宮崎正明・加来秀俊*
Visual Memory and Auditory Memory in Children Masaaki MIYAZAKI and Hidetoshi KAKU
実 験 1 目 的
記憶は,記銘材料がどのような感覚を通して与えられるかによって,視覚的記憶,聴覚的 記憶,運動的記憶と言われている。一般的には,記銘材料が視覚的に提示されるか聴覚的に 提示されるかによって,記憶の効果に差異がみられている。このように,感覚のちがいによ
る記憶の差は子どもの成長に伴いどのような特徴を示すだろうか。
Smedley(1902)は,7歳から19歳までの被験者を対象にして,数系列を視覚的および聴 覚的に提示し,両提示条件での再生率を比較検討している。その結果,8歳以下では聴覚的 記憶の方がすく・れているが,9歳を境にして視覚的記憶の方がすく・れ,その差は,年齢の増 加に伴い次第に大きくなっていった。また,三島・横尾(1957)は無意味綴りと有意味綴り を記銘材料として用い,視覚的記憶と聴覚的記憶を発達的な観点から分析している。その結 果,無意味綴りを記銘材料として用いた場合は,児童期(小2〜小6)では聴覚的記憶がす
ぐれ,青年前期(中1〜中3)では視覚的記憶がすく・れている。ところが,有意味綴りを用 いた場合には,どの学年においても,視覚的記憶が聴覚的記憶よりもすぐれている。
このように,児童期には記銘材料のちがいによって視覚的記憶と聴覚的記憶に相違がみら
れる。
そこで,本研究においては,有意味語を記銘材料として用い,視覚的に提示された材料の 記憶と聴覚的に提示された材料の記憶が年齢の増加に伴いどのように変化していくかを検討 することを目的とする。
方 法
①被験者
長崎大学教育学一瞥属小学校2年生30名(平均年齢8歳1ケ月),4年生30名(平均年齢 10歳0ヶ月),6年生30名(平均年齢12歳1ケ月)合計90名を被験者として用いた。各学年 の被験者は2群にランダムに割り当てられた。
②記銘材料と実験装置
本実験で用いられた一匹材料は,北尾・菊野(1975)の児童の概念カテゴリー規準表より
*広島大学大学院
4文字の高頻度語を各カテゴリーより1項目ずつ選択し,12項目のリストを作成した。本実 験で用いられた項目はTable 1に示されている。
Table 1実験1で用いられた記銘材料と提示順序
提示11貯・i2[314i5
6i7
8【9【・・…2項 目
カマキリ ニワトリ
オノレガソ スリツノく ピコ1キ ケシコ ム アメリカ センベイ ライオン キャベツ ジユ1ス ヒマワリ
視覚的提示群では,これらの記銘材料を電子シャッター式タキストコープ(竹井機器製)
によりカタカナで透視スクリーンに提示し,聴覚的提示群では,テープレコーダーにより音 声で提示した。
③実験計画
本実験では2×3の要因計画を用いた。第1の要因は提示法の条件で,視覚的提示条件と 聴覚的提示条件の2条件を含み,第2の要因は年齢で,2年生,4年生,6年生の3つの学 年を含んでいた。いずれの要因も被験者間変数とした。
④手続き
実験は各条件ごとに集団で実施した。視覚的提示群では「これから,みなさんにいろいろ なことばを見せます。ことばは1つずつこのスクリーンの上に出てきます。あとでどんなこ
とぽがでてきたか聞きますので,しっかり覚えて下さい。」と教示し,刺激は1項目につき 2秒間提示した。刺激間間隔は1秒間であった。リスト提示後,「今,出てきたことばを思 い出した順に出来るだけたくさん記録用紙に書いて下さい。」と教示し,筆記による自由再 生を行わせた。聴覚的提示群では, 「これから,みなさんにいろいろなことばを聞かせま す。ことばは1つずつ順番にテープレコーダーから聞
こえてきます。あとでどんなことぽが出てきたか聞き ますので,しっかり覚えて下さい。」と教示したこと を除けば,視覚的提示群と同様であった。
結 果
図1には,各学年の視覚的提:示条件ならび聴覚的提 示条件における平均再生語数が示されている。2要因 の分散分析の結果,年齢の主効果 (F=9.77,df=
2/84,P<0.01)が有意であったが,提示条件の主効 果および年齢と提示条件の交互作用は有意ではなかっ た。つまり,図1に見られるように,加齢とともに再 生語数が増加した。
均
再
10
生5
語
数
O−O視覚的記憶
㊦…●聴覚的記憶 ρ
α
2 4 6
学 年 図1.各学年における視覚的記憶なら びに聴覚的記憶の平均再生語数
考 察
Smedley(1902)の数系列を用いた実験や三島ら(1957)の無意味綴りを用いた実験にお いては,低年齢では聴覚的記憶が優位であるが,年齢が進むにつれて次第に視覚的記憶が優 位へと移行していくことが示されている。
ところが,本研究の結果では,視覚的記憶量:も聴覚的記憶量も加齢とともに増加したが,
視覚的提示法による記憶の成績と聴覚的提示法による記憶の成績が,年齢により異なるとい うことは見られなかった。
つまり,Smedley(1902)や三島ら(1957,実験1)の結果と異なる結果が得られた原因 の1つとして,猛撃材料の違いが考えられる。倉石(1975)は「聴覚優位から視覚優位への 転換の時;期は記憶材料によって異なり,やさしい文章,数字,無意味音節の順になるだろ
う。」といっている。そして,これは読みとり能力の発達によると考察している。
このように,聴覚優位から視覚優i位への発達的移行が読み取り能力に依存するならば,本 研究で用いられた記銘材料が高頻度の有意味単語であったために,すでに2年生の段階にお いてかなり高い程度の読み取りが可能であり,そのために提示法のちがいによる記憶の差異 は見られなかったのではないかと思われる。
実 験 2
最近,視覚的記憶と聴覚的記憶に関して注目を集めているものとして,モダリティ効果が
ある。
モダリティ効果とは,情報を聴覚的に提示した場合と視覚的に提示した場合の再生率を比 較してみると,新近性部位より前の項目の再生率にはちがいは生じないが,新井性部位の再 生率は聴覚的提示の方が視覚的提示よりも高くなるという現象である(Crowder&
Morton,1969;Murdocks&WaIker,1969)。
実験1において,有意味単語を用いて,視覚的記憶と聴覚的記憶を発達的に検討したが年 齢のちがいによる2つの記憶成績には,差異が認められなかった。ところが,実験1では,
モダリティ効果に関する検討は行なっておらず,視覚的記憶と聴覚的記憶の質的な差異は明 らかにされていない。従って,視覚的記憶と聴覚的記憶を比較する際には,系列位置の分析 をすることによって,記憶の質的差異を検討する必要があろう。また,実験1においては,
刺激i提示時間を2秒間としたが,視覚的提示条件においては,刺激提示後,ただちに意味を とらえて情報処理を進めることが可能であるが,聴覚的提示条件では,刺激提示から2秒間 経過した時点ではじめて,刺激の意味をとらえ処理することになるので,視覚的記憶におい てリハーサルの機会が,聴覚的記憶よりも多い可能性が残ると考えられる。
そこで,実験2においてば,視覚的記憶と聴覚的記憶の年齢による差異を系列位置の分析 を通して質的に検討することを目的とする。なお,前に述べたようなリハーサルの効果をよ
り少なくするために,刺激提示時間を1秒間とする。
方 法
①被験者
長崎市内の某小学校2年生30名(平均年齢8歳2ケ月),4年生30名(平均年齢10歳2ケ
,月),6年生(平均年齢12歳1ケ月)30名,合計90名を被験者として用いた。
各学年の被験者は,教師による学年成績の結果をもとに,等質になるように視覚的提示群
(15名)と聴覚的提示群(15名)の平群に割り当てられた。
②記銘材料と実験装置
記銘材料は,北尾・菊野(1975)の児童の概念カテゴリー規準表より3文字の高頻度語を 各カテゴリーより1項目ずつ選択し,15項目のリストを作成した。本実験で用いられた項目 はTable 2に示されている。なお,実験装置は実験1と同様であった。
Table 2実験2で用いられた記銘材料
国23国5161781g圃・・1・21・3・4115
項目
クノレマ プリン
スズメ
ピアノ ズボン ウドン トマト サクラ マグロ トンボ ツツジ キリン
ノ、
Tミ
ミカン ラぞ不
③実験計画
本実験では2×3×3の要因計画を用いた。第1の要因は提示法の条件で,視覚的提:示条 件と聴覚的提示条件の2条件を含み,第2の要因は年齢で,2年生,4年号,6年半の3つ の学年群を含み,第3の要因は系列位置で初頭部位(1〜5),中間部位(6〜10),新近 部位(11〜15)を含んでいる。第1の要因と第2の要因は被験者間変数で,第3の要因は被 験者内変数であった。
④手続き
実験は,各条件において5名ずつのグループで実施した。視覚的提示群と聴覚的提示群の 両群において,刺激提示時間が1項目につき1秒間であったことを除けば,その他の手続き は実験1と同様であった。なお,刺激の提示順序は,初頭部位(前部位),中間部位(中部 位),新近部位(後部位)聞でカウンターバランスしたが,各部位における刺激提示順序は 一定であった。
結 果
図2には系列位置における各学年の視覚的記憶ならびに聴覚的記憶の平均再生語数が示さ れている。3要因の分散分析の結果,提示条件の主効果(F=6.42,df=1/252, P<0.05),
系列位置の主効果(F=14.83,df=2/252, P<0.01),年齢の主効果(F=9.77, df=2/252,
P<0.05),提示条件と系列位置の交互作用が有意であった(F;8.07,df=2/252, P〈
0.05)。提示条件の主効果が有意であったので,初頭部位,中間部位,新近部位の成分をこ みにして,各学年における視覚的記憶ならびに聴覚的記憶の平均再生語数を図3に示し,検 討した。図3から明らかなように,2年生,4年生では視覚的記憶の方が聴覚的記憶より有 意に成績がよいが(2年生:t=3.58,d圭=28, P<0.05;4年生:t=2.51, df=28, P<
0.05),6年生ではその差がみられなかった。このことから,有意味単語を記銘材料として 用いた場合には,低・中学年では視覚的記憶の方がよく,高学年になると聴覚的記憶の成績 がよくなり視覚的記憶と聴覚的記憶の差がなくなっていくと言えよう。また,年齢の主効果 がみられたので,両群の平均再生語数を年齢的に検討してみた。その結果,視覚的提示条件 群においても (2年生と4年生:t=2.31,df=28, P<0.05;2年生と6年生:t=3.62,
5
平4
均
再3
生
語
2
数1
(》一一◎視覚的記憶
●トー一一つ聴 覚 白勺 二号 憶
&..
(2 年 生)
ら ノ、、A ,
、v
,②
申部位 後部位
(6〜10) (11〜15)
列 位 置
5
4 3
2
1
(4 年 生)
④一一・,.・・
,●
5
4 3
2
1
(6 年 生)
2
!
、 し グ
へ ゆ
、、、 ,ノ
・♂
均
再
前部位 前部位 中部位 後部位 前部位 中部位 後部位
(1〜5) (1〜5) (6〜10> (11〜15) (1〜5) (6〜10) (11〜15)
系 系列位置 系列位置
図2.系列位置における各学年の視覚的記憶ならびに聴覚的記憶の平均再生語数
10
生5
語 数
視覚的記憶
∠ / / /一 1 8ノ 聴覚的記憶
2 4 6
学 年
図3.各学年における視覚的記憶なら びに聴覚的記憶の平均再生語数
5
平4
均
再3
生
2語 数 1
O一一◎視覚的記憶
⑳…・④聴覚的記憶
愈、
やヘ ノ
「σ
ρ
前部位 中部位 後部位
(1〜5) (6〜10) (11〜15)
系 列 位 置 図4.系列位置における全学年の視覚的 記憶ならびに聴覚的記憶の平均再 生語数
df=28, P<0.01),聴覚的提示条件群においても(4年生と6年生:t=3.02, df=28, P<
0.01;2年生と6年生:t=4.58,df=28, P<0.01)加齢とともに平均再生語数が増加して いることが示された。系列位置の主効果が有意であったので,全学年をこみにして系列位置 における視覚的記憶と聴覚的記億の平均再生語数を検討した。図4から明らかなように,聴 覚的記憶においては新近部位=初頭部位〉中間部位の順にすぐれた成績を示したが(初頭
部位と中間部位:t=2.68,df=88, P<0.05;中間部位と新近部位:t=4.80, df=88, P<
0.01),視覚的記憶においては,初頭部位〉新近部位=中間部位の順であった(初頭部位と 中間部位:tニ4.49,df=88, P<0.01;初頭部位と新近部位:t=3,32, df=88, P<0.05)。
さらに,提示条件と系列位置の交互作用が有意であったので,図2の資料にもとづいて,各 国年別に各系列位置の視覚的記憶と聴覚的記憶の比較をした。その結果,2年生,4年生の 初頭部位において視覚的記憶の方が聴覚的記憶よりもすぐれていた(2年生:t=3.58,df
=28,P<0.05;4年生:t=2.51, df=28, P<U.05)。また,6年生の新近部位では聴覚的 記憶の方が視覚的記憶よりもすぐれ(t=2.33,df・=28, P<0.05), 中間部位では視覚的記 憶の方が聴覚的記憶よりもすぐれていた(t=2.41,df=28, P<0.05)。
考 察
実験2の目的は,視覚的記憶と聴覚的記憶の年齢による差異を系列位置の分析を通して質 的に検討することであった。
視覚的記憶と聴覚的記憶の質的な差異は,系列位置の新学部位にモダリティ効果として反 映される。すなわち,聴覚的記憶の成績が視覚的記憶の成績よりもすぐれているということ であるが,本研究の結果では,小学校6年生にその効果がみられたが,2年生と4年生にお いてはみられなかった。
しかしながら,2年生と4年生では,初頭部位において,視覚的記憶が聴覚的記憶よりま さっているという結果が見い出された。初頭性効果が提示条件によって異なるということは 一体,何故であろうか。通常,初頭性効果を説明するものとしてリハーサルがある。リハー サルとは,情報を何度もくり返して唱えることである。すなわち,初頭性効果とリハーサル の関係について考えると,系列的に提示された記銘材料においては,初頭部位でルハーサル がなされる確率が高いといわれている。従って,初頭部位における情報が深く処理されるた めに成績がよくなる。
また,記銘材料の提示のちがいによってリハーサルの回数が異なるのはどうしてかという ことに関して,McCarrer&Ellis(1972)は「記銘材料が聴覚的に提示された際には,そ れがリハーサルと干渉するが,視覚的に提示された場合には,自己のペースでリハーサルが 可能である。」と述べている。
以上のことから,視覚的に提示された記銘材料の記憶が聴覚的に提示された記銘材料の記 憶よりも初頭部位でより高い成績を示したということは,視覚的記憶においてより多くのリ ハーサルがなされるのに対し,聴覚的記憶においてはあまり多くのルハーサルがなされなか
ったためと考えられる。
付 記
本研究を実施するにあたって長崎大学教育学部附属小学校, ならびに仁田小学校の諸先 生,児童に大変お世話になりました。厚く感謝いたします。
引 用 文 献
1)Crowder, R. G.,&Morton, J.1969 Precategorical acoustic storage(PAS), Perception &Psychophysics,5,365−373.
2)倉石誠一 (児童心理学 1975昇地三郎・篠原しのぶ共編),p.145,峯書房より引用)
3)McCarver, R. B.,&Ellis, N. R.1972 Effect of overt verbal labeling on short−term memory in culturally deprived and non−deprived children. Developmental Psychology,6,38−
41,
4)三島二郎・横尾武成 1957視覚的記憶と聴覚的記憶に関する発達的研究,Vo1. V, No.1,1−
8.
5)Murdock, B. B,,Jr.,&Walker, K。 D.1969 Modality e ffects in free recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior,8,665−676.
6)Smedley, F.1902 Report dept. child−study and pedagogic investigation. No.3.
(昭和55年10月31日受理)