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AnEconomicAnalysisofMotivationTheoryforInformation and CommunicationTechnologiesBasedonRegionalEconomy

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内発的経済発展を支える 情報化モチベーション の形成に 関する経済学的研究

- 基本的欲求に基づく地域情報化の三段階展開:地域再生の経済学(Ⅴ) - 山中守

AnEconomicAnalysisofMotivationTheoryforInformation and CommunicationTechnologiesBasedonRegionalEconomy

RevitalizationBehaviors

MamoruYAMANAKA (ReceivedOctoberL2010)

ThepulposeofthisstudyistoanalyzethedrivingfOrcesbehindmotivestoexploitlnfOrmationand CommunicationTbchnologies(ICT)fOrrevitalizingregionaleconomies

TheresuItsofthiseconomicanalysisshowthattherearethreeeconomicdriversdistinctivelyinHuencingthese motivesThefirstdriverisbasedonthehumanbeing,sphysiologicalneedstosustaineconomicactivitiesin regionalareassuchasprofit-seeking・Theseneedsarecommonlyknownasphysiologicaldrives,anditistaken asastartingpointfOrincreasingmotivationtoexploitlnfOrmationandCommunicationTbchnologiesto revitalizedecliningregionaleconomies・OncethemotivesofthefirstdriverarefUlfilled,theseconddriver emergestosatisfyotherneedsinrelationtosafetyandsecurityofoursociety・Thisshiftsthemotivestoadapt lnfbrmationandCommunication化chnologiesfOrenrichingregionaleconomiesandenvironmentFinally,the thirddriverisrecognizedastheselfLactualizationneed

ThesebasichumanneedsfOrusinglCTareorganizedintoahierarchyofrelativeprepotency・Onemain implicationofthisphrasingisthatgratificationbecomesasimportantaconceptasdeprivationinmotivation theory,fOritreleasestheorganismfromthedominationofarelativelymorephysiologicalneed,permitting therebytheemergenceofothermoresocialgoals.

Keywords:RegionalEconomy,ICnMotivation,Revitalization,Humanneeds,Selfactualization.

ます厳し〈なっている.特に,地方都市や農村などの 条件不利地域から多くの若者が大都市に流出している 現実は,経済構造の光と影を敏感に映し出していると

,思われる.

ところで,厳しい条件不利地域にもかかわらず,日 本の農耕文化の風土に合ったライフスタイルを求めて ICTをアイデア豊かに活用しながら,地道に取り組ん でいる人々もいる.そのICT活用への前向きな欲求は どこから出てくるのであろうか情報格差が拡大しつ つある現実問題を解決していくためには,深刻な問題 を抱えている条件不利地域を対象にした分析が不可欠 であると考えている.

本研究の目的は,地域経済の発展のためにICTを活 1.課題と分析方法

経済行動は人間の基本的欲求に起因しており,この 欲求は経済発展を創りだす力を持つが一方では破壊 する力も持つ.情報通信技術(ICT)の進展は,この 不安定U性を加速きせていると思う.その具体的な姿が 地域格差と情報格差の拡大である.

ICTの普及が進んだ現代社会では,情報の利用場所 などの制約は大幅に緩和され,便利な環境になった.

しかしICT環境の整備にともなって経済グローバル 化が進み,市場競争至上主義による過剰な淘汰や地域 固有文化の崩壊など地域経済を取り巻く環境はます 熊本大学教育学部経済学研究室

(151)

(2)

ICT社会における人間の基本的欲求は地域経済の発 展において,どのような役割と意義を持ち,また危険 性を持っているのか,この分析を通して情報化モチ ベーションの三段階展開という考え方を提起したい.

用したいという前向きな欲求は如何にして形成される のかという課題に対して,経済学的な観点から分析す ることである.特に条件不利地域で内発的に情報化 モチベーションが形成されてくる過程に着目した.

この研究目的の背景には,従来から実施されてきた 国による情報政策という外部からの誘導では,住民の 情報化モチベーションは高まらないことが現象として 現れているからである.これまで国の情報政策で多額 の投資をして,それに見合う経済効果を出している情 報施策もあるが,中には経済効果が上がらず,中止に なった多くの情報施策があるn.この主な原因として,

国策として情報政策を推進してきたが,住民にとって は必要性が無く,情報化モチベーションが上がらな かったからである.

なお,地域経済の発展を支援する情報化モチベー ションの形成に関しては,つぎの理論を基礎とした.

多くの場合,情報化モチベーションの源は私的な利 潤の追求という利己心であると考えらえる.この利己 心は分業と交換の基本になっていることは,アダム・

スミス「国富論」2)で指摘されている.しかし,単な る利己心ではなく,アダム・スミスは「国富論」の前 著「道徳感情論」で「同感」と「中立的な観察者」の 概念])を用いて解明している.本研究では,この考

え方をヒントにして分析した

さらに産業集積が乏しい条件不利地域が取り残さ れる原因については,Aマーシャル「経済学原理」

の内部経済と外部経済の概念41を基本にした.しか し経済効率が高いところへと人間は移動しているが,

人間の欲求は経済効率のみではなく,多種多様な基本 的欲求があり,これについては,AHマズローの 動機理論s)を基礎にして考察した

2.経済発展と情報化モチベーションの基本視点 地域経済の発展の主な目的は,地域が豊かになるた めに富を得ることである.ところで,富とは何であり,

どのようにして捉えられるのか.

富について,アダム・スミスは国富論の最初に述べ ている61.富は,国民が求める生活の必需品と,生活 を豊かにする利便品で捉え,それが十分に供給きれて いるかどうかで決まる.この源泉は国民の労働である.

この指摘の重要な点は,富を金や銀のような貿易の結 果として得られるようなものによって代表されるので はなく;生活の必需品と便益品という大衆消費物質と

して理解されていることである7).

この観点から,日本の一般世帯における主な耐久消 費財の普及過程を示したのが図1であるICT社会と 一般家庭を結び付けているのはインターネットとパソ コンおよび携帯電話であり,それらの普及が急速に進 んできたことを示している.なお,一般世帯のパソコ ン普及率は2010年3月現在で746%(内閣府資料)で ある.

この急速な普及過程は,ちょうど1960年代の高度 経済成長時代に始まった白黒テレビ,電気洗濯機,電 気冷蔵庫;いわゆる三種の神器と呼ばれた耐久消費財 の普及速度に匹敵する.いずれの時代も急速に普及率 が高まることにより.著侈財から必需財としての性格

100 経済成長率

12 Iゾーユ

耐久消費財の普及率(%)

00008642

カラーテ カラーテレビ

10

カラ

自動車 携帯電話

経済

ルームエア

コン オオ イル

戯;I>ッ (197

パソコン

洗 鰍柵

成長

42率(%)

バブル経済

h↓('991)

バブル経i

lj('991)

掃除機 0

-2

19601965 1970197519801985199019952000

図l戦後の経済成長とi肖費経済環境の変化 注:内閣府のデータを基にして筆者が作成した.

20052010

(3)

に変化したことを意味する.

このように日常生活における必需品と便益品が大衆 層に普及してきたことにより,アダム.スミスの視点 で豊かになってきたといえる.これはアダム.スミス が指摘した分業による生産性の向上と,Aマーシャ ルが指摘した内部経済と外部経済であり,生産と流通 のコスト削減による平均費用の低下によるものである.

その結果,価格が低下して低所得層へも普及が進んで きた.

しかし電気洗濯機や電気冷蔵庫が普及した時代と,

現在のパソコンなどのICT関連機器が普及した時代と では大きな違いがある.それは二つの時代背景の違い である.前者は高度経済成長の時代であり,所得が増 加していたが,後者はバブル経済が崩壊した後のゼロ 経済成長の時代であり,家庭の経済環境は厳しい状況 にある.このような厳しい経済環境の下でもICT社会 に対応すべ〈情報化モチベーションが作られてきたの である.

さらに,2つの時代には大きな違いがある.それは 電気洗濯機のような家電製品と,パソコンというコン ピュータの機能を備えた情報通信機器の違いである.

例えば,電気洗濯機などは高性能で高価格なものは洗 濯がよくできる.たとえ洗濯が下手な人でも,高性能 で高価格な電気洗濯機を購入できる所得層の人は快適 な生活環境を実現できるつまり,快適な生活環境を 獲得するにはお金,つまり多くの収入が必要であり,

所得格差が生活の利便性に直接に影響していた時代で ある

一方,コンピュータ(パソコンも含めて)は高価な ものほど,その効果は大きいとは必ずしも言えない機 能的な特性を持っている.つまり,コンピュータは一 般の機械と違って,それを利用する人の能力に依存し ている部分が多いこれはコンピュータの基本構成が ハードウェアとソフトウェアから成り立っており,特 にソフトウェアの機能が重要な役割を果たしているか らである.

例えば,同じ性能のパソコンでも,すでに組み込ま れている統計解析の機能を利用できる能力のある人と,

統計の基礎知識が無い人とでは,パソコンの処理能力 は違ってくる.これは利用者の能力の差による違いで ある.

このように電気洗濯機や電気冷蔵庫は機械の性能に 依存していたがコンピュータは利用者の能力に依存 していることを意味している.したがって,前者は所 得格差により生活の利便性に格差が出るが,後者は能 力格差が利便`性の格差に大きく影響している.

以上で指摘したことにより,地域経済の発展の軸が,

物を購入するための所得軸(経済成長時代の発展軸)

から,ICTを活用するための能力軸(知的社会の発展 軸)に変化してきたことを意味していると言えるであ

ろう.

このように地域情報化の問題は単にインターネット やパソコンなどの普及率のみを問題にするのではなく,

ICTを何に活用しているのか,またどのような効果を 発揮しているのか,その結果,地域住民にどのような 効用をもたらしているのかという観点が重要なのであ る.この源はインターネットとパソコンを活用して何 をしたいのか(欲求),また何をしなければならない のか,つまりモチベーションの問題といえよう.

3.情報化モチベーションの現状分析 一条件不利地域の事例から学ぶ-

情報社会の進展により,いつでも,どこでもICTが 利用できる環境が整ってきたこれは地理的な条件格 差を縮小し大都市の市場から遠い,いわゆる条件不 利地域の地方都市や農村にとって有利な経済環境に なってきたと期待きれている.しかしICTが普及す るにつれて皮肉にも現実は大企業の本社が集中してい る東京に,人・物・資金.情報が集中している.

この人・物・資金・情報の大きな流れの中に地方 都市や農村の若者が組み込まれて故郷を離れる.若い 時代に故郷を離れて武者修行するのは大切なことなの で特に問題はないが,故郷に帰れる人が少な過ぎるの が問題である.家を継ぐ人が減少して廃屋になり,ま た地域の担い手不足により地域経済の疲弊の原因に なっている.地域を支えている農林水産業は重要な産 業であるが,その中に若者が魅力を感じる,CT能力を 活かして,新たな就業の場を創造できないものであろ うかつまり,伝統的な産業と先端的なICT産業との 新たな結び付きによる地域経済の振興の可能性である.

これらの観点から地方都市や農村といった条件不利 地域の故郷で伝統産業を継ぎながら'CTを支援手段と して活用している実例をもとに,情報活用の現状とそ こから導き出される情報化モチベーションについて分 析する.

調査対象者は筆者が長年にわたって親しく付き合っ

てきた方々であり,日頃からICTヘの取り組み姿勢を

見てきた方々である.決してICTに特別に興味を持っ

たマニアではなく,ごく常識のある市民であり,本研

究目的にあった調査のモデルとして適していると判断

した普通の方々がICTを活用しているところに地域

情報化の重要なヒントがあると考えている.この目的

との関連で,長く親しく付き合ってきた方々を特に調

査対象にした

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事例1:日本を代表するトマト生産地のTざんの場 合(熊本県八代市)

熊本県八代市は日本を代表するトマトの生産地であ る.Tざんは親から受け継いだトマト農家である.地 元の工業高校を卒業後,農業を継いだ.トマトの販売 は系統農協組織を利用(いわゆるJA共同販売)して いるが,一部は個人ブランドでインターネットを活用 して販売している.高品質に見合う高価格での取引で ある.TさんとICTとの関係は長く,1990年頃のパソ コン通信時代からネットショッピングに取り組んでお り,その頃から筆者とも親しい方である.

ICT活用の動機は,インターネット産直により日頃 から努めてきたトマトの品質向上の努力が評価され,

それが価格に反映きれるからである.個人ブランドが 評価されるには伝統的なJA共同販売では不可能で あったトマト出荷の一部分をインターネット直販で 販売することにより,消費者の生の声を聞くことがで きるので,これが消費者ニーズの把握と今後の品質改 善と販路開拓の情報源として役立っているこれは利 潤に直結する効用である.

さらに,情報活用の効用はつぎのような分野にも現 れている.Tさんには情報社会に生きる農家としての 大切なプライドがあると思う.Tさんは工業高校を卒 業して農家を継いだ.農業高校ではなく工業高校で学 んだことが伝統的な農業に新しい風,つまりICTを取 り入れるモチベーションになったといえよう.情報社 会の中での新しい農業への挑戦であり,先進的な農家 への第一歩であった.

このICTによる先進的な取り組みにより,農業研修 会の講師や日本農業情報学会の役員として,社会的に 評価きれている8).このような社会的な評価は,娘さ んたちをはじめとする家族にとっても嬉しいことであ る.また消費者からの感謝の気持ちも伝わり,これは 農業生産への意欲を支えてくれている.これまでの伝 統的な農産物流通システムでは,消費者から聞こえて くるのは出荷した農産物に関するクレームばかりであ り,消費者からの感謝の気持ちは生産者には伝わって こなかったのである.

これらはICTを活用することにより利潤を得るもの ではないが,重要な効用であると考えている.またこ のような効用を事前に予測していた訳でもない.地道 に前向きに取り組むことによって自分が家族や社会で 評価きれているという満足感が実感でき,これが長続 きしてきた理由であろう.このような効用は利潤の追 求以外であるが,重要な効用である.

佐賀県の有田焼は’7世紀からの伝統を持つが,時 代の流れとともに需要が減少してきている.有田焼卸 団地に店舗を構えるKさんの店の販売額も同様に減少 してきていたこのような景気動向の中で,Kさんの 後継者である息子がUターンされた

伝統のある有田焼の販売戦略としては,長い間に培 われてきた人的ネットワークと信頼関係が重要である これには長年の経験が必要であり,先祖から引き継い できた父親には貴重な人的ネットワークがあり,販売 戦略において重要な存在である.これが伝統産業の特 徴といえるが,一方では経験の浅い若者には対応が難 しく,魅力を無くす原因でもある.つまり,若者の出 る幕が無いというのが後継者難の原因の一つである.

Kさんの場合は,親は従来通りの人的ネットワーク と印刷したカタログを利用して販売を続けつつ,一方 のUターンした息子はインターネット直販を担当して いる伝統的な流通システムとは別に,若者の感性に 基づいた販売システムの導入であり,現在では販売額 の2割程度に達しているとのことである.

ICT活用の動機は,斜陽傾向にあった有田焼の市場 開拓と販売の促進である.従来からの人的ネットワー クによる市場開拓には限界があり,またカタログ販売 にも限界が見え始めていた.時代が進むにつれて,客 先の年齢層は若者に代わるので,従来通りの手法は通

じ難くなっていた

このような課題に対して,ICTを活用することによ り若者の客層にも入り込めるし,またICTは地理的な 格差の解消にも役立つ.さらに,情報の更新は手軽に できるので経費的に削減できたこれらはICTによる 利潤の追求が目的である.

さらにICT活用によりつぎのような効用が現れて いる.つまり,新たな親子関係が創られていることで ある.伝統産業では経験年数の差が影響するので,若 い後継者はなかなか一人前の評価はされ難いところ が,ICTを導入することによりUターンした後継者は,

この担当として一人前に評価されている.これは経験 豊かな親でも対処できないICTによる有田焼の販売を 後継者が主体に取り組んでいるからである.このよう に長年の経験で培ってきた親の能力を後継者が評価し 一方では経験の浅い後継者ではあるがICT能力を活か

して新しい販路を開拓している後継者を親が評価する という親子関係を創造していると考えられる.これは ICTによる利潤以外の効用である.このような利潤以 外の効用は外部の人が指摘してはじめて気が付くこと も多く,家制度が残る日本社会では重要な効用である と考えている.

事例2:日本の伝統産業である有田焼卸団地のKさ

んの場合(佐賀県有田町) 事例3:ICT型農村ビジネスを展開するSさん(福

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島県西会津町)

福島県西会津町は新潟県と接する雪深い農村である この町はsざんの父親の故郷であり,そこへIターン

してICTを活用してビジネスをはじめた.Sざんの活 動の拠点は,西会津町が遊休施設の再利用のために ICT拠点施設として改修した施設である.施設は町の 所有であり,利用料金は安い.この,CT拠点施設の準 備段階から筆者は関与してきたこの,CT拠点施設で は,Sさんとその従業員の他には,数人がそれぞれ ICTを活用してビジネスを展開している.

Sさんの主な業務内容は,インターネットやパソコ ンの指導とシステム開発,さらに野菜などの地域の農 産物を利用したクッキー(ホーレンソウ.クッキー,

ニンジン・クッキーなど)や地元産のラーメン(隣の 地域には北方ラーメンで有名な地域がある)などの商 品開発と販売,地域のイベントの企画と運営などを請 け負っている.毎年,売上が伸びてきて雇用者を増や

している.

ICT活用の動機は,地域でビジネスを起こして地域 の人々とともに仕事をしたい,そのためにはICTは有 効な手段として考えていたからである.そのような時 に父親の生まれた故郷で,自治体が'CT施設を準備 し,安い使用料で利用できるという機会に恵まれた それまでは,生まれた都市(福島県会津若松市)で ICTを活用してビジネスを起こすための準備(研修を 受講)をしていたので,順調に取り組むことができた

自治体が遊休施設の再利用を目的として,ICT施設 を安い利用料金で使用できる準備をしてくれたことが,

親の故郷にIターンしてICT型農村ビジネスを始める 決め手になった.これは自分がしたい仕事をしながら 利潤を追求することが目的である.

さらにSさんにはICT活用により,つぎのような 効用がある.西会津町は親の故郷であり,子どもの頃 にはよく遊びに来ていたので親しみがある農村であり,

地域の人々と一緒に地域づくりがしたかったとのこと である.そのための手段として,インターネットやパ ソコンの指導,地域の農産物を活かした商品開発や地 域イベントの企画や運営など,地域の人々と一緒に地 域づくりに協力できることを望んでいた.これはSさ んとしてのライフスタイルを創造したいという欲求が あり,これを実現しつつある.これらは利潤の追求以 外の効用である.

ステム開発が中心であり,従業員の大多数がシステム 会社からのUターン者である.常時,10人以上の若い 従業員が働いており,それ以外に自宅で作業するテレ

ワーカーもいる.

主な業務内容は,観光協会や地方自治体などのウェ ブサイトの開発とメンテナンス,業務システムの開発,

ICT講習の指導などである.阿蘇〈じゅう国立公園の 利用者数は年間約1,700万人(熊本県統計)と多く,

その中でも外国から来る観光客も多い地域から外国 に向けての情報発信としてICTは有効な手段になって いる.

ICT活用の動機は,地方都市や農村ではICT能力を 活かせる就業の場が少ないので,地方自治体の政策の 一環としてICT施設をつくった現状では,農村で育 つと都会で働くことに憧れ,故郷を出てICTスキルを 養い,そのまま都市で情報産業に就業して,そのまま 定年まで都市で働き続けている人がほとんどである.

これまでは,ICTスキルを活かせる場が農村にはな かった.故郷でICTスキルが活かせる施設ができたこ とによりUターンが可能になった.またこれまで地 方自治体や観光協会などのシステム開発を地域外の業 者に発注していたが,現在では,地元でシステム開発 ができる.これはシステム開発の地域内部化であり,

地域経済に貢献している.このようにUターンしてき た人々にとっては収入が確保でき,また地域経済に とっても効果があるこれらの動機は利潤の追求とい うところに源があるといえよう.

さらにICT施設を活用することによりつぎのよう な効用が現れている.農村から若者が出ていくので,

親たちは悩んでいた.特に年老いた親にとっては先祖 から受け継いできた家がこれから継いでいけるのか不 安は深まるばかりである.農村では日本の風土でもあ る家制度が今でも精神的には重要な位置を占めている といえよう.

また農村を出て行った若者も,年老いた親と家を継 ぎたいが,農村には仕事が少ない.また子どもたちの 教育環境にも不安ある親と子,どちらも不安を抱え ながらの生活であった.このような中で,ICT施設が 出きたことにより,そこで働ける後継者が戻ってこら れたのである.これらの効用は直接的に利潤を追求す るものではないが,日本の家制度が残こる多くの地方 都市や農村に住んでいる人々にとっては重要な効用と いえよう.いわゆる地域が持続していくためには必要 不可欠な観点である.

以上の条件不利地域の事例から,ICT活用のモチ ベーションは様々な便益への期待と欲求に起因してい るといえよう.その便益の中には,ICT活用の直接的 なモチベーションとして位置付けられる便益と,ICT 事例4:農村のICT拠点施設で若者が地域づくりを

支援(熊本県阿蘇市)

九州の阿蘇〈じゅう国立公園内の農村にICT拠点施

設があり,第三セクターで運営されている.この施設

に筆者は長年関与している.このICT拠点施設ではシ

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を活用する前には分からなかったけれども,ICTを活 用したことにより明らかになった便益もある.また金 額的に把握できる便益と,金額としては評価が難しい 便益もある.

条件不利地域における情報化モチベーションを整理 すると次のようになる.まず第1は,利潤追求の欲求 から派生した情報化モチベーションである.そのため の手段として具体的には,1)衰退してきた市場の中で,

インターネット直販による新しい市場開拓,2)消費者 ニーズを直接に把握することによる迅速な市場対応,

3)個人ブランドによる高品質化とその努力に対する 評価(高価格)の獲得,4)故郷の地方都市や農村で ICT能力を活かした就業機会の創造などである.これ らの利潤獲得への欲求が情報化モチベーションの基に なっていると考えらえる.

第2は,安定した生活環境を確保したいという欲求 から派生した情報化モチベーションである.そのため の手段としてつぎのような取り組みがあるl)地方自 治体がICT拠点施設をつくり,若者が魅力を感じる ICT産業に就業できる場を創る.この取り組みにより Uターン者を増やし,地域の担い手を育成することに つながっている.2)伝統的な従来の親子関係から,

ICT時代の特性を活かした新たな親子関係の創造であ る.豊かな人生経験を活かした親のビジネス手法と,

経験は浅いが若者が得意とするICTを活用したビジネ ス手法とが相乗効果を生み,親子のそれぞれの長所を 認め合う新しい家族関係をつくりはじめている3)農 村での地域に限られた人間関係から,ICTによる広範 囲で異業種の人々との関係をつくりことにより,視野 が広まってきた4)ICTを活用して先進的な取り組み を知り,それを可能な範囲で導入することにより地域 社会での評価が高まってきた.

これらの情報化モチベーションを基にして,次に,

それらのモチベーションがどのようにして創造されて きたのかγその過程について考えてみたい.

ションが形成きれてきたのであろう.この考え方の基 本は,アダム・スミス「道徳感情論」の「同感」およ び「中立的な観察者」の概念にヒントを得たものであ る,).この観点から再び前述の4つの事例を検討して みよう.

まず事例lで取り上げた熊本県のトマト農家のTさ んは,親から引き継いだ農業に従事しながらも,新し い情報活用に前向きに取り組んできたこれは工業高 校で学んだ先端産業の現状さらに先端技術に従事し ている同級生や先輩の姿などから,自分なりにICTを 活用することへの意欲が高められてきたといえよう.

一方では,故郷で共に農業に従事している仲間が抱 えている悩みや親が農作業で働いている姿など,農業 の光と影の部分を実感し続けてきた.このように農業 の光の部分を伸ばし,影の部分を改善するためにICT を活用したいという情報化モチベーションの芽生えが ある.

多くの人々の働く姿や考え方を見聞することにより,

この中には参考になるモデルもあるが悪いモデルもあ る中で,自分の将来のモデルになる要素を取捨選択し,

それを基にして考え方をつくってきたといえよう.こ れは情報活用の仕方に同感できる人々との出会いによ る情報化モチベーションの形成である.

これまでに社会で出会った人々や社会現象の中で,

同感できる人々をモデルにして,Tさん自身が到達で きる目標が設定きれ,それに向けて取り組まれてきた のが現在の姿であると考えている.これを示したのが 図2である.図中のAは現在の位置であり,改善点や 悩みを抱えている状態である.これは誰にも共通する 不完全で欲求不満の現状を示している.Bは同感でき

○○

第1軸△

p--------■

(例:性格)

4.情報化モチベーションの形成

△、亜△ ×|

×第2軸×

(例:所得)

先端産業である情報産業が集積した大都市に比べて,

地方都市や農村などの条件不利地域では,情報化への 取り組みが弱い.しかし,このような条件不利地域で 情報化に前向きに取り組んできた前述の方々は,どの ようにして情報化モチベーションを形成してきたので あろうか.

実社会で様々な人々と出会うことにより,ビジネス への取り組み姿勢やICTの活用方法などで同感できる 部分を蓄積し,その結果として徐々に情報化モチベー

注○:情報活用の仕方で同感できる人

×:情報活用の仕方で同感できない人

△:○と×の中間

図2同感による情報化モチベーションの形成

(7)

からICTの研修を受けていた.

自分が興味を持つ仕事をしたいという欲求と,これ までに社会で出会った人々の中で同感できる人々の生 き方をモデルとして自分自身のライフスタイルを追求 された結果であると思う.

この情報化モチベーションを一挙に高め,実行に移 すことができたのは,地方自治体が遊休施設の再利用 を目的として設置したICT拠点施設による安い使用料 金体制ができたことである.もし,このような情報を 知らなければ今の実態はないので,この情報を教えて くれる人々がいたこともSさんにとっては重要なこと である.この情報を教えてくれた人は日頃からsざん を指導されてきた人であり,同感できる部分が多い人 であった.もし,信頼できる人間関係がなければ,こ のような貴重な情報をSさんには教えてくれなかった であろう.

この事例から情報化モチベーションのみでは地域情 報化は進まず,それを実現するための環境の重要性が 指摘できる.ざらにこの重要な情報を教えてくれる

ような信頼できる人間関係も重要である.これは情報 産業の集積が乏しい条件不利地域では重要なことであ る.

事例4の熊本県阿蘇市の場合は,地域住民が潜在的 に抱えていた若い後継者の流出などの個々の悩みを,

地域としてICT拠点施設を作ることにより情報活用の モチベーションを高めて改善を図ったモデルである.

普通の農村では,ICTビジネスを成功させている事例 を見る機会は少ないので,情報活用の分野で同感でき る人々を知るには限界がある.これは地方都市や農村 での情報化が遅れている現状と関係する.情報環境が 不十分なところでは,個人の対応のみでは限界がある.

一方,都市に出て行った農村の若者はICTスキルを 身に付けながら,情報活用の仕方で同感できる人々と も出会う機会が多い多くの人々はそのまま都市に住 み続けるが,中には故郷に残してきた年老いた親が気 になる人々も多い.また長年続いてきた家もこれから 維持できるのか不安がつきまとう.一方では,故郷で 農家を継いでいる友人の生き方にも同感できる部分が 多い

情報社会で出会った人々の中で同感できる人々をモ デルにしながら,一方では農村で生活し続けている友 人にも同感できる部分がある.この2つの同感できる 部分を結び付けて実現を可能にしたのが地域自立型 ICT拠点施設の設置である.ICTスキルを持ったU ターン者の就業の受けmとしての重要な役割を果たし 農村でのICTビジネスを創造してきた地域の組織的 な支援のもとに個人の情報化モチベーションが形成さ れてきたのである.

る人々(図中の○印は同感できる人,×印は同感でき ない人,△印は○と×の中間)に学びながら,Tざん 自身が到達可能な望ましい目標を示した位置である.

なお,図中の第1軸(横軸:例えば人の性格など)

と第2軸(縦軸:例えば所得水準など)の意味は,社 会で出会った人々を分類するときの座標軸であり,具 体的な手法としては,多変量解析の-手法である主成 分分析により求められる第1主成分,第2主成分に相 当する軸として考えた.なお,主成分分析については 別の機会に取り上げる.

Bの目標が設定きれることにより,Tさんは情報化 モチベーションが形成されたといえるいわゆるTざ ん自身の前向きな姿勢と,社会で出会った人々から学 びたいという謙虚な姿勢の結晶が情報化モチベーショ ンを形成したと考えている.

事例2で取り上げた伝統産業を担う有田焼団地のK さん家族は,先祖から受け継いてきた長年の人々との 付き合いの中で,伝統産業の在り方やビジネスの仕方 などを通して同感できる人々は多かったと思う.すな わち,有田焼の販売を通して伝統産業の維持と零細ビ ジネスの維持・発展に尽くしてこられた理想とする 人々の存在による学びである.図2では○印の人々で ある.一方では,問題が多くて参考にしたくない人々

もいたであろう.これは図2の×印である.

しかし販売額が減少する中で,Uターンした後継 者にとっては従来の人々の販売システムには少し不安 と疑問が出ている.この問題に対する解決策の一つと して,若いが故に取り組めるICT活用に着目されたの である.いわゆる伝統産業の中で,新しいICTの活用 方法に興味を示したのである.伝統産業の有田焼を支 えてこられた人々の行いに同感するとともに先端技 術であるICTを活用している人々にも同感した結果で ある.この意思決定に影響を与えた要因は,これまで の社会生活の中で得た経験と,人々との出会いから学 んだ成果である.このようにUターンした後継者には 親と違った人々との同感により,情報化モチベーショ

ンが形成されてきたといえよう.

事例3の福島県のSさんは,もともとビジネス志向

が強い方であるが,親の故郷の農村,いわゆる条件不

利地域でビジネスを起こしているところに特徴がある

単なる利潤の追求なら都市で起業する方が有利である

が,そうではなくて,地域の人々にも貢献できる農村

型ビジネスへの取り組みを選択している.ここに至っ

たのも,子どもの時代に親の故郷で遊んだ経験や農業

をしている親戚の方々の働き方に同感できる部分が

あったからであろう.またICTを活用してビジネスを

展開している人々との出会いがある.そのために日頃

(8)

優勢であり,食料の確保などが含まれる.食料などを 確保して生命を維持するためには,自給自足をしてい る人以外は食料を市場で購入するための資金が必要で ある.すなわち生命を維持するために最小限必要な資 金を稼ぐことが最も優先され,それを支援するための 情報化モチベーションが最も優先きれるといえよう.

以上のように情報化モチベーションの内容は範囲 が広い.インターネット直販により利潤の追求がモチ ベーションになっている場合もある.また人々との信 頼関係を維持するために情報を活用している場合もあ る.さらには,ICTスキルを活かして故郷の農村にU ターンして就業し,年老いた親との生活を実現されて いる人々もいる

このように情報化モチベーションは経済的な要因の みでなく,安定`性などのような精神的な要因まで含ま れており,その範囲は広い多種多様な情報化モチ ベーションが存在しており,このままでは効果的な地 域情報化施策には結び付かない情報活用のプロセス を見出すために情報化モチベーションの優先順位につ いて考えることが必要である.

この情報化モチベーションの根底には人間の欲求の 優先順位が関係していると考えている.次節では,人 間の欲求段階について,AHマズローの動機理論 を基本にして,情報化モチベーションの形成のプロセ スについて考えてみたい.

(2)安全の欲求

生理的欲求が比較的十分に満足されるならば,そこ に新しい一組の欲求が出現することになる.そのよう な欲求を安全の欲求として分類することができる.例 えば,子どもたちは,少しでも厳しさをもった,そし てある種の計画または常規`性のある組織の中でよく育 つことが指摘きれている.つまり,限界内での寛大ざ の方が,制限されない自由ざよりも必要であると同時 にむしろ好まれていると見ている.この現象は,世の 中で安全性,安定性を求めるという傾向として把握で き,よく見られるように不慣れなものより慣れている ものへの嗜好,また未知のものより既知のものを好む という傾向として指摘されている.

つまり,安全の欲求については,日常生活や業務上 での不安な材料を少なくしたいという欲求である.例 えば,食料の残留農薬の発覚や偽造問題の多発は国民 の不安を助長しており,これは生命の安全性を確保す るために,食料の安全性を確認したいという情報への 関心の高まりとして捉えることができる.具体的な情 報システムとして,農産物の生産履歴をデーターベー ス化したトレーサビリティが稼働している.

さらに,健康管理情報システムも住民の健康を守り,

安全で安心できる生活環境を整備するのに役立ってい る.また,条件不利地域では,平穏な日常生活を一瞬 にして揺るがす突発的な自然災害などへの不安も大き いこの住民の不安に対しては自治体が中心となって 取り組んでいる防災情報システムの整備なども住民の 安全を確保するための情報化である.

このように安全な生活環境を整備するためにICTを 活用したいと欲求であり,これが情報化モチベーショ

ンの源になっている.

5.情報化モチベーションの展開過程 1)AHマズローの動機理論を基にして

-基本的欲求の段階説'0)-

AHマズローは,人それぞれの可能性を最大限 に引き出し,自己実現きせるための条件とは何か,ざ らに人間を究極的に支えている基本的なもの,つまり 基本的欲求や人間性とは何か,その実現のための条件

は何かについて追求している.同時に産業界への関 心も高く,産業界は人間界の一部に過ぎないが,それ を支えている基本的欲求への関心である.この基本的 欲求の観点から地域経済の発展と情報化モチベーショ

ンの展開方法について考えてみたい

(1)生理的欲求

AHマズローの動機理論の出発点としての欲求 は,食欲,性欲,眠けなどの生理的欲求である.これ らの生理的欲求はあらゆる欲求の中で最も優勢なもの である.特にあらゆるものを失った人間にとっては,

生理的欲求が他のどんな欲求よりも最も主要な動機と なることが指摘されている.例えば,食物,安全,愛,

尊敬を失った人間にとっては,おそらく食物に対する 空腹が最も強いであろう.この状態での意識はほとん ど完全に空腹感によって圧倒され,あらゆる能力は空 腹を満足きせるために用いられる.つまり,生理的欲 求は,妨げられたときには人間を支配する.

このように生命を維持するための生理的欲求が最も

(3)所属と愛の欲求

生理的欲求と安全の欲求が十分に満足されるならば,

愛と愛情,所属の欲求が起こってくることが指摘され ている.人は一般に他者との愛情に満ちた関係,すな わち自己の所属しているグループ内での地位を切望し ているし,この目標を達成するために一生懸命に努力

している.

この観点からみると,家族に心配をかけないように

出張先からのメールや電話による連絡も,家族の一員

(9)

としての愛情と存在を示したいという欲求と関係して いるのではないだろうかまた,親から受け継いだ農 業や家業に従事するのも,経済的な側面のみでなく,

家族の一員としての愛情であり,存在を示すものであ ろう.Uターンして年老いた親との生活を実現するこ とも,所属と愛の欲求と関係するであろう.このよう な基本的欲求に基づく情報化モチベーションがあると いえよう.

ろのは,通常,生理的欲求,安全,愛,承認の欲求な どが前もって満たされた場合である.

この観点から農家を継いだ熊本県八代市のTさんの 場合について考えてみたいTさんは自分の意思とは 関係なく農家に生まれたその農家で育つ過程で祖父 母や両親などの農作業を見て育った.さらに,上級学 校に行って多くの友だちを通じてさまざまな職業を知 る機会に恵まれたその結果,いろいろある職業選択 の中で家業の農業を選んでいるその中で自分らしい ライフスタイルを創ろうとしている姿こそ自己実現に 向けての姿であろうと思う.その中にICTが重要な要 素として組み込まれているのである.

また,伝統産業である有田焼団地のKさんと息子も,

ICTを活用することにより自分らしい生き方を探して いる.

さらに,福島県西会津町と熊本県阿蘇市のような若 者には魅力に欠ける農村の地域経済構造の中で,先端 分野のICTの能力を活かせる就業の場を創ることによ り,農村での新しいライフスタイルを創りつつある.

これらの実例はそれぞれの立場と環境は違うが,い ずれも自己実現に向けての取り組みであり,そこには 利用場所の制約を緩和するというICTの特性を有効に 活用している.つまりICTは単なる手段であるが,条 件不利地域という制約条件を解消しながら自己実現と いう大きな目標に向かって進もうとしている人々を支 援する重要な手段であるといえよう.

(4)承認(自尊心)の欲求

すべての人々は自己に対する高い評価や尊敬,自尊 心,他者から尊重されることに対する欲求を持ってい ることが指摘されている.これらの欲求を更に二分す ることができる.すなわち第1は,業績,熟練,資格 など,世の中に対して示す自信である.第2は,名声,

地位などのような他者から受ける尊敬とか尊重である.

この自尊心の危険性は,真の適性に求めずに,他者の 意見に求めているところである.最も健康的な自尊心 は,外からの評判や名声によるよりは,むしろ正当な 尊敬に立脚するものである.自尊心の欲求に満足を与 えることは,自信や強さの感情へと通じるが,逆に,

これらの欲求の邪魔をすれば劣等感や無能さの感情を 生みだす.

情報社会が進むにつれて,業績,資格,地位などを 誇示するような情報提供が多くなってきたように思わ れる.AHマズローが指摘しているように,この ような誇示の危険性は,真の適性に求めずに他者の 意見に求めているところである.いわゆる自尊心の欲 求が情報社会と組み合わされれば,他者の判断を重視 するが故に,上辺だけの業績,資格や地位を重視する 風潮を作っているのではないだろうか.

このような自尊心を重んじたい欲求は,職場や社会 で安定した立場を確保したいと思っているので誰にで もあるが,根底にある危険性も忘れることはできない と思う.

2)情報化モチベーションの三段階展開

AHマズローの欲求段階説では,(1)生理的欲 求,(2)安全の欲求,(3)所属と愛の欲求,(4)承認 (自尊心)の欲求,(5)自己実現の欲求へと移り,こ れらの人間の基本的欲求はその相対的優勢ざによって

ヒエラルキーを構成している.

例えば,人間がパンのみによって生きているという ことは,パンのないときには事実である.しかし,パ ンが豊富にあり,人間の食欲がいつも満足されている 場合には,人間の欲望はいったいどうなっているので あろうか.すぐに他の(より高次の)欲求が出現し,

生理的空腹よりも優位にたつ.またそのような欲求が 満足されると,再び新しい(より高次の)欲求が出現 する.以上のように人間の基本的欲求はその相対的優 勢さによってヒエラルキーを構成しているということ である.

このように動機理論において満足感は欠乏と同様に 重要な概念である.なぜなら,満足感は相対的にいっ て生理的欲求支配から有機体を解放するのに役立ち,

したがって,より社会的な目標の出現を可能にするか らである.

(5)自己実現の欲求

これまでの欲求がすぺて満たされていたとしても,

個人が自分に適していると考えられることをしていな

いかぎり新しい不満や不安がすぐに起こってくること

が指摘されている.人が究極的に平静であろうとする

ならば,音楽家は音楽をつくり,画家は絵を描き,詩

人は詩を書いていなければならない.人間は自分のな

りうるものにならなければならない.このような欲求

を自己実現と呼ぶことができるであろう.これはその

人が本来潜在的にもっているものを実現しようとする

欲求を意味する.これらの欲求が実際に取りうる形は

もちろん人により異なる.これらの欲求が明確に現れ

(10)

AHマズローの欲求段階説を基にして,情報化 モチベーションについて考えてみよう.つまり第1段 階は,(')生理的欲求を支援するための情報化モチ ベーションである.生理的欲求は生命を維持するため に生理的な原因で欲求が発生しているものであり,食 料などを入手するための収入を確保したいという欲求

として整理できる.

次に(2)安全の欲求,(3)所属と愛の欲求,(4)

承認の欲求は,前述したように家族や社会の中で認め られたいという自尊心の欲求と密接に関連している.

これらの共通項は,自分の周りの人々から信頼された いということであり,安定した環境への欲求と自分の 存在を拡大したいという欲求であり,安定的拡大欲求 として整理できると考えたこれを実現するための ICT活用の欲求を第Ⅱ段階の情報化モチベーションと

して位置付けた.

第3段階は,(5)自己実現の欲求に起源をもつ情報 化モチベーションである.このように人間の基本的欲 求に基づく情報化モチベーションを表’のように三段 階に整理したⅡ).

第1段階は生命を維持するための欲求に起因する情 報化モチベーションである.具体的には,人間として の最低限の生活水準を維持するには生命の維持(生理 的欲求)が必要であり,食料や衣料などを購入するた めの収入の確保が不可欠である.この収入を確保する ための経済的支援手段として情報を活用できる能力の ある人は,利便性が高いICTを活用したいという情報 化モチベーションが起こる.

特に,地方都市や農村などの条件不利地域では経済 効率のよい就業機会は少ないので,ICTは条件不利地 域においてビジネスを起業するときに有効な手段とな る.この私的に利潤が追求できるという欲求は,情報 化モチベーションという形で具体的に現れてくる.と ころが一方では,利潤の獲得競争が激しくなり,市場 競争の弊害も出てくる.例えば,社会的弱者の経済的 淘汰や,地域資源の枯渇などの問題である.

第Ⅱ段階は,第1段階で発生した過度の市場経済競 争の弊害に対処でき,安全で安心できる環境を整えた いとする欲求に起因する情報化モチベーションである このように第Ⅱ段階の情報化モチベーションは,安全 な人間環境や自然環境を確保したいという欲求に起因 する情報化モチベーションである.この基本的欲求は 自尊心に関連した欲求であると考えている.

例えば,食料の残留農薬や産地偽装の問題が多発し ているが,これは消費者が軽く見られた結果であり,

自尊心を傷つけられたことへの怒りが発生したこの 結果,食料の生産履歴を記憶したトレーサビリテイの ICTシステムは不可欠な存在になったこれは単に安

全性を確保すればよいという低い次元の問題ではなく,

消費者の存在を高く評価して自尊心に答えるためのシ ステムであると考えたい.

また,急病などの時に必要な緊急通報システムや,

突然の自然災害からの不安に対処すための防災情報シ ステムなどは,安全な社会環境や自然環境を切望する 人間の欲求である.これは不安への対処という以前に 人間として生きていくための尊厳を守りたいという欲 求に起因する情報化モチベーションであるといえよう.

さらに,個人や組織の業績を社会で評価されたいた めにインターネットで情報発信している場合が多く見 られる.これはよりよい社会的立場を獲得たいという 自尊心が根源にあると考えた方が理解しやすい場合が 多い.いわゆる社会という表面的な評価を利用して自 分の存在を認めさせようとする欲求であり,AH マズローが指摘しているように真の評価ではなくて他 者の評価を利用しようとする危険』性をもっている.こ の評価の問題については,すでに述べたアダム・スミ スの中立的な観察者の視点の重要`性が指摘できる.

第Ⅲ段階は自己実現の欲求に起因する情報化モチ ベーションである.これは望ましいライフスタイルの 実現に向けて努めている姿であり,その効用を数値的 に評価することは多くの場合,困難であろう.

AHマズローによると'2),自己実現は,すでに 有機体の中にあるものの固有の成長である.ちょうど 木が栄養や太陽や水を要求するように,人間は社会的 環境から,安全,愛,地位を要求する.しかし,これ はいわば個性の真の発達が始まる出発点である.すべ ての木は太陽の光を必要とし,すべての人間は愛を必 要とする.しかもいったんこれら基本的必要物に満足 すると,各々の人間は(木の場合もそうだが)彼自身 の個人的な諸目的に向かってこれらの普遍的な必要物 を使い,彼自身の流儀で独自の発達をしていく.一口 に言うと,発達は外側からというよりは内側から進行 し,逆説的ではあるが,最も高い動機は,動機づけら れなくなる.言い替えれば,自己実現は欠乏している ものに対して動機づけられているというよりは,むし ろ成長のために動機づけられている.いわゆる成長欲 求である.人はより小さな欠くことのできない動機の 問題を解決することによって,自己実現の方向に向か う努力ができる.それゆえに人は意識的に目的的 に自発性を追求する.

このように自己実現者は欠乏動機ではなく,成長動 機によって動かされている.したがって,動機付けと いう概念は,非自己実現者のみに適用されるべきであ ろう.

ざらにAHマズローが指摘しているように'3),

五つの欲求は,一つの欲求が満たきれると次の欲求が

(11)

表l人間の基本的欲求に基づく情報化モチベーションの三段階展開

起こるというような印象を与えたかもしれない.こう 言うと,一つの欲求が100パーセント満たされて初め て次の欲求が起こるというような誤った印象を与える かもしれない実際には,社会のほとんどの正常人は,

基本的欲求について部分的に満足し,また同時に不満 をももっているのである.欲求のヒエラルキーに関し てもっと現実的に言えば,満足度は優勢度のヒエラル キーを上に登るにつれて減少するといえよう.たとえ ば,説明のために任意の数字を当ててみると,たぶん 一般の人の生理的欲求の85パーセント,安全の欲求 の70パーセント,愛の欲求の50パーセント,自尊心 の欲求の40パーセント,自己実現の欲求の10パーセ ントは満たきれているであろうということである.先 行欲求が出現することについて述べると,この出現は 突然な跳躍的現象ではなく,無から徐々に出現してく るものである.たとえば先行欲求Aが10パーセン

トしか満たされていなければ,欲求Bは全く実在しな いかもしれない.しかし欲求Aが25パーセントま で満たされると欲求Bは5パーセント現われ,欲求A が75パーセント満たされると欲求Bは50パーセント 現れるという次第である.

このように情報化モチベーションも,第’’第Ⅱ’

第Ⅲ段階の順序は優先111頁位として考えるのが現実的で ある.

AHマズローが指摘しているように'41,人間と いうものは,常に何かを欲求している動物であり,ほ んの短い時間を除いては,完全に満足な状態に達する ということはほとんどないのである.一つの欲求が達 せられると,それに代わって今度は別の欲求が起こっ てくる.それが満たきれれば,また新たに別の欲求が 前面にでてくるという具合であり,いわば,全生涯を 通じて,ほとんどいつも何かを欲求し続けているのが 人間の特徴ともいえるのである.

この人間の基本的欲求にもとづく情報化モチベー

ションも,第’’第Ⅱ’第Ⅲ段階へと進んで終わるの ではなく,また過去の失敗などの経験を活かして,第

’’第Ⅱ第Ⅲ段階へと螺旋的に発展していくと考え られる.

AHマズローによれば,日常生活における普通 の欲求を注意深く調べてみると,少なくとも一つの重 要な特徴が見られる.それは,その欲求そのもの自体 が目的なのではなく,たいていの場合,それは一つの 目的へ至るための手段なのである.例えば,自動車を 手に入れるためにお金が欲しいのであるが,それも突 き詰めれば,自動車を持っている隣人に劣等感を持ち たくないから自動車が欲しいのであり,結局は,自尊 心を維持し人から愛され,また尊敬されたいのであ る.一般的に言って,意識された欲求を分析してみる と,その背後には,いわばもっと個人にとって基本的 な他の目的が存在することが分かる.

図lで示した日本の一般家庭における電気洗濯機,

電気冷蔵庫,自動車やパソコンなどの耐久消費財につ いても同じ動機理論が適用できると考えている.

このように,AHマズローの欲求段階説は,人 間を究極的に支えている基本的欲求,つまり,人間性 とは何か,ざらに健康でそれを実現(自己実現)する ための条件は何かについて分析したものである.本節 では,この基本的欲求に基づく動機付の優先順位をも とにして情報化モチベーションを位置づけ,より具体 的に整理したのが三段階展開のプロセスである.人間 の基本的欲求に基づく情報化モチベーションであるが 故に内発的な性格を備えることができると考えた.

6.まとめ

以上では,地域経済の発展のためにICTを活用した いという内発的な情報化モチベーションはいかにして 情報化モチベーションの三段階展開 ICT活用の目的 ICT活用の分野 ①特徴と②課題

第1段階 生理的欲求 (欠乏欲求)

食欲などの生理的欲 求に基づく情報化モ チベーション

生命維持のために必 要な物を買うための 収入確保の支援

インターネット直 販

開発

ウェブサイト

発など

システム開

①私的利潤の追求

②過度の競争社会

第Ⅱ段階 安定的拡大欲求

(欠乏欲求)

地位・自尊心など安 定した環境への欲求 に基づく情報化モチ

ヘヒーション

個人対応が困難な分 野で,他者および地 域を活用した便益確 保の支援

自治体や観光協会 などの組織と連携 した地域システム 開発など

①利己的と利他的 な便益の追求

②自尊心の取扱の 難しさ

第Ⅲ段階 自己実現欲求

(成長欲求)

自己実現の欲求に基 づく情報化モチベー

ション

自分らしいライフス タイル創造の支援

自己実現に向けて 多様な分野がある (住みたい場所で したい仕事など)

①多様な評価基準

②社会との関り方

(12)

形成されるのかという課題に対して分析した.その結 果,つぎの3つの情報化モチベーションを明らかにし た第1段階は,生命を維持(生理的欲求)するため に必要な所得を獲得するための手段としてICTを活用 したいという欲求であり,これが起因となった情報化 モチベーションである.第Ⅱ段階は,安全な環境をつ くるためにICTを活用したいという欲求であり,これ が起因となった情報化モチベーションである.第Ⅲ段 階は,自己実現のためにICTを活用したいという欲求 であり,これに起因した情報化モチベーションである.

これらの内発的な情報化モチベーションには優先順 位があり,ヒエラルキーが存在しているこのヒエラ ルキーの存在の意義は,前段階の不満や悩みの問題を 解決することにより,つぎの段階に臨むことができ,

これはより人間的に望ましい生活および仕事環境の状 態(自己実現)に近づくためである.いわゆる情報化 モチベーションの優先順位が重要である.例えば,第 1段階の所得水準の確保(生活するための最小限の所 得)を支援できるICT活用がなければ,より上位の第

Ⅲ段階の自己実現につながるICT活用は期待できない ということである.

このような人間の基本的欲求に基づく内発的な情報 化モチベーションの形成が,それぞれの地域資源を活 かして自立した地域経済発展の推進力になると考えて いる.本稿で提起した情報化モチベーションの考え方 は,条件が不利な環境(条件不利地域に限らず,都市 でも条件が不利なところは多い)において,いかにし て望ましいライフスタイルを創れるのか,そのための ICTの役割を明らかにしたICT社会における地域経 済再生のヒントは,条件不利地域で持続している伝統 的産業と先端技術であるICTとの新たな結び付きの中 から生まれるといえよう.

た.

2)アダム・スミスの分業論では,分業によって同じ 人数が働いたときの生産量が大幅に増加するのは,

三つの要因のためである.第1に個々人の技能 が向上する.第2に,一つの種類の作業から別の 種類の作業に移る際に必要な時間を節約できる.

第3に,多数の機器が発明されて仕事が容易にな り,時間を節減できるようになって,一人で何人 分もの仕事ができるようになるアダム・スミス.

山岡洋一訳,国富論一上,日本経済新聞社.2007.

p、10,

さらに,利己心についての指摘が重要である.

分業がはじまったのは,知恵のある人がこうすれ ば全員が豊かになれると考え,計画したからでは ないこれほど大きな利点があるとは誰も考えて いなかったが,人間にはものを交換しあう性質が あり,その結果,ごくゆっくりとではあるが,必 然的に分業が進んできたのだ.(中略)人はほぼ いつでも他人の助けを必要としており,他人の善 意だけに頼っていては,助けを得られるとは期待 することはできない相手の利己心に訴える方が,

そして,自分が求めている行動をとれば相手に とって利益になることを示す方が,望みの結果を 得られる可能`性が高い誰でも取引をもちかける ときにはそのように提案している.わたしがほし いものをくれれば希望するものをあげようとい うのが,そうした提案の意味なのだ.そして,人 間はほとんどの場合,自分が必要とする他人の助 けをこの方法で得ている.われわれが食事ができ るのは,肉屋や酒屋やパン屋の主人が博愛心を発 揮するからではなく,自分の利益を追求するから である.人は相手の善意に訴えるのではなく,利 己心に訴えるのであり,自分が何を必要としてい るのかではなく相手にとって何が利益になるの かを説明するのだ.アダム・スミス国富論(前 掲書),2007,pp、16-17.

3)アダム・スミスは同感について,つぎのように述 べている.人間がどんなに利己的なものと想定さ れうるにしても,あきらかにかれの本`性のなかに は,いくつかの原理があって,それらは,かれに 他の人びとの運不運に関心をもたせ,かれの幸福 を.それを見るという快楽のほかにはなにも,か れはそれからひきださないのにかれにとって必 要なものとするのである.この種類に属するのは,

哀れみまたは同情であって,それはわれわれが他 の人びとの悲惨を見たり,たいへんいきいきと心 にえがかせたりするときにそれにたいして感じ る情動である.(中略).この感情は,人間本`性の 他のすべての本源的情念と同様にけっして有徳 で人道的な人にかぎられているのではない(中 略).われわれは他の人びとが感じることにつ いて,直接の経験をもたないのだから,かれらが どのような感受作用をうけるかについては.われ われ自身が同様な境遇においてなにを感じるはず 本研究の一部は,平成21年度科学研究費補助金

く基盤研究(c):条件不利地域におけるデジタル・デ バイド対策と地域再生システムの開発研究(研究代表 者山中守)〉の交付を受けて行った

l)総務省,2010年版情報通信白書(Web版),p262

では情報通信システムの利用率が低い現実とし

て,つぎの事実が指摘されている.国の行政手続

については,これまでの電子政府の取組を通じて

そのオンライン化が進められてきた結果,1998年

度末現在,92%が申請・届出などのオンライン化

が可能になったが.オンライン申請が全く行われ

ていないものや利用が低調なものが多数認められ

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