日 ・ 英 語 学 習 に お け る モ ー ラ 音 素 と そ の 干 渉 の 問 題
諏 訪 部 真*
1. 序 論
日本語におけ るモーラ音素が, 日本語を 目標語 として学ぶ米国人にとって,・また英語を学 ぶ 日本人に とって も,きわだ った干渉点になっていることは従来気づかれてきた ことである (大江
1 9 6 7,p.1 1 1 ‑1 2
1.). この小論は筆者が滞米中, 日本語の初級 クラスを教えた際に観 察 した事実 と,現在 まで 日本人に英語を教えていて観察 していることに立 って,米国人学生 が, 日本語を学ぶ際に見せた音声面での干渉を, 日本人学生が英語を学ぶ際に見せ る母国語 との干渉 と比較 して,モーラ音索,即ち擬音 「ん」/ N/
,促音 「っ」/ Q/
,長音 「〜」/R/
について考察 しようとす るものである.また同時に,モーラ音素の持つ特質を 日英両語の比 較対照の作業を通 して明 らかに し, さらに 日英語の音節の特質 と関係づけて考察す る.
2 .
外 国 語 学 習 に お け る干 渉 と比 較 対 照 の 問 題 点実際の記述に入る前に,干渉 と比較対照,また比較対照における最近の問題点 と,筆者q) と亭方法について触れなければならない・
ここで言 う干渉は,英語 もしくは 日本語を母国語 とす る者が/ 目標語である外国語を学習 す る際に生ず るマイナスの現象を言 ってい るのであって,先行学習 (母国語)が,後続学習 (目標語)に積極的に転移す るプラス的なものを言 っているのではない. また干渉 と比較対照 の関係について,言語学的な立場か らほ
,
「母国語 と日標語を比較対照することに よって対照 する適切な言語単位が決定 され,その単位を比較することによって母国語 と目標語の干渉が 予測 され るとす る」 ( Br i ar e1 96 8 ,p.l l . ).
従 って外国語学習で, 干渉の問題を扱 う場合に は, この比較対照の作業は踏 まねばな らない段階だと従来考え られてきた.確かにFe
r g u son( Mou l t on,1 9 6 3 .の序言で)の言葉 ,
「二箇国語の注意深い比較対照は,倭 れた教材を用意す る.」を借 りるまでも な く, Fr i e s( 1 9 4 5,p. 9 .
), La do( 1 9 48,7 ‑23,1 9 5 7 , p. 1 ‑8. ) ,She n( 1 9 4 8,7 ‑2 3. )
な どに よって,母国語 と日標語の比較対照が,教材作製 上,テス ト作製上,また学習 コースを計画する上,実際授業の技術上重要であることが提唱され,実際的な仕事 も数多 く.な されてきた・
しか しなが ら
1 9 6 0
年代か らは, この比較対照についてのかつての熱心さは影をひそめ, こ の方法があげている仮説,
「言語間の構造的相違が大であればある程, 学習の困難点 と,千 渉の可能性は大である( We i nr e i c h1 9 5 3 ,
p.
1.).」 ‑
「比較対照の結果は外国語学習で生ず る 誤 りや,困難 さの予測に必要である.」
「外国語学習の困難 さや,誤 りの原因は主 として母国 語か らの干渉か ら生ず る.」等 々に対 して,W.R . L e e( 1 9 6 8,p. 8 6.
)やS. P. Co r °e r( 1 9 6 7
,*英語科
昭和
4 6
年11月20日受理54
長野工業高等専門学校紀要 ・第4
号1 6 2 .
)が,実際の経験か ら反論 している.例えば, 目標語 と母国語の相違が少ない方が却 っ て干渉が生 じ易いのではないか.比較対照の方法は実際に現われている困難を説明しこそす れ,別にそれを予測できないのではないか, またその方法は教師たちに別に新 しい情報を提 供 して くれは しない‑‑な ど. これらの議論を通 して,外国語学習における困難 さや誤 りは 単に比較対照だけで説明されるものでな く, もっとExtr al i ngui s t i c sなもの,心理的なr
\もの な ど多 くの要素が影響 していることが明らかにされてきた.比較対照の方法に よって外国語学習の困難点や,誤 りが立ちどころに霧散するとい う初期 の 目論見は誤 りであった. しか し,カ リキ ュラムの作製,テキス トの作製,誤 りの分析な ど い くつかの分野の,限定 された範囲で この方法は有用であ り, より厳密な方法 (例えば
Wh・
i t ma n1 97 0,1 91 ‑1 97.
)を とることにより,またより多角的なきめ細かい研究 (例えば01 1 e r
他1 97 0,1 83‑1 89.
)に より,今 まで外国語学習に寄与 してきた と同様に今後も寄与でき得ると 考える.筆者が ここで考察を試み るのは,Os
goo
dのモデルを適用 して干渉の量を予測す るKl e i ni
‑j ans( 1 959 )
早,セ クター分析を用い,学習の困難点を予測 し,綿密に検査するJa c ks on( 1 967)
の ような精密な 日英語の比較対照ではない.単なる干渉の予測 とい うことではな くて,実際 におこっている田難点をいろいろな角度か ら考察 し,同時に音節構造の比較に結びつけて一 般化 し,学習者の効果的学習を組おうとす るものである.3.
モ ー ラ音 素 の 存 在 と分 布3 .
1.
モーラ音素(1)の存在 モーラ音素が中国か らの外来音であるとい う適時的な問題に は ここでは触れない.長音については別に しても,記述言語学者の中には,モーラ音素を他 の子音の異音 とか,また重子音 とした りして,独立 した音素 として認めない立場がある( 2 ) .
普 た音素そのものを否定する生成音韻論か らみ ると,促音及び遺書を言語の知覚行為の中で意 味がある単位 としては正当化 し得るが,擬音,及び促音をそれぞれ一つの対象 として表現す る 中間階程が, 日本語生成文法の音韻部門の中にあ りそ うもない とす る(黒田19 66, 8 5‑9 9. ).
しか しなが ら,形態音素的要素を持つこれ らモーラ音素を,音素 として認めることは実際 の教育上か らはむ しろ効果的であろうと思われる. また,生成音韻論では認め られないとし て も,促音 「っ」擬音 「ん」の概念は, 日本語を母国語 とする者が持 っている直感的な意識, もしくは心理的な実在であると考えられる.そ して, もしこれ らを言語的な虚構 とす るな ら ば,それは少な くとも日本人の直感
( i nt ui t i on)
に反す ると考えるの で あ る.また音声 レベ ルでの比較対象をする場合に,二項対立の示差的特散の分析を用いないのは,実際教育上そ れを用いて頻雑にす るよりも,従来の調音的分析方法の方が より効果があると考えるか らで ある.3 . 2 .
促音/ Q/
の分布 促音 「っ」は,音声的には後に続 く音によって異 り,母音の後, 無声音の前に現われ る.即ち (1)破裂音/ p
, t,k /
と口蓋化された/ s y /
の前に現われ, [p]
( 1 )
服部四郎1 9 6 4,p. 3 6 0 .
国広哲弥1 9 6 7,p. 1 7 3 .
( 2 ) Bl o c hBe r na r d1 9 5 7,p. 8 6 ‑1 2 5 .
は擬音/ N
/は音素として認めているが,促音/ Q
/は認めていない.Sc o t tChar l e s1 9 6 6 ,p. 8 7 ‑8 8
/も同様.Hauge nEi na r1 9 6 0, p. 3 7 ‑3 8 .
は両方とも音素として認め ていない.日・英語学習におけるモーラ音素とその干渉の閉局
5 5 [t
],[k
],[S
],[5
], [ t s
], な どの長子音あるいは重子音を作る.外来語では,ノミッジ,ドッグ,,:ッ‑などのように
/Z/ ,/g/ ,/d/ ,/h/
の前に も現われる.促音は調音的には 発音運動の停止 (有坂1 9 40, ‑ p. 9 4‑95. )
,とか,旗頭の緊張 (服部1 9 60,p. 296.
)よりおこるとされている. これ らはいずれ も1相の長さを保持す る特徴がある.
促音 「っ」が実際の発話に現われ,1苦節の長 さを持続 させ ることは,スペ ク トログラムに よって も知 ることができる・ Ham(1
9 61,p.93.
)、の分析に よると,例えば,/ha̲ kada /
と,/ha gi k nda /
において,/k/と/ Qk
/の長さの比は完全に1
対2
には な ら ないが,/ Q
/ほその前後の音節/ha/,
/
ka /,〝a /
と殆ん ど同 じ1粕の長 さを保つ とい う.日本語の
/ Q
/に対照するような促呑ない しは促音的な ものが英語には存在す るだろ うか.. 日本人が/ki d
/とい う英米人の発話を聴取すると,/kiQd
/と聞きとった り, またその ように 発話 しがちである. また表記する時は 「キッ ド」 と書 く.一般的に言 って英語の促音的な も のはche c ke dvow
el(抑止母音)+ [ p, t, d,t s,dz,d
5,5
]の場合に現われ る と さ れ る
(鳥居 1 957, p.1 6
.)
.ca p
,c a t s , badge, 占s h
な ど. しか しこれ らはあ くまで促音的なもの●●●
であって, 日本語のように音韻的な意味を持つ ものでな く
,ki d
がki ddi ngになると促音的
なものが消滅するように,語の前後の環境が変わればそれは消滅する.日本語の
ha ̲ kaとha k ̲kaのスペ ク トログラムを比較 した場合に,促音を含んだ後者は,前
者のkの 2
倍以上の長 さ (時間)の閉塞を示す, フォマン トが現れない空自の部分がk J
Lの 場所に現われ る. このことか ら, もし英語に も促音が存在 し,抑止母音の後に一定に現われ,Fr e evowe l
(自由母音)の後には現われないとい うことになれば, (ne
e̲t ,s e
ed̲な どの語に 日 本人学習者は促音を感 じない.)例えば, piiとp ea
!スペ ク トpグラムで,前者のt
の部分 に, (日本語の促音の長さ( 2. 6‑3. 0
倍)ほ どの差は現われないに しても)後者 のtよりも長い,フォマソ トの現われない空 自の部分が続 く筈である.
Rot he nbe r g( 3 )
のスペ ク トログラムに よって, その閉塞を示す空自の長さを次の各組の語 の下線部の子音について測定 してみ ると,次表の ような数値 とな った.( 1 ) ( 2 ) ( 3 ) ( 5 )
か ら抑止母音の後の/t/
の閉塞の長 さの方が長い ように思えるが, (
4)(6)ではその道である. これ らの数値か らも英語には 日本語のような促音が,一定の長さを持 って現われ るとは考え られない(4).
( 3 ) Ro t be nbe r g,Mar t i n.1 9 3 3 .Pr o gr a mme dl e a r ni ngpr o bl e mss e tt ot e ac ht hei nt e r pr e t at i o n o fac l a s so fs p e e c hs p e c t r o gr a ms .AnnAr bo rPubl i s he r s p. 5 ‑2 2 .測定したスペクトログラ
ムは主として母音のフォマントを学ばせるもの.上記の語は文の中で, 1人の中西部出身の成人の米 国人によって発話されたもの.子音の長さ
1 7
は約0. 1 3 cs e cを表わす.
( 4 ) Po t t e r R
.K
.,Ko ppG.A, andXo pp H. G. ,1 91 7 ,1 9 3 6 ,Vi s i bl eSpe e c h. Ne wYo r k: Do ve r Publ i c at i o ns .
のスペクトログラムは前掲のものと同じスケールではないが,同様の組で次のような 結果を得た・peBl p e e Ri ‑8:8,di d: d e e p‑6:
ll ,but : bi r d‑8:6,go 主: ga p e‑7:8,t o o ̲ k:
t al k‑9:
ll. このことからも英語において促音的なものが一定の長さで現れるとは考えられない.l'/
5 6
長野工業高等専門学校紀要 ・筋 4
号3. 3 .
位音/ N
/の分布/ N
/は促音,損音の後,お よび語頭には現われない.後に来 る音 に よって次のような異音をつ くる..ノ ー ) 1 2 3 uLr rHHJ■u ntH r
( 4 )
] ] ]
lLL= .' [ ・ L ・
..
.,i/p , b ,m
/お よび 口蓋化 された/ p y ,by ,my
/の前で./t ,d,h ,
Z,
C, I
/および 口蓋化された/ n y ,
ry,z y ,c y
/の前で./
良,g
/お よび口蓋化 された/ k y ,g
〟 の前で.ふ] 母音や
/
S,s y ,W
/の前ではゆるい閉鎖の鼻音 となる.( 5 ) [N]
語尾に生ず る.これ らの異音を通 じて
/ N
/の示差的特徴は,鼻音性 と, 1弗の音節を構成す ることと言え よう.実際に発話 された/ N
/が1
軸の長 さの音節を持続す ることはHan
のスペ ク トログラ ムs hi ma i d a
とs hi Lma i d a
の比較によっても明 らかである.一方英語において,鼻音性を持ち
・s yl l a bi cc o n son ant
(成節子音)を作 るものにbo t t o
聖 のlm
],s udd e
n̲a ?[n]
がある( Pi ke1 9 47,p. 4 5. ).
調音的には舌先を歯 ぐきか ら離 さないで いると生 じるのであるが, 筆者の観察によると, 必ずおこるとい うものでな く, 人によっ てまた話すテンポに よって, 自由変異をす るようである. しか し成節子音 と音節副音( non s y l l b a b i c )
とで意味の対立をす る語が少数ある・例えばl i g ht n i ng:l i g ht e Pi ng
(軽 くする),e v e ni n g:e v e ̲ mi ng
(平 らにす る)など・この場合,後者,成節子音の持続す る長 さの方が長い とされる. (太田1 95 9 ,p.1 0 4. ).
しか しこの長 さも日本語の/N/
が音節副音の2‑ 3
倍に なる程にはな らないであろ う・ また音韻的に も上記の例は/ a m/
と理解でざるであろ う.3. 4 .
長音 日本語の/ o b g s a N/
で発話 され る [a:]を/ VV
/とす るか,/VR/
とするかは・別 として, 日本語の母音 タイプは
,V,wV,yV,Cy V
にな り,英語ではⅤおよびVS( S
はy,
∫,
Wなど半母音)のタイプになる(太田1 9 6 5,p. 3 2‑3 5
.)
. 日本語の/VR
/, もしくは/VV/
に対 して英語ではVS
が対応す る. 日本語の/ VR/
ほ正確に/V/
の長 さの2
倍であ り,/ v /
と/VR/
ほ対立す る.英語においては/ V/
と/VS/
の対立は必ず しも長 さではな く, 音の質に も影響 され る.英語において母音の長 さは後続の子音によって著 しく変化すること は よく知 られているが,Le hi s t e( 1 97 0 ,p. 2 0.
)によると,無声子音の前の母音 と,有声子音 の前の母音の長 さの平均の比は2
対3
にな り,/t
/の前の母音の平均1 4 7
InS∝ に対 し/Z/
の前の母音の持続時間は
2 62ms
∝ に達す るとい う.以上モーラ音素の存在 と分布について, とくにモーラ音素の持つ1
柏の長 さに中心を置いて英音 と比較対照 し, これに対応するもの が英音にはあ りそ うもない ことを明 らかに した,以下実際上の細かい問題について触れる.4 .
干 渉 の 実 際 と原 因 の 考 察4 .
1.
干渉の実際 日本語の初級 コース(5)で米国人の学生達に 日本語を教え始めた時に, 音声上い くつかの困難点にぶつか った.その中でも顕著だったのは,分節音素に関 しては, モー ラ要素について特故のある干渉が見 られた.モーラ音素についての学生達の困難 さをはっき りさせるために,問題にな る語を
mi n i ma lp a i r
式に書 き表わせば次のようになる.促音を問題にする時に,子音の閉塞の長さと同時に, 日英語の母音の持つ性質,即ち,日本語の母音 の方が急数にたち切られることも考慮しないといけないかもしれない.
(5) 学生達は
1 9
才から3 0
才までの主として中西部出身の大学生及び大学院生.日・英語学習におけるモーラ音素とその干渉の問題
5 7
(1)促音について ;/i Qt a /
‑行 った :/ i t a /
‑いた,/s uQpa
i/‑す っぱい :/ s up a
i/‑スパイな どの対比の田難 さ.
( 2 )
倍音については;/s e Ne N/
‑千円 :/ s e Nne N/
‑千年, / s hi Nd a /
‑死んだ :/Shi d a /‑
志田 :
/ho Nq /
‑本を :/hdヾno /
‑本の な どの対比の困難 さ.( 3 )
長音について;/ o b a Rs a N/
‑おばあさん :/ o b a s a N/
‑おば さん な どの困難 さ.4 . 2 .
原因の考察 上で示 した ような困難さは どうして生 じるのか.以下,1
柏の長 さ, 異音,スペ リングなどについて考察す る.4 . 2 . 1 . 1
拍の長 さの問題 い くつかの原因があるに して も,その中で もっとも大 きな原 因は,すでに3
で触れてきた ように, 1モーラ,即ち1
粕の長 さを持つ,鼻音性を持 った閉 塞,あるいは喉頭の緊張, もしくは前行の母音の「
引き」 とい うモーラ音素の示差的特徴の 中で,特にそれの持つ1
粕の長 さ(日本人にとって直感的に1
粕 と感 じられ る長 さ)の識別に, また発話に米国人学生が失敗す るか らだ と考え られる. この ことは,さらに米国人学生の意 識の中にある心理的実在 としての音節 (強勢に よって長 さを変える)と, 日本人の意識の中に ある音節 (アクセン トに も影響 されずに常に一定の長 さを保 とうとす る)との違いに まで さか のぼることができると思 うのである.上述の問題を
/ o b a Rs a N/:/o b a s a N/
について考えてみる.前述 した ように,英語の長母音 はVS
とな り,母音核音の後に半母音が続 くことか ら/o b a Rs a N/
の[ a: ]
の音を二重母音化 した り,[ a: ]
の苦をgl i de
させた りす る. しか し, このことは実際上それ程の問題を生 じな い.問題になるのはその長 さである. 日本語において,すでに述べた如 く,/V/
と/VR
/は 対立す る. これが米国人学生には困難である. このことはHe 圧ne r( 1 9 4 7 , p. 21
1.
)が指摘 しているように,米音においては長母音 と短母音の長 さの音韻的差は余 りな く,長母音 と短 母音 とい うように米音を分頬す ることは不可能で,発話のテンポに よって長 くも短か くもなるか らなのである.
4 . 2 . 2 .
異音の問題1
粕の長 さの囚難点とは別に,米国人学生が/ N/
を全て/n/
(6)であ ると考え,/N/
の持つ異音の適切な発音ができない問題がある・ 日本人は/ s hi 些b uN/,/n i 堅 ge N
̲/,/s hi N ̲da /
な どに含 まれている/N/
の持つ異音[ m] ,[n] ,[D] ,[N]
を,前後の環境 に よって自由にあてはめて発音す る. このことは/Q/
の場合 も同様である.外国語学習において, 分節音素 の場合に, もっとも困難な例 として
St ∝kw
dl,Bo we n ( 1 9 6 5 ,p. 1 6. )
が言 っている 「母国語にな くて,特定 の位置で異音を持つ音素」の例に捲音/N/
はあては まると考え られる. また このことは同時に,入門期の音声指導で, 目標語の示 差的特散を重視 した指導 と共に,余剰的特徴の指導 も必要な例であろ う.4 . 2 . 3 .
文字の開講 入門期か ら, 日本語の 「かな」を使 って授業す る例 もあるが,筆者 の場合 ローマ字のテキス ト(7)を使用 した.従 って ローマ字に よる正書法 も,促音/Q/
の困難 さに影響 していると考え られ る. ローマ字では/ Q/
は当然, pp,
tt,kk,s s
,など子音を二 つ重ねた形で表記 される・米国人学生が, これ らを発音す る 際 に, 母国語のs e Ai ng
, とか( 6 )
もっとも/ N
/を極端にゆっくり発音すれば,/ n
/で全て代用もできる.ここでは触れないが困難点を問題にする場合,丙国語の音素配列も問題にしなくてほならないだろう.
( 7 ) T.Ni waa ndMa t s ud a,1 9 6 4 ,Ba s i cJ a p a ne s et oCo l l e g eSt ud e nt s .Se a t t l e: Uni v.o fWa‑
s hi ngt o nPr e s s .
5 8
長野工業高等専門学校紀要 ・第4
号l
i Rl eな ど 生 のスペ リングを持つ語の類推か ら,強勢のあとの旦 の部分を音声 的 に 1
粕の 重子音 として長 さを持続 させて発音す ることは困難であろ うと推測する・ ま たk主 些e
‑切手 を発音す る際に,延の部分が/ Q
/と/t
/か ら成 り立 っていると理解す ることは,子音結合の 力が強 くて,音節の切れ 目が容易に判断できない英語を母国語にす る者に とって困難であろうと推測され る.
4 ・ 2 . 4 .
音節 との関係 モーラ音素が米国人学生に とって困難である原因の一・つは両国語 の音節の違いに もよるとしたが,その点についてもう少 し詳 しく触れる( 8 ) .
H∝ke t( 1 9 5 5,p. 59 .1 9 58 ,p9 9 ‑1 00 )
に よると,英語の音節はピークの位置 と数に よって 決定 され るp e a kt yp
eに属 し, 日本語の音節は,相対的長 さに よって説明されるdur a t i o n t y
peに属す るとしている. これは 日英両語の音節の特質をよく表現 していると思われ る.上 述の説明を換言すれば,英語の音節の特徴は,そのピーク (母音を項点 とした)の持つ 「き こえ」,「強 さ」であ り, 日本語の音節の特徴は持続す る 「時間的長 さ」である.モーラ音素が
1
音節を形成す るとし, 日本語の音節の一般的な形がC
V であるとすれば, モーラ音素であ る促音,擬音,長音は 日本語の中の特殊音節 とい うことにな り,米国人学生 のモーラ音素の困難 さは, 日本語音節の持つ 「長 さ」 と,英語音節の 「きこえ」「強 さ」の 干渉 とい うことに もなる.英語において,母音の長 さが示差的特徴を示 さないのは
4 . 2 .
1.
で触れたが,次の例はその 事実をよく語 っている・即 ち,英音において,例えば,hitと b ̲ e a t
でその長 さは1 0C / S:1 4 C /
Sで示差的であるが,坤 とbi n
では10 C / S:1 8 C /
Sであ っても示差的ではない( De l a t t r e1 9 6 4
,p. 9 5 . ).
一方, 日本語においては
,/i /
‑胃と/ i i
/‑いい, の長 さの比は1
対2
であ り,/ b
/と/ b
‑/においては,前の/o/
と後の/ ∞
/の長 さは1
対2
にはな らないが,音節全体では1
対2
になる( Ha m1 9 61 ,p. 69 ).
日本語の音節は, どの音節 も一定の長さの音節を形づ くり, 母音 と子音, ま.た母音同志がお互いにその長さを加減 して隣接す る音節 と一定 の長 さのバ ラ ンスを保 とうとす る特質を持 っている.アクセソ ト, もしくは強勢の置かれた場合の音節の長 さ,強 さについて, 日本語では,例 えば/
6no /(
斧)対/ on e /(
小野)で,強さ,長 さには殆ん ど影響が現われない.( Ha m1 9 61 , pl O3
‑1 0 4 )
しか し英語においてほ,強勢の置かれた音節で, もっとも長 く発音された音節は,強勢の 置かれない, もっとも短い音節の
3 . 5
倍に も達す る. また,強勢の置かれた音節 と,置かれ ない音節の長 さは, 同時に音節の強さと相関関係があ り, その平均は4. 4d bであるとい う
( De l a t t r e1 9 6 6, 1 8 9. )
(日本語 と同じs y l l a bl e‑ t i me d r hyt hm
の スペイン語でさえその長 さは1 . 8
倍に達 し,強さの差は1 . 3d bである.
)以上のことか らも, 日本人が音節の持つ長さ,それは同時にモーラ音素の持つ一定の長 さ にいかに敏感であるか, また米国人が音節の長 さを強勢に よっていかに変化させているかが 理解 された.
( 8 )
日・英語の音節の比較については,拙稿 「言語干渉と日英両語の音節構造の比較」1 9 6 9
,長野高専 紀要No . 3 .p. ㌘7 ‑2 8
1.参照日・英語学習におけるモーラ音素とその干渉の問題
5 9
5 .
あ と が き母国語にない新 しい音素,モーラ音素に米国人学生が困難す るのは,先に触れた調音 (異 普,gl
i de )
,ローマ字表記な どの理由に よるのと同時に,根本的には この音素の持つ1
柏の長 さを適切に聴取,発話できないか らだ とした. この背後には,上で述べた如 く,両国語音節 の相違,即ち強勢に よって長 さ,強 さをダイナ ミックに変化 させ る英語の音節 と, アクセン
トに も影響 されず,常に一定の長 さを保 とうとす る日本語の音節の果す機能の相違があ り, これが,モーラ音素の学習 の際 の困難 さや,誤 りに鋭角的に現われていると考え られ る.また初期の音声 レベルでの比較対照がよく行な った,音素 レベルのみの比較対照を し,示差 的特徴を中心に音素 目録を作るだけでは実際指導上不充分であるとの立場か ら,モーラ音素 とそれに対応す る英音について,スペ ク トログラムのデータも借 りつつ,上述 した ようにい くつかの面か ら検討 してきたつ もりである.これ らの結果については英語学習に も活用でき ると考えるが,モーラ音素が 日本人の英語学習に 及ぼす 問題については 次の 機会に預 りた
い.
参 考 文 献
Al a t i s ,J a me s E.( e d) . 1 9 6 8 . 1 9 Annua lr o und t abl e( Monogr a ph s e r i e so n l a ngua ge a nd l i ngui s t i
cs,N
o2
1.)Wa s hi ngt o nD. C.: Ge or ge t o wnUni v.Pr e s s .
Bl o c h,Be r na r d,1 9 5 7 .St udi e si nc o l l o qualJ a pane s el V: Phone mi
cs ,La ng2 6 .I nM. 丁 o os .
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6 0
長野工業高等専門学校紀要 ・第4
号f o r e i gn l a ngua ge l ear ni ng.Langua ge Lea r ni ngI .No
1.
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有坂秀也 服部四郎 黒 田成幸 国広哲弥 鳥居次好 大江三郎 太田 朗