セグメント会計基準の 実施後レビューの概要と課題
渡 辺 剛
まえがき
1 FAF実施後レビューおよびFASBの回答
(1)問題の解決
(2)意思決定に有用な情報の提供
(3)機能性
(4)総括的印象
(5)FASBの回答 2 IASB実施後レビュー
(1)開示セグメント数
(2)比較可能性
(3)セグメント情報の作成基準
(4)開示情報 3 両レビューの比較
4 両レビューとわが国のセグメント情報開示実態との比較
(1)調査方法等
(2)調査結果と両レビューとの比較
(3)わが国におけるセグメント情報開示の課題 あとがき
まえがき
2006 年 11 月, 国 際 会 計 基 準 審 議 会(International Accounting Standards Board: IASB) は, ア メ リ カ の 財 務 会 計 基 準 審 議 会(Financial Accounting Standards Board: FASB)が公表したセグメント会計基準1(以下,「SFAS131号」
という)とコンバージェンスした新基準2(以下,「IFRS8号」という)を公表し,
2009 年 1 月 1 日に発効した。IFRS8号の最大の特徴は,マネジメント・アプロー チを採用した点にある。マネジメント・アプローチとは,企業をその構成単 位(セグメント)に区分すること(セグメンテーション)を企業の内部管理 組織に基づいて行うという考え方である。さらに,セグメンテーションのみ ならず,セグメント情報も企業の内部管理目的で作成された情報をセグメン ト情報として開示することを求めていることも大きな特徴である。マネジメ ント・アプローチを採用したIFRS8号は旧基準とは大きく異なることから,
IASBは,基準の発効後にレビューを行い, その効果および影響を調査し,
2013 年 7 月に「実施後レビュー:IFRS8号オペレーティング・セグメント
(Post-implementation Review: IFRS 8 Operating Segments)」を公表した。
同様にアメリカにおいても,財務会計基準財団(Financial Accounting Foundation: FAF)3もSFAS131号をレビューし,2012 年 12 月,「実施後レ ビュー報告書 FASBステートメント 131 号-企業のセグメントに関する開 示および関連情報-(Post-Implementation Review Report-on FASB Statement
1 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.131:
Disclosures about Segments of an Enterprise and Related Information, June 1997.
2 International Accounting Standards Board, International Financial Reporting Standard 8: Operating Segments, November 2006.
3 FAFは,FASBの活動を監視する役割を有する。SFAS131号のみならず,FASBが公表する 基準をレビューしている。FAFホームページ(http://www.accountingfoundation.org/home)参照。
No.131,Disclosure about Segments of an Enterprise and Related Information- )」
を公表した。両レビューはいずれもセグメント会計基準の実施後,その効 果および問題点を調査したものである。また,FASBのセグメント会計基準 とIASBのセグメント会計基準は,コンバージェンスを行っており,当該レ ビューの結果,基準を修正することになったとしてもコンバージェンスが維 持されるように修正される4。
一方,わが国においても,2008 年 3 月に財務会計基準委員会(以下,「ASBJ」
という)が企業会計基準第 17 号「セグメント情報等の開示に関する会計基 準」(以下,「日本基準」という)および「セグメント情報等の開示に関する 会計基準の適用指針」を公表し,20 年ぶりにセグメント情報の開示基準が 大きく変わることとなった。この新基準は,IASBとの会計基準のコンバー ジェンスの一環であるとされる通り(日本基準「検討の経緯」第 42 項およ び第 43 項),マネジメント・アプローチを採用し,IASBのセグメント会計 基準とほとんど同じである。しかし,わが国においては,いまだ新基準の実 施後レビューは行われていないし,行われるか否かも明らかではない。
そこで,本稿は,IASBとFASBがセグメント会計基準の課題をどう捉え,
それをどう処理しようとしているのかを明らかにし,同時にその課題がわが 国にも当てはまるものなのか否か,またわが国に固有の課題はないのかを実 態調査5を踏まえて検討することを目的としている。
4 Financial Accounting Standards Board, Response to the Financial Accounting Foundation’s Post- Implementation Review Report - on FASB Statement No.131,Disclosure about Segments of an Enterprise and Related Information, dated December 21,2012, February 19, 2013, p.6. International Accounting Standards Board, Post-implementation Review: IFRS 8 Operating Segments, July 2013, p.8.
5 拙稿「わが国におけるセグメント情報開示の実態と課題」福岡大学商学論叢,第 59 巻第 3 号(2014 年 1 月)における調査結果を使用する。
1 FAF の実施後レビューおよび FASB の回答
FAFの実施後レビューの調査対象等は次の通りである6。
① 調査対象…財務諸表利用者,会計実務家,財務諸表作成者,研究者
② 調査手法…FASBの過去のファイル,利害関係者の調査,審問,学術文 献のレビュー,注記開示および特定の公開企業のための公開情報,利 害関係者とのインタビュー
③ 回答…288(内,財務諸表利用者(48%),会計実務家(22%),財務諸 表作成者(19%),研究者(11%))
④ 回答者の規模…財務諸表利用者(アナリスト,貸付担当者,投資担当 者等様々,規模も様々),財務諸表作成者(全て一般公開企業,内半数 は収益 10 億ドル以上),会計実務家(大半は収益 10 億ドル以上の大規 模会計事務所)
FAFは,実施後レビューの基本目的として,①対象としている基準がその 目的を達成しているか否かを決定すること,②基準の実施コストおよび継続 して準拠するコストとベネフィットを評価すること,③基準設定プロセスを 改善するためのフィードバックを提供すること,の 3 つをあげている7。
①の目的は,さらに次の具体的項目に分割される8。
・当該基準が情報ニーズの根底にある問題を解決したか。
・意思決定に有用な情報が財務諸表利用者に提供され,利用されているか。
・当該基準は機能しているか。
6 Financial Accounting Foundation, Post-Implementation Review Report - on FASB Statement No.131,Disclosure about Segments of an Enterprise and Related Information, December 2012, pp.3-4.
7 Ibid., p.4.
8 Ibid.
・財務報告および実施実務に予期しない著しい変化が起こっているか。
・何らかの著しい経済的影響が発生していないか。
本稿は,FAFの実施後レビューとIASBの実施後レビューとの比較,さら には,両レビューとわが国のセグメント情報開示実態との比較を目的として いるため,共通する項目として,①の目的のうち最初の 3 つのみを取り上げ る。なお,FASBは,このFAFの実施後レビューの報告を受け,回答書9(以 下,「FASB回答書」という)を公表しているので,これも合わせてみる。
(1)問題の解決
FAFは,SFAS131号がその当初の目的を果たしているか否かを調査した。
SFAS131号は,その「結論の根拠」において,前基準であるSFAS14号から
の改善事項として次のものをあげている10。
①中間財務報告におけるセグメント情報
②いくつかの企業に関してはより多くのセグメント
③セグメントに関するより多くの情報
④内部管理報告書とセグメントとの整合
⑤セグメント情報と年次報告書のその他の箇所との整合
これに対してFAFの実施後レビューでは,SFAS131号が採用された後,
①に関しては,「企業はセグメント情報を中間財務諸表で開示し,セグメン ト開示の適時性を高めている」(5 頁)と評価している。②に関しては,「多 くの企業は,SFAS131号以前よりも多くのセグメントを報告している(十分
9 Financial Accounting Standards Board, Response to the Financial Accounting Foundation’s Post- Implementation Review Report - on FASB Statement No.131,Disclosure about Segments of an Enterprise and Related Information, dated December 21,2012, February 19, 2013.
10 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.131:
Disclosures about Segments of an Enterprise and Related Information, June 1997, par. 50.
な数のセグメントを報告していない企業も存在するが)」(6 頁)と評価して いる。③に関しては,「各セグメントに関して提供される情報の量と種類が 改善された」(6 頁)と評価している。④に関しては,「セグメント開示と内 部管理報告書との整合性が高まった」(6 頁)と評価している。⑤に関しては,
「財務諸表のセグメント情報と企業の年次報告書のその他の場所で提供され る情報との整合性が高まった」(6 頁)と評価している。実施後レビューでは,
SFAS131号が「ニーズに潜在する問題を解決した」(6 頁)と結論づけている。
(2)意思決定に有用な情報の提供
FAFの実施後レビューでは,セグメント情報が意思決定に有用な情報を提 供し,それは十分なものか否か,また当該情報が情報利用者にどのように利 用されているかが調査された。調査によれば,投資者およびその他の情報利 用者は,セグメント情報を意思決定に有用な情報とみなし,「事業活動の理解,
企業全体に関する判断および将来の成長側面の理解をはじめとして,セグメ ント情報を各種分析に利用している」(6 頁)ことが確認されている。
しかし,十分な情報が提供されているか否かという点に関しては,「利用 者および研究者の大多数は,もっとも必要なセグメント開示項目が十分な 情報を提供していると認めているが,極少数のものは否定している」(6 頁)
として,必ずしも肯定意見のみではないとしている。また,「投資者は,各 セグメントに関してより多くの情報,例えばキャッシュフロー,売上総利益,
運転資金情報をセグメント注記が提供することを望んでいる」(6 頁)として,
具体的に要求されている開示項目をあげている。
さらに,レビューでは,セグメント情報の比較可能性について取り上げ,
ほとんどの投資者は,セグメント情報が経営者の事業の見方を表すことが重 要であるとしながらも,「類似の事業における類似のセグメント間の統一性 があることが企業間比較を改善するために重要である」(6 頁)という投資
者の意見を示している。また,投資者は,経営者の視点を有用としながらも,
類似の事業の類似のセグメント間の比較可能性を選好するとし(6 頁),「企 業間のより高い比較可能性と首尾一貫性を選好することは,SFAS131号が 公表された際にFASBに対して表明された選好とは異なっているであろう」
(7 頁)と,投資者が比較可能性を基準公表時よりも重視していることを強 調している。
実施後レビューの結論は,「総合的に見て,企業は,投資者およびその他 の財務諸表利用者に対して意思決定に有用な情報を提供し続けている」(7 頁)と評価しながらも,「投資者は,類似の事業を営む企業間ではセグメン ト開示項目の整合性がより高まることを望んでいる。また,彼らは,セグメ ント情報の決定に整合的な尺度が用いられることを望んでいる。」(7 頁)と して,投資者が比較可能性の点で不満をもっていることを指摘している。
(3)機能性
実施後レビューは,作成者および実務家が,SFAS131号を理解し,その 規定を適切に適用して,正しいセグメント情報を正しく報告しているか否か を調査した(7 頁)。その結果,作成者側は,本基準をその意図されたとお りに適用可能であり,信頼可能なセグメント情報を提供することができると 考えているのに対し,実務家は,オペレーティング・セグメントの決定およ び複数のオペレーティング・セグメントを 1 つに集約することに関する問題 から,本基準の適用が困難であると考えていることが示された(7 頁)。また,
規制当局と経営者の判断とが異なり,訴訟問題が生じていることが指摘され,
追加指針の必要性が示されている(8 頁)。
実施後レビューでは,「情報技術の発達により,オペレーティング・セグ メントを決定する指針の適用および監査がより困難になっている」(8 頁)
ことが指摘されている。すなわち,情報技術の発達により,最高意思決定者
(Chief Operating Decision Maker: CODM)の利用可能な情報がより詳細になり,
CODMが,受け取って,定期的にレビューしているセグメントが不明確に なり,オペレーティング・セグメントの決定およびその集約の方法が不明確 になったという問題が指摘されている。
さらに,実施後レビューでは,SFAS14号で単一セグメントと報告してい た企業の大多数が,SFAS131号でも依然として単一セグメントと報告して おり,研究者はそれを競争上の不利益または業績不振事業を隠すためである と考えていることが示されている(8 頁)。また,
「投資者および研究者は,企業の中には,衰退事業に関する報告を削除す るためにオペレーティング・セグメントを集約している企業があると考えて いる」(8 頁)と指摘し,集約規定が論点となっていることを示している。
実施後レビューでは,総じて,作成者および実務家は,SFAS131号の指 針を理解し,適用可能であるが,オペレーティング・セグメントの決定およ びオペレーティング・セグメントの集約に関する指針を巡り,作成者,実務 家および規制当局の間で継続的な議論となっていると結論づけられている(8 頁)。
(4)総括的印象
最後に,実施後レビューは,情報利用者,作成者,会計実務家および研究 者の本基準に対する満足度を取り上げている。そこでは,利用者の 3 分の 2 は満足し,3 分の 1 は何らかの不満をもっており,具体的には,より詳細な セグメント情報(例えば,セグメント別キャッシュ・フローおよびセグメン ト別売上総利益)を望んでいることが示されている(9 頁)。さらに,利用 者および作成者の 3 分の 1 は,本基準の改善を望んでいること,実務家およ び研究者の大多数は,本基準を改善すべきであると考えているとされ,特に,
セグメントの決定および集約に関する追加指針が公表されることを望んでい
ることが指摘されている(9 頁)。
(5)FASB の回答
FASB回答書では,①オペレーティング・セグメントの決定,②オペレー ティング・セグメントの集約,③意思決定に有用な情報および④比較可能性 の問題を中心に,実施後レビューに回答している。
①オペレーティング・セグメントの決定
実施後レビューにおいて,情報技術の発展により,オペレーティング・
セグメントの決定が困難になっており,追加指針の公表が作成者,実務家 および規制当局にとって有用であると指摘されているのに対して,FASB回 答書は,その問題点を認め,今後の活動計画の一部としてこの問題を他の 関係諸機関(財務会計基準諮問委員会(FASAC), アメリカ証券取引委員会
(SEC),IASB等)に諮るとしている(3 頁)。
②オペレーティング・セグメントの集約
実施後レビューにおいて,複数のセグメントを 1 つのセグメントに集約す る際の追加指針の提供が作成者,実務家および規制当局にとって有用である と指摘されているのに対して,FASB回答書は,この問題が訴訟問題を引き 起こしていることを認め,今後の活動計画の一部としてこの問題を諮問する としている(4 頁)。
③意思決定に有用な情報
実施後レビューにおいて,調査に回答した情報利用者の 3 分の 1 がセグメ ント情報に何らかの不満をもち,基準を改善すべきであるとする情報利用者 が,セグメント別キャッシュ・フロー,セグメント別売上総利益および運転 資金情報など,より多くのセグメント情報を希望していると指摘されている のに対して,FASB回答書は,情報利用者のベネフィットと作成者のコスト 負担を考えるべきであると否定的な見解を示した上で,今後の活動計画の一
部として,この問題をIASBスタッフと議論するとしている(4 頁)。
④比較可能性
実施後レビューにおいて,情報利用者の中には,マネジメント・アプロー チを評価しつつも,企業間の比較可能性を求める声もあると指摘されている のに対して,FASB回答書は,比較可能性が重要であることを認めつつも,
目的適合性を優先させる考えかを示している(5 頁)。ただし,今後の活動 計画の一部として,この問題をIASBスタッフと議論する予定であるとして いる(5 頁)。
FASB回答書は,実施後レビューで本基準に対して一定の評価がなされて いることから,SFAS131号の包括的なレビューを行う予定はないとしつつ,
レビューで指摘された知見について関係諸機関と議論する予定であるとして いる(5-6 頁)。
2 IASB 実施後レビュー
IASBの実施後レビューの調査対象等は次の通りである(11-13 頁)。
① 調査対象…作成者および業界団体,会計事務所および会計団体,基準 設定主体,投資者,規制当局および政府機関,個人
② 調査手法…コメント要請,アウトリーチ活動,文献および学術調査の レビュー
③ 回答…コメント要請への回答 62(内,ヨーロッパ 33,アジア - 太平洋 11,グローバル 7,ラテンアメリカ 5,北アメリカ 4,アフリカ 2),回 答者(内,作成者および業界団体(35%),会計事務所および会計団体
(23%),基準設定主体(23%),投資者(10%),規制当局および政府機 関(7%),個人(2%))
④ アウトリーチ活動…IFRS8 号の実施の影響に関する情報収集のために 利害関係団体,各国基準設定主体,研究者および規制当局とフォーラム,
会議,ウエブキャスト,個人的会合という形で 36 のアウトリーチ活動 に参加。
IASBの実施後レビューは,IASBのデュー・プロセス・ハンドブックに おいて,新基準および大規模改正が施行された日から 2 年経過後に行うこと が定められている11。IASBは,この実施後レビューをIFRSのメンテナンス の一部として重要であると述べている(30 頁)。
IASBの実施後レビューにおいて開示されているIASBが受け取ったメッ セージは,「経営者の視点に立ったセグメントの識別および報告」,「非IFRS 尺度の利用」,「内部報告における開示項目の利用」,「開示規定」,「IFRSの 実施」,に分類されているが,ここでは,FAFの実施後レビューとの整合性 をとるため,(1)開示セグメント数,(2)比較可能性,(3)セグメント情報 の作成基準,(4)開示情報という分類をして検討する。
(1)開示セグメント数
IASBの実施後レビューでは,開示セグメント数に関連して,国・地域によっ ては,報告セグメントに変化がなかったというメッセージが紹介されている
(18 頁)。IASBは,前基準であるIAS14号が内部報告をセグメンテーション のベースにしていたためとし,予想通りとしている(18 頁)。
また,単一セグメントを報告していた企業に関して,「学術調査によれば,
IFRS8号実施後に単一セグメントを報告した企業はほとんどないが,他方で
ほとんどの企業が報告セグメントの数に変化がない。変化を報告した企業は,
11 IFRS Foundation, Due Process Handbook, January 2013, par. 6.52.
一般に報告セグメントの増加を報告した。」(18 頁)としている。これに対 して,IASBは,単一セグメント企業がほとんどなくなっていることは期待 通りであるし,報告セグメントがわずかでも増加することは,投資者により 有用な情報を提供することになるとコメントしている(18 頁)。
開示セグメント数に関連して,IASBの実施後レビューにおいても,FAF の実施後レビューと同様に,複数のセグメントを 1 つのセグメントに集約す る集約規準の追加指針の必要性が取り上げられている。すなわち,多くの回 答者は,オペレーティング・セグメントがあまりにも集約されすぎていると 考えており,多くの作成者および監査人は,どのような場合にオペレーティ ング・セグメントを集約するかを決定することが実務上困難であると考え ているとされる(23 頁)。これに対して,IASBは,この問題を重要と考え,
さらなる調査対象とすることおよび重要性に関する作業の一部に組み込まれ るであろうとコメントしている(23 頁)。
(2)比較可能性
IASBの実施後レビューにおいても比較可能性の問題が取り上げられてい る。すなわち,多くの回答者が,たとえ同じ業種に属している企業間でもセ グメントを比較できないことに懸念を示していたとされる(19 頁)。これに 対して,IASBは,「多くの投資者は,セグメンテーションのベースが明確化 または規定されたとしても,比較可能性が達成されることはほとんどないと いうことを理解している」(19 頁)として,この問題を検討する意思がない ことを示している。
しかし,セグメントの期間比較に関しては,対応が異なっている。IASBは,
セグメントの期間比較分析が投資者の重要なツールであるとし,IFRS8号の 実施後,毎年セグメントを変更している企業の実例が多くあることを問題視 している(19 頁)。IASBは,この問題をディスクロージャー・プロジェク
トの一部として,IASBがさらに検討する今後の課題としている(19 頁)。
(3)セグメント情報の作成基準
IFRS8号で開示されるセグメント情報は,内部報告のために用いられてい
る情報がベースとされる。したがって,その情報は,IFRSとは異なる基準 で作成されたものとなる可能性がある。その場合でも,経営者が意思決定に 利用している情報は,投資者にとっても有用であるという考え方が内部報告 情報を外部報告情報とする根拠となっている。IASBは,この点を確認する ためにコメントを求めたが,必ずしも肯定的な意見ばかりではなかった(20 頁)。そこでは,非IFRS尺度を用いる場合には,当該尺度に関する十分な 説明が必要であること,非IFRS尺度の利用は混乱をもたらすという意見も あった(20 頁)。これに対して,IASBは,非IFRS尺度が用いられるケース はほとんどないとしつつ,非IFRSが用いられた場合に必ずしも明確な説明 がなされていないことを認めている(20 頁)。
(4)開示情報
実施後レビューでは,投資者の情報ニーズとして,(a)減価償却および償 却費等の非現金支出項目,(b)事業の将来の方向を示すことから,資本的支 出,マーケティングおよび研究開発費等の投資支出,(c)ある部門の業績が 低いことおよび取得の成果を理解するために,のれんの減損,(d)将来キャッ シュ・フローに影響を与えるその他の開示項目,があげられている(22 頁)。
それに対して,IASBは,特定の開示項目を強制開示させることは,業種に よって開示項目の重要性が異なるばかりでなく,ディスクロージャーがワン パターンになることを避けるべきであるという投資者の意見を取り上げ,さ らに検討するとコメントしている(22 頁)。
また,地域情報に関しては,多くの投資者が地域ベースで作成された完全
なセグメント別分析を見たがっていると認めながらも,多くの企業が自発的 に地域別に分割したセグメント情報を提供していること,企業全体情報で地 域別の収益を開示することが妥当とする投資者および作成者がいることを指 摘し,現時点では何らかの具体的な行動をとる必要があるとは考えていない としている(24 頁)。
3 両レビューの比較
以上,FAFの実施後レビューおよびIASBの実施後レビューの概要をみた が,ここで両レビューを比較し,両レビューであげられているセグメント会 計基準の課題を整理する。
両レビューでは,両セグメント会計基準が概ね機能しているという点では 一致している。ただし,いくつかの課題も指摘されている。
①オペレーティング・セグメントの識別
FAFの実施後レビューでは,情報技術の発達により,CODMが以前より 詳細な情報を利用することが可能になったことから,定期的にレビューして いるセグメントが不明確になり,オペレーティング・セグメントの識別が困 難になっているという指摘があった。この問題は,IASBの実施後レビュー では指摘されていなかったが,重要な課題であるといえよう。
②集約規準の追加指針
複数のセグメントを 1 つのセグメントに集約する際の集約規準の追加 指針の必要性の指摘は,両レビューで共通している。この問題に対して,
FASB,IASBは共に今後の検討課題としていることから,重要な課題である
といえよう。
③単一セグメント
IASBの実施後レビューでは,IFRS8号の適用により,単一セグメント
を報告する企業がほとんどなくなったとしているのに対し,FAFの実施 後レビューでは,旧基準で単一セグメントを報告していた企業の大多数が
SFAS131号でも単一セグメントと報告しているという対照的な結果となっ
ている。その原因は,レビューを見ただけでは明らかではないが,いずれに しても,単一セグメントの問題は未解決な課題であるといえよう。
④比較可能性
両レビューにおいて,セグメント情報の企業間比較可能性の問題が取り上 げられている。いずれのレビューでも比較可能性に対する投資者のニーズが 非常に強いことが指摘されているが,FASBは比較可能性を高めることに対 しては,目的適合性の観点から否定的である。しかし,FASB,IASBは,共 にこの問題を今後の検討課題としている。
また,期間比較可能性に関しては,IASBは,今後の検討課題とするとし ているが,FAFの実施後レビューでは,期間比較可能性に関する指摘はなく,
当然,FASBもコメントしていない。この問題は,IASBとFASBとではっ きり対応が別れている。
⑤追加情報の開示
両レビュー共に,投資者からセグメント別の売上総利益,キャッシュ・
フロー等の情報ニーズが強いことを指摘している。しかし,FASB,IASBは,
共に今後も検討するとしながらも,この問題に対して否定的である。
⑥セグメント情報の作成基準
IASBの実施後レビューでは,セグメント情報の作成を内部報告基準で作 成することに対する投資者の懸念が指摘されていた。また,FAFの実施後 レビューでも比較可能性の点で,投資者がGAAPで作成された情報を選好 すると指摘されていた。FASBは,目的適合性を重視する方針を示し,IASB も対応を明確にしていない。
⑦地域別セグメント情報
IASBの実施後レビューでは,地域別のセグメント情報に対する投資者ニー ズがあるとしながらも,IASBは,現時点では検討する予定がないとしてお り,FAFの実施後レビューでもこの問題は取り上げられていない。したがっ て,現時点では課題とはいえないであろう。
以上,両実施後レビューの比較により,現時点でのセグメント情報開示 基準の課題およびそれに対するFASB,IASBの対応が明らかになった。次に,
わが国におけるセグメント情報の開示実態を上述の課題と照らし合わせ,わ が国におけるセグメント情報の開示の課題を明らかにする。
4 両レビューとわが国のセグメント情報開示実態との比較
(1)調査方法等
①調査対象
本調査は,日経平均 225 に採用されている企業(2013 年 3 月 31 日現在)
を対象としている。これは,日経平均 225 に採用された企業がいずれもわが 国を代表する大企業であり,幅広い業種から選択されていることから,わが 国のセグメント情報の開示の実態を概ね捉えることができると考えたためで ある。ただし,225 社の内,FASB基準およびIASB基準で連結財務諸表を 作成しているSEC登録企業(29 社)および合併により通年の有価証券報告 書を入手できなかった企業(1 社)は除いているため,実際の調査対象企業(参 考 1 参照)は 196 社(金融業を含む)である。
②使用データ
日本基準の実施は 2010 年 4 月 1 日以降開始の事業年度であったため,
2010 年 4 月 1 日以降の決算において各社が最初に新基準を採用した決算期 の有価証券報告書を調査対象とした12。ただし,実際に使用しているデータ は,旧基準に従って作成された期のセグメント情報を修正再表示したものを 使用している13。
例えば,2011 年 3 月期決算において初めて新基準を採用してセグメント 情報を作成した企業の場合,ここで使用するデータは,2010 年 3 月期決算 のセグメント情報の修正再表示されたものとなる。これは,旧基準適用の最 終期と新基準適用の期の間に発生する可能性のある組織再編の影響をできる だけ除くためである。例えば,非開示企業が開示企業となったか否かを判断 する際に組織再編の影響を除去した方が新基準の効果がより明確になると考 えられる。
③データ収集
データはすべて有価証券報告書より手作業で収集している。
(2)調査結果と両レビューとの比較
ここでは,セグメント情報開示の調査結果を上述した実施後レビューであ げられた課題に照らしてみていく。
①オペレーティング・セグメントの識別
これは,有価証券報告書では確認できないため,作成者に尋ねるしかない が,オペレーティング・セグメント(日本では「事業セグメント」と称され る)の識別は,セグメント情報作成のスタートであることから,わが国にお いても調査が必要であると思われる。
②集約規準の追加指針
12 具体的な企業は,拙稿「わが国におけるセグメント情報開示の実態と課題」福岡大学商学 論叢,第 59 巻第 3 号(2014 年 1 月)を参照されたい。
13 新基準においては,適用初年度において,当該年度のセグメント情報に加えて,前年度の セグメント情報(旧基準に準拠して作成されたもの)および前年度のセグメント情報を新基 準に準拠して修正再表示することを求めている(第 36 項)。なお,先行研究(中野貴之「セ グメント情報開示の実態-マネジメント・アプローチ導入前と導入後の比較検証」企業会計 , 第 64 巻第 11 号(2012 年 11 月),88-96 頁)においても同様に適用初年度における前年度の修 正再表示セグメント情報が用いられている。
集約規準の追加指針の公表がわが国においても課題となるか否かを明確に するデータは,外部からの調査では得られない。しかし,旧基準と新基準と でどれだけ開示セグメントが増加したか,というデータが参考になると思わ れる。
本調査では,報告セグメントの種類を「製品・サービス別」,「地域別」,「マ トリクス型」および「その他」の 4 つに分類している。「製品・サービス別」
には,セグメンテーションの基準の説明で「製品・サービス別」をはじめ,「商 品別」,「事業別」,「事業領域別」,「事業部別」,「事業本部別」,「製品・サー ビスの類似性」,「事業の類似性」等の説明がなされていたものが含まれてい る14。これは,旧基準における「事業の種類別セグメント」と類似したもの と考えてよいと思われる。「地域別」は,文字通り地域別にセグメンテーショ ンされたものである。ただし,旧基準の子会社の所在地別のみならず販売地
14 分類名は,「製品・サービス別」よりも「事業別」とした方が適切かもしれないが,「事業 別セグメント」は,「事業セグメント」( 最初に認識するべきセグメント ) と混同しやすいので,
本稿では敢えて「製品・サービス別」という名称を付している。また,「製品・サービス別」は,
旧基準の「事業の種類別」と類似したものであるが,事業の種類別分類が企業の多角化の状 況を明らかにすることを目的としたものであるのに対して,マネジメント・アプローチでは,
必ずしもそうではないので,両者は類似していると思われるが,目的が異なることから,本 稿では「事業の種類別」という分類名称も使用していない。
(旧基準)事業の種類
別セグメント 588(168社開示1社平
均3.5) (新基準)製品・サービ
ス別報告セグメント 608(159社開示1社平 均3.8)
(旧基準)所在地別セ
グメント 382(117社開示1社平
均3.3) (新基準)地域別報告
セグメント 42(12社開示1社平均 3.5)
(旧基準)海外売上高
セグメント 314(135社開示1社平
均2.3) (新基準)マトリクス
型報告セグメント 66(12社開示1社平均 5.5)
(新基準)その他 16(4社開示1社平均 4.0)
合計 1,284 合計 732
図表 1:開示セグメント数(セグメント情報非開示企業を含む)
域別も含まれている15。「マトリクス型」は,「製品・サービス別」に「地域別」
分類を加えたものであり,多くの場合,「国内 A 事業」,「海外 A 事業」,「B 事業」等 , 主要事業を国内と海外に分類したものが多かった。「その他」は,「会 社別」,「事業別に会社別を加味したもの」,「顧客マーケット・業態別」およ び「経営単位別」である。
単純比較すれば,新基準の方が開示セグメント数の少ないことは明白であ る。そもそも3種類のセグメントの開示から1種類のセグメントの開示になっ たのであるから減少して当然であり,単純に比較することに大きな意味はな い。そこで,報告セグメントをさらに製品・サービス別等の種類別に分類し て比較する16。
図表 1 にあるように,旧基準の事業の種類別セグメントと新基準の製品・
サービス別報告セグメントとを比較すると,企業の平均開示セグメント数は,
新基準の方が若干高い。また,旧基準の所在地別セグメントと新基準の地域 別報告セグメントとを比較すると,やはり新基準の方が若干高い17。しかし,
その増加率はごくわずかであり,集約規準に問題があるということを証明す るデータにはならないとしても,集約規準に問題がないことを証明するデー タにもならないであろう。また,旧基準から新基準に変わったにもかかわら
15 旧基準では,セグメント情報の種類は,「事業の種類別」,「親会社及び子会社の所在地別」
および「市場別」の 3 つに区分されていたが,「海外売上高」は,「市場別」のうち「販売地域別」
に分類されていた(旧基準「セグメント情報の定義及び種類」)。
16 本来ならば,旧基準の海外売上高の開示セグメント数と新基準の関連情報における地域別 情報とを比較するべきかもしれない。しかし,新基準における関連情報は,セグメント情報 そのものではなく,しかも関連情報の作成はGAAPに準拠することが求められており(第 29 項),マネジメント・アプローチの対象外であることから,マネジメント・アプローチの効果 をみるという点では必要ないと判断し,本稿では比較していない。
17 正確には,新基準の地域別報告セグメントは,子会社の所在地別および販売市場別に区分 して比較すべきであると思われるが,多くの場合,セグメンテーションの基準の説明が明確 ではなく,客観的に区分することが出来ないことから,本稿では区分していない。
ず,開示セグメント数も開示セグメントの名称も全く変わらなかった企業が 70/196 社(35.7%)もあった。わが国においては,マジメント・アプローチ の採用は大きな変化であることを考えると,複数セグメントの集約に対する 疑念をもたざるを得ないといえよう。したがって,わが国においても集約規 準の追加指針の検討が必要であると思われる。
③単一セグメント
調査の結果,単一セグメントを理由にセグメント情報を開示していない企 業は,旧基準では 8 社(4.0%)であったが,新基準では 13 社(6.6%)と若 干増加した(図表 2)。また,旧基準では非開示企業であった 8 社のうち新 基準で開示企業となったのは 4 社あった。逆に,旧基準では開示企業であっ たにもかかわらず,新基準では非開示企業となったのは 9 社あった。した がって,非開示企業は,9 増 4 減であることから,少なくとも今回の調査に おいては,新基準は旧基準よりもマイナスの効果の方が強かったという結果 になっている。
IASBの実施後レビューでは,単一セグメントがほとんどなくなったとさ れていたが,わが国の場合には,依然として単一セグメントの問題は,解決 されていないといえよう。
④比較可能性
両実施後レビューでは,比較可能性を高めることは,投資者からのニーズ が高いとされる。しかし,例えば,コンビニ事業に分類される会社であって も,フランチャイズ収入が多い企業もあれば,少ない企業もある。また,住 宅建設業界でも,個人住宅建設と商業施設建設とに収益源の中心が分かれる
新基準非開示企業:13社 旧基準非開示企業:4社 旧基準開示企業:9社 図表2:セグメント情報非開示企業
こともある。そのように,同一または類似の事業といえども,企業の事業内 容の多様性を考えれば,たとえマネジメント・アプローチをとらないとして も,セグメント情報に企業間の比較可能性を求めること自体ナンセンスであ ると思われる。ましてや,マジメント・アプローチを採用した以上,企業間 の比較可能性を求めることは,マジメント・アプローチ自体を否定すること になるであろう。したがって,FASBもIASBも,企業間の比較可能性を高 めることに消極的なのは当然である。
IASBは,期間比較可能性に関しては,前向きに検討する姿勢をみせている。
しかし,マネジメント・アプローチではセグメンテーションが企業の内部組 織に基づいて行われるため,企業の内部組織の変更の影響を受けることから,
期間比較といえども確保されるとは限らない。仮に企業の内部組織が変更さ れたにもかかわらず,旧組織に基づいてセグメンテーションをしたとしても,
経営者の視点は得られず,マネジメント・アプローチの利点を失うことにな るであろう。わが国において,どの程度の頻度で内部組織が変更されている のかを明らかにするデータは手元にないが,マネジメント・アプローチをと る以上,期間比較可能性が損なわれることもやむを得ないことと思われる。
⑤追加情報の開示
両レビュー共に,セグメント別の売上総利益,キャッシュ・フロー情報等 に対する投資者のニーズを取り上げていたが,わが国の場合,セグメント別 の資産情報が必ずしも開示されていない点が問題であると思われる。
資産に関しては,旧基準でも開示されていたことからほとんどの企業で開 資産のみ開示 156 社(85.2%)
資産および負債開示 12 社(6.6%)
資産および負債非開示 15 社(8.2%)
合計 183 社(100.0%)
図表3:セグメント資産・負債の開示(セグメント情報非開示企業を除く)
示されていたが,負債に関しては,わずか 12 社の開示にとどまった(図表 3)。また,旧基準では資産を開示していたが,新基準となり,セグメント別 の資産情報を経営者が利用していないことを理由として,非開示とした企業 が 15 社あったことはマネジメント・アプローチの負の効果といえよう18。
資産情報がなければ資本利益率も資本回転率も計算できないことから,わ が国の場合には,追加情報以前に資産情報の開示が望まれる。
⑥セグメント情報の作成基準
日本基準でもセグメント情報の作成基準は,連結財務諸表の作成基準と異 なるものでも認められている。しかし,実際には,連結財務諸表の作成基準 と「同一」または「概ね同一」とした企業が 174 社(95.1%)であり,ほと んどの企業は旧基準と同様,一般に認められた会計基準(GAAP)に従って セグメント情報を作成しているといえよう(図表4)。この点は,IASBの実 施後レビューで指摘されていた結果と同様の結果となっている。なお,セグ メント情報の作成基準が説明されていない企業は不明としたが,もしも連結 財務諸表と異なる基準に従ってセグメント情報を作成した場合には,調整表 を作成しなければならないことから,説明がないものも連結財務諸表と同一 の基準で作成していると考えてよいと思われる。したがって,非GAAPに従っ てセグメント情報を作成している企業は 1 社のみということになる。
18 先行研究においてもすでに指摘されている(中野貴之 , 前掲稿,93 頁)。
連結財務諸表の作成基準と同一 84 社 (45.9% ) 連結財務諸表の作成基準と概ね同一 90 社 (49.2% ) 内部管理会計の基準 1 社 (0.5% )
不明 8 社 (4.4% )
合計 183 社 (100.0% )
図表4:セグメント情報の作成基準(セグメント情報非開示企業を除く)
⑦所在地別セグメント情報の開示
新基準では,1 組のセグメントのみが開示対象となるため,事業の種類別 または所在地別のいずれか(あるいはいずれも)が開示されない可能性があ ることは,新基準の実施前から予想されていた。実際,所在地別セグメント を報告セグメントとした企業は,調査対象企業のうちわずか 8 社であった。
事業の種類別セグメント情報を開示し,さらに所在地別セグメント情報を自 発的に開示している企業は,わずか 4 社にすぎない。したがって,新基準の もとでは,旧基準における所在地別セグメント情報は,ほとんど開示されな かったといえよう。
この結果は,IASBの実施後レビューの結果と大きく異なっている。上述 したように,実施後レビューでは,多くの企業が自発的に地域別に分割した セグメント情報を提供しているとされるが,わが国では,ほとんどの企業が 所在地別セグメント情報を開示していない。したがって,これはわが国固有 の問題であるといえよう。
IASBの実施後レビューでは,所在地別セグメント情報の開示は,企業全 体情報(日本基準では関連情報)で開示する案が示されていた。たしかに日 本基準でもセグメント情報の関連情報として,国内および海外(国または地 域)の外部顧客への売上高を開示することが求められているが,これにより 海外の販売市場への依存度をみることはできても,海外への投資効率をみる ことはできない。また,企業の所在地別固定資産額の開示も求められている が,固定資産額だけでは資本回転率を計算することができないし,営業損益 も開示されないため,資本利益率も売上高利益率も利用することができない。
しかし,一方で,アナリストからは旧基準の所在地別セグメント情報の有 用性に対する疑義の声もあるし19,IASBの実施後レビューにおいても所在 地別セグメント情報に対するニーズは,一様ではないとされている20。はた して,わが国の場合,所在地別セグメント情報に対するニーズはあるのか否
か,わが国においても早急に実施後レビューを行い,ニーズを確認する必要 があると思われる。
(3)わが国におけるセグメント情報開示の課題
わが国におけるセグメント情報の開示実態をFAFおよびIASBの実施後レ ビューと比較した結果,両レビューであげられた課題は,ほぼわが国にも当 てはまるものであることがわかった。とりわけ,集約規準の問題は,開示さ れるセグメント情報の量および質を左右する問題であることから,わが国に おいても早急に検討することが求められる。コンバージェンスの必要性から 基準の変更による対処が困難であるならば,アメリカの場合と同様に,規制 当局が指針を公表するか,または旧基準でも公表されていたように日本公認 会計士協会から「会計手法」という形で指針を公表することも考えられるで あろう。
また,わが国固有の問題としては,所在地別セグメント情報がほとんど開 示されていないという問題がある。わが国の場合には,所在地別セグメント 情報を自発的に開示する企業がほとんどない。はたして,本当に情報ニーズ がないのかを調査する必要があると思われる。
FASBにおいても,IASBにおいても,公表した基準をレビューすること が会計基準の設定プロセスに組み込まれている。しかも,FASBとIASBは コンバージェンスした会計基準に関しては,コンバージェンスを維持しつつ 基準を改正しようとしている。わが国の会計基準をIASBの会計基準と今後 もコンバージェンスしていくのであれば,わが国においても基準の実施後レ
19 窪田真之「新基準での情報充実はメリット大 新セグメント情報を投資家はこうみる」旬 刊経理情報 ,1182 号(2008 年 5 月),26 頁。
20 IASB, op.cit., par. P.24.
ビューは不可欠であると思われる。さもなければ,わが国は,IASBまたは FASBの基準変更を盲目的に追従することになるであろう。
あとがき
本稿は, FAFおよびIASBによるセグメント会計基準の実施後レビュー で取り上げられたセグメント会計基準の評価および課題とそれに対する
FASB,IASBの対応をみた。両実施後レビューは,共に現行基準が総じて機
能していると評価しているが,いくつかの問題点も指摘している。それを受 けて,FASBおよびIASBは,とりわけ,オペレーティング・セグメントの 識別およびセグメントの集約に関する追加指針に関しては,共に前向きに検 討する姿勢をみせている。しかも,両基準設定主体は,コンバージェンスを 維持しつつ検討作業を進めていくとしている。
一方,わが国においても,実態調査から同様の課題が内在することがみて とれる。特にわが国の場合,開示セグメント数がほとんど増加していないこ と,新基準になっても旧基準と開示セグメントが変わらないことおよび単一 セグメントと報告する企業が逆に増えていることは,重要な課題であると思 われる。さらに,わが国の場合,所在地別セグメント情報の開示がほとんど なされなくなってしまった点は,それが必要か否か不明であるとしても,検 討する必要があると思われる。また,その問題を含めて,情報利用者側およ び情報作成者側のセグメント会計基準に対する評価を明らかにする必要があ ると思われる。
しかし,わが国においては,セグメント会計基準の実施後レビューは行わ れていないし,その予定も明らかでない。したがって,FASBとIASBが連 携して基準を改定する作業を行ったとしても,同じくセグメント会計基準を コンバージェンスしたにもかかわらず,日本は蚊帳の外に置かれることにな
る。はたして,それで「高品質な会計基準」21を設定することができるので あろうか。日本の実情に合った会計基準の設定を求めるのであれば,基準を 公表して終わりではなく,その効果および影響を調査するべきであると思わ れる。そのシステムがわが国の基準設定にもっとも欠けている部分ではない だろうか。セグメント会計基準は,アメリカ,IASB, 日本がコンバージェン スし,ほぼ同じ基準であるがゆえに,一層その不備が目立っている。
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