会計原 則設定史 か らみたFASB基 準書第95号
キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 の 諸 特 徴
牧 田 正 裕
目 次
は じ め に
IFASB基 準 書 第95号 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 に 関 す る 予 備 的 考 察 ll定 義 指 向 の 会 計 原 則 に お け る 「資 金 」 の 定 義 と認 識 問 題
皿 目的 指 向 の 会 計 原 則 に お け る キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 の 萌 芽 W1981年FASB「 討 議 資 料 」 に お け る 問 題 提 起 とそ の 帰 結 む す び に か え て
は じめ に
本 稿 は,財 務 会 計 基 準 審 議 会(以 下,FASB)基 準 書 第95号 「キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 計 算 書 」(SFASNo.95"StatementofCash且ows";1987年)1)に お け る 規 制 思 考 上 の 諸 特 徴 を,同 基 準 書 に 先 行 す る ア メ リ カ 会 計 諸 原 則(以 下,「 先 行 会 計 諸 原 則 」)と の比 較 検 討 を つ う じて 明 らか にす る こ と を 目的 とす る も の で あ る 。 こ こ で い う会 計(諸)原 則 とは,会 計 専 門 家 団体 等 に よ っ て 設 定 ・公 表 さ れ た 会 計 実 務 の 諸 規 範 を さ し,企 業 に対 す る 強 制 力 を有 して い な い もの も 含 ま れ て い る2)。
基 準 書 第95号 は,そ れ ま で 資 金 計 算 書3)(財 政 状 態 変 動 表)の 開 示 要 件 を規
1)FASB[1987].
2)か か る用 語 問 題 に つ い て は,新 井[1978],19頁 以 下 を参 照 の こ と。
3)本 稿 で は,と くに 断 りが な い 限 り,財 政 状 態 変 動 表,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書, 資 金 運 用 表 な ど,企 業 活 動 の 財 務 的 側 面 に つ い て,そ の 調 達 と運 用 を 動 的 に 明
らか にす る こ れ らの 諸 表 を 一 括 して 「資 金 計 算 書 」 と呼 ぶ こ と に す る。
〔159〕
160商 学 討 究 第48巻 第1号
定 し て い た 会 計 原 則 審 議 会(以 下,APB)意 見 書 第19号(1971年)4)に 代 わ る もの で あ り,ア メ リカ 資 金 計 算 書 制 度 の到 達 点 と もい うべ き も の で あ る。 筆 者 の 見 方 に よ れ ば,同 基 準 書 は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 の 「目的 」,基 礎 概 念 の 「定 義 」,さ ら に は,こ れ ら を包 括 す る も の と して の 「認 識 」 規 準 を主 た る 要 素 とす る もの で あ り,そ れ らは 一 個 の 連 鎖 的 体 系 を 形 成 す る もの とな っ て い る 。 しか し,こ れ ま で の 先 行 研 究 が 示 して い る よ うに,基 準 書 に お け る か か る 論 理 構 成 は,必 ず し も首 尾 一 貫 した も の とは な っ て い ない の で あ る。
しか し,本 稿 は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー 計 算 書 は ど う あ る べ きか,と い っ た 問 題 の 立 て 方 を と る も の で は ない 。 本 稿 は,先 行 会 計 諸 原 則 の 歴 史 的 経 験 を と り
あ げ,そ こ に含 まれ て い る 問 題 の性 質 を 明 らか に しなが ら,基 準 書 第95号 に つ い て の 理 解 を 深 め よ う とす る もの で あ る。 以 下 で の 検 討 を 通 じて,FASBが 同基 準 書 の 設 定 にあ た り,先 行 会 計 諸 原 則 の 成 果 を(肯 定 的 にせ よ,否 定 的 に せ よ)ど の よ う に継 承 ・摂 取 して きた の か を 明 らか に して ゆ き た い と思 う。
な お,検 討 に さい して は,一 連 の展 開 の基 底 にあ る会 計 思 想 と一体 で,資 金 計 算 書 の 問 題 を と らえ て い くこ とが 重 要 で あ る 。 そ の意 味 で,本 稿 で の 検 討 作 業 は,基 準 書 第95号 の歴 史 的 ・理 論 的 位 置 づ け を明 らか にす る こ と につ な が る
ば か りか,会 計 原 則 設 定 問 題 一 般 を論 ず る上 で 興 味 深 い 素 材 を提 供 して くれ る で あ ろ う。
IFASB基 準 書 第95号 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 に 関 す る 予 備 的 考 察 以 下 で は,本 題 に入 る ま え の予 備 的 考 察 と して,基 準 書 第95号 の 論 理 構 成 を, 筆 者 な りに整 理 す る こ と にす る 。 なお,整 理 に さ い して は,次 節 以 降 で の検 討 に 関 わ る論 点 に 限定 す る こ とに した い 。 ま た,同 基 準 書 か らの 引 用 等 につ い て は,パ ラ グ ラ フ番 号 に よ っ て そ の 出 所 を示 す こ とに す る。
4)AICPA[1971].
会計原則設定史からみたFASB基 準書第95号 キ ャッシュ ・フロー計算書 の諸特徴161
1.キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 の 基 本 目 的
基 準 書 で は,は じ め に,キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 計 算 書 の 「基 本 目 的 」 (primarypurpose)が 明 ら か に さ れ て お り,そ れ は,「 企 業 の 一 期 間 お け る 現 金 収 支(cashreceiptsandcashpayments)に 関 す る レ レ バ ン トな 情 報 を 提 供 す る こ と」(par.4)に あ る と さ れ て い る 。
当 該 目 的 は,つ ぎ に 言 及 す る 利 用 目 的 と は 質 的 に 異 な り,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 本 体 に お い て い か な る 情 報 が 記 載 さ れ る べ き か を 端 的 に 示 し た も の と な っ て い る 。 そ の 意 味 で,か か る 目 的 は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 に お け る 認 識 規 準 の 一 部 を構 成 す る も の と理 解 す る こ と も で き よ う。 な お,本 稿 で は,と
く に 断 り が な い 限 り,「 認 識 」 と い う語 を,あ る 項 目 を 財 務(諸)表 本 体 に 正 式 に 計 上 す る プ ロ セ ス5)を 意 味 す る も の と し て 用 い る こ と に す る 。
2.キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 の 情 報 提 供 機 能
つ ぎ に意 見 書 で は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー 計 算 書 の 利 用 目的(情 報 提 供 機 能) が 示 され て い る 。
基 準 書 に よれ ば,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー 計 算 書 は,そ れ に付 随 す る補 足 情 報 と と もに,投 資 家 ・債 権 者 に 対 して,(a)キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を 生 み 出す 企 業 の 能 力 の査 定,(b)企 業 の 債 務 返 済 能 力,配 当 支 払 能 力,外 部 資 金 調 達 の 必 要 性 につ い て の査 定,(c)企 業 の純 利 益 とそ れ に 関 連 す る現 金 収 支 との 差 異 の原 因 に 関 す る査 定,(d)企 業 の投 資 ・財 務 取 引 に お け る現 金 的 側 面 と非 現 金 的 側 面 の双 方 が 財 政 状 態 に与 え る影 響 に つ い て の 査 定,と い っ た 意 思 決 定 に 有 用 な情 報 を 提 供 す る も の と され て い る(par.5)。 こ の よ う に,意 思 決 定 に 有 用 な 情 報 の 提 供 を重 視 して い る 点 が 特 徴 的 で あ る。つ ぎに,か か る 目的 は どの よ う な情 報 に よ っ て 達 成 され る の か み て ゆ こ う。
5)た と え ば,FASB[1984],par.6を 参 照 さ れ た い 。
ヱ62
商 学 討 究 第48巻 第1号 3.「 定 義 」 と して の 「現 金 お よび 現 金 等 価 物 」基 準 書 は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー 計 算 書 の 焦 点 と して,「現 金 お よび 現 金 等 価 物 」 (cashandcashequivalent)6)と い う定 義 を採 用 して い る。 この 定 義 に よっ て,
「キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 は,期 中 にお け る 現 金 お よ び 現 金 等 価 物 の 変 動 〔要 因 〕 を説 明す る」(par.8)も の と して 性 格 づ け られ る こ と に な る。 す な わ ち, か か る 定 義 は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 に お け る認 識 を 導 くた め の フ ィ ル ター と して の役 割 を果 た してお り,し たが っ て,現 金 お よび 現 金 等 価 物 の 期 中 変 動 要 因(=フ ロー)と 見 な さ れ た 項 目 の み が 計 算 書 本 体 に 認 識 さ れ る,と い
う こ と を含 意 して い る 。
こ れ に 関 連 して,そ れ まで のAPB意 見 書 第19号 で は,証 券 の 発 行 に伴 う 固 定 資 産 の 取 得 や,社 債 か ら株 式 へ の転 換 と い っ た 取 引 につ い て も,財 政 状 態 変 動 表 本 体 にお い て 認 識 す べ き こ とが 要 請 され て い た 。基 準 書 は,こ れ らは,リ ー ス も同 様 に,現 金 お よ び現 金 等 価 物 の期 中 変 動 要 因 を構 成 しな い(定 義 に 該 当 しな い)「 非 現 金 取 引 」 で あ る た め,キ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 本 体 で は な く, 付 属 明 細 表 に お い て 開示 す べ きで あ る と要 請 して い る(par.32)。
4.「 直 接 法 」 と 「間 接 法 」 を め ぐ る 問 題 点
さ ら に,基 準 書 に よ る と,キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 計 算 書 の 表 示 方 法 に は,「 直 接 法 」(directmethod)と 「間 接 法 」(indirectmethod)と の2種 類 が あ る と さ れ て い る 。 ま ず,直 接 法 と は,現 金 収 入(得 意 先 か ら の 現 金 収 入 等)の 総 額 か ら現 金 支 出(仕 入 先 に 対 す る 現 金 支 出 等)の 総 額 を 控 除 す る 形 式 に よ り,営 業 活 動 か ら 得 ら れ た 正 味 現 金(netcashprovidedfromoperatingactivities)
を 表 示 す る 方 法 で あ り(par.27),他 方,間 接 法 と は,純 利 益 に,減 価 償 却 費 や, 棚 卸 資 産,金 銭 債 権 ・債 務 な ど の 当 期 増 減 額 を 加 減 調 整 す る 形 式 に よ り,営 業 活 動 か ら 得 ら れ た 正 味 現 金 を 表 示 す る 方 法 で あ る(par.28)。 こ の 説 明 か ら,
6)基 準 書 に よ る と,現 金 は,手 元 現 金 な ら び に要 求 払 い 預 金 を さ して お り(FASB [1987],par.7,footnote),ま た,現 金 等 価 物 は,短 期 で 流 動 性 の 高 い 投 資 を 意 味 し,財 務 省 短 期 証 券,コ マ ー シ ャ ル ・ペ ー パ ー な どが 含 ま れ る(par.9)。
会計原則設定史か らみたFASB基 準書第95号 キャッシュ ・フロー計算書の諸特徴
表1一 ① キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書(そ の1:直 接 法)
1キ ャ ッ シ ュ ・プ ロ ・ 一計 算 書(直 接 法 に よ る表 示) (1)営 業 活 動:
得 意先 か らの現 金収 入 仕 入先 ・従 業員 へ の現金 の支 払 関係会 社 か らの配 当金 受取利 息
支払利 息 支払 法人税 その他
営業 活動 か ら得 られ た正 味現金 (2)投 資活 動:
$13,850 (12,000)
20 55 (220) (325) L一
投資 活動 に伴 う正 味現 金(内 訳省 略) (3)財務活 動:
財務 活 動に 伴 う正 味現 金(内 訳省 略) (4)現 金 お よび現 金等価 物 の正 味増減 額
現金 お よび現金 等価 物 の期 首有高 現金 お よび現 金等 価物 の期 末残 高
$1,365
(1,175)
875
$1,065
巡
600
ll純 利 益か ら営 業活 動か ら得 られ た正味 現金 への調 整表純利益$
減価 償却 費 お よび減耗 償却 費$445 貸倒 引 当損 当期 見積額200 設備 売却 益(80) 分配 前 関係 会社利 益(25) 割賦 販 売代金 の受 領100 資 産お よび負 債 の変化
売上債 権 の増加 棚 卸 資産 の減少 前 払費 用 の増加
仕 入債 務 ・未払 費用 の増 加 未払 利 息 ・未払 法人税 の増 加 繰延 税金 の 増加
そ の他負 債 の増加
営業活 動 か ら得 られ た正 味現 金
(215) 205 (25) (250)
50 150 50
765
605
皿 投資 ・財務 活 動 に伴 う非 現金 取 引に関 す る情 報(省 略) IV会 計 方針(省 略)
巡
163
164 商 学 討 究 第48巻 第1号
表 霊一 ② キ ャ ッ シ ュ ・プ ロh‑‑d計算 書(そ の2間 接 法)
1キ ャ ッ シ ュ ・フn‑一 計 算 書(間 接 法 に よ る表 示) (1)営 業 活 動:
純利 益
減 価償 却費 お よび減耗 償 却費 貸 倒 引 当損 当期 見積 額 設 備売 却益
分 配前 関係 会社 利益 割 賦販 売代 金 の受領 資 産お よび負債 の変 化
売上債 権 の増 加 棚卸 資産 の減 少 前払 費用 の増加
仕入債 務 ・未 払費 用 の増加 未 払利 息 ・未払 法人 税 の増加 繰 延税 金 の増加
そ の他 負債 の増 加 営 業活 動 か ら得 られ た正 味現 金 (2)投 資活動:
$
((
445 200
80) 25) 100
(215) 205 (25) (250)
50 150 50
$ 765
一
605
投 資活 動 に伴 う正味 現金(内 訳 省略)(1,175)(3)財務 活動:
財 務活 動 に伴 う正味 現金(内 訳省略)875 (4)現金 お よび現 金等 価物 の正 味増 減額$1,065
現金 お よび 現金 等価物 の期 首有 高600 現金 お よび 現金等 価物 の期 末残 高̲顕 Hキ ャ ッシ ュ ・フm一 に 関す る補足 情報:
支払 利息 お よび支 払法 人税 等の 現金支 出(省 略) 皿 投 資 ・財務 活動 に伴 う非 現金 取 引に関す る情 報(省 略) VI会 計方 針(省 略)
ま た,表1一 ① ② か ら容 易 に理 解 され る よ うに,両 者 の相 違 は 「営 業 活 動 」 区 分 の 表 示 形 式 に 現 れ て くる 。
ち なみ に,基 準 書 は,直 接 法 を 「推 奨 」 す る 一 方 で,間 接 法 も有 用 な 情 報 を 提 供 す る とい う理 由 か ら,両 者 の 選 択 を報 告 主 体 に委 ね て い る。ま た,基 準 書 は,
会計原則設定史か らみたFASB基 準書第95号 キャッシュ ・フロー計算書の諸特徴165 報 告 主体 が 直 接 法 を選 択 した 場 合 に は,表1一 ① に示 した よ う に,問 接 法 の キ ャ
ッシ ュ ・フ ロー 計 算 書 に お け る 「営 業 活 動 」 区 分 表 示 に 相 当 す る,「 利 益 と営 業 活 動 か ら得 られ た 正 味 現 金 との 調 整 表」 を別 表 で 補 足 的 に公 開 す る こ と を要 請 して い る(par.30)。
こ こで,直 接 法,間 接 法 い ず れ の 方 法 を採 用 し よ う が,「 定 義 」 た る 「現 金 お よ び現 金 等 価 物 」 の 期 中変 動 要 因 を 認 識 す る点 に お い て は変 わ りは な い 。 と こ ろ が,間 接 法 に よ る 「営 業 活 動 」 区 分 表 示 は,「 現 金 収 支 」 を 表 現 す る もの で は な い(par.111)の で,「 現 金 収 支 に 関 す る レ レバ ン トな情 報 を提 供 す る こ と」 とい う基 本 目的 に反 して い る こ とが 明 らか とな る。 す な わ ち,か か る 基 本 目的 を キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー計 算 書 の認 識 規 準 の 一 部 と して み た場 合 に は,間 接 法 は こ の 規 準 に抵 触 す る こ と に な る の で あ る。 そ して,こ の 点 が,直 接 法 と 間 接 法 の 選 択 を作 成 者 に委 ね た 点 と と もに,基 準 書 第95号 の最 大 の 問 題 点 と し て,多 くの 論 者 が 指 摘 し て い る と こ ろ な の で あ る7)。
5.小 括
以 上 に み る 基 準 書 第95号 の論 理構 成 を,要 約 的 に 図 示 す れ ば,図1の よ うに な る。 こ の よ う に,基 準 書 で は,ま ず,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー計 算 書 の 諸 目的 が 提 示 され た の ち に,当 該 目 的 の 達 成 を導 く立 場 か ら,キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー計 算 書 本 体 に お け る認 識 規 準 と,そ の 他 の 情 報 開示 の た め の指 針 とが 示 さ れ て い る。
そ の 場 合,「 現 金 お よ び 現 金 等 価 物 」 と い う定 義 は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー 計 算 書 本 体 に お い て 認 識 す べ き項 目 と,そ うす べ き で は な い 項 目 とを 区 別 す る上 で の 重 要 な規 準 と な っ て お り,い い か え る と,キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー計 算 書 に お け る 認 識 規 準 の 最 も重 要 な要 素 とな って い る の で あ る。
しか し,「 現 金 お よ び現 金 等 価 物 」 の 期 中 変 動 要 因 を キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー計 算 書 本 体 に 認 識 す る に あ た り,基 準 書 は,直 接 法 と間接 法 の 選 択 を作 成 者 に 委 ね て し ま っ て い る の で あ り,こ の こ とは,基 準 書 が か か る 定 義 か らキ ャ ッ シ ュ ・
7)こ の 点 は,例 え ば,杉 本 ・洪[1995],と く に,98‑102頁 を 参 照 さ れ た い 。
ヱ66
商 学 討 究 第48巻 第1号図1FASB基 準 書 第95号 の論 理 構 成
(1)「 目 的 」:キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー を 生 み 出 す 企 業 の 能 力 の 査 定 お よ び そ の 他 の 意 思 決 定 に 有 用 な 情 報 の 提 供
一
(2)キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 本 体 に お け る 「認 識 」:
・「現 金 お よ び 現 金 等 価 物 」 (ニ 「定 義 」)の フ ロ ー の 認 識
(a) 直 接 法へ
・基 本 目 的:現 金 「収 支 」 に 関 す る レ レバ ン トな 情 報 の 提 供 備 考:
(3)キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 計 算 書 本 体 以 外 に お け る 補 足 情 報
a.利 益 と営 業 活 動 か ら の 現 金 と の 調 整 表(直 接 法 の 場 合 の み) b.支 払 利 息 ・法 人 税 等 の 現 金 支 払
額(間 接 法 の 場 合 の み) c.「 定 義 」 に 該 当 し な い 財 務 ・投 資
活 動 に 伴 う非 現 金 取 引
例:リ ー ス 、 証 券 の 発 行 に 伴 う 固 定 資 産 の 取 得 、 社 債 か ら株 式 へ の 転 換 取 引
d.そ の 他 注 記(現 金 等 価 物 に 含 め ら れ る 項 目の 範 囲 に 関 す る 会 計 方 針 の 開 示)
(a)直 接 法 の 営 業 活 動 区 分 に 相 当 。(c)間 接 法 の 営 業 活 動 区 分 に 相 当 。(b)は:
活 動 ・財 務 活 動 区 分 に 相 当(直 接 法 ・間 接 法 双 方 に 共 通)。
投資
フ ロ ー計 算 書 に お け る認 識 を 一 意 的 に導 出 す る こ とが で きな か った,と い う こ と を示 して い る の で あ る 。 しか も,「 現 金 収 支 」 に 関 す る 情 報 提 供 を 要 求 す る 基 本 目的 も,基 準 書 で は た ん に 啓 蒙 的 に掲 げ られ て い る にす ぎず,そ の理 論 的 根 拠 は必 ず し も明 示 的 で は な い 。
以 上 の こ とか ら,「 目的 」,「定 義 」,さ ら に は 「認 識 」 規 準 を主 た る要 素 とす る基 準 書 の 論 理 構 成 は,必 ず し も首 尾 一 貫 した もの とは な っ て い ない こ とが 理 解 され る の で あ る。 この 点 は,基 準 書 第95号 の 意 義 と限 界 を あ らた め て 見 きわ め る上 で,重 要 な 問 題 を提 起 して い る とい え よ う。
そ れ で は,基 準 書 第95号 に み る 「目的 」,「定 義 」 ・ 「認 識 」 の体 系 は,ど の よ う に形 成 され,な ぜ そ う な らざ る を得 な か っ た の で あ ろ うか 。 そ こで,次 節 以 下 で は,か か る基 準 書 の 論 理 構 成 の 理 論 的 淵 源 を探 る べ く,先 行 会 計 諸 原則 に お け る 資 金 計 算 書 の取 扱 を検 討 して ゆ く こ と にす る。
会計原則設定史か らみたFASB基 準書 第95号 キャッシュ ・フロー計算書の諸特徴 ヱ67
皿 定 義 指 向 の会 計 原 則 にお け る 「資金 」 の定 義 と認 識 問題
リサ チ ス タデ ィ
以 下,本 節 で は,ア メ リ カ 公 認 会 計 士 協 会(以 下,AICPA)会 計 調 査 研 究 第2号 「キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー一・…分 析 と 資 金 計 算 書 」(1961年;以 下,た ん に 「リ サ ー チ ・ス タ デ ィ 」 と い う 場 合 が あ る)8)と,APB意 見 書 第19号 「財 政 状 態 の 変 動 に 関 す る 報 告 」(1971;以 下,た ん に 「意 見 書 」 と い う 場 合 が あ る)9)を 主 た る 検 討 対 象 と す る 。
(1)会 計 調 査 研 究 第2号 に お け る 「総 財 務 資 源 」 概 念
1961年 のAICPA会 計 調 査 研 究 第2号 は,資 金 計 算 書 に 関 す る 論 点 を 包 括 的 に 取 り扱 う も の で あ り,そ れ を 財 務 諸 表 の ひ と つ と し て 公 開 す べ き こ と を 勧 告 し た,ア メ リ カ 会 計 原 則 史 上 初 の 試 み で あ る10)。
そ こ で は,ま ず,「 資 金 」 を ど の よ う に 定 義 す べ き か が 議 論 さ れ て い る 。 当 該 議 論 は,資 金 計 算 書 に お け る 認 識 の あ り方 を 大 き く規 定 す る 点 に お い て,か か る 領 域 に お け る 中 心 的 な 問 題 で あ っ た 。 以 下,こ の 問 題 を 中 心 に 検 討 を 加 え て ゆ く こ と に す る 。
1.「 資 金 」 の 定 義 と し て の 「総 財 務 資 源 」 概 念
会 計 調 査 研 究 第2号 で は,「 資 金 」の 選 択 的 諸 定 義 と し て,① 「文 字 通 り の 現 金 」 (literalcash),② 「現 金 お よ び 市 場 性 あ る 有 価 証 券 」(cashandmarketable
securities),③ 「正 味 貨 幣 資 産 」(netmonetaryassets),④ 「運 転 資 本 」 (workingcapita1),⑤ 「総 財 務 資 源 」(allfinancialresources)が あ げ ら れ て い る11)。
8)Mason[1961].な お,訳 出 に あ た っ て は,染 谷 監 訳[1963]を 参 考 に し た 。 た だ し 一 部 改 訳 。
9)AICPA[1971].
10)な お,会 計 調 査 研 究 第2号 の 前 半 部 分 で は,キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 分 析 に つ い て の リ サ ー チ が な さ れ て い る。 こ れ を 含 め て,ア メ リ カ 資 金 計 算 書 制 度 の 生 成 過 程 とそ の 背 景 に つ い て は,牧 田[1995b]を 参 照 され た い 。
11)Mason[1961],pp.51‑56.
168 商 学 討 究 第48巻 第1号
一 般 に,「 資 金 」 は現 金 に 近 けれ ば 近 い ほ ど,「 狭 い」 概 念 とさ れ て お り,①
〜 ④ は 「狭 い」 概 念 ,⑤ は 「広 い」概 念 と呼 ばれ る。 当時すで に,年 次報告書 に お け る資 金 計 算 書 公 開 実 務 で は,運 転 資 本 概 念 に も とつ く資 金 計 算 書 が 広 く 用 い られ て い た が,同 リサ ー チ ・ス タデ ィが 支 持 した の は⑤ の 「総 財 務 資 源 」 で あ る。 そ して そ れ は,以 下 の よ う に説 明 され て い る。
「"資金"と い う用 語 を解 釈 す る場 合 に,〔 現 金 や 運 転 資 本 等 以 外 に 〕 も う一 っ や や 広 い ア プ ロー チ が 用 い られ る こ とが あ る。 こ れ は何 人 か の論 者 が 指 摘 す る よ う に,企 業 の 内 部 取 引 で は な く外 部 取 引 か ら生 ず る購 買 力 な い し消 費 力, す な わ ち総 財 務 資 源 と考 え る もの で あ る。 別 言 す る と,こ の 場 合,資 金 は拡 張
され,〔 現 金 勘 定 も し くは 〕 運 転 資 本 勘 定 に 影 響 しな い か,そ こ を通 過 し な い よ う な資 産 また は財 務 的 資 源 を含 む こ とに な る」 〔傍 点,引 用 者 〕12)。
い ま,傍 点 を付 した 「何 人 かの 論 者」 とい うの は,L.GoldbergやD.A.Corbin 等 を指 し,彼 ら は,「 資 源 」 の す べ て の 変 動(=貸 借 対 照 表 に お け る構 成 要 素 の す べ て の 変 動)を 認 識 す る 資 金 計 算 書 を 支 持 す る点 で 共 通 す る13)。 こ の こ
とか ら,も し,「 総 財 務 資 源 」 とい う 定 義 が 実 務 に お い て厳 格 に 適 用 され る の で あ れ ば,資 金 計 算 書 は,か か る 定 義 か ら一 意 的 に導 か れ る も の と して,「資 源 」 の変 動 につ い て,そ の 「財 務 」的側 面 す べ て を網 羅 す る もの と な ろ う。か く して,
リサ ー チ ・ス タデ ィ は,貸 借 対 照 表 の構 成 要 素 す べ て の変 動 を示 す タイ プ の 資 金 計 算 書 を理 念 的 モ デ ル と し なが ら14),そ の 名 称 と し て,「 財 務 活 動 計 算 書 」
(summaryoffinancialoperations)ま た は これ に類 似 す る もの を 推 奨 す る の で あ る15)。
した が っ て,か か る 定 義 か ら導 か れ る資 金 計 算 書 で は,「 〔合 併 ・企 業 買 収 に
12)Mason[1961],p.52.
13)Mason[1961],p.52,footnote.ま た,Goldberg[1951],Corbin[1960]を 参 照 さ れ た い 。
14)但 し,リ サ ー チ ・ス タ デ ィ 第2号 で は,流 動 資 産 ・流 動 資 産 の 個 々 の 変 動 が 重 要 で な い 場 合 に は,た だ 一 つ の 項 目 で 表 示 す る こ と を 認 め て い る(Mason[1961], P.90)。
15)Mason[1961],pp.56‑57.
会計原則設定史からみたFASB基 準書 第95号 キ ャッシュ ・フロー計算書 の諸特徴 169 まつ わ る〕 株 式 ・社 債 の 発 行 に伴 う固 定 資 産 の 取 得 や,固 定 資 産 の 受 贈 な い し 助 成 」 と い っ た 「企 業 の 財 務 管 理 上 重 要 な 諸 取 引 の 効 果 」16)も 矛 盾 な く認 識
され る こ とに な る の で あ る。
こ れ に 対 して,「 資 金 」 を現 金(あ る い は 運 転 資 本)と 定 義 した 場 合,資 金 計 算 書 は 「現 金 」(あ る い は 「運 転 資 本 」)の 期 中 変 動 要 因 の み を認 識 す る もの とな り,こ こで 問 題 とな っ て い る 財 務 管 理 上 の 取 引 につ い て は,資 金 計 算 書 本 体 に お い て認 識 され な い か,あ る い は,そ れ が あ た か も現 金 で 購 入 され た か の よ う に(あ る い は運 転 資 本 の 変 動 を 伴 って い る か の よ うに)示 さ れ る とい う 問 題 が 生 ず る こ と に な る17)。 しか も,か か る取 引 に つ い て は,貸 借 対 照 表 か ら
も容 易 に把 握 す る こ とが で き な い18)。
以 上 を要 す る に,会 計 調 査 研 究 第2号 に お け る 「総 財 務 資 源 」と い う定 義 は, 当 時 問 題 とな っ た 合 併 ・買 収 に伴 う複 雑 な財 務 政 策 を資 金 計 算 書 に お い て 反 映
させ よ う と い う意 図 の も とで 提 起 さ れ た も の な の で あ る。 つ ぎ にか か る 定 義 の 理 論 的含 意 を探 る こ とに し よ う。
2.「 総 財 務 資 源 」 とい う定 義 の 理 論 的 含 意
さ て,以 上 にみ る 「資 金 」の 選 択 的 諸 定 義 の うち,一 方 の,い わ ゆ る 「狭 い 」 概 念(① 〜 ④)は,貸 借 対 照 表 上 の特 定 の 資 産(例 え ば,現 金)ま た は構 成 要 素 の グ ル ー プ(例 え ば,運 転 資 本)に 依 拠 して い る とい う意 味 で,「財 務 的 表 現 」
(financialrepresentation)の 次 元 に お け る定 義 で あ る が,他 方,「 広 い 」 概 念 た る⑤ の 「総 財 務 資 源 」 は,「 購 買 力 」 また は 「消 費 力 」 と も特 徴 づ け られ て い る こ と か ら も明 らか な よ う に,経 済 的概 念 に依 拠 した,「 現 実 世 界 」(real world)の 次 元 にお け る 定 義 で あ る19)。 まず 注 目 して お きた い こ とは,① 〜 ④
16)Mason[1961],p.54.
17)Mason[1961],p.55.
18)例 え ば,合 併 ・買 収 さ い し て,取 得 した 資 産 を ど の よ う に評 価 し,そ の 対 価 と し て ど の よ う な 証 券 を い く ら で 発 行 し た の か,あ る い は,そ の さ い,転 換 社 債 を発 行 し た 場 合,い つ 株 式 に 転 換 さ れ,し か も,一 株 あ た り利 益 に ど の く ら い の 影 響 を お よ ぼ す の か,と い っ た 一 連 の 財 務 政 策 と そ の 影 響 を 想 定 す れ ば 容 易 に 理 解 さ れ る で あ ろ う 。
ヱ70
商 学 討 究 第48巻 第1号と⑤ とで は,「 資 金 」 が 「広 い 」 か 「狭 い 」 か とい う問 題 以 上 に,「 資金 」 が 定 義 され る次 元 が 異 な っ て い る と い う こ とで あ る。
以 上 に加 え,「 資 金 」 を 「(総財 務)資 源 」 とす る定 義 の理 論 的 含 意 を理 解 す る上 で,会 計 調 査 研 究 第1号 「基 礎 的 会 計 公 準 」(1961年)20)と 同 第3号 「営 利 企 業 の た め の 会 計 原 則 試 案 」(1962年)21)と い う一 連 の会 計 調 査 研 究 に言 及
して お く必 要 が あ ろ う。
前 者 「公 準 」は,首 尾 一 貫 した 会 計 原 則 を 導 く基 礎 とな る 「公 準 」(postulates) の 体 系 を示 し た もの で あ る。 後 者 「試 案 」 は,当 該 「公 準 」 を基 礎 に,「 資 産 」 を 「経 済 的 資 源 」 概 念 に依 拠 して,「 経 済 的便 益 」22)と 定 義 し,こ の 定 義 か ら 他 の 財 務 諸 表構 成 要 素 の 定 義 を演 繹 的 に導 出 し よ う とい う試 み で あ り,そ の意
味 で,藤 井 秀 樹 氏 が 指 摘 す る よ う に,「 定 義 指 向 の会 計 原 則 」23)と して 性 格 づ け られ る もの で あ る。
そ の 場 合,一 連 の会 計 調 査 研 究 で は,「 実 体 の 有 す る 資 源 … … と そ の す べ て の 変 動 を測 定 す る こ と」 に,「 会 計 の 主 た る任 務 」24)が あ る と され て い る。
こ れ は,財 務 諸 表 の認 識 ・測 定 は,経 済 実 態 た る 資 源 状 態 とそ の す べ て の 変 動 とを ス トレー トに反 映 す る もの で な け れ ば な らな い,と い う規 制 思 考 を 表 明 し た もの と な っ て い る 。 そ して,か か る 「任 務 」 を 遂 行 す る も の が,「 公 準 」 な らび に 「試 案 」 が い う,「 相 互 に 連 携(articulate)し,同 一 の 基 礎 資 料 に 立 脚 す る 一 組 の財 務 諸 表 」25)な の で あ り,財 務 諸 表 の 「中 心 点 」(pivot)26)と し
19)「 現 実 世 界 」(な い し 対 象)の 定 義 と 「表 現 」 の 定 義 の 区 別 に つ い て は,青 柳[1985コ を 参 照 さ れ た い 。
20)Moonitz[1961].な お,訳 出 に あ た っ て は,佐 藤 ・新 井 共 訳[1962]を 参 考 に し た 。
21)Sprouse&Moonitz[1962].こ れ に つ い て も,訳 出 に あ た っ て は,佐 藤 ・新 井 共 訳[1962]を 参 考 に し た 。
22)Sprouse&Moonitz[1962],pp.20‑21.
23)藤 井[1996(1)]を 参 照 さ れ た い 。 藤 井 氏 の 論 文 は 資 金 計 算 書 の 問 題 を 取 り 扱 う も の で は な い が,本 稿 は,同 論 文 を 筆 者 な り に 解 釈 し つ つ,藤 井 氏 の 用 語 法 を 資 金 計 算 書 の 問 題 に 援 用 し た も の で あ る 。
24)Sprouse&Moonitz[1962],pp.11‑12.
25)Moonits[1961],p.27,Sprouse&Moonitz[1962],p.4.
26)Moonits[1961],p.27.
会計原則設定史からみたFASB基 準書第95号キャッシュ ・フロー計算書の諸特徴17Z て の 貸借 対 照 表 以 下,損 益 計 算 書,留 保 利 益 計 算 書,資 金 計 算 書 な の で あ る27)。
す な わ ち,一 連 の 会 計 調 査 研 究 に お い て,資 金 計 算 書 は,か か る 「会 計 の 主 た る任 務 」 の 達 成 を 導 く一 翼 を担 う もの と して 位 置 づ け られ て い る こ とが 明 らか とな る の で あ る 。
以 上 の こ とか ら,会 計 調 査 研 究 第2号 に お け る 「総 財 務 資 源 」とい う 定 義 と は, 経 済 実 態 と財 務 諸 表 にお け る 認 識(な い し測 定)と の 一 致 を求 め る 強 い 規 制 思 考 の も とで 提 起 さ れ た も の で あ る こ とが理 解 され る の で あ る。 そ して,こ の 定 義 を基 礎 と した,す べ て の 資 源 の 変 動 を 認 識 す る資 金 計 算 書 の提 唱 は,か か る 規 制 思 考 を過 不 足 な く体 現 した もの とな っ て い る の で あ る。 会 計 調 査 研 究 第2 号 で 提 示 され た 定 義 の 主 た る理 論 的 含 意 は,ま さ に こ の 点 に あ る とい って よ い で あ ろ う。
(2)APB意 見 書 第19号(財 政 状 態 変 動 表)に み る定 義 と認 識 1.意 見 書 第19号 に お け る 「広 い概 念 」
1971年 のAPB意 見 書 第19号 は,会 計 調 査 研 究 第2号 の 延 長 線 上 に位 置 す る もの で あ り,い わ ゆ る 「一 般 に認 め られ た会 計 原 則 」 と して,資 金 計 算 書(財 政 状 態 変 動 表)を 基 本 財 務 諸 表 と して 公 開す る こ と を初 め て 義 務 づ け た もの で あ る28)。 そ れ で は,同 意 見 書 にお い て,定 義 と認 識 の 問 題 は,ど の よ う に 論
じ られ て い る の で あ ろ うか 。 つ ぎの叙 述 をみ て お こ う。
「〔会 計 原 則 〕 審 議 会 は ,財 政状 態 の変 動 を要約す る計算 書 〔財政 状態 変動 表 の こ と 一引 用 者 〕 は,財 政 状 態 の すべ て の変 動 を網 羅 す る広 い 概 念 に基 づ く こ と… … を結 論 づ け る もの で あ る。 各 報 告 主 体 の 〔財 政 状 態 〕 変 動 表 は,現 金 あ る い は 運 転 資 本 以 外 の構 成 諸 要 素 に直 接 影 響 す る しな い に か か わ らず,そ の
27)Moonits[1961],p.27‑28,Sprouse&Moonitz[1962],p.4.
28)AICPA[1971].な お,AICPAは,1963年 に,APB意 見 書 第3号 「資 金 の 源 泉 と 運 用 に 関 す る 計 算 書 」(AICPA[1963])を 公 表 し た(た だ し,そ こ で の 資 金 計 算 書 は 「補 足 表 」 に す ぎ ず,そ の 公 開 も 義 務 づ け ら れ な か っ た)が,こ れ に つ い て は,そ の 内 容 に お い て,基 本 的 に 会 計 調 査 研 究 第2号 と 同 じ もの とな っ て い る の で,検 討 対 象 か ら除 外 し た 。
172 商 学 討 究 第48巻 第1号
財 務 お よ び 投 資 活 動 の 全 て の 重 要 な諸 側 面 を 開示 す る も の で な け れ ば な ら な い 。 例 え ば,証 券 ま た は そ の 他 の 固 定 資 産 との 交 換 に伴 う固 定 資 産 の 取 得 や, 長 期 負 債 あ るい は優 先 株 式 か ら普 通株 式 へ の 転換 は,当 該 変 動 表 に 適切 に反 映 され な け れ ば な ら な い」 〔傍 点,引 用 者 〕29)。
以 上 の 叙 述 で は,会 計 調 査 研 究 第2号 と の比 較 にお い て,つ ぎ の よ うな 相 違 が み られ る。 そ れ は,第1に,「 資 金 」 あ る い は 「資 源」 な る 用 語 が 完 全 に 消 滅 して い る こ と,第2に,証 券 ま た は そ の他 の 固 定 資 産 との 交換 に伴 う固 定 資 産 の 取 得 に加 え て,新 た に,長 期 負 債 あ る い は優 先 株 式 か ら普 通 株 式 へ の 転 換
に つ い て も勧 告 され て い る こ とで あ る 。
もっ と も,意 見 書 公 表 の 基 礎 とな っ たAPBス テ ー トメ ン ト第4号 「企 業 の 財 務 諸 表 の た め の 基 礎 的 諸 概 念 と会 計 原 則 」(1970年)で は,貸 借 対 照 表 は 経 済 的 「資 源 」(お よ び 「責 務 」)の 状 態 を包 括 的 に示 す 財 政 状 態 表 で あ り,損 益 計 算 書,留 保 利 益 計 算 書,資 金 計 算 書 は,財 政 状 態 の 変 動 を示 す 財 務(諸)30)
と して体 系 づ け られ て い る。 この こ とか ら,意 見 書 の い う 「財 政 状 態 の全 て の 変 動 」 と は,「 資 源 」(お よび 「責 務 」)の す べ て の 変 動 を示 唆 して い る も の と い え よ う。
し たが っ て,そ の 限 りで い え ば,意 見 書 第19号 に お け る財 政 状 態 変 動 表 は, 貸 借 対 照 表 の 全 構 成 要 素 の 変 動 を認 識 す る 資 金 計 算 書 を 理 念 的 モ デ ル と して い
る こ とに は 変 わ りは な く,そ の 論 理 構 成 に お い て,会 計 調 査 研 究 第2号 に お け る そ れ と同 一 の 系 に属 す る もの と な っ て い る の で あ る 。
2.意 見 書 第19号 に お け る定 義 と認 識 との分 離
と こ ろ が,財 政 状 態 変 動 表 の 内 容 表 示,す な わ ち,「 認 識 」 に か か わ る意 見 書 の勧 告 内容 を も う少 し詳 細 に検 討 して み る と,そ こ で は,財 政 状 態 変 動 表 の 形 式 が,(1)「 現 金(フ ロ ー)」 表 示 す る場 合 と,(2)「 運 転 資 本(フ ロー)」 を 表示 す る場 合 と に分 け て 議 論 さ れ て い る の で あ る。
29)AICPA[1971],par.8.
30)AICPA[1970],pars.15‑16,130‑133を 参 照 さ れ た い 。
会計原則設定史からみたFASB基 準書第95号 キ ャッシュ ・フロー計算書の諸特徴 173
表2財 政状態変 動表(運 転基本 基準)
財 務資源 の源 泉:
(1)運 転資 本 の源泉:
異 常項 目控除 前 当期利 益$27,000
減価 償却 お よび アモー チゼ イ シ ョン… ・…̲」 魍 営業 か ら得 られ た運 転資 本$
異常項 目に よ り得 られ た運転 資本(内 訳省略) そ の他 の運 転 資本 の源泉
運転 資本 の源 泉合
35,000 65,000 鯉
$105,000
(2)運 転 資本 に影響 をお よ ぼ さな い財務 資源 の源 泉:
土 地所得 の た めに発行 した社債$25,000 社債 償還 の ため に発行 した優 先株20,000 そ の他 の資産 取得 の ため に発行 した優 先株10,000
合 計 ̲型
(3)財 務資 源 の源泉 合計$160000 財 務資 源 の運用:
(1)財 務 資 源 の 運 用(内 訳 省 略)$29,000
(2)運 転 資 本 に 影 響 を お よ ぼ さな い 財 務 資 源 の 運 用:
社 債 の 発 行 に よ る 土 地 の 取 得$25,000 優 先 株 の 発 行 に よ る社 債 の 償 還20,000
優 先 株 の 発 行 に よ る そ の 他 資 産 の 取 得 … …10,000 合 計55,000
期 中 に お け る 正 味 運 転 資 本 の 増 加 額 ̲型 (3)財 務 資 源 の 運 用 合 計$160.000
以 下 、運転 資本勘 定 の変動 に 関す る明細 表(省 略)
出 所)WelschetaL[1972].
注)表 中 の 分 類 記 号 に つ い て は 、 筆 者 が 表 の 作 成 に あ た り便 宜 的 に つ け た も の で あ る。 ま た 、 表 の レイ ア ウ トに つ い て は 一 部 を 変 更 し て い る。
意 見 書 に よれ ば,(1)「 形 式 が 現 金 の フ ロー を示 す もの で あ る場 合,現 金 以外 の 運 転 資 本 の 項 目(例 え ば,売 上 債 権,棚 卸 資 産 お よ び仕 入 債 務 等)の 変 動 は, 現 金 の 源 泉 お よ び 使 途 を構 成 す る もの で あ るか ら,〔 財 政 状 態 〕 変 動 お い て 適 切 に 開示 され な け れ ば な らな い 」 こ と,他 方,(2)「 形 式 が 運 転 資本 の フ ロ ー を 表 示 す る 」 場 合 に は,「 運 転 資 本 の構 成 要 素 の変 動 」 が 「〔財 政 状 態 〕 変 動 表 に 従属 す る付 表 」(=運 転 資本 明細 表)に お い て 表示 され な けれ ば な らない こ と31), が勧 告 され て い る の で あ る。
要 す る に,財 政 状 態 変 動 表 に は,「現 金(フ ロ ー)基 準 」と 「運 転 資 本(フ ロ ー) 基 準 」 とが あ り,い ず れ を選 択 す るか は 報 告 主 体 の 自由(後 者 の 場 合 に は運 転
31)AICPA[1971],par.12.
ヱ74
商 学 討 究 第48巻 第1号資本 明 細 表 が 添 付 さ れ るべ き)で あ る こ と,そ して,い ず れ の 場 合 に も,証 券 な い し他 の 資 産 との 交 換 に よ る 固 定 資 産 の 取 得,証 券 か ら株 式 へ の 転 換 取 引 な どは 財 政 状 態 変 動 表 本 体 に お い て認 識 され な け れ ば な らな い,と い う の が 意 見 書 の 意 図 す る と こ ろ な の で あ る。 参 考 ま で に,表2に お い て,G.A.Welsch 等 にお け る,「 運 転 資 本(フ ロ ー)基 準 」 に よ っ て 作 成 され た 財 政 状 態 変 動 表 の雛 形 を示 して お こ う。
す で に述 べ た よ う に,意 見 書 第19号 は,一 連 の 会 計 調 査 研 究 に お け る 「資 源 」 な い し 「広 い」 概 念 を継 承 す る こ とに よ り,現 金 ない し運 転 資 本 概 念 の も とで は 資 金 計 算 書 本 体 か ら除外 され る か また は明 示 的 で は な い重 要 な 財 務 管 理 上 の 取 引 を,資 金 計 算 書 本 体 にお い て認 識 す る こ との 必 要 性 を説 く もの で あ っ た 。 しか し他 方 に お い て,同 意 見 書 に お け る 「広 い」定 義 とは,通 俗 的 に は 「狭 い」
概 念 で あ り,「 資 金 」 の 選 択 的 諸 定 義 と さ れ て き た は ず の,「 現 金(フ ロ ー)」
概 念 や 「運 転 資 本(フ ロー)」 概 念 を包 括 し,相 対 化 す る定 義 と もな っ て い る の で あ る。す な わ ち,こ れ を要 す る に,意 見 書 第19号 で は,定 義 と して 「広 い」
概 念 が 提 唱 され て い る 一 方 で,そ の 制 度 的 運 用 に あ た っ て は 「狭 い 」 概 念 が 登 場 して くる とい う意 味 で,一 種 の二 元 的 論 理 構 成 が と られ て お り,換 言 す れ ば, 定 義 と認 識 との 関 係 の希 薄 化 な い し分 離 とい うべ き状 況 が 生 み だ され て い るの で あ る。
しか も,以 上 にみ る意 見 書 の勧 告 は,多 くの企 業 が 証 券 の 発 行 に伴 う固 定 資 産 の 取 得 な どの 取 引 を 財 政 状 態 変 動 表 に表 示 しな か っ た32)た め に,事 実 上, 伝 統 的 な運 転 資 本 概 念 に 基 づ く資 金 計 算 書 公 開 実 務 を引 き続 き容 認 す る 結 果 を
もた ら した の で あ る。
32)そ の 理 由 は,か か る 取 引 が 行 わ れ て い な か っ た か,行 わ れ て い た と し て も意 見 書 の 基 底 に 作 成 者 が 従 わ な か っ た か,の ど ち ら か で あ る 。 こ の 点 に つ い て は,
今 後 さ ら に 明 らか に す る つ も りで あ る 。
33)こ の 点 に つ い て,Spiller&Virgil[1974]は い う 。 「意 見 書 は し ば し ば 運 転 資 本 よ り広 い 概 念 を採 用 し て い る が,必 ず し も明 確 に 概 念 の 変 更 を要 求 し た わ け で は な い 。 … … あ る 種 の 取 引 が 〔意 見 書 の 〕 要 求 どお りに 開 示 さ れ て い る 限 り, そ の 基 礎 と して ど の よ う な 資 金 概 念 を 採 用 し て も か ま わ な い し,基 礎 と な る 資 金 が な くて も よ い の で あ る」(p.115)。
会計原則設定史か らみたFASB基 準書 第95号 キ ャッシュ ・フロー計算書 の諸特徴175 さ て,当 初 か ら,AICPA会 計 原 則 が 提 起 し た 「広 い 」 概 念,と り わ け APB意 見 書 第19号 に 対 して は,そ の 定 義 が 「曖 昧 」 な い し 「多 義 的 」 で あ る と い う批 判 が あ っ た33)。 「資 金 」 を 「現 金 」 や 「運 転 資 本 」 とい う表 現 世 界 の 次 元 に お い て 一 義 的 に定 義 す る人 々(=「 狭 い 」概 念 を支 持 す る者)か らす れ ば, か か る批 判 は 当然 の こ とか も しれ な い。 これ まで 明 らか に し て きた よ う に,意 見 書 第19号 にみ る 定 義 の か か る 「曖 昧 さ」 の 理 論 的基 底 は,定 義 と認 識 の 分 離
に あ る とい う の が,筆 者 の 見 方 で あ る。
で は,か か る 定 義 と認 識 の 分 離 は,そ の 後 のFASBの 展 開 に お い て,ど の よ う に 克 服 され た の で あ ろ うか 。 あ る い は 克 服 さ れ な か っ た の で あ ろ うか 。 し か し,以 上 の 検 討 の み を もっ て この 問 い に 答 え る こ とは で き な い 。 ア メ リカ会 計 原 則 の も う一 方 の 展 開 を み な け れ ば な ら ない か らで あ る。
N.目 的 指 向 の 会 計原 則 に お け る キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー計 算 書 の 萌芽
財 務 諸 表(あ る い は財 務 報 告)の 目的 を 「利 用 者 が 経 済 的 意 思 決 定 を行 う上 で 有 用 な情 報 を提 供 す る こ と」 に求 め る基 本 的 接 近 法 は,「 意 思 決 定 一有 用 性 ア プ ロ ー チ 」(decision‑usefulnessapproach)と 総 称 され て い る 。 周 知 の 「基 礎 的 会 計 理 論 」(1966年;以 下,"ASOBAT")は,ア メ リ カ会 計 学 会(以 下, AAA)の 公 式 見 解 と して,こ の ア プ ロ ー チ を初 め て 定 式 化 した もの で あ り, 藤 井 秀 樹 氏 の い う 「目的指 向 の 会 計 原 則 」34)の 出発 点 と な っ た もの で あ る 。
34)藤 井[1996(2)]を 参 照 さ れ た い 。 な お,こ の 用 語 法 につ い て も,藤 井 氏 の 論 文 を筆 者 な りに 検 討 しつ つ,援 用 し た も の で あ る。
35)前 節 で み たAPBス テ ー ト メ ン トNo4は,財 務 諸 表 目 的 と して,財 務 諸 表 の 利 用 者 が 経 済 的 意 思 決 定 を 行 う 上 で 有 用 な 情 報 を 提 供 す る こ と(AICPA[1970], par.73)を 掲 げ て い る 。 ま た,同 意 見 書No19も 同 様 で あ る 。 そ の 点 で,こ れ ら は 目 的 指 向 の 会 計 原 則 と し て 扱 うべ きか も し れ な い 。 し か し,そ う しな か っ た 主 要 な 理 由 は,(1)定 義 指 向 の 会 計 原 則 は,意 思 決 定 一 有 用 性 ア プ ロ ー チ と は 中 立 的 に 存 立 し う る こ と,(2)同 ス テ ー トメ ン トで は,意 思 決 定 一有 用 性 ア プ ロ ー チ 的 な 表 明 が た ん に 羅 列 的 に 述 べ られ て い る に す ぎず,体 系 化 さ れ て い な い こ と,の2点 で あ る 。 ま た,意 見 書No19に つ い て も同 様 に考 え た 。
176 商 学 討 究 第48巻 第1号
以 下,本 節 で は,意 思 決 定 一有 用 性 ア プ ロ ー チ の 特 徴 に つ い て必 要 な 限 り言 及 し な が ら,ASOBAT以 降 の 目的 指 向 の 会 計 原 則 の 系 譜35)に お け る資 金 計 算 書 の 取 扱 につ い て 検 討 して ゆ く こ と に しよ う。
(1)ASOBATか らAAA外 部 報 告 委 員 会 レポ ー トへ の展 開
周 知 の よ う に,ASOBATは,潜 在 的 な会 計 情 報 を 評価 す る た め の規 準 と し て,目 的 適 合 性 以 下,4つ の 「会 計 情 報 基 準 」36)を 提 示 す る こ と を 通 じて, 会 計 情 報 の 有 用 性 の 改 善 を 図 ろ う と し た も の で あ る37)。 そ し て,か か る ASOBATの 理 念 を継 承 し,そ の 「基 準 」 に 照 ら して外 部 報 告 実 務 を評 価 し, そ の あ るべ き方 向性 に つ い て い くつ か の 提 言 を試 み た もの が,「 外 部 報 告 実 務 の 評 価 」 と題 さ れ た1969年 のAAA外 部 報 告 委 員 会 レポ ー ト38)であ る 。
同 レポ ー トは,ま ず,利 用 者 の 意 思 決 定 プ ロセ ス を 「モ デ ル 化 」39)(modeling) す る とこ ろ か ら議 論 を開 始 す る 。 同 レポ ー トは,ま ず,利 用 者 の 意 思 決 定 モ デ ル と して,将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー の 割 引 現 在 価 値 モ デ ル を提 示 した の ち 利 用 者(と りわ け 普 通 株 主)の 外 部 報 告 に対 す る情 報 ニ ー ズ が か か る モ デ ル に お い て 割 引 の対 象 と さ れ る将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー(将 来 配 当)の 期 待 流 列 の 予 測 に 有 用 な情 報 に あ る と表 明 す る の で あ り,将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 予 測 に と っ て,い か な る情 報 が提 供 さ れ る べ き か とい う観 点 か ら,財 務 報 告 の あ るべ き
36)AAA[1966],pp.8‑13を 参 照 の こ と 。
37)ASOBATに お け る 資 金 計 算 書 の 取 り扱 い に つ い て は,特 筆 す べ き もの は な い が,
「あ る 利 用 者 に と っ て は ,将 来 の財 政 状態 と債 務支 払 能 力 を予 測 しよ う と努 め る こ と の 方 が 利 益 を 予 測 す る こ と よ り も は る か に 重 要 と な る 場 合 が あ る 」 と指 摘 した 上 で,「 過 去 数 期 間 に わ た る 現 金 ま た は 運 転 資 本 フ ロ ー に 関 す る諸 表 は, (a)様 々 な 種 類 の 取 引 が,そ の 性 質 に お い て 反 復 的 で あ る か そ れ と も 非 反 復 的 で
あ る の か,(b)経 営 政 策 や 環 境 要 因 の 変 化 に よ っ て も た ら さ れ う る 影 響,と い う よ う な 諸 要 因 に つ い て 正 し く考 慮 さ れ る の で あ れ ば,こ の よ う な予 測 に 有 用 と な る で あ ろ う」 と述 べ て い る(AAA[1966],pp.24‑25)。
38)AAA[1969].
39)AAA「 会 計 理 論 お よ び 理 論 承 認 に 関 す る ス テ ー トメ ン ト」 に よ れ ば,意 思 決 定 一有 用 性 ア プ ロ ー チ は,「意 思 決 定 モ デ ル ・ア プ ロ ー チ 」 と 「意 思 決 定 者 ア プ ロ ー チ 」 と に 分 類 さ れ る(AAA[1977],p.10)。 本 稿 で 問 題 と し て い る の は,前 者 の 「意 思 決 定 モ デ ル ア プ ロ ー チ 」 で あ る。
会計原則設定史からみたFASB基 準書第95号キャッシュ・フロー計算書の諸特徴 ヱ77 姿 を提 言 し よ う とす る の で あ る40)。
1.外 部 報 告 委 員 会 レポ ー トに お け る短 期 貨 幣 フ ロ ー 計 算 書 の提 唱
で は,外 部 報 告 委 員 会 レ ポ ー トに お い て,資 金 計 算 書 に つ い て どの よ う に 議 論 され て い る の で あ ろ うか 。 ま ず,注 目 され るの はつ ぎの 主 張 で あ る 。
「〔フ ロー に 関 す る 〕 歴 史 的 諸 表 の な か で ,投 資家 お よび債権 者 に とって最 も 目的 適 合 性 を有 す る もの が 資 金 計 算 書 で あ る。 … …現 在 お よ び過 去 にお け る 歴 史 的 な キ ャ ッ シ ュ ま た は 資 金 フ ロ ー の 属 性 は,将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー の予 測 に と っ て適 合 的 な先 行 指 標 で あ る 。 しか し,資 金 計 算 書 に含 ま れ て る い くつ か の 項 目 は,目 的 適 合 性 の 程 度 に お い て そ れ ぞ れ 異 な る の で,〔ASOBATで 提 起 され た〕 そ の 他 の諸 基 準 に照 ら して,個 々 に吟 味 す る 必 要 が あ る」41)。
そ こで,外 部 報 告 委 員 会 レ ポ ー トは,伝 統 的 な運 転 資 本 概 念 に基 づ く資 金 計 算 書 を と りあ げ,つ ぎの よ う に 吟 味 す る の で あ る。
「伝 統 的 な 資 金 計 算 書 は … … 通 常,運 転 資 本 の 変 動 要 因 の み を 示 す 」 が,そ こ に お い て 「純 利 益 に減 価 償 却 や そ の 他 の非 資 金 的 項 目 を加 算 す る」 こ と に よ り,「営 業 活 動 か ら生 ず る資 金 源 泉 を計 算 す る方 法 」は,「不 偏 性(freefrombias) か らみ て 十 分 で は な い 」42)。 なぜ な ら,「 運 転 資 本 の 変 化 の 金 額 を決 定 す る た め の測 定 に は,棚 卸 資 産 や そ の他 非 貨 幣 的 流 動 項 目 に さ ま ざ ま な測 定 〔な い し 配 分 〕 手 続 が と られ て い る た め,運 転 資 本 項 目へ の 投 資 〔に 向 け られ た 現 金 〕 の 実 際 的 な変 化 を 適 切 に記 述 しな い」43)か らで あ る。
しか し,同 レポ ー トは,運 転 資 本 概 念 に基 づ く資 金 計 算 書 に含 ま れ る上 記 以 外 の項 目,例 え ば,資 産 の売 却 収 入 や,株 式 ・社 債 の発 行 の よ う な資 金 源 泉 項 目や,配 当,社 債 の 償 還,工 場 や 設 備 の 取 得 の よ う な資 金 の 運 用 項 目に つ い て は, 過 去 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 属 性 を示 し て い る の で,将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 予 測 に と っ て 適 合 的 で あ り,ま た,計 数 化 可 能性,検 証 可 能 性,不 偏 性 の す
40)AAA[1979],pp.79‑88,な ら び に,牧 田[1995a]を 参 照 さ れ た い 。 41)AAA[1979],p。111,
42)AAA[1979],p.111.
43)AAA[1979],p.112.
178 商 学 討 究 第48巻 第1号 べ て を満 た して い る とい う の で あ る44)。
以 上 を 要 す る に,外 部 報 告 委 員 会 レ ポ ー トは,将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー の予 測 に と っ て,資 金 計 算 書 を最 も有 用 な フ ロ ー に関 す る財 務 表 で あ る と位 置 づ け な が ら も,伝 統 的 な運 転 資 本 概 念 に 基 づ く資金 計 算 書 に対 して は,そ れ が 原 価 配 分 な どの 会 計 上 の 見 積 の 影 響 を 受 け,不 偏 性 の 基 準 に 反 して い る との 理 由 か ら,否 定 的 な 見 方 を示 し て い る の で あ る45)。 そ こで,同 レポ ー トは,資 金 計 算 書 で は 「営 業 活 動 か ら生 ず る キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー と配 当 との 相 互 関係 を観 察 し う る よ う な 情 報 が 示 され るべ きで あ る」46)と し,現 金 収 支 な い し貨 幣収 支 を 基 調 とす る 「短 期 貨 幣 フ ロ ー計 算 書 」(statementofcurrentmonetaryflows)
を提 案 す る の で あ る47)。
2.「 定 義 に 基 づ か な い 資 金 計 算 書 」 の理 論 的 含 意
さ て,外 部 報 告 委 員 会 レポ ー トに お け る資 金 計 算 書 に 関す る 議 論 で は,資 金 計 算 書 の あ り方 が も っ ぱ らキ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー予 測 目的 有 用 性 との 関連 にお い て議 論 され て い る と こ ろ に最 大 の 特 徴 が あ る。 か か る議 論 は,以 下 に述 べ る よ う に,前 節 で み た 定 義 指 向 の 会 計 原 則 に お け る議 論 と極 め て異 な っ て い る とい え よ う。
定 義 指 向 の 会 計 原 則 が そ うで あ る ゆ え ん は,定 義 の 問 題 が 現 実 世 界 に お け る 対 象 物 との 関 連 か ら論 じ られ,定 義 か ら財 務 諸 表 に お け る認 識 を 演 繹 的 か つ 一 意 的 に導 き出 そ う とい う と ころ に あ っ た 。 そ して,こ の こ とは,資 金 計 算 書 に つ い て も 同様 で あ っ た。 す な わ ち,そ こ で は,「 資 金 とは 何 か」 と い う こ とが まず 提 起 さ れ,「 資 金 」 が 現 実 世 界 にお け る 「資 源 」 と定 義 さ れ た場 合 に は,
44)AAA[1979],p.111.
45)こ の 点 に つ い て は,同 レ ポ ー トが,伝 統 的 な 損 益 計 算 書 の 有 用 性 を 強 く否 定 し て い る こ と を理 解 し て お く必 要 が あ る 。 す な わ ち,同 レポ ー トは,「 純 利 益 そ れ の み の 目 的 適 合 性 は,営 業 取 引 か らの キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 総 計 の 代 替 物 と し て 非 常 に低 い 」 と し,ま た,損 益 計 算 書 は,「不 偏 性 」の 基 準 に 適 合 しな い とい う 「欠 陥 」 が あ り,「 過 去 お よ び 将 来 に わ た る 原 価 配 分 の 差 異 に 最 も 頻 繁 に 現 れ る」
(AAA[1969],pp,110‑111)と 述 べ て い る の で あ る 。 46)AAA[1969],p.113.
47)AAA[1969],p.117.