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組織 と情 報 の経 済 理 論

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(1)

組織 と情 報 の経 済 理 論

若 林 信 夫

1.序

△冊 昌 一一 口

本稿 の 目的 は,組 織 と情 報 の経 済理 論 に つ い て の 基礎 的 な枠 組 を最 近 の 発展 に照 ら して 解 説 し検 討 す る こ とで あ る 。

組 織 と情 報 の 経 済 理 論 は 周 知 の よ うに,1954年,故J.マ ル シ ャク[20]に よ り創 設 され た 。 チ ー ム組 織 の 「 調 整 」(coordination)の 問 題 は 市 場 の 調i整よ り も複 雑 で あ り,不 確 実 性 下 の意 思 決 定 の 経 済 学,統 計 的 決 定 理 論,ゲ ー ム理 論,組 織 論 等 の 総 合 的視 点 か ら解 明で き る はず だ と い う強 い信 念 が あ った。 マ ル シ ャ ク自身,数 ダ ー スの 論 文 を 書 き,研 究 の 組 織 化 を図 った 。 そ の 後,K.ア

ロ ゥ,R。 ラ ドナ ー,T.グ ロゥ ブ ス,S.ロ ス等 の 学 問 的 貢 献 に 支 え られ て 微 視 的経 済 理 論 の重 要 な一 部 門 に な って き た。 それ は,市 場 の価 格 メ カニ ズ ムの 解 明 か ら組織 の情 報 メ カ ニ ズ ム の解 明へ の移 行 を意 味 す る。

教 育 的見 地 か らみ ると,米 国 の 数 大 学 で は,実 際 に,「 組 織 と情 報 の 経 済 学 」 と い う名 称 を もつ 学 科 目 が開 講 され て い る(講 義 要 目の 一 部 に つ いて は付 録1 を参 照 の こと)。

しか しな が ら,組 織 と情 報 の 経 済 学 は微 視 的 経 済 学 や 貨 幣 論 の よ う に完 成 し た 学 科 目 とな って い るわ けで はな い。 さま ざ まな 視 点 と さま ざ ま な 手 法 が 使 わ れ,実 証 的 かつ 規 範 的 に 内容 を も った科 学 が 構 成 され るべ きで あ ろ う。

本橿 は,組 織 と情 報 の 経 済 理 論 の 中 で,誘 因 の 設 計 を 経 済学 的 に解 明 しよ う とす る新 しい流 れ に 焦 点 を あて る。 誘 因 の 問 題 の 基 礎 にあ る,組 織 情 報,決 定 につ いて 若 干 の 準 備 的 考 察 をす る こ とか ら始 め よ う。

原 稿受 領 日1984年12月5日

〔97〕

(2)

2.組 織 の 経 済理 論

組 織 は,集 団 的行 動 の 利益 を 実 現 す る た めの 手 段 で あ り,家 計,企 業,政 府 あ るい は国 民経 済 か ら,チ ー ムや ク ラ ブ,地 域 単 位 の 集 り まで 十分 広 く解 釈 で き る。 複 数 の人 々 か ら構 成 され,各 々は共 通 の 関 心 を押 し進 め る,一 定 の ル ー ル に 従 って 行動(決 定)す る集 団 と規 定 さ れ る。 組 織 の 経 済 理 論 は 市 場 の経 済 理 論 と違 って,価 格 シ ス テ ム を うま く利 用 で きな い特 徴 が あ る1}。

組 織 の経 済 理 論 の 萌 芽 は1950年 代 前 半 に あ る。H.サ イモ ン[27]は,雇 用 者 と従業 者 の 雇 用 契 約 は商 品 の 売 買 契約 とは 異 な る と い う視点 か らモ デ ル化 し, 雇 用 者 に と って,権 限 の 委 譲 が どれ だ け有 利 で あ るか を 分析 した。 ア ロ ウ[2]

は多 数 の 個 々人 の 意 思 決 定 か ら民 主 的 に全 体 の意 思決 定 を導 出す る こと がで き るか とい う社 会 厚 生 関 数 の 存在 問題 を公 理 論 的 に 明 らか に した。 マ ル シ ャ ク と ラ ドナ ー[22]は,構 成 員 の各 々 が相 異 な る問 題 に つ い て決 定 を行 うが,皆 の 決 定 の合 成 果 と して共 通 の 報酬 を受 け と る よ うな集 団 を 「チ ー ム 」 と定 義 し,

チ ー ムの 経 済 理 論 を構 築 した。

組 織 を市 場 と対 比 させ て,組 織 の 費 用 や 外 部 性 を論 じた り,経 営 者 の 生 産 関 数 を 特 定 化 し,統 制 の 範 囲(spanofcontro1)か ら企 業 規 模 は 拡 大 に限 界 が あ る こ とを 示 した り,分 権 組 織 に擬 似価 格 を 導 入す る と い う い くつ か の貢 献 が あ る。

組 織 に お け る規 範 的 経 済 問 題 の う ち特 に 重 要 な 問 題 は,将 来 の事 象 が 不確 実 で あ る こ とを 認 識 して 意 思 決 定 を しな け れ ば な らな い こ とで あ る。 組 織 は,こ の不 確 実 性 を 軽 減 す る ため に さ ま ざま な 対 抗 策 を と るが,以 下,2つ だ け述 べ

る。

第 一 は,危 険 分 担(risksharing)の 問題 で あ る。合 名会 社,組 合,法 人 は い ず れ も危 険分 担 を 認 め るた め に 作 られ た組 織 で あ り,金 融 市場 や保 険市 場 も危 険 分 担 を容 易 にす るた め に あ る。 石 油 発 堀 や 土 地 開発 は企 業 組 合 の 形 を と り,

1)Arrow[3]を 理 論 化 し たHess[13]は 最 近 の 重 要 な 文 献 で あ る 。Marschakand

Radner[22],McGuireandRadner[王9]は 古 典 的 に な り つ つ あ る 。

(3)

組織 と情報の経済理論 99 会 社 め 設 立 には 株 式 発 行 に よ って 危 険 を分 担 しう る。 危 険分 担 の 効 果 を有 利 に す る た めに 考 え られ た戦 略 と して,危 険 分 散(diversification)と か けつ な ぎ (hedging)が あ る。 危 険 分散 は,多 数 の投 資 プ ロ ジ ェ ク トに参 加 す れ ば実 質 的 な 危 険 は小 さ くな る ことで あ り,か けつ な ぎの 例 と して は,農 家 が 作 物 を作 る さ い,さ ま ざま な 作 物 を 播 種 す るよ うに,相 互 に依 存 した ペ イオ フを もつ 投 資 を 利 用 す る こ とに よ り危 険 を 減少 し う る。

第 二 は,組 織 内 の 誘 因 シ ス テム で あ る。 い ま,意 思決 定の 権 限 を委 譲 す る場 合 を 考 え よ う。 意思 決 定 者 が 各 々,危 険 に対 し異 な った態 度 を と った り,差 別 情 報 を持 っ と き,誘 因 問題 が発 生 す る。 権 限 の 委 譲 は組 織 内 で 下位 集 団 で の 効 率 とよ り良 い情 報 を 利用 す る た め に行 わ れ る。 しか し,下 位 集 団 は上 位 の 意 思 決 定 者 と必 ず し も同 じ選 好 や 目的 を持 たな い。 誘 因 シス テ ムは上 位 と下位 集 団 の 決 定 の差 異 を調 整 す る た め に設 計 され る。 その 例 と して 全 社員 持株 制 に よ る 経 営 参 加 や 利 潤 分 配 が あ る。 第4節 で 詳 し く検 討 す るよ うに,誘 因 シス テ ム に は さ ま ざ まな 問 題 と ア プ ロ ー チが あ る。

3.情 報 と 決 定

情 報 とは 意 思 決 定 者 が 一 連 の 意 思決 定 に 先 立 って 不確 実性 を減 少 させ て くれ る価 値 の あ る もの と定 義 され る。 交通 信 号 が赤 か緑 か 無 いか は歩 行 者 の 道 路 横 断 に と って 重 要 な情 報 で あ る。情 報 は通 常,有 形 財 で な い た め に数 量 的 た測 る こ とが 出来 ず 日用 品 の よ うな 稀少 な財 とは 区別 さ れ る。

シ ャ ノ ンや ウ ィ7バ ー に代 表 され る通 信 工 学 者 は情 報 量 を厳 密 に定 義 した2〕

が,経 済学 者 は それ が ペ イ オ フ関 数 か ら独 立 で あ るた め に適 切 な 情 報 量 と はみ な さ な い。 マ ル シ ャ クを始 め とす る多 くの 経 済 学 者 が エ ン トロ ピーの 尺 度 と, 費 用 ・便 益 の 経 済 的基 準 を統 合化 しよ う と した。 更 に,マ ル シ ャ ク と宮 沢 光 一

2)シ ャ ノ ン ・ウ ィ ー バ ー の 情 報 量 の 尺 度 は,不 確 実 性 を 状 態 ズ の 確 率 ρ で 表 わ す 確 率 '関 数

Hを 導 入 し,

∬(ρ)=一 Σρ(κ)109ρ(κ)

で あ る 。Hess[13]は 公 理 論 的 に 導 出 して い る 。

(4)

[21〕 は,効 率 性 の 概 念 か ら経 済 状 態 の 部 分順 序 づ けを 行 な う経 済学 的 思 考 を, 情報 構 造 の部 分 順 序 づ け に応 用 した。

本 節 は,決 定 理 論 と 情 報 理 論 の 接 点 に つ いて 最 近 の発 展 を も と に再 構 成 す る31。

3.1決 定 問 題

今,意 思 決 定 者 が 自 然 の 状 態 を 観 察 して 行 動 を 選 択(決 定)す る 問 題 を 定 式 化 し よ う 。 α は 行 動(、4、9は行 動 空 間),κ は 自 然 の 状 態(Xは 状 態 空 間),ヵ(の は 状 態 の 確 率 と す る 。 ρ(κ)≧0,Σ,ρ(κ)=1で あ る 。 α と κ に 基 づ く ペ イ オ フ 関 数%(α,κ)が あ る 。 ペ イ オ フ は 利 得 又 は 効 用 を 表 わ す も の とす る。 自然 の 状 態 が 不 確 実 で あ る か ら,意 思 決 定 者 は 期 待 値 関 数

E[%(α,め]=Σ 翅(α,め ρ(κ)

を 考 え る。E[頭o,の]を 最 大 に す る よ う に σ∈月 を 求 め た い が,意 思 決 定 者 は 自 然 の 状 態 κ に 対 して,情 報 シ グ ナ ル ε を 観 察 で き て い る だ け で あ る。 し た が って,S=3と した と きE[妖0,釧3=S]を 最 大 に す る よ う,∂(s)を 求 め る こ と に な る 。S=ε を 観 察 す る に は,情 報 コ ス トo(3)が か か る か ら,最 大 化 す る関 数 は

E['%(∂(3),κ)‑o(3)], o(o)=0,〆(o)>G

で 与 え られ る こ と も あ る 。

ブ ラ ッ ク ウ ェ ル[4]は 情 報 シ グ ナ ル3'よ り も情 報 量 が 多 い こ と を3⊃3'と 書 く と き,統 計 的 充 足 性 の 歪 曲(garbling)概 念(ε)≧3'と 書 く)と 同 値 な こ と を 示 し た 。 即 ち,シ グ ナ ル8と3'か ら作 られ る尤 度 関 数 の 行 列 π;[ρ(31κ)]

と ぜ を マ ル コ フ 行 列Mを 媒 介 に して

、4'=孟 ハ4

3)Demski[5]は 優 れ た 教 科 書 で 翻 訳 もあ る(吉 川 武 男 『情 報 分 析 の 基礎 理 論』 同文

館,1982年)。 前 掲 の 口9],[22ユ も参照 の こと。

(5)

組 織 と情 報 の 経 済 理 論 辱101

と 出 来 る な ら歪 曲 と い う 。

さ ら に3⊃3'と 同 値 な 条 件 と して,各 々 可 能 な 情 報 に 対 して と ら れ る 行 動 を 明 記 した 行 動 関 数 の0‑1行 列D=[4(α1の]と 尤 度 行 列 を 用 い て,

Eκ[Diag(.4∠))]≧Eヱ[Diag(4'∠)')]

と な る こ と を 示 した 。 こ こ で,E、 は 期 待 値 を,Diagは 対 角 要 素 を と る演 算 子 で あ る4}。

ブ ラ ッ ク ウ ェ ル の 定 理 ほ 複 数 の 情 報 評 ス テ ム を 決 定 分 析 か ら順 序 づ け を 行 な っ て い る の で 重 要 な 貢 献 で あ る 。

3.2期 待 効 用 と"反"期 待 効 用 理 論

周 知 の よ う に,期 待 効 用 理 論 は,D.ベ ル ヌ ー イ に よ って 聖 ペ テ ル ス ブ ル グ の 逆 説 を 解 決 す る た め の 工 夫 と して 発 明 さ れ,決 定 理 論 の 最 大 の 武 器 に な って い る。 し か し,最 近,期 待 効 用 理 論 に 対 す る 反 例 や 心 理 実 験 か ら,い わ ゆ る

"反"期 待 効 用 理 論 も 作 ら れ つ つ あ る 。 以 下,こ の 理 論 に つ い て 検 討 し よ う。

今,コ イ ン の 賭 け ゲ ー ム を 考 え る 。 コ イ ン は 公 平 で 表 か 裏 が,1/2の 確 率 で 出 る。 選 択 肢 は 賭 け を す る か し な い か の2種 類 で あ る。 この 賭 け は,一 定 の 費 用oで 行 わ れ,勝 て ば κ 円 を 獲 得 し,負 け て は,費 用oを 払 う だ け で あ る 。 し た が って,ペ イ オ フ 表 は 次 表 の よ う に な る 。 賭 け を す る 期 待 値 は,⊥(κ 一 〇)

2

4)具 体 的 と して,尤 度 行 列 ∠ と ガ を それ ぞ れ,

・一を(ll),」'一 歯(llll)

と す れ ば,ε'は3の 歪 曲 で あ る 。3'に 対 応 す る 決 定 行 列D'を σ 一〔128180

612)

で 与 え れ ば,3に 対 応 す る 決 定 行 列1)が 存 在 し て, Diag11D=Diag∠'1)'

と な る こ と が 確 か め ら れ る 。

(6)

行動状・ 表 裏 ・者(一・)一 者属 賭 けを しな い鵬 値 は 当 然 ・で あ ・・

受 理 κ一〇 〇 した が って賭 け をす る期待 値 が 正の 時,す な わ ち,も う 拒 否00け が コス トの2倍 を超 え る とき賭 け に参 加 す る と い う こ 表 とに な る。 しか し,一 般 に は人 々 は賭 けの 期 待 値 が 負 で あ って も賭 け に参加 し よ う とす るので,期 待 効 用 Σ 伽 伽)で 考 え な けれ ばな らな い 。期 待 効 用 理 論 を使 え ば,賭 けの 行 動 ば か りで な く,保 険 に 入 って 望 ま し くな い事 態 を回 避 しよ う とい う行 動 も正 当 化 で き る。 しか し,1952年,ア レ [1]は 次 の よ うな反 例 を提 出 した。

例 え ば,10万 円単 位 と して,そ れ ぞれ2っ の 賭 け を もつ2種 類 の 決 定 状 況 を 考 え よ う。

状 況1は,次 の 賭 けの ど ち らか を 選 択 す る。賭 け1は,確 率1で1/2,賭 け2 は ・ 確 率 ・・1・で ・静 率 ・・89で1/・ 確 率 …1で ・ 円 も う け ・ ・

状 況2は,次 の 賭 け の ど ち ら か を 選 択 す る 。 賭 け3は,確 率0.11で1/2,確 率 聯 で ・,賭 け ・は ・ 確 率 ・・1で ・ 参 確 率 ・託 ・円 も う け る と い う もの で あ る。

多 くの人 々 は,賭 け1と 賭 け2を 比 較 すれ ば,賭 け1の 方 を2よ り選択 しそ うだ 。 なぜ な ら初 期 に 何 もな い と して,金 持 ち に な る に は,時 間 が か か りそ うだ か ら。

ま た賭 け3と 賭 け4を 比 較 す れ ば 賭 け4を 賭 け3よ り選 択 しそ うだ 。 な ぜ な ら, 配 当の 問 の 大 きな 差 と確 率 の 間 の 小 さな 差 か ら,わ ず か な差 で 大金 持 に な れ そ

うだ か らで あ る。 一 見 疑 う余 地 の な さそ うな この 選 好 の 対 は,期 待 効 用 理 論 に よれ ば,相 容 れ な い。 な ぜ な ら,

鼠 賭 け1)〉 〃(賭け2)よ り

・(診 〉α1・(12‑

2)・ 蝋 麦)・住・1・(・)

よって

α11・(老)〉 ・・1・%(2麦)+…1%(・)

他 方,

(7)

組織 と情報の経済理論 103

π(賭け4)〉 頭 賭 け3)よ り

伽(・ 診 …9・(・)〉 α11・(診 ・ ・ …(・)

・ α ・・〃(・去)+・

「 ・1・(・)〉 α ・1・(診 と な り矛 盾 す る か らで あ る。

ア レの 反 例 は"反"期 待 効 用 理 論 の成 立 を意 味 す るが,さ らに,期 待 効 用 の 基 準 の 背 後 の 仮 定 を 問題 にす る。

第 一 に,期 待 効 用 理 論 は,連 続 性 の よ うな技 術 的仮 定 と同 様,嗜 好 と信 念 の, 独 立 性 を 仮 定 して い る。 嗜好 や信 念 の 独 立 性 と期 待 効 用 を巡 って"反"期 待 効 用 理 論 が 作 られ っ つ あ る。

第二 に,ペ イ オ フ の時 系 列 を含 む 動 学 の 問 題 を考 え る と き,各 期 毎 の 独 立 な 効 用 の和 の 期待 値 を と る が,こ の 独 立 性 を 問題 にす る。 仮 りに,将 来 効 用 の割 引 を考 え るな ら,現 在 世 代 を将 来 世代 に対 して 「差 別 」す る こ とに な らな いか。

第三 に,無 限 期 間 の 導 入 は,収 束,連 続 性 あ る い1さ 性 質 間 の非 両立 性 の 問題 を惹 起 す る。

カ ー ネ マ ンと ッバ ー ス キ[16〕 は心 理 学 的実 験 に よ って,人 々 は危 険 を含 む 選 択 を行 うと き,期 待 効 用 を最 大 化 す るよ うに は行 動 して い な い こ とを示 した。

その 他,選 好 の 逆 転 現 象 や 「フ レー ミン グ」につ い て の最 近 の 報告 も,期 待 効 用 概 念 が 決 して 頑 健 な理 論 的基 礎 で な い こ とを 示 して い る。

3.3情 報 の 価 値 一Radner・Stiglitzの 非 凹 定 理

情 報 は,経 済 的 な 意 思決 定 を行 うさ いの 投 入 財 と み る ことが で き る。 そ の と

き,情 報 の 生 産 力 は定 義 に よ って 非 負 又 は 正 で あ る。 しか し情 報 は,収 穫 逓 減

の 法 則 に 従 うだ ろ うか 。 情 報 の 限 界 生 産 力 は 少 な くと も,少 量 の 情 報 に対 して

厳 密 に正 だ ろ うか 。 もち ろん 情 報 の 測 り方 に 依 存 す るが,こ こで は,実 数 パ ラ

メ ー タで 表 わ さ れ た 情 報 構 造 が,利 用 可 能 で あ る とす る。 パ ラ メ ー タが0に 近

い と き,情 報 は 無 価 値,無 費 用 を 表 わ す とす る。:情報 の価 値 は,情 報構 造 の 正

味価 値 を い い,期 待 効 用 の 最 大 値 と定 義す る。 ラ ドナ ー とス テ ィ グ リッ ツ[25]

(8)

は情 報 の 限界 費用 が厳 密 に 正 の と き,少 量 の情 報 に対 して"負"の 限界 正 味価 値 を と る決 定 問 題 が あ る こ とを 示 した5)。 その 結 果,次 の三 つ の 重要 な帰 結 を 得 た 。

(1)正 の 正味 価値 を もっ 情 報 量 が あれ ば,情 報 価 値 は,情 報量 の 凹 関数 とは な り得 な い。即 ち,あ るパ ラメ ー タの 範 囲 で 情 報 に対 す る収 穫 逓 増 が あ る。

(2)情 報 需 要 は,情 報 価 格 の 連 続 関 数 で はな い。

(3)情 報 は 重 要 な 経 済 活 動 にお いて は,特 化 が ふ つ うに起 るだ ろ う。

以 上 の こ とは,情 報 の 経 済 学 の 研 究 が,通 常 の 財 の 分析 とは か な り異 な った 局 面 に置 か れ て い る こ とを 示 す 。 ラ ドナ ー と ス テ ィ グ リッ ツは,具 体 的 な 応 用 例 と して,線 形予 測 問 題,ポ ー トフ ォ リオ モ デル,一 般 ス ク リー ニ ン グ(人 事 登 用)モ デ ル を,キ ール ス トロ ムは 簡単 な 配 置 問 題 に適 用 し,そ の成 立 を確 認

した 。

しか し,0に 近 い(正 の)近 傍 で の非 凹 性 しか 示 さ れ て いな い こ とは,問 題 と して 残 る。

4.1一 般 的 考 察

4.誘 因 の 経 済 理 論

誘 因(イ ン セ ン テ ィ ブ)は,日 常 生 活 に お い て 様 々 な 形 で 現 わ れ る が,誘 因 は 上 位 と,そ れ に 従 属 的 な,上 位 と は 選 好 の 異 な る下 位 集 団 の 関 係 に お い て, 発 生 す る 状 況 に 限 定 さ れ る6)。

上 位 は,文 脈 に よ って,計 画 者,設 計 者,プ リ ン シ パ ル,政 府 等 で あ り,下 位 集 団 は,社 会 成 員,エ ー ジ ェ ン ト等 と 呼 ば れ る 。

チ ー ム が,上 位 と 下 位 集 団 の 間 に 目 標 の 一 致 を 図 る の に 対 し て,こ こ で は,

5)本 節 はBQyerandKihlstrom編 集 の[25]に よ る 。 な お,RadnerandStiglitz の こ の 論 文 は,CharlottKuhの 問 題 か ら幻 の 論 文 と い わ れ て い た 。

6)誘 因 の 経 済 理 論 に つ い て の 最 近 の 総 合 報 告 は,1980年,フ ラ ンス の 世 界 計 量 経 済 学 会 に 招 待 論 文 と して 提 出 さ れ た2っ の 論 文,Groves[11]とLaffontandMaskiH

[17]が 最 も 重 要 で あ る 。 組 織 内 の 誘 因 問 題 はHolmstr6m、[14],Harrisetal.

[12]で 研 究 さ れ て い る 。..

(9)

組織 と情報の経済理論 105 目標 の不 一 致 を前 提 とす る。 しか し誘 因 問 題 が 起 るた め に は,単 に 目標 の 不 一 致 だ けで は,十 分 で は な い 。下 位 集 団 が 何 を 知 って い るか,何 の 行 動 を して い るか を監 視 しな けれ ば な らな い。 上 位 者 の 目的 関 数 は下 位 集 団 の情 報 や 行 動 に 依 存 して い る。 この よ うな依 存 関 係 の 極 端 な 場 合 と して,も っぱ ら情 報 に依 存 す る場 合 と,も っぱ ら行 動 に依 存 す る2つ の 場 合 が あ る。 前 者,す な わ ち,純 粋 に情 報 に依 存 す る例 と して,資 源 配 分 機構 が あ る。 政 府 当局 は,社 会 厚 生 を 消 費 者 の 選好 と賦 存 状 態 の 関 数 とす る と き,消 費 者 か らこれ らの情 報 を 引 き出 す こ との 問題 が誘 因 の 問 題 で あ る。 後者,す な わ ち純 粋 に行 動 に依 存 す る例 は, 雇 用 者 が,従 業員 の 産 出量 のみ に関 心 が あ る雇 用 者 ・従 業 員 関係 で あ る。 そ こ

で の 誘 因 は,従 業 員 が で き るだ け,一 生 懸 命 働 くか ど うか で あ り,上 位 者 は,層 あ る誘 因方 式 を う ま く選 ぶ こ とに よ って,自 分 の 目 的 を追 求 す る。 こ こで の 誘 因 方 式 とは,前 以 って 下 位 集 団 の情 報 と行 動 を知 る こと に よ って 上 位 者 の 行 動 を定 め るル ール の こ とで あ る。 そ れ は文 脈 に よ って は,投 票 方 式,契 約,メ カ

ニ ズ ム,あ る いは,ゲ ー ム形 式 で あ る。 、

しか しなが ら,こ の誘 因 方式 の選 択 は,通 常,下 位 集 団 の(ペ イオ フ関 連) 情 報 が上 位 者 に先 験 的 に 既 知 で はな か った り,下 位 集 団 の行 動 を完 全 に把 握 し え な い ので 難 しい。

前 者 は,保 険 や 中 古 車 市 場 で の 逆 選 択(adverseselection,逆 選,逆 陶 汰 と も い う)の 問 題 で あ り,後 者 は,道 徳 的 危 険(moralhazard)の 問 題 と して 知 ら れ て い る。

上 位 者 の 誘 因 方 式 の 選 択 は,二 重 の 最 大 化 を もた らす 。 上 位 者 は下 位 集 団 が, 彼 等 自身 の 目的 関 数 を最 大 にす る と い う制 約 の もとで,自 分 の ペ イオ フ を最 大 とす る方 式 を 選 択 す る。 大 抵,下 位 集 団 は この 方 式 に参 加 す る,最 低 の 期 待 ペ イオ フを 保 証 され ね ば な らな い。 その 場 合 に は,上 位 者 に は,下 位 集 団 が これ ら最 低 の 水準 を 獲 得 す る と い う追 加 的 制 約 の 下 で 自 己の 目的 関 数 を 最 大 化 しな けれ ば な らな い。 した が って 上 位 者 は,二 手 番 か らな るゲ ーム の 「 先 導 者 」で あ る。

誘 因 問題 は ゲ ー ム 理 論 で 表 現 され るの で,後 述 の よ うに,交 渉 問 題 と密 接 な

(10)

関 係 が あ る。誘 因 問題 が 難 し くな るの は,下 位 集 団 が,複 数 の下 位 者 か らな る 場 合 で あ る。 そ の場 合 に は,下 位集 団 間 の 「ゲ ー ム 」状 況が,誘 発 され る。上 位 者 は,下 位 集 団 の 「均 衡 」状 態 の下 で 目的 関 数 を最 大 化 しな け れ ばな らな い。 こ の 問 題 に直 面 した と き,解 概 念 は ど うな るだ ろ うか 。これ は 「 均 衡 」の 概 念 規 定 に な る。 下 位 集 団 に 結 托(提 携c・aliti・n)の な い非 協 力行 動 に 限定 して も少 な くと も4っ の 解 概 念 が あ る。

1.支 配 戦 略 2.マ ク シ ミン戦 略 3。 ベ ィ ズ均 衡 4.ナ ッ シュ均 衡

で あ る。 この う ち最 初 の1.と2.は 下 位 集 団 が お互 に他 が持 って いる 情 報 を参 照 す る こ と な しに定 義 され うる もの で あ る。3.は,情 報 パ ラ メ ー タの ベ ク トル θ が 結 合 確 率 分 布 か ら抽 出 さ れ る こと を必 要 とす る もの で あ り,4.は,結 果 的 に完 全 情 報 を仮 定 す る もの で あ る。3.と4.を 一 緒 に したべ ィズ 的 ナ ッシ ュ均 衡 が しば しば使 用 され る が,そ れ は,ゲ ー ム理 論 的 に処 理 しや す い上 に,よ り 現 実 的 で あ るか らで あ ろ う。 これ らの 解概 念 は,特 別 な 誘 因 方式 を 提 案 しな い。

上 記 の 解 概 念 を もと に ラ ンダ ム誘 因 方 式 の 提 案 が あ る。 これ は,上 位 者が 決 定 関 数 と行 動 σを確 率 的 に選 ぶ もの で あ る。確 率 化 に よ って,決 定 関 数1)と 行 動 空 間Rが 凸 集 合 に な る こ と と制 約 集 合 を 凸 集 合 に させ る た め に,最 適 化 戦 略 を 考 え る上 に好 都 合 にな る利 点 は あ るが,首 尾 一 貫 した結 果 を もた らさな い 可 能 性 が あ る。

4.2誘 因 の経 済 学 の 成 立

経 済 学 に お いて誘 因 問 題 が 最 初 に と りあげ られ た の は,ラ ンゲ ・ラ ーナ ーの

「市場 社 会 主 義 」論 争 で あ る。 この 論 争 は,社 会 主 義 体 剃 が,資 源 の 配 分 を効

率 的 に 達 成 す るた め情 報 論 的 に又,経 済 計算 上,莫 大 な コ ス トが か か るか ど う

か に 関 した 。 ま た社 会 主 義 の 特 別 な 手 続 きが与 え られ た と き,そ の社 会 の 構 成

員 は手 続 き通 り行 動 す る誘 因 を もつ か ど うか も付髄 的 に議 論 され た。

(11)

組織 と情報 の経済 理論 107 H.A.サ イ モ ン[27]は,前 述 した よ うに,組 織 論 の精 緻 化 の 過 程 で 雇 用 者 と 従 業 員 の間 に存 在 す る権 限 関係,す な わ ち契 約 関係 は,誘 因 と貢 献 と して 形 式 的 に定 式 化 で き る こと を 示 した。

しか し現 代 経 済 学 の一 大 トピ ック ス とな って い る誘 因 の経 済理 論 は,T.グ ロ ウブ ス[9]の 「チ ー ム にお け る誘 因 」 の 定 式 化 とS.ロ ス[26]の 「プ リ ンシ パ ル ・エ ー ジ ェ ン ト問 題 」の 定式 化 ま で待 た ね ば な らな か った。

グ ロ ウブスは,誘 因 問 題 を一 般 的 に定 式 化 した後,コ ング ロメ レー トと呼 ぶ 機 構 で の 雇 用 者 と従 業 員 の 間 に存 在 す る,報 酬 ル ール の シ ステ ム を考 え た 。また, 資 源 管 理 者 が,複 数 の 企 業 に 資源 を効 率 的 に配 分 す る 問題 に適 用 した。さ ら に公 共 財 の 誘 因 両立 性 の 問 題 も解 明 した。 他 方,ロ ス は企 業 内 部 の経 済 問題 に 限 って,

エ ー ジェ ンシ ー関 係 を論 じた。

経 済 計 画}どお け る誘 因 シ ステ ム の設 計 は,ワ イ ツマ ン[28]や ホル ム ス トロ ム[15]ら に よ って研 究 され て い る。

4.3公 共 財 と 誘 因 問 題

公共 財 は その 便 益 が 多 くの経 済 主 体 に及 び(非 排 除 性),誰 もそ れ を 占有 す る

こ とがで き な い(非 競 合 性)特 徴 を もつ 。 そ れ ゆ え,各 経 済 主 体 は,・自分 の 選

好 を 正 し く表 明 しよ う とす る誘 因 が 失 わ れ,価 格 機 構 は パ レー ト最 適 な 配 分 を

決 定 しな い。 これ は ご く最 近 まで 「た だ乗 り(FreeRider)」 問題 と して 知,られ,

解 決 不 可 能 な問 題 や に論 じ られて き た。 グ ロウ ブ ス と レ ジャ ー ド[10〕は,パ レ

ー ト最 適 水 準 で 公 共 財 を 生 産 し資 金 集 め を す る方 法 を導 入す る こ とに よ って こ

の 信 念 を ひ っ く り返 した 。 彼 らの 方式 は,各 種 の 公 共 財 に対 す る人 々 の 選 好 に

関 して 消 費 者 か ら情 報 を集 め る政 府 を導 入 し,さ らに 公共 財 の 購 入 と そ の 資金

作 りを す るた め に 消 費 者 にか け られ る税 金 の 両 方 を 決 定す るた め に,情 報 を用

い る。 この 「 政 府 」機 構 を(私 的 財 の配 分 に対 して)競 争 市 場 と共 に 採 用 す る

時,そ して 消費 者 が 政 府 に伝 え る情 報 を選 択 す るさ い に 「 競 争 的 な 」 クー ル ノ

ー行 動 に従 うと き,均 衡 はパ レー ト最適 になる。公共財 を含む意思決定 と誘因

の 両 立 性 の 問 題 は,グ リー ンと ラ ッ フ ォ ン[6]に ま とめ られ た が,そ の 後,よ

(12)

り単 純 な 誘 因 方 式 を設 計 しよ う とす る研 究 が な さ れて い る 。 4.4プ リ ン シ パ ル ・エ ー ジ ェ ン トモ デ ル

多 くの組 織 で は,そ れ を 構 成 す る成 員 が 異 な っ た範 囲 の情 報 を持 ち,異 な っ た選 好 を も って 不 確 実 性 下 の 意思 決定 を して い る。組 織 が必 ず し も同質 的 な意 思 決 定 者 の集 団 で はな い こ とを 明 示 的 に定 式 化 した モ デ ルの う ち,簡 単 な分 析 が で き る もの に,プ リ ンシパ ル ・エ ー ジェ ン トモ デ ル 又 は エ ー ジェ ン シー モ デ ル が あ る7)。 組 織 内 部 で は,プ リン シパ ル は,組 織 の長,上 司,所 有 者 が対 応 し,土 一 ジェ ン トは,権 限 を委 譲 され た組 織 の一 般 成 員,部 下,代 理 人 が対 応 す るが,あ るP社 とそ の委 託 を行 うA社 とか,経 済 計 画 者 と企 業 長,地 主 と小 作 人 の よ う に独 立 な組 織 の 関係 と み る こ と もで き る。 以 下,紙 数 の 制 約 上,プ

リ ン シパ ル をP,エ ー ジ ェ ン トをAと 表 わす 。す ると,Aは,Pか ら何 らか の 報 酬 を 受 取 る こ と を期 待 し,努 力(労 力)を 提 供 す る。Pも 又,Aの 一 定 の 努 力 に対 し,報 酬 の 支 払 協 定 の 成 立 を認 め て い る。 しか し,環 境 の 状 態 は不 確 実 で あ るか ら,Pの 利 得 も不 確 実 で あ り,Aの 受 取 る報 酬 も不 確 実 にな る。 その

と き,Pの 期 待 効 用 を最 大 にす る よ うな 最 適 な 契 約 を定 め る こ とが 問 題 で あ る。

Aの 効 用 関数 は報 酬 に基 づ く所 得 ッと努 力 水 準 θの 関 数o(夕,θ)で 表 わ し, Pの 効 用 関数 は 報 酬 支 払 後 の 純 所 得 ッの 関 数%(ッ)で 表 わ す 。Pが あ る一 定 の 利得 を得 た ら,Aに 支 払 う報 酬 は,実 際 に は 交 渉 に よ って 定 め られ るが,「Pが 報酬 計 画 をAに 提 示 した と き,そ れ が あ る最低 水 準 を保 証 す れ ばAは それ に同 意 す る 」 もの と して 定 め られ る と しよ う。 この と き,ど の よ うな報 酬1計画 が定 ま るか を定 式 化 す る こ とが で き る。

い ま,報 酬 計 画 と して7が と られ,Aが 行 動 σを と った とす る と ッ=δ(σ,3) に対 して,PとA,そ れ ぞ れ が 得 る期待 効 用 は,

σ(・,・)一 ∫・[δ(・,・)一 ・(δ(傷 ・))]4・(・)

7)プ リン シパ ル ・エ ー ジ ェ ン トモ デ ル は,上 位 者 ・下 位 集 団 モデ ル とか 本 人 ・代 理 人

モ デ ル と も呼 ば れ て い る。 最 近 の 総 合 報告 と して,谷 内[28]が 有 用 で あ る 。

(13)

組織 と情報の経済理論 109

・(・ ・)一 ∫〃[・(・(琶 ・))]琶 ・(・)

と な る 。 そ の と き,Pに 直 面 す る 問 題 は,

/

駕 ακ7σ(〆,o*)・

3/'9(プ,α*)≧ σ0

8〈7,σ*)≧8〈 〆,o)forα ε■4

(1) (2) (3) で あ る。

こ こで 二 重 の 最 大 化 問 題 が 考 慮 され て い る。 第 一 は(3)で,AはPか ら提 示 され た計 画7か ら得 られ る期 待 効 用 を最 大化 し よ う と行動 して い る 。 も う一 っ は,全 体 の 最 大 化 で あ り,(2)と(3)の 制 約 の も とで 期 待 利得 を最 大化 す る よ う に報酬 計 画7を 選 べ,と い う もの で あ る。

上 の 定式 化 は や や 一般 的 す ぎて,解 が存 在 す るか,一 意 か,能 率 的 な解 法 が あ るか につ いて 明確 に 述 べ る こ とは で きな い。 グ ロ スマ ンとハ ー ト 〔9]は,状 態 空 間3が 有 限 集 合 で,Aの 効 用 関数 が,π(ツ,σ);G(σ)+K(α)ω(ッ)と 分 離 加 法 型 で,%が 凹増 加 関 数,κ(α)>0で,Pが 危 険 中 立 的 か 危 険 回 避 的 な ら ば,解 が存 在 し,線 形制 約下 の 凸 計画 問題 に帰 着 さ れ る こ とを示 した 。 得 られ た 報酬 計 画 の 性 質 と して,良 い成 果 が 出 れ ば高 い報 酬 を支 払 う こ とを 要 求 す る い わ ゆ る単調 性 が 得 られ れ ば よい 。 プ(ッ;σ)をAが 行 動 σ を と った と き の利 得 ・の確 轄 度 関数 とす れ 騨 調 性 が得 られ ・た め に は ∂109奏 ツ;の'が yの 増加 関数 で あ る こ とを必 要 とす る。

プ リン シパ ル ・エ ー ジ ェ ン トモ デ ル の価 値 を判 断す る場 合,こ の よ うな モ デ ル の枠 組 の 拡 張 が ど れだ け の付 加 価 値 を もた らす か に よ って判 断 され ね ば な ら な い。 今 まで この モ デ ル の枠 組 に は種 々 な反 論 が あ る。

1.プ リ ン シパ ル とエ ー ジ ェ ン トの 間 に は完 全 な 目標 の不 一 致 が 前 提 に され

て い る が,実 際 に は それ ほ ど大 き な対 立 点 は な い の で は な いか 。 む しろ,そ の

差 異 をで き るだ け小 さ くす る誘 因 の 方 が大 き い。 欧米 で は,株 主 と経 営 者,雇

用 者 と従 業 員 を 対 立 させ る傾 向 が あ るが,日 本 の 場 合,組 織 で あ る以 上,そ れ

(14)

ほ ど 極 立 っ た 分 離 は な い と い え よ う 。

2.エ ー ジ ェ ン シ ー モ デ ル は,通 常,静 態 的 な 技 術,嗜 好 を 仮 定 して い る 。 そ・

の た め,知 識 や イ ノ ベ ー シ ョ ンの 役 割 は 無 視 さ れ,経 営 環 境 の 変 化 や 学 習 ・習 得 効 果 は な い も の と さ れ て い る 。

3.ま た,交 渉 の プ ロ セ ス の 記 述 が 不 十 分 で あ る8,。

この よ う な モ デ ル の 修 正 は 今 後 の 課 題 で あ ろ う。

4.5ソ 連 型 誘 因 モ デ ル

社 会 主 義 経 済 で の企 業 は,伝 統 的 に計 画 当局 の指 示 の もと に生 産 を行 な い, 結 果 を報 告 し,次 期 の生 産 計 画 を得 て,又 そ れ に応 じて 生 産 を行 な う。 この 方 式 で は,企 業 長 は過 大 な結 果 を報 告 しな い よ う に注 意 す る必 要 が あ る。 なぜ な ら,次 期 に過 大 な 生 産 割 当 を提 示 され る お そ れ が あ るか らで あ る。 した が って,

「 増 産 」 へ の 誘 因 が 欠 け る の で部 分 最 適 化 しか 出来 ず,経 済 の歪 み が 生 じや す い。 ソ連 の新 経 済 改 革(jg71年 の 憲 法)や 最 近 の 中国 経 済 で は,下 部 組 織 の 生 産 者 の 目標 設 定 や 自 由裁 量 を大 幅 に認 め る よ う に な って き た。 これ は社 会 主 義 経 済 が誘 因方 式 を 真 剣 に模 索 して い る こ とを 示 す 。

ワ イ ツマ ン[28]は,新 経 済 改 革 を誘 因 モ デ ル の観 点 か ら極 め て 単 純 化 し, 分 析 して い る。 い ま,計 画 当局 が 計 画 目標gを 提 示 した とす る。 企 業 の 業 績 指 標 はyで あ った。 計 画 当 局 は,現 行 の業 績 を 将 来 の 目標 の 決定 に用 い るの が 普 通 で あ る。 企 業 は ε期 に ボ ーナ ス所 得 う(yrg,)か ら,労 力 の提 供 と環 境 要 因 εか らの不 効 用 コス ト0,(y,,ε,)を 差 引 い た,い わ ゆ る正 味 の 利 潤 を で き るだ け大 き くす る よ うに ア,を 決 め たい。 計 画 目標&が 一 定 で あ れ ば,限 界収 入 と限 界費 用 が一 致 す る よ う に,即 ち,∂=o;(〜 ツず,ε')とな る よ うに 努 を 決 め れ ば よ い。 しか し,前 述 した よ う に,g,は 常 に一 定 で は な く,い わ ゆ る,「 ラチ 8)交 渉@旦 「gaining)と は,情 報,提 案,約 束 な どの 交 換 か らな る コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンの 一 過 程 で あ り,交 渉者 に一 定 の容 認 又 は決 定 ル ー ル が あ る こ とを前 提 にす る。

交 渉 者 間 には 非 対 称 で 不 完 全 な情 報 が あ るの で 誘 因 の 問 題 が 発 生 す る。 ベ イ ズ的 ナ

ッ シ ュ均 衡,完 全 均 衡,ナ ッシ ュ交 渉 解,あ る い は成 就 均 衡 等 の 解 概 念 が 提 案 され

て き た。Myerson[23]を 参 照 の こ と。

(15)

組織 と情 報の経 済理論 111

エ ッ ト(鋸 歯)誘 因 原 理 」 に従 って変 化 す る。 この 原 理 は,現 行 業 績 舞 を も とに

勘+r9ド λ,+1(アr9∂+δ 飼

同 じ こ と だ が,

勘+1=λ 飼 ツ'+(1一 λ,・1)象+δ,.1

の ル ー ル で 割 当 て る もの で あ る 。 こ こ で,δ は 確 率 的 ア ッ プ 率,λ は 調 整 係 数 で0≦ λ≦1で あ る 。 い ま,新 業 績 目標 勘.1は,夕,=g}の と き δf.1だ け ア ッ プ す る こ と を 表 わ し,ッf>象 の 場 合,つ ま り,実 績 が 目 標 を オ ー バ ー し た と 報 告 し た 場 合,そ の オ ー バ ー 分 に 比 例 した も の が ア ッ プ 率 に 加 わ る こ と を 示 し て い る 。 調 整 係 数 の 平 均 値 は 毎 期 一 定 と す る。 割 当 目 標g}と 環 境 変 数 ε,の 関 数 と して 戦 略 変 数y,が 決 ま る 。 ラ チ ェ ッ ト制 約 式 の 下 で,企 業 に と っ て の 総 利 益 の 期 待 値

。 ・1 γ(ω)=明(1+

。)'[殉'一 勘)一 ・'(ア・ ・')]

を最 大 にす るよ うな解 鋳 は 比 較 的容 易 に([28]参 照)得 られ るgす な わ ち, 努 が最 適 業 績 水 準 で あ る必 要 かつ 十 分 条 件 は

・;(%・')「.1/〆 〆 ・・

と な る 時 で あ る 。 特 に,Cピ(ッ,,ε ∂=6(y∂ と 選 べ る な ら ば, o'(〜 ツ彦)=1+λ/ ∂

7

と な る 。 比 較 静 学 分 析 を 行 う こ と に よ り わが 小 さ く な る か,調 整 係 数 λが 大 き く な る か 割 引 率 プが 小 さ く な る な ら ば,〆 は 小 さ く な り 舅 は 小 さ く な る こ と が わ か る。 こ れ は よ り 強 い ラ チ ェ ッ ト効 果 が 作 用 す る こ と を 示 す 。

ワ イ ッ マ ン は 誘 因 方 式 の 設 計 と の 関 連 で 次 の モ デ ル を も提 案 し て い る 。 そ れ

は 次 の3局 面 か ら な る。 第 一 局 面:計 画 者 が 各 企 業 に 仮 の 目 標 πoと 仮 の ボ ー

(16)

ナ ス β を 割 当 て る 。 ま た ボ ー ナ ス と ペ ナ ル テ ィ係 数 α,β,r(0〈 α<β 〈 γ)を 割 当 て る 。 第 二 局 面:各 企 業 は 計 画 目 標 πF(≠ πo)を 選 ぶ 。 企 業 が 実 際 に πFを 生 産 した な ら,計 画 ボ ー ナ ス,君;8+β(πF一 πo)を 受 取 る。 第 三 局 面:企 業 が 現 実 に π4を 生 産 し た ら,次 の 成 功 指 標3(πF,π4)を 基 礎 に 報 酬 を 受 取 る 。

・ 僻)一{餌:1二 鴇 ifπ4》 πF

else

しか し ワイ ツ マ ンの 成 功 指標 は,操 作 的 に も情 報 的 に も最 適 で は な い こ とが 指摘 され て い る。

4.6報 酬 理 論 と 誘 因

本 節 は,報 酬(compensation)が 誘 因 方 式 と密 接 に関 係 して 決 め られ て い る こ とを理 論 化 した,い わ ゆ る 「 報 酬 理 論 」 につ い ての 要約 で あ る91。

競 争 的 市 場 で の 生 産 要素 の報 酬 は伝 統 的 に絶 対 的業 績 で 測 られ て き た が,現 実 に はむ しろ他 との 相 対 的 な業 績 で測 られ て い る。 例 えば,各 種 の 競 技 会 での 等 級 や 労 働市 場 で の 年 功 序 列 賃 金 は相 対 的 な 評 価 に よ って い る。絶 対 的 な 業 績 を正 確 に測 る こ と は極 めて 高 価 に な る。 最 近,幾 つ か の 論 文 が 相 対 的 な 産 出量 に基 づ いた 報酬 は,個 別 の 絶 対 的 な 産 出 量 に基 づ い た支 払 いよ り も優 れ て い る ことを 示 した。 労 働 者 の 労 力 の 投 入 や経 営 者 の 努 力 は直接,コ ス トを か けず に は観 察 しえ な い 。 企 業 は,出 来 高 給 の 例 にみ られ る よ うに,投 入物 の 動 き を監 視 した り,報 酬 構 造 を 工 夫 しな けれ ば な らち い。

ス テ ィ グ リッツ らは,ど ん な 報 酬構 造 も危 険(不 確 実 性),誘 因水 準 お よび 柔 軟 性 の3つ を考 慮 す べ きで あ る と定式 化 した 。 こ こで,柔 軟性 とは あ る状 態 で

「正 しい 」誘 因 報 酬 方 式 な ら別 の 状態 で は一 般 に 正 し くな い が,環 境 変 数 の 各 集 合 に対 し異 な った 誘 因構 造 を もち う る とい う こ とで あ る。 出来 高 方 式 は 柔 軟

9)本 節 は,先 駆 的 な 論 文 で あ る,LazearandRosen[18コ,NalebuffandStiglitz

[24]お よ びGreenandStokey[7]に 基 礎 を お い て い る 。

(17)

組織 と情 報の経済理 論 113 性 に 乏 しい 。 誘 因 水 準 は 賞 与 付 き の コ ン テ ス トや ラ ン ク順 トー ナ メ ン ト方 式 あ

る い は ペ ナ ル テ ィ 方 式 の 強 弱 を い い,報 酬 理 論 の 中 核 を な す 。

い ま,エ ー ジ ェ ン トを 添 字 疹で 表 わ し,努 力(労 力)μ̀と 共 通 な 環 境 変 数 を θ, 確 率 的 撹 乱 項 εゴ と し,こ れ ら か ら報 酬(2,が 決 定 さ れ る 報 酬 モ デ ル を

Q∫=Q(μ ご,θ,εf)

で 表 わ す 。Qの 具 体 的 な 関 数 と して,ス テ ィ グ リ ッ ツ ら は,

Qゴ=μ ゴθ+ε ゴ,

グ リ ー ン と ス ト ー キ ー は,

Q̀=μ ∫θ+ὲ+α+μfη ゴ,

レ イ ジ ア と ロ ー ゼ ン は

Qf=μ 」十 εゴ

と して,ε ゴ,μ̀に 仮 定 を お いて 報 酬方 式 を分 析 して い る。 そ の結 果,レ イ'ジア は,労 働 者 が危 険 中 立 的 な らば 等 級 に基 づ く賃 金 は 個 人 の 産 出 量水 準 に 基 づ く 誘 因報 酬 と 同一 の 効 率 的 な 資 源 配 分 を もた らす が,危 険 回 避 的 な ら等 級 を 基礎 に支 払 わ れ る こ と を 好 む 。 又,労 働 者 が 能 力 に お い て異 質 な らば,低 品 質 の労 働 は高 品 質 の 企 業 を 「汚 染 」 す る傾 向が あ り逆 選 択 を もた らす 。 しか し,能 力 が 前 以 って 既 知 な らば,競 争 的 なハ ンデ ィ キ ャ ップ の あ る構 造 が存 在 し,す べ て の 労 働 者 は同 一 の組 織 に お い て効 率 的 に競 争 す る こと が で き る こと を 示 した。

グ リー ン らは,ト ー ナ メ ン トを含 む相 対 的 業 績 方 式 は一 般 に 「 最 適 な 」契 約 で は な い。 しか し,ト ー ナ メ ン ト方 式 の メ リ ッ トは計 算 の容 易 さ(産 出 水準 を 測 る よ り も エ ー ジェ ン トの ラ ンク付 け を決 め る さ い の情 報 の少 な さ)と,エ ー ジ ェ ン ト数 が 十 分 に大 きい と情 報 の 損 失 に基 づ く非 効 率 性 は無 視 しう る の で有 効 で あ る と して い る。

いず れ も誘 因 方 式 と して賞 金 や トーナ メ ン トの 有 効 性 を提 案 して い る が,経

(18)

済 主 体 間 で 歪 ん だ 情 報 や 行 為 が 人 為 的 に 作 り 出 され る可能 性 を排 除 しな い。

5.結 語 的 覚 書

組 織 と情 報 の 経 済 理 論 は 比 較 的 よ く研 究 され 蓄積 が あ る が,そ の 定 式 化 の 難 しさか ら依 然 と して粗 い枠 組 の 上 で 議 論 され て い る。

どん な組 織 に お いて も誘 因(刺 激 ・イ ンセ ンテ ィ ブ)が な けれ ば ポ ジテ ィ ブ に機 能 しな い 。 家 計,企 業,政 府等 の経 済組 織 か らク ラ ブや チ ー ム に至 るま で 一 定 の誘 因 の存 在 の も と に経 済 活動 が 営 ま れ て い る。 誘 因 は,組 織の構成員 の 行動 と情 報 量 の違 い に よ って発 生 し,組 織 の複 雑 な決 定問 題 と して 定 式 化 さ れ る。 誘 因 シス テ 為 の設 計 は 不確 実 性 下 の 決 定 分析,ゲ ー ム理 論,組 織 理 論,統 計 的決 定 理 論 等 の 応用 に よ って な され て きた が,誘 因 両立 を保 証 す る た め に は な お境 界 領 域 を拡 大 しつ つ あ る。 誘 因 を媒 介 と した組 織 と情 報 の 経 済 理 論 は 内 画 的 に充 実 して い るが,今 日な お未 解 決 の基 礎 的 問題 が あ る。 それ らは情 報 量 の尺 度,情 報 費 用,報 酬,期 待 効 用,学 習 習得 効 果,構 成 員 の 参 加 と退 職 に よ

る組 織 の 変化 の 問 題 で あ る。

付 録1.ス タ ン フ ォー ド大学 にお け る

「組 織 と情 報 の経 済 学 」 講 義 内容

以 下 は,ユ978年,1981〜]982年 ス タ ン フ ォ ー ド大 学 に 滞 在 し た 時 入 手 した 講 義 要 目 で あ る 。 こ の 学 科 目 は,毎 年 一 学 期 開 講 さ れ,週2回(火 曜 日 と 木 曜 日) 9時 か ら1ユ時 ま で 途 中 ユ0分 間 の 休 憩 を は さ ん で 行 わ れ る。 受 講 者 は,客 員 研 究 員 や 経 済 学 科 の フ ァ カ ル テ イ を 含 め て,1981年 約25名,1982年 約40名 だ っ た 。 受 講 を 許 可 さ れ,種 々 助 言 と 教 授 を 頂 い たK.ア ロ ウ 教 授 に 感 謝 し た い 。

1,T.Groves(1977!1978)「 経 済 学282」

1.イ ン ト ロ ダ ク シ ョ ン II.チ ー ム

A.一 般 モ デ ル

B.チ ー ム の 経 済 モ デ ル の い く っ か

(19)

'組織 と情 報

の 経 済理 論

III.組 織 に お け る情 報 と誘 因

A B C D E

チ ー ム

企 業 組 合(シ ン ジ ケ ー ト団) エ ー ジ ェ ン シ ー

分 作 小 作 制 そ の 他 の モ デ ル IV.ス ク リ ー ニ ン グ の 理 論

A.逆 選 択 と 道 徳 的 危 険 B.シ グ ナ リ ン グ C.応 用:保 険 と 信 用 V.探 索 理 論

2,K.Arrow(1981!1982)「 経 済 学282/OR363」

1.情 報 と 不 確 実 性 下 の 個 人 の 意 志 決 定 A.情 報,シ グ ナ ル,最 適 な 意 志 決 定 B.情 報 構 造 の 比 較

C.シ ャ ノ ンの 情 報 の 尺 度 と そ の 解 釈(1982年 削 除) D.情 報 の 価 値 と 情 報 の 需 要

II.チ ー ム の 理 論,決 定 と 組 織 A.展 望 と 定 義

B.最 良 決 定 関 数 C.二 次 ペ イ オ フ 関 数

D.チ ー ム 問 題 と し て の 資 源 の 配 分 E.チ ー ム と ゲ ー ム に お け る情 報 の 価 値 皿.情 報 と 市 場

A.基 礎 的 な 方 向 づ け B.シ グ ナ リ ン グ 均 衡 C,合 理 的 期 待 均 衡

D.差 別 情 報 を も つ 競 争 均 衡 の 実 現 可 能 性

115

(20)

116 商.学 討 究 第35巻 第4号

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東京大学 大学院情報理工学系研究科 数理情報学専攻. [email protected]

(回答受付期間) 2020年 11月 25日(水)~2021年 1月