第6章第2節付論
マツノト遺跡第1文化層、用見崎遺跡3層、
安良川遺跡の先後関係
-ヤコウガイデータ分析のための基礎作業として-
はじめに
第6章3節「ヤコウガイ交易の検証」において、わたしは兼久式土器期の三遺跡(マツノト遺跡第 1文化層、用見崎遺跡3層、安良川遺跡)をとりあげて分析、検討した。しかし対象とした三遺跡の 時期的な先後関係は、従前の土器編年研究において必ずしも明らかではなかったので、これを整理す るために兼久式土器について若干の作業をおこなった。以下にその作業結果を示し、立論の根拠を明
らかにしておきたいと思う。
1.作業の必要性
(1)兼久式土器
兼久式土器は、徳之島兼久貝塚(面縄第三貝塚)で出土した単一型式の土器群を標識として1974年 に河口貞徳が命名したものである(河口1974)。河口が指摘した兼久式土器(甕形土器)の特徴は以 下のようである。
①頚部に断面三角形の刻目突(凸)帯を1条めぐらし、突帯の上下に鋸歯状の沈線文を施すのを 基本形とする。
②色調は暗褐色、胎士に石英、長石などを含み、焼成は良好。
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③底部は平底で木葉痕をもつ。
④器面調整は直物の繊維による擦痕の顕著なもの、内面に輪積みの痕跡をのこすものがある。
これらの特徴に、その後明らかになった以下を加えることができよう。
⑤多数の大小の甕形土器(平底)と少数の大小の壷形土器(丸底)があり、まれに鉢形土器等も 加わるセットをなす。
河口氏が提唱した当時の兼久式土器は、甕形土器を対象にした型式概念であったが、今日では様式 として認識されている(中山、本書第5章第3節)。ここでは甕と壷に共通する特徴である刻目突帯 を、兼久式土器の第一の形態的特徴と理解しておきたい。
兼久式土器は、他の型式を伴わず単独で出土することが多く、このためにその編年的位置づけが長 く不安定であったが、1980年以降、他型式との層位的上下関係を示す発掘調査事例(長浜金久遺跡、
マツノト遺跡など)や、貝符、開元通宝など時期比定に有意な資料との共伴事例が増えて(フワガネ ク遺跡、用見崎遺跡など)、その時期は古墳時代後期から古代前半までに絞られるようになった。兼 久式土器研究は現在、その始まりと終わりの解明、存続期間における型式的変遷と画期の設定に向 かっているといえよう。
(2)兼久式土器の編年
2005年、兼久式土器研究を進める高梨修氏の編年研究成果が公表された(高梨2005)。高梨氏の編 年案は奄美大島小湊フワガネク遺跡(以下フワガネク遺跡)の土器を基礎としたもので、兼久式土器 の存続期間を1期からV期に分期し、その成立から収束までを網羅している。
表1は、高梨氏による兼久式土器の分類をまとめたものである(1)。この分類をもとに、高梨氏は以 下を指摘した。
・フワガネク遺跡第6次調査(調査区24)において、上位のVa層から兼久式土器、下位のVb 層からスセン當式土器が出土した。スセン當式土器(2)が兼久式土器に先行することは明らかで ある(高梨2005,77頁)。
・兼久式第1類可第2類aはスセン當式土器の要素を継承した兼久式土器の初源的様相として、
型式学的に理解できる(高梨2005,78頁)。
高梨氏は、スセン當式土器といわゆる兼久式土器(上記①~⑤の特徴をもつ土器)の間に兼久式第 1類、第2類aを介在きせて「スセン當式土器から兼久式土器へ、両者は連続的に型式学的変化して いく」(高梨2005,78頁)と理解した。
またフワガネク遺跡の土器と、マツノト遺跡の土器を比較し、以下を指摘している。
「フワガネク遺跡出土土器は、第2b類・第2c類を中心に第1類、第2a類が加わる構造であるの に対し、マツノト遺跡は第2c類・第3類が中心になる構成と考えられる。」(高梨2005,93頁)。
さらに、マツノト遺跡上層に9世紀表1.高梨修氏による兼久式土器分類(高梨2005をもとに作成)
後半から10世紀前半に比定されている 土師器九底甕が伴うこと、フワガネク 遺跡に7世紀前半に比定されている土 師器模倣土器が伴うことを根拠に、兼 久式土器を以下のように、新旧二つに 大別した。
・古段階の兼久式土器:フワガネ ク遺跡第2次調査上層出土士
分類
222
分類 隆帯文の有無、刻目の有無、文様の有無による分類 第1類
第2類
第3類 第4類 第5類
口縁部に沈線文のみ 口縁部に刻
目隆帯文
a
類 b類
C
類
刻目隆帯文の上下に沈線文(隆帯文)
刻目隆帯文の上あるいは 下に沈線文(隆帯文)
トー001類:上部 2類:下部 沈線文なし
胴部上半に刻目隆帯文 隆帯文 a類
b類
隆帯文のみ
隆帯文十沈線文
無文
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