から減刑し

るものがある︒この事案は銭物を奪い取った方が取らないときよりも刑罰が軽くなってしまう点や故意に火を着けたかも知れな

として駁して再議させている︒そして︑結局︑川省匪徒在野欄槍数在三人以下犯該徒罪以上の例を比付して極辺に発して軍に充て

る︒︵続増刑案匿覧巻一四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁川督 杏羅二娃因行窃遺火延焼草房復乗機槍奪一案⁝道光八年︶︒

  ⁝該省は例には盗みをなして遺火して被害者の房屋を延焼し機に乗じて財物を奪ったときに処罰する専条はないので︑羅二娃を

  失火して機に乗じて奪ったときは例に照らして一等を加えて杖一百︑流二千里にするという例に比照してさらに勘酌して一等を加

杖一百︑流二千五百里に処断する等々︒私らが成案を検査するに︑道光五年の江蘇省が上申してきた蒋関が盗みを計って財物

  を得なくて遺火して被害者の房屋を延焼した一案︑また︑本年江蘇省が上申した王阿大が盗みを計って被害者の房屋を延焼した一

  案の以上の二案について︑該省はいずれも例に盗みを計ってなし得ず遺火して被害者の房屋を焼き尽くしたときの処罰の明文はな

で︑ただ︑該犯が盗みを計り遺火して被害者の房屋や資材はそのためになくなった︒その被害の状況は実際厳しい︒僅かに窃

本罪を科するのはよくないので︑蒋関︑王阿大をどちらも悪徒が財物を奪おうと企んで放火して既に延焼したときの首犯は斬

  候とする例から一等を減じて杖一百︑流三千里として裁可して案にある︒⁝

00  刑案匪覧巻五三︑刑律雑犯︑失火条﹁歩軍統領 倉場侍郎 奏太平倉廠座失火請将管廠値宿花戸穆観喜等交部審訊各一摺﹂︒広い概

をもつものとして成文法があり︑それと連続して比付がなされることになる︒

00  成案質疑巻三六︑雑犯︑失火条︑六頁a﹁倉廠失火﹂︒

案睡覧巻五三︑刑律雑犯︑失火条﹁山西司 査律載失火延焼致傷人命者杖一百⁝道光十二年説帖﹂︒

03  同右書同巻同条﹁直督 杏僧人昌玉住持霊雨寺廟⁝嘉慶二十三年案﹂︒

04

代 法の過失のとらえ方に類似する︒︷﹃新版 刑法概説1︑総論﹄︵有斐閣双書︑平場安治等編︶一二四頁︑一二五頁︸︒

09 案匿覧続編巻二八︑刑律雑犯︑失火条﹁山西司 准内務府片稻⁝同治八年説帖﹂︒

oo  刑案置覧巻五三︑刑律雑犯︑失火条﹁直隷司 奏文穎館失火延焼房屋一案⁝嘉慶二十四年現審案﹂︒

 失火罪ではないけれども︑失火の概念を見るために︑既に中村茂夫博士が過失殺にならない事案として紹介されている直隷総督の

上 申を巡る嘉慶二十五年の事案が参考になる︒︷同右書巻三二︑刑律人命︑戯殺誤殺過失殺傷人条﹁直督杏 張生成因打牲携帯鳥槍路

屋 労⁝嘉慶二十五年案﹂︒中村茂夫﹃清代刑法研究﹄︵東京大学出版会︑一九七三年︶四二頁︸︒

をくわえた張生成が趙登林に声をかけられ頭を振って応答したところ︑煙草の火が落ちて銃が暴発し趙登林を死亡させた事案

ある︒火が落ちて銃が暴発することは耳目の及ばないところではないし︑思慮の至らないところでもないという意味で予見可能性

(20)

ある︒それなのに注意しなかったことは結果を回避するべき義務に違反する失火であるとする︒

⑱  本稿一三頁︒

09

  大清律例巻三四︑刑律雑犯︑失火条条例二︒

 庫倉︑倉廠で火を燃やす行為のような故なく火を着ける放火とは違うし︑失火でもない行為も公共の危険があるとして処罰の対象

    となる︒

 焼死者がでたときは︑失火との間に因果関係さえあれば死亡についても評価して処罰している︒人命が損なわれたときのように違

 法性が大き・ものは責任の有無・碧ず処罰す・・

 窃盗犯人が遺火したために焼死者がでたときの明文が・か.たために処理が一様で・か.たのを因窃威逼人致死条を比付し︑さら

死 者の数に応じて秋審の際に情実と緩決に分けることに統一しよう述べる刑部の一文がある︒道光初年広西省の上申を巡る事案

 である︒︵なお︑次の条例の編纂のときに・﹂の行き方を成文化する方針が裁可されているけれども︑条例にな.た形跡がない︶︒

よ    そこに次のような個所がある︒︵定例彙編巻七〇︑道光三年﹁嗣後賊犯行窃除有放火図窃賊物延焼整命者⁝﹂︶︒  −塞暑が残酷にも焼け死んだのは失火し延焼したからだとい.ても失火は犯人が窃盗をなし遺火したからである︒罪は由ると

組    ころにあるのであってその死亡の原因を省略することはできない︒⁝ そして︑傷つ・たり死亡した人が麓か凡人かを区別しな・︒その認識がな・からである︒︷大清律例巻三四刑律雑犯︑失火条輯

罪    註︵影印本四七〇七頁︶︸︒

例 存疑巻四四︒

梨撤      第二節 放火や失火による被害の賠償

   第一款放火による被害の賠償

放火や失火による被害の賠償の実際を見るたあには︑律例だけではなく省以下の行政実務の中の準則にも留意する必要

ある︒

QV       ーエ       律放火故焼人房屋条は放火によって発生した損害の全額を自分が属する家の家産で賠償するとする︒処罰が犯罪を犯

(21)

20 した個人に対してなすのを原則とするのとは異なる︒例えば盗みに入って財を得ず放火した道光年間の四川省の事案に於

て︑放火した傅潮況に焼失した物についてその中にあった日用器具のような動産を含めて賠償をさせるとしている︒       閉︷﹁所焼草房什物・在於傅潮況名下追賠﹂︵焼けた草房や動産について︑傅潮況を追及して賠償させる︒︶︸︒

死亡した犯人に賠償させることはない︒︷﹁除開能挙已死勿征外・飴干現犯名下・儘産追賠﹂︵開能挙は既に死亡して      ③

るので徴収しないのは除いて︑ほかは犯人から財産を追及して賠償させる︒︶︸︒

賠償は物の損害に限定される︒所有者が複数のときは分けて賠償する︒家産でまかなえないところは免除する︒       剛

恩 赦によって処罰は免除されても賠償はしなければいけない︒

自首すれば減刑するけれども賠償を免除したり金額を減少することはない︒損害を賠償できるときについてのみ自首を       ⑤る制度の趣旨から考えても当然である︒四川総督の上申を巡る道光六年の次のような説帖がある︒

 ⁝査するに︑犯罪自首について︑物で賠償できないものは律は自首を許さない︒房屋が火で焼鍛したとき︑賠償にたえる物であるけ

ども︑また必ず数通り賠償が完了してのち︑正犯ははじめてその減等を許す︒査するに︑原題内に僅かにいっている︒該犯は実際赤

貧であって胡連頂が代賠を情願しているので胡連頂の名下より追及し賠償させて手渡すと︒そのかつて賠償したかどうか︑まだ事実に

より明晰にいっていないので該省に命じて胡連頂が代賠完緻ののち再び減等して発配する︒

ω  本稿三頁︑四頁︒

②  刑案匪覧巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁四督 題傅潮涜与兄傅啓涜至彰家義家⁝道光十年通行已纂例﹂︒

初編巻二一︑擾害詐騙︑四九頁a﹁当舗工人窃獲銀両事後放火焼薄掩飾以致延焼屋物照謀財放火尚未槍掠例擬斬監候﹂︒

ω  同右書同巻五三頁a﹁挟讐放火焼人住居寮房因付近並無隣佑放火之時事主並未在寮駁改故焼空地間房例問擬﹂︒

 刑案確覧巻五四︑刑律雑犯︑放火故焼人房屋条﹁川督 題胡興玩挟嫌放火延焼傷人聞筆投首一案⁝道光六年説帖﹂︒

参照

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