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−小学校算数科における少人数習熟度別指導のコー ス別授業のあり方−

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算数・数学教育における問題解決学習の研究(9)

−小学校算数科における少人数習熟度別指導のコー ス別授業のあり方−

著者 重松 敬一, 小嶋 康弘

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 13

ページ 49‑57

発行年 2004‑03‑31

その他のタイトル Research on Problem‑Solving in Mathematics Education(9)Teaching Children in Groups of Differing Levels for Elementary School

Mathematics

URL http://hdl.handle.net/10105/58

(2)

1.はじめに

「確かな学力」向上や個に応じた指導の推進が今日 の教育界の大きな課題となっている中、教育効果を上 げるための1つの指導形態として、学習の習熟の程度 に応じた指導(以下習熟度別指導)が注目され、広が りを見せている。文部科学省の平成15年度教育課程実 施 状 況 調 査 に よ る と 、 小 学 校 の 7 4 . 2 % 、 中 学 校 の 66.9%において習熟度別指導が実施されている。習熟 度別指導では、従来のような学級集団での学習形態を 解体し、新たな学習グループの編成や、全ての児童が 画一的に同じ内容を学ぶのではなく、児童一人一人に 合った方法や内容で確実に理解、定着させることなど これまでの教育のパラダイムを大きく変えている。ま た、これまでに数多くの実践書や研究報告書が発行さ れ、多様な学習形態や学習コースの設定が報告されて おり、外枠についてはある程度共通理解されてきてい

る。しかし現在行われている習熟度別指導が、本来の 目的である「確かな学力」の向上や個に応じた指導へ と結びついているか。言い換えれば本当に児童の習熟 の程度の違いに応じたコース設定になっているのか、

一人一人の児童の実態に視点が当てられた授業につな がっているかといえば、残念ながら必ずしもそうはな っていない現状にあるように思う。本稿ではK府N小 学校の具体的実践をもとに各コースにおける違いや特 徴について検証し、学習効果の期待できる習熟度別指 導の授業づくりの新たな枠組みや視点について提案し てみたい。

2.習熟度別指導の歴史

学習指導要領において初めて「学習内容の習熟の程 度に応じた指導」が記述されたのは、昭和53年改訂の 高等学校学習指導要領2からであり、これには「各教

−小学校算数科における少人数習熟度別指導のコース別授業のあり方−

重 松 敬 一

(奈良教育大学数学教育講座)

小 嶋 康 弘

(京都府綾部市立西八田小学校)

Research on Problem-Solving in Mathematics Education(9)

Teaching Children in Groups of Differing Levels for Elementary School Mathematics

Keiichi SHIGEMATSU

(Department of Mathematics Education,Nara University of Education)

Yasuhiro KOJIMA

(Nishiyata Elementary School)

要旨:本稿では、算数の少人数習熟度別指導のコース別授業のあり方について、K府N小学校の「習熟度別指導に

おける問題解決的な学習のパターン」1のモデルをもとに作成された授業を手がかりに分析、検証を行った。その結 果、例えば基礎コースと発展コースにおいて、授業の「導入」場面、「自力解決」場面、「集団解決」場面、「まとめ」

の場面でコースごとの明確な量的(時間的)な差が見られた。また、「導入」場面と「集団解決」場面では、教師の 発言内容(指示、発問、理解・共感)においても基礎コース、発展コースに明確な違いが見られた。これらの結果 は、今後コースの差を明確にした習熟度別指導における授業づくりに大きな役割を果たすものと考える。しかし、

これらは一授業からの考察であり、今後さらに他の授業でも検証を重ねていかなければならない課題を残している。

キーワード:習熟度別指導 Teaching Children in Groups of Differing Levels

個に応じた指導 Individualized instruction 問題解決学習 Mathematics Problem-Solving

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科、科目の指導に当たっては、生徒の学習内容の習熟 の程度などに応じて弾力的な学級の編成を工夫するな ど適切な配慮をすること」とある。これ以前において は、能力別学級編成による指導が行われてきた経過が ある。では昭和53年からの習熟度別指導による学習と それ以前の能力別指導による学習との違いはどこにあ るのだろうか。

福島県教育センターの「習熟度別学習研究の手引き」3 には以下のように示されている。

「従来行われてきた能力別学習と今日求められてい るいわゆる習熟度別学習とはまず、その動機において 違いがあります。今日高校進学率が94%を越え、生徒 の能力が多様化している現状において、学習について いけない生徒が増え、学習指導法においてもその対応 策が緊急の課題となっています。習熟度別学習はこの 課題解決を動機として生まれた指導法の改善策と考え られます。(中略)能力別学習がこのような体系とし てとらえられなかったのはその動機が進学対策といっ た学校経営の一部門ととらえられていたからであると 思われます。」

また、基本的な考えとして能力別指導は個々の児童 の能力を教師の指導により引き上げ、児童の違いを一 緒にしようとするのに対し、習熟度別指導は個々の児 童の違いは違いとして認め、その違いに合った指導を しようとするもので根本的にこの2つは異なるものと 考えられる。言い換えれば、能力別指導は規定の大き さの服を用意し、その服を全ての児童に無理に合わせ ようとするものであるのに対し、習熟度別指導は、

個々の児童に合った無理のない大きさの服を用意して 与えようとするものである。そういう意味では習熟度 別指導は、従来のように全ての児童が同じ方法で、で きるだけ多くの内容を学ぶのではなく、内容を厳選し、

できるだけ多くの児童に違った方法で確実に学習内容 が理解できることを目指した指導であり、従来の教育 のパラダイムの大きな変革と言える。また、これには 集団準拠による評価を発想とする能力別指導と目標準 拠による評価を発想とする習熟度別指導という評価の 発想の違いも大きく関係している。

中学校においても、平成元年改訂の中学校学習指導 要領4から「各教科等の指導に当たっては、学習指導 内容を確実に身に付けることができるよう、生徒の実 態に応じ、学習内容の習熟の程度に応じた指導など個 に応じた指導方法の工夫改善に努めること」と初めて 習熟の程度に応じた指導について明記された。平成10 年改訂の現在の学習指導要領においても「学習内容の 習熟の程度に応じた指導」は中学校と高等学校だけに 示されており、小学校においては示されていないが、

平成15年の中央教育審議会の答申を受けて、平成16年 度から小学校においても制度的に実施できるようにな った。

3.習熟度別指導の実施状況

文部科学省の平成15年度「公立小・中学校教育課程 の編成・実施状況等の調査5」によると理解や習熟の 程度に応じた指導の実施割合(ティームティーチング 等の指導も含む)は、表1に示すように小学校では 74.2%、中学校では66.9%であり、平成12年度から比 較すると図1のように右上がり的に増加している。

この増加の背景には、平成13年度から5年計画で実 施されている第7次公立義務教育諸学校教職員定数改 善計画により、少人数指導や習熟度別指導を行うため に必要となる加配教員が配置されたことも大きく関与 している。

実施教科で言うと、小学校では算数の割合が高く、

全体の約9割を占めている。これは学習内容の系統性 が高く、児童の理解に差が出やすい算数の教科の特性 からではないかと考えられる。

また、W県の教員を対象に行った筆者らのアンケー ト調査(平成15年10月実施)によると、学習を複数の コースに分け、少人数での習熟度別指導を実施してい る割合は、小学校で34.5%、中学校では38.9%であっ た(表2)。均等分割の少人数指導を含めると、小学 校では65.5%、中学校では55.6%となり、いずれも 50%を越えている。また、各都道府県、各市町村の実 態により習熟度別指導という新しい指導形態の導入に は若干の温度差が見られると思われる。

表1 公立小・中学校における習熟度別指導の実施率

図1 公立小・中学校における習熟度別指導の実施率の変化

表2 W県の習熟度別指導の実施状況

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4.習熟度別指導における現状

4.1.児童の実態

学習の習熟の程度に応じたコースでは、これまでの 一般学級に比べて児童間の習熟の差が小さく、学習場 面においてそれほど大きな差を感じないということが 予想されるが、本当にそうなのであろうか。

表3は、K府K小学校、3年生の「たし算とひき算」

の単元の中で3けたのたし算プリント(20問)実施し た基礎コースの児童の課題解決時間を示したものであ る。

これを見ると最も速 い児童と遅い児童との 間には約30分間の差が あり、習熟度別に分け られたコース内であっ ても、かなりのスピー ドの差があることがわ かる。

このことから、単に 学習グループを習熟度 別に分けただけでは、

十 分 な 指 導 と は 言 え ず、コースの中のさら に一人一人の児童に視 点を当てた手立てがと

られなければ個に応じた指導ができているとは言えな い。

また、特に基礎コースの児童を焦点化して観察して みると、学年を問わず学習の取組においていくつかの 共通した特徴や課題が見えてきた。それを類型的にま とめ、整理したものを表4に示す。

個に応じた指導を行うためには、これらの児童の課 題について十分考慮した手立てを教師は持って授業に 臨むことが求められるが、1つ1つの課題に対する具 体的手立てや、また課題が複数重複している児童には どう対処していくのかなど具体的に示していくことが 今後の大きな課題の1つである。

また、細水6は少人数指導の長所、短所として表5 のように整理している。これを見ると、少人数での指 導は児童によく目が行き届く一方で、教師がついつい 手をかけすぎてしまい、児童が教師に依存してしまう 危険性を多分に含んでいることがわかる。少人数指導 においては、児童の主体性を引き出す学習づくりを意 識して進めていくことが重要である。児童自身が学び に対して主体的に変わらなければ、学習自体が自分の ものとはならず、大きな効果は期待できないからである。

そこで、児童が主体的な学びを獲得していくための プロセスを図2に示す。

これは、いい先生との出会い(信頼感・安心感)、

算数への興味・関心(よい教材との出会い)、自分で やらなければいけないという意識(学習者自身の自覚)

をきっかけとして、第1段階では、教師の積極的な関 わりの中で、まず学習内容に興味を持つ。そして教え てもらった通りにまずやってみて、それがうまくでき た時に自信となり、同じような問題ならもっとしたい という気持ちになる。このような成功経験を重ねると、

次に第2段階としてなぜだろうという内なる疑問を持 つようになり、試行錯誤の中でそれが解決できた時に、

より高い自信や満足となり今度はもっと違った問題、

難しい問題に挑戦したいという学習意欲がわき、学習 が主体的に変化するものと考える。

4.2.児童及び保護者の意識

K府K小学校の6年生(87名)のアンケート調査

(平成15年7月実施)によると、表6では習熟度別指 導についてほぼ全員の児童が「好き」「ふつう」と答 えており、習熟度別のコースに分かれての学習を児童 は肯定的に捉えていることがわかる。特に発展コース の「好き」の割合は61.6%とどのコースよりも高く、

表3 プリントを仕上げるの にかかった時間

表4 学習場面で見られる基礎コースの児童の特徴や課題

表5 教師側からみた少人数指導の長所と短所

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これはこれまでの授業では速く課題ができても他の児 童ができるまで待たされることが多かったが、発展コ ースではどんどん自分のペースで進んでいくことがで きることに対する肯定感の表れであり、このことは表 7の習熟度別学習の好きな理由で、「自分のペースで 学習できる」への回答が多いことからもわかる。

また、表8に示した「算数を楽しいと感じるときは」

の項目には、基礎コースの児童は、「先生が…」、「先 生の…」という回答が多く、発展コースの児童は、

「難しい…」「不思議な…」という回答が多かった。こ のことから基礎コースの児童は教師の関わりを強く求

めており、その中でできる喜びやわかる楽しさといっ た成功経験を数多く持たせることが大切である。逆に 発展コースの児童は知的好奇心が満足できたときや算 数の不思議さに触れたとき楽しさを感じており、チャ レンジできるような教材や感動できる教材など、主体 的に学習を進められるような工夫が必要であることが わかる。

次に、習熟度別指導についての保護者の意識につい て述べてみたい。文部科学省が平成15年に行った「学 校教育に関する意識調査7」によると授業の理解度に よるグループ分けについて「先生に子ども一人一人を よく見てもらえる」という項目に関して73.4%の保護 者が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と肯 定的な回答をしている。また、「子どもが自分のペー スに合わせて勉強できる」には保護者の72.3%が肯定 的な回答をしており、一応に習熟度別指導について肯 定的に捉えていることがわかる。しかし、一方で「子 図2 児童の主体的な学びのためのプロセス

表6「習熟度別学習が好きですか?」に対する回答

表7「習熟度別学習の好きなところはどこですか?」に対する回答

表8「算数が楽しいと感じるとき」に対する回答

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どもの学力が広がるのではないか」には42.6%、「子 どもの間に優越感や劣等感が生まれる」の項目には 44.9%、「いろいろな考え方の子どもが一緒に学ぶ機 会も必要」の項目には88.7%の保護者が、「そう思う」

「どちらかといえばそう思う」と回答しており、従来 の固定化された学級集団を解体し、新しい学習グルー プを編成していくことへの不安感を感じていることが わかる。

また、先述のように保護者は習熟度別指導について 一応の理解を示しているが、これは言い換えれば習熟 度指導に対する大きな期待が込められているもので、

その期待に応えることができなければ、習熟度別指導 はすぐに否定されるであろう。保護者の期待とはすな わち子どもの学力の向上である。以下にその具体的な 姿を挙げる。

このような事例が見られたとき、保護者は習熟度別 指導をより肯定的にとらえることができる。それだけ に保護者の肯定的評価が見られるよう、学校では指導 の工夫、改善を行うことが求められる。

4.3.習熟度別指導の現状

習熟度別指導の成功の鍵は、指導方法の工夫・改善 が大切であることは前節で述べた通りである。もう少 し詳しく言えば、基礎・標準・発展などコースごとの 特徴を明確にし、それぞれのコースの中で児童が満足 できるような指導内容や、指導展開の工夫がなされる ことが重要である。では、現在習熟度別指導を実施し ている学校はこのようにコースの違いを明確にした指 導がなされているのであろうか。今年度、学校訪問や 研究発表会等、数多くの授業を参観したが、残念なが らそうはなっていない授業も結構多く見られた。

具体的には、どのコースも同じ課題、同じ展開で、

コースの違いは、1時間の学習内容が速く終わる発展 コースでは、授業の終末での練習問題を多くするとい う、主に練習問題の量でコースの差をつけている授業 が多く、コースにより課題や展開、指導の手立てを意 識して変えている学校は研究指定校のような全校体制 で習熟度別指導を研究の柱としている学校以外ではな かなか踏み込んで実施されていないのが現状である。

また、清水8も「算数・数学科における少人数指導

では、期待に比べるとその指導方法の工夫や編成につ いては、同人数分割、一斉指導・習熟度別が圧倒的で あり、指導方法に関して加配された教員による多様な 工夫がなされていないことがわかった」と述べている。

さらに、先述のW県の教員を対象に行ったアンケー ト調査においても、コースの違いについて、「コース によって課題を変えている」が37.5%、「課題は同じ だがコースによって展開を変えている」が18.8%、

「課題や展開の仕方はほぼ同じだが練習問題の量や質 を変えている」が43.7%という回答があり、個々の児 童の課題に応じた指導を進めるコースの設定を行って いくこと、つまり量的な違いから質的な違いへと変え ていくことが今後の大きな課題となっている。

5.コースの違いを明確にしたコース設定のあり方

1学校においてコースの違いを明確にした指導計画 を作成していくには、共通したモデルとなるものが必 要である。これがなければ、教師の力量や意識の違い により各学年、各学級がバラバラな指導を行うことに なり、学校として統一された効果的な指導を行うこと などできない。そこで、K府N小学校で作成された

「習熟度別学習における問題的解決的な学習のパター ン」1をもとに、時間的なウエイトも考慮して作成し たものが、表9に示す「習熟度別指導における問題解 決的な学習のモデル」である。このモデルでは、標準 コースの授業づくりを中心に据えながら、その両側に 基礎コース、発展コースの授業を考える際の視点を示 している。これにより、誰がいつ、どこの学年、コー スを持ったとしてもコースの違いを明確にした授業づ くりができる。ポイントとしては基礎コースは、教師 の積極的な関わりの中で児童に解決の経験や自信を多 く持たせながら標準コースへ向かわせることに重点を 置き、発展コースは児童のチャレンジ心を大切にし、

自力解決の時間は短く、話し合いの時間を十分とる中 で、互いに高め合いながら、より価値の高い学習内容 を獲得できることに重点を置いている。

5.1.コースの違いを明確にした指導事例

表10は実際にK府N小学校3年生の「表とグラフ」

の単元において、表9に示す「習熟度別指導における 問題解決的な学習のモデル」をもとに作成した1時間 分の授業の指導のポイントを整理し、まとめたもので ある。

これによると、基礎コースでは1目盛りが1のもの を取り上げ、全員が同じ課題に取り組ませ、標準コー スでは1目盛りが1、5、10の場合を取り上げグルー プごとに別課題に取り組ませ、発展コースでは1目盛 りが1,2,5の場合を取り上げグループごとに別課 題に取り組ませるというように児童の習熟度に合わせ

(7)

て課題を変えていることがわかる。

また、用いるグラフ用紙も基礎コースではワークシ ート式に( )に記入させ、標準コースでは1目盛り が1、5、10、100のグラフ用紙を用意し、適宜必要 なものを選択させ、発展コースではマス目のみのグラ フ用紙を与え目盛りの取り方から児童に考えさせるな ど、コースの違いを明確に出していることがわかる。

5.2.各コースの時間的配分に関する考察

表9では、各コースにおける内容や展開の違いの視 点について提案したものであるが、もう1点、1時間 の授業の中での時間配分のウエイトについても提案し ている。つまり、基礎コースでは導入の時間を十分と り、前時の振り返りや課題把握に時間をかけたり、自 力解決に時間をかけ、集団解決は教師が児童の間に入 って個々の児童の考えをつなぎながら短時間での解決 を目指す。一方発展コースは、課題把握や自力解決の 時間をできるだけ短くし、児童が主体的に互いの考え を練り合う、集団解決の時間を多くとろうというもの であるが、実際に授業では本当にそのような時間配分 のウエイトで授業が行われているのだろうか。

そこで、表10に示す授業について各コースごとの授 業記録をとり、分析を行ってみた。その結果を図3に 示す。これを見ると、明らかに基礎コースは導入及び 前時の振り返りに要する時間が多く、発展コースは集

団解決の時間(話し合い)の時間が多くとられている ことがわかる。しかし、1つの授業だけで判断するこ とだけではまだ不十分であり、今後他の授業でも本当 にそうなるのかどうか検証していきたい。また、合わ せてこのコースごとの時間配分が本当に効果的である かについても検証していきたい。

5.3.各コースにおける教師の発問の量的、質的側 面からの考察

前節では1つの授業を各コースごとの時間配分の違 いという視点で考察したが、ここでは同じ授業を教師 の発問の量的、質的側面の視点から考察してみたい。

まず、量的な側面では、導入場面と集団解決場面で の教師と児童の発言回数と発言割合をそれぞれ図4〜

表9 習熟度別指導における問題解決的な学習のモデル

図3 コース別時間配分

(8)

図7に示した。

これを見ると、導入場面では基礎コースは時間をか けている分、発言回数も多く、教師と児童がほぼ同じ 割合で話しているのに対し、発展コースでは導入は教 師の1発言のみで次の自力解決の段階に移っているこ とがわかる。

そして、集団解決場面では基礎コースでは導入場面 と同じくほぼ同じ割合で教師児童が発言していること がわかる。一方で、発展コースでは教師と比べて児童 の発言割合が77.8%と高い割合を示しており、このこ とから発展コースでは、教師の関わりは少なく、児童

主体の話し合いが行われていることがわかる。

次に、基礎コースと発展コースにおける、導入場面 と集団解決場面での教師の発言について質的に分析 し、考察してみたい。

教師の発言を分析する際に、その発言内容を以下の ような3点に分けて分類した。

I:「〜しましょう。」など、教師の指示 Q:「〜ですか?」など、教師の発問 S:「〜ですね。」など、教師の確認及び共感 表11を見ると、導入場面では、基礎コースは前時の 学習の振り返りや既習事項の確認のための発問が多い 表10 K府N小学校 3年「表とグラフ」におけるコースの課題や展開の違い

(9)

のに対し、発展コースでは、1つの指示で端的に本時 の課題へと導いている。

次に、表12を見ると、集団解決場面では、基礎コー スはほとんどが発問であり、教師の積極的な介入によ り、ほぼ1問1答式の形で1つ1つの事項について児 童の理解を確認しながら進めていることがわかる。し かし、発展コースでは教師の指示と、確認・理解のみ で、発問は見られない。これは、1つの事柄について 個々に書いた棒グラフの正確さを確認することを中心 とした基礎コースと数種類の事柄についてグループで 書いた棒グラフの工夫についての児童主体の話し合い を中心とする発展コースの授業の展開の違いが大きく 関係していると考えられる。

以上のことから、教師の発言の量と質については表 13のように整理できる。しかし、他の授業についても 同じことが言えるかどうかはまだ検証の余地が残され

ており、これについては今後の課題である。

5.4.習熟度別指導における授業づくりの視点

本章では、習熟度別指導の各コースにおける問題解 決的学習のあり方について、授業づくりの観点で述べ てきたが、さらに授業づくりにおいて大切にしたい視 点について述べていきたい。

まず、1点目は指導計画の作成についてである。習 熟度別のコースについては、基礎、標準、発展と学習 図6 導入場面における発言割合

図7 集団解決場面における発言割合

表11 導入場面における教師の発言

表12 集団解決場面における教師の発言 図5 集団解決場面における発言回数

図4 導入場面における発言回数

(10)

が順次ステップアップしていくことが求められる。し たがって、各コース担当が計画を作る際、各々が同時 に平行して作成するのではなく、例えばまず土台とな る標準コースの指導計画をつくり、それをもとに基礎、

発展コースの計画を作っていくなどの工夫が必要であ る。他に、基礎コースの計画をまずつくり、その上に 標準、発展コースをつくることや、まず最終目標の姿 となる発展コースの計画をつくり、後で標準、基礎コ ースをつくるなどその方法は様々に考えられる。さら に、指導内容だけでなく、使用するプリントやワーク シートについても基礎、標準、発展とコースの特性が 表れるよう、その量や質を変えていくことが求められ る。

次に、個に応じた指導をするためには、児童の実態 をいかに正しく捉えるかが大切であり、指導前、指導 中、指導後において児童の実態を捉える方法について 吟味する必要がある。各種テスト、授業記録表、個人 カルテなど可能な範囲で児童の実態を捉え、記録する ことが大切である。またこれは教師の指導の反省や振 り返りにもなり、指導法の改善にもつながる。

最後は、評価の工夫である。コースで学習したこと が生かされ、学習した自信を挫かないテストの作成が 重要である。また、関心・意欲・態度や数学的な考え 方を評価する問題や選択問題の導入などの工夫も積極 的に取り入れていくことが重要である。

6.今後の研究課題

本稿では、小学校算数科における少人数習熟度別指 導のコースの違いを明確にした授業のあり方について 提案してきた。

しかしながら、まだこれは一授業に基づく結果から の考察であり、他の授業でも同じことがいえるのかに ついては今後もう少し具体的授業をもとに検証してい きたい。

また、今回示した問題解決型の授業が本当に児童の 学力を向上させるものなのか、児童の学力を認知的側 面、情緒的側面、学習態度的側面など多面的に分析し ながら客観的な検証をしていきたい。

さらに、今回習熟度別指導のあり方の研究を進める 中で、一斉指導の授業や授業づくりにおいて大切にし なければならないことが見えてきた。一斉指導という より幅の広い児童の実態の中ではどのように個に応じ

た指導を進めていけばよいのか、今後本研究の成果を もとに整理し、さらに研究を深めていきたい。

謝 辞

本稿では、小学校算数科における少人数指導のあり 方について、具体的実践をもとに検証してきた。まだ まだ残された課題は多いが、個に応じた指導を目指し た習熟度別指導の授業づくりの視点について、一つの 提案ができたのではないかと考えている。

本研究に際し、貴重な授業や資料を提供していただ いた、京都府向日市立向陽小学校、綾部市立中筋小学 校の校長先生をはじめ、諸先生方に深く感謝いたしま す。

引用・参考文献

1 京都府綾部市立中筋小学校 「習熟度別学習にお ける問題解決的な学習のパターン(高学年)」『平 成15年度研究紀要』 2003 P10

2 昭和53年度 高等学校学習指導要領総則 学習指導要領データベース 

http://nierdb.nier.go.jp/db/cofs/s53h/chap1.htm 3 福島県教育センター 「習熟度別学習研究の手引

き」 1981 P2〜4

4 平成元年度 中学校学習指導要領総則 学習指導要領データベース

http://nierdb.nier.go.jp/db/cofs/h01j/chap1.htm 5 文部科学省 平成15年度「公立小・中学校教育課

程の編成・実施状況調査」

http://www.mext.go.jp/b̲menu/shingi/index.htm 6 細水保宏 「少人数指導、習熟度別指導は特効薬 になるのか?」『今、算数があぶない−本当の問 題 解 決 の 授 業 を 目 指 し て − 』 東 洋 館 出 版 社 2003 P91

7 文 部 科 学 省   「 学 校 教 育 に 関 す る 意 識 調 査 」

『中央教育審議会答申 初等中等教育における当 面の教育課程及び指導の充実・改善方策につい て』 ぎょうせい 2003 P95,97

8 清水克彦 高浦勝義 山田兼尚 「算数・数学科 における指導方法の工夫改善による教育効果に関 する研究−算数

・数学科における少人数指導等の実態に関する調 査結果と分析−」 『第36回数学教育論文発表会 論文集』日本数学教育学会 2003 P12

9 工藤文三 「学習指導要領における習熟度別指導 の位置づけ」『今日から始める 習熟度別指導の 基礎・基本』教育開発研究所 2003 P8〜9 表13 授業の導入場面、集団解決場面における教師

の発言の量的、質的コース別考察

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