著者 三富 紀敬
雑誌名 静岡大学経済研究
巻 1
号 2
ページ 33‑65
発行年 1996‑10‑31
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00000637
イギ リスの少数民族と社会サービス
論 説
イギ リスの少数民族 と社会サービス
三 富 紀 敬
は じめに
人 口の民族別構成についての最初のまとまった調査は、人口統計調査局『91年国勢調査(1句 で ある。 この調査結果は、イギ リスに住む主な民族グループの社会的・経済的な特性についての最 初で包括的な絵 図を提供 して いる。イギ リスの人 口は、 これによるとおよそ5,490万人である。
少数民族 に属する人口は、 この うちの300万 人をわずかに上まわる数である。比率にして5。5%を 占める。地域別 には、イ ングラン ドに集 中する傾向にある。ウェールズとスコッ トラン ドには少 ない。イ ングラン ドの中で ももっとも人 口の集中する地域に主に住居する。少数民族の44.8%は、 ロン ドンで生活す る。 ロン ドンに住む自人はといえばlo.3%で ある。ロン ドンに次いで多いのは、
ウェス ト・ヨークシャー州 と大マ ンチェスター州である。性別には、自人とちがって男性が多い。
女性1,ooo人当 りの男性の数によって示す と、自人 935人 に対 して少数民族1,ool人である。少数 民族 における男性の多 さをうかが うことができる。 これは、国際的な労働力移動の歴史を映 し出 している。すなわち多 くの移民の場合に、男性がまずイギ リスに移 り住み、その後に妻や家族が 呼び寄せ られるという過程をた どっている。
人 口の高齢化 は、イギ リスはもとよ り欧米諸国の共通に経験する事態である。平均寿命の延長 と出生率の低下 とが相まって、人 口の高齢化をもた らしている。 しか し、イギ リスの少数民族は、
やや事情 を異にす る。出生率は、近年低下 しているとはいえ白人のそれよ りかな り高い。新イギ リス連邦 (New Commm、祀飢th)に生まれた人々の死亡率は、上昇する傾向にあるとはいえ、自 人のそれよ りも低 い。加えて、少数民族の最近のイギ リスヘの入国を考えると、年齢構成は、自 人とかな りことなって若年者 と児童に傾斜する。65歳以上の高齢者は、自人について 16.8%を 占 めるのに対 して少数民族3.22%である。
人種関係に関する76年法は、就業をは じめ訓練、教育、施設、サー ビス及び家屋の管理 と処分 における人種上の差別的な取扱 いを不法であると定めている121。 人種を事 由にする差別的な扱 い が少な くないことを公式 に認め、行政的な取組みの拠所を法的に示 した、ということができる。
しか し、法的な対応が どれだけの実際上の成果 に結びついたか といえば、社会サー ビスの分野に 関する限 りはなはだ心 もとない。政策 当局は、300万人を越す少数民族の人々に対 して十分な社 会サ=ビスを残念なが ら提供 して こなかった、 といわなければな らない。 こうした反省や批判は、
筆者の知るかぎ りで も70年代後半に入って広 く行われている。た とえば、社会サー ビス局長協会
(ADSS)と人種平等委員会 (CRE)の合 同作業部会は、『多民族社会イギ リスー社会サー ビスの 対応―』(CRE,1978)の中で、多民族社会への社会サー ビス部門の対応が「これ といつた計画を もたず にごく断片的に行なわれているにす ぎない131」 と評 している。イギ リスソーシャル・ ワー カー協会 (BASWDも『多文化社会のソーシャル・ ワーカー指針』(82年)を公刊 して、その中で社 会サー ビス部門の 「有色人種 を無視 したや り方」(colour̲blind approach)について批判 を寄せて いる(0。
イギ リスの政策 当局は、なぜ このよ うな評価 を受けてきたのであろうか。およそ2つの ことが 指摘できよう。
まず、 この国の社会サー ビスは、黒人や少数民族グループのニーズをしばしば無視 して設計さ れ提供されてきた。「サー ビスは、民族のいかんにかかわ りな くすべての人々に開かれている」と いわれる。 しか し、社会サー ビスが 自人を基準に設計されるかぎ り、少数民族の実に多様な根強 い生活習慣は、無視ないし軽視 される。少数民族 に属する人々は、利用を自ら思 いとどまるであ ろう。英語 を第一言語 には しない、あるいは英語 を少 しも話せない人々にとっては、社会サー ビ スの存在 さえ知 りえない。
さらに、サー ビスの担 い手の人種差別主義的な態度 も、根強 い。専門職員の判断や価値観 は、 社会サー ビスに影響 を及ぼす。黒人を「リスクの大きいクライエ ン ト」「非協調的な要介護者」と
して特徴づける自治体は、めず らしくない。少数民族 に属する人々を「必要もないのに医師にか かる」「ささいな ことで不平を言 う」「手間のかかる患者」 と類型化することも、あ りふれたや り 方である。
社会サー ビスの利用は、少数民族 に属す る人々につ いておのず と少ない。サー ビス について ニーズを持たないわけではない
0。
黒人や少数民族 に属す る人々の特性がサー ビスの設計 に当っ て考慮されず、サー ビスの担い手にも人種差別主義的な態度の残っているもとで、ニーズは充足 されないのである。ニーズは、 こうした下でニーズとして現われ にくい。イギリスの少数民族と社会サービス
本稿は、イギ リスにおける社会サー ビスの現状 を少数民族 とのかかわ りで検証することを目的 にする。
検証の主な項 目は、あ らか じめ示 してお くと次の通 りである。 ① 社会サー ビスにおける機会 均等政策の原則 と内容及び立案の時期。 ② 社会サー ビスにおける機会均等 を担保す る組織の整 備状況。 ③ 少数民族 に関する各種情報の整備 と調査の状況.④ 社会サー ビスの内容 と案内の 状況及びそ こでのボ ランティア団体 の位置 と財政支援の状況。 ③ 社会サー ビスを担 う労働力の 民族別構成 と自人を含む教育訓練の状況。
検証の素材は、保健省社会サー ビス監督官 (DHo SSI)の監察報告書 をは じめ人種平等委員会
(CRE)の調査報告書、エイジ・ コンサー ン老年学研究所 (Age Concern,IG)の 調査報告書及び ナショナルソーシャル ワーク研究所 (NISS)の調査報告書、 これ らである00。
: 保健省社会サービス監督官『監察報告』(調査時期86年4月)
この『監察報告』は、イギ リスの北西部 (North West)にある 17の 地方 自治区 (District)の 社会サー ビス部について調べた ものである。17の地方 自治区には、マ ンチェスター(Marlchester) やボル トン
(BOlton)、
ロッチディール (Rochdale)、 オールダム (01dhaIIIl)な どの都市が含 まれ る。少数民族に属する人々の数 と比重は、 ロン ドンに次いで多 く高い0。
人種関係 もしくは少数民族へのサー ビスに関す る政策の採択状況は、地方 自治区によって区々 である。進捗の状況 によって5つに類型化 される。第 1に 、議会で政策 を採択 したものの、もっ ば ら雇用 にかかわ る政策 を内容 にす る場合 (類型
A)、
第2に、同 じく議会で採択 されるととも にゝ雇用 にとどまらずサー ビスをも含めて政策化する場合 (類型B)、
第 3に 、社会サー ビス部 と して取 り決め、部全体 にかかわる内容で政策化する場合 (類型C)、
第 4に 、同 じく部内で決める ものの、特定のクライエン トもしくは地域 にかかわる内容の政策化(類型D)、
最後に、いかなる 採択や取 り決めもない状況 (類型E)、
これ らである。17中8の地方 自治区は、類型Aである。同 じく4地方 自治区は、類型Bである。両者をあわせ て12地方 自治区は、人種についてのなん らかの政策 をもっている。 しか し、雇用 とサ早 ビスの双 方を含む政策は、前述のように4地方 自治区のみである。 ともあれ 12地 方 自治区は、監察 に先立 つ2年以内に政策 を文書化 している。84‑85年にかけての ことである。監察の行なわれた当時に すれば、 ごく最近の ことである。残 りの5地方 自治区は、類型Eである。
地方 自治区に変化のきざしを見 ることができる。類型
A、
すなわち雇用についての政策 をもつ表1 人種関係・ 少数民族へのサービスの所轄組織
1.地 方 自治区全体 にかかわる
(1)地方 自治区人種関係小委員会あるいは同じく機会均等委員会 (2)諮問委員会
(議
員、少数民族組織の代表を含む)(3)職員連絡会議 (4)小計
2.社会サー ビス部の部内限 り
(1)職員 ワーキンググループ、政策グループ等 (2)職員問題検討グループ
(3)諮問委員会 (4)特定問題検討会 (5)小計
地 方 自 治 区 の 数
4
2 2 7(1)
4 3
1 1 6(1)
(資
料)R.D.Hughes,op.cit.,p.14.(注)(1)いずれ も多種回答である。 このため、小計は1(1)一(3)及 び2(1)一(4)の 累計 と一致 しな
い 。
地方 自治区のうち半分 に当る4地方 自治区は、雇用 に加えてサー ビスをも政策 に組み入れる方向 で再検討に入つている。類型
D、
すなわちいかなる採択や取 り決め もない地方 自治区の うち1地 方 自治区は、少数民族 グループか らの圧力に押 されて態度の見直 しに入 つている最 中である。い ずれ も積極的な方向への変化である。人種関係の問題や少数民族へのサー ビスを扱 う部局の整備状況は、表 1の 通 りである。7地方 自治区は、表 に示 されるよ うに自治区の レベル における委員会な どの組織 をもっている。6地方 自治区は、社会サー ビス部の レベルにおいて ワーキ ンググループな どを設置 して いる。なん らか の組織 をもつ地方 自治区は、合計13である。 この数は、人種関係 もしくは少数民族 に関する政策 を議会で採択 した地方 自治区 12と ほぼ重な りあう。
イギ リス北西部に住む少数民族は、マ ンチェスター とリバプールの2大都市を除いてのことで あるが、英語 を母国語 とは しない人々か ら主に構成される。言語は、このためにサー ビス利用の うえで明 らかな障害である。サー ビスの案内は、多様な言語によ らなければ宣伝の効果 をもたず、
少数民族 に周知 されない。少数民族の人々が最初 に接す る ことになるであろう受付係の訓練 も、
サー ビスの利用を促す うえに欠かすわけにいかない。社会サー ビス部は、少数民族への周知 と利 用にむけて どのような措置をとって いるのであろうか。あるいは、取っていないであろうか。結
イギ リスの少数民族と社会サー ビス
表
2
社会サービス部の用意する各種の措置広 い範囲で 行 っている
あ る 程 度
行 っている 行 っ て い なしヽ
計
1.英語以外の言語 による道標と掲示2.英語以外の言語による説明用 リーフレッ ト 3.受付係のための訓練
4.他の職員のための訓練
5。 関係する問題について少数民族組織との協議 6.少数民族組織へのリーフレッ トの提供
15
11
16
15
16
0
17 17 17 17 17 0
(資
料)表1に 同 じ、p.23.
果 は、表2の通 りである。17地方 自治区のうち11‑16自治区は、関係する措置をとっていない。
「英語以外の言語による説明用 リーフレッ ト」の作成は、他の措置に較べると相対的にしろましで ある。 しか し、「広 い範囲で」作成 している地方 自治区は、わずかに1自治区にす ぎない。「ある 程度」の範囲で行な う自治区は、5である。 この措置で さえ も「行 っていない」地方 自治区が、
およそ65%を占める。「社会サー ビス部は、ようや くこの種の問題について考えはじめたところであ る
0」
と『監察報告』の評するところである。通訳の配置 も、社会サー ビスの周知 と利用 を左右する。 しか し、一般 に満足のいく配置ではな い。言語は、アジア系の人々にとって障害であると広 く認め られるにもかかわ らずである.第
1
に、通訳を配置する社会サー ビス部はごく少ない。通訳を雇 って担当の地区に配属するのは、わ ずか に1社会サー ビス部である。他の社会サー ビス部は、通訳についていかなる定めももたない。
居住施設のための定めは、 どの社会サー ビス部 にもない。3地方 自治区は、通訳の登録 をお こ なっている。関係する社会サー ビス部は、これを利用 して通訳を依頼することができる。第2に、 通訳への専門的な訓練を手がける例は、稀である。少数民族に特有なニーズは、職業資格のある 通訳 にあっても専門的な訓練 と実地の経験にうらうちされてようや く理解 される。 しか し、通訳 への訓練は、1地方 自治区で手がけるだけである。最後 に、通訳は前 もって予約 しなければな ら ないな どの問題 もある。通訳は、通常の執務時間の枠内でないと利用できないといったことも指 摘 される。通訳がせっか く配置 されていて も、サー ビスを要する時に実際上利用できないことに なる。 この問題は、再検討にむけて議論の俎上にのせ られている。
少数民族 に属す る人々の職員 としての採用は、雇用 における機会の均等はもとよ り少数民族に よる社会サー ビスの利用 を促す上か らも、重要である。雇用 にお ける機会均等政策 をもつ社会 サー ビス部は、17の うち13である。他の1社会サー ビス部 は、非差別政策 を採 っている。13の うち6社会サー ビス部は、政策 を具体化す るための積極的な措置 を程度 の差 はあれ採 って いる。
他の7社会サー ビス部は、そ うした措置をとる ことな く政策上の立場の表明にとどまる。
どの社会サー ビス部 も、クオーター制の考えには消極的である。職員中の少数民族者比率を公 的に定める社会サー ビス部は、ない。 しか し、職員の構成は、地域の人種構成を反映 した もので あ りたい、とどの社会サー ビス部 も認める。少数民族 に属する人々を採用するうえで、むずか し い問題 もある。いくつかの社会サー ビス部は、職業資格をもつ少数民族だけを採用する方針であ る。 これは、少数民族 に属する人々を実際上排除することにつながる。職業資格 をもつ人々か ら の応募は、稀だか らである。他方、少数民族のうち職業資格 をもたない人々を採用する社会サー ビス部では、別の問題 に直面する。少数民族出身の人々に専門的な訓練の優先権 を与えれば、昇 進 に道 を開いてた しかに有益である。 しか し、優先権 を付与されない人々、殊 に自人 とのあつれ きを避けるわけにいかない。
17の うち 16社 会サー ビス部は、少数民族出身の職員に昇進の道 を開いていない。わずか に1社 会サー ビス部だけが、少数民族出身の人々をソーシャル ワークの職位 に配置 して専門的な訓練の 道 を開いている。 さきの 16の うちの 1社 会サー ビス部は、 これまでのや り方 を改めて昇進 に道 を 開くよう検討 しはじめている。少数民族出身の職員は、 こうした現状か ら数 も少ないだけではな
く職階上の地位 も総 じて低 い。
少数民族 による社会サー ビスの利用 を促す うえでは、少数民族出身者の職員への登用 とあわせ て白人職員への訓練 も欠かすわけにいかない。7社会サー ビス部 は、なん らかの訓練機会 を用意 してきた。 このうちの4社会サー ビス部は、職員への訓練 を続けている。他の2社会サー ビス部 は、訓練の充実 にむけた見直 しの最中で作業を中断 している。他の1社会サー ビス部は、以前に 一度訓練の機会 を設けた限 りである。その後再開の動きはない。訓練の企画 と実施は、地方 自治 区による 1つ を除いて いずれ も社会サー ビス部である。社会サー ビス部のすべての職員 に開かれ ているが、参加は任意である。訓練は、少数民族に関する一般的な知識 と対応の技能の習得を目 的にす る。少数民族の経済的、社会的な環境 をは じめ人種差別及び差別的な扱 いへの対応な どか らなる。いくつかのよ り専門的な訓練 も行なわれて いる。ある社会サー ビス部は、ウル ドゥー語 の講習を行なっている。他の社会サー ビス部は、少数民族の食習慣 にそ う調理の訓練を行なって いる。
イギリスの少数民族と社会サービス
少数民族のサー ビス利用 についての調査は、1社会サー ビス部を除いて行なわれていない。唯 一手がけて いる社会サー ビス部は、定期的に調査 してその結果を月ベースで集計 している。他に 2社会サー ビス部が、調査の実施 を検討 している。社会サー ビスを必要 にする人々の把握は、 ど の社会サー ビス部で も行なわれていない。実際の利用者と潜在的な利用者との落差は、不明であ る。少数民族の人 口統計は、3社 会サー ビス部 に備え られている。 ここにいう人口統計とは、『国 勢調査』81年版である。 これ以外の資料は備え られていない。少数民族の社会的、経済的な状況 に関する資料は、いずれの社会サー ビス部にもない。
社会サー ビス監督官 は、 こうした現状 につ いて 「がっか りさせ られる(10」 と卒直に評 してい る。現状への批判は、特に2つの点 にむけ られる。すなわち第 1に 、確たる政策をもつ社会サー ビス部は少な く、多 くの社会サー ビス部は政策 を事実上もたないこと、第2に、社会サー ビスの 給付 も練 られた計画の発露 というよ り場当た り的に寄せ集め られた という感が強 く、サー ビスの 水準 もおのず と低いこと、これ らである。社会サー ビス監督官は、多様なニーズに個々に対応で きるようにしっか りとした調査 にうらうちされた計画 とサー ビスの給付が必要であるとして、多 面にわたる提言 を以 つて『監察報告』を結ぶ。
2
保健省社会サービス監督官 『監察報告』(調査期間86年 12月‑87年 1月)この『監察報告』は、イギ リスの北西部にある3つの地方 自治区の社会サー ビス部について調 べたものである。ランカシャー (Lttoshire)、 マ ンチェスターそれにタムサイ ド(T―eside)の 社会サー ビス部である。少数民族の比率は、順 に4.4%、 12.7%、 4.2%である(11ヽ
この『監察報告』の内容は、前出のそれ とかな りのところ一致する。3地方 自治区とそれぞれ の社会サー ビス部は、人種関係に関する76年法にいう機会均等のための「適当な措置」を採るべ く、いくつかの手を打 ってきた。その歩みは、1981年に続 く数年のうちに速め られている。81年 は、少数民族による街頭での騒動がイギ リスの各地で頻発 し、世論の関心を呼んだ年である。 し か し、アフリカ系カ リブ人やアジア人に対するサー ビスの水準と規模にどの程度の影響を与えた か といえば、社会サー ビス部の職員 と地域の指導的な立場の人々の言によるかぎ り、きわめてわ ずかである。
少数民族の問題 に系統的な関心が払われるよ うになったのは、確かである。 これには、4つの 事情がある。第 1に 、地方 自治に関する 1966年 法が制定され、都市計画や社会サー ビスのための 追加的な財源 に道が開かれた ことである。第2に、地域の黒人集団か らの政治的な圧力が働 いて
いることである。第3に、低所得者の密集する都心のスラム街
(illller city)と
そ こでの社会的な 騒乱 とに世論の関心が寄せ られた ことである。最後 に、職員層の運動が、ソー シャルワーカー を 中心に展開された ことである。 しか し、その影響を過大に評価するわけにいかない。ある黒人指 導者がいうように「誰 もが少数民族 について語るけれ ども、具体的な処置になると乏 しい」ので ある。ある社会サー ビス部は、人種 に関す るワーキ ンググループを設置 しておよそ12年になる。設置は、監察の行なわれた時期 (86年 12月‑87年1月)から逆算すると、75年頃である。それ か らおよそ12年、変化は、少数の熱心なサー ビス担当職員の範囲に認め られるにすぎない。社会 サー ビス部への全体的な影響は、測定できない程度のものである。
少数民族 に属す るクライエ ン トのニーズについてソーシヤル ワーカーと地域の団体 に尋ねると、
同じ答えが返って くる。すなわち、貧困、貧弱な住宅、失業それ に不健康な状態である。人種差 別 とその影響 をしば しば耳にする。人種差別 に会 うと極度 に緊張 して、社会サー ビス部の事務所 や 自助的な組織の会合 に出向 く意欲 をなえさせ る。アフリカ系カ リブ人とアジア人のクライエ ン トにふ さわ しい施設やサー ビスは、不足 している。高齢者のためのデ ィケアをはじめ人種及び性 別のホームヘルプ、短期の介護施設、 リハ ビリのための宿泊施設、コミュニテ イホームな どの不 足である。問題は、単なる量的な不足ではない。アフリカ系カ リブ人 とアジア人のクライエ ン ト
にふ さわ しい施設やサー ビスの不足である。ふ さわ しい施設やサー ビス とは、なにか。その基準 は、3つである。第 1に 、場所である。黒人の高齢者 は、子供や孫 と一緒あるいは近 くで暮 らし たいと願 い、また、寺院やモスクの近 くで生活 したいと望んでいる。第2に、設備や備品である。
本や遊具、 ビデオ、食事、祈 りのための施設、同性の介護職者の有無な どである。最後 に、施設 やサー ビスの外見 と感触である。職員の多様な人種構成や利用者の満足度などが、問題 になる。
施設やサー ビスは、多様な人種 と文化 に対応 して整備 されなければな らない。そのように整備 されて こそ少数民族 出身者 による選択 も生まれる。 しか し、 この選択性は、3地方 自治区のおの おのの社会サー ビス部に関するかぎ り、残念なが ら殆 ど存在 していない。
社会サー ビスの提供 を知 らせ る意味は大きい。 しか し、概 して うまく行なわれてはいない。殊 にアフリカ系カ リブ人とアジア人の住む地域では、そ うである。社会サー ビスを周知するために、
はっき りとした改善 に乗 り出さなければな らない。そ うでなければ、少数民族の人々にいつまで も伝えないままである。社会サー ビスを英語以外の言語で紹介する小冊子などの文献は、全 くな い。 これには強い批判が以前か ら寄せ られている。個 々のサー ビスについて詳 しく紹介するだけ でな く、社会サー ビス部の組織 と役割 について も小冊子 を通 して周知す るべきである。 しか し、
書き物の作成 と配布で終わ りというわけではない。 日頭によるコミュニケーションが重要である。
イギリスの少数民族と社会サービス
少数民族の個々の事例に即 してサー ビスを案内することができる。社会サー ビス部の職員と少数 民族及び地域団体 との様々な連携 も生まれて こよう。通訳の配置は、そ うした改善の一部である。
地域の人種構成に対応する職員の構成は、改善されている。 これは、地域団体の認めるところ で もある。少数民族に雇用の機会 を開 くばか りか、社会サー ビスの改善にも効果を発揮する。第 1に 、少数民族の職員への登用 は、地方 自治区による社会的公平の実績 を示す ことになる。か く して地域 と社会サー ビス部 との効果的な連携 に道を開く。第2に、社会サー ビス部は、潜在的な 利用者か ら「親 しみのある場所」 と見なされる。第3に、社会サー ビス部の姿勢や雰囲気 も、少 数民族のニーズに一段 と感応的になる。最後 に、提供されるサー ビスの効果は、社会サー ビス部 によ り多 くの情報が蓄え られる結果、よ り良くなる。
少数民族出身職員の職務上の地位 には、解決の迫 られる問題が多い。前述の『監察報告』に述 べ られた問題 と共通する。第 1に 、専門職の職階にあるアフリカ系カ リブ人やアジア人は、非常 に少ない。第2に、首席の地位 にある少数民族の職員 も限 られ、認可の権限をもつ職員 もしか り である。第3に、少数民族出身の職員、殊 に社会サー ビス部の主な人件費 日外の財源をもとに雇 われた職員は、部の主流か らはずれた職階に配属 される。職務上の影響力は、おのずと狭い。
調査 に応 じた職員の84%は、 ソー シャル ワークの職業資格 をもっている。そのおよそ半分の職 員は、なん らかの在職訓練 (in̲service training)を受 けて いる。地方 自治区や社会サー ビス部の 行な う半 日もしくは1日の課程である。有益な訓練であるけれ ども、携わっている仕事に照 らす と不十分な内容であるというのが、共通の評価である。訓練は、人種差別主義の概念 とコミュニ ケーションの文化的な側面を主な内容にする。ソーシャルワーカーの 日常の仕事を手助けする実 際的な事項 には触れていない。人種 と文化に関する専門課程の時間も、充分ではない。クライエ ン トのニーズに即 した深みのある実際的な訓練を求める声は、少な くない。人種と文化に関する 訓練 をすべての訓練課程の標準的な内容の一部に組み込むべきであるという声も、多い。
社会サー ビス部の自人職員は、一人残 らずアジア系の言語に苦心をしている。カ リブ人とのコ ミュニケーションに困惑する自人職員は、まずいない。それでも、カ リブ人のお国なまりにとま どう自人職員は、数は少ないもののいる。身振 りことばをまじえ、片 ことの英語を話 して対応す るクライエン トもいる。母国語 によるコミュニケーションが、なんといっても大事である。アフ リカ系カ リブ人とアジア人の職員は、ある程度 自力でコミュニケーションに応ずる。 しか し、す べての黒人クライエン トに対応できるわけではない。自人のソーシャルワーカーは、通訳の手を 借 りなければな らない。誤解 と間違 いは、通訳をあてにしえない時おのず と増える。自人のソー シャル ワーカーが 自ら認めるところである。
通 訳 を利 用 で きな い大 きな理 由の ひ とつ は、利 用 の範 囲が限 られ て いる ことで あ る。 しば し ば2週間 も前 に予約 しな けれ ばな らな い。 あ るいは、通訳 が社会サ ー ビス部 の事 務所 に来 る次 の 週 まで待たなければな らないこともある。ウイー クデーであつて も夜間及び週末 には利用できな
いといった問題 もある。
通訳 を依頼できたか らといつて、問題が解決 されたわけではない。相手 とよ りよい関係をつ く るのは、通訳 を介 して いるだけによ り困難である。通訳 によっては伝え られない感情や表現の ニュアンスは、ソーシャル ワーカーの腕のみせ どころである。通訳が、社会サー ビスについて十 分な知識 をもつわけではない。社会サー ビスについての訓練を要す る。
アフリカ系カ リブ人とアジア人の若い世代は、イギ リスに生まれ育つた ことか ら、言語につい て同じ問題 を抱えるわけではない。 しか し、コミュニケーションにいかなる問題 もない、という わけではない。
少数民族出身者 の情報 は、 さまざまな方法で記録 され る。 しか し、記録 を残す のは、1社 会 サー ビス部だけで ある。残 りの2社会サー ビス部は、記録のための制度 をもたない。3社会サー ビス部は、標準的なモニター制度の検討を始めている。設置の段階には至っていない。ソーシヤ ルワーカーの2つの班は、 自らで集めた情報 をもとに政策上の結論を導き出すべ く取 り組んでい る。担当するケースについての ごく印象的な情報である。クライエン トの民族的な出自について は、あま りに漠然 とした情報 しか手にしていない。た とえばアジア人の民族的な多様性 について
これ といった知見 をもたないことか ら、担当するケースの整理 も印象的にな らぎるをえない。
社会サー ビスの効果の判定は、その場かぎ りの感が強い。アフリカ系カ リブ人とアジア人への サー ビスを体系だつて評価す る試みは、なされていない。
3
人種平等委員会 『社会サービス部の機会均等調査』(調査期間88年1‑4月)この『機会均等調査』は、イ ングラン ドとスコッ トラン ド及びウエールズの208にのぼる社会 サー ビス部の56%にあたる116社会サー ビス部 に郵送で回答 を求めた結果 を集計 した ものであ る。抽出された社会サー ビス部の殆ん どは、相当な少数民族人 口を抱える地域である。回答率60
%にあたる70社会サー ビス部が、回答 を寄せている。
社会サー ビス部が、サー ビスの用意 と給付 に機会均等政策 を採 っているか どうかについて尋ね た ところ、61%にあた る43社会サー ビス部 は、機会均等政策 をもって いると答 えている。 しか し、政策 を文書化 している社会サー ビス部 となると、表3に示 されるよ うに回答の34%にあたる
表
3
社会サービス部の機会均等政策1.全回答数
2.機会均等政策をもつ社会サー ビス部 3.文書化 された政策をもつ社会サー ビス部
4.文書化 されたアクションプログラムをもつ社会サー ビス部
5。 アクションプログラムの提出に応 じた社会サー ビス部 6.機会均等政策をもたない社会サー ビス部
7.機会均等政策を導入する意向の社会サービス部
イギ リスの少数民族 と社会サービス
比 率(%)
100.0
61.4
34.3
22.9
8.6
38.6
20.0
(〕資料[)cRE,Racial equality in Social Services Department,a survey of equal opportunity policies,CRE, 1989,p.16.
(注 )(1)比率 の 小 数 点 以 下 は、 引用 者 が算 出 の うえ示 して あ る。
わずかに24社会サー ビス部である。文書化 された政策をもたない19社会サー ビス部は、政策上 の態度 を一般 に表明するな どの類である。24のうち16社会サー ビス部は、前出の表に見るよ う にアクションプログラム も具体化 している。機会均等政策をもたない27のうち14社会サー ビス 部は、む こう2年 (90年 春)以内に文書化された政策を策定する意向である。残 りの 13社 会サー ビス部は、機会均等政策 をもたない考えである。 このうち5社会サー ビス部は、すべてのサー ビ ス利用者を公平に扱 ってきた ことか ら文書化 された政策なぞ不要であるという考えを示 している。
他の2社会サー ビス部は、 ごくわずかな少数民族出身者 しかいないことか らして、機会均等政策 を必要であるとは考 えて いない。残 りの6社会サー ビス部は、機会均等政策 をもたないわけを示 していない。
機会均等政策を採用す る43社会サー ビス部に、政策の実施を監督する責任者について尋ねたと ころ、23%の回答率 にあたる16社会サー ビス部は、主席管理職 グル‐プ、 もしくは人種指導官な どを含む幹部グループに責任 を委ねていると答えている。同 じく30%にあたる21社会サー ビス 部は、部長 もしくは副部長に責任 を委ねている。1社会サー ビス部は、いかなる職員やグループ にも監督の責任 を委ねていない。7%にあたる5社会サー ビス部は、 この質問に答えていない。
少数民族のニーズを考えて採用 した特別の措置について尋ねた ところ、56%の回答率にあたる 39社会サー ビス部 は、社会サー ビス情報の適 当な言語への翻訳、同 じく70%にあた る49社会
70 43 24 16
6
27 14
サー ビス部は、通訳サー ビスの利用、 と答えている。56%にあたる39社会サー ビス部は、職員に 人種関係の訓練 を施 して少数民族 とそのニーズに対応するよう試みている。33%にあたる23社会 サー ビス部は、サー ビスのための人種関係顧間を任命 していると答えている。
3社会サー ビス部は、職員むけの人種関係訓練 の内容 について詳 しく示 している。その うちの
1
社会サー ビス部は、人種意識高揚の訓練 を83年以来手がけている。人種 と精神疾患講座な どを開 設 している他、社会サー ビス部の行 な うすべての講座に反人種差別主義の考え方 を盛 り込むよう 尽力 している。人種意識高揚の訓練 についての要望は、社会サー ビス部で高 く、拡充にむけて資 金の手当を検討 しているところである。別の社会サー ビス部は、反人種差別主義の訓練 を行なっ ている。いま 1つ の社会サー ビス部は、人種 と人種差別主義の問題 に責任を負 う訓練担当幹部を 任命 している。比較的新 しい講座 には、主席職員 とカウンセ ラーのための調査研究 (1日)が含 まれる。人種平等 に関する部の政策文書は、 この調査研究 に参加 した主席職員 とカウンセ ラーの 手になるものである。特別の措置の導入に加えて、既存 のサー ビスが少数民族出身者のニーズにあ うよう改編された か どうかについて尋ねた ところ、56%にあたる39社会サー ビス部は、保育中の児童のニーズに特 別の注意 を払 って いる、と答えて いる。33%にあたる23社会サー ビス部は、里親探 しのキ ャン ペー ン、同 じく24%にあたる17社会サー ビス部は、保育中の児童のニーズに関す るガイ ドライ ンの作成、30%にあたる21社会サー ビス部は、保育職員への訓練の提供をそれぞれあげている。
少数民族のニーズに特別の注意を払つてどのような変更に結びつけたかについて尋ねたところ、
33%にあたる23社会サービス部は、既存のサービスとりわけ給食サービスに少数民族のし好や要 望を取 り入れた、と答えている。在宅ケアの支援に少数民族の職員を加えたことやデイケアの改 編も、事例として示されている。9社会サービス部は、デイセンターを少数民族に属する利用者 に魅力あるものにするよう手を加えた、と述べている。デイセンターの職員に少数民族出身者を 加えることをはじめ宗教的な祭典の実施、絵画の展示や音楽の上演、食習慣や好みに配慮した多 様なメニューの用意などが、修正の事例である。男女別々の宿泊収容施設は、少数民族出身者の 高齢化に応えるべく2社会サービス部によって検討されている。
むこう2年間 (90年春まで)に優先的に取 り組むべき少数民族むけのサービスの有無について 尋ねたところ、54%にあたる38社 会サービス部は、肯定的な回答を寄せている。結果は、表4の 通 りである。29%にあたる20社会サービス部は、少数民族出身の児童のニーズに応えるように努 力している。しかし、高齢者や通訳、翻訳サービスに払われる関心は、表に示されるように低い。
社会サービスの一部を提供する少数民族グループに資金の援助を行なっているかについて尋ね
イギ リスの少数民族と社会サービス
表
4
少数民族むけのサービスの優先事項比 率(%) 1.保 育
(養
子縁組 と養育を含む)2.在宅ケア
(ホ
ームヘルプと給食を含む) 3.精神上の健康4.通訳・ 翻訳サー ビス
5。 反人種差別主義の訓練 6.資金の拡充
7.少数民族出身のソーシャルワーカーの一層の採用
8.ア フリカ系カ リブ人及びアジア人高齢者のための宿泊収容施設
表
5
社会サービス部の資金援助 による諸計画比 率(%) 1.保 育 (プレイ グルー プと保育園 を含 む)
2.福祉 関係 の助言 と相談
3.高齢者ディサービス
(昼
食クラブとホームヘルプを含む)4.女性 の避難所
5。 障害者 計画 6.精神上 の健康 計画
た ところ、50%にあたる35社会サー ビス部は、援助を行なっていると答えている。35のすべて の社会サー ビス部が、援助グループの詳細について示 している。高齢者へのサー ビスを手がける グループヘの援助が、表5に示 され るようにもっとも一般的である。 もとよ りここか ら援助額の 多い少ないを判断するわけにはいかない。特徴は、次のことである。 自主的なグループを支援す る社会サー ビス部は、機会均等政策の具体化のひとつとして援助 していることである。 これ らの
20 10
5
5
5
3
5
1 (資
料)表3に同 じ、23ペー ジ。9
11
20 4 4
2
(資
料)表3に同 じ、22ページ。社会サー ビス部の多 くは、ミッ ドラン ド地方、 ノースウエス ト地方それにロン ドン地域の地方 自 治区に属す る。
サー ビスの優先順位の決定 に際 して、社会サー ビス部 と少数民族グループとで相談を行なった か どうかについて尋ねた ところ、41%にあたる29社会サー ビス部は、地域関係協議会 (LCRC) に諮問 した、同 じく54%にあたる38社会サー ビス部は、地域 の少数民族 グループに相談 した、
と答えている。さらに、36%にあたる25社会サー ビス部は、ソーシャル ワー ク中央教育訓練協議 会 (CCETSW)やナ シ ョナル・ ソー シャル ワー ク研究所 (NISW)人種平等ユニ ッ ト (REU)、
社会サー ビス監督官、社会サー ビス委員会(SSC)、 内務省、少数民族出身の職員、人種関係顧問 などに相談 した、と答えている。む こう2年 間の優先事項 を決めている社会サー ビス部の中では、
49%にあたる34部が、少数民族 グループとの相談 を優先事項 にあげている。
機会均等政策の実効性 について点検す る主な仕組みは、モニター制 と幹部職員か らの定期報告 である。クライエン トの民族的な帰属 について記録 しているか どうかについて尋ねたところ、機 会均等政策 をもつ43社会サー ビス部の うち、全回答の26%にあたる18部は、記録にとどめてい ると答えている。 しか し、 この 18の うち8社会サー ビス部は、居住施設の介護や試験的な計画な ど特定の領域についてだけの記録である。
12社会サービス部は、記録の方法にかかわるいくつかの問題について述べている。7社会サー ビス部は、職員が人種関係のデータ収集にためらいをみせている、と答えている。クライエント の民族的な帰属を調べることへの不安からである。民族的な帰属をどのように区分して説明すれ ばよいかあやふやである、 といつた例 もある。職員が、 この分野の訓練 を受けていなかつた り、
特 にクライエ ン トが異種族の両親 をもつ場合な どである。3社会サー ビス部は、ひ とたびクライ エン トのデータを電算化すれば職員のため らいも消える、と答えている。ある社会サー ビス部は、
記録の精度 も導入か ら3年間は低か つたけれ ども、その後90%の水準 に高めて いる と述べてい る。 この改善が どのようになされたのか、その理 由は示されていない。
人種関係の記録をもつ社会サー ビス部の多 くは、記録をとり始めて 日も浅いことか ら包括的な 記録報告書 を作成す るまで には至 って いない。 しか し、機会均等政策 を採用す るすべての社会 サー ビス部は、その必要性 を認めて いる。
人種平等委員会は、これ らの調査結果 について次のような評価 を与えている。
第 1に 、多少の積極的な措置 もとられているものの、66%にあたる46社会サー ビス部は、文書 化された機会均等政策 をもたない。多 くの社会サー ビス部は、人種関係に関す る76年法 にいう地 方 自治体の義務、すなわち不法な人種差別 を除去す るとともに機会均等の促進 に努めることに応
イギリスの少数民族と社会サービス
じていない。第2に、機会均等政策の具体化 に乗 り出 した少数の社会サー ビス部 も、その実施は なお初期の段階にある。すべてのサー ビスに機会均等の考えを具体化するほどの幅広 い計画 もつ 社会サー ビス部は、少ない。第3に、機会均等政策は、雇用 とサー ビスの双方にかかわる。少数 民族出身者の雇用 は、多様な人種のサー ビス利用 を促すのである。最後 に、すべての利用者を公 平に扱 うという意向を単に表明するだけで十分ではない。そ うした表明も、た しかに機会均等政 策の一部である。 しか し、文書化 された政策 こそ必要である。
4
エイジ 0コ ンサーン老年学研究所『少数民族の高齢者へのサービス調査報告』(調査期間88‑89年)
この調査報告は、2つの州 (バークシャー州 Berksire、 ランカシャー州 Lattashire)と 2つ の地方 自治区
(ノ
ーザ ンプ トン Northarnpton、 サウスオール SOuthan)、 つ ごぅ4つの地域 を 対象に少数民族の高齢者への社会サー ビス計画 について調べた ものである。少数民族出身者の比 率は、順に7.7%、 4.4%、 6.0%、 32.7%である(121(91年)。 調査報告で扱 うつ ごう4つの州ないし 地方 自治区は社会サー ビスにおけるボランティアの利用、財政上の裏付けの確保、サー ビス提供 者 との長 い折衡な ど共通する課題 も多い。同時 に、歴史的な環境やクライエ ン トの構成な ど4つ の州ないし地方 自治区のそれぞれ に独 自の問題 もある。以下では、4つの うちか ら3つの州ない し地方 自治区を選び出 して紹介 し、最後 に、4つの州 と地方 自治区に共通する課題 について述べ てみたい。(1)ランカシャー州の社会サービス計画
ランカシャー州の少数民族は、社会サー ビス部の調査によると20以 上の民族グループからな る。主なグループは、イスラム教スンニー派のパキスタン人、同じくスンニー派のグジャラト州 出身イン ド人、グジャラ ト州出身でヒンズー教徒のイン ド人、ヒンズー教徒のバングラディシュ 人、香港出身の中国人などである。多くの少数民族は、貧困や戦争、宗教もしくは政治的な紛争 から逃れるためにイングランドに移住 して来た。綿工業や織物工業からの求人が、1950年代から 60年代初頭にかけて旺盛に行なわれ、これが、少数民族を受け入れる基盤であった。しかし、両 業種は、70年代後半から衰退の一途を辿る。少数民族出身者の失業率は、これに歩調をあわせる ようにきわだって高くなる。
高齢者の直面する問題は多岐にわた り、その根 も深 い。第 1に 、貧困者の密集する都心部の過 密地区に住んで いる。乏 しい食事や住宅条件 とか らみあつた健康状態の悪化 もある。 いずれ も、
貧困か ら発す る問題である。第2に、市民 としての権利を享受する上での問題である。言語 と文 化の障壁を乗 り越えなければな らない。殆 どの高齢者は、英語を話す ことはもとよ り読んだ り書 いた りすることもできない。人種差別的な態度 にむき会 うことも多い。第3に、少数民族 に属す る高齢者の社会サー ビス利用率は、極端 に低い。言語の障壁があるか らである。社会サー ビスや 各種の給付の存在 さえ知 らないことが、少な くない。用意 され るサー ビスが、少数民族のニーズ に合致 しない場合 も多い。いくつかの障壁を乗 り越えてサー ビスの存在を知 りえて も、利用 を思 い止まるのである。
エイジ・ コンサー ン・ ランカシャー支部 (ACL)は、州内の少数民族 に属する高齢者の情報 を 84年末に収集 している。そ こか ら明 らかになった ことは、高齢者の急速な増加 と公的なサー ビス の少数民族への不適合な どである。 ランカシャー支部は、職員を雇入れるための資金確保 につい て翌85年1月 に提案 している。少数民族の高齢者にあうサー ビスの円滑な提供を目的にする職員 の雇入れである。資金は、保健社会サー ビス省 (DHSS)『介護のための地域援助計画』への申請 と採択 をへて確保 される。職員は、85年9月に採用される。 しか し、86年10月に退職 している。
同 じ年の12月に別の職員が採用 されて、計画の具体化に乗 り出 している。職員の第一の仕事は、
サー ビス を提 供す る地域 組織 を支援 す る ことで あ る。地域 には、 ヒンズー 教徒高齢 者協 会 (IIEPA)やアジア人助言セ ンター (AAC)な ど8つ の組織がある。昼食クラブや会話教室、図書 室、一時訪問セ ンターなどを運営する とともに、居宅訪問計画、小旅行、話 しあいやセ ミナーな どを運営 している。職員は、 これ らの地域組織 を定期的に訪問 して必要な援助をお こなうととも に地域組織 とエイジ・ コンサー ンとの連絡調整に当っている。職員は、地域組織 と社会サー ビス 部及び住宅 当局 との調整にも携わ って いる。福祉諸手 当や移民規則などの変更に関する情報 を集 めて地域組織 に伝えるのも、職員の仕事のひとつである。
職員の手が けた仕事 の中には、つ ごう6回に亘るセ ミナーの開催がある。最初のセ ミナーは、
87年10‑12月 に開かれ少数民族出身の高齢者のニーズ、これ ら高齢者の社会的な孤立、あま り に類型化 されて陳腐な社会サー ビスな どをめ ぐって活発な意見の交換がなされた。参加者は、そ れぞれ37‑55名である。続 くセ ミナーは、翌88年3‑5月に開かれ、高齢者 とりわけ少数民族 出身の高齢者へのサー ビスのあ り方、少数民族出身の高齢者への特別な措置の是非な どをめ ぐっ て討論されている。参加者は40‑55名にのぼる。さ らに、職員は、バ ンフレッ トの作成 と配布 も手がけている。アジア人高齢者のかか りやす い低体温症 をテーマにする図解入 りのパ ンフレッ
イギリスの少数民族と社会サービス
トをウル ド語 とグラジャ ト語で2万部 (初刷 り)発行 し、地域組織 を介 して配布 している。『アジ ア人高齢者の健康な食事』 と題する2冊目のパ ンフ レッ トも、ウル ド語 とグラジャ ト語で作成 さ れて いる。アジア人の伝統的な食事 と高血圧や心臓疾患 との因果関係は、医療分野の専門家に よつてよく知 られている。 しか し、アジア人の高齢者には、殆 ど知 られて こなかった。アジア系 の言語 による情報がなかったか らである。2冊目のパ ンフレッ トは、 この空白を埋めるための試 みである。
計画のもっとも大きな問題は、財源の確保である。保健社会サー ビス省か らの援助は、88年8 月末をもって終了する。 ランカシャー支部は、『ボランティアのための機会』と称 される資金を得 て89年3月までの手当てをしている。あくまで代替的な財源である。89年4月以降の財源を得る べ く、ランカシャー州議会などにあてて要望 を出 した りもしている。しか し、資金の継続的な確 保は、できていない。他の各種の申請 も手を尽 した ものの、いずれ も受理されていない。結果は、
はっき りしている。サー ビスを担 ってきた地域組織は、調整役の職員を失 うことである。
(2)ノーザンプ トン地方 自治区の社会サービス計画
この地方 自治区に住むアフ リカ系カ リブ人の多 くは、ジャマイカの出身である。ガイアナや ガーナ出身のアフリカ系カ リブ人 も、数は少ないものの生活 している。高齢のアフリカ系カ リブ 人は、出身国のいかんを問わずいずれ も移民第一世代である。
高齢のアフリカ系カ リブ人のための社会サー ビスは、 ここで扱 う計画の以前にはこの地方自治 区に存在 しなかった。ディケアはもとよ り在宅介護、助言や情報サー ビスもしか りである。 これ には、相応のわけがある。第1に、地方 自治区は、「サー ビスは人種のいかんにかかわ りなくすべ ての人々に開かれている」として、人種 に盲 目的な (c010ur blind)姿勢 をとり続 けた ことである。
高齢の黒人をはっき りと意識 した政策は、ここにはない。第2に、社会サー ビス部は、「黒人は自 分たちで介護す る」 という考え方 に固執 し、ニーズに応えようとはして来なかった ことである。
第3に、同 じく社会サー ビス部は、高齢のアフリカ系カ リブ人に「独 自のサー ビスを設定するに 足 りるほどの数ではない」 として これ らの人々の規模を過小に評価 してきたことである。
高齢者のための ノーザ ンプ トン州計画は、 ノーザ ンプ トン西イン ド人親の会 (NWIPA)の手 になるものである。その目的は、ディセ ンターの設立 と西イ ン ド人高齢者へのサー ビスの提供で ある。ディセ ンターは、ダー リン トン教会の事務所の一角に83年12月に設置 されている。
ノーザ ンプ トン西イ ン ド人親の会は、保健社会サー ビス省『介護のための地域援助計画』か ら