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(1)

経営と環境

101

環 境

1 序

∬ 現代の経営環境  1 経営環境の概念  2 経営環境の内容 皿 経営環境と社会価値  1 社会の価値

 2 価値に対する経営の作用 IV 経営環境の動向

 1  豊かな社会 から 脱工業社会  2 経営環境の国際化

1 序

 現代の経営は1世紀前の経営に比して,はるかに複雑で錯綜した経営環境のただ中に位 置する。経営が直面する環境構成要素ないし環境主体の種類は増大しており,これら主体 が経営に対して呈示する要請の内容も多様化している。とりわけ,社会的環境を構成する さまざまな人間集団が経営に対して抱く期持は,技術の進展を主要な契機としての社会価 値の変化に伴い,大きく変化してきており,また将来も変化の傾向にある。

 経営が今後ともその存続と発展を指向せんとするならば,それは伝統的な市場環境にの み留意するのみでは十分ではないのであり,ますますその環境とのトータルな関係に留意 せねばならない。東南アジア諸国や欧米諸国へのわが国企業の進出が物語るが如き,経営 環境の国際化への傾向は,環境問題の意義のかかる増大に拍車をかけるに到っているので        注(1>

ある。本稿では,スタイナーの所説を中心に経営と社会との関係を眺めることで,経営環 境問題の理解への一助としたい。

注(1)George A. Steiner, Business and Society,1971.

(2)

]1 現代の経営環境

 1 経営環:境の概念

 経営ないし企業の環境をどのように理解するかは,論者によって必ずしも同じではない。

経営になんらかの形で影響を及ぼしその存続と発展に係わりあうような要因をもって経営 の環境とみる点では論者の見解は軌を一にするとみてよいが,環境の内容や分類の点では さまざまな見方が存在するのである。

 例えば,S. D.ウォルトンは企業の環境について,〈経営環境  企業の生命と発展に影       注(1)

響を及ぼす外的な条件と影響のすべて として定義し,その内容として経済的,社会的,な らびに政治的な諸環境を挙げる。ここに経済的環境とは,さまざまに分類しうる種々の市場 を,社会的環境とは顧客,財・貨幣・労働の供給者,競争者,同業組合と商工会議所,地域社 会グループ,ジャーリス♪等を,政治的環境とは行政・立法・司法・選挙の政治的諸プロ セスの産物でありそれらに含まれるところの,政府の官僚と機関,立法機関,および法と       注(2>      注(3)

憲法を意味する。ライスは外部環境および内部環境なる概念を用いるとともに,企業の一 般的な環:境的制約として政治的,経済的,法的,および社会的な制約を,ならびに特殊な        / 制約として人的,自然的,科学的,および技術的諸資源を挙げている。

 また,デヴィスらは企業をとりまき企業に対してなんらかの形で係わりあいをもつよう な,ひとびとのグループに焦点を当て,これらインタレスト・グループを経営の環境とみて いると解しうる。この場合,デヴィスらは経営と相互に作用しているインタレスト・グル ープについて,1世紀前の企業の場合,それは投資家,顧客,および従業員とのみ主とし て関係しており,他には政府と宗教が政治的ならびに道徳的な規制を企業に比較的弱い形 で及ぼしているに過ぎなかったこと,また,今日の企業の場合,政府,顧客,科学者と専 皇家,経営者,投資家,労働,事業者団体,売り手,地域社会,およびパブリックその他

(これは,公益と呼ばれる理想化された規範を,および,農業,少数派人種のグループ,

自然保護主義者,ジャーナリスト,ニューズ媒体,教育者,非営利財団,教会,医療機関 等の如き他のすべてのグループを意味する)がインタレスト・グループとして存在するこ

    注(4)

とを指摘する。

 かくの如く,経営環境の整理に関しては,経営の社会的環境に注目し環境を経済・社会

・政治の如く社会の機能的プロセスに従って分ける見方,また,技術,自然,人口の如き,

社会的環境を規定或いは構成する諸要素をも環境としてとり上げる見方,環境を内部,外・

部という観点から区分する見方,更には,経営と人間集団との間の機能的関係に重点を置 いて環境を整理する見方,等がそれぞれ独立に,またはその幾つかの組み合わせという形 で存在する。

 経営環境の把握・整理はこのように,さまざまな形でなされうるが,経営環境とは要す

(3)

 経営と環:境        1⑪3

るに,経営に影響を及ぼす外的要因の総計であり,されば経営政策的観点からは環境の整 理に際しては,経営の存続・発展にとり,より厳密には経営の目的達成にとり無視しえぬ 要因が明確に示されればよいであろう。この意味では,環境を社会の機能的プロセスの区 分に従い経済・政治・社会等の如くに厳密に分類することは必ずしも必要でない。また,

外的要因としての環境を内部・外部に分けることも場合によっては適切であるし,更には,

自然の如き要素をも環境に含めることも可能である。経営と社会との関係が緊密になり経 営にとりその社会的責任が重要となってきている今日では,環境要因のうちインタレスト

・グループにとりわけ焦点を当てるような分類も意義を有しているのであって,この種の 環境概念は今後,その有用性を増すであろう。ついでながら.内部,外部という区分につ いて付言するならば,株主は環境の内部に位置させられもすれば,ときには外部に位置さ せられもするが,株主の外部性もしくは内部性のいかんは,用いられる区分基準に応じて 異なりうるであろう。かかる区分基準としては,経営の法律的な形態,経営の目的(経営 と環境構成主体との関係),或いは,資本と労働の組織としての経営観といった種々のも のが用いられうるのである。

 高田教授も環境の定義に関連してつぎのように主張しておられる。「環境について,通 説的定義の特徴は,外在性(externality)と関連性(relevance)であるとみられる。

もともと,環境の定義は「とり巻くもの,包むもの,囲むもの」であるから,外在性は 当然であるが,環境を「内部環境と外部環境」に区別することについては,適当な境界

(boundary)を設けて区別することを非難・否定はしないが,環境の本来的性格たる外 在性を生かすように解釈するとすれば,内部と外部の区別は,主体の立場の相違によるも のであると考える。「包まれるもの」の立場からみれば,環境はつねに外在的である。し かし,さらに根本的に考えると,内外区別にとらわれることなく,〈環境とは,行動主体       注(5>

にとって関連性をもつ変数の集合である〉と定義できる。」「環境は主体にとって関連性 ある変数の集合と考えても,問題は,この関連性(relevance)の存否,程度を判定する 基準が必要である。この基準は,実は,主体が抱く目的である。目的には理念と目標が含        注(6)

まれるが,これが関係性判定の役割を果たす。」また,経営環境の内容に関して,つぎの ようにも述べておられる。「私は,基本的に,自然環境と人工環境に区別し,人工環境の うちには,経済的,政治的,社会的,技術的などの区分を含めて考えたい。このような内 容と区分はすべての個人,組織体に妥当するであろう。もちろん,これだけの規定では十 分でない。とくに組織体については,特殊具体の目的にしたがって内容規定をしなければ ならない。とくに,企業という組織体の環境については,私は取引関係という概念を重用 しなければならないとおもう。すなわち,財務諸表なかでも損益計算書の背後にある主体        注(7)

との関係を重視しなければならないとおもう。」

 2 経営環境の内容

 経営環境の具体的内容は,既に眺めたところの幾つかの環境概念のうちにかなりに明ら

(4)

かである。現代の経営環境は,複雑に錯綜したさまざまな要素から構成されるとともに,

経営の種類によってそのような要素の作用の程度は異なるであろう。

      注(8)   注(9)

 スタイナーは経営環境の内容を,および経営特質と環境要因の関係を図1および表1の ような形で示している。かれの説明はつぎのようである。

図1 経営とその主要な社会的相互関係領域(スタイナー)

世界の出来事

   ↓

過去の歴史→経済体制

経 営  都

 市

活   人   口

技術工学←将来の期待

現在の混成およびその変化

(5)

経営と環境

105

表1 経営と社会の連鎖を考えるに際して重要であるような    経営特質のタイプ(スタイナー)

経営の特質 イムパク

トの領域

国 多 国

  都   立   都   立

社会的責任履行 短期利潤最大卵

子   権   的 分   権   的

権威主義的管理

許 容 的 管 理

高度の技術工学 低度の技術工学

政府が主要な顧客 政府に規制された耐 久財製造者

非耐久財製造者

 際

国  籍

 内  市  市

畑江社技イ個個完対対教生コ人

府任安学1得感策策策育質活布

 図1は経営と社会の間の相互関係を示す。経営にとって重要な他の領域としては,天候,

天然資源,軍事的出来事,医学,地理,および農業が含まれよう。図は過去の歴史が社会 の諸要素の現在の混成(current mix of elements in society)にイムパクトをもつこ とを示す。混成と,その変化の方向はまた世界の出来事によって,および現在社会で生じ つつあるところのことによって影響される。変化は将来の期待によって同様に影響される。

 経営と社会の間の多くの相互関係を調べるにあたっては,経営の間で区別をせねばなら ない。表1は,経営と社会の間の相互関係の包括的な理解のために探究されねばならぬマ

トリックスを示す。垂直欄には異なった経営特質が,水平欄には,経営によって影響され また経営に影響するところの,社会の領域の幾つかが示される。例えば,経営の社会的責

(6)

任を論ずる場合,大会社にとり真であるようなことは極く小規模の会社には全くあてはま らないかもしれない。もしくは,外国為替政策は多国籍会社にとり高度に重要であるが,

      注⑩ 国内の小規模な製造者の関心を殆んどひかない。

 スタイナーの図と表は,必ずしも経営環境を網羅的に示すものでもなければ,特定の経 営にとり重要な環境要因を説明し尽すものでもない。それにも拘らずスタイナーの所説は,

複雑な経営環境への適応を現代の経営が指向するに際して有力な手掛りを与えるであろう。

注 (1)Scott D. Walton, Arnerican Business and Its Environment,ユ966, PP.11〜12.

  (2) 工bid.,P.ユ2 ff..

  (3)A.K. Rice, The Enterprise and its Environment,ユ971, Pユ0.

  (4)王(eith Davis and Robert L. Blornstrom, Business, Society, and Environment:

  Social Power and Social Response, Second Edition,1971, PP.20〜21.

 (5)高田馨稿,「組織と環境」,大阪大学経済学,Vo1,21, NQ.4, P,24。

  (6)同稿,p.24。

  (7)同稿,p.14。

  (8)G.A, Steiner, oP. cit.,P.8.

  (9) Ibid.,P.9.

  (10) 工bid.,P.7.

皿 経営環境と社会価値

 1 社会の価値

 前節では,現代の経営環境について眺めてきたのであり,その大凡の概念が明らかにさ れた。ところで,経営は社会の所産であり,その存続は社会のひとびとの期待の充足の程 度にかなりに依存するとともに,社会のひとびとの期待は,かれらが抱く価値と密接に結 びつく。経営が環境に適応するためには,それはとりわけ社会のさまざまな人間集団の期 待に応えねばならず,根本的には社会の価値にかなわねばならないのである。されば,社 会の価値は経営の基本的な環境を形成するといいうる。本節では,このような社会価値に ついて検討を加えることによって,経営環境の概念を更に明らかにすることにしたい。は

じめに,現代の社会価値はどのようなものであるかを眺めよう。

 スタイナーは,経営と社会の間の関係の基本的な決定要素が社会の保持する価値である こと,価値は社会を結び合わせているにかわであるとともに,それは固定的なものでは

       ●    o   ●

なくその変化とともに社会とその制度は変化し,経営はかかる変化を鼓舞する主要な触媒          注(1)       注②

であることを指摘する。そして,かれはベイアーとレッシャーに従いつつ,価値は社会の るあらゆるものの重要性の判断基準を設定するのであり,ひとびとの目的と目的達成のた        注(3)

めの手段とを設定するのであって,行動へのガイドであることを挙げる。

 社会で一般に認あられ広まっている価値はアメリカの場合,ベイヤーらによるとつぎの

(7)

 経営とi環:境       

107

       注(4)

ように表示されるが,スダイナーは,また,社会の価値は相互に重なるかもしれぬような 多数の副次的な組からなるとする。つまり,それらは例えば法律的価値一社会が法制化 によって維持せんと願う価値であり,社会が強制せんと願う価値一,道徳的価値一社会 が道徳的説得や賞賛,等によって強制と普及を欲する価値一,経済的価値一市場価格,

株主の優越性,利潤動機の意義の如き,経済機構の作用に付随する価値一,宗教的価値,

偏見一一情緒的水準の価値もしくは価値判断一から構成されるとされる。また,価値は        注㈲

その存在を確認するための経験的観察が可能であるとされる。

       表2 米国の価値についての試案的表示(ベイヤーら)

 1 自己指向的価値

  A 個人の【物質的 厚生(生活への権利,および幸福の追求)

   1.健康(肉体的ならびに精神的安寧)

   2.経済的な保障と安寧C物質主義 とアメリカ的生活)

   3.個人的保障(生活の条件の安定)

  B 自尊(入間として,ならびにコミュニティでの良き地位あるメンバーとして扱わ

   

   れる権利;名誉,名誉あること)

  C 独立独行(自己充足,厳しい個人主義,および開拓者の伝統)

  D 個人の自由C多分自身の生活を形成すべく , 噛分自身の生活の主要な局面を    解決すべく ,および,自分自身の運命の主要な局面を解決し自分自身の道を行く    べく努める権利)

   1. 自由(干渉からの)

   2。 プライバシィ    3.所 有 権

  E 自己の進歩( 成功 ,大志,精励)

  F 自己の充実(および更幸福の追求   G 熟練と勇気

   1.智的な徳(知能,教育,知識,現実主義,実用性,多芸多才)

   2.肉体的な徳(力,機敏さ,持続,良い容姿,清潔)

   3,意志の徳(性格の強さ)

a.

b.

C.

d.

e.

激しい仕事を喜んでやること(勤勉)

タフさ(堅忍不抜,忍耐,勇敢,勇気)・

イニシアティブと行動主義( go getter アプローチ)

自己統制(節制,真面目)

忍耐と不動性

4.能力(手際についての誇り)

5.発明の才と革新性

(8)

  6.イニシアティブ( セルフ・スターター )

  7.情報に通じていること(情報への接近,くヒ内情に通じて いること)

  8.信仰C価値感をもつこと を含めて,くくなにかを信ずること )   9.鑑賞と鑑賞眼があること( 人生のよきもの の)

皿 グループ指向的価値

 A 相当な社会的地位のあること(グループによる受け入れ,非難の回避,良き評判,

  適合,楓習にあっていること ,および 群居本能 )

 B 正しさと個人的道徳(正直,公正たること,誠実,信頼性,真実に充ちているこ   と,信頼に値されること一名誉ある人間

 C 妥当と合理性(客観性)

 D 家庭的徳(愛,家族の役割への誇り,倹約,質素,節約,慎重)

 E 市民的徳(係わりあい,良き市民たること,順法,市民の誇り一撮も偉大な小   邑 症候群)

 F 良心的たること   1.家族,義務への専念   2.個人的責任と説明義務

  3.原則への専念(とりわけ自分の宗教のそれへの一くく神を恐れる人間  G 友情と友交

  1.本来の友情

  2.忠誠(友,仲間への)

  3.友交,親切,助力,協力,および丁寧(良いやつ;駅人々と仲良くやっていく    こと )

  4.仲間感(同情,共感,【く仲間愛

  5.社交性

  6.受容性に富むこと(オープンなこと,忍耐強さ,くく良き聞き手   7.個人的寛容C生き,生かせよ , 人々と折り合っていくこと )   8. 忍耐強さ

 H 奉仕(他者の福利への専念)

 1 気の大きいこと(慈善,気まえのよいこと)

 J 理想主義(人聞の問題を人間で解決することへの信頼)

 K 認識(人生のゲームで高得点を挙げているという正当なパブリックの評判を得る   こと;成功と地位)

 L 打ち明けた状態(率直さ,オープンたること,誠実,真正さ;ものごとを【喧公明   正大に すること,公正な取引)

 Mフェア・プレイC㌧良きスポーツ

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経営と環境

皿 社会指向的価値

 A 社会的厚生(実に, 社会意識 のようなもの)

 B 平 等   1.寛 容

  2.喝くフェア・プレイ ,公正   3.公民権

 C 正義(合法,適切な手段,償還請求権)

 D 自由( 開かれた社会 ;種々の 自由 )  E 秩序(公共秩序, 法と秩序

 F 機会C機会に充ちた土地 なる概念;すべてのものの公平な処遇)

 G 慈善Cく敗残者 への援助)

 H 進歩主義,楽観主義(社会がその問題を解決する能力への信頼)

 1 【尾われわれの文明 およびくくわれわれの生き方 への誇り IV 国家指向的価値

 A 愛国的徳(国家愛,国家への献身,国家への誇り)

  1。国の自由と独立   2.国の繁栄と達成   3.愛国主義と国への誇り   4.国の厚生への関心   5.忠誠(国への)

  6.盲目的愛国主義(ナショナリズム,国の力と卓越性への誇り)

 B 民主々義と喝更アメリカ的やり方

 C 国(民族)への奉仕の意味での℃く公共への奉仕 V 人類指向的価値

A  人類の福祉  1.平 和

 2.物質的な達成と進歩

3.文化的ならびに智的な達成と進歩 B 人道主義と 人間の兄弟愛

C 国際主義

D く汰類共同体 の達成への誇り E 生命への尊敬

F 人間の尊厳とく個人の価値 VI環境指向的価値

 A 審美的価値(環境の美)

109

(10)

  B 新しさ       〆

 価値についてのべイヤーらの表はあくまで米国を対象とするものではあるが,それは現 代の経営環境の基底にある社会価値の多様性を理解するに際して有益であろう。むろん,

そのような価値は,スタイナーが示すような種々の範疇に分類することも可能である。経 営をめぐるさまざまな人間集団は,特定の諸価値の実現を意図して経営と接触するととも に,経営組織への接触の程度の高い集団は,多様な価値の実現を経営に期待する。要する に,経営はその存続のためには,社会価値の尊重,助長,および実現に努めねばならない のである。      

 2 価値に対する経営の作用

 社会価値が経営の基本的な環境を形成することは既に指摘した如くであるが,経営もま た環境に作用するのであり価値に影響を及ぼす。つぎにこの点を,スタイナーに従って眺 めよう。

 スタイナーは,経営がテクノロジイの展開を通じて社会の価値に大きな影響を与えるこ

  注(6>

くを図2の如く示している。

図2 価値変化を引起こすとともにそれによって影響を受ける          主要な勢力についての概念的モデル(スタイナー)

経  営

政  府

大  学

民間の個 人的努力

研究と

開 発 話 技術

経済的、社会的 政治的、軍事的 宗教的ならびに 智的な勢力

 図はスタイナーによると,経営と社会の価値の間の相互作用の簡単な概念的モデルを表 わすとされ,以下のように説明される。

 左から始まって図は,多様な勢力と制度が研究と開発に影響することを示す。競争と政 府の援助とによる刺激の下で,また,学界開発の知識と民間の個人的努力とによって支え られて,経営は研究と開発の主要な生産者である。研究と開発は新しいテクノロジイない

(11)

経営と環境

111

し技術へと導くが,新しい技術とはものごとを行なう新しいやり方であって,かかるやり 方は,ひとびとに開かれた選択を変え,かれらの生活方法に影響を及ぼし,かれらがもつ 価値に関するコストとベネフィットを変える。結果として,個々のひとびとの,および社 会全体の価値に修正が生ずるのである。

 モデルは,経済的,社会的,政治的,宗教的,ならびに智的な諸力が直接に,新技術の 開発と用途に影響を及ぼすとともにそれらに影響されることを,および,そうした諸力が プロセスにフィード・バックし,研究と開発の量と方向に影響することを示す。図はまた,

新しい技術が社会の他の変化と並んで社会の価値に影響すること,および,一度価値が変 化するや,研究と開発の範囲と方向,新しい技術とその用途,および社会における社会的,

宗教的ならびに他の諸力へという形でモデル全体にそのイムパクトがもたらされることを 示している。更にモデルは,持術変化の惹起に際しての経営以下の四つのものの重要性を,

わよび,大きな戦争のない場合,新技術が今日では社会価値変化のより重要な決定要素た        注(7)

ることを強調する。

 新しい医学的発見が寿命の延長を,そしてそれにより生活方法と価値との変化をもたら したように,技術はひとびとの生活方法に新しい選択を与え,結果としてかれらの価値を 変化せしめるのであるが,スタイナーは,前述のベイアーらの所説を参考に,こ の点につ いてつぎのように指摘する。

 すなわち,もし,選択における変化が比較的に小ならば,変化は,既存の価値構造に殆ん ど緊張もしくは修正をもたらすことなく調整されるであろう。生活の方法の変化が累積す るならば二つの緊張のうちの一つが,国民的な価値体系にもたらされる。第一に,もし旧 い生活方法が破壊されるか新しい生活方法が多くのひとびとにとり受け入れ可能でないな らば,そしてもし技術が既存の価値体系によって是認されるか,禁止されていないならば,

結果は価値体系の変化への圧力であろう。いくつかの旧い価値は廃棄されるか格下げされ,

幾つかのそれらは格上げされるかもしれず,幾つかの新しいそれらが導入されるかもしれ ないのであり,新しい条件をよ り受け入れ可能たらしめるようにこのことが生ずるのであ る。第二は,もし新しい生活方法が,受け入れ可能ではあるが旧い価値体系に反しているな らば,傾向は,新しい生活と対立する価値体系部分の拒絶,新しい生活方法への満足を反映 する新しい価値の発見,もしくは,新しい受け入れ可能な生活方法に対応すべく旧い価値 を再調整することである。例えば,1人当り所得の上昇はより多くのレジャーを可能なら

しあ,ひとびとは労働と達成なる価値に関連してレジャーをより高く評価するようになっ ている。また,自動車は,快楽,時間,自己信頼,権力,プライバシィ,新しさ,便利さ,

人間の尊厳に関する諸価値を格上げするとともに,愛と愛情,合理性と論理性,家族への 献身,法と秩序,干渉からの自由,自然美,生命への尊敬の心,および丁重さを格下げし

    注(8)

たのである。

 経営,テクノロジイ,および社会価値の間の関係についての以上のようなスタイナーの

(12)

所説は,環境と経営とが相互作用的関係にあることを示している。経営は環境によって規 定されるとともに,反面では環境を規定しているのである。

注(1)工bid.,P.87.      ・

  (2)Kurt Baier and Nicholas Rescher eds.,Values and the Futu.re,1969.

  (3)G.A. Steiner, oP. cit.,P.88.

  (4)K.Baier and N. Rescher, oP. cit.,PP.92〜95 in G. A. Steiner, oP. cit.,

   pp.88〜91.

  (5) Ibid.,P.92.

  (6> Ibid.,P.93.

  (7) Ibid.,PP.92〜94.

  (8) Ibid。,PP.96〜97.

IV 経営環境の動向

 1 く豊かな社会 からく脱工業社会 へ         ・

 経営環境は絶えず変化を遂げていくのであり,環境に対して経営が適合しうるためには 環境の本質的動向の予測が不可欠である。本節では,経営環境の動向についてみていこう。

 さて,現代の産業社会が今後どのような社会へと推移するのかという問題をめぐり,さ まざまな論議がみられることは周知の如くである。スタイナーはそのような推移を【豊か な社会 からく脱工業化社会 へという形で把えており,以下,かれの所説を追うことに

する。

      注(1)

 スタイナーはかのガルブレイスにならって,現代の社会を賦豊かな社会 と呼ぶ。それ は,一方では豊富と富裕を,他方では貧困と乏しさをもつ社会である。すなわち,今日の社会 は一面では,GNPの高い生産性と個人当りの高い分配所得を特徴とするとともに,他面       注②

では,減少しつつあるとはいえ多くの貧困者の存在を特徴とするのである。

 そのような社会の主要な問題とはスタイナーによると,ガルブレイスのいう私的セクタ ーと公的セクターとの間の資源配分の不均衡である。周知のようにガルブレイスは,今日 の経済社会はもはや生産それ自体に専念すべきでなく,経済システムの生産物のよりよき 配分に配慮をすべきこと,つまり,社会的不秩序の原因たる,私的に生産される財・用役

と,教育や病院のような公的に生産されるそれとの間のより良き賦社会的バランス が必 要たることを指摘する。スタイナーは,ガルブレイスの主張点に同意し,豊かな社会は社 会問題の解決,個人の生活の尊厳と質,および各人の生活の迅速な改善に,より注意を払う        注(3)

べきであって,その目標を再考することが肝要であることを指摘する。

 そしてかれは,大きな戦争や政治変動がないならば現在の豊かな社会はもっと別種の社 会に移行するとみるのであり,現在既に認められ将来へと継続するであろう主要な傾向と,

生起の可能性が高い出来事とから1980年以降の世界の像を示さんとする。

(13)

経営と環境 113

 すなわちスタイナーは,1980年以降の世界で経営と社会に重要でありうる,米国内の非       注(4>

軍事的な主要な傾向と出来事として70のものを表示しているが,表の内容を要約的に示せ ば,つぎのようである。

  A 国民経済の傾向

 1.GNPと労働者1人当りGNPの成長。貧因の除去。2.経済活動のよりサービス指 向化。3.週労働時間の減少。

  B 政府セクター

 4.連邦支出の増大,G:NPに占めるその割合の多少の増大。5.公的セクターへの財と 用役の産出のかなりの増大。6.社会の主要な制度間の,とりわけ連邦政府,州政府,地方 政府,教育制度,および大企業間の相互依存の増大。7,研究・開発支出総額の増大とその 成長率の鈍化。非国防的研究・開発への連邦政府支出の増大。8.運営と管理から目標設定,

投資,触媒化,測定,および標準設定への,政府プログラムの移行。

  C 人   ロ

 9.米国の人ロの増大。10.24才以下のひとびとの割合は人口の50%よりも僅かに少。

  D 社会的価値

ll.一方での今日の価値の継続と,他方での重要な価値変化。,社会的公正,美学,人道 主義,社会意識,個人の快適と保障,レジャー,国際主義のような価値の強調の増大と,

門下,愛国主義と国民的誇り,市民的誇り,労働の倫理,物質主義,服従,集権化,およ び権威の強調の減少。ユ2.生活の質を測る社会的指標の存在。

  E 技 術 的

ユ3.STOL と VSTOL タイプの巨大旅客機の製作。14.新材料による衣類の製造。

15.信頼しうる長期的な天気予報の可能性。16.遺伝的ならびに先天的な欠陥の制御の可能 性。17産業における広範な自動化。18.食物と鉱物のための大洋開拓。ユ9.安価で信頼しえ 副作用をもたぬ産児制限方法の利用可能性。20.銀行勘定のリアル・タイム・オートメ化。

21.効率的,迅速かつ安価な地底トンネル掘穿機械の使用。22.効率的な自動車スモッグ 制御装置および,もしくは無スモッグ自動車エンジンの使用。23.世界的なTV放映。24.

老化過程のよりよき制御と寿命増大。25.長寿命で小型,強力な蓄電池。26.小型コンピュ ーターの利用可能性。27.海水の安価な脱塩。28.宇宙基地の普遍化。29.ティーチング・

マシンの広範な使用。30.コンピューターによる医学診断。31.プラスチック臓器移植の普遍 化32.熱核動力の民用化。33.新しい強力軽金属。34.モデュラー家屋の普及。35.多くの 食物の合成的製造。36.より多くの会社における,技術と技術予測へのより多くの強調。

異分野からの新技術出現の増大と,急速な技術変化の継続。37.精神状態制御薬の普及。

  F 教   育

38.より学習社会化。生涯教育。39.教育システムの急速な拡張と改善。高等教育機関 在学者の増大。40.巨大な市場としての教育。教育支出の増大。41.経営者の定期的再訓練。

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42.政府と教育機関の革新的役割の増大と,社会における第一次的な動機づけ勢力として の企業の相対的衰退。

  G 経営管理

43.製造への集中から環境関連戦略への,強調の移行。44.他の経営職能に比しての,長 期計画への強調の増大。45経営による環境評価に際しての,社会価値変化予測の重要性 の増大。46.コンピューターに伴う,ミドル・マネジメントの仕事の大きな変化。47.仕事 における自己表明と自己充足への,個人とりわけ管理者の期待の増大。組織における人々 の役割の優性化。48.従業員の動化の増大と,使用者もしくは会社への忠誠の減少。49.幾 つかの会社による教育担当副社長の採用。幾つかの大企業と大学による合同的な授業科目

と単位。50.人間資産のための勘定体系の,大部分の会社による採用。5L主要な利潤追求 機会の認識,政府による資金援助,および利潤と直接に関連なき社会的責任の受け入れに よっての,社会問題解決への経営による係わり合いの増大。52.とりわけ社会問題処理に 関しての,経営への政府の影響の増大。53.コンピューター,ビデオ・テープ,有線テレビ といった,コミュニケーション・システムの急速な変化がもたらす,情報システム,広告,

意志決定方法の大きな変化。54.意志決定プロセスでの,管理者と専門家の組み合わせの 利用の増大。55.コンピューター使用の急速な拡張の継続。56.経営の計画と政府計画の間 の収敏の継続。完全には統合されず。57.経営者の意志決定用具の拡大と鋭利化。しかし,

差し引きしての経営者の仕事の複雑性の増大。58。より弾力的にして変化適応的な明日の 経営者。経営決定の非階層帰属性の増大。59.急激な変化への調整の困難さに基づく,全 経営レベルでの主要問題の存在。60.郊外および田舎への経営の分散の増大。61。組合の相 対的な経済的影響の低下と公共サービス労働者のストへのガイドラインの樹立。それにも かかわらず,組合の影響は経済的ならびに政治的生活で依然重要。62.団体交渉協定での,

組合による新しいベネフィットの追求と獲得,およびそれについての現在以上の権利視。

63.大企業への経済資源の集中の増大。大会社の増大と売上利益率の維持。64.経営活動の 分権化と管理職能の分散との増大,および経営組織のより弾力化。65.外国での米国企業 活動の拡大の継続。

  H 主要な社会的問題

66.環境汚染問題への活気ある取り組み。完全には解決されず。67.主要都市の再建造お よび新都市の建設。社会を満足させる程には完成されず。68.マイノリティの生活改善へ の大きな進歩。69.貧困レベルより上にある,有効な所得下限の存在。70.技術変化と,そ れに対処する社会的組織および用具との比は狭まるも,ギャップは依然広し。変化への適 応の問題はすべての職業のひとびとに緊張をもたらす。

 かくてスタイナーは,前述のリストを調べるとき米国の社会が極く近い将来に,ダニエ ル・ベルの名付ける脱工業社会(post−industrial society)へと向うことは殆んど疑いの 余地がないという。ベルはそのような社会の特質として,経済におけるサービス部門の比

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経営と環境 115

重が大であること,専門的および技術的な職業への従事者の増大,理論的知識が社会で重 要な地位を占あること,テクノロジーの成長ないしその継続的発展,および,LPやシミ        注(5)

ユレーションの如き知的技術の高度化を挙げるが,スタイナーによると,リストに含まれ        注(6)

る,もしくはそれから引き出される顕著な特質は以下のようになる。

 1.それは非常に生産的な社会であり,高水準の財と用役を各人がもつ手段を提供する。

貧困は各人への最低所得の保障で,事実上除去されるであろう。

 2.更に多くの国家活動が,経営と伝統的市場経済の外部で行われるであろう。公共的 な財と用役の生産は増大し,政府によりその支出を通通じて決定されるであろう。より多 くの活動が,生産指向よりもむしろサービス指向的となり,製造業での雇用が総雇用に占 める割合は低下するであろう。

 3.知識,教育,および学習が,甚だ重要となるであろう。理論的知識を維持・展開す る組織は,社会でより重要な革新者となるであろう。上級の学位の保持者の割合は大とな

り,より多くの成人がその教育を続けるであろう。それは学習社会であろう。

 4.官庁当局は,ベルが挙げる理由によって以前よりも深刻で複雑な問題に直面するで あろう。すなわち,なんらかの主要な変化が迅速に全国的ならびに国際的システム全体に 感知されるがために,社会的諸出来事はますます相互に関連する。個人とグループはますま すこれらの問題を意識し,運命を受け入れる代わりに行為を要求する。より多くの決定が 市場でよりも政治的舞台でなされるがためにコミュニティでのコンフリクトはより公開的        注(7)

となり,異なったグループがより直接にぶつかりあうであろう。

 5.それはかってジョンソン大統領が夢みたく偉大な社会 の特質を追求する社会であ ろう。偉大な社会とは,すべてのひとびとが満足で豊かな生活を送りうるような社会であ り,人間生活の質により以上の関心をもつ社会である。

 以上が,工業社会から脱工業社会への移行についてのスタイナーの説明の要旨である。

かれの説明はいうまでもなく米国の社会を対象とするものであり,また,説明の内容もさ して目新しいものではない。それにも拘わらず,脱工業社会の特質についてのかれの見解 は,現代の先進工業社会の将来を予測するための手掛りを提供していると思われ,現代経 営の環境適応問題を論ずるに際して有意義である。

 2 経営環境の国際化

 経営環境の本質的動向としての脱工業社会への傾向は,先進資本主義社会に共通に認め られるであろう。ところで,経営環境の動向としては更に,環境の国際化を挙げうると思 われる。

 現代の大経営は多国籍経営,世界経営への道を辿りつつあり,その環境は国際化への方 向にある。経営環境の国際化は,環境の複雑性を増大せしめる。経営が直面する環境主体 とその要求はますます多岐化するのであり,また経営はさまざまな,社会的価値の体系に 直面することになる。現代の経営は,異質にして絶えず変化する環境の中での適応をも不

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可避的たらしめられつつあるのである。

 経営環境の内容,社会的価値の体系,および経済社会の動向についてこれまで眺めてき たことは,主として米国に関するものであった。それは,日本をはじめとする他の先進資 本主義経済諸国の経営環境を理解するに際して,有力な手掛りを提供するであろう。むろ ん,特定の国の経営環境に関する結論を他の国に適用するに際して慎重でなければならぬ ことはいうまでもない。このことは,先進国をめぐり展開される理論を後進国の経営環境 に適用するに際して,とりわけ妥当する。

      へ

 近年,わが国の企業が東南アジア諸国に進出する傾向が顕著であるが,そのような進出 企業は先進経済諸国でのそれとはかなりに異質な経営環境に直面せねばならない。経営は ナショナリズムのイデオロギーに直面するであろうし,政府による強い経済統制が存在す るであろう。社会価値の体系も伝統社会におけるそれであり,このことは例えば先進社会 のそれとは異なる型の労使関係の展開を要請するであろう。他方,環境におけるそのよう な異質性は,一面では,工業化の進展,外国企業の進出,等に伴い変化しつつあるといわ ねばならない。これらのことは,わが国の企業が東南アジアの経営環境と先進諸国のそれ

との間の異質性と同質性に留意すべきことの喫緊性を物語るといわねばならない。

 要するに,現代の経営環境の動向としての国際化は,よりワーカブルな経営環境論の出 現を要請しているのである。

注(1)John Kenneth Galbraith, The Affluent Society,1958.

 (2)G.A. Steiner, oP. cit.,PP.280〜283.

 (3) Ibid.,PP.283〜285.

 (4) 工bid.,PP.287〜291。

 (5)Daniel Be11, The Measurernent of K:nowledge and Techエ1010gy in Eleanor   Bernert Sheldon and Wilbert E. Moore eds, Indicators of Social Change:

  Concept and Measurement,1968(ベル・メッサニー著,白根禮吉野,「知識文明の構   造」,昭和44年収録).

 (6)G.A。 Steiner, oP. cit.,PP.292〜293.

 (7)D.Be11, The year 2000−The Trajectory of an Idea , Daedalus,96(Sumrher   1967),pp.645〜646.

参照

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