論文 Article
環境 問題 と企業経営
‑ その歴史的展開 と経営戦略の観点か ら‑
加賀 田 和弘●
【要 旨】
地球環境 問題‑の取 り組みが、企業経営上ます ます重要な課題 になってきてい る。国民の意識 ・関心の 高ま り、各種環境関連法の成立を受けて、もはや企業が環境対策 を行 うことは通常の事業活動 を行 う上で も当然の活動 にな りつつ あるOそのよ うな状況 にあって、もし企業が従来か ら言われているよ うな事業活 動 とは別次元の、単に 「企業の社会的責任 (CSR)」 とい う観点か らのみ、いわば受身的に環境対策 を行 うよ うであれ ば、他社 との差別化 につ なが らず、その活動の成果はわずかな ものになって しま うだ ろ う。
温暖化 をは じめ とした地球環境問題 はますます深刻化 の度 を深 めてい るが、地球環境 の保全が企業の第
‑の 目的になることはあ り得ず、その 日的はあ くまで企業の長期維持発展であるo そのよ うに考 える と、
環境対策 を自社の経営活動 と切 り離 して考 えるのではな く、経営活動 とどの よ うに統合 し、自社の競争優 位 につなげてい くべきか とい う戦略的視点が必要 となる。
本稿 では、まず、企業経営 において環境 問題 が大 き く取 り上げ られ るよ うになった90年代以降の、国 内外 の動 向 と企業の取 り組み について概観 した後、経営 目的 と経営戦略の観点か ら、環境 問題 と企業経営 の関係 について考察 してい るD特 に、経営戦略論 における 「リソース」とい う分析 フ レーム ワー クを用い て、今後企業が環境問題 に どのよ うに取 り組むべ きかについて考察 している。
キー ワー ド :環境経営、経営戦略、企業の社会的責任 (CSR)、競争優位
1.は じめに
環境 問題へ の取 り組みは、企業 に とって経営上 ます ます重要 な課題 にな りつつ ある。 日 本で、環境 問題 (公害)の発生者 としての企業責任 が問われ た最初 の事件 は、明治時代後 期 に栃木 県 ・群馬県で発生 した足尾銅 山鉱毒事件 であるが、環境 問題 (公害)発 生の未然 防止 と発生 した場合 の事後対応 を行 うこ とが、 「企業 の社会的責任 (CSR)」 とい う枠組 み で広 く意識 され始 めたのは、1960年代 か ら70年代 にかけて発生 した公害問題 を契機 とし ている。
公害問題 は、先進 工業国の工業地帯周辺 な どの ご く限 られ た地域 の環境汚染 の こ とを意 味す る場合 が多いが、その後、80年代か ら90年代 にかけて、オ ゾン層 の破壊 、地球温暖 化 、砂漠化 の進行、海洋汚染、熱帯雨林 の破壊 な どが、国や地域 を越 えた ところで顕在化 し、国際会議 な どで広 く議論 され るよ うになった。 これ らの問題 の原 因の多 くは、先進諸
'関西学院大学大学院総合政策研究科研 究員 (psmslO13@ksc.kwansei.ac.jp)
KAGATA:EnvironmentalProblemsandCorporateManagement
国にあるとはいえ、その影響 は、発展途上国ばか りか、人の住んでいない地域まで含 めて 広範囲にわたって影響 を及ぼす ことか ら、以後、地球環境 問題 とい う言葉が頻繁 に用い ら れ るよ うになった。
この地球環境 問題 が企業経営の観 点か ら再び注 目を集 めるよ うになった きっか けは、
1997年12月 に京都で開催 された地球温暖化防止京都会議 (気候変動枠組条約第3回締約 国会議 :COP3)である。議長国である 日本では、会議 開催前後 に、会議 の成功 と国民の地 球環境 問題 に対す る意識 向上 を狙い とす る様々なイベ ン ト・キャンペー ンが官民挙 げて行 われた。そのよ うな中、一部 の企業では、 自社の環境問題‑の対応 を企業イメージの向上 を図る好機 と捉 え、企業の社会的責任 (CSR)の一環 としての環境対策や環境経営の推進 を積極的にア ピールす る活動が盛 り上が りを見せ るよ うになる。産業界では、「環境 にや さ しい」、「地球 に優 しい」製品や商品が登場 し、環境マネジメン トの国際規格であるISO14001・. 環境報告書の作成や環境会計が導入 され、「環境ブーム」といわれ るよ うな状況が出現 した。
その後、政策的にも環境 関連の法令が多 く成立 し、環境対策は、事実上一部の企業だけ でな くすべての企業が取 り組むべ き課題 となったが、2007年現在では、それ以前 と比べ る と、経営の関心事項 としての ピー クは過 ぎて しまっている感 が否めない。
その理 由の‑つ として、2000年以降、環境対策 と同時に相次 ぐ企業不祥事が企業経営上 重要な議 題 となってきた ことが挙げ られ る。三菱 自動車 ・三菱ふそ うによる リコール問題、
雪印乳業の乳製 品による集 団食 中毒事件の発生な ど、相次 ぐ企業不祥事 を受 けて、社団法 人経済同友会 は2003年 に 『第 15回企業 白書 ・「市場の進化」 と社会的責任一企業の信頼 構築 と持続 的な価値創造 に向けて‑ 』お よび 『自己評価 レポー ト2003年一 日本企業 の CSR:現状 と課題‑ 』(2004年)、同 じく社団法人 日本経団連 による『企業の社会的責任(CSR) 推進 にあたっての基本的な考え方』 を公表 し、法令遵守の徹底、行動規範 ・倫理規定の策 定、社会的責任 の実践 に関す る方針 ・原則 ・基準 ・各種具体的手法の確立 とその定着 に向 けての努力が、様 々な方面において展開 されつつある。
図 1日経4就キーワー ド検索 (日軽テ レコ̀ン21) 日経テ レコン21・日経4紙キー ワー ド検索
2500 2000 1500 1000 500 0
Tt:i̲、′
‑ニ< Y'S/
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
= CSR
‑ 環境対策
KGPSReview No.8March2007
図 1は、 日経4紙 (日本経済新 聞朝 ・夕刊 、 日経産業新 聞、 日経流通新聞、 日経金融新 聞) に掲載 され たキー ワー ドの検索結果 を示 してい る。 図に示 してあるよ うに、企業 の環 境 問題‑の取 り組みは、97年以降、特 に2000年前後 に一気 に加速 した。 この時期 には、
多 くの企業で環境報告書が作成 され始 め、環境会計の導入 、環境 問題専門部署の設置 が相 次 いだ。その後、特 に2003年以降、大企業 を中心 に、多 くの企業は、環境 問題‑の対応 を 含 めた、よ り広い意味での社会 的責任 (CSR)‑の取 り組 み に力 を入れ始 めることにな る。
例 えば、 リコー、松下電器 産業、帝人、 ソニー、キヤ ノンな ど一部 の先進企業は、それ ま での環境経営か らCSR経営‑ の転換 を打 ち出 し、CSR担 当組織 の設 置、CSR担 当役員 の 任命 な どCSR経営体制の整備 を行 ってい る。この よ うに、企業 の環境対策 ・環境経営 は様 々
なCSR活動の一部 に位置づ け られて現在 に至 ってい る。
しか し、IPCClの最新 の報告 書 が指摘 してい るよ うに、地球温暖化 をは じめ とした環境 問題 は深刻化 の度 を増 してお り、温暖化 を食 い止 めるには、今以上の法規制強化 と環境経 営の更な る推進 が必要 とされ てい る点か ら、温暖化 を含 めた環境 問題‑の対応 は、企業経 営 に甚大な影響 を及 ぼす可能性 が高い と筆者 は考 えてい る。 その意 味では、現在 の企業の 環境対策が、いわば当然の義務 にな りつつ あ り、単 に受身 的に環境対策 を行 ってい る企業 は、差別化や競争優位 とい う観点か ら環境対策 を行 うこ とに よって得 られ るメ リッ トを十 分 に享受で きてい る とは言 いがたい。一方で、環境保全活動 は、経営活動上の第一 目的 に は成 り得ず、企業 としての 目的は、 あ くまで営利追及で あ り、企業 自身 の長期維持発展で ある といえる。 この よ うに考 える と、環境対策 を通常の経営活動 と切 り離 して考 えるべ き ではな く、両者 をいかに統合 して考 えるか とい う戦略的な思考が必要 とな る。
本稿では、以上の よ うな問題意識 の下、企業 が今後、環境 問題 に対 して どの よ うにアプ ローチすべ きかについて、経 営戦略 の観 点か ら考察 を行 ってい る。
2.環境問題 の現状 と企業 の取 り組み 2.1環境問題 の現状 と将来 の予測
気候変動、有害化学物質 、有害廃棄物 といった環境 問題 は、量的に も質的 にも、また空 間的時間的な広が りを見せ て、ます ます多様化 ・複雑化 ・深刻化 の度 を深 めてい る。特 に 温室効果 ガスの排 出が原 因 とされ る気候変動 は、世界的 な集 中豪雨の増加 、台風 ・熱帯低 気圧 の巨大化 、永久凍土の融解 な ど、異常気象 とい う形 で近年特 に顕在化 して きてお り、
しか も当初 の予想 を大 き く上 回 るペースで進行 してい る ことが指摘 され てい る。
IPCCは、2001年 に発行 した第3次評価報告書 の中で 「2001年 までの過去 100年 間で平 均気温が 0.6℃上昇」、 「人 間活動 が地球温暖化 に寄与 してい る可能性 が高 く、温暖化 が進 んだ場合、21世紀末 には地球全体で約 9cm〜89cmほ ど海 面が上昇 し、地球全体の平均気 温 は約1.4‑5.8℃上昇す る。」と指摘 し、「仮 に2080年代 までに海面が約40cm上昇す る と、
1地球温暖化に関する国際的な科学者 ・研究者の集まりである 「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC:
IntergovemmentalPanelonClimateChange)
KAGATA:EnvironmentalProblemsandCorporateManagement
全世界で7,500万人〜2億人の人たちが高潮 によって浸水 を受 け、同時に熱帯低気圧が巨 大化 し、アジアの温帯、熱帯の沿岸低地に住む人々の うち数千万人は移住 しなければな ら ないだろ う。 さらに、マ ラ リアな どの感染症 の増大、生態系に大きな影響 を与えることが 予想 され、陸地の砂漠化、異常気象 による早魅、食料生産 に対す る影響が出て、深刻 な状 態 になるだろ う。」 と警鐘 を鳴 らしている2。 IPCCはその後、2007年2月に第4次評価報 告書第 1作業部会報告書 「気候変動2007‑ 自然科学の根拠‑」を公表 し、 この中で、 「20 世紀半ば以降の地球温暖化は、人間活動 によって増加 した温室効果ガスの排 出によっても た らされた可能性 が非常に高い」 とし、「可能性が高い」 とした2001年の第3次報告書の 内容 よ りも踏み込んだ表現 となっている。また、今世紀末までに予想 され る海水面の上昇 については、 「地球全体で約 18cmか ら58cm」 と前回の報告書 よ りも緩やかな数字 に修正 されているものの、過去100年 間の平均気温は「0.74℃ (2001年報告書では0.6℃)上昇」、
21世紀末までに平均気温では1980年か ら1999年までの20年間の平均気温に比べ、「約2.4
‑6.4℃ (2001年報告書では約1.4‑5.8℃)上昇」す るとしてそれぞれ前回報告書の数値 を 上方修正 し、地球温暖化の原 因 となる排 出効果 ガスの削減 を、各国が緊急課題 として今以 上 に取 り組む ことが必要であると指摘 してい る3。
この最新のIPCC報告書の公表 を受 けて、気候変動 を研究す る 日本の科学者15名 は、気 候の安定化 に向けて直 ちに行動す ることを国民に呼びかける 「緊急 メッセージ」を発表 し た。 メッセージでは、京都議 定書で約束 した6%の削減 の達成は、「低炭素社会」の実現に 向けたほんの最初の一歩 に過 ぎない とし、私たちの予想 を遥 かに超 えるス ピー ドで進行 し つつ ある温暖化 による悪影響 が危険な レベル を超 えないためには、「もはや根拠な く科学的 な知 見の不十分 さを 口実 に対応 を蹄跨す る時で はな く、今 こそ行動 を開始すべ き時で あ る。」 と科学者 の立場か ら強 く訴 えて い る4。具体的な取 り組み として消費者 には、あ らゆ る場面における温暖化防止 の意思表示の実施 、産業界 には、生産活動 を通 じて温室効果ガ スを削減す ることだけではな く、製 品やサー ビスの改善 と 「低炭素社会」の実現のための 長期的な視野に立った投資、政府 には、「低炭素社会の実現」のための長期政策 目標の樹立
とリーダー シ ップの発揮、政策実現のための ロー ドマ ップの策定な どを求 めている5。
この温暖化の問題 は、世界各地で相次 ぐ異常気象の原因 として近年急速 にクローズア ッ プ されてきたが、 この他 にも、pcBや ダイオキシンをは じめ とした有害化学物質の拡散、
オゾンホールの増大、酸性雨、熱帯雨林 の破壊、砂漠化の進行、海洋汚染、有害廃棄物処 理 な ど様 々な問題が、グローバル とローカル の双方で環境問題 とい う枠組 みで捉 え られて い る。
この環境 問題 の主たる原因は、い うまで もな く人間の活動である。産業革命以降、石炭 や石油な どの化石燃料の使用によって膨大なェネル ギー を利用す ることが可能 とな り、経 済活動が活発化す ると同時に、世界の人 口が急激 に増加 した。1700年か ら産業革命 を経た
̀IPCC(ユool)
31PCC(2007)
4鈴木他 (2007)
5鈴木他 (2007)
KGPSReviewNo.8March2007
1950年までの250年 間で、世界人 口は約7億人か ら3倍以上の25億人 に増加 している。
また、近代化への過程では、農業機械が発達 し、広大な農地の開拓 と農作物の大量生産が 可能 にな り、医療技術の進歩 も伴 って、増大す る人 口を支 える食料の供給が可能 になった。
増大す る人 口は、労働力 としてその後の資本主義経済を支 える原動力 となった。特に石 油化学工業の発展 は、多 くの人工物質 を生み出 し、 自動車 ・家庭用電化製品の発 明 ・普及 は我 々の生活水準の向上をもた らした。その結果、 この200年 ほ どの間に、特に先進工業 国では、それ まで とは比較にな らないほ ど人々の生活 は豊かになった。 しか し、急激 な人 口増加 と生活水準の向上、それ を支 える経済活動の増大は、今 日、地球の環境その ものに 大 きな影響 を与 え、我 々人類 の将来の生存 にも深刻 な危機感 を与 えている。
2.2環境 問題 と企業経営 ・市場 ・国家政策 のグ リー ン化
環境問題 は、マ クロ的には複数 の国の経済利害が複雑 に絡み あ う問題 となってお り、 ミ クロ的にもその原因を少数の要素 に還元 し、特定できるよ うな ものではな く、む しろ人々 の 日常生活や通常の経済活動 における環境負荷 といった、近代以降におけるわれわれ人間 社会の全 システム的な問題であ り、軽々 しく解決策 を提示できるよ うな問題 で もない こと が次第に明 らかになってきている。 限 りある資源 と生態系を保全 し、資源循環型で持続可 能な社会 を形成す るためには、個人、企業、 自治体、政府、国家間な どそれぞれの分野が 連携 し一丸 となって、環境 と経済の両立を図ってい くとい う視点が必要 となるo
経済産業省 の産業構造審議会環境部会 「産業 と環境小委員会」では、いかに環境 と経済 を両立 させ、持続可能な経済社会 を構築す るか とい う課題 について、2003年 に中間報告書
「環境立国宣言 ‑環境 と両立 した企業経営 と環境 ビジネスのあ り方‑」 を公表 した。報告 書の中で、 日本経済社会が環境 と経済を両立す る、ま さしく 「環境立国」 として展開 して い くために、企業に対 しては、「企業経営のグ リー ン化」、市場のステイ ク ・ホル ダーに対 しては、「市場のグ リー ン化」、そ して国に対 しては、「国家政策のグ リー ン化」をそれぞれ 提言 している。
「企業経営のグ リー ン化」では、生産システム ・製 品のグ リー ン化等、企業活動のあ ら ゆる面に環境配慮 を ビル トイ ンしてい くとともに、積極的な環境情報の提供 、ステイ ク ・ ホル ダー との交流 ・協調 によ り、競争力のある自主的な環境経営の進展、異分野連携や既 存生産 システム活用 による独創的な環境 ビジネス‑の挑戦な どが期待 されている。そ して、
環境 に配慮 した製 品のサー ビスや企業経営が競争力 を有す るためには、企業間取引にお け るグ リー ン調達、金融機 関における環境対応 の評価 に基づ く投融資による支援、企業の従 業員 は じめ市民活動、株主、取引先等のステイ ク ・ホル ダー による市場での環境配慮製品 や経営評価な どの、「市場のグ リーン化」が不可欠であるとしている。加 えて、企業の 自主 的な環境経営に対す る取 り組み‑の支援、国際市場 と整合性 のある環境基準や物質循環ネ ッ トワー クの構築、グ リー ン購入拡大等の需要側の取 り組みの促進、環境保全に関わる多 様 な人的ネ ッ トワー クの構築、環境規制法 をは じめ とす る法体系の見直 しな ど、国家政策
KAGATA:EnvironmentalProblemsandCorporateManagement
としてのグ リー ン化が期待 されてい る60
このよ うに、企業が環境経営を推進 してい くためには、企業側か らの積極的な努力 と、
市場 による支援 と評価 、そ して国家による指導 と支援 とい う三位一体の推進が必要 とされ ている。
2.3環境 問題 に対す る世界の動 き と国内企業の対応
世界的にみて地球環境問題‑の取 り組みは、1992年ブラジルの リオ ・デ ・ジャネイ ロで 開催 された 「地球サ ミッ ト (環境 と開発 に関す る国連会議、UNCED)を契機 に活発 になっ た。 この会議 には、国連加盟国のほ とん どである約 180カ国が参加 し、 100カ国あま りの 元首、首脳、 さらに、世界各 国か ら地方 自治体やNGOが多数参加す るな ど、環境 と開発 に関す る大規模 な会議 となった。この 「地球サ ミッ ト」のキー ワー ドとなったのが、「持続 可能 な発 展 」 とい う概 念 で あ る。 この 「持続 可能 性 」 は、後 にサ ステ ナ ビ リテ ィ社 (sustainAbilityLimi ted)によって提唱 された、 トリプル ・ボ トムライ ン (企業経営におけ る経済的繁栄、社会的公正、環境の質向上の三重の損益決算 を実現す ること)‑ とつなが ることになる7。
1992年以前か ら、国内外 の企業では、主に公害防止設備 の設置 ・運営による規制の遵守 を中心 とした環境対策 を行 ってきた。1980年代後半か らは企業の 自主的な取 り組みを促進 させ る経営管理手法 として、環境マネジメン トシステムが産業界 によって考え出されてき た。環境マネ ジメン トシステム とは、企業の環境問題‑の取 り組みの一つで、事業活動に おいて環境 に配慮す る仕組みを経営管理 の中に組み込み、システム として運用 してい くこ とである。 この環境マネジメン トシステムは各国 ・地域、産業界で独 自に検討 されてきた が、これ を世界的に標準化す る動 きが1990年代に起 こってきた。
1992年の地球サ ミッ トのテーマであった 「持続可能な発展」に関 して、世界の経済界の 見解 をま とめることを 目的 として 1991年に 「持続可能な発展のための経済人会議」 (The BusinessCouncilf♭rSustainableDevelopment:BCSD、95年 に 「国際商工会議所」(Intemational chamberofCommerce:ICC)、 「世界産業環境協議会」 (theWorldIndustryCouncilforthe Environment:WICE)と合併 し 「世界環境経済人会議」WBCSDへ と改組 され る。)が設立
された。この会議 には27か国か ら産業界の リー ダー48人 (日本か らは7名)が参画 し、「環 境 と開発 に関す る国連会議 (UNCED)」‑の提言が議論 された とい う。 その検討 の集大成 として 「BCSD宣言」(1992年) と具体的なプ ログラムを示 した 「ChangingCourse」 とい うレポー トがま とめ られた。 この議論の過程で持続可能な発展 を行 うためには、企業の環 境対策促進 のための国際規格 の必要性が確認 され、環境マネジメン トに関す る国際規格の 制定が、ISO (国際標準化機構) に依頼 された。
BCSDの依頼 を受 けたISOでは、1991年 に検討委員会 を設置 し大まかな考え方 を整理 し た後、1992年環境マネジメン トにかかわる新 しい技術委員会 を設置、そ して世界的な環境
6経済産業省 (2003).
7持続可能性 ・トリプル ・ボ トムライ ンについての詳細 は拙稿 (2004)を参照 され たい。
KGPSReviewNo.8March2007
問題‑ の関心が高ま る中、幾多の議論 の未 に1996年9月1日に環境 マネ ジメン トの国際規 格であるISO14001を発効 した。 また これ に伴 いISO14001のJIS版
( J
IS14001) も同年10 月20日に制定 された。そ の後 、現在 まで ISO に よる環境 マネ ジメ ン トシステ ム は、環境 監査 (ISO14010‑ ISO14012)、 環 境 ラベ ル (ISO14020、ISO14021、ISO14024他 )、 環 境 パ フ ォー マ ンス (ISO14031)、 ライ フサイ クル アセ スメン ト(LifeCycleAs sessment:LCA) (ISO14040‑
ISO14043、 ISO14048、 ISO1404他 )、 用 語 と定 義 (ISO14050)、 森 林 マ ネ ジ メ ン ト (ISO/TR14061)こ環境適合設計 (DesignforEnvironment:DfE)(ISO/TR14062)な ど、経 営のあ らゆる側面 にお ける環境規格 が発効 ・公 開 され 、総称 して ISO14000シ リーズ と呼 ばれ てい る8。
これ らISO14000シ リー ズの中で も先行 した環境マネ ジメン トシステム規格 (14001)が 既 に多 くの企業で利用 され てい る。ISOに よる と、王SO14001の認証 を取得 してい る事業所 は、2005年末時点で世界138カ国111,162事業所 であ り、その うち 日本国内では23,466事 業所 を数 え、2位以下 を大 き く引 き離 して認証取得数世界一 となってい る9。
ISO14001に よる企業経営‑ の影響 としては、 当初 は ヨー ロッパ‑輸 出 してい る企業が、
ヨー ロッパ の企業か ら取引条件 として要求 され るのではないか との危快 が大 きか った とさ れ る。一つ には品質 に関す る国際規格 で あるISO9000発足時 の規格作 り‑の参加 立 ち遅れ か ら被 った不利益 が大 きかった ことが起 因 してい る とも言われ てい る。規格がで きた 当初 、
日本 では電気 ・電子業界 を中心 とした輸 出産業が規格取得 に対 して熱心で あ り、業種別 で 見た とき も電気機械 の割合が半数近 くに上 っていた10。
ところが 1997年の京都会議 開催以降、地球温暖化やオ ゾン層破壊 な どの地球環境 問題 の深刻化 とそれ に対す る国民の関心の高 ま りを背景 として、ISO14001で規定 され る環境 マ ネ ジメン トシステムは、製造業種 のみ な らず、サー ビス業、 中小企業、教育機 関、 自治体 な どあ らゆる機 関においてその導入が求 め られ るよ うになった。特 に、2003年頃か ら、企 業間取 引において、ISO14001の認 証 を取得 していない取引先 との取 引を打 ち切 る企業が出 現す るな ど、ISO14001認証取得が企業経 営上の必要条件 とな り、環境経営 ・環境対策 の代 名詞 となってい る。
2.4環境問題 に対す る産業界の対応 の変化 と環境 関連法の成立
ISO14001が急速 に普及 して きた背景 には、環境 問題 に対す る国内企業の対応 の変化が見 て取れ る。
1992年 の地球サ ミッ トに向けて、政府 、産業界、NGOか ら世界各地で地球環境 問題 に 関す る様 々な提言や ア ピール がな され ていた 当時、 日本 の産業界 もその重要性 を認識す る よ うになった。1991年経 団連 (社 団法人経済団体連合会)はその前年 に発表 した 「地球環
l産業規格協会 (2001)p.5.
9ISO(2006),p.9.
70中小企業財 団 (1998)p.13.
KAGATA:EnvironmentalProblemsandCorporateManagement
境問題 に対す る基本的見解」 と 「廃棄物対策の課題」を踏 まえて 「経 団連地球環境憲章」
を策定 した。「経団連地球環境憲章」は、「基本理念」、環境 問題 に関す る 「経営方針」や社 内体制 な ど11分野24項 目に渡 って環境保全 に企業が取 り組む 「行動指針」、「海外進 出に 際 しての10の環境配慮事項」か ら構成 されている。
この 「経団連地球環境憲章」が一つの契機 となって、多 くの所属業界や会員企業 を中心 に、業界団体 による憲章、行動指針 の策定に加 えて、環境 にかかわる地球環境委員会な ど の社内横断組織や地球環境部の よ うな専門担 当部署が設置 された。その後97年 の京都会議 開催 に向けて経団連 は、産業界 としてのCO2削減等環境保全の 自主行動の必要性 を痛感 し、
96年 「経団連環境 ア ピール‑21世紀の環境保全 に向けた経済界の 自主行動宣言 ‑」を発表 し、会員団体にその具体的な 目標 と計画の策定を要請 した。
また行政 も多 く環境 関連 の法規制 を行 ってきた。 なかで も1993年 11月 に成立 した環境 基本法は、 これまでの大量生産、大量消費 ・廃棄型社会か ら決別 し、資源循環型社会の構 築の必要性 を強 く打ち出 している点で、地球環境時代の環境政策 をいかに展開 してい くの か、その出発点 となるものだった といわれている。この法律 は前年92年 にブラジル ・リオ で開催 された 「地球サ ミッ ト」の趣 旨を踏ま え、制定 された もので、21世紀に向けての 日 本の環境政策の基本的な施策07枠組みが規定 されている.環境基本法成立前は、1960年代 に多発 した産業公害の時代 に対応 した公害対策基本法が中心であ り、地球規模 の環境 に対 す る視点、国際協力な どが欠落 してお り、地球環境 問題 については対処す ることができな い限界 を持 っていた とされ る。環境基本法の成立 によって、公害問題 か ら地球環募問題‑
とその焦点が移 ってきたことを示す ものである。また、1997年 に採択 された京都議 定書 を 受 けて、 日本 にお ける温室効果ガス削減 目標 の達成 を 目的 とした地球温暖化対策推進法が 1998年 に制定 された。 さらに2000年6月、環境問題解決‑の筋道 とされ る循環型社会‑
と社会の枠組 を変 えるための循環関連6法 (循環型社会形成推進基本法 (循環型社会基本 汰)、廃棄物処理法 (産業廃棄物処理特定施設整備法 をあわせた改正)、資源有効利用促進 法 (再生資源利用促進法の改正)、建築資材 リサイ クル法、グ リー ン購入法)が成立 した。
この循環型社会基本法は、 さまざまな側面 を持つ環境問題 のなかで も、最 も緊急性 の高い 廃棄物 ・リサイ クル対策 に絞 って基本原則や政策の方 向を定めた もので93年の環境基本法 の一部 を取 り出 して強化 した基本法 といえる. この基本法に したがって、企業や消費者 の 行動 を具体的に規定す る個別法が整備 され ることとなる。個別法の うち廃棄物処理法 と資 源有効利用促進法が、社会全体の枠組み を確立す るための一般法 として位置づけ られてい るO廃棄物処理法は廃棄物 の適正処理の確保、資源有効利用促進法は リサイ クルの促進 に 向けた枠組 をつ くっている。それ以外の リサイ クル法は個別の部品を対象 に した ものであ り、廃棄物処理法な どの枠組 の中で、それぞれの特性 に合わせて リサイ クル を促進す る特 別法にあた る。 これ に先だって1997年4月 よ り本格施行 された 「容器包装 リサイ クル法」
(正式 には 「容器包装 に係 る分別収集及び再商品化 の促進等に関す る法律」)、2001年4月 か ら本格施行 された家電 リサイ クル法 に加 えて、建設廃棄物 と食品廃棄物の リサイ クル法 が制定 された ことで、基本法か ら個別の リサイ クル法 まで一体的な法律が整備 された こと になる。そ して この個別 リサイ クル法 はその対象商品を、パ ソコン、 自動車な ど‑ と拡大
KGPSReviewNo.8March2007
してい る。循環 関連6法は、企業の基本的責任 として、拡大生産者責任 と、排 出者責任 の 2つ を新 たな環境責任 として企業 に突 きつ けるものである とい えよ う0
今 日まで、 これ ら以外 に も、環境配慮型製 品の需要拡大 を通 して、特定化学物質 の環境
‑ の排 出量 お よび管 理 の 改 善促 進 に関す る法律(1997)、化 学物 質 排 出把 握 管 理促 進 法 (pRTR制度)(2004)、土壌汚染対策法 (2004)、 自動車 リサイ クル法 (2005)な ど、環境 問題 に関連す るあ らゆる法律 が制定 ・施行 されてい る。
2.5社会貢献 ・社会的責任 か ら環境経営戦略‑
この よ うに、地球環境 問題 との関連 において、近年 の企業環境 は激変 した といっていい。
もはや企業 は環境 問題 ‑の対応 な しには通常の経営活動 を行 えない状況 になって きてい る。
この傾 向は2000年前後 に顕著であ り、環境省 が毎年行 ってい る 「環境 にや さしい企業行動 調査結果」の平成 13 (2001)年度版Ilの結果 か ら、 この時期 の、企業の環境 問題 に対す る 考 え方 の変化 を読み取 るこ とが出来 る。
表1は、 この調査結果 の中の環境 に関す る考 え方の質問 「貴組織 では、企業の環境‑ の 取 り組 み と企 業活動 のあ り方 について ど う思われ ますか。 貴組織 の考 えに最 も近い ものを 選んで くだ さい。」 に対す る企業の回答比率 を示 してい る。
表1環境への取 り組み と企業活動の あ り方 につ いての考 え方 (単位 は%)
① ビジネスチャンス ②社会貢献 ③ 法規制 ク リア ・す る要④ 業績を左右秦 ⑤重要の一つな戦略 ⑥ その他 回答 なし
上場 ((21001)999) 3.6.14 30.133.2 2.1.89 33.32.13 29.21.30 00.9.9 3.1.28
未上場 ((21009991)) 5.7.45 42.51.35 2.2.67 25.520.3 20.713.5 0.一.96 3.82.9
合計 ((21009991)) 4.5 36.9 2.? 29.0 24.5 0.9 2.0 環境省 r平成13年度 環境にやさしい企業行動讃査宕果」,2002年,p.5.の表を基に作成
上場 ・未上場 を問わず、1999年 には最 も多 くの企業 が環境問題 ‑ の対応 を 「社会貢献」
だ と答 えてい る。 ところが2001年 では、上場企業 は最 も多 くが 「業績 を左右す る要素」で ある と回答 し、3位 の 「重要 な戦略の一つ」 も2位 の 「社会貢献」 に近づいてい るO未上 場企業 は2001年で も 「社会貢献」だ と答 える企業 が変わ らず最 も多いが、その割合 は10%
‖ この調査報告書は、東京、大阪、名古屋の各証券取引所の1部、2部上場企業及び従業員数500人以上 の未上場企業等、合計6,360社を対象としたアンケー ト調査を集計したものである。
KAGATA:EnvirorunentalProblemsandCorporateManagement
近 く減 ってお り、その代わ りに 「業績 を左右す る要素」、 「重要 な戦略の一つ」 と答 えた企 業が増加 してい る。上場 ・未上場 を全体 的に見 る と、「社会貢献」を挙 げる企業が最 も多い が、その比率 は明 らかに減 ってきてお り、代 わ りに 「業績 を左右す る要素」「重要 な戦略の 一つ」 を挙 げる企業 が増加傾 向にある とい える。 この中で 「ビジネスチ ャンス」 を挙 げる 企業が比較的少 な く、その比率 も下げてい るのは意外 な感 じがす るが、 この ことは、環境 ビジネ ス市場 の拡大で直接 的な恩恵 を受 けるエ コビジネス企業以外 の普通 の企業 に とって、
環境‑ の取 り組みが収益機会 の獲得 とい うよ りもむ しろ環境対策 を怠 ることに よって被 る あ らゆる損失す なわ ち環境 リス クの回避 とい う意味 を持 ってい るこ とを示唆 してい る とい えよ う。
この よ うに企 業の環境対応 は、社会貢献 ・社会責任 を中心 とした これ までの議論 か ら、
企業業績や経営戦略の よ うな企業の通常の経営活動 の枠組み の中で語 られ るべ き問題‑ と、
その議論 の中心が移 りつつ ある とい える。
2.6環境報告書 による外部‑の公 開 と環境経営の評価
環境対策 が通常の事業活動 の中に位 置づ け られ るよ うになる と、環境対策 を円滑 に行 い、
それ を外部 に公表 して評価 を受 ける とい う制度 システムが必然的に確 立す るよ うにな る。
環境報告書の作成 がそれ である。 日本 にお ける環境報告書 、あるいは環境 ・社会報告書 は、それ 自体、有価証券報告書や その他 の報告書 の よ うに、法律 に よってその発行 が義務 付 け られ てい るものではない。しか し、デ ンマー クでは1995年 とい う比較的早い時期 に環 境計算書法が制定 され 、環境負荷 の大 きい企業約1200社 に対 して環境計算書 の作成 が義務 付 け られ た。 ス ウェーデ ン、 ノル ウェー といった他 の北欧の国 も比較的早い段階か らこれ らの動 きを見せ てお り、その傾 向は北欧 に按 してい る国々を通 じて欧州大陸に波及 しつつ ある。2001年7月か らはオ ランダで も環境報告書 の公 開が義務付 け られ た。フランスでは 2001年5月 に成立 した 「新経済法 に基づ く社会 ・環境報告義務化 に関す る法律」に よって、
全上場企業が2003年度以降の年次報告書 に所 定の社会 ・環境情報デー タを掲載す るこ とが 義務付 け られ るよ うになってい る。違反 に対す る罰則規定はないが、報告デー タには、環 境分野では、水、エネル ギー及び資源 の消費、環境 に影響 を及 ぼす排 出、特 に温室効果ガ スな どについて、記載す ることにな る。 また、 自然環境や種‑の危害 を抑制す るための対 策 、 リス ク削減策 、再生可能エネル ギーの利用促進 、廃棄物 の発生状況 に関す る項 目や 、 環境マネ ジメン トシステムの組織体制や 、緊急事態 を含 めた従業員教育状況、環境負荷 削 減 の方針 、投資 な どについて、開示すべ き項 目が決 め られてい る。社会面では、従業員 の 平等な扱 いや労働安全、雇用調整計画や対象者‑のサポー ト、雇用形態別 の労働 時間等 と ともに、ILO協定の尊重 にかかわ る取 引先や 、海外子会社 の対応 まで含 んでい る。 また、
地域 コ ミュニテ ィの発展‑ の貢献、NGOや大学機 関 ・近隣 との関係 な どの報告 も見 られ る。
欧州産業界の これ らの動 きは、欧州委員会が2001年7月 に公表 したグ リー ンペーパーで、
「企業 の社会的責任 」の原則 を打 ち出 した ことに呼応す るものである といえる。欧州委員 会は、2001年6月、EU 内企業の会計 ・年次報告 にお ける、環境 関連事項 の計算方法、公
KGPSReview No.8March2007
閲に関す る勧告 を採択 した。 これ まで企業 が公 開 して きた環境情報 は、投資家 に とって会 計報告 か ら環境 関連 の要素 を読み取 ることができない、また、環境デー タに関す る共通 の ルール がないために企業間の比較が困難 で あるな ど、意思決定情報 とす るには不適切 な場 合が多かった とい う。 そ こで、 この勧告 は、既存 のEU 会計規則 の適用方法 を明確 に し、
企業が提供す る環境 関係 デー タの質 を改善 し、透 明性 を高 め、比較 で きるよ うにす ること を 目指 してい る。具体的 には、環境情報 に関す る既存 のEU 会計規則 の適用方法 に関す る ガイ ドライ ン ・環境報告書、年次会計報告 、年次報告書 な ど様 々な報告 において、一貫性 を確保す るこ とこ企業 の年次会計報告 、年次報告書 に も関連情報 を掲載 し、公表す ること な どが含 まれ てい るO この委員会 の勧告 は義務的な ものではないが、今後 ガイ ドライ ンの 運用状況 をモ ニタ リング し、広 く適用 され ていない よ うであれ ば、法制化 も検討す る とい
う。
この環境報告書 については、 ドイツや 日本 の環境省 ・経済産業省 が環境ガイ ドライ ンを 作成 してい るが、環境報告書の作成 が義務付 け られ てい るわけではない。 しか し、環境報 告書作成の義務化 は、欧州 で事業活動 を行 ってい る 日本企業 の現地法人 に とっては当然 当 てはまるこ とであ り、温暖化 をは じめ とした地球環境 問題 は地球規模 で行動 を共 に しなけ れ ば意味がない事象 であるために、国連やOECD (経 済協力 開発機構) といった国際機 関 を通 じて、 この報告書義務化 の動 きは 日本 に も波及す る可能性 が高い とい える。
環境報告書 は、企業の環境対策 を株 主や消費者 、取 引先 といった多様 なステイ ク ・ホル ダー との コ ミュニケー シ ョン手段 として有効である。現実 には、環境報告書 を作成 したか らとい って、す ぐに売上 げが伸びた り、利益率が向上 した りとい うよ うな こ とはあま りな いが、社会的責任投資 な どでは、環境報告書や社会報告書の内容 が、実際に投資銘柄選 定 の評価対象項 目とな る場合が多い。そのた め、報告書 を企業の取 り組み を世 間にア ピール す る場 として積極的 に活用す るこ とが必要 である。
3.環境 問題 と経営戦略 3.1環境規制 と競争力
「環境 問題 と企業経営」 について、経営戦略の立場 か らは じめて取 り上 げたのが M.E.
porterである.Porter(1991)は、米国の科学雑誌 ScientificAmericanに掲載 した 「米国の環 境戦略」とい うタイ トルの短 いエ ッセイ 中で、「経済競争力 と環境対策 は相互 に補完 し合 う 関係 にあ り、環境規制 の強化 は、短期的 には コス トを増大 させ 、競争力 を低 下 させ る要 因 となるが、長期的 には環境汚染 を減 らす のみな らず 、コス トを低 下 させ 、技術革新 を促 し、
製 品の質 を高 め、結果的 に国際市場 にお ける競争上の優位性 の獲得 につなが りうる。」と主 張 した12。 この逆説 的な主張 は、それ まで一般 に考 え られ ていた 「環境規制 は、 コス ト上 昇 につ なが り、競争力 を失 わせ る。」 とい う通説 を覆 させ るもの として一躍脚光 を浴びた。
12porter,M.E.(1991),p.168.
KAGATA:EnvironmentalProblemsandCorporateManagement
このエ ッセイ を引き金 として、以後 「環境規制 と競争力」 を巡 る賛否両論含 めた様 々な議 論 がな され ることにな るが、porterの主張 した 「環境規制 に よる競争優位」 に関す る一連 の議論 (Porter,M.EandLinde,C.,1995)は、いわゆるポー ター仮説 として、1992年 に開催 され た リオで開催 され た地球サ ミッ トで登場 した 「環境 と経済の両立」の議論 と相 まって、
広 く知 られ るよ うになる。
3.2環 境 経 営 と コー ポ レー ト ・レ ピ ュ テ ー シ ョ ン
porter,M.EandLinde,C.,(1995)は、「環境保護 は コス トで あるが、技術 、製 品、プ ロセス、
ニー ズな どすべ ては変化す るもので ある。環境 に対す る負荷 の少 ない高度 な資源生産性 を 実現すれ ばそれ は競争力 につ なが る。環境保護 は決 して コス トにのみ直結す るものではな く、競争力 を生み 出す。」と主張 してい るが、これ は、生産技術 のイ ノベー シ ョンに よって もた らされ るコス ト削減 と、製 品開発 のイ ノベー シ ョンに よる商品価値 の向上 によって も た らされ る市場競争力 の向上の2つがシナ ジー効果 を生み、それ が結果的 に競争優位 につ なが る とい うことを意味 してい る。
このイ ノベー シ ョンによる競争優位 とい う考察 に加 えて、環境対策 による競争優位 を別 の角度 か ら考 えるこ ともで きる。 そのキー ワー ドとな るわが、 コーポ レー ト・レピュテー シ ョン とい う概念 であ る。 レピュテー シ ョン (Reputation)とは評判 、世評 、名 声、信望 、 風評 を意味す るが、企業経営 に とっての レピュテー シ ョンには、ブ ラン ドと同様 に形資産
としての重要性 が あ り、樫井 (2005)は 「レピュテー シ ョンは重要 な無形資産であ り、経 営者 お よび従業員 に よる過去の行為 の結果 、お よび現在 と将来 の予測情報 をもとに、企業 を取 り巻 くさま ざまなステイ ク ・ホル ダーか ら導 かれ る持続 可能 な競争優位」 と定義 して い る。
図2無形資産 ・ブラン ド ,コーポ レー トレピュテー シ ョンの関係
信るるすす開封に
禁,:ビジシ一ビ一
且;,i.I.・.
品仕ピ製頼レ
企 業 の 社 会 的 側 面 ・社 会 的 活 動 に 関 す る レピュテ ー シ ョン
てT
CSR,社 会 貫 井 へ の 推 溝 的 な 取 L)租 み (出 所) 筆 者 作 成 。
環境 対策の よ うな取 り組 みは、それ を行 うか らとい って、即座 に収益 に直結す るよ うな 性 質 の ものではない。 しか し、短期的 には、環境‑ の取 り組みが営利性 と両立 しない場合
KGPSReview No.8March2007
であって も、図2に示 した よ うに、その積み重ねがコーポ レー ト・レピュテーシ ョンとい う経営資源 を醸成 し、それが結果的 ・長期 的には、他の企業 には模倣 困難で持続的な競争 優位 をもた らす場合があ りうると筆者 は考 えている。
この経営資渡 としてのコーポ レー ト・レピュテーシ ョンは、知的資産 とともに企業の無 形資産の中核 をなす概念であ り、その中には、製 品やサー ビス、顧客満足 といった企業の 事業活動その ものに対す るビジネス ・レピュテー シ ョンと、企業の社会的側面や社会活動 に関す る レピュテー シ ョンが含 まれてい る (図2参照)。 この二つの レピュテーシ ョンは、
いわば車 の両輪 の よ うな ものであ り、いずれ かが不足 していれ ば企業全体の コー ポ レー ト・レピュテーシ ョンは低下す るといえる。 このコーポ レー ト・レピュテーシ ョンの中核 をなすのは、株主、債権者、顧客、取引先、従業員、政府、地域社会 といった多様 なステ イ ク ・ホル ダーか らの信頼、信用、評判である。企業に とって、競争優位 の源泉 とな りう るとい う意味で、プラスの レピュテーシ ョンといえる0‑万で、企業の反社会的な行動は、
マイナスの レピュテーシ ョン (レピュテー シ ョン負債 とも呼ばれ る) を生み、昨今 の企業 不祥事のその後を見ればわかるよ うに、容赦な く社会の糾弾 を受 けて、場合 によっては、
倒産の憂 き 目にさえあ うよ うになってきている。
企業が環境対策 を行い、プ ラスの コーポ レー ト・レピュテー シ ョンが醸成 され ることに よって、環境経営 と事業活動の統合 とが図 られ る。その意味では、環境経営の推進 は、マ イナスの レピュテー シ ョンを出さない よ うにす るための活動であ り、企業が持続的競争優 位 のための経営資源 、すなわちプラスの コーポ レー ト・レピュテーシ ョン資源 を獲得 して い くプ ロセスに他 な らない。
3.3RBV (ResourceBasedView oftheFirm):資源ベースの経営戦略の観 点か ら
J.BBameyバーニー に代表 され るRBVによる経営戦略論研究者 は、企業を経営資源 の集 合体 とみな し、企業は 自社の持つ経営資源 を構築 ・活用す ることによって競争優位 を確立 す ることがで きる と主張す る13。 ここで挙 げ られてい る経営資源 には四つの種類 があ り、
それぞれ①財務資本 (出資者 ・債権者 による金銭、内部留保 され る利益な ど)、②物的資本 (工場や設備 、物理的技術な ど)、③人的資本 (人材育成訓練、従業員 が保有す る知識 、経 験、ノウハ ウな ど)、④組織資本 (組織構造、公式 ・非公式の計画 ・管理 ・調整 のシステム な ど)である。そ して、自社が持つ経営資源 の強み ・弱みを分析す るための手法 としてVRIO 分析を行 うことの重要性 を指摘 している。VRIOとは、それぞれ、経済価値 (value)(外部 環境の脅威やチャンスに適応す るか?)、希少性 (rarity)(その経営資源 を保有す るのは少 数の競合企業か?)模倣 困難性 (inimitability)(競合他社がその経営資源 を獲得す ることは 困難か?)、組織 (organization)(その経営資源 を活用す るための組織的な方針や手続 きが 確立 しているか?)である。 また、経営資源 を企業が組み合わせた り活用 した りす ること を可能 にす る企業属性 をケイパ ビリテ ィと呼び、経営資源 とケイパ ビ リテ ィの両方に強み
13Barney,J.B.(1991),Teeceetal.(1997),Werne,falt,B.(1984)