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「日本語における階層構造の獲得」

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(1)

修士論文

「日本語における階層構造の獲得」

二重大学大学院 人 文社会科学研究科 地域文化論専攻 地 域言語文化論専修

108M213 渡 邊 恵 里香 修士論文

「日本語における階層構造の獲得 」

三重大学大学院 人文社会科学研究科 地域文化論専攻 地域言語文化論専修

108M213

渡達 意里香 修士論文

「日本語における階層構造の獲得 」

三重大学大学院 人文社会科学研究科 地域文化論専攻 地域言語文化論専修

108M213

渡達 意里香

(2)

目次

1.

本研 究の 目的………. . ……. ……. . ……‥‥………

2

2.

言寄獲得 と普遍文法…………. . ‖‥…. . ‥‥………‥‥‥………

3

3.

日英帯 の文の持つ階層性 と普遍文法………‥‥‥………

6

3.1.

英帝 の文の持 つ階層性……. . . . . …‥‥…. . ‥. ‥. ‥‥………

6

3.2.

日本帯 の文の持つ階層性 ………‥‥‥…‥‥‥

8

3.3.

日英静 の文の持つ階層性 と普遍文法…. . ‥‥…‥‥. ‥. . ………

9

4.

幼児 による文の階層性 の獲得 :先行研 究…. . ‥‥………

ll 5.

新 たな実験調査………‥. ………‥‥‥………‥‥‥…………‥‥‥………‥‥‥

13 6.

結論 ………‥. ………‥‥. . ………. . ‖‥…

16 7.

参席文献…………. . ‥‥. . ……‥‥‥. …………. . …. ………

17

8.

実験調査の結果 の詳細…………‥‥‥………

.19 9.

謝辞………‥‥‥‥‥. ‥. …‥‥…. . ‥. …‥. …‥‥…‥‥‥………

20

目次

1.

本研 究の 目的………. . ……. ……. . ……‥‥………

2

2.

言寄獲得 と普遍文法…………. . ‖‥…. . ‥‥………‥‥‥………

3

3.

日英帯 の文の持つ階層性 と普遍文法………‥‥‥………

6

3.1.

英帝 の文の持 つ階層性……. . . . . …‥‥…. . ‥. ‥. ‥‥………

6

3.2.

日本帯 の文の持つ階層性 ………‥‥‥…‥‥‥

8

3.3.

日英静 の文の持つ階層性 と普遍文法…. . ‥‥…‥‥. ‥. . ………

9

4.

幼児 による文の階層性 の獲得 :先行研 究…. . ‥‥………

ll 5.

新 たな実験調査………‥. ………‥‥‥………‥‥‥…………‥‥‥………‥‥‥

13 6.

結論 ………‥. ………‥‥. . ………. . ‖‥…

16 7.

参席文献…………. . ‥‥. . ……‥‥‥. …………. . …. ………

17

8.

実験調査の結果 の詳細…………‥‥‥………

.19 9.

謝辞………‥‥‥‥‥. ‥. …‥‥…. . ‥. …‥. …‥‥…‥‥‥………

20

(3)

1.

本研究の 日的

日本語 においては、

(1)

に例示 され るよ うに、ある種の動詞が 目的語 に 「 こと

」を伴って

現れ ることが許容 されている。この 「 こと

は意味に対 してほ とん ど影響 を与えないため、

「 形式名詞の 『こと

と呼ばれ る。

(1) a.

ケンがエ リを心配 している。

b.

ケンがエ リのことを心配 している。

本研究は、 日本語 を母語 とす る幼児が、形式名詞の 「 こと

の分布 に関 して、大人 と同 質の言語知識 を持つ ことを心理実験 を通 して明 らかにすることを目的 とす る。それにより、

幼児 の持つ構造が大人 と同様 に階層的な構造

(2)

を成 していることを示 し、それに基づき、

幼児の言語獲得には遺伝により生得的に与えられた言語獲得のための仕組みが関与す ると い う生成文法理論の仮説に対 し、 日本語獲得か らの新たな証拠 を提示す ることを 目指す。

(2)

S ( 文) //へ \

NP VP(

動詞句) ( 名詞句) / へ

NP V

( 名詞句) ( 動詞)

1.

本研究の 日的

日本語 においては、

(1)

に例示 され るよ うに、ある種の動詞が 目的語 に 「 こと

」を伴って

現れ ることが許容 されている。この 「 こと

は意味に対 してほ とん ど影響 を与えないため、

「 形式名詞の 『こと

と呼ばれ る。

(1) a.

ケンがエ リを心配 している。

b.

ケンがエ リのことを心配 している。

本研究は、 日本語 を母語 とす る幼児が、形式名詞の 「 こと

の分布 に関 して、大人 と同 質の言語知識 を持つ ことを心理実験 を通 して明 らかにすることを目的 とす る。それにより、

幼児 の持つ構造が大人 と同様 に階層的な構造

(2)

を成 していることを示 し、それに基づき、

幼児の言語獲得には遺伝により生得的に与えられた言語獲得のための仕組みが関与す ると い う生成文法理論の仮説に対 し、 日本語獲得か らの新たな証拠 を提示す ることを 目指す。

(2)

S ( 文) //へ \

NP VP(

動詞句) ( 名詞句) / へ

NP V

( 名詞句) ( 動詞)

(4)

2.

言寄獲得 と普遍文法

幼児は どのよ うに母語 を獲得す るのであろ うか。幼児が何語の言語知識 を母語 として獲 得す るかは、生後一定期間に何語の情報を言語経験 として取 り込むかによって決定 され る のであるか ら、母語獲得 には、周 りの人々が話す ことばを耳に し、それ を情報 として取 り 入れ ることが不可欠であることは疑いない。では、幼児が生後周 りの人々の話す ことばを 耳に し、それ を真似 した り、周 りの大人か ら見て正 しくない言い方 をした際には、訂正を 受けた りして、徐々に大人 と同 じ言語知識 を獲得 してい く、 と考えることはできるだろ う か。

この 「 模倣 と大人による訂正

に基づいた説明では、幼児の発話 に以下のよ うな 「 誤 っ た」表現が一定期間に渡って現れ ることがあるとい う観察 を説明す ることができない。

(3)

ちが うのお うち

(3

0

ヶ月の幼児の発話 :

Murasugi1991)

(3)

の表現は、 日本語 を母語 とする大人が使 う表現ではないため、模倣の結果 と考えること はできない。 また、 このよ うな表現 を幼児が使 って も、周 りの大人は言いたいことを理解 す ることができるため、必ず しも訂正す るとい うことはない。それにもかかわ らず、幼児 は次第に 「 違 うお家」 と発話す るよ うになる。従 って、 このよ うな観察か ら、言語獲得に おいて重要な役割 を果た しているのは、「 模倣 と大人による訂正

ではな く、幼児の脳 にお

さめ られた内的なメカニズム と考えることができる。

この 「 内的なメカニズム

の一つの可能性 として、「 一般化

のような比較的単純な操作 を行 う仕組みを仮定す ることは妥当であろ うかO 「 一般化

とは、 「 似ている点をもとに し て、これまでに経験 したあるものごとか ら、別のものごとを推 し量る

とい う操作であ り、

例 えば、過去 に、黒い雲が近づいてきて、 しば らくす ると雨が降ってきた とい う経験 を し た人が、再び黒い雲が近づいてきた時に 「 も うす ぐ雨が降って くるぞ

と考えるのがその

2.

言寄獲得 と普遍文法

幼児は どのよ うに母語 を獲得す るのであろ うか。幼児が何語の言語知識 を母語 として獲 得す るかは、生後一定期間に何語の情報を言語経験 として取 り込むかによって決定 され る のであるか ら、母語獲得 には、周 りの人々が話す ことばを耳に し、それ を情報 として取 り 入れ ることが不可欠であることは疑いない。では、幼児が生後周 りの人々の話す ことばを 耳に し、それ を真似 した り、周 りの大人か ら見て正 しくない言い方 をした際には、訂正を 受けた りして、徐々に大人 と同 じ言語知識 を獲得 してい く、 と考えることはできるだろ う か。

この 「 模倣 と大人による訂正

に基づいた説明では、幼児の発話 に以下のよ うな 「 誤 っ た」表現が一定期間に渡って現れ ることがあるとい う観察 を説明す ることができない。

(3)

ちが うのお うち

(3

0

ヶ月の幼児の発話 :

Murasugi1991)

(3)

の表現は、 日本語 を母語 とする大人が使 う表現ではないため、模倣の結果 と考えること はできない。 また、 このよ うな表現 を幼児が使 って も、周 りの大人は言いたいことを理解 す ることができるため、必ず しも訂正す るとい うことはない。それにもかかわ らず、幼児 は次第に 「 違 うお家」 と発話す るよ うになる。従 って、 このよ うな観察か ら、言語獲得に おいて重要な役割 を果た しているのは、「 模倣 と大人による訂正

ではな く、幼児の脳 にお

さめ られた内的なメカニズム と考えることができる。

この 「 内的なメカニズム

の一つの可能性 として、「 一般化

のような比較的単純な操作 を行 う仕組みを仮定す ることは妥当であろ うかO 「 一般化

とは、 「 似ている点をもとに し て、これまでに経験 したあるものごとか ら、別のものごとを推 し量る

とい う操作であ り、

例 えば、過去 に、黒い雲が近づいてきて、 しば らくす ると雨が降ってきた とい う経験 を し

た人が、再び黒い雲が近づいてきた時に 「 も うす ぐ雨が降って くるぞ

と考えるのがその

(5)

具体例である。以下にあげるよ うな事実か ら、母語獲得が言語経験 と 「 一般化

との相互 作用によって達成 され るものではない とい うことがわかる。

(4) a.

(5) a.

ケンがエ リを愛 している ( ことはよく知 られている) 0

ケンがェ リのことを愛 している ( ことはよく知 られている) 0 ケンがエ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

ケンがエ リのことが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

(4)

(5)

a

とbの文は、形式名詞の 「こと

を含むか否か とい う点においてのみ異なって お り、それ らの文の持つ基本的な意味は同 じである。 もし言語獲得が、生後外界か ら取 り 込まれ る言語経験に対 して 「 一般化

を適用す ることで達成 されているのであれば、 日本 語 を獲得 している幼児が

(4)

お よび

(5)

の文を言語経験 として取 り込んだ際、

こと』は 目的 格 の 『を』 を伴 う名詞句にも、主格 の 『が 』 を伴 う名詞句にも挿入す ることができる

と い う 「 一般化

を行 う可能性があるはずである. しか しなが ら、

(6)

の文が示す よ うに、こ のよ うな 「 一般化」は、実際に 日本語話者の持つ母語知識 とは合致 しない。

(6)

☆ケンのことがエ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

この観察か ら、大人の持つ言語知識の中には、言語経験 と 「 一般化

の よ うな比較的単純 な操作 との相互作用のみか らは導 くことができない と思われ るような複雑で抽象的な性質 が含 まれていることがわかる。 この性質に加 えて、言語知識は次のよ うな二つの重要な性 質 を持つ。 まず、第‑に、言語知識は、人種であるとか、音楽や数学な どの他の能力な ど

とは無関係 に、( 生まれつ きの重度な神経障害な どを伴わない限 り)どんな人間にも、均一 的に獲得 され る ( 「 言語の種均一性 ) O第二に、言語はヒ トとい う生物種にのみ許 された 固有の性質であ り、他の生物種にはヒ トの言語 を獲得す ることはできない ( 「 言語の種固 具体例である。以下にあげるよ うな事実か ら、母語獲得が言語経験 と 「 一般化

との相互 作用によって達成 され るものではない とい うことがわかる。

(4) a.

(5) a.

ケンがエ リを愛 している ( ことはよく知 られている) 0

ケンがェ リのことを愛 している ( ことはよく知 られている) 0 ケンがエ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

ケンがエ リのことが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

(4)

(5)

a

とbの文は、形式名詞の 「こと

を含むか否か とい う点においてのみ異なって お り、それ らの文の持つ基本的な意味は同 じである。 もし言語獲得が、生後外界か ら取 り 込まれ る言語経験に対 して 「 一般化

を適用す ることで達成 されているのであれば、 日本 語 を獲得 している幼児が

(4)

お よび

(5)

の文を言語経験 として取 り込んだ際、

こと』は 目的 格 の 『を』 を伴 う名詞句にも、主格 の 『が 』 を伴 う名詞句にも挿入す ることができる

と い う 「 一般化

を行 う可能性があるはずである. しか しなが ら、

(6)

の文が示す よ うに、こ のよ うな 「 一般化」は、実際に 日本語話者の持つ母語知識 とは合致 しない。

(6)

☆ケンのことがエ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

この観察か ら、大人の持つ言語知識の中には、言語経験 と 「 一般化

の よ うな比較的単純 な操作 との相互作用のみか らは導 くことができない と思われ るような複雑で抽象的な性質 が含 まれていることがわかる。 この性質に加 えて、言語知識は次のよ うな二つの重要な性 質 を持つ。 まず、第‑に、言語知識は、人種であるとか、音楽や数学な どの他の能力な ど

とは無関係 に、( 生まれつ きの重度な神経障害な どを伴わない限 り)どんな人間にも、均一

的に獲得 され る ( 「 言語の種均一性 ) O第二に、言語はヒ トとい う生物種にのみ許 された

固有の性質であ り、他の生物種にはヒ トの言語 を獲得す ることはできない ( 「 言語の種固

(6)

有性

) 。 これ らの性質 を含む言語知識 の獲得 を説 明す るために、生成文法理論では、以下 の仮説 を採用す る。

(7)

言語獲得 は、人間に遺伝 によ り生得的に与 え られた言語獲得 のための 仕組み(

普遍文法

)と生後外界か ら取 り込まれ る言語経験 との相互 作用 によって達成 され る。

(8)

生成文法の言語獲得モデル

入力 ‑‑> 普遍 文法 ‑ ‑一旨出力 ( 言語経験)

(UG)

( 言語知識)

生得的な 「 普遍文法」 に抽象的かつ複雑 な内容が含 まれていると考 えることによ り、なぜ 獲得 された言語知識 に複雑 で抽象的な性質が含 まれているのかを説 明す ることができる。

また、人間には遺伝情報の一部 として 「 普遍文法

が与 え られてお り、それ ゆえ人間は誰 しもが 「 普遍文法

を持 って生 まれ て くると仮定す ることで、なぜ人 間に生まれつ くと誰 Lも言語 を獲得す ることが可能 なのか、 とい う点 ( つま り 「 言語 の種均一性

) が説 明 さ れ う、 る。 さらに、「 普遍文法

が人 間の遺伝情報のみに含 まれ ていると仮定す ることで、な ぜ人間のみ に言語 を獲得す る能力が備 わっているのか、 とい う点 ( つま り 「 言語 の種固有 性」) が説 明 され ることとなる。

生成文法理論では さらに、 この生得的な 「 普遍文法

は、全ての言語が満たすべ き性質 を規定す ると仮定す る。次節 では、日英語 の比較 を通 して、「 全ての言語 が満たすべ き性質

、 つま り普遍文法に含 まれ ると考 え られ る性質の具体例 を議論す る。

有性

) 。 これ らの性質 を含む言語知識 の獲得 を説 明す るために、生成文法理論では、以下 の仮説 を採用す る。

(7)

言語獲得 は、人間に遺伝 によ り生得的に与 え られた言語獲得 のための 仕組み(

普遍文法

)と生後外界か ら取 り込まれ る言語経験 との相互 作用 によって達成 され る。

(8)

生成文法の言語獲得モデル

入力 ‑‑> 普遍 文法 ‑ ‑一旨出力 ( 言語経験)

(UG)

( 言語知識)

生得的な 「 普遍文法」 に抽象的かつ複雑 な内容が含 まれていると考 えることによ り、なぜ 獲得 された言語知識 に複雑 で抽象的な性質が含 まれているのかを説 明す ることができる。

また、人間には遺伝情報の一部 として 「 普遍文法

が与 え られてお り、それ ゆえ人間は誰 しもが 「 普遍文法

を持 って生 まれ て くると仮定す ることで、なぜ人 間に生まれつ くと誰 Lも言語 を獲得す ることが可能 なのか、 とい う点 ( つま り 「 言語 の種均一性

) が説 明 さ れ う、 る。 さらに、「 普遍文法

が人 間の遺伝情報のみに含 まれ ていると仮定す ることで、な ぜ人間のみ に言語 を獲得す る能力が備 わっているのか、 とい う点 ( つま り 「 言語 の種固有 性」) が説 明 され ることとなる。

生成文法理論では さらに、 この生得的な 「 普遍文法

は、全ての言語が満たすべ き性質

を規定す ると仮定す る。次節 では、日英語 の比較 を通 して、「 全ての言語 が満たすべ き性質

つま り普遍文法に含 まれ ると考 え られ る性質の具体例 を議論す る。

(7)

a. Eri will solve this problem, and Ken will, too.

b. Eri will solve this problem, and Ken will solve this problem.

Eri will solve this proble&, and Ken will @ too.

3.

日英帝の文の持つ階層性 と普遍文法

日本語 ・英語のいずれにおいても、主語である名詞句 と目的語である名詞句は異なった 振 る舞いを示す ことが明 らかになってお り、この異なった振 る舞いは、 どちらの言語 にお いても、他動詞 を含む文が

(9)

に示す ような階層的な構造 を持つためであると考 え られてい る。以下では、 日本語及び英語のそれぞれにおいて、主語 と目的語が異なった振 る舞いを 示す現象 を例示す る。

(9) a.

日本語

S(

文)

NP

( 主語)

ち.

英語 S( 文)

VP(

動詞句)

NP

NP

(目的轟)

3.1.

英帯の文の持つ階層性

( 主語)

( 動詞)

VP(

動詞句)

( 動詞)

NP

(目的語)

英語の文である(

10a)

は、

(lob)

と同 じ意味を持つ.従 って、

(ll)

に示す よ うに、

(10a)

の 文では

(lob)

の文に対 して、動詞 と目的語 を削除す るとい う操作を適用 したもの と考 えるこ

とができる。

(10) a. Eriwillsolvethisproblem

,

andKenwil

l ,

too.

b. Eriw

i

nsolvethisproblem

,

andKenwillsolvethisproblem.

(ll) Eriwil180lvethisProblem

,

andKenwill ,too.

3.

日英帝の文の持つ階層性 と普遍文法

日本語 ・英語のいずれにおいても、主語である名詞句 と目的語である名詞句は異なった 振 る舞いを示す ことが明 らかになってお り、この異なった振 る舞いは、 どちらの言語 にお いても、他動詞 を含む文が

(9)

に示す ような階層的な構造 を持つためであると考 え られてい る。以下では、 日本語及び英語のそれぞれにおいて、主語 と目的語が異なった振 る舞いを 示す現象 を例示す る。

(9) a.

日本語

S(

文)

NP

( 主語)

ち.

英語 S( 文)

VP(

動詞句)

NP

NP

(目的轟)

3.1.

英帯の文の持つ階層性

( 主語)

( 動詞)

VP(

動詞句)

( 動詞)

NP

(目的語)

英語の文である(

10a)

は、

(lob)

と同 じ意味を持つ.従 って、

(ll)

に示す よ うに、

(10a)

の 文では

(lob)

の文に対 して、動詞 と目的語 を削除す るとい う操作を適用 したもの と考 えるこ

とができる。

(10) a. Eriwillsolvethisproblem

,

andKenwil

l ,

too.

b. Eriw

i

nsolvethisproblem

,

andKenwillsolvethisproblem.

(ll) Eriwil180lvethisProblem

,

andKenwill ,too.

(8)

*Eri will solve this problem, and will that probl€ffi, too, Eri will solve this probl€D, and Eri will €ohre that problem, too.

He loves John's mother.

John's mother loves him,

しか しなが ら、

(12)

に示す よ うに、英語 では、主語 と動詞 を削除 した と考 え られ る文は非 文法的である。

(12) a. *Eriwinsolvethisproblem

,

andwillthatproblem

,

too.

Eriwillsolvethisproblem

,

and基点willgek that problem

,

too.

(10a)

の文が可能であるにも関わ らず、

(12a)

の文が不可能であることは、主語 と目的語が 異なった振 る舞いを示す こと、お よび、動詞 と目的語がま とま りを成 していることを示 し てお り、従 ってこの文法性の差は、英語 の文は

(9b)

に示す ような階層構造 を持つ ことに対 す る 1 つの証拠 を成 している。

また、英語 における代名詞の解釈か らも、英語の文が

(9b)

に示す よ うな階層構造 を持つ ことが明 らか となる。

(13) a. HelovesJbhn'Smother. (heJbhn)

b. Jbhn'smotherloveshim. (he‑Jわhn)

(13a)

の文では、主語位置にある代名詞が 目的語に含まれている

John

と同一人物 を指す解 釈が可能でないのに対 し、

(13b)

の文では、目的語位置にある代名詞は主語 に含 まれている

John

と同一人物を指す解釈が可能である。つま り、主語位置にある代名詞 と目的語位置に ある代名詞はその解釈の可能性が異なってお り、その違いは、英語の文が

(9b)

に示す階層 構造を持 ち、これ らの代名詞が異なった構造的位置 を占めることに由来す ると考 えられ る。

しか しなが ら、

(12)

に示す よ うに、英語 では、主語 と動詞 を削除 した と考 え られ る文は非 文法的である。

(12) a. *Eriwinsolvethisproblem

,

andwillthatproblem

,

too.

Eriwillsolvethisproblem

,

and基点willgek that problem

,

too.

(10a)

の文が可能であるにも関わ らず、

(12a)

の文が不可能であることは、主語 と目的語が 異なった振 る舞いを示す こと、お よび、動詞 と目的語がま とま りを成 していることを示 し てお り、従 ってこの文法性の差は、英語 の文は

(9b)

に示す ような階層構造 を持つ ことに対 す る 1 つの証拠 を成 している。

また、英語 における代名詞の解釈か らも、英語の文が

(9b)

に示す よ うな階層構造 を持つ ことが明 らか となる。

(13) a. HelovesJbhn'Smother. (heJbhn)

b. Jbhn'smotherloveshim. (he‑Jわhn)

(13a)

の文では、主語位置にある代名詞が 目的語に含まれている

John

と同一人物 を指す解

釈が可能でないのに対 し、

(13b)

の文では、目的語位置にある代名詞は主語 に含 まれている

John

と同一人物を指す解釈が可能である。つま り、主語位置にある代名詞 と目的語位置に

ある代名詞はその解釈の可能性が異なってお り、その違いは、英語の文が

(9b)

に示す階層

構造を持 ち、これ らの代名詞が異なった構造的位置 を占めることに由来す ると考 えられ る。

(9)

3.2.

日本番の文の持つ階層性

日本語における主語 と目的語の非対称性 を示す現象の

1

つ として、2 節で見た形式名詞

「 こと

」の振 る舞いがあげ られ る。(14)

お よび

(15)

に繰 り返 したよ うに、形式名詞 「 こと

は、 目的格の 「 を

」を伴 う名詞句であっても 「

主格」の 「 が

を伴 う名詞句であって も、

その名詞句が 目的語であれば付与す ることが可能である.一方で、主語である名詞句 に対 して 「 こと

を付与す ることは可能ではない。

(14) a.

(15) a.

ケンがエ リを愛 している ( ことはよく知 られている) 0

ケンがエ リのことを愛 している ( ことはよく知 られている) 0 ケンがエ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

ケンがエ リのことが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

(16) a.

ケンのことがェ リを愛 している ( ことはよく知 られている) 0

b.

ケンのことがェ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

(14)

か ら

(16)

に示 した形式名詞 「 こと

の分布は、日本語 も英語 も同様 に、主語 と目的語が 異なった振 る舞いを示 し、その違 いは 日本語の文が

(9a)

に示す階層構造を持 ち、これ らの 名詞句が異なった構造的位置 を占めることに由来す ると考 えられ る。

日本語 における主語 と目的語の非対称性を示す

2

つ 目の現象 として、格助詞の脱落現象 がある

(TakeZlaWa1987)

.口語表現においては、目的語 に伴って現れ る目的格の格助詞 「 を

は、脱落 させ ることが可能である。それに対 し、主語に伴 って現れ る主格の格助詞 「 が

は、脱落 させ ることができない。

(17) a.

昨 日は誰が どの問題 を解 きま したか。

昨 日は誰が どの問題⊥解 きま したか。

3.2.

日本番の文の持つ階層性

日本語における主語 と目的語の非対称性 を示す現象の

1

つ として、2 節で見た形式名詞

「 こと

」の振 る舞いがあげ られ る。(14)

お よび

(15)

に繰 り返 したよ うに、形式名詞 「 こと

は、 目的格の 「 を

」を伴 う名詞句であっても 「

主格」の 「 が

を伴 う名詞句であって も、

その名詞句が 目的語であれば付与す ることが可能である.一方で、主語である名詞句 に対 して 「 こと

を付与す ることは可能ではない。

(14) a.

(15) a.

ケンがエ リを愛 している ( ことはよく知 られている) 0

ケンがエ リのことを愛 している ( ことはよく知 られている) 0 ケンがエ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

ケンがエ リのことが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

(16) a.

ケンのことがェ リを愛 している ( ことはよく知 られている) 0

b.

ケンのことがェ リが好 きである ( ことはよく知 られている) 0

(14)

か ら

(16)

に示 した形式名詞 「 こと

の分布は、日本語 も英語 も同様 に、主語 と目的語が 異なった振 る舞いを示 し、その違 いは 日本語の文が

(9a)

に示す階層構造を持 ち、これ らの 名詞句が異なった構造的位置 を占めることに由来す ると考 えられ る。

日本語 における主語 と目的語の非対称性を示す

2

つ 目の現象 として、格助詞の脱落現象 がある

(TakeZlaWa1987)

.口語表現においては、目的語 に伴って現れ る目的格の格助詞 「 を

は、脱落 させ ることが可能である。それに対 し、主語に伴 って現れ る主格の格助詞 「 が

は、脱落 させ ることができない。

(17) a.

昨 日は誰が どの問題 を解 きま したか。

昨 日は誰が どの問題⊥解 きま したか。

(10)

C.

昨 日は誰 どの問題 を解 きま したか。

Takez awa( 1987 ) は、この現象 も、日本語の文が ( 9a) に示す階層構造 を持 ち、主語 と目的語 に相 当す る名詞句が異なった構造的位置を占めることに由来す ると主張 している。

日本語 における主語 と目的語の非対称性 を示す

3

つ 目の現象 として、英語においても観 察 された代名詞の解釈 に関す る違いがある ( Sa it o1985) .

( 18) a. 彼が 【 メア リーがジ ョンに送った手紙】をまだ読んでいない ( こと) ( 彼 ≠ジ ョン)

b.

【 ジ ョンか らお金 をもらった人】が彼 を推薦 した ( こと) ( 彼 ‑ジ ョン)

( 18a) の文では、主語位置にある代名詞 「 彼

が 目的語 に含 まれている 「 ジ ョン

と同一人 物 を指す解釈が可能でないのに対 し、 ( 1 8b) の文では、 目的語位置にある代名詞 「 彼

は主 語 に含 まれている 「 ジ ョン」 と同一人物 を指す解釈が可能である。つま り、主語位置 にあ る代名詞 と目的語位置 にある代名詞 はその解釈 の可能性が異なってお り、その違いは、英 語 の文 と同様 に、 日本語の文が ( 9a ) に示す階層構造 を持 ち、 これ らの代名詞が異なった構 迄的位置 を占めることに由来す ると考えられ る。

3.3.

日英帯の文の持つ階層性 と普遍文法

以上見てきたよ うに、英語 においても日本語 においても、主語 と目的語 は異なった振 る 舞いを示 し、それ らは文が ( 9 ) に示す ような階層構造 を持 ち、主語 と目的語が異なった構造 的位置 を占めることに由来す ると考 えられている。類型的に見て大 きく異なる英語 と日本 語のいずれにおいて も文は階層構造 を持つのであるか ら、文の持つ階層性は言語の普遍的

C.

昨 日は誰 どの問題 を解 きま したか。

Takez awa( 1987 ) は、この現象 も、日本語の文が ( 9a) に示す階層構造 を持 ち、主語 と目的語 に相 当す る名詞句が異なった構造的位置を占めることに由来す ると主張 している。

日本語 における主語 と目的語の非対称性 を示す

3

つ 目の現象 として、英語においても観 察 された代名詞の解釈 に関す る違いがある ( Sa it o1985) .

( 18) a. 彼が 【 メア リーがジ ョンに送った手紙】をまだ読んでいない ( こと) ( 彼 ≠ジ ョン)

b.

【 ジ ョンか らお金 をもらった人】が彼 を推薦 した ( こと) ( 彼 ‑ジ ョン)

( 18a) の文では、主語位置にある代名詞 「 彼

が 目的語 に含 まれている 「 ジ ョン

と同一人 物 を指す解釈が可能でないのに対 し、 ( 1 8b) の文では、 目的語位置にある代名詞 「 彼

は主 語 に含 まれている 「 ジ ョン」 と同一人物 を指す解釈が可能である。つま り、主語位置 にあ る代名詞 と目的語位置 にある代名詞 はその解釈 の可能性が異なってお り、その違いは、英 語 の文 と同様 に、 日本語の文が ( 9a ) に示す階層構造 を持 ち、 これ らの代名詞が異なった構 迄的位置 を占めることに由来す ると考えられ る。

3.3.

日英帯の文の持つ階層性 と普遍文法

以上見てきたよ うに、英語 においても日本語 においても、主語 と目的語 は異なった振 る

舞いを示 し、それ らは文が ( 9 ) に示す ような階層構造 を持 ち、主語 と目的語が異なった構造

的位置 を占めることに由来す ると考 えられている。類型的に見て大 きく異なる英語 と日本

語のいずれにおいて も文は階層構造 を持つのであるか ら、文の持つ階層性は言語の普遍的

(11)

性質であ り、つま り人間に生得的に与えられた 「 普遍文法」の性質 を反映 したものと考 え られ る。もしそ うであるな らば、「 文が階層構造 を成す

とい う知識は生得的に与えられて いることにな り、幼児はそれに関 して、生後取 り込む言語経験に基づ く学習を必要 としな い、 とい うことになるはずである。従って、幼児 の文は早い段階か ら階層構造を成 してい るとい う予測が成 り立っ。本研究では、 この予測の妥当性 を確かめる新 たな心理実験 を行

う。その前に、次節では、 この予測の妥当性 を検証 した先行研究を概観す る。

性質であ り、つま り人間に生得的に与えられた 「 普遍文法」の性質 を反映 したものと考 え られ る。もしそ うであるな らば、「 文が階層構造 を成す

とい う知識は生得的に与えられて いることにな り、幼児はそれに関 して、生後取 り込む言語経験に基づ く学習を必要 としな い、 とい うことになるはずである。従って、幼児 の文は早い段階か ら階層構造を成 してい るとい う予測が成 り立っ。本研究では、 この予測の妥当性 を確かめる新 たな心理実験 を行

う。その前に、次節では、 この予測の妥当性 を検証 した先行研究を概観す る。

(12)

4.

幼児 による文の階層性の獲得 :先行研究

Otsu

( 1 994) は、 日本語 を母語 とす る幼児の文が、大人 と同様 に、 ( 9a) のよ うな階層構造 を成 しているか どうかを、幼児 の持つ格助詞脱落に関す る知識 を調査す ることによって検 討 した。

Otsu

( 1 994) の実験の被験者は、 3 歳児 1 0 名 と

4

歳児 10 名 である。この実験における幼 児の作業は、指示に従 って文を発話す ることである。具体的には、母親がスイカを食べて いるような絵 を見せ、その絵 に関す る理解 をまず ( 1 9) の文を尋ねることによって確かめる。

その後で、

(20)

のよ うな指示 を与え、発話を促す。

( 19) a. これはだあれ ?

.

これはなあに ?

(20)

この絵 についてお話 して くれ る?まず Ⅹで始めてね ? ( Ⅹ :お母 さん、スイカ)

幼児か ら得 られ る答 えの可能性 をまとめたものが

(21)

である。

(21) a.

お母 さんがスイカを食べている。

b.

お母 さんがスイカ 食べている。

C.

お母 さんが 食べている。

a.

☆ お母 さん 食べている。

e.

お母 さん スイカを食べている。

£ ☆ お母 さん スイカ 食べている。

幼児か ら得 られた結果は表 1 の通 りであった。

4.

幼児 による文の階層性の獲得 :先行研究

Otsu

( 1 994) は、 日本語 を母語 とす る幼児の文が、大人 と同様 に、 ( 9a) のよ うな階層構造 を成 しているか どうかを、幼児 の持つ格助詞脱落に関す る知識 を調査す ることによって検 討 した。

Otsu

( 1 994) の実験の被験者は、 3 歳児 1 0 名 と

4

歳児 10 名 である。この実験における幼 児の作業は、指示に従 って文を発話す ることである。具体的には、母親がスイカを食べて いるような絵 を見せ、その絵 に関す る理解 をまず ( 1 9) の文を尋ねることによって確かめる。

その後で、

(20)

のよ うな指示 を与え、発話を促す。

( 19) a. これはだあれ ?

.

これはなあに ?

(20)

この絵 についてお話 して くれ る?まず Ⅹで始めてね ? ( Ⅹ :お母 さん、スイカ)

幼児か ら得 られ る答 えの可能性 をまとめたものが

(21)

である。

(21) a.

お母 さんがスイカを食べている。

b.

お母 さんがスイカ 食べている。

C.

お母 さんが 食べている。

a.

☆ お母 さん 食べている。

e.

お母 さん スイカを食べている。

£ ☆ お母 さん スイカ 食べている。

幼児か ら得 られた結果は表 1 の通 りであった。

(13)

表 1:幼児 か ら得 られ た発話 の割合

(21)

a

b

C

a

e

表 1に示 され る通 り、 日本語 を母語 とす る幼児 は、大人 と同様 に、 目的格 の格助詞 の脱落 は示す が主格 の格助詞 の脱落は示 さなかった。 この結果 に基づ き、

Otsu(1994)

は、 日本語 を母語 とす る

3

4

歳児 の文が階層構造 を成 してい る と主張 した。

しか し、

OtSu(1994)

の実験 では、幼児 が主語 と目的語 を区別 し、 目的語 か らの格助詞脱 落が可能 であ る と判 断 してい るのか、それ とも 「目的格 の 『を』 を脱落 させ ることはでき るが主格 の 『が 』 を脱落 させ ることはで きない

とい う知識 を用 いてい るのかが区別 でき ない。格助詞 の違 いではな く、主語 ・目的語 といった階層性 に基づ く区別 をす でに獲得 し てい るこ とを示 す ためには、

(22)

の よ うに、主語 も 目的語 も同 じ格助詞 を伴 ってい る文 を 用 い る必要が ある。

(22)

ケ ンがエ リが好 きである (ことは よく知 られ ている)0

次節 では、この よ うな文 と形式名詞 「こと

を用 いた新たな実験調査 について報告す る。

表 1:幼児 か ら得 られ た発話 の割合

(21)

a

b

C

a

e

表 1に示 され る通 り、 日本語 を母語 とす る幼児 は、大人 と同様 に、 目的格 の格助詞 の脱落 は示す が主格 の格助詞 の脱落は示 さなかった。 この結果 に基づ き、

Otsu(1994)

は、 日本語 を母語 とす る

3

4

歳児 の文が階層構造 を成 してい る と主張 した。

しか し、

OtSu(1994)

の実験 では、幼児 が主語 と目的語 を区別 し、 目的語 か らの格助詞脱 落が可能 であ る と判 断 してい るのか、それ とも 「目的格 の 『を』 を脱落 させ ることはでき るが主格 の 『が 』 を脱落 させ ることはで きない

とい う知識 を用 いてい るのかが区別 でき ない。格助詞 の違 いではな く、主語 ・目的語 といった階層性 に基づ く区別 をす でに獲得 し てい るこ とを示 す ためには、

(22)

の よ うに、主語 も 目的語 も同 じ格助詞 を伴 ってい る文 を 用 い る必要が ある。

(22)

ケ ンがエ リが好 きである (ことは よく知 られ ている)0

次節 では、この よ うな文 と形式名詞 「こと

を用 いた新たな実験調査 について報告す る。

(14)

5.

新たな実験調査

日本語 を母語 とす る幼児 の文が、大人 と同様 に、

(9a)

のよ うな階層構造 を成 しているか ど うかを調べ るために、以下のよ うな文を用いた新たな実験調査 を行 った。

(23) a.

ペ ンギンさんが一番大好 きなのは誰だ ?

b.

ペ ンギンさんのことが一番大好 きなのは誰だ ?

日本語 を母語 とす る大人は、

(23a)

に対 しては

2

通 りの解釈 を許容 し、一方で

(23b)

に対 し ては 1通 りの解釈 のみ許容す る。「 大好 きだ

とい う述語は主語 に対 して も目的語に対 して も主格の 「 が

を付与す るため、

(23a)

においては 「 ペ ンギンさんが

が主語 としても目的 語 として も解釈可能である。一方で、

3

節で見たよ うに、形式名詞 「こと

は 目的語にの み付与 され うるため、

(23b

) においては主格名詞句 「 ペ ンギンさんの ことが

は 目的語 とし て しか解釈可能ではない。

(23b)

を与 えられた際、幼児が 「 ペ ンギンさんの ことが

を目的 語 としか解釈 しない とい うことが明 らかになれば、幼児の言語知識 の中に、形式名詞 「 こ と

が 目的語 のみに しか付与 され得 ない とい う知識があることがわか り、従って幼児 の文 は主語 と目的語 を構造的に区別できるよ うな階層構造を成 していることが明 らか となる。

本実験調査の被験者は、 日本語 を母語 とす る

4

2

カ月か ら

6

8

カ月までの

18

名 の 幼児 であ り、平均年齢は

5

1

カ月である。実験調査は、被験者

1

名ずつに対 して行われ た。

調査方法は、以下の通 りである。

まず、被験者 のそばに

2

名 の実験者 が座 る。

1

人の実験者 は被験者 に写真 を見せなが ら、

その写真 について

(24)

にある鋭明を聞かせ、 も う

1

人の実験者は ウシの人形を換 るO説明 の後 に、 ウシは

(25)

にある文のいずれかを発話す る。被験者 の作業は、 この ウシが発話 し た

(25)

に答 えることである。

5.

新たな実験調査

日本語 を母語 とす る幼児 の文が、大人 と同様 に、

(9a)

のよ うな階層構造 を成 しているか ど うかを調べ るために、以下のよ うな文を用いた新たな実験調査 を行 った。

(23) a.

ペ ンギンさんが一番大好 きなのは誰だ ?

b.

ペ ンギンさんのことが一番大好 きなのは誰だ ?

日本語 を母語 とす る大人は、

(23a)

に対 しては

2

通 りの解釈 を許容 し、一方で

(23b)

に対 し ては 1通 りの解釈 のみ許容す る。「 大好 きだ

とい う述語は主語 に対 して も目的語に対 して も主格の 「 が

を付与す るため、

(23a)

においては 「 ペ ンギンさんが

が主語 としても目的 語 として も解釈可能である。一方で、

3

節で見たよ うに、形式名詞 「こと

は 目的語にの み付与 され うるため、

(23b

) においては主格名詞句 「 ペ ンギンさんの ことが

は 目的語 とし て しか解釈可能ではない。

(23b)

を与 えられた際、幼児が 「 ペ ンギンさんの ことが

を目的 語 としか解釈 しない とい うことが明 らかになれば、幼児の言語知識 の中に、形式名詞 「 こ と

が 目的語 のみに しか付与 され得 ない とい う知識があることがわか り、従って幼児 の文 は主語 と目的語 を構造的に区別できるよ うな階層構造を成 していることが明 らか となる。

本実験調査の被験者は、 日本語 を母語 とす る

4

2

カ月か ら

6

8

カ月までの

18

名 の 幼児 であ り、平均年齢は

5

1

カ月である。実験調査は、被験者

1

名ずつに対 して行われ た。

調査方法は、以下の通 りである。

まず、被験者 のそばに

2

名 の実験者 が座 る。

1

人の実験者 は被験者 に写真 を見せなが ら、

その写真 について

(24)

にある鋭明を聞かせ、 も う

1

人の実験者は ウシの人形を換 るO説明

の後 に、 ウシは

(25)

にある文のいずれかを発話す る。被験者 の作業は、 この ウシが発話 し

(25)

に答 えることである。

(15)

(20

(25)

テ ス ト文 と して、

文 を 2文 用意 した。

(20

(2つ

カエル さん とペ ンギンさん とカ ッパちゃんがお風 呂場で水遊び してるよ。3 人は とつても仲良 しのお友達なんだけど、カエル さんはペ ンギンさんが一 番大好 きで、ペ ンギンさんはカ ッパちゃんが一番大好きなんだって。

ペ ンギンさんが一番大好きなのは誰だ ?

ペ ンギンさんのことが一番大好きなのは誰だ ?

(20お よび(2つにあるよ うに、「 が」を含む文を 2文 、「ことが」を含む

お さるさんが一番大好 きなのは誰だ ? ヒヨコちゃんが一番大好 きなのは誰だ ?

ペ ンギンさんのことが一番大好きなのは誰だ ? クマ さんのことが一番大好 きなのは誰だ ?

実験結果は表 2の 通 りであった。

(16)

表 2:新 たな実験調査の結果

「×が 」

「×のことがJ

主語 としての解釈

83.3% (30/86) 11.1%(4/36)

目的語 としての解釈

16。7%(6/36) 88。9%(32/36)

(20の文を与えられた際には、幼児は文の最初にある 「 が」 を伴 った名詞句を主語 とし て解釈す る強い傾向が見 られた。それにもかかわ らず、形式洛 詞 「こと」を伴つた(27)の 文 を与えられた際には、「こと」を伴つた主格名詞句を目的語 として解釈する強い傾向が見

られた。 この差は、幼児が主語 と目的語 を区別 し、形式名詞 「ことJが 目的語にしか付与 され得ないとい う知識 を持つていることを示 していると解釈できる。従つて、本実験調査 の結果は、 日本語 を母語 とす る幼児の言語知識の中に、(9めに示す ような階層構造が既に 存在 し、それに基づき幼児が 「こと」の分布 を決定 していることを示す ものである。

2:

新たな実験調査の結果

×

×

のことが」

主語 としての解釈

83.3% (30/36) ll.1%

(

4/36)

( 26 ) の文 を与え られた際には、幼児は文の最初にある 「 が

を伴 った名詞句 を主語 とし て解釈す る強い傾 向が見 られた。それ にもかかわ らず、形式名詞 「こと

を伴 った(

27)

の 文 を与えられた際には、「こと

を伴った主格名詞句 を 目的語 として解釈す る強い傾 向が見 られた。 この差は、幼児が主語 と目的語 を区別 し、形式名詞 「 こと

が 目的語 に しか付与 され得ない とい う知識 を持っていることを示 していると解釈できる。従 って、本実験調査 の結果は、 日本語 を母語 とす る幼児の言語知識 の中に、

(9a)

に示す よ うな階層構造が既 に 存在 し、それに基づ き幼児が 「こと

の分布 を決定 していることを示す ものである。

2:

新たな実験調査の結果

×

×

のことが」

主語 としての解釈

83.3% (30/36) ll.1%

(

4/36)

( 26 ) の文 を与え られた際には、幼児は文の最初にある 「 が

を伴 った名詞句 を主語 とし

て解釈す る強い傾 向が見 られた。それ にもかかわ らず、形式名詞 「こと

を伴 った(

27)

文 を与えられた際には、「こと

を伴った主格名詞句 を 目的語 として解釈す る強い傾 向が見

られた。 この差は、幼児が主語 と目的語 を区別 し、形式名詞 「 こと

が 目的語 に しか付与

され得ない とい う知識 を持っていることを示 していると解釈できる。従 って、本実験調査

の結果は、 日本語 を母語 とす る幼児の言語知識 の中に、

(9a)

に示す よ うな階層構造が既 に

存在 し、それに基づ き幼児が 「こと

の分布 を決定 していることを示す ものである。

(17)

6.

結論

生成文法理論は、言語獲得は、周 りの大人か ら与えられ る言語経験 と遺伝 により生得的 に与えられた言語獲得 のための仕組みである 「 普遍文法

との相互作用によって達成 され ると仮定す る。そ して、その 「 普遍文法

の中には、全ての言語が満たすべ き性質が規定 されていると主張す る。 もし、言語獲得に生得的な 「 普遍文法」が関与 しているのであれ ば、子 どもはその仕組みを反映 した性質について学習を必要 としないことにな り、その性 質を反映 している部分 を早い段階で獲得 しているはずである。本研究では、全ての言語に 普遍的に存在す ると考 えられ る 「 文の持つ階層構造」を取 り上げ、幼児の持つ構造が階層 性 を成 していることを示す新たな証拠 を、実験調査を行 うことで提示 した。

実験調査では、 日本語 を母語 とす る 4‑6 歳児が、形式名詞 「 こと」が 目的語に しか付与 できない とい う知識 を既に獲得 しているか どうかを調べた。調査の結果、幼児は 「 こと」

が付与 されている名詞句を

88.9%

の割合で 目的語 として解釈す るとい うことが明 らか とな った。 この結果は、幼児が主語 と目的語 を区別 し、形式名詞 「 こと

が 目的語 に しか付与 され得ない とい う知識 を持っていることを示 した ものであ り、それはつま り、幼児の文の 持つ構造が階層性 を成 していることを示 したものである。従って、本研究の実験結果は、

言語獲得には遺伝 によ り生得的に与えられた 「 普遍文法

が関与 しているとい う生成文法 理論の仮説 に対 し、 日本語獲得か らの新たな証拠 を提示 したものである。

6.

結論

生成文法理論は、言語獲得は、周 りの大人か ら与えられ る言語経験 と遺伝 により生得的 に与えられた言語獲得 のための仕組みである 「 普遍文法

との相互作用によって達成 され ると仮定す る。そ して、その 「 普遍文法

の中には、全ての言語が満たすべ き性質が規定 されていると主張す る。 もし、言語獲得に生得的な 「 普遍文法」が関与 しているのであれ ば、子 どもはその仕組みを反映 した性質について学習を必要 としないことにな り、その性 質を反映 している部分 を早い段階で獲得 しているはずである。本研究では、全ての言語に 普遍的に存在す ると考 えられ る 「 文の持つ階層構造」を取 り上げ、幼児の持つ構造が階層 性 を成 していることを示す新たな証拠 を、実験調査を行 うことで提示 した。

実験調査では、 日本語 を母語 とす る 4‑6 歳児が、形式名詞 「 こと」が 目的語に しか付与 できない とい う知識 を既に獲得 しているか どうかを調べた。調査の結果、幼児は 「 こと」

が付与 されている名詞句を

88.9%

の割合で 目的語 として解釈す るとい うことが明 らか とな った。 この結果は、幼児が主語 と目的語 を区別 し、形式名詞 「 こと

が 目的語 に しか付与 され得ない とい う知識 を持っていることを示 した ものであ り、それはつま り、幼児の文の 持つ構造が階層性 を成 していることを示 したものである。従って、本研究の実験結果は、

言語獲得には遺伝 によ り生得的に与えられた 「 普遍文法

が関与 しているとい う生成文法

理論の仮説 に対 し、 日本語獲得か らの新たな証拠 を提示 したものである。

表 1:幼児 か ら得 られ た発話 の割合 ( 21 ) a b C a e ∫ 表 1に示 され る通 り、 日本語 を母語 とす る幼児 は、大人 と同様 に、 目的格 の格助詞 の脱落 は示す が主格 の格助詞 の脱落は示 さなかった。 この結果 に基づ き、 Ot s u ( 1 994 ) は、 日本語 を母語 とす る 3 ・ 4 歳児 の文が階層構造 を成 してい る と主張 した。 しか し、 Ot S u ( 1 994 ) の実験 では、幼児 が主語 と目的語 を区別 し、 目的語 か
表 2:新 たな実験調査の結果 「×が 」 「×のことがJ 主語 としての解釈 83.3% (30/86) 11.1%(4/36) 目的語 としての解釈 16。7%(6/36) 88。9%(32/36) (20の文を与えられた際には、幼児は文の最初にある 「 が」 を伴 った名詞句を主語 とし て解釈す る強い傾向が見 られた。それにもかかわ らず、形式洛 詞 「こと」を伴つた(27)の 文 を与えられた際には、「こと」を伴つた主格名詞句を目的語 として解釈する強い傾向が見 られた。 この差は、幼児が主語

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