勘定学説の論理学的検討
上 野 清 貴
Abstract
The semio七ics consis七s of syn七actics, semantics and pragmatics. The accounting theory also has 七hese three fields. The syntactics in accounting theory is the theory of accounting structure, the semantics is the theory of accoun七ing concep七s, and the pragma七ics is七he七heory of accounting purpose.
We can rearrange and七es七accoun七s七heories(the net asse七theory, the balance sheet theory,七he illcome theory and the trial baユance of totals七heory)by
these 七hree fields.In syn七actic test, it became clear that neither the net asset theory nor the
balance shee七theory can make income sta七ement, further the net asset七heory can not make even balallce sheet. The income theory can no七transfer income from income accoun七to balance accoun七. In seman七ic te誌, the income theory can not calculate either income or present financial position of corporations because of differences of七he language levels be七ween accoun七s. Compared to these theories,七he trial balance of totals theory can transfer income from income account to balance account and i七can not only calculate illcome but
also presen七 financial position of corpora七ions.1 まえがき
これまで,会計を体系的に説明することを
目的として,主としてドイッにおいて提唱さ
れてきた主要な勘定学説を取り上げ,それら を論理的に検討してきた。具体的には,純財 産学説,貸借対照表学説,損益学説および総勘定合計表学説を取り扱い,そこではまず,
各勘定学説の内容を各提唱者の所論にしたがっ
てそれらの基本的会計等式とこれに基づく簿記記帳規則を中心として説明した。.これに基
づいて,次に各学説のいくっかの特質を明ら かにし,さらにこれらの特質を批判的に検討 するという方法で各学説に内在する固有の問 題点を解明し,最後に各勘定学説に最終的な評価を下してきた。
各勘定学説の内容を説明するに際して,会 計等式および簿記記帳規則を中心に論じたの
は,これらが各学説の特徴を示しているから
であることはいうまでもないが,さらに厳密 にいえば,これらが各学説の会計目的,会計 構造および会計概念を顕著に表しているから にほかならない。各勘定学説を論理的に検討し,評価しようとする場合,まずこれらの相
違を明確にしかも同じ次元的枠内で認識しておく必要があったわけである。
次に,各勘定学説の特質を明らかにした際 に,これらの会計等式および簿記記帳規則に
基づいて,各学説における計算方法に着目し,
さらには勘定の性質に焦点を当てた。財産計
算性,財産状態表示性,財産法的損益計算性,
損益法的損益計算性,過程理論性などは前者
に属する論点であり,勘定の対象勘定性およ びメタ勘定性は後者に属する論点である。こ れらは,各勘定学説を論理的に検討するため に,記号論理学における構文論および意味論 を意識した結果である。ある会計理論を論理 的・分析的に検討するためには,論理学の厳 密な手法を適用する必要があると考えたから
である。
そして,この考え方の延長線上で各勘定学 説の問題点を解明した。そこでは,損益計算 可能性,財政状態表示可能性,損益計算書と
貸借対照表の統合可能性などを問題としたが,
前二者は構文論および意味論に関わる問題で あり,後者は構文論に関わる問題であるとい うことを意識しながら論議を展開した。前二 者に関しては,主として構文論に関係する勘 定学説と意味論に関係する勘定学説とに分か れることになり,各勘定学説によってその関
わり方が異なるのである。
論理学を意識したのはこれだけに留まらな い。各勘定学説の内容を説明する際にも,こ の考えをすでに導入していたのである。そこ では,各勘定学説の会計目的,会計構造およ び会計概念を取り扱ったが,これはそれぞれ 記号論理学における語用論,構文論および意 味論を意識していたからにほかならない。っ まり,最初から最後まで論理学を意識してい たのであり,したがって,勘定学説の検討に 関するこれまでの論理展開は論理学の適用そ のものであったといっても過言ではないので
ある。
しかしながら,これまで,これらのことを
示唆的・断片的に説明したことはあっても,
明示的・統一的に説明してこなかった。そこ で,各勘定学説の検討を終えたいま,これま での論議をまとめるという意味も兼ねて,こ
こで改めて論理学の手法を統一的に適用して,
各勘定学説を論理的に整理・検討することに
しよう。こうすることによって,各勘定学説 を同じ次元的枠内で厳密に検討することがで
き,共通の問題点を見出すことができること
になり,これを解決することによって,会計 を体系的に首尾一貫して説明しうる可能性が 生じることになるのである。この意味で,本 稿は勘定学説研究の論理学的総括であり,会 計目的論,会計構造論および会計概念論の論理学的総括である。
ll 構文論・意味論・語用論
勘定学説研究に論理学の手法を統一的に適 用しようとする場合,論理学の概要をまず説
明しなければならない。ここで論理学という
とき,主として記号論理学を指すが,この記 号論理学は構文論,意味論および語用論の分 野に分かれることになる。そこで,本節の目
的は,まずこれらの領域がそれぞれどのよう
な内容を有しているのかを改めて明らかにす ることにある。そして次に,それらを勘定学 説研究に適用する際に,会計理論における構文論,意味論および語用論の分野を明確にし,
最後に,これらのうち,経験科学としての会 計理論において語用論が基本的な役割を果た
すことを明らかにすることにしよう。
1 論理学における構文論・意味論・語用
論
記号論理学では,3つの主要な因子が問題
となる。それは,記号(言語)1),(記号の)
指示対象および(記号の)解釈者であり,こ れらの関係を図示すると,図1のようになる
[永井,1971,144頁;1979,89頁]。
記号○
解釈者 ○
指示関係
示象
指対 ○
形式的関係
○記号
指示関係
示象
指対 ○
図1 記号・指示対象・解釈者の関係 これらのうち,特に形式的関係を抽象して
扱う部門を構文論(syntac七ics;syn七ax)とよ
び,特に指示関係を抽象して扱う部門を意味論(semantics)とよび,特に表現関係を抽象 して扱う部門を語用論(pragmatics)とよぶ2)。
すなわち,解釈者への関係や指示対象への 関係を捨象し,ただ記号と記号との間の関係 だけを抽象して考察する記号論の分野は構文 論とよばれる。このように他の関係をまった
く捨象し,記号や表現間の関係だけを抽象す
るとき,その関係は形式的関係といわれ,形 式的関係に基づく表現の構造は形式的構造と いわれる。構文論は表現の形式的構造の理論である。
また,解釈者への関係は捨象するが記号間 の関係も指示対象への関係も捨象せず,指示 対象への関係を中心とした抽象的考察は意味 論とよばれる。記号と指示対象との関係を指 示関係(指示するという関係)という。指示 関係は意味関係であり,記号・表現の指示対
象に対する指示関係が認識されるとき,記号・
表現の指示的意味が理解されるといわれる。
指示関係が捨象されないとき,記号間の関係
はもはや形式的関係ではない。
さらに,記号過程にっいて一切の捨象をせ ず,しかし記号と解釈者との関係を中心とし た理論を語用論という。記号と解釈者との関 係を表現関係(表現する関係)というが,表 現関係もまた意味関係である。記号・表現と
解釈者との表現関係が認識されるとき,記号・
表現の表現的意味が理解されるといわれる。
一切の捨象が行われない語用論的視点におい ては,記号間の関係は単なる形式的関係では なく,記号と対象との関係は単なる指示関係
ではなくなっている。・
以上にように,構文論は他の因子への関係 を捨象して,もっぱら記号間の形式的関係の みを抽象した領域であり,意味論は指示関係 の考察を主とし,表現関係を捨象する領域で あり,語用論は表現関係の考察を主とする領 域である。すると,構文論,意味論,語用論 の間の関係は包含関係となり,図2のように
図示できるようになる。
図2 構文論・意味論・語用論の関係
これは次のことを意味している。すなわち,
論理学としての構文論と意味論はそれぞれ相
対的に独立した分野として成立しているが,
認識の全体の視点に立っ認識論の見地から考 察するとき,構文論は意味論によって補完さ
れることを前提条件として,はじめて有意義 な理論となる。意味論と語用論の間にもまっ たく同様の関係が成り立つ。語用論によって 補完されるべく構成される適切な理論でない ならば,その意味論は科学的認識として不毛
な理論であるいわなければならない。
これはさらに次のことをも意味している。
すなわち,指示関係を考慮に入れた記号と記 号との関係は,もはや形式的関係(構文論的 関係)ではなく意味論的関係であるから,当 然意味論に属することになる。また,表現関 係を考慮に入れた記号と指示対象との間の指 示関係は,もはや意味論的関係ではなく語用 論的関係とみなすべきであるから,当然語用
論に属すると解さなければならない。
これらのことを念頭におきながら,以下で は,構文論,意味論および語用論をそれぞれ 相対的に独立した分野として取り扱い,各分
野における諸規則を概説してみよう3)。
まず,構文論は形成規則と変形規則からな る。形成規則は文を形成する規則であり,変 形規則は形成規則によって形成された文を変 形する規則である。形成規則ではさらに記号
と式が規定され,変形規則はさらに基本記号,
定義,公理および推論規則からなる。
形成規則の内容は次のようである。
1 記号 (1)文記号
a.文定項:A,B, C, D, A1,
A2など
b.文変項:P,q, r, s, t,
Pi,P2など
② 結合記号否定記号(〜),選言記号(V),
連言記号(・),含意記号(⊃),
等値記号(≡)
(3)括弧:( )
ll式
(1)すべての文記号は式である。
② Sが式ならば,〜(S)の形式の表 現もまた式(否定式)である。
(3)SiとSjが式ならば,次の形式の 表現もまた式である。
選言式:(Si)V(Si),
連言式:(S、)・(Sj),
含意式:(S,)⊃(S、),
等値式:(S、)≡(Sj)
(4)上記の(1),(2),(3)を組み合わせたり,
繰り返したりすることによって得られ
る表現はすべて式である。
変形規則は次のような内容を有している。
1 基本記号
(1)文記号(文定項と文変項)の全部
② 結合記号のうち,否定記号(〜)と選言記号(〉)
(3}括弧( ) ll定義4)
(1)(S,)・(Sj)=df〜((〜Si)V(〜
Sj))
(2)(Si)⊃(S」)=df(〜Si)∨(〜
S」)
(3)(Si)≡(Sj)=df((S,)⊃(Sj))・
((Sj)⊃(Si))
皿 公理)
(1)(PVP)⊃P (2)q⊃(P>q)
(3}(P>q)⊃(q>P)
(4)(q⊃r) ⊃((P∨q)⊃(P>r))
IV 推論規則6)
(1)代入則:Siが公理または定理であ るならば,式iの中の文変項に任意の 式を一様に代入して得た式S,をS,か
ら推論してもよい。すなわち,{Si}
はSj
(2)正格法:式(S,)⊃(Sj)とSiか
ら式S,を推論してもよい。すなわち,
{(Si)⊃(Sj), Si} 佐S、
次に,意味論であるが,これは形成規則と
解釈規則からなる7)。形成規則は構文論のそ
れとまったく同じであり,解釈規則だけが異 なる。これは,構文論における変形規則に代わって導入されたものであり,形成規則によっ
て形成された記号と式に意味を与え,解釈す るための規則である。解釈規則は,記述的記 号である文定項に対する指示規則と,論理的 記号である他の記号に対する文脈的定義に相 当し,文の真理条件を規約する真理規則から構成されている。
1 指示規則8)
例えば,次のように文定項と指示対象
との指示関係にっいて規約される。
(1>「A」は「この机は重い」という命
題を指示する。
② 「B」は「この椅子は重い」という
命題を指示する。
II真理規則
(1)〜(S)が真であるのは,Sが偽で
あるとき,そしてそのときに限る。
(2)(Si)・(Sj)が真であるのは,
SiとSjが共に真であるとき,そして そのときに限る。
(3)(S,)∨(S,)が真であるのは,
S、かS,か少なくともその1っが真で
あるとき,そしてそのときに限る。
(4)(S,)⊃(Sj)が真であるのは,
Sが偽かSiが真か少なくともその1 っであるとき,そしてそのときに限る。
(5)(S,)≡(Sj)が真であるのは,
S,とS,の真理値が等しいとき,そし
てそのときに限る。
いま,真を1で示し,偽を0で示すと,こ
の真理規則は表1のような真理表によって表すことができる。
表1 真理表による真理規則
S
で⊥0 ︶⑮
01⊥Si Sl (&)・(S) (S、)〉③ (SJ⊃(S) (S)≡(S)
11 P0 O1 O0
1000 1110 1011 1001
最後に,語用論における諸規則を説明しよ う。上記の意味論では「真理」という概念が 問題となったが,語用論では「検証」ないし
「確証」という概念が問題となる。真理その ものは絶対的であり,人間によって認識され るかどうかには関わりがないが,真理の認識 としての検証は相対的であり,特定の人間x
と時間tとに依存するのである。
真理そのものには絶対的と相対的の区別は なく,単に絶対的であるが,真理の認識とし ての検証は絶対的と相対的の区別が可能であ
る。相対的な検証の程度が次第に高まり,そ
の方向に想定される極限概念が絶対的な検証 である。したがって,絶対的検証は現実に示 されるものではなく,やはり理念的な存在性 格のものである。しかし,知識が絶対的に検 証されている(絶対に確実である)ということと,真であることを混同してはならない。
真理は主観から独立であるという性質をもっ 意味論の概念であるのに対し,相対的にしろ 絶対的にしろ検証は経験に依存するという性 質をもっ語用論の概念であるからである[永
井,1976,98−99頁]o
検証(確証)は真理の認識の意味であるか
ら,検証方法(確証方法)は真理条件そのも
のではなく,真理条件の認識である。それは 真理条件と区別して検証条件あるいは確証条件といわれるべきものである。したがって,
意味の検証理論でいうところの「意味」は,
意味の意味論的理論における「意味」すなわ ち「内包」ではなく,内包の認識である。検
証(確証)が真理そのものではなく,それの 認識であるのとまったく類比的に,検証理論 における「意味」は真理条件(内包)そのも
のではなく,真理条件(内包)の認識であり,
検証条件(確証条件)である。
語用論においても,形成規則と解釈規則か らなると考えられ,形成規則は構文論のそれ とまったく同じであるが,解釈規則は意味論 のそれとは異なる。意味論では,解釈規則は
指示規則と真理規則から構成されていたが,
語用論における解釈規則は,意味論における 指示規則および真理規則に対応して,記号と 解釈者との間の表現関係を規約する表現規則 と,文の検証条件を規約する検証規則からな る。検証条件とは文が検証または反証された ということのできる条件であり,真理表に類 似した検証表によって,検証条件を明示する
ことができる。それらの内容は次のとおりで
ある。
1 表現規則
表現規則の例を挙げると,次のように
なる。
(1)「A」は「この机は重い」という判
断を表現する。
② 「B」は「この椅子は重い」という
判断を表現する。
H 検証規則
ここでは,次のような真理表の検証表
への読み替えが必要となる。すなわち,
1は「真」ではなく「検証」の代わりに 用いられ,0は「偽」ではなく「反証」
の代わりに用いられる。例えば,否定文
〜(S)は,Sが検証される場合には反
証され,Sが反証される場合には検証さ れると読み替える。したがって,上記の 意味論における真理規則は次のように読み替えられることになる。
(1)〜(S)が検証されるのは,Sが反
証されるとき,そしてそのときに限る。
② (Si)・(Sj)が検証されるのは,
S,とSjが共に検証されるとき,そし
てそのときに限る。
(3)(S,)〉(Sj)が検証されるのは,
SiかS、か少なくともその1っが検証 されるとき,そしてそのときに限る。
(4)(S、)⊃(Sj)が検証されるのは,
Sが反証されるかS,が検証されるか
少なくともその1っであるとき,そしてそのときに限る。
(5)(S,)≡(S」)が検証されるのは,
S、とS」の検証値(反証値)が等しい
とき,そしてそのときに限る。
2 会計理論における構文論・意味論・語 用論
以上の記号論理学における構文論,意味論 および語用論の諸規則を念頭において,それ では,会計理論における構文論,意味論およ び語用論の分野を明確にし,各領域における
諸規則を解明してみよう。
前項で明らかにしたように,構文論は記号 と記号との間の関係を抽象して考察する記号 論の分野であり,会計理論において記号とは 主として勘定と考えられるので,会計理論に おける構文論は勘定と勘定との間の関係を抽
象して考察する分野であるということになる。
これは一般に会計構造論としてこれまで研究
されてきた分野である。
記号論理学における構文論は形成規則と変 形規則とに区分されたが,この区分を会計理 論における構文論に適用してみると,形成規
則における記号は,文記号として日付,借方,
貸方,勘定科目および金額が挙げられるであ ろう。これらは記号論理学における文定項に
相当するものである。また,結合記号として,
勘定形式としてのT字型フォーム,等式記号
(=),構造記号としての(+,一)および増
減記号としての(+,一)が考えられる。ここで,等式記号は会計等式の左辺と右辺とを
結合する記号であり,左辺と右辺においてそ れぞれ勘定系統を構成することになる。簿記 記帳規則を説明する際に,この等式記号の左 辺は借方を表し,右辺は貸方を表すので,そ れは記帳規則の基本的原則を規定する役割を 果たしており,そこにおける借方および貸方 を「借」および「貸」と示して「記帳基本記 号」と名づければ,この等式記号は記帳基本記号を派生する役割を果たしている。
構造記号とは各勘定学説における会計等式 において各会計構成要素が構造的に有してい る「+」または「一」の記号であり,例えば 資本等式[資産一負債=資本]において,資 産および資本は構造的にプラスの性質を有し ているので+の構造記号を付与され,負債は 構造的にマイナスの性質を有しているので一 の構造記号を付与されることになる。これに 対して,増減記号とは各要素が増減するとき に用いられる記号であり,当該要素が増加す る場合には「+」の記号が付与され,減少す
る場合には「−」の記号が付与されることに
なる9)。
さらに,記号論理学の形成規則における式
は,会計理論では会計等式に相当するであろ
う。記号論理学では,式は文記号と結合記号 を組み合わせて形成するものであり,これを 会計理論に適用してみると,会計等式はまさに主たる文記号である勘定と結合記号である
等式記号等を組み合わせて形成したものにほ かならないからである。例えば,資産,負債 および資本という文記号と,等式記号および構造記号を組み合わせて形成したのが[資産一
負債=資本]であり,資本等式である。そし て,これが会計理論において形成規則における式となるのである。
それでは,会計理論の構文論において,変 形規則とはどのようなものであろうか。記号 論理学では,変形規則に用いられる基本記号 に文記号,結合記号などがあったが,会計理 論においても上記の文記号,結合記号および 会計等式のすべてが用いられる。そして,そ の主要な規則が簿記記帳規則であり,その結 果として,各勘定学説における財務諸表が作 成されることになる。ここではいわば,会計 等式が記号論理学における公理となり,簿記
記帳規則が推論規則となるのである。
簿記記帳規則では,公理としての会計等式 を出発点として,記帳基本記号,構造記号お よび増減記号の結合記号が使用される。例え ば,純財産学説では会計等式は資本等式[資 産一負債=資本]であり,資産および負債に は記帳基本記号として「借」が付され,資本 には「貸」が付される。また,資産および資 本には構造記号として「+」が付され,負債
には「一」が付される。
この資本等式において,資産が増加する場 合,記帳基本記号が借,構造記号が+,そし て増減記号が+であるので,借(+,+)と なり,括弧内のプラスのプラスはプラスとな るので,借(+,+)は結局,借(+)とな る。これは借方にそのまま記帳するという意 味であり,したがって,純財産学説において は,資産の増加は資産勘定の借方に記帳され
るのである。これに対して,資産が減少する 場合には,記帳基本記号が借,構造記号が+,
そして増減記号が一であるので,借(+,一)
となり,括弧内のプラスのマイナスはマイナ スとなるので,借(+,一)は結局,借(一)
となる。これは借方の反対側に記帳するとい う意味であり,したがって,資産の減少は資 産勘定の貸方に記帳されるのである。他の勘
定の簿記記帳規則も同じ要領で規定される。
そして,かかる簿記記帳規則および会計等
式に基づいて,財務諸表が作成される。すな わち,簿記記帳規則に基づいて各取引が勘定 形式としてのT字型フォームに結合され,各 勘定がさらに財務諸表に結合されることにな る。この財務諸表を作成する際に,重要な役 割を果たすのが各勘定学説における会計等式 である。財務諸表はこの会計等式を基礎とし て最終的に作成されるのである。純財産学説 の場合,会計等式は資本等式[資産一負債=
資本]であるので,等式記号の左辺,つまり 資産および負債で財産勘定系統を構成し,等 式記号の右辺,つまり資本で資本勘定系統を 構成する。そして,各勘定系統が各財務諸表 を構成することになり,純財産学説の財務諸 表として,財産勘定および資本勘定が作成さ
れるのである。
それでは次に,会計理論における意味論に 目を向けてみよう。記号論理学では,意味論 は記号と指示対象との間の指示関係を抽象し て考察する領域である。指示関係は意味関係 であり,記号の指示対象に対する指示関係が 認識されるとき,記号の指示的意味が理解さ れることになる。さらに,記号の指示的意味 とは,記号が現実に存在する指示対象をもつ ための条件であり,記号の内包である。記号 が指示する条件が満たされれば,記号は(空 でない)外延をもっとか,現示するとか,真 であるなどといわれる。したがって,記号の 内包とは記号の指示する真理条件であり,記
号の外延とは記号の指示する真理値(真と偽)
である。空でない外延が真であり,空な外延
が偽である。
これらのことを会計理論に適用すると,会
計理論における主たる記号は勘定であるので,
勘定の指示的意味,っまり内包を考察するこ とが会計理論の意味論において最も重要な課 題となる。勘定の内包は一般に会計構成要素
の概念とよばれているので,会計理論におけ
る意味論の中心は会計概念論ということにな
る10)。
記号論理学における意味論は形成規則と解 釈規則とに区分され,形成規則はさらに構文 論のそれと同じであったが,会計理論の意味
論においてもこのことは妥当する。そこで,
問題は解釈規則であり,この解釈規則は指示 規則と真理規則から構成されているが,この うち,会計理論における指示規則は,例えば
米国財務会計基準審議会(FASB)の概念
ステートメントを例にとると,次のようになろう。
(1)「資産」は「過去の取引または事象の
結果として,特定の実体により取得また は支配されている,発生の可能性の高い 将来の経済的便益である」という命題を指示する。
(2)「収益」は「財貨の引渡もしくは生産,
用役の提供,または実体の進行中の主要 なまたは中心的な営業活動を構成するそ の他の活動による,実体の資産の流入そ の他の増加もしくは負債の弁済(または 両者の組み合わせ)である」という命題
を指示する。
そして,このような指示規則に対する真理 規則は,前項で示した「〜(S)が真である のは,Sが偽であるとき,そしてそのときに 限る」ということになる。しかしながら,こ の場合の指示規則に対する真偽の確定は文の 内包だけで真偽を確定する論理的手続で行う ことができず,真偽を確定するための経験的 手続としての検証の方法が必要となることに 注意しなければならない。論理的手続だけで
真偽が確定しない文を「事実的な文」もしく
は「論理不確定な文」というが,経験科学た る会計理論における文はほとんど経験的な文であり,事実的な文となるのである11)。
事実的文の真偽を「事実的真」および「事
実的偽」とよぶことにすると,事実的真か事 実的偽かを確定するための方法が検証の方法 である。しかし,ここで留意しなければなら ないことは,意味論の観点からは,事実的文
は真偽を論理的に確定することができないと
いうことがいえるにとどまり,検証という経 験的手続によって,事実的文の事実的真偽は 確定すべきであるということはいっていない ということである。意味論の範囲内では,事 実的文は経験的文であるともないともいうことができず,事実的真偽は経験的真偽である ともないともいうことができないのである。
文と経験との間の関係は記号と解釈者との間 の表現関係であるから,検証の方法論は語用 論に属し,意味論を超えているのである[永
井,1971,201−202頁]。
そこで,語用論の説明に移らなければなら ない。記号論理学では,語用論は記号と解釈 者との間の表現関係を抽象して考察する領域 である。表現関係もまた意味関係であり,記
号と解釈者との表現関係が認識されるとき,
記号の表現的意味が理解されることになる。
前述したように,語用論では「検証」ないし
「確証」という概念が重要となり,検証理論 における「意味」は真理条件(内包)そのも
のではなく,真理条件(内包)の認識であり,
検証条件(確証条件)である。
これらを会計理論に適用すると,会計理論 における主たる記号は勘定であるので,勘定 の表現的意味,つまり内包の認識を考察する
ことが会計理論の語用論において最も重要な
課題となる。勘定の内包の認識は主観と関係し,主観は会計目的と密接な関係を有するの
で,会計理論における語用論の中心は会計目 的論ということになる。したがって,語用論 においては,会計構成要素の概念は会計目的 から導き出され,さらに会計等式も会計目的から導き出されるのである。
記号論理学における語用論も形成規則と解 釈規則からなり,形成規則は構文論のそれと まったく同じであるが,解釈規則は表現規則 と検証規則から構成されていた。会計理論に おいても,形成規則はやはり会計理論におけ る構文論のそれと同じであり,したがって表
現規則と検証規則が問題となる。このうち,
表現規則は会計目的と密接に関係しており,
意味論を説明する際に示したFASBの概念
ステートメントを例にとると,次のようになるであろう。
(1)「資産」は「過去の取引または事象の
結果として,特定の実体により取得また は支配されている,発生の可能性の高い 将来の経済的便益である」という判断を表現する。
② 「収益」は「財貨の引渡もしくは生産,
用役の提供,または実体の進行中の主要 なまたは中心的な営業活動を構成するそ の他の活動による,実体の資産の流入そ の他の増加もしくは負債の弁済(または 両者の組み合わせ)である」という判断
を表現する。
この表現規則は具体的には資産や収益の概 念を表しているが,これが本来の意味での概 念であることに注意しなければならない。も ともと記号と概念との間の関係は表現関係で あり,概念は必ずだれかの概念であって,主 観的である。概念は記号によって表現される 思想・心像であり,それは表現的意味であっ
て指示的意味ではないのである。その証拠は,
会計構成要素の概念が各勘定学説において異 なっているということである。例えば,「資 産」という概念は純財産学説と損益学説とで
は異なっている。これは,両学説において,
「資産」という記号とその概念との関係が指 示関係ではなく,主観的な表現関係にあるか
らにほかならないのである。
そして,このような概念を規定した表現規
則に対する検証規則は,「〜(S)が検証され
るのは,Sが反証されるとき,そしてそのと きに限る」ということになる。会計理論にお ける文はほとんど経験的な文であり,事実的 な文であるので,その真偽を確定するために経験的手続としての検証の方法が必要となり,
これらの表現規則は経験的に検証ないし反証
されなければならない。
しかしながら,これらの表現規則が経験的 に検証されたからといって,その会計理論が 必ずしも正当化されるわけではない。会計理 論を正当化するためには,表現規則の経験的 検証に加えて,論理的検証が必要となるので ある。というのは,会計理論それ自体は会計 を対象としたメタ理論の体系であり,対象理 論の体系ではないので,語用論の領域におい ても論理的説明が是非とも必要となるからで
ある。
その場合の具体的な方法は,ある一定の会 計目的を前提とし,そこから派生して導き出 される会計構成要素の概念を論理的・言語的 に分析していくことであろう。これは現在の 論理学において行われている方法であり,そ
こでは,概念の主観性の問題を,概念それ自
体を心理的・思想的に扱うのではなく,概念 の内包と外延を論理的・言語的に扱うことに よって解決している。つまり,認識論上の諸 対象や諸観念を主観的・心的な体験や過程に 還元してそれらを心理学的要素や法則から導 出する「心理主義」では,事物を十分にとら えることができないとし,論理に依存して問 題を究明しようとする「論理主義」に立っているのである。
そして,そこでの中心的問題は,ある一定 の会計目的に基づいて概念規定された各会計 構成要素ないし各勘定の言語的性質(対象言 語かメタ言語か,もしくは対象勘定かメタ勘
定か)を解明し,ここから生じてくる問題点 を浮き彫りにすることである。これがここで
いう論理的検証であり,この論理的検証によっ て各勘定学説を最終的に判断・評価していく
ことになるのである。
3 経験科学と語用論
以上によって,論理学および会計理論にお ける構文論,意味論および語用論の領域をか なり詳しく説明してきたが,それではこれら の分野を全体的に統合しようとする場合,ど れが基本的な役割を果たすのかを最後に考え
てみよう。
論理学としての構文論と意味論は,それぞ
れ相対的に独立した部門として成立している。
しかし,認識の全体の視点に立つ認識論の見 地から考察するとき,構文論は意味論によっ て補完されることを前提条件として,はじめ て有意義な理論となる。例えば,構文論のみ
の視点に立ち,意味論による補完をまったく
考慮しないならば,証明可能な式は,まったくでたらめな変形規則のもとに,勝手に選ば れた公理と公理から導出された式にすぎない から,当然分析的な式である保証はない。意 味論と語用論の間にもまったく同様の関係が 成り立つ。語用論によって補完されるべく構 成される適切な意味論でないならば,科学的 認識として不毛な理論であるといわなければ
ならない[永井,1988,164−165頁]。
すなわち,構文論的方法は意味論的方法か
ら分離しては論理学としての性格は失われる。
そこで,構文論的方法は意味論的方法と統合 される場合にだけ論理学の方法としての具体 性が認められることになる。そして,両方法 が統合されたものは,再び意味論的方法なの である。しかし,論理学の具体的全体を考え
るとき,かかる意味論はなお抽象的であり,
語用論との統合を図らなければならない。そ
して,これらの方法が統合されたものが再び
語用論的方法なのであり,これによって,論理学は具体化を完了するのである。
語用論は解釈者との間の表現関係っまり主 観との依属・相関関係の考察が中心に据えら
れるが,記号過程内のいかなる関係も捨象さ
れないので,記号過程を考察する最も高次の具体的・全体的な視点である。したがって,
論理学において,構文論,意味論および語用
論の領域が相対的に独立しているとはいえ,
これらを全体的に統合しようとするならば,
語用論が最も重要であり,基本的な役割を果
たすことになるのである。
これとまったく同じことが,会計理論など
の経験科学にも妥当する12)。経験科学は技術
を通じて人間の生活にとって拒否することの できない価値をもっている。そこで,経験科 学を成立させるという目的が生じるが,これ は価値判断であるから,価値論の領域に属す る。この目的を実現する手段として,科学言 語は経験主義的でなければならないという具 体的価値判断が導かれ,この価値判断が経験 主義的言語の要請であり,経験主義の原則で ある。したがって,経験主義の原則は,理論 的立場から真理であると主張されるのではなく,実践的立場から実用的に価値が受け入れ られるのである。経験主義的言語という枠組 自体の妥当性は,真理値ではなく,有用性で
ある[永井,1962,124頁]。そこで,経験主義的言語という枠組の構成 は,意味論の枠内では不可能であり,語用論 の領域に踏み込まなければならない。なぜな
らば,「経験」という概念は主観への関係を
含む語用論の概念であるからである。そこでは,構文論は意味論を前提とし,意味論は語 用論を前提として構成されることになる。そ
して,このような構文論および意味論は語用
論に属すると考えることができ,これらの全体が語用論の理論となるのである。
これは,具体的には次のように行われる。
すなわち,意味論的方法で解釈された理論を 構成する場合に,明示的にか黙示的にか,経 験主義の立場に立っ語用論的方法によって構 成される理論と合致するように,形成規則と 解釈規則が選択される。解釈規則は経験主義 の立場に立っ検証規則と合致するように構成 されるのである。経験主義の立場に立っとい
うのは,言語を経験主義的言語に限るという ことである。経験主義的言語というのは,そ
の言語に現れるすべての記述的記号が直接的 にか間接的にか知覚的経験を表現している言 語であり,したがって,知覚的経験に対して表現関係にあるような言語である。
そこで,経験主義的言語の構成は意味論の 範囲を超え,語用論の観点に立たなければな
らないことになる。構文論はもちろんのこと,
意味論自体は経験主義に対して中立的である。
しかし,実際には,構文論は意味論を予想し,
意味論は経験主義的な語用論を予想し,それ と合致するように意図されるので,中立的で はない。っまり,科学は経験主義の枠組を仮 定しており,科学言語は経験主義的言語なの であり,全体として語用論の領域に属するの
である[永井,1971,245−246頁]。
したがって,経験科学としての会計理論で
は,個々の領域において構文論,意味論およ
び語用論が相対的に独立しているが,全体的 な観点からすると,経験主義的言語を使用す る語用論が基本的な役割を果たし,語用論に よって統合されるのである。具体的には,会 計目的論が会計理論構成の前提であり,この 会計目的論を基礎として,会計構造論および会計概念論が構築されるのである。そして,
経験科学である以上,会計理論は経験主義的 言語を使用し,全体として語用論の領域に属
しているのである。会計理論は語用論の体系
であるということを認識しておかなければな
らない。
皿 勘定学説の論理学的整理
前節では,会計理論における構文論,意味 論および語用論の領域を明確にし,これらの うち,語用論が基本的な役割を果たすことを 明らかにした。本節ではこれを受けて,いよ いよ,各勘定学説(純財産学説,貸借対照表 学説,損益学説および総勘定合計表学説)を
論理学的に整理することにしよう。その場合,
既述のように,会計理論では語用論が基本的 な役割を果たすので,各勘定学説の会計目的 をまず示すことにする。これは,語用論の表 現規則を導き出すための基礎となるものであ
る13)。
次に,かかる会計目的を所与として,各勘 定学説の構文論的説明を行う。これは一般に 会計構造論とよばれているものであり,具体 的には,構文論の形成規則として,各勘定学 説の会計等式を示し,これから派生する勘定 系統を明らかにする。そして,変形規則とし て,各勘定学説の簿記記帳規則を詳細に説明 し,その結果として作成される財務諸表を示
す。
そしてさらに,これまでの語用論的および 構文論的説明に基づいて,各勘定学説の意味 論的説明を行う。そこでの論点は会計概念論 であり,意味論の指示規則として,まず各勘 定学説における会計構成要素の概念を明らか にする。それから,これに基づいて各会計構 成要素の言語的性質および各勘定の言語的性 質を解明し,各勘定学説の論理的な問題点を
浮き彫りにするための契機としたい。したがっ
て,これは各勘定学説の論理的検証を行うための準備となるものである。
1 純財産学説
(1)語用論
純財産学説とは,会計目的を企業の純財産
を計算することにおく学説である。
② 構文論
純財産学説における会計等式は次のようで
あり,これは資本等式とよばれている。
資産一負債=資本
この資本等式の左辺は財産勘定系統を構成
し,右辺は資本勘定系統を構成する。したがっ
て,財産勘定系統には資産勘定および負債勘 定が属し,資本勘定系統には資本勘定が属する。そして,これらの両勘定系統によって,
企業の純財産が二重に計算されることになる。
純財産学説における簿記記帳規則は,資本 等式,記帳基本記号,構造記号および増減記 号から導き出される。ここでは,資本等式が
[資産一負債=資本]であるので,資産およ び負債には記帳基本記号として「借」が付さ
れ,資本には「貸」が付される。また,資産 および資本には構造記号として「+」が付さ れ,負債には「一」が付される。そして,各要素が増加する場合には,増減記号として
「+」が付され,減少する場合には「一」が
付される。
例えば,資産が増加する場合,記帳基本記 号が借,構造記号が+,そして増減記号が+
であるので,借(+,+)となり,括弧内の
プラスのプラスはプラスとなるので,借(+,
+)は結局,借(+)となる。これは借方に
そのまま記帳するという意味であり,したがっ
て,資産の増加は資産勘定の借方に記帳されることになる。また,資産が減少する場合,
記帳基本記号が借,構造記号が+,そして増
減記号が一であるので,借(+,一)となり,
括弧内のプラスのマイナスはマイナスとなる
ので,借(+,一)は結局,借(一)となる。
これは借方の反対側に記帳するという意味で
あり,したがって,資産の減少は資産勘定の
貸方に記帳されることになる。
他の勘定の簿記記帳規則も同じ要領で行わ れ,それゆえ,純財産学説における簿記記帳
規則は表2のようになる。
表2 純財産学説の簿記記帳規則
勘定科目 増減 結合記号 記号整理
記帳規則資産勘定
綜Y勘定
増加
ク少
借(+,+)
リ(+,一)
借(+)
リ(一)
借方
ン方
負債勘定
燕ツ勘定増加
ク少
借(一,+)
リ(一,一)
借(一)
リ(+)
貸方
リ方
資本勘定
走{勘定増加
ク少
貸(+,+)
ン(+,一)
貸(+)
ン(一)
貸方
リ方
純財産学説の勘定系統は,上述したように,
財産勘定系統と資本勘定系統である。これら がこの学説の財務諸表をそれぞれ構成するこ とになるが,それらはこの簿記記帳規則に基
づいて作成されることになる。したがって,
純財産学説における財務諸表は表3のように
なる。
表3 純財産学説の財務諸表
財産勘定 資本勘定
資産負債一 奄d ltielPt
純財産
(3)意味論
純財産学説における会計構成要素は,資本 等式から明らかなように,資産,負債および 資本のみであり,これらの概念は次のようで
ある。
(1)資産とは,具体的な交換価値を有する 諸経済財であり,企業の積極財産を表す。
② 負債とは,将来返済しなければならな い法的債務であり,企業の消極財産を表
す。
(3)資本とは,資産から負債を差し引いた 額であり,企業の純財産を表す。
これらの会計構成要素の言語的性質をみて みると,資産および負債は会計が認識すべき 言語外の経験対象たる財および用役を対象と
しているので,対象言語に属することになる。
これに対して,資本は対象言語たる資産と負 債との差額と定義したものにほかならず,言 語外の対象にっいて何ら語らずに,対象言語 について語っているので,メタ言語に属する ことになる。この場合のメタ言語性は,資本 が資産と負債との差引き計算の結果導き出さ れたものであるから,「差引き計算性による
メタ言語性」であるということができる。
そして,これらの会計構成要素を複式簿記 における勘定とみる場合,資産勘定および負 債勘定はやはり会計が認識すべき言語外の経
験対象たる財および用役を対象としており,
対象勘定に属することになる。これに対して,
資本勘定は財および用役の変動を直接対象と はしておらず,これらの変動を直接対象とし ている資産勘定および負債勘定を対象として
いるので,メタ勘定に属することになる。
この場合,資本勘定がメタ勘定に属するこ との直接的な原因は,損益取引や混合取引を 資産勘定および負債勘定に記入するのみなら ず,それを資本勘定にも再度記入することに よる。したがって,この資本勘定のメタ勘定 性は,「再記性によるメタ勘定性」であると
いうことができる。
2 貸借対照表学説
(1)語用論
貸借対照表学説とは,会計目的を企業の総 財産および総資本を計算することにおき,企
業の財産状態を表示しようとする学説である。
② 構文論
貸借対照表学説における会計等式は次のよ
うであり,これは貸借対照表等式とよばれて
いる。
資産=負債+資本
この貸借対照表等式の左辺は財産勘定系統
を構成し,右辺は資本勘定系統を構成する。
したがって,財産勘定系統には資産勘定が属 し,資本勘定系統には負債勘定および資本勘
定が属する。そして,これ らの両勘定系統に
よって,企業の総財産および総資本が計算さ
れることになる。
貸借対照表学説における簿記記帳規則は,
貸借対照表等式,記帳基本記号,構造記号お
よび増減記号から導き出される。ここでは,
貸借対照表等式が[資産=負債+資本]であ
るので,資産には記帳基本記号として「借」
が付され,負債および資本には「貸」が付さ れる。また,資産,負債および資本のすべて
に構造記号として「+」が付される。そして,
各要素が増加する場合には,やはり増減記号
として「+」が付され,減少する場合には「一」
が付される。
例えば,負債が増加する場合,記帳基本記 号が貸,構造記号が+,そして増減記号が+
であるので,貸(+,+)となり,括弧内の
プラスのプラスはプラスとなるので,貸(+,
+)は結局,貸(+)となる。これは貸方に
そのまま記帳するという意味であり,したがっ
て,負債の増加は負債勘定の貸方に記帳されることになる。また,負債が減少する場合,
記帳基本記号が貸,構造記号が+,そして増
減記号が一であるので,貸(+,一)となり,
括弧内のプラスのマイナスはマイナスとなる
ので,貸(+,一)は結局,貸(一)となる。
これは貸方の反対側に記帳するという意味で あり,したがって,負債の減少は負債勘定の
借方に記帳されることになる。
他の勘定の簿記記帳規則も同じ要領で行わ れ,それゆえ,貸借対照表学説における簿記 記帳規則は表4のようになる。
表4 貸借対照表学説の簿記記帳規則
勘定科目 増減 結合記号 記号整理
記帳規則資産勘定
綜Y勘定
増加
ク少
借(+,+)
リ(+,一)
借(+)
リ(一)
借方
ン方
負債勘定
燕ツ勘定増加
ク少
貸(+,+)
ン(+,一)
貸(+)
ン(一)
貸方
リ方
資本勘定
走{勘定増加
ク少
貸(+,+)
ン(+,一)
貸(+)
ン(一)
貸方
リ方
貸借対照表学説の勘定系統は,上述したように,財産勘定系統と資本勘定系統である。
貸借対照表学説では,これらが結合して貸借 対照表を構成する。したがって,この学説で
は,貸借対照表が唯一の財務諸表となるが,
それはこの簿記記帳規則に基づいて作成され,
表5のようになる。
表5 貸借対照表学説の財務諸表 貸借対象表
資 産 負 債 資 本
(3)意味論
貸借対照表学説における会計構成要素は,
貸借対照表等式から明らかなように,資産,
負債および資本のみであり,これらの概念は
次のようである。
(1)資産とは,企業に投下された資金の具
体的表現であり,企業の営利目的に対する手段として活動している諸財貨である。
② 負債とは,企業外部から企業に投下さ れた資金の源泉のうちの他人資本持分で
ある。
(3)資本とは,企業外部から企業に投下さ
れた資金の源泉のうちの自己資本持分である。
これらの会計構成要素の言語的性質をみて みると,資産は会計が認識すべき言語外の経 験対象たる財および用役の変動を逐一把握す