山下 裕 論文内容の要旨
主 論 文
Development and psychometric testing of the Japanese version of the Fremantle Neck Awareness Questionnaire: a cross-sectional study
日本語版Fremantle Neck Awareness Questionnaireの開発と心理測定学的特性に関する 横断的検討
山下 裕, 西上 智彦,壬生 彰,田中 克宜,Benedict M. Wand,Mark J. Catley,
東 登志夫
Journal of Pain Research (in press)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻
(主任指導教員:東 登志夫 教授)
緒 言
近年注目されている痛み関連因子として,痛みに伴う身体知覚の異常が注目されて いる。これらの異常は,予測された感覚情報と実際の運動に伴う感覚フィードバック の不一致により惹起され,運動に伴う痛みの増悪に関与していることが報告されてい る。
Fremantle Back Awareness Questionnaire(FreBAQ)は,慢性腰痛患者の腰部の身体知 覚の障害を評価する簡便で迅速な方法として開発され,日本語版FreBAQの信頼性と 妥当性も検証されている。しかし,日本人の頸部痛患者において身体知覚異常を直接 定量化する包括的な尺度は存在しない。そこで本研究では,慢性頸部痛患者を対象と して頸部に特化した質問紙の日本語版を開発し,Rasch 確率モデルを用いて尺度の妥 当性と信頼性を評価することを目的とした。
対象と方法
対象は,慢性頸部痛を有する外来患者100名,および年齢と性別が一致した健常者 56名とした。日本語版Fremantle Neck Awareness Questionnaire(FreBAQ-J)の開発は,
以前開発された日本語版FreBAQ-Jの「腰」に関する文字を「頸」に置換することで,
日本人の頸部痛患者に適応させた。年齢,性別,身長,体重を全対象者で評価し,頸 部痛患者において,罹患期間,疼痛強度,破局的思考,運動恐怖,能力障害を評価し た。安静時および運動時の疼痛強度は,Visual Analogue Scale(VAS)を用いて評価し た。破局的思考は日本語版Pain Catastrophizing Scale(PCS)を用い,運動恐怖は日本 語版Tampa Scale of Kinesiophobia(TSK)を用いて評価した。能力障害は,日本語版
Neck Disability Index(NDI)用いて評価した。分析は,患者群と健常群における
FreNAQ-Jの得点を,対応のないt検定を用いて比較した。次に,Rasch分析を用いて
一次元性を評価した。信頼性については,Cronbachαおよび再テスト法(ICC3,1)を用 いて検証した。さらに妥当性については,FreNAQ-J と臨床症状との相関関係を
Spearmanの順位相関係数を用いて検証した。
結 果
FreNAQ-J の得点の比較の結果,患者群の得点は 7.7±5.4,健常群の得点は 2.9±4.8
であり,患者群が統計的に有意に高値を示した(p<0.001)。Rasch 分析の結果から,
項目7「自分の首が大きくなっている(腫れている)ように感じる」,項目8「自分の 首が縮んでしまったように感じる」,項目9「私の首は右側と左側で感じ方が違う(一 方が重たく感じたり,太く感じたり,傾いていると感じる)」において Rasch モデル からのわずかな逸脱を示す misfitが認められたものの,第一主成分の固有値は 1.9で あり,項目全体としての一次元性は保持された。Cronbachα は0.83 であり,ICC3,1は 0.81 であった。FreNAQ-J と臨床症状の相関分析の結果から,運動時 VAS(ρ=0.36), PCS(ρ=0.48),TSK(ρ=0.28),NDI(ρ=0.35)においてそれぞれ統計的に有意な相関 関係が認められた。
考 察
本研究の結果より,慢性頸部痛患者において FreNAQ-Jの得点が健常者よりも高値 であったことは,頸部痛においても身体知覚の問題が少なからず存在していることを 示唆している。データがRaschモデルに適合していることは,尺度を有効に合計して 身体知覚異常の単一の測定値を提供できることを示唆している。また,FreNAQ-J は すでに開発された FreBAQおよびFreBAQ-J と同程度の優れた内的整合性と再テスト 信頼性を有していることが示された。さらに,FreNAQ-J は運動時痛,破局的思考,
運動恐怖,能力障害と有意な関連が認められたことから,FreNAQ-J は良好な構成概 念妥当性を有していることが示された。
本研究の限界として,比較的小規模なサンプルサイズであったため,Rasch モデル の測定値に影響を与えた可能性がある。また,FreNAQ-JはFreBAQやFreBAQ-Jと比 較して全体的に低値を示したことから,この結果はサンプル特有のものであるのか,
もしくは新たな項目の追加を必要としているのかを精査する必要がある。したがって,
今回開発した FreNAQ-Jが,臨床的に有用なツールとなるためには,今後の追跡調査 が必要である。
本研究より,新たに開発された FreNAQ-Jは良好な信頼性・妥当性および許容可能 な心理測定学的特性を有していることから,慢性頸部痛患者の身体知覚異常を定量的 に評価する質問指標として有用である可能性が示唆された。