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ブランドに投影される自己

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Academic year: 2021

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ブランドに投影される自己

:スポーツ関連ブランドを事例とした探索的分析

柴 田    典 子

1. はじめに−問題意識と研究目的−

 こんな話がある。ある大学の授業で、物凄い数のピアスをつけ、豹柄の服に 革パンツ、脱色を重ねたメッシュの銀髪、持ち物も派手な女子大学生が、教室 の前のほうに座った。「きっとバンドでもやっているんだろう」「性格も派手で 個性的なんだろうな」「授業もちゃんと聞くはずないなぁ ・・・」と、その授業 の担当教員は想像していた。

 しかし、授業中に堂々と寝たりノートもとらなかったりという学生が多い中、

その女子学生は毎回きちんと授業に出席し、一生懸命ノートをとり、講義をしっ かり聴いている。試験の成績も履修者全体で一番良く、解答からはしっかり勉 強した様子が分かる。

 おそらく、この学生は、自分の服装や持ち物、髪型に対して、自分なりの考 えを持っているに違いない。果たして、どんな自分を表そうとしているのだろ うか。

 何かを買う時、これは自分っぽいとか、あれは自分らしくないという選び方 もする。その対象となるブランドには、一体どのような「自分」が映し出され ているのだろうか。自分が選んだそのブランドを通して、どのような自分の姿 を表現しているのだろうか。それは現実の自分なのか、理想とする自分なのか。

 人は、自分に関する何らかのサインやシンボルを表出する。自分のユニーク

さ(独自性)が所有物の選択を通して表現されることが見いだされているし ( 岡

本 1988)、化粧、服装、装飾品といった相対的に視認性が高いものは、非言

語的コミュニケーションのチャネルのひとつとして位置づけられている ( 大坊 

(2)

1986)。つまり、消費の対象となる商品やブランドを通して、自分自身につい て何らかのメッセージを反映するサインやシンボルが表出されることが、社会 心理学の領域における研究でも示唆されている。また、所有物などを用いて、

既に有している自己概念に整合するサインやシンボルを表出することは、自己 概念を確証、確認できるような社会現実を実際の環境と自分自身の心の中に創 り出す行動であるとされている (Swann 1983,1985)。ゆえに、消費者にとっ て自己関連性の高い商品ジャンルやブランドといった所有物とは、非言語コ ミュニケーションのチャネルなのである。

 消費者行動研究においても、自己概念は消費者行動を操作する重要な変数の ひとつとして捉えられている。したがって、どのように自己概念が消費者行動 を操作し、どのように影響を与えるのかということや、ブランドと自己概念に 関連がある場合、それが消費者のどのような自己を表しているのかを把握する ことが必要とされているのである

1

 そこで本研究では、自己表現の手段となる「ブランド」に焦点をあて、当該 ブランドを用いる消費者のどのような自己概念が映し出されているのかを検討 することを目的とする。そのために、まず、ブランドに自己概念が投影される とはどういうことかを考察した上で、機能的な側面のみならず顕著なシンボ リックな側面も併せ持つスポーツ関連ブランドを対象として、自記式調査にお いて消費者が語った自己概念の内容をもとに、ブランドに投影される具体的な 自己の内容とその特徴について、探索的な分析を行い検討する。

2. 自己概念を映し出すブランド 

 ブランドは消費者の自己を表現し得る存在である。ブランドがある種の象徴 性を持っていることは誰しも経験から感じているところであろうが、従来から 研究されている財の象徴性に関する知見や象徴的相互作用理論

2

、所有物の意

1

   1980 年代までは研究対象がブランド選択に限定されがちであったが、近年では所有・廃棄にまで

視野は広げられ、消費者の行動に大きく影響する自己概念を維持・形成するために、どのように

消費者が製品やブランドを用いるのか議論されるようになってきている (Walker and Olson 

1997)。

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味の議論からそれを論証することができる。

 Simmel(1978) は、所有物とは媒介であり、それはある人の特性が有形の実 体を得ることだとしており、Rochberg-Halton (1984),Belk(1988) は、所有物 を自己の表象と述べている。心理学史上有名なジンバルドーの監獄実験でも、

監守の服と囚人服という衣服や装身具が社会的役割の象徴となって、自己同 一性の道具(自分を表示したり代弁してくれる小道具類)になっている ( 神山  1995)。

 岡本 (1991) の研究では、購買の対象となる物質的実体のある全ての所有物

3

が、自己概念の形成に用いられる属性、つまり自己関連属性としての機能を果 たしており、自己概念を反映する属性だと考えることが可能であることを見い だしている。ブランドとは、まさしく消費者の所有物であり、ゆえに消費者の 自己概念に実態を与える媒介物であり、自己概念をあらわし得るものであるこ とが示唆されている。

 象徴的相互作用理論は、解釈され意味づけられた象徴的なものを通した、自 己概念の発達における社会的相互作用の重要性を強調している。自己概念は、

社会化の過程を通じ、内的に矛盾することなく修正、変化していくことを一生 継続するものである (Kaiser 1985)。他方で、個人が好ましいとする消費スタ イルや消費の対象となり得るブランドも、個人のライフスタイルやライフス テージなどの変化に加え、個人を取り巻く社会的環境の変化(たとえば世間の 潮流)にともなって変化していく。社会的に好ましいとされるブランドもまた 変化していく。したがって、個人が使用したり所有したりするブランドは、社 会的に解釈されたり意味づけられたり、個人によって特有の意味が付与された りした象徴的なものであり、社会的相互作用を通して個人の自己概念と関連す ることになるといえるだろう。

 また、Kaiser(1985) によれば、個人の自己概念を発達させたり、それを修正

2

  個々人の間で社会的行動がやりとりされる事態を一般的に社会的相互作用 (social interaction) と呼 ぶ。解釈され意味づけられたシンボル的なものを媒介にして生起することもある。そのような意味 のやりとりを通して行われる相互作用が象徴的相互作用と呼ばれる ( 神山 1995)。

  岡本 (1991) は、サービスなどの物質財以外の財も購買の対象となり、独自性欲求と関連するもの

もあり得ることを考慮した上で、考察の対象を物質財に絞り「持ち物」という用語を使用している。

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したりするために用いられる情報源の多くは元来社会的なものであって、そこ には社会的フィードバックや社会的比較のような過程が含まれているという。

自 己 表 現 行 為

4

はまさに自己概念・自己知識の情報源であるといえ ( 遠藤  1998)、社会的相互作用により自己概念を形成・維持・発達あるいは修正して いくものである。

 Swann(1983,1985) でも、自己確証過程において、自己に関する他者からの フィードバックでもたらされる情報を処理する過程では、①自己概念を確認す る情報に多くの注意を向ける傾向にあること、②その種の情報をよく記憶する 傾向があること、③自己概念を確認するような方法でその情報の妥当性や重要 性を評価する傾向にあることが仮定されている。つまり、ブランドという存在 は、自己概念の形成・維持する機能を持つし、自己表現という形態によって内 外へと自己概念を映し出す手段だといえるのである。

 もちろん、自己表現に用いられるブランドは、その消費者が何らかの意味を 感じている自己関連性が高いものに限られるだろう。Malhotra(1987) が、全 ての製品が自己を描写する物としてみなされるわけではないだろうと推察して いるように、モノが自己を表出し、自己概念の維持・強化に寄与するには、消 費者と対象物とが意味のある形でつながりを持っている必要がある。たとえば、

Sartre(1953,1966) と Belk(1988) は、①個人が、個人的使用のためにその対象 物を占有したりコントロールしたりするとき、②対象物がその所有者によって 造られたとき、③個人が、その対象物についての詳しい知識を得たときに、当 該 対 象 物 は 自 己 の 一 部 と な り 得 る と い う 見 解 を 示 し て い る。 さ ら に、

McCracken(1986,1989) は、新たに獲得した対象物を洗ったり、色々な方法で それを個人化 (personalizing) あるいはカスタマイジングしたり、陳列の仕方を アレンジするといったような儀礼によって、所有物の意味が消費者に取り込ま れていくと論じている

5

。このような深いつながりが生じたものこそ自己を表 出する手段となる。

4

  遠藤 (1998) では、自己呈示という用語が用いられているが、ここでは一般的に意味が通るよう自 己表現行為という言葉を用いた。

5

  さらには、消費者と所有物間で意味の転移が生じる。

(5)

 消費者行動論の領域における Richins(1994a,1994b) の研究も同様に、所有 物 が そ れ を 所 有 す る 個 人 の 特 性 を あ ら わ す こ と に つ い て 言 及 し て い る。

Richins(1994a) においては所有物の意味について検討され、それを公的意味と 私的意味とに区分している

6

。つまり、ブランドが持つ広く社会によって共有 された公的意味があるからこそ、消費者は他者へ対する自己表現のためにブラ ンドを用いるし、ブランドに対して消費者個人が特有に持っている私的意味の 存在ゆえに自己概念が具現化あるいは特徴づくのである。

 このような意味を有したブランドが、自己表現の手段となり得る。それは、

自分にとって重要なブランド、愛着のあるブランドというように言い換えるこ とができるかもしれない。

 とりわけ、マーケティングないし消費者行動研究の領域では、上記の「所有 物」以上にその所有性と意味づけが強いと考えられる「ブランド」の観点から、

自己表現機能を論ずることが多い。

 たとえば田中 (1997) によると、従来、マーケティングにおけるブランド研 究では、ブランドの基本的機能として機能的便益、情緒的便益を挙げることが 一般であったが、Aaker(1996) のブランド・アイデンティティの提唱以後、ブ ランドの自己表現機能に注目が集まってきたことが指摘されている。自己表現 的機能をブランドが有することは、長期的に見たブランド−消費者間の関係性 を構築し、成長・維持ないし促進させるためには不可欠であるので、「ブラン ドが持つ本質的な関係創出について重要な視点を提供していると言ってもよ い」( 田中 1997,75 頁 )

7

 この観点でのブランドに注目し、その自己表現的機能に対する研究が進めら れている。多くの既存研究で、ブランドは自己の表現とその確認に使用される ことが指摘され ( たとえば、Aaker 1997; Escalas and Bettmann 2005; Berger 

6

 公的意味とは、広く社会によって共有されるある対象物の主観的意味であり、所有物が他者に対し て有する意味を示す。私的意味とは、ある対象物の公的意味に加えて対象物と所有者の個人的経験 から派生する特有の意味が含まれた、対象物の所有や相互作用から生じる個人の主観的意味の総計 のことである。公的意味にもとづき消費者は自己の様相を伝達するために所有物を積極的に用い、

私的意味の発達によって個人的価値や自己が具体化したり特徴付けられたりすることになると指 摘されている。ブランドを使用・所有することにおいても、これと同様のことが言えるだろう。

7

 田中 (1997)、75 頁、22 行目。

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and Heath 2007)、さらに、自己表現を通した結果と考えられる、当該ブラン ドと自己の結びつきの強さに関する研究にも及んでいる ( たとえば Fournier  1998; Aaker, Fournier, and Brasel 2004)

8

 一般に、ブランド研究において自己表現を取り扱った研究では、ブランド・

パーソナリティと消費者の自己との一致度に対する説明が多い(たとえば、

Malär, Krohmer, Hoyer, and Nyff enegger 2011)。しかしながら、本研究の立場 は異なる。というのも、ブランド・パーソナリティを仮定する根拠に対する基 礎研究が不十分と考えられるからである。

 ブランド・パーソナリティ (J.Aaker 1997)  は、ブランド・イメージの総体 を擬人化した概念である。ブランド・イメージとは、企業が意図としたブラン ドのあるべき姿であるブランド・アイデンティティ実現のためのマーケティン グ活動の結果である。したがって、入力値となるブランド戦略と、その結果で ある、ブランドへの消費者の捉え方という観点は同じである。しかしながら、

本研究はよりミクロな視点に立つ。より根源的にブランドが有する自己表現機 能を探ろうという試みである。

 以下に、消費者の自己表現手段となるブランドに投影される、具体的な自己 概念を、実証的に論じよう。

3. スポーツ関連ブランドに投影される自己  

 本研究の目的である、自己表現の手段となるブランドに、それを用いる消費 者のどのような自己概念が映し出されているのかをここでは探る。そこで、自 記式調査をもとに、主にテキストデータを用いてその内容分析を試みる。その ために、①自己概念の測定方法について検討した上で、②スポーツ関連ブラン ドを対象に設定し、スポーツ関連ブランドに投影される自己の内容について、

探索的な調査・分析を行おう。

8 さらに、Chernev, Hamilton, and Gal(2011) のように、自己表現欲求の限界を仮定し、当該ブラン

ドの自己表現機能の限界を論じた先行的な研究もある。ただし、筆者は、単一ブランドの自己表現

機能の限界の存在可能性は認めるが、「複数」ブランドを通しての自己表現欲求には限界はないと

いう立場である。

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3.1 20 答法を用いた自己概念の把握

3.1.1 自己概念の内容測定方法  

 自己概念の捉え方については、心理学研究において様々な測定方法が開発さ れてきた。それには、大別して、標準化された尺度を用いる方法

9

と、被験者 の自由記述に任せる方法とがある ( 辻 1993)。前者の場合、ある程度簡単に実 施でき、数値として表すことができるという長所を持っている。しかしながら、

質問内容があらかじめ質問者によって作成されているため、被験者は自分では あまり関心がなかったり考えたことがなかったりする点についても答えなけれ ばならないという短所もあり、自分が考えている事柄については質問が設定さ れていないという場合も生じてくる ( 遠藤 1998)。自己概念とは自分自身によ る自分の定義であるにも関わらず、自分以外の人間の観点で答えが収集されて しまい、その結果、本人の考えている内容とズレが生じてしまう危険性がある のだ。したがって、被験者の自由記述に任せる方法を採用する。

 自己概念をなるべく生きたかたちでそのまま理解するためには、自発的自己 概念 (spontaneous self-concept) を捉える必要があると McGuire(1984) は論じ ている。そして、「あなたは自分をどのような人間であると考えていますか」

と尋ね、あとは自分自身の言葉で伝えさせる方法を作り出し、自己概念には多 様な内容が含まれており、パーソナリティのみに限定されないことを明らかに している。自発的自己概念を引き出すことによって、枠組みに限定されすぎな い幅広い自己概念を捉えることができるといえるだろう。

 同類の方法として、Bugental and Zelen(1950) が考案した「あなたは誰で す か (Who Are You?:WAY)」 と い う テ ス ト、Kuhn and McPartland(1954)

9

  自己概念の測定に関して、辻 (1993) は、自己概念はあまりにも多岐にわたっており、膨大な質問

をしてもなお全体をカバーすることはできないので、自己概念の全体をおおうような標準尺度を作

成することは実際には不可能に近いこと、また、自己概念の中核は人によって異なっているのが普

通であるため、自己概念の全体をおおうだけでなく、ウェイトを考慮した評価が必要だが、そのよ

うな尺度はあまりにも煩雑で実用性を持たなくなることを指摘している。

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が 始 め た「 私 は 誰 で し ょ う か (Who I am?)」 と 質 問 す る 20 答 法 (Twenty  Statements Test:T.S.T) などがある。星野 (1986,1989) によれば、20 答法は、

人間の自己に対する意識や態度を知るのに有用な資料を得るための最も簡単な 手続きであるとされる。

3.1.2  20 答法について

 20 答法は、広く心理学者によって使用されており、その結果が多くの学会 発表や論文、カウンセリングにおける来談者理解や構成的エンカウンターグ ループメンバーの自己理解と成長のため、その他、学生の自己概念や自己理解 の導入作業として利用されている査定法である ( 星野 2000)。「私は誰でしょ うか (Who am I?)」というひとつの質問に対して 20 通りの異なった回答を書 いてもらう形式で、回答の自発性と多様性を保証しようとする。こうした方法 は、特定の枠組みが与えられることがなく自由に記述することができるという 意味において、自己概念をそのままのかたちで捉えやすいという利点がある。

もちろん、自己について表に出しやすい面と出しにくい面があるという点で、

濃淡ないし歪みは覚悟しなくてはならない ( 梶田 1988)。回答の内容を被験者 の自由裁量に委ねることで枠づけが少なくなり、その人が自分を位置づけてい る社会的文脈を、個人的文脈と一緒に知ることができる可能性が高いことから、

ミニ自叙伝とも言われている ( 星野 1986)。この査定法を用いた研究の中の多 くは、各々工夫を加えて質問、回答の分類法のバリエーションを生み出してい るが、20 答法の創始者である Kuhn and McPartland(1954) による実施手続き と教示は、以下の通りである。

 まず、被験者に対して、調査目的を述べた上で、「これから配る用紙に書い てあることを各自が読んだ上で回答して下さい」と言い、図1のような教示と 空欄が記されている調査用紙を配布し、記入してもらう。教示は簡略化され、 「あ なた自身について 20 通りの文章を、いずれも「私は」ということばで始めて 書いて下さい」とされることが多い。

 20 答法の標準的手続きは、「私は誰でしょうか」という問いに対して、20

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通りの異なった回答をしてもらうことであるが、その問いを「あなたは誰です か」「私はどんな人間でしょう」「人々は私を誰だと思っているだろう」と変化 させて聞いてみることもできる。

 回答数は 20 であるが、そこに理論的必然性はない。3 答法を用いている研 究もあるが、星野 (1986) によれば、3 答や 5 答では、自己意識・態度の多面 性はほとんど知るべくもなく、少なくとも思いつく上での困難のない 10 答は 書かなければ被験者独自の特徴を知ることは難しい。20 答ならば、すぐに言 語化できる項目に加えて、自分自身に問いかけてはじめて出てくる項目を含ま せることができる。そして、20 答は、それを書くのに要する時間からも絶妙 な長さであるとされている。

 回答の分類、分析については、こうでなければならないという方法や枠組 みがあるわけではなく、多くの方法が提案されているが ( たとえば Kuhn and  McPartland 1954;  古沢・星野 1962; Gordon 1968;  辻 1993; 遠藤 1998)、本 研究ではより包括的な分類の枠組みを提供する梶田 (1980) に従って分析を試

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図 1.20 答法の回答用紙 (Kuhn and McPartland 1954)

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みた。

 梶田 (1980) は、何回かの改訂を重ねながら、回答を整理し分類する枠組み として、「自己の現状についての規定と感情」「他者から見られていると思う自 己イメージ」「自己の可能性の領域についてのイメージ」「過去の自己について のイメージ」「自己の未来についてのイメージ」「自己についての志向・理想」

というように、自己把握の主要様式を考案している(表 1)。これらは、自分 自身を意識し概念化する際の基本的フォルムであるという。

4. ブランドに投影される自己の分析概要

 この分析に用いるデータは、 「消費者としての自分に関する自己分析」として、

横浜市立大学の大学生 148 名(男性 89 名、女性 59 名 ; 男女比 :60.1% :39.9%)

から 2004 年 7 〜 8 月にかけて回収した自記式のレポートの一部である

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表1. 自己把握(自己意識・自己概念)の主要様式 (梶田 1980、84 頁)

10    

  同様の調査を 2004 年から 2009 年、2011 年において実施しているが探索的分析として適当な

サンプル数であった 2004 年度のデータを用いた。

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 そのレポート内容は、1) 自分にとって重要なブランド、愛用しているブラ ンド、自分にとって何かしらの意味で関わりが深いと思うブランドとその製品 ジャンルをひとつ明記してもらう、2) 自分が 1) でとりあげたブランドが自己 表現的な用いられ方をしているかどうかを判断するためにそれが自分にとって いかなる存在か、どのような意味を持っているかを詳しく記述してもらう、3) そのブランドに投影されている、あるいはしたいと思う自分を最大 20 個書い てもらう(20 答法)、というものであり、そのうちの 3) を分析対象とした。

 3) は、ブランドに投影される自己概念の内容を把握することを目的とした ものであり、前章で述べた 20 答法を応用したものである。ただし、心理学の 分野で行われる 20 答法と異なり、この調査により抽出される自己は、被験者 の全般的な自己概念ではなく、あくまでも「自分にとって何らかの意味で重要 なブランドに投影されている自己」に限定される。

 この調査では、「あなたはそのブランドに、どんな自分が投影されている、

あるいは投影したいと思いますか?下記のように、20 項目記述して下さい」

と教示し、 「私は」で始めるように指定した上でいくつかの例を示した(図 2)。

回答の時間制限は設けていない

11

。また、制限なく自由に自発的自己概念を把 握するために語尾も指定しなかった。そのため、「です・ます」調や「ある・だ」

調、その他「〜でありたい」など回答の形式は様々である。なお、20 答を求 めてもどうしても 20 の回答が思い浮かばない被験者もいる。無理に 20 の回 答を求めても本当は考えてもいない回答を引き出してしまうことになると考え たため、「20 項目にどうしても達しなかったら、「ここで限界です」と書いて ください。」という教示を加えた。その結果、自発的自己概念の平均回答数は 19.2 答(最大 20、最小 8)であった。

11    

 20 答法において、10 分、15 分と時間制限を設けている既存研究もあるが、星野 (1989) は、せ

かされて書くのでは自由が著しく制限され、時間切れで不完全なまま提出しなければなるので 適当ではないと指摘している。本調査でも、回答時間を検討する分析を行う必要がなかったため、

不完全なままの回答を防ぐためにあえて時間制限をしていない。

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4.1 ①分析対象ジャンルの検討

 この調査は、ブランドにどのような具体的自己が投影されるかを把握するこ とを第一の目的としているが、この結果から、消費者が自己表現に用いやすい 製品ジャンル、ブランドとその特徴を探ることも大きな意味を持っている。

 148 名の被験者は、様々な製品ジャンルに渡るブランドを、自分にとって 何かしらの意味がある重要なブランドとしてとりあげた。分析において、どの ような自己概念が投影されているかを個別のブランドごとに分析し、それを把 握することは非常に興味深く、実務的にも有用であろう。しかしながら、今回 はブランドを限定しての調査ではなく、重要なブランドとしてどのようなブラ ンドがとりあげられる傾向にあるのか、何の製品ジャンルが多いのか、という ことを含めて基礎的な調査・検討することが本調査の目的のひとつでもある。

また、全ての製品ジャンルをそれぞれ分析し、比較検討することも望まれるが、

今回のテキストデータは膨大であり、テキスト・マイニングソフトを利用して もその処理は煩雑となる。そのため時間的コストの問題から分析対象とするサ ンプル数を制限せざるを得なかった。したがって、製品ジャンルを絞った上で、

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図 2.ブランドに投影される自己の調査用紙の例

(13)

手作業でブランドに投影される自己を梶田 (1980)に従い分類・分析した。

 まず、分析対象とする製品ジャンルを絞るために、製品ジャンルの分類を実 施した。しかしながら、被験者によって製品ジャンルの表記は様々であり、た とえば同じビールのブランドをとりあげても製品ジャンルは「ビール」、「アル コール」、「飲料」、「食品」と異なっていた。製品ジャンルの分類をどのように 行うか、その基準はどうするか、ということは重要な問題であるが、それは調査・

分析の目的に依存するものであろう。また、自分にとって何らかの意味がある ブランドは、必ずしもひとつのジャンルに限定されるものではない。実際、多 くの被験者がひとつのブランドにおいて「ファッション全般」とか、 「服、財布、

ポーチなど」というようにジャンルをまたがっていた。したがって、本研究で は、なるべく広くジャンルを設定し分類を行った。主な製品ジャンルとそこに 含まれるものは、以下の通りである。

◆ファッション関連

…衣服、アクセサリー、鞄、靴、腕時計、ポーチやハンカチなどの小物、財布、

また、これらやその他ジャンルのアイテムを含むような横断的な場合。

◆食品

…製菓、清涼飲料、アルコール等、健康食品以外の食べ物。

◆コスメ関連

…スキンケア、ヘアケア、ボディケア、メイクアップ、ネイルケア、バス グッズ、香水を含む。

◆電化製品

  …PC やゲーム機器、携帯電話、家電全般を含む。

◆スポーツ用品

  …スポーツで用いられる衣類、用具の全てを含む。

◆乗り物

  …自動車、バイク、航空機など乗り物全般。

◆生活雑貨

  …インテリア小物やキッチンアイテムを含む。

(14)

◆飲食店

  …コーヒーショップ、ファミレス、ファストフードを含む。

◆ヘルスケア・コスメ

  …健康食品・基礎化粧品横断的な場合。

 自分にとって何からの意味があるブランドの製品ジャンルを大別し、男女別 に整理したものが表 3 である。ファッション関連が男女ともに最も多く、女 性は 42.4%、男性は 32.6%であった。一般的に服飾品、装飾品は視認性が高 いため、顕示性も高く自己表現手段として用いられやすい傾向があるとされて いるため、予測通りの結果である。

 しかし本研究では、スポーツ用品を分析対象とした。その理由のひとつは男 女差が明確であるというジャンル特性が認められたからである。男女ともス

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表 3.自分にとって意味があるブランドの製品ジャンル

(15)

ポーツをしている大学生はいるにも関わらず、当該ジャンルを挙げた被験者は、

男性 23.6%、女性 0%であった。女性が 0 という結果は被験者数に依存する ものであろうが、明らかに男女差がはっきりと現れている。

 もうひとつの理由は、ブランドに投影される自己に多様性があると予想され たからである。たとえば、ブランドの総合評価にはモノとしての機能の評価が 含まれるが

12

、スポーツ用品の場合、比較的その傾向が強いと予想され、高機 能によって高いパフォーマンスを実現した(あるいはしたい)自己が投影され る可能性がある。それだけでなく、各スポーツには代表的なアスリートが存在 し、そのアスリート達には愛用ブランドや専用モデルといったものがあること が広く知られている場合が多い。そのため、スポーツ用品におけるブランドは、

とりわけ自分にとって憧れの人の象徴や目標の象徴という要素が強いジャンル といえよう

13

。そこから、理想とする自己が投影されやすいとも考えられる。

つまり、スポーツのブランドは機能的側面と象徴的側面を強く併せ持つので、

多様な自己の投影が期待されるのである。

 また、スポーツは個人種目であっても部活やチームなどの集団の中で行われ るため、周りの人が何かしらのスポーツ関連ブランドを使用・所有しているた め、意識が向きやすい側面もあろう。したがって、自己概念が投影されやすい。

自己表現の手段ともなりやすいと推察されたのも、分析対象にした理由のひと つである。

 このような理由から本研究ではスポーツ関連ブランドを分析対象にした。

4.2 ②スポーツ関連ブランドに投影される自己の内容

4.2.1 梶田(1980)による分類

 スポーツ関連ブランドに分析対象を絞り被験者を抽出したところ、対象者は 21 名(全て男性)、20 答法の総回答数は 418 答、平均回答数 19.9 答(最小 18 答、

12

    機能的側面で評価されやすいブランドを機能的ブランドという。

13

    象徴性によって評価されやすいブランドを象徴的ブランドないしシンボリック・ブランドという。

(16)

最大 20 答)であった。そのうち、4 答は文章としての意味がとれず分析から 除外したため、414 答を分析対象とする自発的自己概念とした。

 これらの自発的自己概念を、前述した梶田 (1980) による自己把握の主要様 式をもとにして分類を行った。その結果が表 4 〜 6 である。あくまでもスポー ツ関連ブランドに投影された自己概念の内容であって、決してスポーツ関連ブ ランドに感じるイメージを記述しているわけではないことに気をつける必要が ある。

 この結果が示すように、スポーツ関連ブランドに投影される自己は、基本 カテゴリー 1「自己の現状についての規定と感情」が圧倒的に多く、中でも

「〜をしている」「〜である」という「自己規定」の様式が多く発現しており 37.9%を占めていた。たとえば、 「私は、サッカーをしている人間である」「私 は、アスリートである」「私は、自己主張がしっかりしている」「私は、活発で ある」「私は、山で働いている」「私は、多くの仲間を持っている」という内容 であった。このように、自分の属性や性格特性、行動傾向、対人特性、社会的 地位・役割、本質規定についての自己概念が、スポーツ関連ブランドに投影さ

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表 4.スポーツ・ブランドに投影される自己の分類結果(筆者作成)

(17)

れやすいことがわかる。

 次に多く発現していたのが、基本カテゴリー 6 の「自己についての志向・理想」

である。これは「〜しなければならない」 「〜にならなければならない」という「当 為」という様式と、「〜がしたい」「〜が欲しい」「〜になりたい」「〜でありた い」という「願望」に区分されるが、後者の「願望」の様式が 22.5%であった。

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N=414䯴21ฬ䯵 表 5.   スポーツ・ブランドに投影される自己の分類結果           〜自己概念の基本カテゴリー〜

表 6. スポーツ・ブランドに投影される自己の分類結果      

       〜自己概念の主要様式〜

(18)

具体的には、「私は、あきらめたくない」「私は、自分が一番でいたい」「私 は、パイオニア的要素を持っていたい」「私は、見た目でなめられたくない」「私 は、人と違ったことがしたい」「私は、PK をはずさない人間でありたい」「私は、

好きなライダーと同じ板で滑りたい」「ベッカムのようにキックしたボールが 曲がる(理想の自分)」などの内容が表出されている。つまり、理想自己がスポー ツ関連ブランドに大きく投影されていることが見てとれる。全ての具体的な記 述内容をとりあげることはできないが、「私は、流行に敏感であることを否定 したい」「私は、疲れていても人には頼りたくない」など、スポーツとは直接 関係のない内容もあった。スポーツのプレー内容に関係する理想とする自分が 投影されるだけでなく、理想とする精神性も、スポーツ関連ブランドに映し出 されるのだろう。

 そして、「〜ができた」「〜がなれた」「〜が得意(苦手)」「〜になれる」「〜

でいられる」という、自分の可能性や予定、意志・意図を内容とする、基本カ テゴリー 3「自己の可能性の領域についてのイメージ」が 20.3%と多かった。

「私は、人を敬える人間である」「私は、そのブランドを長く使用できる」「私は、

安価なシューズでもいいプレーができる」「私は、常にベストを尽くすことが できる」「私は、へこたれない」「私は、他者の影響を受けにくい」などの具体 的内容があげられており、自分の可能性について予測したり確信を持っていた りする内容である。

 こうしたスポーツ関連ブランドに投影される自己は、いずれもネガティブな ものはみられず、ポジティブな現在の自分と将来の自分の姿に関するものがほ とんどであったことが特徴的だといえるだろう。

 また、どのような自己概念が発現しやすいかを、20 答の回答順との関わり で分析を行った。20 答の 1 番目から 10 番目を前半、11 番目から 20 番目を 後半として分け、自己概念の各分類の発現の有無との関連性をカイ二乗検定で 検証した。発現の有無と前後半の順番には関連性があると解釈できたのは、基 本カテゴリー 3 の「自己の可能性の領域についてのイメージ」 (「可能性の予測・

確信」様式と同じ内容)が 10%水準で有意(表 7)、「感情的志向」様式も同

じく 5%水準で有意という結果であった(表 8)。

(19)

 基本カテゴリー 3「自己の可能性の領域についてのイメージ」(「可能性の予 測・確信」様式)は、前半に発現する傾向があり、「感情的志向」様式は後半 になるほど発現しやすい傾向にあることが分かった。

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表 8. 20 答の回答順と自己概念の内容についてのクロス表とカイ二乗検定 ②

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表 7.20 答の回答順と自己概念の内容についてのクロス表とカイ二乗検定①

(20)

4.2.2 溝上 (2003) を応用した分類

 次に、梶田 (1980) による自己概念の分類とは異なる視点で、より細かく自 己概念の具体的内容を捉えるために、溝上 (2003) による自己の諸相分類カテ ゴリーを参考にした。これは、WHY 答法 (Why is it test) と呼ばれる技法によ り自己評価を規定する自己の諸相を表出させ、それを把握するために作成され たカテゴリーである。表出された自己概念の内容を捉えようとする点で共通し ている。下記のように、上位次元カテゴリー、下位次元カテゴリーが設定され ている。

[上位次元カテゴリー① 自己]

:(下位次元)自己の特徴、自己理解、自己・世界への関わり方

[上位次元カテゴリー② 他者との関わり] 

:(下位次元)人間関係、他者への態度、家族

[上位次元カテゴリー③ 人生]

:(下位次元)過去、未来

[上位次元カテゴリー④ 生活]

:(下位次元)日々の生活、健康、所有

 下位次元カテゴリーには記述カテゴリーというさらなる分類カテゴリーが 46 項目設けられている。しかしながら、本研究での分析対象の 20 答法回答 数は 21 名分 414 答であるため、46 項目もある詳細な記述カテゴリーの中に はひとつの回答も分類されないものもあった。また、回答を通読していくと、

自分自身の何かしらの特性に関する記述だけでなく、ブランドを中心とした所 有物に関わる記述がみられた(図 3)。

 それを「ブランドとの関わりに関連した記述」として意味内容を独自に「ブ

ランドへの感情・態度」「ブランド関連行動」「ブランドへの価値意識」「流行

との関連」「ブランドへの憧れ」「ブランドに関わる他者との比較」の 6 項目

(21)

に分類し、溝上 (2003) の分類カテゴリーとあわせてスポーツ関連ブランドに 投影される自己の具体的内容群を集計し、さらにその記述例を提示した(表 9

〜 11)。

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図 3.スポーツ・ブランドに投影される自己の特徴

表 9.スポーツ・ブランドに投影される自己の具体的内容群

(22)

 図 3 が示すように、スポーツ関連ブランドに投影される自己概念の中でも、

自分自身に関する特徴が 83.3%と大半を占めていた。特に、性格(18.8%)、

能力・特技(17.6%)、生き方・考え方・信念(15.2%)の発現比率が高い結

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(23)

果となった。「私は、個性的である」「私は、努力を惜しまない人間である」「私 は、スポーツが得意な人間である」「私は、こだわりがある人間である」など の自分の特性や態度が、スポーツ関連ブランドに映し出されやすいことがわか る ( 表 10)。星野 (1989) によれば、1962 年時点の 20 答法による高校生・大 学生を被験者とした分析結果において、特に自分の特性や態度が高い頻度で発 現していたという。今回の結果もこれと同様の傾向がみられる。時代は変わっ ても、高校や大学時期には共通して自分の特性や態度が自己概念の多くの部分 を占めており、それが自分にとって重要な意味を持つスポーツ関連ブランドに 投影されているという結果が示された。

 そして、一般的な 20 答法のように全般的な自己概念を問うのではなく、 「そ のブランドに投影されている/投影したい自分」という焦点を絞った自己概念 であるため、ブランドとの関わりに関連する自己が 15.2%の割合で表出され ていた ( 図 3 および表 9)。表 11 の通り、「私は、このブランドがイメージす るものに共感している」「私は、ナイキというブランドそのものである」など のブランドへの感情や態度が、ブランドとの関わりに関連する自己としては最 も多く表出していた。その他、具体的内容としては「私は、ブランドの統一が 好きだ」「私は、この先テニス関係はずっとこのブランドを使用していく人間 である」といったブランド関連行動、「ビックネーム・ブランドに対して絶対 的な信頼を置いている」などのブランドへの価値意識、「あまり流行に左右さ れない人間である」などを内容とする流行との関連、「憧れるものに対してモ ノだけでも近づこうとする 」というブランドへの憧れの側面、そして「他人 との仲間意識を感じる」といったブランドに関わる他者との比較の側面が、ス ポーツ関連ブランドに投影されることが把握できた。これらは、一般的な 20 答法ではみられない自己の側面であり、非常に特徴的な結果である。

 この分類方法においても、梶田 (1980) にもとづく分類と同様、どのような

自己概念が発現しやすいか、20 答の回答順による違いを分析するためにカイ

二乗検定を行った。その結果、「性格」が 5%水準で有意となり、性格に関わ

る特性は 20 答の前半に発現する傾向があることが示された(表 12)。

(24)

4.3 スポーツ関連ブランドに投影される自己の分析概要

 スポーツ関連ブランドに投影される自己の内容を把握するために、従来の 20 答法の教示の仕方を変える方法をとった。そして、梶田 (1980) による自己 概念の主要様式と溝上 (2003) の自己の諸相分類にもとづいて表出された自己 の分類を行ったところ、前者の分類方法では、①自分の属性や性格特性、行動 傾向、対人特性、社会的地位・役割、本質規定についての自己概念、②スポー ツのプレー内容に関係する理想とする自分の姿や理想とする精神性を含んだ理 想自己、③自分の可能性についての予測・確信が、スポーツ関連ブランドに投 影されやすい自己概念の内容であることが示された。また、後者の分類方法で も、自分の特性や態度という自己概念が映し出される傾向があることがわかっ た。これは、上述①と同種の自己概念内容である。

 また、本調査の独自な結果として、表出される自己概念にはブランドとの関 わりによる自己概念の側面があることに注目したい。この結果は、作動自己概 念という見方から説明することが出来るだろう。榎本 (1998) によれば、作動 自己とは、自己概念を構成する全ての要素がいつでも接近可能なわけではない との発想に基づいたものである。固定的で静的な自己概念があるのではなく、

そのときどきの社会的な文脈に応じて、その都度自己概念が構成されるとの見

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表 12. 20 答の回答順と自己概念の内容についてのクロス表とカイ二乗検定 ③

(25)

方である。つまり、その時々に活動し、時とともにかたちを変える自己概念が 作業自己概念である。そのときの状況が、貯蔵されている総体としての自己概 念、すなわち貯蔵庫から特定の自己概念を引き出しているといえる(図 4)。

 つまり、今回の調査で、ある特定のブランドと関わっている自分という状況 が与えられたことによって、ブランドとの関わりに関連する自己の側面が引き 出され、表出するに至ったのであろう。実際にブランドを使用・所有している 状態に近づけたからこそこのような特有の自己の側面が表出されたと考えれ ば、この調査方法の妥当性が少なからず支持されたといえるかもしれない。

 そして、20 答の前半に発現しやすい自己概念、後半になるほど発現しやす い自己概念があるという結果がみられた。自己概念の内容と 20 答の回答順の 関連性についてさらなる分析と検討を加えることで、自己概念の中でも個人に とって重要な中核的自己がどのような内容であるかを、スポーツ関連ブランド に投影される自己との関連の中で見いだすことができる可能性があるだろう。

 なお、今回は Kuhn and McPartland(1954) のように、「ローカス・スコア」

を判定することはしなかった。ローカス・スコアとは被験者の社会的繋留度を 示し、これが高いほど、その被験者は客観的に社会的枠組みで判断していると 解釈され、逆に低いほど、独自の評価で自分自身を表出している(つまり主観 的で内省的)と解釈される。スコアの導出は極めて単純で、20 答のうち、客 観的事実と解釈できる「合意反応」から、それが難しい「非合意反応」に切り 替わる回答番号を使う。

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図 4.動的な自己概念のとらえ方 ( 榎本 1998)

(26)

 しかしながら、414 答のうち、合意反応は 4 答しか見受けられなかった(「私 は、テニスをしている」「私は、スポーツをやっている人間である」「私は、ア メリカンフットボールをやっている」「私は、山で働いている」)。

 ブランドには、主観的な自己の側面が映し出される傾向が強く、非常に内省 的であると解釈することができるだろう。このことからも、この調査からは総 体としての自己概念ではなく、ブランドの使用・所有という状況において表出 される特徴的な自己概念を捉えることができたと考えられる。

5. おわりに〜結論とディスカッション〜

 本研究では、ブランドに投影される自己の具体的内容を把握するため、探索 的な調査・分析による検討を試みた。

 ブランドによる自己表現は、ブランドに消費者の自己概念が映し出されるか らこそ成り立つものである。しかしながら、ブランドに投影される自己概念と はどのようなものなのか、その具体的内容についてはこれまで検討されてきて いない。

 そこで、スポーツ関連ブランドを分析対象として抽出し、そこに投影される 自己の内容について、内容分析を実施したことが本研究の貢献のひとつである。

 その結果、スポーツ関連ブランドには、特に理想や願望、能力や特技、自分 の考え方や精神性、態度といった自己概念が投影されやすい傾向があることが 明らかとなった。

 心理学における自己概念の内容構造についての研究とは異なり、自分にとっ

て何らかの重要な意味があるブランドを使用・所有している自分、という条件

のもとで調査を行ったことにより、ブランドに投影される自己概念には、自分

自身だけの事柄だけではなく、ブランドとの関わりによる自己概念の側面があ

ることを発見できたことも、もうひとつの貢献であろう。今後、自己概念研究

における分類枠組みを検討しながら、ブランドに投影される自己独自の有用な

分類枠組みを作成することにより、理論面およびブランド戦略実践への貢献が

可能となる。

(27)

 また、今回、スポーツ関連ブランド自体が有する特性が、消費者の自己概念 を投影しやすいという考察を加えたが、様々なジャンルの特性の分析と比較を 行い、どのような製品ジャンルで、どのような特性を持ったブランドが消費者 の自己概念を投影しやすく、自己表現に用いられやすいかを明らかにすること で、製品ジャンルを限定せずに、ブランドに投影される自己の具体的内容を議 論できるようになる。加えて、同一ジャンル内におけるブランド間比較を行え ば、たとえば新製品開発では、ブランド・コンセプトやプロモーション・コン セプトを考案する上で非常に有用な情報となる。このように、消費者行動自体 に影響を与える自己概念をブランド視点で把握することは、ブランド・マネジ メント全体にとって意味のある結果をもたらす。ブランドによる自己表現は、

ブランドの購買・使用・所有における重要な動機づけのひとつだからである。

 さらに言えば、1962 年時点の 20 答法による高校生・大学生を被験者とし た分析結果で、特に自分の特性や態度が高い頻度で発現していたが ( 星野  1989)、本研究における調査結果もこれと同様の傾向がみられた。時代は変わっ ても、高校時代・大学時代には自分の特性や態度が自己概念の多くの部分を占 め、それが自分にとって重要な意味を持つことが示された

14

。これは副次的な 貢献だといえるだろう。すなわち、20 答法をマーケティング領域に応用し、

課題に応じて適切に活用することで、若い世代での流行現象について説明する ひとつのアプローチ方法となり得る可能性が本研究から見出された。

 しかし、課題は多い。分析上の制約とはいえ、サンプル数を少数に絞ったこ とから、より頑健な分析結果を導出するために、サンプル数を増す必要がある だろう。すなわち、少数サンプル、1 ジャンル、手作業による簡易的な内容分 析が、本研究における分析上の問題点である。これらを解消するためのひとつ の方法として、テキストマイニング・ツールの利用が今後望ましいことは言う までもない。

 他方、ブランドに消費者の自己が投影されるならば、投影される側のブラン ド自体の検討も行う必要が出てくるだろう。ブランドには、企業側が意図する

14    

 本研究における調査結果は、あくまでも、スポーツ関連ブランドに投影されている大学生の自己

概念という範疇に限定されるものである。

(28)

ブランドのかくあるべき姿という「ブランド・アイデンティティ」が存在して いる。ブランドを用いる消費者は、そのブランド・アイデンティティをそのま ま読み取って、それに適する自己を投影している場合もあれば、企業が意図す るブランド・アイデンティティとは関係なく、独自に特有の意味を感じたり読 み取ったりしている場合もあるだろう。消費者の自己概念分析とブランド・ア イデンティティ分析をリンクさせた分析方法を行うことで、消費者がブランド に投影する自己がブランド・アイデンティティに影響されているのかどうかを 明らかにすることができるし、消費者がブランドに対して抱いているイメージ の側面だけでなく、消費者がどのようにブランドを捉えた上で用いているのか、

ということがわかるようになると考えられる。

 さらに、ブランドによる自己表現の全体像を精緻化していくためには、時間 軸を考慮していくことも重要だろう。本研究における調査では、被験者は全て 大学生であるが、大学生と比べて既にある程度自己概念形成がなされている世 代と比較することで、ブランドに投影される自己概念の内容の違いを分析し、

ブランドによる自己表現と、それを通した自己概念形成プロセスを掘り下げる ことが課題となる。

【参 考 文 献】

榎本 博明 (1998)『「自己」の心理学 自分探しへの誘い』、サイエンス社。

遠藤由美 (1998)「自己認知」、 『グラフィック社会心理学』、サイエンス社、99

〜 116 頁。

岡本浩一 (1988)「購買選好の独自性志向と独自性欲求」、『日本社会心理学会 発表論文集』、246 〜 247 頁。

 (1991) 『ユニークさの社会心理学―認知形成的アプローチと独自性 欲求テスト』、川島書店。

神山    進 (1995)「若者と流行、被服行動」、 『社会心理学への招待』、有斐閣ブッ

クス。

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